日本鼻科学会会誌
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55 巻, 4 号
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原著
  • 藤崎 倫也, 兵 行義, 福島 久毅, 原田 保
    2016 年 55 巻 4 号 p. 509-514
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー

    近年好酸球性副鼻腔炎の増加やマクロライド療法の発達により,副鼻腔陰影をきたす疾患の罹患率は変化していると報告されている。画像所見にて片側性副鼻腔陰影をきたす疾患は上顎洞癌の減少や,歯性感染症の認識,歯科の治療方針により歯原性疾患の増加などが言われている。しかし近年では,片側性副鼻腔陰影をきたす疾患の頻度を明確にした検討の報告は少ない。そこで今回われわれは片側性副鼻腔陰影をCT検査で指摘され,手術を行った症例を対象として,疾患の頻度およびCT検査所見の特徴を後方視的に検討したので報告する。2012年1月~2014年4月の間に当院で手術を施行した症例の中で,術前単純CT検査において片側性副鼻腔陰影を認めた72例を対象とした。検討項目は,骨破壊の有無,上顎洞陰影,骨肥厚,鼻中隔弯曲の有無とした。結果として72例中68例は術前診断と術後診断が一致し,慢性副鼻腔炎,歯性上顎洞炎,副鼻腔真菌症,鼻副鼻腔乳頭腫の順に頻度は高かった。また10例に骨破壊を認め,内訳として上顎洞癌4例,悪性リンパ腫,鼻腔癌,副鼻腔真菌症,歯原性粘液腫,副鼻腔嚢胞,歯根嚢胞がそれぞれ1例であった。骨破壊をきたす疾患は悪性腫瘍だけでなく嚢胞病変や骨浸潤性の感染症も鑑別に入れる必要がある。術前にCT検査を行い,術前診断をしたうえで手術を施行しており,今回の検討でこれが重要であることを再認識でき,また術前単純CTを丁寧に読影しCT所見を総合的に判断することにより鑑別できることが示唆された。

  • 牧原 靖一郎, 岡野 光博, 浦口 健介, 岡 愛子, 假谷 伸, 西﨑 和則
    2016 年 55 巻 4 号 p. 515-523
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    ビスフォスフォネート(Bisphosphonate: BP)製剤は癌の骨転移の治療や,骨粗鬆症の予防に対して広く使用されている。一方,2003年に米国で初めて報告されたビスフォスフォネート関連顎骨壊死(Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaw: BRONJ)はわが国においても少なからぬ発生を認め,その予防法や対処法の確立は急務である。今回我々は,副鼻腔炎から眼窩骨膜下膿瘍を続発したBRONJ症例を経験したので報告する。

    症例は86歳,女性。1ヶ月前から続く右側上歯肉部からの膿汁排出を主訴に近医歯科を受診し,当院歯科口腔外科へ紹介となった。約10年前より骨粗鬆症に対してBP製剤であるアレンドロネートを,慢性関節リウマチに対してメチルプレドニゾロンやメトトレキサートを内服していた。CTにて右側副鼻腔陰影を認め,当科を紹介され慢性副鼻腔炎と診断した。歯科にてBRONJと診断され,アレンドロネート休薬から3ヶ月後に腐骨除去と右内視鏡下副鼻腔手術(以下ESS)を予定し,抗生剤での保存的加療を開始した。休薬から2.5ヶ月後に右眼瞼発赤が生じ,造影CTにて右眼窩骨膜下膿瘍の所見を認めた。同日,眼窩紙様板除去を含むESSと腐骨除去,周囲骨削除の緊急手術を施行した。術後,骨膜下膿瘍,骨壊死の再増悪もなく,経過良好である。BRONJ症例への腐骨除去など外科治療の際にはBP製剤の休薬が望まれるが,BRONJを伴う慢性副鼻腔炎に対しては,全身状態が許せば通常上顎骨に対して侵襲は少ないと考えられるESSを腐骨除去より先行させることも選択肢となりうる可能性が示唆された。

  • 西池 季隆, 今井 貴夫, 大島 一男, 田中 秀憲, 鶴田 幸之, 富山 要一郎
    2016 年 55 巻 4 号 p. 524-527
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー

    涙嚢鼻腔吻合術(DCR)では,術後に涙管チューブを上下涙点から挿入し,涙嚢開窓部を通して鼻内に留置することが多い。我々は以前から内視鏡下に涙嚢を鼻腔から開窓したのちに同部にT型シートを留置している。この方法では,涙点の操作は必要ないため,耳鼻咽喉科単独で容易にDCRが行える利点がある。手技として,鼻腔側壁粘膜に切開を加え粘膜弁を剥離し,ドリルにて上顎骨前頭突起および涙骨を削開し,涙嚢から鼻涙管にかけて露出したのち,垂直に切開を加え観音開きにし,涙嚢開窓部にT字型に作成したペンローズドレーンを留置する。最後に形成した粘膜弁にて覆う。シートは2週間から1ヵ月で抜去している。経過を追えた17例20側に対して検討を行った。術後の再発例は2側であり,成功率は90%であった。DCRにおけるT型シート留置術は,耳鼻咽喉科医にとって手技として容易であり,勧められる方法である。

  • 端山 昌樹, 識名 崇, 西池 季隆, 増村 千佐子, 太田 有美, 前田 陽平, 武田 和也, 岡﨑 鈴代, 猪原 秀典
    2016 年 55 巻 4 号 p. 528-534
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー

    孤立性蝶形骨洞病変は蝶形洞にのみ病変のある疾患群であり,比較的頻度は少ない。当科で2001年以降に鼻内視鏡による手術加療を行った孤立性蝶形骨洞病変は40例であった。悪性腫瘍2例を除いた38例について,後向きの検討を行った。疾患の内訳は炎症性病変が14例,嚢胞が11例,真菌症が8例,腫瘍性疾患が5例であった。手術法の内訳は経鼻腔法が18例と最も多く,経鼻中隔法は14例,経篩骨洞法は6例であった。上鼻甲介は27例(70.3%)と多くで切除されおり,篩骨洞の開放は16例(42.1%)で行われていた。術後に蝶形骨洞の閉鎖または狭窄による症状を呈したものは2例(5.3%)であった。手術アプローチによる術後の閉塞に差は認めず,経鼻中隔的なアプローチ法はその他の方法と同等の術後経過が得られた。また篩骨洞の開放の有無による術後閉塞にも差を認めず,蝶形洞内側の病変については,病変のない篩骨洞を開放しなくて済むことから,安全かつ低侵襲に施行出来る有用な手術手技であると考えられた。またシンスライスCTが撮影されていた17例についてOnodi cellとの関係を検討したところ,Onodi cellは9例で認められた。蝶口蓋動脈後鼻枝からの出血はOnodi cellを有さない症例でのみ発生しており,蝶形骨洞の発育が良い症例では蝶口蓋動脈後鼻枝の処理には注意が必要と考えられた。

  • 吉田 充裕, 佐藤 進一
    2016 年 55 巻 4 号 p. 535-543
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー

    浸潤型真菌症は重篤な症状を呈して,時に致死的な状況となることがある。また,蝶形骨洞は頭蓋底や海綿静脈洞などの重要な構造物と近接しているため,炎症の周囲への波及により頭蓋内合併症や脳神経麻痺などの症状をきたすことがある。このことから,浸潤型蝶形骨洞真菌症は早急な診断と適切な治療が必要とされる。

    今回,外転神経麻痺で発症した臨床的に浸潤型蝶形骨洞真菌症が疑われた症例を経験した。症例は81歳男性で複視を主訴に当院神経内科を受診,MRIで蝶形骨洞真菌症が疑われ当科紹介となった。複視以外の症状は認めなかった。CTで,右蝶形骨洞内に石灰化を伴う軟部組織陰影を認め,外転神経の走行に一致する蝶形骨洞後壁,斜台部に骨欠損を認めた。また血中β-Dグルカン値は基準範囲内であったが,血中アスペルギルス抗原値は上昇を認めた。臨床経過,画像所見,血液検査所見から浸潤型蝶形骨洞真菌症が疑われた。治療としては内視鏡下鼻内副鼻腔手術,アゾール系抗真菌薬のVRCZの経口投与を行った。治療経過は良好で,複視は消失し,血中アスペルギルス抗原値も低下した。

    血中アスペルギルス抗原の測定は,浸潤型副鼻腔真菌症の早期診断,治療効果の評価に有用と考えられた。

  • 渡邊 浩基, 伊藤 卓, 山田 雅人, 小出 暢章, 渡部 大樹, 今村 公俊, 東 裕哉, 堤 剛
    2016 年 55 巻 4 号 p. 544-548
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー

    先天性鼻涙管嚢胞は先天性に鼻涙管が閉塞し,主に下鼻道に嚢胞を形成する疾患で,嚢胞の大きさによっては呼吸障害をきたしうる。今回我々は内視鏡下に造袋術を行った先天性鼻涙管嚢胞例を経験したので報告する。

    症例は男児で,出生後からの呼吸障害にて日齢2より経鼻持続陽圧送気を行った。鼻内所見では左下鼻道を占拠し内側に下鼻甲介を圧排する腫瘤性病変を認めた。CT,MRIでは左涙嚢,鼻涙管から下鼻道にかけて連続する軟部影が見られ,特徴的な形態から先天性鼻涙管嚢胞と診断した。その後,経過観察中に酸素飽和度の急激な低下を繰り返し,人工呼吸器管理となった。呼吸障害の原因として,喉頭軟化症や喉頭麻痺がないことから中枢性の嚥下障害による誤嚥等を疑ったが,鼻涙管嚢胞による鼻閉も増悪因子と考えて,日齢66で鼻内内視鏡下にマイクロデブリッダーを用いた造袋術を行った。全身麻酔下に細径内視鏡にて左鼻腔内を観察し,涙点から中村式涙管洗浄用二段針で希釈ヨード液を注入して涙嚢と嚢胞の交通を確認した。嚢胞はマイクロデブリッダーを用いて十分に切除した。次に右鼻腔内も観察し,右下鼻道には病変を認めないことを確認して,手術を終了した。止血用のパッキングは必要なかった。特に術後合併症は認められず嚢胞は完全に開放されたが,呼吸障害は十分に改善されなかった。本症例では呼吸障害の主因は核上性麻痺による嚥下障害と思われたが,鼻涙管嚢胞に対する内視鏡とマイクロデブリッダーを使用した造袋術は安全で効果的な治療法だと考えられた。

  • 橋本 健吾, 都築 建三, 雪辰 依子, 竹林 宏記, 岡 秀樹, 児島 雄介, 阪上 雅史
    2016 年 55 巻 4 号 p. 549-555
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】今回我々は,当科で経験したアレルギー性鼻炎(allergic rhinitis; AR)および慢性鼻副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis; CRS)の手術症例における嗅覚障害について比較検討した。

    【方法】2012年3月から2015年4月の間に,術前に基準嗅力検査により嗅覚を評価しえた20–49歳のARの下鼻甲介手術(inferior turbinate surgery; ITS)症例35例(下鼻甲介手術群:ITS群),およびCRSの両側内視鏡下鼻・副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery; ESS)症例71例(鼻・副鼻腔手術群:ESS群)を対象とした。ESS群は末梢血好酸球割合(Eo),Eo≤5%,Eo>5%で2群に分類した。嗅覚は,visual analog scale(VAS),平均認知域値,静脈性嗅覚検査の結果で評価し,主訴,嗅覚障害の重症度,VASと平均認知域値との相関性,静脈性嗅覚検査の反応の有無についてレトロスペクティブに検討した。

    【結果】嗅覚障害は,ESS(Eo≤5%)群で34%(12/35例),ESS(Eo>5%)群で39%(14/36例)を占め2番目に多かったのに対して,ITS群では主訴に嗅覚障害は認めなかった。ITS群の嗅覚VAS(平均)は71.3%(n=30)で,ESS(Eo≤5%)群46.9%(n=33),ESS(Eo>5%)群45.1%(n=34)と比較して有意に良好であった(p<0.01)。基準嗅力検査によるITS群の平均認知域値は1.5(n=35)で,ESS(Eo≤5%)群3.4(n=35),ESS(Eo>5%)群3.8(n=36)と比較して有意に軽度であった(p<0.001)。重症度は,ITS群は正常16例(45%),軽度15例(43%)が多かったのに対し,ESS(Eo≤5%)群は軽度16例(45%),ESS(Eo>5%)群は脱失15例(42%)が最も多かった。VASと平均認知域値は,ITS群(rs=−0.322,n=30)は有意な相関は認めなかったが,ESS(Eo≤5%)群(rs=−0.726,n=33),ESS(Eo>5%)群(rs=−0.751,n=34)ではともに有意な負の相関(p<0.001)を認めた。静脈性嗅覚検査で無反応例は,ITS群では存在しなかったのに対して,ESS(Eo≤5%)群で9.4%(3/32例)に認めた。

    【考察】CRS患者は嗅覚障害を主訴とする例が多かったのに対して,AR患者には認めなかった。AR患者の嗅覚障害はCRS患者と比べて割合も少なく程度も軽度であったが,AR患者にも適切に嗅覚を評価し,適切な加療が望まれる。

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