著者ハ「パレンテチール」注射動物體内ニ於ケル「パラチフス」菌ガ如何ナル状態ニ於テ蔓延的親和力ノ行ハレルモノナルヤ將又,其ノ親和スベキ時間及ビ菌數量,其他ノ關係ヲ考慮シ,「チフス菌ノ腸粘膜ニ對スル密接ナル結果ヲ證明シ得ベキヤ否ヤニ就テ實驗的研究ヲ行ヒタリ。實驗材料ハ「ブレスラウ、チフス菌屬パラチフス屬ヲ、拾六時間三十七度ヲ以テ培養シタル新鮮菌ヲ海〓ノ血管及ビ皮下ニ注射シ次ノ如キ結果ヲ得、之ヲ諸家ノ説、研究結果ト共ニ比較論及シタリ。即チ「パラチフス菌、「チフス」、「ブレスラウ」種ヲ海〓ニ移植シタル結果該菌ハ一般ニ臟器官内(腦、心臟、脾臟、肝臟、肺)竝ニ小腸各部ニ認メラル。而シテ最モ早期ニ菌ノ出現スル時間ハ動物ノ個性、菌量ニヨルナルベシ。概シテ「パラチフス菌ハ小腸ニ未ダ發生セザル以前ニ他ノ諸臟器ニモ發生スルコト稀ナラズ。而モ同菌ノ腸ニ對スル親和性ハ、特ニ強大ナルモノニアラズ各諸器官ニ於ケル免疫現象ノ發生ヲ前提トシテ、疾病後期ニ至リ腸ハ尚ホ菌生成ノ發達スベキ庇護的逃所ナルベシ。菌注射後經過長期ノ時ニノミ腸ノミニ菌ヲ發見シ或ハ腸内ニ菌ノ蒐集スルヲ認ム。之等ノ事實ハ、ゲルトネル氏腸炎菌ニ就テモ同樣ノ結果ヲ得。即チ本實驗ニ於テハ、ベスレドカ氏ノ假説ノ如ク、「パレンテラール」注射後ノ菌ハ、經口的ノモノト同樣先ヅ腸粘膜ニ局限スルガ如キハ證明シ得ズシテ、反對ニ腸ヨリ菌ノ排泄セラルルモノナルベシト論ゼリ。

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現今ノ醫學界デ寵兒ノ如キ觀ヲナセル『輸血』ハ特ニ“Verblutung”即チ失血ノ際ノ補血法トシテ最モ有效ナルモノノ一ツデアル事ハ誰レモノ熟知シテ居ル所デアル。ソノ失血ガ如何樣ナ失血デアロウトモ、例ヘバ外傷性出血―外出血及ビ内出血―。或ハ病的出血―濾出性出血、破綻性出血、滲出性出血―等ノ際ニ起ル失血、又ハ出血ニヨリテ第二次的ニ起ル急性貧血ノ如キ場合ニモ必要缺クベカラザルハ再言ヲ要シナイ。然シナガラ總テノ場合ニ輸血ガ行ハレ得ルデアロウカ特ニ速急ヲ要スル外傷性出血ニヨル失血ノ際ニ丁度ソノ必要トスル型ノ血液ガアレバヨイガ、寧ロ異型ニ相遇スル場合ノ方ガ多イト假定シテオカネバナラナイ。又假令同型デアツテモ給血者タリ得ヌ場合モアロウシ、特ニ戰爭ノ場合等ニハ、殆ド不可能ノ場合ノ方ガ多イデアロウ。
斯カル場合ニ最近マデ行ハレテ居タ補血法トシテハ生理的食鹽水ノ注入法デ、コレニハ靜脈注入法、皮下注入法、飲用法、灌腸法、腹腔内注入法等、種々ノ方法ガアルガ、特ニコノ場合、靜脈内注入法デアルガ、コノ靜脈内注入法ハ勿論コレモ失ハレタル血液ヲ補フ意味ニ於テハ適當ト云ハネバナラナイガ、コノ食鹽水ヲ靜脈内ニ注入スルト血管壁ニ於ケル滲透壓ニ變化ガ起リ、ソノ結果滲透作用ニヨツテ、血管壁ヨリ濃度ノ低下サレタル血液及ビ生理的食鹽水ガ組織中ニ流出サレル事トナル。故ニ結局ハアマリ面白カラザル結果ヲ齎ラスモノデアル。
所ガ歐洲大戰爭ノ時ニコノ方面ノ研究ガ自ラ必要トサレ、ソノ結果コノ滲透作用ヲ防グ爲メニ「アカシャゴム溶液」ヲ用フル事ガ始メラレタ、コレモ勿論靜脈内注入デ、コレハ單ナル食鹽水ノ注射ヨリ確カニ有效ナル結果ヲ齎ラシタモノデアル、然シナガラ創傷失血ノ際ニ“Wund-Schock”ヲ伴フ如キ場合ニ今迄ノ食鹽水ノ注入ニシロ、「アカシヤゴム溶液」ノ注入ニシロ、コノ「シヨツク」ヲ防グ事ハ效少ナキニ失シタ恨ガアツタ。
一般ニ“Wund-Schock”ノ場合即其直後ニ於テハ血液中ノ糖分ハドウ變化スルデアラウカ、云フマデモナク“Wund-Schock”ノ場合ニハ、血糖量ハ増加シテ行クモノデアル。コレハ生物體ノ防禦力ヲ支持スル爲メノ現象デアルコノ血糖量ノ變化ニ着眼シテ失血ノ際ノ“Wund-Schock”ヲ防グ爲メニ新ナル方法ヲ考エテミタ。即チ單獨ニ用テモ相當效果ノアル「アカシヤゴム溶液」ニ葡萄糖溶液ヲ加ヘタ液ヲ實驗的ニ試ミテミタ。
コレハ今迄「アカシヤゴム溶液」ノミノ場合ヨリ遙カニ有效ナル結果ヲ齎ス事ヲ知ツタノデアル。故ニ輸血ニ次グベキ補血溶液トシテ、又輸血ノ出來ザル場合ニ於テ最モ效力ノアルモノデアルコトヲ本實驗ニヨリ知リ得タノデアル。
實驗ノ結果、コノ溶液ハ6%ノ「アカシヤゴム溶液」ニ8%ノ割合ニ葡萄糖溶液ヲ混ジタ液ヲ用フルノヲ最良トシテヰル。

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