本稿は1940~50年代の国立療養所を対象に、医療従事者や患者が結核治療や療養生活をどのように実践していたのかを明らかにするものである。
分析の結果、まず、外科療法や化学療法が用いられるようになってからも、大気安静療法は引き続き重視されていたことが明らかになった。そのため、外科療法や化学療法、自然療法の関係は相互排他的ではなく、相互に補完する関係にあったと理解する方が適切である。また、抗生物質を使用すれば結核がただちに治るわけではなく、患者は治療のために医師や看護婦と協力しながら、安静度に応じた日課を規則正しくこなすとともに、自然療法に適した環境のもとで療養するなど、時間的・空間的な組み直しを必要としていたことが確認できた。これら分析結果は、「抗生物質の神話」という見方が妥当ではないこと、「非正統的」な自然療法を介してはじめて「正統的」な化学療法が成り立っていたこと、を示唆している。
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