保健医療社会学論集
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34 巻, 1 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
特集 病いから問う戦後史̶̶保健医療社会学における歴史研究の可能性
  • 土屋 敦
    2023 年34 巻1 号 p. 1-2
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー
  • 坂田 勝彦
    2023 年34 巻1 号 p. 3-11
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿はハンセン病療養所入所者による「全患協」運動について、その展開と論理を明らかにすることを目的としている。近代以降の日本においては国民国家の形成過程を通して、ハンセン病に罹患した者を療養所へ収容する隔離政策が形成され、有効な治療法が確立されて以降も、20世紀末まで継続された。こうした状況下、「全患協」は結成以来、ハンセン病療養所入所者を代表する組織として、彼らの「人権擁護」や「生活待遇の改善」を求めて運動を展開した。医療行政の合理化という時代状況を前に、1950年代後半から60年代にかけて「全患協」は、療養所入所者の待遇改善と在園保障に喫緊の課題として取り組んだ。そうした中で彼らが見出した「強制隔離政策によって受けた損失の補償」という主張は、厚生省や施設当局に対する運動上の要求戦略であると同時に、運動を展開する上で必要な「怨」という集合的な情動を想起させる言説資源として重要な意味を持つものであった。

  • 西川 純司
    2023 年34 巻1 号 p. 12-24
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿は1940~50年代の国立療養所を対象に、医療従事者や患者が結核治療や療養生活をどのように実践していたのかを明らかにするものである。

    分析の結果、まず、外科療法や化学療法が用いられるようになってからも、大気安静療法は引き続き重視されていたことが明らかになった。そのため、外科療法や化学療法、自然療法の関係は相互排他的ではなく、相互に補完する関係にあったと理解する方が適切である。また、抗生物質を使用すれば結核がただちに治るわけではなく、患者は治療のために医師や看護婦と協力しながら、安静度に応じた日課を規則正しくこなすとともに、自然療法に適した環境のもとで療養するなど、時間的・空間的な組み直しを必要としていたことが確認できた。これら分析結果は、「抗生物質の神話」という見方が妥当ではないこと、「非正統的」な自然療法を介してはじめて「正統的」な化学療法が成り立っていたこと、を示唆している。

  • 渡部 沙織
    2023 年34 巻1 号 p. 25-33
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿は、戦後の国立療養所と国立病院の病床構造の転換に関する分析を通じて、本邦の公的病院の機能と役割の変遷の一部を検討する。戦後に結核が治癒可能な疾患となり疾病構造が急速に変容する中で、旧国立結核療養所では1970年代以降に神経難病をはじめとする難病の患者を収容・治療する目的で新たな病床群を設置していった。国立療養所4種(結核、精神、ハンセン病、脊髄)の病床数の推移や、旧国立結核療養所、国立病院の入院患者の疾患構造、病床構造の転換に関与した厚生省や研究医の記録の分析などを通じて、国立結核療養所の結核病床がどのような経緯と目的で難病病床へ転換し、その性質と役割を変化させていったかを概観する。

  • 後藤 基行
    2023 年34 巻1 号 p. 34-44
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    精神科を専門とする国立肥前療養所(現:独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター)は、1950年代後半に伊藤正雄所長の下で戦後初の大規模な開放的患者処遇を行った。閉鎖病棟であるか否かは、自己決定を重視する現代的患者像にとっては重要な論点だが、「開放医療」 (「開放管理」)と呼称されたこの改革はこれまで十分研究が行われてこなかった。本論文は保存されている一次資料を利用しながら開放管理の実態を明らかにすること、また開放管理下の「患者」について考察することを目的とした。その結果、伊藤就任後に開放的な患者処遇が行われただけでなく、入院形式として自由入院が重視され、伊藤退任から20年経た1980年になってもそのインパクトが継続していたことが新たに判明した。しかし、開放管理は患者不在の上からの改革であり、肥前療養所の歴史からは主体性を発揮しにくい性質をもつ疾患の患者の歴史記述はいかに可能なのかが問われていると考えられた。

  • 宇田 和子
    2023 年34 巻1 号 p. 45-55
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、群馬県の安中公害において多発した「指曲がり症」が、公害と関連があると考えられながらも被害とは認識されない「公害病未満の病」に留まった要因を解明することである。先行調査および本研究が行った調査によると、農民による公害反対運動は敗北し続け、被害拡大を食い止められずにいた。しかし同じカドミウム汚染であるイタイイタイ病が公害病に認定されたことで、安中公害も問題化した。裁判で農業被害が立証される一方、指曲がり症はイ病との対比において未病かつ軽いものと位置づけられ、被害のカテゴリから外れていった。ある身体的変調が疾病か否か、被害か否かというカテゴリをめぐる論争においては、安中のように定義しがたい事例について論じることが困難である。しかし保健医療社会学におけるスペクトラム(連続体)としての病の捉え方は、カテゴリ未定の病の経験を論じることを可能にする。ここに公害研究の展開可能性がある。

原著
  • 土畠 智幸
    2023 年34 巻1 号 p. 56-66
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    子どもとの死別は家族に激しい悲嘆をもたらすが、医療者にもまた悲嘆をもたらす。今回我々は、家族と医療者による共同研究としてグリーフ当事者研究を行った。研究テーマはグリーフ体験から支援者および社会との関係性にまで及んだ。当事者研究という手法により、亡くなった子ども、過去の自分、他の当事者と心理的な「距離」をとることができ認知的対処が促進されていた。当事者は他者に「距離」を取られることを嫌がり、支援者にも「距離」を縮めてほしいという思いを抱いていた。また、フラッシュバックや「食べなくてはならない」という「距離」をとることのできない「身体性」に自らの生きる基盤を見出していた。新型コロナウイルス感染症の世界的流行による影響で途中からオンライン開催となったが、研究の遂行にはむしろ良い影響を及ぼしていた。研究参加者は、「ケアを受ける場」ではないグリーフ当事者研究を、「悲しみを分かち合うその次のステージの方法」として肯定的に捉えていた。

  • 前田 泰樹, 西村 ユミ
    2023 年34 巻1 号 p. 67-77
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    新しい入退院支援の考え方は、入院のための説明が行われる場を、病棟から外来へと変えた。本稿の目的は、外来看護師と患者との相互行為を分析し、どのように入院過程が開始されているか示すことにある。冒頭での看護師による今回の入院の目的の提示は、患者自身の来歴の語りを引き出すものであり、患者の入院の理解に即して、次の質問を組み立てることを可能にしていた。来歴が語られない場合、看護師はより直接的な質問を行い、それに応じて来院の理由や初診の経験が来歴のヴァリエーションとして語られていた。看護師たちは、患者の来歴の中に含まれる情報と今後の入院生活との間での関連性を管理していた。本稿では、こうした看護師たちの方法によって、地域と病院の間を移動する多様な来歴をもつ患者への対応が可能になり、後続する入退院支援活動の条件が作られ、入院過程が開始されていることを示した。

  • 海老田 大五朗
    2023 年34 巻1 号 p. 78-88
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究では、厚生労働省による精神障害者の雇用促進という政策的背景や実践課題をふまえ、就労継続支援施設L社の支援実践、とりわけ就労継続支援実践者たちがまさに「労働時間の調整」や「勤務状況の安定」の鍵とみなしている「日報」の使われ方を分析する。そして、精神保健医療領域で使用される文書の在り方を明らかにする。本研究では、このL社で使用される「日報」の4つの在り方(①健康管理の注意点の明確化や次回就業の見通しがよくなる在り方、②「日報」に含まれる報告・連絡という行為を指示する在り方、③支援者や要支援者からの要請に可変的な在り方、④特に支援経験が乏しい支援者への教示としての在り方)を示した。こうした文書の在り方は使用者にとって必ずしも自覚的ではないが、精神障害がある人びとの就労継続の見守りを可能にするものとして機能することを示唆した。

  • 三枝 七都子
    2023 年34 巻1 号 p. 89-98
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿は、人びとの生活に視点を置いて支えるとは何か、それも地域で家族と共に生活している障害をもつ本人を、その関係から切り離すことなく支えていこうとしたときに重要なことは何かを、障害児者家族(本人と家族)と富山型デイサービスふらっとのかかわりから解きほぐそうとするものである。とある障害児者家族の生活史から、そこで生起する諸問題に対しふらっとがどのようにふるまっているのかをみた。結果、個々の文化的・社会的文脈のなかで生活する本人を支えるうえでは、支援者は相手と長い時間かかわり続けると同時に、支援者自身の弱さと周囲との相補性を念頭に相手と距離を取り、されど相手の生活に関心をもち続ける姿勢が重要だった。それによって、相手のSOSによりそうことも可能となる。ふらっとの理事長はこれを「生き方を眺める」と呼ぶ。この相反する関心のもち方が同時並列する姿は生活モデルにもとづく支援を考えるうえでも示唆的である。

  • 大江 祐介, 安保 寛明, 山内 典子
    2023 年34 巻1 号 p. 99-109
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、入退院を繰り返している慢性心不全患者が、心不全とともに生きることをどのように経験しているのかを明らかにすることを目的とした。東北圏内の総合病院に入院中の慢性心不全患者に対しインタビュー調査を実施し、データを収集した。得られたデータをナラティヴ分析の手法を参考にし、それぞれの語りを分析した。研究に参加協力が得られた研究対象者は60~80歳代の男性3人であった。それぞれの語りを分析したところ、AさんBさんCさんの体験はそれぞれ4つ、3つ、2つのテーマに集約された。3人の経験からは、[機械によって生かされている身体と生き抜いている自分][高度な医療に生かしてもらいながらも、自己を貫いて自分らしく生きている][あいまいな契機にはじまり増悪と寛解をくりかえす中で死を意識するようになる]などの経験をしていることが示唆された。

研究ノート
  • 三部 倫子, 影山 葉子
    2023 年34 巻1 号 p. 110-119
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル フリー

    性的マイノリティが排除される問題が指摘される中、日本では性的マイノリティのカップルを婚姻に準じた関係と認めるパートナーシップ宣誓制度が相次いで成立している。こうした背景を踏まえ、本研究は性的マイノリティが医療機関でいかに包摂されうるかを、公立病院と診療所における「家族等」の取り組みを事例に検討した。その結果、公立の大病院では高齢化や事実婚の増加等周辺の世帯構造の変化への対応とともに、患者の同性パートナーを「家族等」として扱う立地自治体の方針に則った運用がなされるようになっていた。他方、小規模の診療所では患者本人との関係性にかかわらず、本人が指定する人に病状を説明する等カミングアウトを強いない医療実践がなされていた。医療機関の規模や診療内容によって、性的マイノリティを包摂するための柔軟な取り組みが採用されうることが示された。

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