本論文は、満足化意思決定基準の本質的意味を公理論的に明らかにすることを目的とする。つまり満足化基準で何が本質的であるかを厳密に追求しできるだけ透明な理論を得ようとするものである。従来、不確実性下の意思決定問題に対しては、max-min基準、Laplace基準、Hurwitz基準等の決定基準が提案され広く知られている。これらはいずれも代替案間に1つの線形順序を導入し、その極大要素の選択を要請するものである。それに対して、サイモンらによって提唱され、メサロヴィチらによって定式化された満足化決定基準は不確実性下の決定問題に対処する今一つの態度であって、上記のいわゆる伝統的な決定基準に比べてより現実を反映しているといわれている。つまり、代替案集合は、要求水準を満しているか否かに基づいて2つに分けられ、一方の"望ましい"部分に属する代替案すべてを区別なく満足解として選択するというものである。(これを代替案集合の満足部分集合という)本論文は大きく3つの部分で構成されている。まず最初に満足部分集合の性質を調べた。代替案の任意の部分集合が満足部分集合になれるわけではなく、そのために部分集合に要請される必要十分条件を得た。次に、この条件をできるだけ整理細分し、本質的なもののみを抽出することにより、満足化決定基準の公理化を行う。このようなフォーマルなアプローチをすることによって、一般性、客観性が得られ、言葉による表現に伴うあいまいさを除去することができる。実際このような考察によって、単純であるといわれている満足化決定基準の単純さの程度が明らかにされた。最後に、得られた満足化決定基準の公理システムを他の伝統的な決定基準の公理システムと比較検討することにより、maX-min、regret両基準は、本質的には、満足化決定基準の特別な場合であることがわかった。ところがLalace、Hurwitz両基準はそのように考えられずこれら2つは他の決定基準(満足化決定基準を含めて)とは、かなり異質であることが明らかになった。以上述べたように、本論文では代替案集合や不確実性集合に何らの構造をも仮定せずに議論を進めたが、数学的(代数的ないし位相的)構造の導入により、より強力な結果が期待される。
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