生体医工学
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Annual59 巻, Abstract 号
選択された号の論文の479件中51~100を表示しています
  • 吉田 悦子
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 169
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    「医看工芸連携」とは、医療機器開発に寄与することを目的として、従来の医工連携の範囲を広げた医療・看護・工学・芸術分野が連携する取り組みです。特定の医療ニーズを商品化する場合、さまざまな分野で知的財産に関する知識は重要な役割を果たすため、開発プロセスに関係するすべての人は、守るべき知的財産についての最低限の知識を取得しておく必要があります。そこで、デザイナーによる開発プロセスの可視化により共創の効率化を高め、医療・看護・工学・芸術分野の連携を円滑にするという考え方を検討しました。この取り組みの特徴は、工学的アプローチで消費者のニーズを技術的に解決するだけでなく、芸術学のデザインの力で利便性、美しさ、安全性などの要素を視覚化することにあります。私達の活動では「対話・共感・観察」をコンセプトに、医療・看護・工学・デザインの分野をつなぎ、知的財産マインドを育む革新的な教育手法の開発を目指しています。

  • 八木 雅和
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 170
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Medical/healthcare innovation has been highly demanded in Japan, however, there have been not a few 'unsuccessful' cases so far. One of the biggest reasons for this situation is to focus on their own technology & solutions too much, and finally fail to create enough values for sustainable implementation. The objectives of this presentation is (1) to share the difficulties of collaborations in the interdisciplinary fields of medical-nursing-engineering-design (IKANKOGEI) to co-create the values, (2) discuss how we might well overcome it from the both educational & practical perspectives. Also, the possible options for effective collaboration in the 'New Normal (after covid-19)' setting will be discussed.

  • 大野 ゆう子
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 171
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Medical professionals have national qualifications. Whether one is just getting one's national certification or a clinically highly experienced veteran, one would answer without hesitation that my speciality is nursing. IKANKOGEI education course is students with educational backgrounds in medicine, nursing, engineering, and the arts are trying to converge their ideas toward a goal through discussion together, not for graduate credit; however, my three graduate students participated in this course. One student entered the master's program directly after graduation without clinical experience. The next one entered the master's program immediately and, after getting a master's degree, worked more than three years in a clinical ward, then joined the doctoral program. And the last student who entered the master's program after more than 20 years of clinical experience after graduation participated in this course. I would like to give my personal opinion about this challenging course based on their situation.

  • 穴井 博文
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 172
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    医療・福祉機器開発は、医工連携および産学官連携を根幹とし、臨床現場のニーズに基づく研究開発の重要性と、企業研究者の人材育成の必要性が提言されて、昨今ではデザインシンキングの手法が医療機器開発に導入されてきている。大分大学では垣根を超えた異業種の融合を目指し、企業研究者を対象とした、医療現場見学、医療従事者との直接ディスカッション行うための医療機器ニーズ探索交流会、医療ビジネス研修会、医療安全、知的財産に関する教育・研修事業、および医療ニーズシーズマッチングの効率化を目指したウェブサイトCENSNETの運営を行ってきた。さらに医学部内に3D CAD、3Dプリンタを導入したデジタル工房と切削機器をはじ様々な工具を整備した手作り工房を設置し、医療関連機器開発研究に貢献しようというユニークな取り組みを行っており、併せて紹介する。

  • 辰巳 明久
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 173
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    医看工芸プロジェクトは、医療機器や医療サービスの開発に、デザインを有効に活用する試みである。近年、日本の社会ではデザインシンキングがブームとなり、経済分野でデザインという言葉に注目が集まっている。デザインの狭義の意味は、色や形のことである。それに対しデザインシンキングにおけるデザインの意味は、問題を明確に設定し、その問題を美的に解決することである。デザインは、アートを含む分野であり、アートは美を探求する行為である。また、アートは、人間社会の問題を発見し、それを可視化する行為でもある。このようなアートの特性を持ったデザインを医療分野に活かすことは、医療環境の改善に寄与すると考える。今回の発表では、医看工芸プロジェクトいくつかの事例を紹介する。

  • 上西 啓介
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 174
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Our department of (Management of Industry and technology) aims to nurture human resources who can facilitate the development of technological knowledge into a business. Extensive introduction of On-the-Job Education (OJE) exercise into the educational program fosters management ability as well as technical skills. By the collaboration with the graduate school of economics, a special course to take double major master degrees of engineering (ME) and business administration (MBA) for 3 school years.Through IKANKOGEI workshop, students learns the importance of interdisciplinary collaboration through practical experiences to explore medical needs and to visualize the development process.

  • 飯嶋 三朗
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 175
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    昨年2020年9月に,一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が定める「小電力医用テレメータの運用規格」が約18年ぶりに改正され,AE-5201Bが発行された.本運用規格は医療現場において複数の小電力医用テレメータを有するメーカ製品が同時に使用されても運用上,混乱が生じないことを目的としたルールを定めている.今回の主な改正の目的は,テレメータ・テレコントロールとの干渉が問題視されている3000番台のチャネルの使用優先順位を最下位にすること,及び最新の技術情報の周知や電波環境協議会(EMCC)が2016年4月4日に公表した「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」との内容の整合を図るためである.また,小電力医用テレメータだけに限った問題ではないが,製品導入時の注意として2005年12月1日に無線設備規則(昭和25(1950)年電波監理委員会規則第18号)が改正されたことに伴い,改正前の旧スプリアス規格で証明又は認証を取得した製品は,2022年11月30日を超えて使用した場合,電波法違反となる旨,及び処罰の対象となるのは利用者である病院施設側が電波法違反となることを追記した.

  • 石田 開
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 176
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

     医用テレメータを安心かつ安全に運用するためには、電波環境の管理が極めて重要と言える。具体的には自施設内におけるチャネルの管理のみならず、近年では、他施設からの電波受信や、LED照明由来の電磁ノイズなどとの電磁干渉も問題となっている。電波環境の把握のためには、一般にスペクトラムアナライザが用いられることが多い。しかし、スペクトラムアナライザは一般的に高価であり、またマルチメータや各種の医療機器用チェッカなどと比較すると、その使用頻度も高いとは言えない。さらに、スペクトラムアナライザの使用にあたっては、電波工学や通信工学などの専門的な知識が必要となるため、医療従事者が使用するためにはハードルが高いと考えられる。故に、医療機関が独自にスペクトラムアナライザを導入することは比較的容易ではないと考えられる。従って、安価でかつ医療従事者でも簡便に電波環境を測定可能な手法の確立が望まれる。 そこで、医療機関でも容易に導入が可能な手法として、「医用テレメータの簡易スペクトラムアナライザ機能を用いた測定方法」および「ソフトウェア無線を用いた電波環境測定・評価方法」を提案する。本講演においては、これらの概要を解説するとともに、測定器としての精度を評価した結果についても報告する。また、これらを実際の医療現場で用いる際の注意点についても述べる。

  • 遠藤 哲夫, 石島 透, 鈴木 祥仁, 半田 裕, 安形 司, 川邉 学, 加納 隆
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 177
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    医療機関では医用テレメータや電子カルテなど電波を利用した情報通信機器や医用電気機器の導入が急速に進み、利便性が向上している。一方で、電波が届かない等の電波的トラブルが顕在化している。このような状況の下、「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」(総務省、電波環境協議会)や「医療機関における電波利用機器に配慮した建築ガイドライン・同解説-医用テレメータ編-」(日本建築学会シンポジウムでドラフト版公表)の整備など電波管理の手立てが検討されている。本研究グループでは、医療機関における適切な電波管理をサポートする技術を提供することを目的に、医療施設内各所の電波環境を自動的に測定するとともに、遠隔でのモニタリングが可能なシステムを開発した。今回、新城市民病院の一般病棟(1フロア、34室、59床)の医療用台車に本モニタリングに用いる電波測定システムを約4週間設置し、各病室の無線LANの電波強度を長期間測定した。測定データはデータベースサーバに送信し電波環境に関する評価を遠隔で行う実証実験を行った。その結果、長期間のモニタリングを行うことで、瞬時値ではなく定常的な電波状況を把握することができた。また、病院スタッフの通常業務の中で病棟全体の電波管理を行うための情報を自動で収集でき、これまでは、専門業者による現地での電波環境測定およびトラブルの対策を遠隔でサポートできる可能性を見出した。

  • 西條 芳文, Ryo Shintate, Kota Kawaguchi, Mototaka Arakawa, Takuro Ishii, M ...
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 178
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    The resolution and imaging depth show trade off relationships in both ultrasound and optical imaging. Optical resolution photoacoustic microscope (OR-PAM) shows better resolution than acoustical resolution photoacoustic microscope (AR-PAM) while the imaging depth of the OR-PAM is limited. We have developed an OR-PAM for cell imaging with the lateral resolution of 646 nm and the axial resolution of 18 micron with the ultrasound transducer of 75 MHz. Classical type scanning acoustic microscopy (SAM) shows C-mode imaging. Especially, SAM with very high frequency ultrasound (approximately 1 GHz) uses burst wave thus B-mode image is not available. We have been developing quantitative SAM for both C-mode and B-mode imaging. A single ultrasonic pulse with the central frequency of 350 MHz is transmitted to obtain C-mode image with the distribution of speed of sound and B-mode image with acoustic impedance. In this symposium, the comparison between quantitative SAM and OR-PAM is introduced.

  • 石原 美弥
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 179
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    光音響イメージングは、光励起超音波検出を基本とした画像化技術である。生体は光の高散乱体である。光学イメージングに、定量的な空間位置情報を加えられる技術であるが、超音波は光に比べて約3桁散乱係数が低いので、散乱による空間分解能の低下の影響を受けにくい。深部観察のポテンシャルがある。生体内の光を吸収する物質として代表的なヘモグロビンを撮像対象にすると薬剤の投与なしで血管の分布が可視化できる。造影剤、または標的化試薬の投与も可能である。生体内で何が起きているかありのままに観察するためには、超音波や蛍光とのマルチモダリティー化が重要である。

  • 平沢 壮, 田地 一欽, 大川 晋平, 石原 美弥
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 180
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    光音響イメージングは,励起光を吸収した光吸収体が熱弾性過程を経て発生する超音波(光音響)を観測し,生体内部の光吸収体の分布を超音波診断装置相当の空間分解能で画像化する技術である。撮像対象とする光吸収体は,励起光の波長と光吸収体の光吸収スペクトルとの関係により選択でき,特にヘモグロビンを撮像対象とすると,微細な血管分布を高コントラストに画像化できる。がんや炎症性疾患などにおいては血管新生等により血管分布が正常とは異なる可能性があり,この特徴を利用した病変診断が研究されている。さらに本法では,有機小分子色素や金属ナノ粒子などの光吸収体を造影剤として使用でき,生体に投与した造影剤を可視化することで,病変部位への薬剤の集積性など,血管分布とは異なる情報が得られる。また,造影剤を病変に直接関連する分子に標的化することで,病変そのものを直接的に画像化する手法も研究されている。これらにより,診断精度の向上や治療方針の決定への寄与が期待される。以上の背景より,我々は,光音響イメージングで造影剤を高感度に画像化するために,様々な造影剤の光音響発生特性を評価して造影剤ごとに適切な撮像条件を検討するとともに,複数波長の励起光の利用によりヘモグロビンと造影剤とを弁別して画像化するマルチスペクトル光音響法に関する技術開発を行っている。本講演では,我々のこれまでの研究成果と今後の展望について報告する。

  • 根本 隆治
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 181
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    光音響技法を用いたイメージング装置は、大きくその用途に応じ2種類(I. 顕微鏡タイプ、II. CT(Computed Tomographyの略)タイプ)に分類されます。その内、CTタイプには、光音響計測専用タイプやマルチモダリティ(超音波/光音響、蛍光/発光/光音響)計測タイプ等が市場に出現しています。この状況下、米国FDAでは、2021年1月PMA(Pre Market Approvalの略)機器としてSeno Medical Instrument社Imagio(US/OA)が初めて乳がん検査用として承認されました。今回その1機種であるマルティモダリティ機能(蛍光/発光/光音響)を持つ小動物計測用米国製TriTom装置で実測したデータやその経験を含め、原理、機能、様々な応用例等をご紹介致します。

  • 吉田 奈央, 浪田 健, 近藤 健悟, 山川 誠, 椎名 毅
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 182
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    アニサキスとはサバなどの魚に寄生する線虫である.アニサキスが寄生している生鮮魚介類を生で食すると,アニサキス症が引き起こされる.従来法であるキャンドリング検査では,魚の切り身の下から光を照射し,目視でアニサキスを検出しているが,内部に潜むアニサキスを全て検出することは困難である.そこで本研究では,到達深度が高く深部までの検出が期待できる光音響イメージングにより,切り身の内部に潜むアニサキスまで検出することとした.まず,紫外域および可視域(波長300-700 nm)においてアニサキス,生サバおよび生アジの光音響スペクトルを計測することにより,アニサキスの検出に適する光の波長の検討を行った.測定試料を入れた石英ガラスセルにパルス光を照射し,ハイドロフォンを用いて光音響信号を測定した.波長370-400 nmおよび490-540 nmにおいて,アニサキスのスペクトルは単調減少するのに対して,サバとアジのスペクトルは上昇することが明らかになった.これらのスペクトル形状の違いを利用してアニサキスとサバ,アジを識別するために,2波長間での信号強度比を用いる方法を考案し,検証を行った.その結果,強度比が異なることを確認した.これらの解析をとおし,提案手法の有用性を実証した.今後,さらなる検証を行いアニサキスの検出方法を確立するとともに,実用的なアニサキス検出装置の開発が必要であると考える.

  • 伊井 仁志
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 183
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Cerebral blood circulation plays an important role in continuously supplying oxygen and glucose to brain tissue. A notable feature is cerebral autoregulation that maintains a constant cerebral blood flow regardless of mean arterial pressure. However, much is unknown about relationships between local and global cerebral blood flow, circulation field in the interstitial region and how they are related to physiological aspects. The author tackles this problem by numerical simulations for whole cerebral circulation and microcirculation by modeling blood flows, interstitial flows and oxygen transport in blood and tissue. In this presentation, basic formulations of the mathematical models and their numerical validities will be presented, and also future directions to handle physiological problems will be discussed.

  • 正本 和人
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 184
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Brain circulation is composed of three compartments: arterio-arterial anastomosis covering the brain surface, parenchymal microcirculation, and draining venous systems. In response to neural activation, brain blood flow focally increases in the activation foci (i.e., neurovascular coupling), which is mainly regulated by dilation of pial and penetrating arterioles. Recent studies also suggest a pivotal role of parenchymal microcirculation for further tuning of blood supply. The healthy brain relies on activity-dependent increases in blood flow. Under cerebrovascular disease conditions, impairment of neurovascular coupling leads to pathogenesis of neurodegenerative diseases, including cognitive decline. Although causal relationships between dysregulation of neurovascular coupling and neurodegeneration remain incompletely understood, improvement of parenchymal microcirculation is shown to rescue the brain activity. In this talk, I'll focus on regulatory mechanisms of parenchymal microcirculation in response to neural and glial activities based on experimental data obtained from small rodents.

  • 山田 茂樹, 大島 まり, 尹 彰永, 伊藤 広貴, 渡邉 嘉之, 前田 修作, 武石 直樹, 大谷 智仁, 和田 成生, 野崎 和彦
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 185
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】閉鎖空間の頭蓋骨内を脳血液がスムーズに灌流するために脳脊髄液が拍動し、脳代謝による老廃物の排泄と放熱のために脳間質液と脳脊髄液が灌流する(グリンファティックシステム)と考えられている。この複雑な脳内の流体の動きを具現化した数理モデルは未だ存在しない。我々は、主要な脳動脈を3Dモデル、その末梢動脈を1Dモデル、さらに細動脈を0Dモデルで結合し、これを全身循環モデルに組み込んだマルチスケール脳循環数理モデルをこれまでに構築しており、このモデルに脳脊髄液の動きを統合したいと考え、現状と課題を報告する。【方法・結果】健常者の3D MRIから形体情報を収集し、4D Flow MRIから3D流速を収集して、3D画像解析ワークステーションで計算する。脳、脳脊髄液腔(脳室・くも膜下腔)と脳血管は、各々の撮影条件でデータ収集が必要であり、現状は統合できないため、それぞれ個別にサーフェイスモデルを作成し、流速情報を3Dモデルの流入・流出境界条件を設定して、CFD解析に用いる必要がある。【結論】心拍に同期した脳脊髄液の3D動態は、脳血液の灌流による脳の拍動が駆動力となっており、脳循環に連動している。新知見を考慮した脳循環と脳脊髄液の動きを統合した動態解析の数理モデルは非常に複雑であり、未だ課題は多い。また、加齢に伴う脳萎縮、脳代謝の低下、動脈硬化は、脳循環と脳脊髄液の動態に大きく影響すると考えられるが、未解明の領域である。

  • 工藤 與亮
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 186
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    脳内の水動態は認知症や筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患、水頭症、脳梗塞、脳腫瘍など、様々な疾患・病態に関与していることが明らかになりつつある。しかし、脳内のリンパ組織として提唱されているglymphatic systemも含めて、脳脊髄液腔、血管、血管周囲腔、細胞外液、細胞内における水の動態は未知な部分が多い。我々は酸素の安定同位体であるO-17を水分子にラベルして水分子トレーサーとして用い、MRIや同位体顕微鏡によるマルチスケールの水動態の可視化に挑んでいる。水分子トレーサーを静脈内投与してMRIを経時的に撮像することで、血管内から血管周囲腔、細胞外液に分布する水分子、そして脳脊髄液腔に漏出する水分子によるMRI信号変化を捉えることが可能となった。また、水分子トレーサーを髄腔内投与してMRIを経時的に撮像することで、脳脊髄液のクリアランスを計測することもできる。これらは動物実験に加えて健康成人や認知症患者での臨床研究も行っており、動物実験においてはMRI撮像に加えて同位体顕微鏡によるミクロレベルでの水分布の可視化にも成功している。我々はこれらの手法を駆使して、正常の水動態や様々な疾患における水動態の変容を明らかにし、今までにない早期診断法の確立や病態解明、新しい治療ターゲットの開拓などを目指している。

  • 大谷 智仁, Shusaku Maeda, Shigeki Yamada, Yoshiyuki Watanabe, Selin Yavuz ...
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 187
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    The intracranial region is filled in various kinds of fluids such as blood, cerebrospinal fluid, and interstitial fluid. It is commonly known that these fluids always satisfy a mechanical equilibrium state, however little is known about underlying mechanism to maintain this equilibrium state as a homeostasis. Recent experimental studies have revealed details of intracranial fluid circulation with exchanges among fluids. These findings potentially update conventional understanding of the physiological mechanism of the intracranial fluid circulation. As a tool to integrate and interpret these recent findings from mechanical viewpoint, we have begun to develop a computational mechanical model of the intracranial fluid circulation. This presentation introduces perspectives of the computational model to be developed and a personalized computational framework of the cerebrospinal fluid flow, as the first step.

  • 亀尾 佳貴, 竹田 宏典, 安達 泰治
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 188
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    大脳皮質や小脳皮質は、複雑なしわ構造と精緻な細胞層構造を有し、高度な脳機能と密接に関連していることが知られている。このような脳の特徴的な形態の形成には、神経細胞の増殖や移動、分化等の協調的な細胞活動の結果として生じる組織の成長や変形が重要な役割を果たしている。したがって、脳形態形成のメカニズムを明らかにするためには、脳組織内部における力学状態の経時変化と、それを生み出す多細胞ダイナミクスを統合的に解析することが不可欠である。そこで本研究では、細胞群の集団移動を偏微分方程式として記述し、これを細胞増殖に起因する組織の成長と変形を表現する連続体力学モデルに組み込むことにより、脳形態形成の数理モデルを構築した。まず、構築した数理モデルに基づいて大脳皮質の層形成を再現することにより、その妥当性を示した。さらに、この数理モデルを小脳のしわ形成に適用し、小脳に特徴的な規則正しく深い脳溝を持つしわ構造が形成されるメカニズムを検討した。その結果、小脳組織の変形にともなって線維に沿った神経細胞の移動方向が変化し、それが組織の不均一な成長を引き起こすことにより、しわの伸長が促進されることが示された。本研究は、形態形成を通じて脳の複雑な構造と機能が創発されるメカニズムを、力学的・生化学的観点から理解する上で、大きく貢献すると期待される。

  • Tianyi Wang, Shima Okada, Naruhiro Shiozawa, Kazuho Yamaura, Yoko Nish ...
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 189
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    Society network is changing. Communication is no longer limited to face-to-face conversation. Technology including 5G, Human-Computer/Robot-Interaction, Wearable Device, et al. provides us more options to build a new social network.But, are we really ready for talking with a robot even it is connected with another people's brain (Human-Agent)? How can we know people's feelings only according to the image that is projected on the monitor screen (IP Virtual Human)? Missing and inaccurate information will mislead our feedback to other people and result in a communication gap.In this symposium, we intend to share our ideas, as well as concerns, for the potential issues that may occur in the future social network. Also, we look forward to the discussion about visible solutions to fill the gap in communication.

  • 西原 陽子, 辻 晟矢, 砂山 渡, 山西 良典, 今城 志保
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 190
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    本発表ではDialog Actの遷移を用いた議論のプロセスを分析し、議論の改善点を発見するための手法を報告する。情報科学において議論を分析する手法の多くは、議論を要約するあるいは議論のトピックを抽出するなどして、議論の外観を示すものが多く、実際の議論がどのように進んだかのプロセスを抽出する、可視化するもの少ない。このために議論のプロセスの面から改善点を発見することは難しくなっている。Dialog Actは会話の中の発言に対し付与されるもので、会話における機能を表すものである。議論で得られた発言に対して、Dialog Actを付与し、遷移することが多いDialog Actのペアを抽出し、同じDialog Actを接続することにより有向グラフを作成する。この有向グラフは議論プロセスを表すものと仮定する。有向グラフを良い議論と悪い議論のそれぞれに対し作成し、比較を行うことにより悪い議論を良い議論へと改善するポイントを発見する。著者の所属する研究室の教員と学生による1対1の研究議論のデータに対し提案手法を適用したところ、悪い議論を良い議論へと改善するポイントを発見することができた。

  • 秋山 肇
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 191
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    科学技術は人間にさまざまな恩恵をもたらしてきた。例えば医療技術の発達により、従来治癒が困難だった疾病の治癒が可能になった。またAIを利用した自動運転技術などにより、利便性が向上している。ムーンショット型研究開発事業ミレニア・プログラムにおいては、科学技術を用いた2050年の社会像が検討されてきた。例えばAI を使った感情の他者との共有、科学技術を利用した理想的な心理状態の実現、誰もが子どもを生み育てられる技術などについて議論されている。その一方で、こうした議論にはさまざまな法や倫理観に関する論点が存在する。例えばAIによる感情の他者との共有は、技術の使い方によりプライバシーの問題、科学技術を利用した理想的な心理状態の実現は、思想の自由の問題といった法的課題を抱える可能性がある。また誰もが子供を産み育てられる技術には、生命倫理的課題を指摘する声もあるであろう。こうした法的・倫理的問題に向き合うために本報告は、法や倫理観の基盤を問い直す必要性を主張する。その上で、人間が地球環境に多大な影響を与えるアントロポセンの時代に、人間活動の生態系や環境への影響を検討しつつ、社会問題を解決するための法や倫理観を構築する必要性があると述べる。

  • 吉田 慎哉
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 192
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    なぜ自分は妻に代わって子供を産んであげられないのだろう?なぜ出産が年齢に縛られなくてはいけないのだろう?なぜ女性ばかり負担が大きいのだろう?そもそも現在の超少子化社会は,ヒトとしてどうなのだろう?生物としての本能である子孫を残すこと,そして彼らがまた次の世代へとつないでいくことは,人類共通の普遍的な願いではないか?同年代と話をすれば,妊活,出産,育児のシーンには膨大なペインがでてくる。産後鬱,子供の虐待など,悲しいニュースも多い。もう少し科学技術でできることはないものか?子供は未来そのものであり,妊活,出産,育児,教育などを支援する科学技術に投資することは,未来への投資であろう。もちろん子供を持たない生き方もあっていい。重要なことは「選択肢」があることだと思う。科学技術によって選択肢を与えることは,当事者の抜苦につなげられる。そんなことを思い,ムーンショットミレニアプログラムに申請した。「望めば誰もが安心して子供を産み育てられる社会」の実現のために科学技術ができることについて,ご議論できれば幸いです。

  • 佐久間 洋司, 井上 昂治
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 193
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    ムーンショット型研究開発事業の新たな目標を検討する「ミレニア・プログラム」において、発表者らは「人類の調和」を実現する科学技術について調査研究を進めてきた。個人のレベルでは、人と人を繋ぐ新しいインターフェースについて、集団のレベルでは、グループとしての振る舞いを実現するアルゴリズムについて焦点を当てて検討を行なった。個人のレベル:言葉に載せきれない思考や経験のような情報を読み出し、物理的・時間的に多様なインターフェースを通じて相手に伝える技術について、また、誹謗中傷から不快な情報まで、見たくないものを見ずにすむフィルターのような実空間のインターフェースについて幅広く検討した。集団のレベル:ソーシャルネットワーキングサービスでの呟きから都市と一体化したセンシングまで、見逃されがちな小さな主張や意見も適切な形で考慮してコーディネートできる社会システムについて、また、ユーザーの好む偏った情報ではなく、最も相互理解が促進されるような情報流通を制御する技術ついて検討した。これらの未来のビジョンをSF作家との共創によって鮮明化し、学識者・有識者との議論や文献調査など通じて、現在と描く未来とのギャップを埋める方法を明らかにしてきた。本講演では、これらの調査研究の成果より得られた「人類の調和」という未来のビジョンと、そこへ至る研究開発や社会実装のシナリオについて紹介する。

  • 熊谷 誠慈
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 194
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    2050年の社会像として、本発表者の研究チームは、サイバー空間、フィジカル空間、マインド空間の融合により、CPMS(Cyber Physical Mental System)という新たな概念を提唱し、身体的負担のみならず精神的負担をもが低減された「安寧と活力が共存する社会」の実現を提案した。同提案は、JSTのムーンショット型研究開発事業おミレニア・プログラムに採択された。同チームを中心に、科学者の叡智を結集し、理想的な心理状態の定義化と計測法、誘導法、社会実装法を具体化し、伝統的智恵と心身変容技法を、先端科学技術で効率よく、頑健な形で社会にシステム化する「Psyche Navigation System技術の確立」を目指す。本発表では、とりわけ発表者の専門とする仏教的観点から、CPMSという概念、Psyche Navigation System技術について紹介する。

  • 樋口 ゆり子, 松下 智直, 高須 清誠, 内田 智士
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 195
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    近年、子育てや介護と仕事の両立、大都市への一極集中、などの社会課題の解決に向けて社会システムが移行している。働く場所、時間の考え方が変わり、選択肢が増えつつある。少子高齢化による老々介護の加速、医師不足による過疎地での医療崩壊により、自宅での遠隔医療が渇望される。また、科学の進歩により、個人のDNA情報に基づく創薬、副作用の少なく、治療効果の高い、個別化医療が可能になりつつある。このような社会動向から、私たちは高度な機能を備え(intelligent)生きているように自発的に作動する(Living)細胞のような小さな区切られた(Cell)もの、”iL-Cell”の開発を提案する。iL-Cellは、エネルギー産生・備蓄、生体分子のセンシング、など、従来の細胞にはない機能の装備が求められる。本シンポジウムでは、iL-Cellの構築に必要な要素技術として今何を研究するべきか、また、iL-Cellが拓く2050年の社会について議論したい。

  • 人見 泰正
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 196
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    臨床工学技士(Clinical Engineer; CE)とは、高度医療機器や生命維持管理装置の担い手として1987年6月の臨床工学技士法の制定とともに発足した国家資格である。現在、約24,000名の有資格者がいるとされている。臨床工学技士法は高度経済成長に伴う医用工学の発展により、複雑かつ高度な医療機器を現場で安全かつ効率的に運用する必要性が急務という、時代のニーズに則って成立した。よって、CEは当然ながら、今も続く目まぐるしいテクノロジーの進歩に後れを取らず職務を追行しなければならない。またそれは、日常業務に加えて学術活動や研究活動を加味した職務体制を構築すべき職種であることも意味すると考える。そもそも、研究活動を行うことの意義は、物事の真実を科学的に証明することである。今やっていることや存在している物事の中から疑問を感じとる力や疑問を問題点として抽出する力、または問題点を解決するための適切な過程を見定め、情報を収集し、適切に解析し、真実を結果として抽出して人に伝える力などが必要とされる。本演題では本セッションの序章として、臨床現場でCEが研究活動を行うために心得ておくべきポイントについて解説する。

  • 鈴木 尚紀
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 197
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    臨床工学技士において臨床研究の意義は、知識レベルや意欲の向上、新たな技術・指標の開発・普及、組織の活性化等、様々であるが、継続することで公益性の高い成果に結びつくと考える。本稿ではその一例を報告する。我々は以前に、血液透析中の脳内局所混合血酸素飽和度(rSO2)と血圧との関連性について報告した。非糖尿病群では血液透析中の血圧と脳内rSO2とに有意な正相関が認められたが、糖尿病群では認められず、血圧が保たれている場合でも脳血流が低下する可能性を示した。さらに、脳内rSO2は透析低血圧に対して高い予測精度(感度85.7%, 特異度92.3%)を有しており、その早期発見に有用な指標であることを報告した。しかし、従来のrSO2測定装置は、大型で高価であり、汎用性に乏しいという問題点があった。現在、これらの問題に対応すべく企業と協力し、携帯型近赤外線組織酸素モニタを開発中である。現段階での試作機は、Androidアプリと超小型コントローラ及びリユーザブルプローブが基本構成であり、従来のrSO2測定装置よりも小型かつ大幅なコストダウンを実現できる可能性がある。本検討を継続することによって、研究に関わったスタッフは血液透析中の循環動態管理に対して知見が深まり、学会発表等による意欲の向上にも繋がった。さらに企業の協力が得られたことで、臨床研究にとどまらず、透析医療に広く貢献できる可能性が得られた。

  • 加藤 博史
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 198
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    医療機器開発は基礎研究、応用研究、非臨床研究、臨床研究(治験)、実用化、などの過程に加え、医薬品医療機器等法に則った安全性や有効性を検証し、ビジネスとして社会実装する総合的な研究開発事業である。日本医療研究開発機構(AMED)において推進されている「医療機器・ヘルスケアプロジェクト」には、「医工連携イノベーション推進事業」や「先進的医療機器・システム等技術開発事業」などがある。前者は医療ニーズを中小企業の高度な技術を活用し医療機器として開発するものであり、後者は5つの重点分野を対象に、先進的な医療機器・システム等を開発するものである。さらに、文部科学省では研究者の独創的な「技術シーズ」の発掘・活用を支援し、厚生労働省では安全性・有効性に関わる評価・実証などの環境整備と人材育成および拠点の整備・連携を推進している。遅ればせながら、医療機器のスペシャリストを自負する日本臨床工学技士会は平成30年に臨学産連携委員会を設立し、臨床工学技士が医療機器を開発する体制の構築に取り組んできた。しかし、コロナウイルスの感染拡大により、国産の医療機器供給能力における脆弱性が改めて浮彫となった。今後は開発される医療機器の社会実装をより確実なものとするため、工学研究者、医療者(臨床工学技士)、研究開発支援機関、企業、行政などが協働し、医療機器に関する研究開発を進めるべきである。

  • 松井 智博
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 199
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    【背景】

    2019年11月に日本学術会議幹事会が、研究者が働き方改革の実行と自由な研究時間の確保を両立できるよう求める声明を発表するなど、研究時間の確保に対する関心は高くなっている。しかし、病院で働く臨床工学技士の臨床研究時間に関する研究は多くない。そこで臨床工学技士に対して調査を実施した。

    【方法】

    複数施設25名の臨床工学技士からのアンケート結果を元に臨床工学技士の研究活動について考察する。

    【結果】

    アンケート結果からは勤務中の臨床研究時間は全くない、少ないが20/24人(83.3%)、勤務時間外に研究時間が全くないが14/24人(58.3%)、勤務中に研究時間を持つことに対してよく理解できる、理解できるが17/25人(68.0%)。施設として勤務時間内に臨床研究を行うことに十分理解がある、理解があるが13/25人(52%)などとなった。

    【考察】

    勤務中に研究時間を設ける事に対して理解がないと感じていたが、理解がないとの回答はなかった。研究活動時間を確保するためには勤務中にある程度研究時間を取る工夫が必要になってくると考えられた。自分の経験からは、今までは勤務時間外に研究時間を捻出していたが、加齢とともに健康不安が生じることも多くなっている。また管理職としての業務量の増加も多くなってきた。アンケート結果を元に工夫できることを考えていく必要がある。

  • 野村 由美子, 吉岡 恭子, 川畑 研介, 西方 修馬, 藤巻 寿子, 笠松 淳也
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 200
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    臨床研究法は、臨床研究の実施に際しての手続きや制度を定めることにより、臨床研究に対する信頼性の確保を図ることを通じてその実施を推進し、保健衛生の向上に寄与することを目的に、平成30年4月から施行された。法律の付則に、法律の施行の状況、臨床研究を取り巻く状況の変化等を勘案し、施行後5年以内に見直しを行うこととされており、本年1月の厚生科学審議会臨床研究部会において見直しに着手し、以降、検討を継続している。臨床研究法において規制の対象となる特定臨床研究は、医薬品医療機器法に基づく承認・認証・届出がなされていない医療機器や、承認、認証又は届出とは異なる使用方法で用いる医療機器を対象としている。一方で、医療機器には多種多様な品目が存在し、人に対するリスクも様々であること、既存の製品の改良・改善が絶え間なく行われるなどの特徴があり、特定臨床研究の対象にリスクの低い医療機器や既承認の医療機器と性能上大きな違いのない医療機器も含まれる点等について、意見が寄せられている。法の目的である信頼性の確保を保持し、被験者の安全性確保に配慮しつつ、国際整合性を高め、試験の本質に影響しない事務手続きの負担軽減等により、臨床研究の推進が図られるよう見直しの検討を進めていく。

  • 黒田 知宏, 櫻井 理紗, 木村 裕一
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 201
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    2018年4月に施行された臨床研究法は、臨床研究に該当するとされた研究について、医師免許を持つもののみが実施できるとしているため、生体医工学研究に掛かる工学系研究者にとって、自ら行おうとしている研究が臨床研究法の定める臨床研究に該当するかどうかは、重要な問題である。日本生体医工学会では、研究者が自ら行う研究が臨床研究法の定める臨床研究に該当するかを判断するに当たってのガイドラインを、2019年10月に示した。このガイドラインでは、1)予防・診断・治療を含まない、2)身体の構造若しくは機能に影響を及ぼさない、の2条件を非該当性の判断基準としているが、この2)については、適用する技術等によって詳細の判断基準が異なることから、各個別分野ごとに「別表」の作成を求めている。本講演では、本ガイドラインと別表作成の意義を再確認し、その活動が現在検討されている法改正にどのような影響を及ぼしうるのかについて、厚生労働省担当者と会場の聴衆を交えて、パネルディスカッションで議論する。

  • 中川 敦寛, 小鯖 貴子, 奥山 節子, 市ノ渡 真史, 冨永 悌二
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 202
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    グローバル化と技術革新の急速な進展、それに伴う社会や生活の急激な変化により、人々は多様な価値観とライフスタイルをもつようになり、求めるものも、「モノ」から「コト」、さらには「カチ」になった。ニーズが複雑化したことで、そもそもユーザーが何に困っているかを予測することが難しくなり、従来のマーケティングでは戦略をたてられなくなった。デザイン思考は、人々のニーズを出発点とし、開発初期段階から技術、ビジネスを成功させるための要件を含めた事業化の視点も検証しつつ、問題の解決とイノベーションを実現するアプローチが特徴である。当院では、東北大学病院を中心とした医療・ヘルスケアの現場を「課題のショーケース」として開発研究者に開放できるためのインフラを2014年に構築した。これまで47社、1500名の開発研究者を医療現場に受け入れ、デザイン思考も取り入れながら、解決すべき課題を探索してきた。2020年からは課題解決実証型フィールドオープン・ベッド・ラボOBLとしてコンセプトやプロトタイプの実証の場も構築した。デザイン思考を用いたイノベーション事例を紹介しながら、いかにして医療関連ビジネス創出につなげるかについて考察するとともに、病院が本質的に解決すべき課題を探索し、「モノ」の開発はもちろんのこと、「コト」さらにはステークホルダーと共創し、「カチ」を創出できる場としての役割について考察する。

  • 武田 理宏, 小西 正三, 真鍋 史朗, 岡田 佳築, 松村 泰志
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 203
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    大阪大学医学部附属病院では、三井住友銀行との医療情報銀行の実証研究において、禁忌アレルギー情報、処方情報、血液検査結果、妊婦健診情報、ペースメーカ情報、腹膜透析情報患者問診情報などの診療情報を、患者自らが契約するPersonal Health Record(PHR)に返却している。また、Society 5.0実現化研究として、心不全患者見守り、生誕1000日に守り、虚弱高齢者見守り研究をテーマに、患者ライフログデータのPersonal Life Record(PLR)基盤への蓄積、病状悪化の検知、健康問題への気づきとアドバイスの提示や行動変容への誘導を試みている。PHR基盤とPLR基盤は統合されることとなり、患者を起点とした、患者と医療者間、医療、福祉の現場間での情報流通が可能となる。PHR-PLR基盤が整備されることで医療機関では、生活習慣病患者に対する運動処方と生活指導など、ライフログデータを活用した診療が期待される。将来的には、患者は病院で検査受診をするのみで、オンライン診療での結果説明と、PHRへの結果返却が可能となる。また、定期受診はオンライン診療が基本となり、ライフログデータで病状悪化を検知したときのみ医療機関への受診することが想定される。

  • 辻 義弘
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 204
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    臨床工学技士の国際協力の現状を概観し,現下および将来の課題に対応するため,本シンポジウムを企画した.国際協力の新たな担い手として,臨床工学技士の海外展開を支援する取り組みも本格化しつつあるが,相手国の体制や環境に考慮した実施体制の構築等は必ずしも十分ではなく,さらなる枠組み作りが必要なものもある.そこで,今回は「臨床工学技士の国際協力の現場」をテーマに,吉岡 淳 先生(仙台赤十字病院/公益社団法人日本臨床工学技士会 国際交流委員会 委員長)と,楢村 友隆 先生(倉敷芸術科学大学 准教授/一般財団法人臨床工学国際推進財団 理事)のお二人をお招きし,ご自身の国際協力の経験や途上国の臨床工学の現状についてお話しいただくとともに,国際協力の取り組み方や現状の問題点など,幅広く議論を行いたいと考えている.医療のグローバル化が進むなか,臨床工学技士がこの先どのように国際活動や国際協力に関わっていくことができるのか,またどのようにして関わっていけばよいのか,本シンポジウムへの参加を通して一人でも多くの臨床工学技士が国際協力の現状を知り,これまで培った経験を日本だけでなく世界の臨床工学の発展に寄与するきっかけになることを所望する.

  • 楢村 友隆
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 205
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

     近年の発展途上国や新興国の経済成長は著しく、医療水準も年々向上してきているように感じられる。医療の高度化・グローバル化が進むなか、これらの国々においても様々な医療機器の需要が急速に高まっている。発展途上国にはODAなどを通じて大量の医療機器が無償援助協力の形で入っており、医療を提供する上で医療機器は必要不可欠なものとなっている。しかしながら、年々高度化の一途を辿る医療機器を適正に管理できる人材が現地におらず、軽微な故障とともに廃棄されている現状がある。また、医療機器が適切な状態で管理・使用されていないことから、治療中に起こるトラブルも後を絶たない。 我が国では、医学と工学両者の知識・技術を兼ね備えた臨床工学技士が医療機器の専門家およびチーム医療の一員として医療の質の向上と安全確保を担っている。一方で、これらの国々では適切に医療機器を操作し保守管理を行う専門家の育成が追いついていないのが現状である。これらの諸問題を解決に導くため、現在、臨床工学技士が海外にてさまざまな活動を繰り広げており、これらの国々が抱える医療面での課題に対する処方箋として、日本の臨床工学技士の積極的な活用が必要であると感じている。 そこで我々は、国際活動を更に充実させるため、臨床工学国際推進財団を設立し、さまざまな活動に取り組んでいる。 今回、ミャンマーでの活動を中心に臨床工学国際推進財団の活動について紹介する。

  • 吉岡 淳
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 206
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    海外では、医療機器の総合的管理を行う幾つかの団体がある。中でも、AAMI(Association for the Advancement of Medical Instrumentation)やACCE(American College of Clinical Engineering)ではClinical Engineer(CE)/ Biomedical Engineer(BME)制度を学会認定として誕生させているが、病院での臨床業務は行ってはおらず、医療機器設置や維持管理のコンサルタント、医療機器の選定から廃棄までのライフサイクルマネージメントが主な業務となっている。日本臨床工学技士会では国際交流委員会を組織して多くの国々と交際・交流活動を行ってきた。近年、日本政府の国策として日本式医療サービスをパッケージで輸出し、当該国の医療水準の向上に貢献することが進められている。本委員会の活動は、既に国際交流活動から国策に合致した国際貢献事業へと発展しており、これに加えて日本の臨床工学技士制度を多くの国へ輸出することが今後の目標である。今回、海外への臨床工学技士普及の第一歩として、日本臨床工学技士会国際交流委員会で行ってきた国際交流・活動の現状と未来について紹介させて頂く。

  • 小泉 彩芽, 木村 雄亮, 青山 千裕, 池内 真志
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 207
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    心臓は拍動に伴い血行力学的な負荷(メカノストレス)を受ける。メカノストレスの増大は心肥大を引き起こし、その状態が長く続くと心不全に陥る。心筋細胞のメカノストレス応答の解明を目的として様々な細胞伸展デバイスが開発されているが、伸展刺激の位相に着目した研究は行われてこなかった。心筋細胞は拍動周期の中で位相によって異なる負荷を受けるため、細胞への伸展刺激の付与において自律拍動との位相差を考慮することには重要な意味がある。そこで本研究では、心筋細胞の自律拍動の位相に応じて伸展刺激を付与できる細胞伸展システムの開発を行った。アクチュエータには高い分解能と応答性を有するピエゾアクチュエータを採用し、倒立顕微鏡により撮影される動画からの拍動検出にはオプティカルフローを用いた。システムの機能評価実験の結果、細胞の拍動開始を検出し、伸展を行うまでの応答時間は約20msであることが確かめられた。また、周期的伸展実験を行い、遺伝子発現量等の評価により、心筋細胞の伸展刺激に対する応答解析を行った。さらに、自律拍動の特定の位相における伸展刺激により異常拍動現象が誘発され、心臓震盪のin vitro病態モデルとしての可能性が示された。

  • 石綱 ゆうみ, 安田 優真, 村上 慶輔, 岩崎 清隆
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 208
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    冠動脈虚血性心疾患治療の新デバイスとして,一定期間後に腐食により分解され血管内に異物が残らないMg合金製ステントが開発されている.生体内でMg合金は腐食して分解されるため,分解と拡張保持力の数カ月程度の関係性を明らかにすることが重要であるが,その評価試験系は確立されていない.本研究では,生体内の化学的環境(タンパク濃度,塩化物イオン濃度,pH)及び力学的環境(拍動流,狭窄による負荷)を模擬した新たな試験系を開発した. 試験回路内で化学的環境を模擬するため,ヒト血液相当のタンパク質・塩化物イオン濃度を有するウシ胎児血清を作動流体として選定し,清潔な閉鎖型循環回路において,弾性チューブの外側から二酸化炭素を供給してpHを7.4に維持する機構を考案した.また,力学的環境模擬のため,ヒト病変の力学特性を模擬した狭窄血管モデルを作製し,独自に設計したローラ型ポンプを用いて冠動脈の拍動流・圧力環境を創出した.1)拍動流環境下での狭窄負荷の有無,2)静置環境下での狭窄負荷の有無の計4条件で60日間の試験を行った.その結果,静置よりも拍動流環境においてステントの腐食速度の低下が明らかになり,静置での狭窄有の条件でのみ破断が生じた.以上より,Mg合金製ステントの破断耐久性を評価するための力学負荷と腐食の相互作用を模擬できる試験系を初めて構築した.本評価試験機器を用い,デバイス設計,製造法の最適化を行っていく.

  • 板井 駿, 尾上 弘晃
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 209
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    血管は,酸素・栄養分・ホルモン・免疫系細胞等,様々な物質の輸送管の役割を担っている.加えてこれらの物質の組織への透過性を制御することで恒常性維持にも寄与しており,免疫反応や薬剤の組織への浸透性もこの制御と深く関連している.ゆえに詳細な病理解明や薬効試験のためのモデルとして近年脚光を浴びているのが,生体内の血管を高いレベルで模擬したin vitro血管組織モデルである.生体内模倣にあたり重要な要素となるのが,炎症サイトカインや薬剤に応答した血管の透過性制御の再現である.そこで本論文では,自在に変形可能なコラーゲンチューブを用いて,血管組織の化学物質応答再現を行う.従来報告されているin vitro血管組織モデルでは,組織形状が固定されているものが多く,組織レベルでの変形応答が再現されていなかった.これに対し我々のデバイスは,自由に伸縮等の変形が可能であり変形に対する強度も高いため,細胞レベルのミクロ変形と組織レベルのマクロ変形の双方が同時に再現され,より生体内に近い化学応答を実現可能である.さらに,コラーゲンがシリコーンチューブと接合されていることで容易に外部装置と接続され,灌流下での薬剤応答の模倣も可能としている.本発表では,アレルギー反応に関わるメディエータであるヒスタミンを用いて,組織・細胞レベルでの応答を確認し,さらに抗ヒスタミン薬の成分を用いて,薬効試験の模倣にも成功した.

  • 木田 直弥, 横山 徹, 清水 久恵, 山下 政司
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 210
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

     慢性腎臓病は腎機能の低下が持続し,血液透析治療が必要な疾患である.尿試験紙検査は尿異常による早期発見に有効であり,早期に治療介入することで進行も抑制される.しかし,新規透析導入患者数は未だ増加傾向にあり,要因としてかかりつけ医における検査環境の未整備が挙げられる.また,尿試験紙の判定手法には目視判定と機器判定があるが,判定に測定者の主観を伴うことや高額な装置が必要なことが課題とされる.そこで,本研究はかかりつけ医における尿試験紙検査の環境整備を目的に,安価かつ簡便で高精度な尿試験紙判定システムの構築を目指す.

     今回はスマートフォンで尿試験紙と色調表を同時に撮影し,ノートPC上での画像解析により取得した各色情報から尿試験紙判定を試みた.測定項目は慢性腎臓病の早期発見に重要な尿アルブミンとし,精度管理用試料を蒸留水により4濃度の半定量値に調製した.システムはプログラミング言語にPython,拡張ライブラリにはOpenCVを用いて構築し,撮影した尿試験紙画像より自動で色情報を取得し判定値を算出した.尿化学分析装置による機器判定と比較し,一致率と±1ランク一致率から判定精度を検証した.実験の結果,本システムは既存装置と同等の判定精度を示し,有用な判定法と考えられた.今後はシングルボードコンピュータを用いたスタンドアロン型装置を構築し,アルブミン/クレアチニン比について臨床的評価を行う.

  • 小川 恵美悠, Hidehira Fukaya, Gen Matsuura, Sota Kawakami
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 211
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    We studied the new cardiac tissue monitoring modality during arrhythmia catheter ablation using local impedance measurement. Devices that allow local impedance monitoring by catheters equipped with microelectrodes have become used in recent years during arrhythmia ablation. This monitoring provides useful intra-treatment diagnostic information such as the distance between myocardial tissue and catheter tip, and tissue information. However, the impedance may be sensitive to the contact condition of the catheter, which may lead to underestimation of the therapeutic effect. In this study, we evaluated the effect of contact angle and contact pressure on the local impedance using ex vivo porcine myocardial tissue. A new monitoring modality for mechanical properties of myocardial tissue would be suggested.

  • 土田 克彦, 小林 正樹
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 212
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    ヒトの皮膚では酸化ストレスに伴うさまざまな障害が報告されており、酸化状態を調べることは重要であるが、in vivoでの直接的な生体評価は困難である。そこで本研究では主に活性酸素種を起源として生体から自発的に発生する極微弱光(バイオフォトン)の計測技術に着目し、皮膚の酸化ストレス評価に対する有用性を検討した。我々はまず酸化ストレスの大きな要因とされる紫外線によって皮膚から誘発される極微弱光の発生機序を調べた。紫外線照射量に依存して発光強度は増加し、その発光が表皮層と真皮層の両方に由来していることが示唆された。また紫外線照射で増加する発光が各種抗酸化剤で抑制されることを確認し、発光スペクトル解析より皮膚からの発光は各種生体分子に由来する発光の集合であると考えられた。次に50名の日本人女性を対象に慢性的に紫外線に曝露されている顔面全体の極微弱光をイメージング法で評価し、皮膚がん発生率が高いことが報告されている鼻の皮膚では酸化ストレス度合が大きいこと、また皮膚のシワ形成やポルフィリンスコアと酸化ストレスに関連があることが示唆された。本研究を通して、これまで不明確であった皮膚からの発光機序や皮膚性状との関連が確認され、皮膚の酸化ストレス評価において極微弱光計測が有用であることが示された。酸化が関与する皮膚障害を未然に発見できる可能性があるため、極微弱光計測の生体皮膚診断への活用が期待される。

  • 八名 和夫
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 213
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    生体信号をいかに処理するか工学的立場から概観する。生体信号はまず連続過程または離散過程のいずれかに分類される。同一の現象でも見方の違いで分類が異なる場合もある。また、本来離散過程であっても観測条件によって連続過程として扱う必要が生ずる場合もある。いずれにしても信号の定常性を仮定すれば結合確率分布を知ることが信号の完全な知識を得ることと言えるが高々4次までのモーメント関数が実用上用いられている。実際に観測される生体信号は定常である場合はまれで非定常な場合が多いが、測定条件を一定に保ち、短時間記録を対象にした定常解析は有用である。非定常性を念頭においた分析にはRLS法など適応信号処理の手法が応用される。また、カルマンフィルタを用いた信号の成分分解なども非定常分析に有用である。観測信号から生体信号の発生システムを同定する問題は信号の発生源の性質を知る取り組みに重要であるが、システムを線形と仮定するか非線形性を考慮するかで分析法は異なる。本講演では筆者が経験した神経インパルス列、脳波、筋電図、心拍変動等の生体信号の処理法を工学的な方法論の立場から見直し、連続、離散、定常、非定常、線形、非線形処理法がどのような場面でどのように応用されるかについて概観したい。また、観測処理を単なる処理に終わらせることなく、そこから有益な情報を最大限引き出す信号解釈・理解に向けた道具立てについて展望したい。

  • 早野 順一郎
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 214
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    有史以来、心拍は人の興味を惹きつけ、「こころ」と「心臓」はGoogle翻訳で私が読める言語をみる限り同じ語が当てられている。心拍のゆらぎ―心拍変動の最初の記載は1847年のCarl Ludwigによる馬の呼吸性洞性不整脈の記録であるが、これはWillem EinthovenによるECGの発明(1895年)よりも約50年も前である。そして、1961年のNorman Jefferis Holterによる携帯型心電図の発明により心拍変動研究が本格的に始動し、心拍変動解析はウェアラブルデバイスによる生体信号解析の中で最も成功(普及)した事例となった。心拍変動研究の基本的な命題は、(1) 心拍変動は自律神経機能を反映するか、(2) 心拍変動は予後を予測するか、の二つである。PubMedで5万件を超える心拍変動の研究論文は、これらの命題を支持する膨大な事実を提示している一方で、今なお、その限界や成立条件についての問題提起も尽きない。議論の焦点には、心拍変動と自律神経機能との関連の生物学的必然性、自律神経によって媒介されない心拍変動の存在、ホルター心拍変動による自律神経機能評価の問題点、脈波デバイスによる脈拍変動の心拍変動に対する代用性、そして自律神経機能や予後指標を超えた新たな心拍変動の情報価値の探索などが挙げられる。これらの話題についての最近の研究を踏まえて、生体信号計測・解釈研究のこれからについて議論したい。

  • 横川 隆司
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 215
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    本講演では、マイクロ加工技術により対象とする臓器細胞と血管網の界面を模倣した組織モデルを構築し、Microphysiological Systems (MPS)として活用するアプローチについて紹介する。我々は、様々な臓器に必要とされる灌流可能な血管網をチップ内に作製し、基盤技術として提供することを目指している。マイクロ流体デバイス内に臓器細胞と血管網の界面を作製する方法としては、多孔質膜を含む細胞外基質を形成してその上下に臓器細胞と血管内皮細胞を共培養する二次元的方法、自発的なパターン形成によって血管網を作製して臓器細胞と共培養する三次元的な方法を検討してきた。前者としては、近位尿細管上皮細胞と血管内皮細胞との共培養系を構築した。再構築した近位尿細管構造を用いて,尿側から血管側へのアルブミンの再吸収を実証した。後者としては、HUVECの有する血管新生能や脈管形成能を用いてチップ内に血管網を作製し、その内部を灌流する技術を確立している。さらに、組織に見立てたスフェロイドの培養条件と血管新生の条件を最適化することで、スフェロイド内部に血管網を貫通させることに成功した。この技術を用いると、マイクロチャネルを介してスフェロイド内部にアクセスすることが可能となり、培地や薬剤を投与する系が構築できる。現在、これらの技術をオルガノイドにも適用しており、その進捗についても報告する。

  • 谷田 純
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 216
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    本講演では、新たな医療トランスデューサの設計に有望なフォトニック情報技術を紹介する。光はさまざまな物質や生体活動を計測するためのプローブとして機能する。任意の光波分布を形成し、スポット間干渉を利用したサブ回折アレイスポットの生成が可能である。細胞や組織の状態は蛍光分子を介して光信号として検出される。配列設計したDNAにより蛍光分子を自由に配置したり、状態に依存した論理的動作をさせたりできる。フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)により、数種類の蛍光分子でさまざまな応答特性を生成できる。光信号の取得には昆虫の複眼に着想を得た撮像システムTOMBOが活用できる。異なる特性の光学系の集積により、三次元形状計測、マルチスペクトルイメージングなどが実行される。さらに、圧縮センシング、機械学習などの演算処理により、多様な画像信号取得が実現される。

  • 末吉 健志
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 217
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    細胞や血液のような複雑な生体試料に対して解析・診断を行う場合,夾雑成分の多様性や濃度範囲の広さ,成分毎の物理化学的特性の差異から全成分の一斉解析は困難となる。したがって,一般的には何らかの前処理と特定成分の網羅的解析法(オミクス)や標的分子特異的解析法(イムノアッセイ)を組み合わせた解析法が多くの場合用いられている。しかしながら,前者では成分ごとに異なる原理・装置での解析が必要となる点が,後者では多成分解析に多大な手間・費用が生じる点が,それぞれ課題となっている。その解決のため、本研究では,標的分子特異的に結合する配列を有する核酸(アプタマー)を用いた,複雑な生体試料の総合的解析・評価法を新たに提案する。本法では,生体試料とランダム配列を有する核酸ライブラリを混合後,生体試料中成分と特異的に結合した核酸群のみを核酸ライブラリから分離し,その配列を解析する。得られた配列情報は生体試料の組成を反映したものとなり,複雑な成分情報が核酸配列情報に変換された状態で一斉取得されるものと期待される。その実現のため,本研究ではミクロスケール電気泳動フィルタリングに基づく簡便かつ高効率な核酸アプタマー選抜デバイスを開発している。モデル試料として各種タンパク質を用いたアプタマー選抜・配列解析を行い,その方法論の基礎的評価を行った結果について報告する。

  • 長倉 俊明
    2021 年Annual59 巻Abstract 号 p. 218
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/17
    ジャーナル フリー

    医療用トランスデューサは心電図電極などのようにPassiveなものから、超音波診断装置のように電力を使ってActiveなものがある。医療用には生体外で使用するもの、生体内で使用するものがあり、特に前者は様々な条件が追加され、さらに血管の中に入れるものには、血栓や免疫の影響を強く受けるので、その対策も必要である。さらに生体に装着や挿入するためにはサイズも大きな重要因子である。これまでに我々はこのような条件を解決しながら、生体内で使用する化学トランスデューサ開発を行ってきている。さらにトランスデューサ開発の中でも化学量を使ったものは物理量を使ったものに比べると既存のものが少ない。さらに生体中では電気を使うことにミクロショックなどの制限もかかるので、化学情報を電気を介さず直接機械的移動量と機械的仕事に変換するトランスデューサを開発し糖尿病へ応用した。我々は血糖値の上昇で血糖値を下げるインスリンを注入する仕組みを、血糖値上昇が浸透圧上昇を起こす原理を利用し、浸透圧の力でインスリンの注入の微小デバイスを提案した。このデバイスは血糖値低下でインスリンの注入は自動的に停止するので、制御系も付け足す必要はない。さらにこのデバイスは微小化するほど効率が良くなる特徴を持っているので、生体内で使用するための低侵襲化にもマッチしている。現在動物実験でも動作確認はできているので実用化に向けて研究を行っている。

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