輸送回路網を用いて流れの割当て問題を考える上で、Wardropによれば次の2つの規準がある。I)系内のすべての利用者の所要時間の和を最小とする。II)利用者各自が与えられた状況で最短径路を選んで目的地へ行くものとし、径路の選択が落ち着いた状態を考える。後者の規準によれば、系全体の所要時間は最小とはならず、またBraessによって回路網に新しく枝を追加した場合に、かえって利用者すべてに対して各自の所要時間が増加する例が示されている。この現象はBraessの逆説とよばれ、交通計画の実際的な観点及び理論的な観点から研究者の興味をひいている。本論文では、二端子回路網を対象として数理計画法の立場からBraessの逆説を論ずる。ここで、枝を通過する所要時間は、枝の流量に対して単調に増加すると仮定する。良く知られているように、規準IIによる流れの割当て問題は、枝の所要時間を流れについて積分したものの和を最小とするような問題として定式化できる。この目的関数は当然、系全体の所要時間とは異なるから、この点からBraessの逆説は逆説的ではない。また、この問題の双対問題及びそれらの解の間の相補条件が導かれる。規準IIはこの相補条件に他ならない。これらよりBraessの逆説の双対な形が導かれ、それは新しい枝を加えたときの人口から出口までの所要時間をそれ以前と同一にするためには、人口からの流量を減らさなければならないことである。実際上の立場からの強い関心は、現在の回路網の流れの状態から、枝を加えたときにBraessの逆説が生ずるかどうかを判定する条件を求めることであろう。枝の所要時間が流量に線形であるか又は追加した枝上の流量が微小である場合には必要充分条件を導くことができる。この条件は次のような物理的な意味をもつものである。回路網の枝を、元の回路網の流量における所要時間の微係数を抵抗値とする線形な抵抗で置き換え、この電気回路網に入口から電流を流した時の各点での電圧を定める。追加した枝の向きが電流の流れる向きと逆であると、そしてその枝が使われるならばBraessの逆'説が生ずる。枝の特性が非線形である場合、一般には、元の回路網の流れの状態だけから条件を尊びくのは困難である。このことは、各枝で、元の回路網の状態から新しい状態に移り変わるのに、流量と所要時間の関係が、単調性を満足した上でも、様々な過程を経ることができることによる。この様子は例によっても説明される。
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