日本鼻科学会会誌
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最新号
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報告
  • 石倉 友子, 松山 敏之, 意元 義政, 尹 泰貴, 蟹谷 貴子, 志賀 英明, 三輪 高喜, 清水 猛史, 原渕 保明
    原稿種別: 報告
    2025 年64 巻2 号 p. 209-213
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    日本鼻科学会では,鼻科学会会員を対象とした『鼻科基礎ハンズオンセミナー』を2014年より開催している。鼻科基礎ハンズオンセミナーは,研究技術の向上や研究に対するモチベーションの向上,そして各施設間の研究を通じた横断的連携を図る目的で企画された。本セミナーは,基礎研究を行っている全国の各施設の医師より構成されている。今回で9回目となる本セミナーを第61回日本鼻科学会総会・学術講演会(金沢)において企画し,「①脂肪幹細胞移植の嗅神経再生への影響:組織学的,行動学的観察」,「②免疫磁気分離法によるPBMCからヒトCD4+ T細胞の分離」の2題を会場で直接手技を実演,指導する形式で行った。また,過去のセミナーで実演されていた講習の計5題をビデオ講習の形で放映するブースを設けた。参加者に対するセミナー後のアンケート調査から,「講義内容は良かった」,「今後も基礎ハンズオンセミナーを積極的に行うべきだ」という肯定的な意見を得ている。本セミナーは本邦から発信する基礎鼻科学の新知見に直結する有意義なセミナーと考えられた。

  • 西田 幸平, 津田 武, 武田 和也, 嶋村 晃宏, 福井 研太, 意元 義政, 尹 泰貴, 清水 猛史, 原渕 保明
    原稿種別: 報告
    2025 年64 巻2 号 p. 214-218
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    現在の医療において未解決の病態に対応するため,基礎研究の重要性が一層高まっている。日本鼻科学会は,臨床医が疾患に対する深い理解を涵養するとともに,基礎研究に関する知識および技術を共有する場として,2014年より毎年「鼻科基礎ハンズオンセミナー」を開催している。本稿では,2023年9月28日に三重県津市において開催された第10回セミナーの概要について報告する。

    本セミナーには687名が参加し,対面形式の実技講習およびビデオ講習が実施された。講習では,外傷性嗅覚障害モデルを用いた嗅神経再生の評価,サイトカイン濃度測定法,ならびに組織切片作製および染色法など,多岐にわたるテーマが取り扱われ,参加者に基礎研究の技術的知識を深める機会が提供された。また,過去のセミナーで作成されたビデオライブラリーを活用することで,より多くの基礎研究の内容を反復して学習することが可能となった。

    セミナー終了後に実施されたアンケート結果からは,参加者が基礎研究の重要性を改めて認識するとともに,今後の研究活動への意欲を高めたことが示唆された。本セミナーは,耳鼻咽喉科領域における基礎研究の推進および研究者間の連携強化を図る場として,極めて重要な意義を有する取り組みと考えられる。

原著
  • 増野 聡
    原稿種別: 原著
    2025 年64 巻2 号 p. 219-227
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    スギ花粉症は依然として増加傾向にある。診断には血液検査による血清スギ特異的IgEの測定が行われることが多いが,必ずしも全例に行われるわけではない。本研究はスギ花粉症疑い症例において血液検査を行う意義を明らかにすることを目的とする。スギ花粉症を疑い臨床検査を行った557症例につき,年齢,血清スギ特異的IgEクラス値,末梢血好酸球数,血清総IgE値,スギ以外の11種類の空中浮遊抗原の血清特異的IgEクラス値および陽性であった抗原の種類数について検討した。スギ花粉症疑い症例において血清スギ特異的IgEクラス値が2以上でスギ花粉症と診断したのは464例(83.3%)であった。末梢血好酸球数および血清総IgE値は血清スギ特異的IgEクラス高値群(クラス4–6)では低値群(クラス2,3)および非陽性群(クラス0,1)に比べて有意に高かった。スギ花粉症非陽性群例は9歳以下では25.0%を占めた。スギ花粉症例で血清スギ特異的IgEクラス高値群が占める割合は19歳以下で62.6%であった。12種類の空中浮遊抗原の陽性抗原種類数が5以上の多抗原感作を認めたのは34.7%であった。症状からスギ花粉症が疑われても実際に血清スギ特異的IgEが陽性であるのは特に9歳以下では75.0%と低いため低年齢での診断は慎重に行うべきと考えられる。スギ花粉症例では19歳以下で血清スギ特異的IgEクラスの高値例が多く,年齢を考慮した評価が必要と考えられる。また,スギ花粉症においても多抗原感作を念頭に置いた治療が必要と考えられる。

  • 石丸 正
    原稿種別: 原著
    2025 年64 巻2 号 p. 228-235
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    COVID-19のパンデミックがきっかけで,嗅覚障害に広く関心が持たれるようになったが,その診療には地域差があることが推測される。この点に注目した報告はあまりないため,厚生労働省から公表されているNDBオープンデータ(レセプトデータ)や国勢調査などを元に検討を行った。基準嗅覚検査の実施数では,東京都が最も多いが,人口が多いためで,人口比で見ると,石川県が最多であった。また,基準嗅覚検査の実施件数と人口当たりの耳鼻咽喉科医数とは有意な関係があった。静脈性嗅覚検査は総数では東京都が最も多いが,人口比では広島県が最多であった。静脈性嗅覚検査は全国で広く行われているが,基準嗅覚検査は都道府県格差があることが疑われた。

    COVID-19パンデミック時,嗅覚検査が減少している都道府県が多いが,京都府,千葉県,山形県では増加傾向を示していた。COVID-19で嗅覚障害が発症するにも関わらず検査数が減少したのは,検査時の感染防御が難しかったためでないかと推測された。

  • 齋藤 孝博, 三輪 高喜, 都築 建三
    原稿種別: 原著
    2025 年64 巻2 号 p. 236-241
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    本研究は日本鼻科学会会員を対象に嗅覚検査の普及率と診療実態を明らかにすることを目的とした横断的アンケート調査である。嗅覚検査は,嗅覚障害の診断および治療効果の評価において極めて重要な役割を果たすが,その普及率は依然として低く,施設体制ごとに実施状況が異なる。本研究では,①回答者の医師経験年数,②回答者の年代,③所属施設の都道府県名,④施設体制(医育機関,市中病院,クリニックなど),⑤嗅覚検査の実施の有無,⑥実施している嗅覚検査の種類(基準嗅力検査;T&Tオルファクトメーター,静脈性嗅覚検査;アリナミンテスト),⑦嗅覚に関するアンケートの実施の有無,⑧嗅覚専門外来の有無,⑨味覚障害診療の有無,⑩嗅覚検査を施行できない理由,⑪嗅覚障害患者のフォローアップ間隔,⑫嗅覚障害患者のフォローアップ期間について調査を行った。その結果,基準嗅力検査は医育機関,病院,クリニックのいずれにおいても過去の調査結果と比較して増加傾向にあった。嗅覚検査の実施を妨げる要因として,「検査設備の問題」,「検査時間やマンパワーの不足」,「予算の問題」などが挙げられた。また,静脈性嗅覚検査の実施率が高い一方で,2024年7月のアリナミン注射液®の販売中止により施行が困難となることが示唆された。嗅覚検査を実施していない施設の約半数ではVAS(visual analog scale)や日常のにおいアンケート(self-administered odour questionnaire:以下,SAOQ)などが用いられていたが,半数の施設では嗅覚評価が行われていなかった。本研究は,日本における嗅覚検査の実施状況とその課題を明らかにし,嗅覚検査の現状を把握するための一助となる。嗅覚検査の普及率を向上させるためには,嗅覚障害診療の重要性を広く周知し,また簡易に実施できる嗅覚検査を早急に確立することが重要な課題となる。

  • 高林 宏輔, 前田 陽平, 片岡 信也
    原稿種別: 原著
    2025 年64 巻2 号 p. 242-250
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    目的:われわれはランドマークを同定しそれを基準として眼窩下壁を硬性再建するThree Landmarks Procedure(TLP)を開発した。当初経眼窩と内視鏡下経鼻のコンバインドアプローチでTLPを施行していたが,術式の低侵襲化と人的コストの削減のために単独術者による経眼窩アプローチによるTLPを施行するに至った。本研究では経眼窩アプローチによるTLPをコンバインドアプローチと比較し,実際に術式の変更が目的に適っているかどうかを検討した。

    方法:2017年10月から2024年12月までの期間で,旭川赤十字病院耳鼻咽喉科でTLPを施行した眼窩下壁骨折患者を対象とした。経眼窩群とコンバインド群の2群に分け治療成績について比較検討した。眼球運動については症状固定あるいは治癒に至った症例を比較した。

    結果:経眼窩群は男性4人,女性2人,コンバインド群は男性12人,女性3人であった。手術時間は経眼窩群で101.5(95% confidence interval: 84–119)分,コンバインド群で183.2(162.9–203.5)分であり経眼窩群で有意に手術時間が短縮していた(p<0.001)。術後percentage of Hess area ratio(HAR%)は経眼窩群で99(95.8–102.2)であり,コンバインド群で98.1(96.7–99.5)であった。術後眼球陥凹は経眼窩群で0.0(0.0–0.0)mm,コンバインド群で0.1(−0.4–0.5)mmであった。

    結論:経眼窩アプローチによるTLPはコンバインドアプローチに比較して低侵襲かつ手術時間の短縮を認め,単独術者で施行可能であり人的コストも削減可能であった。

症例報告
  • 福井 健太, 市川 輝人, 大氣 大和, 松本 悠, 畠山 博充, 折舘 伸彦
    原稿種別: 症例報告
    2025 年64 巻2 号 p. 251-257
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    はじめに:蝶形骨洞浸潤性真菌症は脳神経麻痺等の重篤な合併症を来すことがあるが,下垂体膿瘍も同様の症状を引き起こす。今回我々は蝶形骨洞浸潤性真菌症を疑った下垂体膿瘍による外転神経麻痺の一例を経験したので報告する。

    症例:症例は68歳女性。当科初診1ヶ月前より頭痛,4日前より複視が出現したため当科紹介となった。鼻副鼻腔CTにて石灰化を伴う左蝶形骨洞陰影とトルコ鞍底右側の骨破壊を認めた。蝶形骨洞浸潤性真菌症疑いで同日両側内視鏡下鼻内副鼻腔手術(Endoscopic Endonasal Sinus Surgery: ESS)を施行した。左蝶形骨洞内に真菌塊を認め,経鼻中隔アプローチで粘膜を含めて除去を行った。右蝶形骨洞粘膜を剥離するとトルコ鞍内から排膿を認めたため,洗浄を行い終刀とした。蝶形骨洞粘膜に真菌の粘膜浸潤は認めず,β-Dグルカンやアスペルギルス抗原は陰性,下垂体膿瘍の培養でも真菌は検出されなかった。以上より真菌症は非浸潤性であり,下垂体膿瘍による左外転神経麻痺と診断した。術後4週間程度の抗菌薬加療を行い,外転神経麻痺は治癒し,良好な経過をたどっている。

    考察:蝶形骨洞浸潤性真菌症と下垂体膿瘍は症状が類似しており,術前診断が難しいことから鑑別に苦慮する場合がある。双方の可能性を考慮し,耳鼻咽喉科と脳神経外科が適切なコミュニケーションを取りつつ診療に当たるべきである。

  • 伊賀上 真有, 有友 宏, 篠森 裕介
    原稿種別: 症例報告
    2025 年64 巻2 号 p. 258-264
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    ボタン型アルカリ電池の鼻腔異物により,鼻粘膜壊死・鼻中隔穿孔をきたした例を経験した。症例は4歳男児。3日前からの発熱・右頬部腫脹を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診し,右鼻腔内にボタン電池を指摘・摘出され,同日当科を受診した。右鼻腔は側壁と鼻中隔の粘膜が黒褐色に変色し,壊死に陥っていた。入院14日目に全身麻酔下に観察と壊死組織除去術を施行したところ,長径2.0 cmの鼻中隔穿孔および鼻腔側壁の骨露出を認めた。癒着予防のため鼻中隔に沿わせてシリコンシートを挿入し,術後1ヶ月半で再度全身麻酔下に抜去すると,1.5 cmの鼻中隔穿孔が残存していたが鼻内はほぼ上皮化し,癒着は生じていなかった。初診時より1年経過した現在まで,鼻中隔穿孔の他に合併症なく経過している。

    ボタン電池より漏出した,あるいは粘膜上での化学反応により生成されたアルカリは粘膜壊死を起こし,鼻中隔穿孔,鞍鼻,癒着や前鼻孔閉鎖等の後遺症をきたす可能性がある。壊死進行抑制のためには電池の早期摘出以外にまだ定説はないが,自験例では抗生剤投与,壊死組織除去,シリコンシート留置が後遺症を軽減させた可能性がある。若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 舘野 宏彦, 柚木 達也, 髙倉 大匡, 高木 康司, 藤坂 実千郎, 林 篤志, 森田 由香
    原稿種別: 症例報告
    2025 年64 巻2 号 p. 265-273
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    小児の鼻涙管閉塞症は,ほとんどが先天性であり,後天性は稀とされている。成人の難治性鼻涙管閉塞症に対する治療として,経鼻内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術(e-DCR)が広く行われているが,小児例に対してe-DCRを施行した報告はほとんどない。当科では,涙嚢周囲の骨削開を超音波骨削開機器(ソノペット®)を用いて行い,切開した涙嚢弁と粘膜弁を縫合して大きな吻合口を形成する超音波骨削開機器支援下経鼻的弁縫合涙嚢鼻腔吻合術(eFSUS-DCR)を開発し報告している。今回我々は,eFSUS-DCRを施行し,良好な経過が得られた,稀な小児後天性鼻涙管閉塞症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。症例は5歳女児。約1年前から感冒に罹患するたびに右流涙,眼脂,眼瞼炎を反復するため当院に紹介受診となった。涙道造影CTでは右涙嚢内に占拠病変が疑われた。eFSUS-DCRを施行し,涙嚢内の隆起性病変を可及的に除去した。病理検査結果はreactive lymphoid hyperplasiaであった。術後5年経過し再発無く経過良好である。eFSUS-DCRでは,骨削開にソノペット®を用いるため,ドリルに比べて涙嚢や鼻腔粘膜の巻き込み損傷が少ない。そのため,小児の狭い鼻腔でも大きな涙嚢弁や粘膜弁を温存し,これらを縫合することで,より大きな吻合口を形成することが可能となる。小児鼻涙管閉塞症例に対して,eFSUS-DCRは有用な治療手段であると考えた。

  • 三橋 泰仁, 木村 翔一, 木庭 忠士, 坂田 俊文
    原稿種別: 症例報告
    2025 年64 巻2 号 p. 274-281
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    内視鏡下の鼻腔腫瘍切除は顔面の変形も少なく低侵襲で,近年外切開と遜色ない成績の報告が増えている。しかし小児の鼻腔は狭く,さらに腫瘍が大きい場合はworking spaceの確保に難渋することがある。内視鏡手術では良好な視野とworking spaceの確保が重要で,術前の腫瘍基部の推定・アプローチ法などを術前に十分検討する必要がある。本症例では左鼻入口部から中咽頭まで達する巨大な腫瘍性病変を内視鏡単独で切除し得たので文献的考察を交えて報告する。症例は6歳男児。左鼻腔内に暗赤色の腫瘍性病変が充満し鼻内は観察困難で,右鼻腔も腫瘍の圧排による鼻中隔弯曲を認め右鼻腔内も観察困難であった。造影CT検査で腫瘍は左鼻腔後方の鼻中隔側に強い造影効果を認めるhypervascularな病変で,MRIではT2WIで不均一な高信号とflow voidを認めた。また腫瘍外側には非造影域を認めた。血管造影検査でfeederは左蝶口蓋動脈であり,栄養血管塞栓後に全身麻酔下に一塊切除を行う方針とした。腫瘍基部は鼻腔後方の鼻中隔側にあり鼻中隔矯正術+経鼻腔的アプローチで左鼻腔腫瘍を内視鏡下に一塊切除した。術中迅速検査では血管線維腫が疑われたが,最終診断は化膿性肉芽腫の診断であった。術後経過は再発なく,鼻中隔弯曲も改善し経過良好である。化膿性肉芽腫は血管系腫瘍に分類され,鼻腔後方に生じた場合は血管線維腫等との鑑別が必要である。

  • 山﨑 一樹, 岸野 愛子, 新井 智之, 米倉 修二, 花澤 豊行
    原稿種別: 症例報告
    2025 年64 巻2 号 p. 282-288
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    Glomangiopericytomaは鼻副鼻腔に発生する非常に稀な血管性腫瘍であり,境界型低悪性度腫瘍に分類される。腫瘍基部を含めた完全切除が治療の基本であり,5年生存率は90%以上とされるが,局所再発率は7–40%と報告されている。千葉大学医学部附属病院で2014年から2023年の間に治療された5症例を報告する。患者の年齢は40–70歳で,男性2名,女性3名であり,主な初発症状は鼻出血と鼻閉であった。画像検査では,全症例で造影CTおよびMRIにて強く一様に造影される腫瘍が確認され,腫瘍は全て鼻中隔に隣接し片側鼻腔を占拠していた。内視鏡下手術が全例に施行され,出血のコントロールが最も重要な課題であった。蝶口蓋動脈のクリッピングでは出血が抑えられなかったが,前後篩骨動脈を処理したことで出血が抑制されて腫瘍摘出が可能となった症例もあった。内視鏡下に腫瘍を摘出する術者にとって顎動脈や蝶口蓋動脈の処理は一般的な手術手技となったが,特にglomangiopericytomaの手術においては篩骨動脈が最も優位な栄養血管である場合も考えられるため,術中に篩骨動脈を処理する技術も身につけておかなければならない。また,顎動脈,蝶口蓋動脈および篩骨動脈の血管処理は様々なアプローチ法があるため,症例に応じたアプローチ法を選択できるようにしておく必要がある。

  • 大原 雄大, 西田 直哉, 本岡 太心, 青石 邦秀, 羽藤 直人
    原稿種別: 症例報告
    2025 年64 巻2 号 p. 289-295
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/23
    ジャーナル フリー

    含歯性嚢胞は,歯原性嚢胞の中では歯根嚢胞に次いで2番目に多い疾患であり,通常は歯科にて診断,治療が行われる。しかし,稀に上顎洞内へ病変が進展することがあるため,耳鼻咽喉科医も日常診療で遭遇する可能性がある。今回我々は上顎洞内へ進展する含歯性嚢胞に対して,Endoscopic Modified Medial Maxillectomy(EMMM)を用いた経鼻手術で治療を行った症例を経験した。症例は13歳女性で,当院歯科口腔外科で左上第二大臼歯を含む含歯性嚢胞を摘出した2年後に,左上顎部痛を自覚した。歯科口腔外科を再診し,精査の結果,左上智歯を含む含歯性嚢胞と診断された。手術加療目的に当科紹介され,EMMMを用いた経鼻手術を施行し,歯牙を含む嚢胞を全摘出した。術後経過良好で術後3か月で上顎洞粘膜は正常化し,術後1年の時点で再発を認めていない。含歯性嚢胞の治療方針を検討するうえで,嚢胞内永久歯を保存できるかどうか,歯科医と相談する必要がある。また,病理組織学的な特徴として,含歯性嚢胞の嚢胞壁は扁平上皮であり自浄作用を有さないため,嚢胞内永久歯が保存できない場合には原因歯を含めた嚢胞の全摘出が必要となる。

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