日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
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シンポジウム
  • 佐野 安希子
    セッションID: 44_2-C-S20-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    1980年代以降、喘息治療は大きく進展し、吸入薬などのデバイスを含めた改良により、多くの患者で良好なコントロールが可能となった。しかし標準的治療を行ってもコントロールが困難な重症喘息が5-10%に存在し、これらの症例では生物学的製剤の治療を考慮する。

    喘息領域における生物学的製剤の歴史は2009年に認可されたオマリズマブに始まる。以降、フェノタイプによる層別化に基づいて生物学的製剤の開発が進み、現在、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ)、抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)、抗TSLP抗体(テゼペルマブ)の5種の生物学的製剤が使用可能である。

    生物学的製剤は、ある特定の分子をターゲットとした治療であることから、その効果を事前に予測するためのバイオマーカーに基づいて投与対象を絞り込む必要がある。抗TSLP抗体以前の薬剤は2型炎症をターゲットとしており、バイオマーカーとして末梢血好酸球数、FeNO、血清IgEなどが使用される。抗TSLP抗体も、血中好酸球数やFeNOが高値である方が増悪抑制効果が高い傾向にあるが、低値群でも増悪抑制が確認されており、2型と非2型どちらのタイプの重症喘息に対しても治療オプションとなる可能性がある。生物学的製剤は適応がオーバーラップすることがしばしばあるため、ベストと思われる薬剤の選択が難しいことがある。また、はじめに選択した薬剤の効果が不十分である場合、他剤へのスイッチが必要となるが、その目安となるガイドラインは存在していない。生物学的製剤は喘息以外の疾患で適応を有しているものもあり、オマリズマブは、特発性蕁麻疹と季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症)に、メポリズマブは好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、デュピルマブはアトピー性皮膚炎と慢性好酸球性副鼻腔炎に適応疾患を有する。このように併存病態も薬剤選択時の判断指標となる。

    現在5種の生物学的製剤が登場し、2型炎症に有効性が高い傾向はあるが、表現型によらずいずれかの薬剤を使用することができるようになった。Clinical Remissionという治療下での寛解を目指すことが重症喘息の現実的な治療目標としてあげられるようになった今、治療の開始時期や中止時期の判定など、より喘息の長期経過を見据えた生物学的製剤治療の位置付けを明らかにすることが今後の課題である。

  • 猿渡 淳二
    セッションID: 44_2-C-S21-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    ポリファーマシーの問題を考える上で、薬物相互作用の観点は不可欠である。特に、ポリファーマシーが問題となる疾患領域の神経・精神分野では、様々な薬物相互作用が報告されている。ほとんどの向精神薬は、CYP等の薬物代謝酵素やP糖蛋白の基質であり、一部は阻害薬又は誘導薬であるため、これらを介した薬物動態学的な相互作用が問題となる。例えば、バルプロ酸ナトリウム併用による血中ラモトリギン濃度の上昇と、それに伴う重篤な皮膚障害の発現のように、致死的な事象をきたす場合もあることから、その予測と回避が重要である。

     薬力学的相互作用として、神経・精神分野では選択的セロトニン再取り込み阻害薬と非ステロイド性抗炎症薬や抗血小板薬との併用による消化管出血等が有名である。我々は、高齢入院者では嚥下障害リスクが処方薬剤数の増加に伴って上昇することを証明したが(Takata et al. BMC Geriatr 2020)、多様な患者背景により必要な薬が患者毎に大きく異なるため、減薬すべき薬剤の特定には至っていなかった。そこで、膨大な情報処理が可能な機械学習を用いて、適切な減薬法を提案するための予測モデル構築を試みたところ、いくつかの薬剤の服用が、経管栄養からの未回復と強く関連することを見出した。このように神経・精神科薬の有害反応を回避する上で、薬力学的相互作用の予測も重要である。一方で、統合失調症患者では、単剤治療よりも多剤併用療法の方が心血管疾患等による入院リスクが少ないとの報告もあり(Taipale et al. Am J Psychiatry 2023)、治療を最適化する上でどのような薬剤の組み合わせを回避すべきなのかについては、今後の検討が待たれる。

     近年、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴って様々なCOVID-19治療薬が上市されてきた。COVID-19患者では抑うつや不安などの精神症状を併発するリスクが高く、向精神薬が処方されるケースがあるため、向精神薬とCOVID-19治療薬との薬物動態学的並びに薬力学的相互作用にも注意が必要である(Plasencia-Garcia et al. Psychopharmacology 2021; 同 Pharmacopsychiatry 2022)。

     本発表では、薬物相互作用に関する最新の知見も提示しながら、神経・精神科分野におけるポリファーマシー/不適切多剤併用の現状と解決法について議論する予定である。

  • 関口 愛
    セッションID: 44_2-C-S21-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    大分大学医学部臨床薬理学講座/附属病院臨床薬理センターでは、6年間の医学教育の中で、1年次に早期体験実習、2年次に臨床薬理学1(総論)、 4年次には臨床薬理学2(各論)、Evidence-based Medicine (EBM) 実習、医療面接実習、臨床実習前 Objective Structured Clinical Examination (以下OSCE)、5年次から6年次はクリニカル・クラークシップ(以下CC)及び6年次の臨床実習後OSCEに、他講座及び外部講師と連携しながら関わっている。このうちCCでは、令和2年度より医療面接を重視した問題解決型の教育プログラムを行い、医療面接実習では、複数の症例シナリオを使用している。ここに、令和5年度から、ポリファーマシーに関する症例シナリオを導入し、学生のポリファーマシーについての認識及び医療面接の教育効果の検証を行いながら、本医療面接実習の有用性を探索的に検討している。

     医学教育モデル・コア・カリキュラムは令和4年度11月に改訂され、医学・歯学・薬学教育の3領域で統一したキャッチフレーズとして、「未来の社会や地域を見据え、多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の養成」が採用された。今回の改訂では、超高齢社会での多疾患併存患者の増加などによる、医療の在り方の変化等を踏まえ、医療人として求められる基本的な資質・能力に、「総合的に患者・生活者をみる姿勢(Generalism: GE)」が新しく追加された。GEの学修目標には「ポリファーマシーとその介入方法の概要を理解している」ことが明記され、多剤併用の問題への取り組みは、卒前医学教育の段階から重要な位置付けになっている。

     今回は、そのような医学教育の動向を踏まえつつ、現在当講座/センターが関わっている医学教育を概観し、特にCCの概要とポリファーマシーの症例シナリオを活用した医療面接実習の取り組みを報告する。医学教育を通じてポリファーマシー/不適切多剤併用の問題を解決する可能性について、シンポジストの方々やフロアの方々と考えていきたい。

     本発表の一部はJSPS科研費JP22K13729の助成を受けたものである。

  • 古郡 規雄
    セッションID: 44_2-C-S21-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    本シンポジウムでは、ポリファーマシー(不適切多剤併用)の現状とその克服に焦点を当て、特に精神科薬物療法ガイドラインの教育がどのようにその課題に対処できるかについて発表します。精神疾患の治療において、薬物療法は重要な選択肢であり、正しく行われるべきであるが、多くの患者が複数の薬剤を同時に処方されることがあり、これがポリファーマシーの問題を引き起こす。精神科薬物療法ガイドラインは、医療提供者に対して最新の情報と最適な処方法を提供する重要なツールである。しかし、これらのガイドラインが適切に教育されていない場合、ポリファーマシーのリスクが高まる。したがって、我々は以下の点に焦点を当てる。ガイドラインを広く普及させ、医療提供者が容易にアクセスできるようにすることが重要です。オンラインプラットフォームや研修プログラムを通じて、ガイドラインにアクセスし、理解する手助けを行う。さらにガイドラインの更新情報や最新の治療法に関する教育とトレーニングを提供することが、医療提供者が最適な薬物療法を提供するための鍵である。継続的なプロフェッショナルディベロプメントを奨励していく。また、患者とのコミュニケーションがポリファーマシーのリスクを減少させるのに役立つ。そのため患者にガイドラインに基づいた情報を提供し、共有意思決定のプロセスを強化する事業を行っている。これらのことについて紹介していく予定である。

  • 高橋 結花
    セッションID: 44_2-C-S21-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    高齢化社会に伴い、精神科病棟でも生活習慣病などの複数の疾患を合併した患者が増え、治療薬や症状を緩和するための処方が増加し、ポリファーマシーが問題となっている。併用する薬剤が増えれば増えるほど、薬物相互作用により有害事象の出現頻度も増加する。疾患ごとに別の医療機関で治療を受けている場合、医師はすべての処方薬剤を把握することは難しく、重複処方にさえ気づかないこともあり、入院して重複処方や薬物相互作用が発見されるケースもある。

    精神科病棟での大きな問題は、抗精神病薬やベンゾジアゼピン(BZ)系薬のポリファーマシーである。BZ系薬剤は、抗不安、鎮静・催眠、筋弛緩といった作用をもち、すみやかな効果が期待でき、患者もその効果を実感しやすいため、あらゆる診療科で処方されており重複処方も散見され、多剤併用に陥りやすい。BZ系薬のポリファーマシーの問題としては、過鎮静や持越し作用による作業能率や集中力の低下、特に高齢者では筋弛緩作用によるふらつきや転倒リスクの増大、認知機能の低下や健忘の発生、依存性などの有害事象があるが、多剤併用となった場合には、さらにそのリスクは高まる。特に依存が形成されてしまうと、減量・中止をしにくい現状があり、診療報酬改定にて減算の対策がなされていても、なかなか改善されていない現状がある。

    東京女子医科大学病院神経精神科病棟では、毎週1回全職種が参加しているカンファレンスをおこなっている。2013年からそのカンファレンスにおいて薬剤師から抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬に関してクロルプロマジン換算値とベンゾジアゼピン換算値を伝え、減量についての提案・検討を行っている。特にベンゾジアゼピン系薬剤に関しては減量の効果が上がっており、全職種が参加しているカンファレンスでの減量提案は、精神科のポリファーマシーを解決するために一つの方策だと考えられる。

    また、患者本人の誤った認識により減量が進まないケースもある。薬剤師から、パンフレットなど活用し患者自身にBZ系薬剤服用のメリットとデメリットを説明し、減量・中止を決心させることから始め、薬剤を減らす指導だけではなく、認知行動療法や心理的サポートと併用することで効果があるとされているため、全職種と連携してすすめている。

  • 山本 仁, 太組 一朗, 石丸 貴子
    セッションID: 44_2-C-S22-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    大麻草由来の高純度カンナビジオール(CBD)は、小児期発症の薬剤抵抗性てんかんの治療薬として、日本への導入も検討されている。これまでの基礎研究により、CBDの抗けいれん作用がGPR55、TRPV1、ENT-1などの標的分子に対する作用を介してもたらされることが知られている。一方で、CBDでは多幸感を惹起するカンナビノイド受容体1(CB1)およびそのアイソフォームCB2に対する作用は認められていない。動物実験のデータからはCBDがヒトでテトラヒドロカンナビノール(THC)様の多幸感惹起作用をもたらす可能性は低いことが示唆されている。CBDは、少なくとも113あるカンナビノイド(大麻草に含まれる化学物質の総称)のひとつであり、THC、CBN、CBDはカンナビノイドの三大主成分として知られている。大麻には抗てんかん作用や鎮静作用があることが古くから知られていた。多くの試験からCBDは良好な安全性の特徴、忍容性があり、THCのような典型的な効果(麻薬・精神作用)はなく、乱用、依存、身体依存、耐性の可能性は低い。ただし、詳細な抗てんかん作用メカニズムは不明である。他国での承認状況としては、アメリカで1歳以上のレノックス・ガストー症候群(LGS)、ドラべ症候群(DS)、結節性硬化症(TSC)に伴うてんかん発作の治療薬として、「エピディオレックス(CBD)」内用液が承認されている。欧州では2歳以上のLGS又はDSに伴うてんかん発作のクロバザム(抗てんかん薬)との併用補助療法並びにTSCに伴うてんかん発作の併用補助療法として承認されている。オーストラリアでは2歳以上のLGS又はDSに伴うてんかん発作の補助療法として承認されている。今回のわが国での治験は、日本人小児および成人患者を対象にLGS、DSまたはTSCと関連する難治な発作に対する併用療法として、CBD経口液剤の安全性および有効性を検討する非盲検試験として行われる。本治験は大麻取締法の規制下で実施されている。厚生労働省は、CBD経口液剤は、麻薬及び向精神薬管理法の第3章 (第34条) に準拠して施錠された施設に保管する必要があると規定している。治験で得られたデータを基に、CBD経口液剤が1日でも早く国民に届けられることを願っている。

  • 秋田 定伯
    セッションID: 44_2-C-S22-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    厚生労働科学研究費 難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形(リンパ管腫)・リンパ管腫症及び関連疾患についての調査研究では、おもに形成外科疾患であるリンパ管腫症/ゴーハム病(277), 巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)(278), 巨大静脈奇形(頚部口腔咽頭びまん性病変)(279), 巨大動静脈奇形(頚部顔面又は四肢病変)(280)を研究対象とするが、循環器疾患であるクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群(281)についても循環器系研究班と連携し、その他「混合型血管奇形」も対象とする。小児科、放射線科、皮膚科、小児外科及び疫学・統計解析、生命・研究倫理の専門家で構成したオールジャパン体制で、水準向上、QOL向上を目指している。今回全国疫学調査 2199例の定点解析から、四肢体幹の筋骨腱に達する静脈奇形の疼痛発生率は79%、四肢体幹/皮膚皮下までの病変では43%、頭頸部/筋骨腱では28%、頭頸部/皮膚皮下では11%であり、それぞれで有意差を認めた(p < 0.01)。病変大きさ別の発生率は直径10cm以上で67%、 5cm以上10cm未満で56%、5cm未満で29%であり、有意差を認めた(p < 0.01)。四肢体幹の病変では年齢増加に伴い疼痛合併例が増加し、7歳を超えると発生率が50%を超えた。 以上により、静脈奇形の疼痛に関与する因子は「部位」「深さ」「大きさ」「年齢」の順であり、それぞれ「四肢体幹の病変」「筋骨に達する病変」「5cm以上の病変」「7歳以上の患者」で疼痛を合併しやすいことがわかった。静脈奇形の疼痛に関与する因子は、「部位」「深さ」「大きさ」「年齢」の順であり、「四肢体幹の病変」「筋骨に達する病変」「5cm以上の病変」「7歳以上の患者」で疼痛を合併しやすいことがわかった。各施設で症例を検討した際に、上記の疼痛発生率を超えるようであれば治療計画再考を要し、逆に大幅に下回るのであれば、有効な治療が実践されていると推察される。 静脈奇形の疼痛発生機序について詳細は不明であり、local intravascular coagulopathy, LIC, の関与が高いとされている。今後は血液データの蓄積が望まれ、これにより疼痛発生予防につながりうることが示唆された。また、その他の原因の場合カンナビノイド由来製剤を用いた疼痛緩和では疼痛患者(小学校入学前後)における難治性静脈奇形への適応について詳細な検討後、適応可能性が高いと思われた

  • 赤星 栄志
    セッションID: 44_2-C-S22-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    厚生労働省による2021年大麻等の薬物対策のあり方検討会(全8回)、2022年大麻規制検討小委員会(全4回)を経て、2023年1月12日の厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)にて法改正の4つの方向性が示された。(1)医療ニーズへの対応には、大麻由来医薬品の製造と使用の解禁。(2)薬物乱用への対応には、大麻使用罪の創設。(3)大麻の適切な利用の推進には、CBD製品のTHC残留基準値の設定、(4)適切な栽培および管理の徹底には、植物の部位規制からTHC成分規制への変更に伴う管理体制の整備。これらを踏まえて、2023~24年度に改正大麻取締法/麻薬取締法が国会審議を経て制定され、2025年度以降の施行が予定されている。(3)と(4)の実務において、我が国のカンナビノイド製品の試験体制の整備が必須となっている。法改正後の試験分野は、(a)栽培基準:植物体(鑑定、サンプリング、効力、品種識別、種苗、育種)、(b)製品基準:カンナビノイド製品(CBD製品を含む)の品質、(c)尿検基準:体内の残留カンナビノイド(尿、血液、唾液、毛髪等)、(d)動物実験/ヒト臨床:内因性カンナビノイド(アナンダミド,2-AG)の検査・大麻使用障害リスクの高い遺伝情報診断に分類される。本発表は、(b)に焦点を絞って、試験機関の設置を巡る様々な課題を整理し、今後の方向性を提示する。

  • 野崎 千尋
    セッションID: 44_2-C-S22-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    諸外国における大麻の条件付き解禁の流れを受けて、大麻の生理活性物質であるカンナビノイドおよび内因性カンナビノイド系が注目されている。中でもカンナビジオール(CBD)は向精神作用を持たず、かつ乳幼児のてんかん発作のような既知の薬物だけでは対応しきれない症例にも奏効したことから、同様に既知の医薬品では治療できない他の疾患や不定愁訴に対し効果があるのではないか、という点において大きな注目を浴びている。医薬品として(他国において)承認されているCBD製剤としてはエピディオレックスがあるが、それ以外にも「大麻由来の植物成分」という触れ込みのキャッチーさから、セルフケアを目的とした様々な製品が生産・販売されており、2023年度の世界市場はゆうに1兆円を超える巨大市場と化している。しかし市場が指数関数的に巨大化していく一方で、臨床研究および基礎研究は未だ十分であるとはいえず、十分なエビデンスがあるといえるのは先述したエピディオレックスの適応症となっている難治性てんかんおよび結節性硬化症くらいである。このため今も世界中で様々な臨床および基礎研究が盛んに進められており、その中で新たな適応症候補も数多く上がっている一方、思わぬ副作用も様々に報告されて来ている。本項ではそういった「基礎研究から新たに浮かび上がってきた様々な適応症候補および思わぬ副作用」を紹介すると同時に、「CBDという成分」を基礎研究や臨床応用に使う際に考慮すべき点も併せて論じたい。

  • 小比賀 聡
    セッションID: 44_2-C-S23-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    近年、低分子医薬品や抗体医薬品に続く新たな創薬モダリティとして核酸医薬品に大きな期待が寄せられている。従来の医薬品の多くは、疾病に関わる標的タンパク質に結合し、その機能を阻害することで薬効を発揮するが、アンチセンス核酸やsiRNAといった核酸医薬品は、疾患に関連する遺伝子のpre-mRNAやmRNAなどを標的としており、その機能を制御することで薬効を示す。このように核酸医薬品は、従来の医薬品とは作用機序が大きく異なることから、これまで治療法の開発が進んでいない難治性疾患に対する新たな治療につながる可能性を秘めている。また、疾患の原因遺伝子が特定されれば、比較的早期に医薬品開発につながるという点も核酸医薬品の大きな特徴である。しかしながら、高い薬効を示す核酸医薬品の開発には、綿密な配列設計に加えて、適切な化学修飾や人工核酸の利用などが必要不可欠である。また新たな創薬モダリティであるがゆえに、その臨床応用に向けては、安全性の確保も極めて重要となる。

    我々は、アンチセンス核酸の有効性を向上させるためには、標的RNAに対する結合力の向上が不可欠であると考え、ヌクレオシドの2'位と4'位間を共有結合で架橋した「架橋型人工核酸(2',4'-BNA/LNA)」を設計し、世界に先駆けその合成に成功した。この架橋型人工核酸をアンチセンス核酸に導入することで、標的となるRNAとの結合親和性は飛躍的に高まり、アンチセンス核酸の効果は顕著に向上した。一方、2',4'-BNA/LNAなどの初期の架橋型人工核酸のみでは、医薬品として必要な生体内安定性が十分に得られないことから、2',4'-BNA/LNAは核酸のリン酸部分の修飾の一種であるホスホロチオアート(PS)結合と組み合わせて用いられる。PS結合との併用によりアンチセンス核酸の有効性は向上するものの、PS結合がタンパク質と非特異的な相互作用をすることに起因してか、一部の配列では毒性を示すことも報告されている。そこで我々は、架橋型人工核酸の特徴である標的RNAとの高い結合親和性は維持しつつ、PS結合を必要としない、すなわち毒性低減につながる新たな人工核酸の開発に取り組んでおり、これらの技術を利用した難治性疾患治療のためのアンチセンス核酸の設計・合成・評価を実施している。

    本発表では、核酸医薬研究の最新動向を化学的側面から概説するとともに、最近の我々の人工核酸開発に関する取り組みを紹介したい。

  • 程 久美子
    セッションID: 44_2-C-S23-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    核酸を用いた医薬品開発の進歩はめざましく、小分子干渉RNA(small interfering RNA , siRNA)の臨床的応用も過去5年程度で急速に進展した。siRNAは、1998年に線虫で発見されたRNA干渉(RNAi)と呼ばれる、もともと生体に備わった分子機構を利用することで目的遺伝子の発現を抑制する。siRNAはたった21塩基の2本鎖RNAで、塩基配列の相補性というシンプルな機構によって標的mRNAを識別するため、精力的に臨床応用へ向けた研究開発が進められた。RNAi発見からちょうど20年目にあたる2018年には米国アルナイラム社が世界初のsiRNA医薬品の開発に成功し、現在までに4遺伝子に対する5種類の第一世代のsiRNAが認可されている。標的とする4つの遺伝子はすべて肝臓で発現する遺伝子であり、3つの遺伝子についてはノックアウトマウスが作製されているが、いずれも目立った異常は見られず致死性もない。したがって、これらの標的遺伝子を完全に抑制しても、生体機能の維持に問題はないと考えられる。しかし、がんや神経変性疾患などの遺伝性疾患の原因となる遺伝子では、1塩基変異や挿入・欠失などによる遺伝子機能異常が直接疾患の原因となる場合が少なくない。一方で、このような遺伝子のノックアウトマウスでは致死的な影響がみられる場合が多いことから、これらの野生型遺伝子は生体機能を正常に保つために必須と考えられる。そこで、我々は野生型遺伝子の発現には影響を与えることなく、変異をもつ遺伝子のみを特異的に抑制可能な第二世代のsiRNAとして1塩基多型識別可能なsiRNA(single nucleotide polymorphism-distinguishable (SNPD) -siRNA)を開発した。本講演では、がん原遺伝子であるKRASを初めとする遺伝子に対するSNPD-siRNAの有効性とその分子基盤について報告する。

  • 高垣 和史
    セッションID: 44_2-C-S23-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    ビルトラルセン(商品名:ビルテプソ)は、日本新薬と国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の共同研究により創製された、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬である。DMDは、小児期に発症し、進行性の筋力低下と筋萎縮を呈する最も頻度の高い致死性の遺伝性筋疾患であり、その病因は、ジストロフィン遺伝子のmRNAにコードされたアミノ酸の読み取り枠にズレが生じ、筋肉の基底膜と筋細胞の細胞骨格を固定し、天井と柱を支える梁のような役割を果たすジストロフィン蛋白が発現できないことである。

    ビルトラルセンは、モルフォリノ核酸(PMO)を用いたアンチセンス核酸であり、エクソン53を対象とした「エクソン・スキップ」を作用機序として、DMDの病因遺伝子であるジストロフィン遺伝子のpre-mRNAに作用し、オープンリーディングフレームの回復により野生型に比べて少し短くなるが機能が期待出来るジストロフィン蛋白質の発現を促す核酸医薬品である。ビルトラルセンのFirst in Human試験は、2013年にNCNPによる医師主導治験として実施された。その後、企業治験(P1/2試験(日本)およびP2試験(北米))を実施して、2020年に、日本で条件付き早期承認、さらに米国で迅速承認を得て販売を開始した。

    核酸医薬品は、ハイブリダイゼーションを利用して、配列情報を認識し標的配列特異的に結合する。標的分子の形を認識して作用する低分子や抗体とは作用の様式が異なり、従来の医薬品ではアプローチ出来ない遺伝子に直接作用できるのが特徴である。核酸医薬品は、低分子医薬品と同様に化学合成できること、配列情報を持つ高分子であることなどの特徴を持つ他、以下の様に医薬品開発に適した特長を持つ。

    I 遺伝子情報に基づいて設計を行うため、迅速な医薬品設計が可能である。

    II 核酸の基本構造が決まれば、化学的性質もほぼ決まるため動態や安全性が想定し易い。

    こうした特性を活かした医薬品開発を軌道に乗せることが出来れば、開発コストを抑え、短期間で効率の良い創薬が可能になると考えている。このように、次世代の分子標的薬として期待されている核酸医薬品であるが、医薬品として開発プロセスは、未だ確立されたものではない。今回は、ビルトラルセンの開発を例として、我々の経験を紹介したい。

  • 井上 貴雄
    セッションID: 44_2-C-S23-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
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    近年、難治性疾患や遺伝性疾患に対する新しいモダリティとして核酸医薬が注目を集めている。核酸医薬はタンパク質を標的とする従来の医薬品とは異なり、RNAのレベルで生体を制御できる点が大きな特色であり、この数年で急速に実用化が進んでいる。核酸医薬に由来する毒性は、RNAとの相補結合に起因する毒性とタンパク質等との結合に起因する毒性に概念的に分類することができる。このうち、RNAとの結合による毒性は、いわゆるオフターゲット効果に起因する毒性であるが、オフターゲット効果は原理的に動物では再現できないため、動物を用いた通常の非臨床試験では毒性評価が困難である。このことから、ヒトRNAデータベースの検索ならびにヒト細胞を用いたマイクロアレイ解析などにより、オフターゲット遺伝子を特定し、その遺伝子機能から毒性発現が予測される。一方、タンパク質との結合に起因する毒性は、従来の低分子医薬の毒性発現機構と概念的に同じであることから、動物を用いた一般的な非臨床試験で安全性を評価できるとされている。しかし、例えば、Toll-like receptor(TLR)を介した自然免疫の活性化については、TLRの配列特異性等の観点から種差が大きく、動物を用いた非臨床試験のみでは十分な評価が難しいと考えられる。

    以上のような核酸医薬に特有の性質を踏まえ、我々はこれまで核酸医薬の「毒性を予測する手法」ならびに「毒性を低減する手法」について検討を行ってきた。本シンポジウムでは核酸医薬の規制整備の経緯等の話題も交えながら、より安全性に配慮した核酸医薬開発の在り方を議論したい。

  • 貝原 徳紀
    セッションID: 44_2-C-S24-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    ファーマコメトリクスの重要性については製薬企業やアカデミア更には規制当局も巻き込んで既に活発な議論がなされ、多くの研究や関連ガイドラインが充足し、いよいよその利活用の拡大フェーズにあると言える。新薬の臨床開発へは既に様々な実用化がなされているが、本シンポジウムでは「ファーマコメトリクスのさらなる展開」として、臨床現場での活用並びに臨床現場から開発企業へのフィードバックツールとしての利活用について継続的に議論してきた。今回は、近年本邦にてほぼ同時期に複数の新薬が承認された片頭痛予防薬(CGRP阻害薬)を対象に、Model Based Meta Analysis(MBMA)による新薬間の薬効評価を行った研究を取り上げる。MBMAでは、公表論文などのデータを用いることで薬剤間の相対比較を定量的に行うことが可能となり、薬剤選択に有用な情報を提供するものと期待される。一方、同効類薬の処方選択は、相対的な薬効差だけからなされるものではない。処方判断を行う臨床現場医師のコメントを頂きながら、ファーマコメトリクス解析を通した同効新薬間の適切な選択に資する情報提供のあり方について、議論を深めたい。

    医療側の現場"ニーズ"の発信をどう受け、開発企業側がその"ニーズ"にどう応えていくべきなのかという産学協働を図る「JSCPTサロン」の第二回目として、このパートでは昨年実施の第一回サロン、即ち小児PAH治療のためのPDE5阻害剤の小児用量設定における議論を振返ると共に、今回の議論の前に鍵となる論点整理を行う。

  • 竹島 多賀夫
    セッションID: 44_2-C-S24-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    片頭痛は日常生活に支障をきたす頻度の高い脳神経疾患である。片頭痛の診断には国際頭痛分類の診断基準が用いられる。頭痛は片側性、拍動性で、生活の支障をきたし、日常動作による増悪することが特徴であり、随伴症状として悪心、嘔吐、光過敏、音過敏などを伴う。日常生活の支障が大きく、QOL阻害や労働生産性の低下が解決すべき課題と指摘されている。片頭痛の治療は頭痛発作時の急性期治療と、片頭痛発作の発現を抑制する予防療法を組み合わせて実施する。急性期治療薬は消炎鎮痛薬やトリプタンなどが使用される。予防薬は、これまで、Ca拮抗薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、β遮断薬などが使用されてきたが、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とした新規治療薬が開発されわが国でも2021年より使用可能となった。現在わが国では抗CGRP抗体薬であるガルカネズマブ、フレマネズマブ、抗CGRP受容体抗体薬であるエレヌマブが使用可能である。CGRP関連抗体薬の導入により片頭痛治療が劇的に変化しており、まさにパラダイム・シフトをもたらしている。有効性、安全性、即効性は従来の予防薬をはるかに凌駕している。本講演では、CGRP関連抗体薬のリアルワールドエビデンス、特に自験例、当院からの市販後データの解析結果を中心に紹介し、今後の課題についても論じる。

  • 家入 一郎
    セッションID: 44_2-C-S24-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    臨床現場におけるファーマコメトリクス(PMx)活用の代表には、TDMのための母集団薬物動態(PPK)/薬効動態解析(PPD)が挙げられる。TDMの対象となる医薬品は年々増加する傾向にあるので、Bayesへの展開も含め、適切なTDMを実施するためには、PMxで得られる情報は不可欠となる。このようないわゆる古典的なPMxに加え、ここ数年の間にPMxの発展系(?)とも言える以下の2つの工夫が加えられたと感じている; (1)電子カルテ情報を活用した薬効評価、(2)MBMAである。(1)の例を挙げると、院内で採用する3種類のスタチンによる経時的LDL-C低下作用をモデル化した。378患者から得た2863測定点をカルテより抽出し、physiological indirect response model を構築した。その結果、それぞれの薬剤での低下作用を良好に反映した解析が可能であった。ロスバスチタンとエゼチニブの併用で最も良好な臨床効果が得られた。また、個々の患者のLDL-C低下のBayes予想曲線も得ることができ、患者への薬物療法参画へのモチベーション作りにも有用と言える。2病院(市民病院と国立大学病院クラス)のカルテ情報を活用し、尿酸降下作用を有するフェブキソスタットの薬効評価を同様な方法で行い、施設間での比較を試みた。共変量や尿酸値のベースラインに施設間差が見られた。このような評価は、電子カルテ情報があれば、容易に実施可能となる。(2)では、アトピー性皮膚炎治療薬、原発開放隅角緑内障の第二選択薬、神経障害性疼痛治療薬、切除不能膵癌に対する化学療法の有効性比較についての検討を加えてきた。(1)(2)ともユーザーの希望するかたちでの医薬品評価が可能であり、PMx特有な部分としては、横軸が時間単位の表現、共変量の評価、シミュレーションが可能な点が挙げられる。構築モデルの妥当性、データの信頼性(特に(2))が問題になろうが、どの程度の信頼性を期待するかで、活用の方法が異なると言える。ただ、得られた結果の評価や検証については、議論が残る。

  • 藤田 唯人, 中村 昂洋, 松永 直哉, 末次 王卓, 廣田 豪, 家入 一郎
    セッションID: 44_2-C-S24-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    Model-based meta-analysis(MBMA)は,公表文献などから得られる要約データを対象とし,母集団解析法の理論を適応することで数理モデルを構築する手法である.公開されている臨床試験結果は多くの場合,平均値や中央値といった要約データで報告されており,患者個別のデータを得ることはできない.MBMAは,要約データを解析対象としていることから,患者個別のデータが得られていない場合においても適応可能である.さらに,従来のメタアナリシスと異なり,薬剤の治療効果の経時推移や用量反応関係,影響因子の組み込みが可能などの利点がある.また,ネットワークメタアナリシスと同様に,直接比較試験が行われていない薬剤同士の間接的な比較も可能である.MBMAを活用した一例として,我々が実施した片頭痛発作予防効果に対するカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体製剤のMBMAについて紹介する.

    片頭痛は,中等度から重度の頭痛が繰り返し起こる慢性の神経疾患であり,患者の日常生活や社会生活に深刻な影響を与える.急性期治療薬のみで治療が不十分の場合には,発作の発症そのものを抑制する予防療法の検討が推奨される.これまでの研究より,CGRPが片頭痛発作において重要な役割を果たすことが明らかになっており,片頭痛における治療標的として注目を集めている.予防薬としては,2018年erenumabがCGRP関連抗体として初めてFDAで承認されたことを皮切りに,現在までに4つのCGRP関連抗体が承認されている.しかし,CGRP関連抗体は近年承認された薬剤であり,これら薬剤の効果を直接比較した無作為化比較試験は未だ報告されておらず,同薬剤間の優劣や使い分け,特性の違いに関しての情報は不足している.そこで我々は,MBMAの手法を用いて,CGRP関連抗体の治療効果および薬効に影響する変動要因を定量的に評価した.複数のデータベースを用いて文献探索を行い,有効性の指標である月間片頭痛日数(MMD)を報告している無作為化比較試験を対象にデータを抽出した.得られたデータより,CGRP関連抗体投与後のMMDの推移を表現するモデルを構築した.また,薬効に影響する因子としてbaseline時の片頭痛日数が検出されたため,共変量としてモデルへの組み込みを行った.

    本演題では,我々が実施したMBMAの研究内容も紹介しながら, MBMAの可能性と注意点について述べたい.

  • 中森 雅之
    セッションID: 44_2-C-S25-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    筋強直性ジストロフィー(MyD)は成人で最も頻度の高い筋疾患のひとつであり、本邦では数万人の患者が存在する。筋強直症状や進行性の筋萎縮のほか、心伝導障害や内分泌機能障害、中枢神経症状など、多様な全身症状を呈する。MyDは進行性の難病で、いまだ根本的治療薬がないばかりか、これまで本邦では治験が行われたこともなかった。

    筋強直性ジストロフィーでは、変異遺伝子から産生された異常RNAが、さまざまな全身症状の原因となっている。われわれは、ドラッグリポジショニングスクリーニングにより、エリスロマイシンにMyDでの異常RNAの毒性を低減させる効果を見出し、モデル動物での治療効果を実証した。エリスロマイシンは約60年にわたり使用されてきた抗生物質で、COPDでは長期低用量内服療法も行われてきた。モデル動物では、COPD投与量と等価用量で治療効果が得られている。この結果をもとにわれわれは、MyD患者でのエリスロマイシン(MYD-0124)の安全性と有効性を検証するため、多施設共同プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験として、2019年から第2相医師主導治験を行った。この治験では、MyD患者レジストリ「Remudy」よりリクルートした患者30例を、プラセボ投与群、MYD-0124低用量投与群、MYD-0124高用量投与群に割り付けし、24週間の内服投与を行った。安全性の評価とともに、有効性について四肢筋力や筋強直症状、6分間歩行試験、針生検で採取した骨格筋でのスプライシング異常の改善などを評価した。治験の結果を元に、現在検証的試験の準備を進めている。

  • 永井 義隆
    セッションID: 44_2-C-S25-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン(PolyQ)病などの多くの神経変性疾患において、タンパク質のミスフォールディング・凝集が神経変性を引き起こすという共通の発症分子メカニズムが考えられている。このうちPolyQ病は、様々な原因遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長(>40回)という共通の遺伝子変異を原因とするハンチントン病、様々な脊髄小脳失調症など9疾患の総称である。PolyQ病では、変異遺伝子から翻訳されるPolyQ鎖の異常伸長を持つ変異タンパク質がミスフォールディングを生じて凝集体を形成し、その結果神経細胞内に封入体として蓄積し、最終的に神経変性を引き起こすと考えられている。

     私たちは、異常伸長PolyQタンパク質のミスフォールディング・凝集を治療標的として、低分子化合物ライブラリー(46,000化合物)からのハイスループットスクリーニングを行い、約100個の新規PolyQ凝集阻害化合物を同定した。そのうち、人体への安全性、高い脳内移行性が示されている既存認可薬であり、タンパク質構造を安定化する化学シャペロン作用が知られているアルギニンに着目して研究を進めた。そして、試験管内実験にてアルギニンが異常伸長PolyQタンパク質のβシート構造への異常コンフォメーション転移を阻害して、凝集を阻害することを見出した。次に、PolyQ病モデル培養細胞にアルギニンを添加したところ、細胞内でのPolyQタンパク質のオリゴマー形成が抑制されることを確認した。次に、PolyQ病モデルショウジョウバエを用いてアルギニンのin vivoでの有効性を検証したところ、アルギニンの投与によりPolyQタンパク質の封入体形成、複眼変性が抑制されることを明らかにした。続いて、2種類のPolyQ病モデルマウスにアルギニンを経口投与したところ、PolyQタンパク質封入体および神経変性、運動障害が抑制されることを明らかにした。さらに、発症後からのアルギニン投与でも運動障害の抑制効果を確認した。以上の結果から、既存認可薬アルギニンのPolyQ病に対する疾患修飾治療効果が明らかになり、新潟大学脳神経内科・小野寺理教授らと共にPolyQ 病患者に対するアルギニンの医師主導治験を実施した。本治験の結果は、近日中に公表される見込みである。

  • 望月 秀樹
    セッションID: 44_2-C-S25-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の治療薬で広く使用されている。一方で、パーキンソン病(PD)モデル動物で神経保護効果やグリアの病的活性化抑制を示す基礎研究が多数報告されている。GLP-1受容体作動薬は空腹時には働かず、食事をとって血糖値が高くなったときに働くので低血糖を起こしにくい。そのため、PDの進行抑制を目指したGLP-1受容体作動薬治験がすでに海外で開始されている。エキセナチドがPDの進行抑制第2相試験で有意なMDS-UPDRS part IIIの改善を示し,第3相が実施中である。我々もPDに対する経口セマグルチド錠の第2相医師主導治験を2023年秋に開始予定である。準備段階から、現在に至るまでの経過について紹介する。

  • 八木 良樹
    セッションID: 44_2-C-S25-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    弊社ノーベルファーマのミッションは「必要なのに顧みられない医薬品・医療機器の提供を通して社会に貢献する。」である。このミッションの背景には、医療現場では高いニーズが存在するにも係わらず、市場が限定され十分な収益を上げることが困難であること、知財戦略が不十分で排他性を保てる期間が限定的であること、希少疾病等で病態に関する情報が限定され治験実施計画の策定が困難であること等の課題のために多くの製薬企業が手掛けず実用化が進まないシーズの存在がある。弊社は2003年の創業以来15品目の新薬の製造販売取得をしてきているが、その多くが他の適応や用途に使用されていた化合物の利用、すなわちドラッグリポジショニングを活用した実用化である。ドラッグリポジショニングを活用することで、開発期間の短縮や費用の削減、既存データの活用や特定臨床研究の利用が可能となる等複数の利点がある。一方、課題としては、知財の確保、限定的な再審査期間が、既存データの入手方法、既承認品の用法・用量と実用化シーズの相違、薬価に関すること等が存在する。これらの点について先生方と共通認識を持ち、国内でドラッグリポジショニングを活用した実用化をアカデミアと企業でどう進めるか、また、解決困難な課題を今後どのように協力し解決するかについて議論をしたい。

  • 高木 佳子
    セッションID: 44_2-C-S26-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    信州大学医学部附属病院臨床研究支援センターは平成26年4月に改組され、プロジェクトマネジメント、データマネジメント、モニタリング業務等を行う臨床研究支援部門が設立され、医療資格を持たない職員(以下「非医療職」)が数多く臨床研究支援部門に採用されるようになった。非医療職登用の利点と課題について議論する。

    (1)非医療職が臨床研究の実施に大きく貢献できる点(利点)

    1) 臨床研究では、患者と接する以外に、全体計画、外部組織との折衝、スケジュールの立案及び管理、研究費管理、関係者間の調整等の様々な業務が必要であるが、一般的に医療職においてそれらの専門教育を受けたり、業務経験を積んだりしているケースは少ない。

    2) 臨床研究は、研究者のクリニカル・クエスチョンにより様々な形態をとり、また特に近年はePRO、PPI、DCT、CDISC、RPA等といった多様な手法の重要性が増している。これらを適切に臨床研究に取り入れるためには、専門知識を学んだスタッフが個々の研究を計画・運用していくことが重要となる。

    3) 臨床研究に不慣れな研究者の場合、(ア)研究計画時、しばしば自分の"思い"に沿って独走する、(イ)本来研究者が実施すべき業務を支援者に丸投げする、(ウ)診療優先でプロトコルに記載された必要な実施項目を軽視する、等の行動がみられる。このような研究者の状況を汲み取りながら面倒見よく細部まで研究をフォローし、エラーを巧みに防止するマネジメントにおいても非医療職の実践力が生きる。

    (2)非医療職の登用における課題

    医療職に比べ非医療職の待遇が極めて悪い現状がある。一般的な病院と同様に当院でも医療職と非医療職の基本給に大きな差があり、また非医療職の常勤化は極めて厳しい状況になっている。

    医療職が医療現場で得たスキルや感覚は重要であるが、多様な臨床研究を適切に実施することは、他の分野で優れたスキルを培ってきた非医療職と協働することで可能になる。現在当部門のスタッフは、それぞれ高いモチベーションと処理能力を有し、向上心をもって地道に活動を続けており、現在では医療職も非医療職も互いにその能力を認め合っており、理想的な職場環境ができている。かけがえのない仲間が少しでも適切な待遇を得て一緒に研究支援を続けていけるためにはどうしたらよいか、また非医療職の私たちが臨床研究支援職を長く続けていきたい場合、一体どういう道があるのかを考えてみたい。

  • 花岡 英紀
    セッションID: 44_2-C-S26-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    千葉大学医学部附属病院臨床試験部ではAROの設置を目指して平成19年よりARO推進室を設置した。その後、AROとしての基本的な機能を維持するための室を設置するともにこれを遂行するための人材の育成を行ってきた。そこで、人材育成とその課題について示す。

    1 雇用について

    AROを支える人材として、医師、看護師、薬剤師、検査技師などの医療職が必要である。しかし一方で、臨床研究専門職として医療職でないいわゆる研究について理解ができる人材の雇用が必要である。臨床試験を実施するためには科学的な議論がされることは言うまでもないが、これを理解することによって臨床試験の実施が可能になる。このため、将来の組織の中枢を担うことを目的に理系修士大学院以上の新卒者を積極的に雇用している。

    2 育成プランについて

    新卒雇用者については、1ヶ月の座学の教育とともに1年間のOJT機関として臨床試験部内に室のローテーションを3か月ごとに行う。OJTでは室ごとのテキストを用いて教育を行う。メンターの配置や、3か月ごとの成果発表会、テストの実施など忙しい研修期間となっている。

    3 キャイアパス

    2年目以降、それぞれ室へ配属となり、専門的な研修を様々な医師主導治験を室の先輩とともに担当しながら行う。担当する医師主導治験のプロジェクト会議に参加し、それぞれその役割を担っていくこととなる。さらにCG project(次世代育成プロジェクト)として横断的なチームを部内に設置し、それぞれCG projectごとにテーマを持ちながら活動を行っている。現在3チームが設置され活動を行なっている。

    千葉大学では、千葉大学就業規則に臨床研究専門職及び主任臨床研究専門職が2022年4月に正式に位置付けられた。2015年より要望を続けてきたが、スタッフの活動が認められ、新たな職位が認められ、薬剤師とともに部内の室長や副部長への昇格が将来可能となった。

    このような育成とキャリアパスを示すことはスタッフの活躍の可能性を大きく広げると考えている。しかしながら、まだ、新卒者雇用は10年を過ぎたところであり、主任への昇任など具体的なキャリアパスとして誰も踏み入れたことのない部分であり、リーダ教育なこれを切り開いていくことが必要である。「ともに創ろう、ともに歩もう」というスローガンのもと、組織を成熟させ育成が進んでいくものと考えている。

  • 山口 拓洋
    セッションID: 44_2-C-S26-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    臨床研究・臨床試験(以下、臨床試験)にかかわって既に30年近くが経ち、この10年は特に臨床試験に関わる専門家(以下、臨床試験専門職種、講演タイトルと微妙に名称が違っているのはご容赦されたい)の教育・育成に関わってきた。臨床データマネジャー、モニタリング担当者など、状況はそれなりに改善されていると信じたいが、未だに上から目線の医療職が多く、腹立たしい。臨床試験はチームプレーであり、医療職・非医療職、職種の違い等は関係なく、様々な専門職種が互いを尊敬しながら役割を全うして始めて成り立つものである。今後の我々の進むべき道は?

  • 清水 瞳, 小西 明英, 真田 昌爾
    セッションID: 44_2-C-S26-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    医療職/非医療職を意識するようになったのは、自身がアカデミア研究支援機関(ARO)に就業してからのことであった。それまで製薬会社や開発業務受託機関(CRO)で勤務してきたが、医療職/非医療職を意識して業務を行ったことはあまりなく、医療職でも非医療職でも(資格手当等の措置はあったように思われるが)誰しも得意分野、不得意分野があり、それを互いに補う形でチームを形成し、日々の臨床試験に関する業務を遂行してきた。

    ところが、AROに入職後は、同じ職場で働くメンバーから「(自分が)医療職ではない」という言葉を耳にするようになった。当初はあまり意識せず、これまで同様に業務に取り組んできたものの、ふとした時に聞こえるその言葉の意味を、やがて無視できないほど意識せざるを得なくなった。

    非医療職だから全く駄目だ、と言われるシチュエーションには、幸いなことに自身の周囲ではまだ遭遇していない一方で、(臨床研究に関する高度な仕事をするのは)医療職であることを示唆する暗黙の了解的な言葉については何度か耳にしたことがある。もちろん、非医療職を貶める意図がないことはわかりつつも、その言葉を聞くとどことなく「非医療職は臨床研究をするにあたって、重要な任務はできず、さほど貢献もできず、または何らかのリスクがある」と思われているのかと考えてしまったことも実際にあった。

    しかし、非医療職にもそれまでに各々の世界で培ってきた知識があり、経験があり、スキルがあり、そのスキルを活用して臨床研究に貢献することは十分に可能と考える。また、他の非医療職のメンバーが、未知の世界に戸惑いながらも多くを学習し、必要な専門知識とスキルを身に着け、従来から蓄積された実践知や経験と融合させて、臨床研究支援業務を効果的・効率的に実施している姿を周囲でもしばしば見かける。

    このような現状を鑑み、自分自身も非医療職という立場から、非医療職が臨床研究の中で果たす役割とその期待について改めて振り返ると共に、特に臨床研究の質を向上させるために非医療職が現在どのように貢献しているのか、また、今後どういった形で貢献できるのかについて、具体的な事例と共に報告する。

  • 植田 真一郎
    セッションID: 44_2-C-S26-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    かつて医師の数少ない治療法のひとつが瀉血であった。これは「どんな疾患にも効果がある」とされ、しかし誰も効果があることは証明できておらず、それにもかかわらず20世紀初頭までおこなわれていた。かの医師の鏡とされるオスラー先生まで効果があると信じていた節がある。これに異を唱えたLouisは患者のアウトカムを観察していないこと、瀉血を行わなかった患者と行なった患者の比較がないことなどからはじめてこの治療法に疑義を呈した。瀉血のみならず医療者は自分のおこなうあるいは自分が開発した治療法が有効であると信じ、間違いを起こすことがある。医療者は患者の治療に情熱を傾けていたとしても、あるいはだからこそ治療法の評価についてはしばしば恣意的であり、時に非倫理的である。ランダム化比較試験は医療者ではない統計学者Fisherの理論とHill、医師免許を有するが疫学者Dollらにより生み出され、フェアな比較による評価を可能とした。Jennerの臨床研究は倫理的に多くの過ちに満ちていたが、数百年をかけて研究倫理の原則は医療職以外の力を借りて整備されてきた。結局歴史上の臨床研究の転換は医療者以外によって成し遂げられているし、現代の臨床研究はサイエンス、オペレーションに医療以外の構成因子が大幅に増加しており、医療職がそのスキルや経験だけでできるものではなくなっている。

    このような歴史的な必然性から本学会は臨床研究専門職を提案した。臨床研究は診療を良い方向に変えていくために実施され、変えるための介入を冷徹に評価する必要がある。医療職が持ち得る情熱や思いは研究を進めるドライブになるし、これが欠落すると研究がたちあがらない。しかし過去の事例は、それだけではロードマップをかけず迷子になったり、不適切な研究で誤った結論にたどりついてしまったりすることを示唆している。臨床研究、特に臨床試験ではPIとともに正しい方向に伴走する専門職が絶対必要であり、それは医療職であるかどうかを問わない。

  • 山本 奈緒美
    セッションID: 44_2-C-S27-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    AAHRPPとは、米国の非営利組織であり、人を対象とする研究の実施・審査・管理を行う組織に対して、被験者を保護するための組織的取り組み(=被験者保護プログラム)の認証を行う機関である。AAHRPPは米国だけでなく、台湾、韓国、中国等のアジアを含む世界中の研究団体を認証している。認証を受けるには、AAHRPPが規定する60項目を超える被験者保護の評価基準を満たすことを、規程や手順書等の文書、議事録等の実践した結果を通じて示すことが必要である。

     当院では、人を対象とする研究において被験者保護を強化し、質の高い研究を推進するため、2016年より未来医療開発部 被験者保護室を中心に、研究に関与する職種にてタスクチームを作り、認証取得に向けたセルフアセスメントを開始した。はじめに被験者保護プログラムを構成する重要な機能として、教育プログラム、リソース管理、コンプライアンス管理、利益相反管理、試験薬・試験機器管理、契約と研究費、補償、地域病院との連携、IRB(治験審査委員会、倫理審査委員会等の委員会)、アウトリーチ活動と臨床研究相談窓口の10個をリストアップし、被験者プログラムの概要を作成した。また、認定基準を満たすために、運用の見直し、手順書等の整備を行った後に申請し、サイトビジットを経て、2022年12月に国内の病院として初めて認証を取得した。

     取組の過程で、申請に関する資料がすべて英語であったことはもちろん、日米の規制や用語の違いを理解し、説明することに苦労した。特に、本邦では医機法下のGCP省令、臨床研究法、再生医療等の安全性の確保等に関する法律、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針等の規制毎に審査する委員会があり、それぞれ運用も異なるという縦割り構造を、AAHRPPに理解してもらうのに困難を極めたため、これを機に運用を見直し、共通手順書を作成した。この手順を作成したことで、運用の標準化が図れた。また、認証への取り組みの過程で、委員会だけでなく、様々な部署の機能が有機的に集まり被験者保護プログラムを構築していることを、被験者保護プログラムに携わる者が改めて認識することができ、組織の被験者保護に関する意識を高めることができた。加えて、組織としての品質改善プログラムを整備することで、継続的に改善に取り組む体制が確立した。本シンポジウムでは、これら受審での気付きや学んだことを報告する。

  • Hiromi Martorano
    セッションID: 44_2-C-S27-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    IRB は、人を対象とする研究に倫理的配慮を浸透させるために設立された。この ような研究倫理の考えは、1945 年のニュルンベルク綱領及び 1964 年に最初に作成 されたヘルシンキ宣言に含まれているが、これらに限定されるものではない。米国 では、IRB の必要性が 1960~1970 年代にかけて明らかになったが、その主な原因 は、「タスキギー梅毒研究」(1932〜1972 年)の負の影響によるものである。この研 究の被験者は低所得のアフリカ系米国人男性であり、本人同意なしに研究に登録さ れ、また有効な治療薬が発見された後もその治療を受けることができなかった。そ の結果、1974 年に国家研究法が制定され、1979 年にベルモント・レポートが発表 された。これは、生物医学・行動研究における被験者保護のための国家委員会によ り策定されたもので、人を対象とする研究(HSR)の倫理原則(人格の尊重、善行、正 義)とガイドラインをまとめたものであり、IRB の基礎となるコモンルールに成文化 されている。

    保健福祉省(DHHS)には、被験者保護局(OHRP)と食品医薬品局(FDA)の両方が置か れている。OHRP は、連邦政府から助成を受けた研究に対する被験者保護を任務と しているのに対し、FDA はより広い範囲(食品、動物用医薬品及び医薬品、ワクチン 及びその他の生物学的製剤、医療機器など)で公衆衛生の保護を提供している。1996 年の医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)で定義される保護対象医療情報 が研究に含まれる場合、HIPAA の規制も考慮し、適用される規制及び方針を遵守し なければならない。

    PRIM&R という組織の使命は、教育、会員サービス、資格認定、公共政策構想及 びコミュニティの構築を通じて、研究の実施における最高の倫理基準を推進させる ことである。IRB は被験者保護を保証する責任を負うが、HSR 及び臨床試験を最初 から最後まで実施するには、様々な部門(助成金及び契約、利益相反、コンプライア ンス及び教育など)との調整が必要である。これらの部門は、IRB や研究者とともに、 被験者保護プログラム(HRPP)を構成する。NPO 法人 AAHRPP は、認定を申請し基 準を満たしていると判断した施設に対して、ピアレビューを通じて質の高い HRPP を認定する。AAHRPP は、被験者に対する効果的、効率的かつ革新的な保護システ ムを奨励している。

  • 安藤 仁
    セッションID: 44_2-C-S28-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    今年は、わが国でインスリン製剤による糖尿病治療が開始されてちょうど100年になる。その間にインスリン製剤は改良され、経口薬も次々と登場したが、長らく、2型糖尿病患者の血糖コントロールや合併症予防には難渋することが多かった。近年開発されたインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬)やSGLT2阻害薬は、2型糖尿病の血糖コントロールを比較的容易にしたのみならず、肥満や合併症という、これまでは治療が困難だった病態の改善までをも可能にした。また、ビグアナイド薬は、一時期、過小評価されていたものの有用性が見直され、現在は2型糖尿病の第一選択薬となっている。このように顕著に向上した2型糖尿病の薬物治療ではあるが、ビグアナイド薬やインクレチン関連薬、SGLT2阻害薬の作用機序には未だ不明な点が多く、また、これらの薬のみでは2型糖尿病を克服したと言えるところまではきていない。

  • 坂口 一彦
    セッションID: 44_2-C-S28-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    メトホルミンは60年以上前から臨床使用され、今もなお世界で最も多くの人々に服用されている経口血糖降下薬です。その効果は血糖を降下させるだけでなく、抗動脈効果、抗腫瘍効果、抗加齢効果など多岐にわたる報告が存在します。近年、メトホルミンの作用機序として、消化管や腸内細菌に対する影響が注目を浴びています。

    F[18F]fluorodeoxyglucose (FDG)-PET検査において、メトホルミン服用者で腸管にFDGが集積する現象は既に10数年前から知られていました。しかし、従来のPET/CT技術では、腸管壁と腸管内腔を明確に区別することが困難で、FDGの集積がどちらに起因するのかの解明は難しかった。このため、FDGの集積が腸管壁(腸管細胞)に由来するとの認識が一般的でした。

    私たちは、PET/MRIがPET/CTよりも高い空間・物質分解能を持つことを活用し、FDG-PETの際のFDGの集積位置を詳細に解析しました。そして、メトホルミンを服用すると、経静脈投与されたFDGが腸管内腔に特異的に集積することを確認しました(Diabetes Care 2020, 40:1796; Diabetes Obes Metab 2021, 3:692)。これは、メトホルミンが血中のグルコースを腸管内腔へ移行・排泄させる効果を示しています。

    更に、私たちは新たな撮像技術、FDG-PET/MR enterographyを開発し、この技術を利用することで、メトホルミン服用時の腸管内腔におけるFDGの集積が約4倍に増加することを明らかにしました。また、放射活性の時間変化を数理モデルで解析し、メトホルミンを服用していない状態でのグルコース排泄が約0.41g/hr、服用時は約1.65g/hrと、非常に大量であることを明らかにしました。

    これらの結果は、メトホルミンの未知の薬理作用を明らかにするだけでなく、消化管が栄養素の吸収のみならず、グルコースの排泄機能も持つことを示しています。現在、この新たな発見に基づく作用の意義やメカニズムの調査を続けています。

  • 矢部 大介
    セッションID: 44_2-C-S28-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    近年、新たなインクレチン関連薬として、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが上市され、2型糖尿病において血糖をほぼ正常域まで改善しうること、また著明な減量効果を発揮しうることから、肥満2型糖尿病に対する有望な治療選択肢として期待される。チルゼパチドは、単一分子でありながら、GLP-1とGIPの2つの受容体を同時に活性化しうるように設計された。GLP-1、GIPは共に食事応答性に消化管内分泌細胞から分泌され、膵β細胞からの血糖依存的インスリン分泌を増強する。しかし、慢性高血糖下ではGIPのインスリン分泌増強作用が著しく減弱し、またGIPが脂肪組織へのエネルギー蓄積促進から肥満を助長するため、当初、多くの研究者や企業がGLP-1の臨床応用に注力した。しかし、生理的濃度をはるかに超える薬理学的濃度のGIPが食欲抑制、減量効果を発揮することが明らかとなり、創薬標的としてGIPに対する関心が高まっている。実際、著者らも薬理学的濃度のGIPがレプチンと協同的に弓状核において摂食抑制を司るPOMC神経を活性化することで食欲抑制、減量効果を発揮することを報告しているが、未だ解明されていない代謝亢進の関与も示唆されている。チルゼパチドはGIPと同様の用量反応を示す一方、GLP-1に比べて10倍近く反応性が低いことが示される。チルゼパチドが著明な血糖改善効果、減量効果を有することから、GLP-1受容体作動薬以上に心血管や腎に関してadditional benefitsを期待する声があるが、GIPに関するこれまでの知見を踏まえるとadditional benefitsは不明であり、質の高い臨床研究により評価が待たれる。本講演では、インクレチンに関する新たな知見を議論すると共に、糖尿病治療におけるGIP/GLP-1受容体作動薬の可能性について議論したい。

  • 岩部 美紀
    セッションID: 44_2-C-S28-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    これまでに肥満の病態において、脂肪細胞から分泌されるアディポカインの一つであるアディポネクチンの作用が低下することが糖尿病・メタボリックシンドロームなど、生活習慣病の主要な原因となることを明らかにしてきた。そこで、アディポネクチン/ アディポネクチン受容体(AdipoR)シグナルの活性化がこれらの根本的な予防法・治療法になることが想定され、AdipoRを標的とする構造ベース創薬を目指し、AdipoR シグナルを活性化する低分子化合物の取得を目指した。これまでにAdipoRアゴニストの取得に成功し、AdipoRの立体構造を世界で初めて明らかにした。AdipoRアゴニストは、全身の糖・脂質・エネルギー代謝を改善し、肥満で短くなった寿命を延長する効果があることを示した。また、AdipoRは7回膜貫通型受容体であるが、Gタンパク質共役受容体とは、膜に対して逆向きかつ構造的に異なり、亜鉛イオンを配位するなど、ユニークな特徴を持つことを示した。さらに、AdipoR にはAdipoR1とAdipoR2が存在するが、AdipoR1は、closed formとopen formの2つの構造をとること、糖・脂質代謝改善作用とリンクした新しい活性化メカニズムを明らかにした。また、最近、AdipoR1は、新たな機能として発毛促進作用を有することが分かり、AdipoRが糖・脂質・エネルギー代謝改善作用に加え、多彩な作用を有することが明らかになってきた。今後、多角的アプローチにより、AdipoRの新たな機能解明、さらに、AdipoRを標的とする肥満関連疾患に対する治療法・治療薬創製に繋げられるよう研究を展開したい。

  • 齋藤 信也
    セッションID: 44_2-C-S29-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    我が国では2年間の試行を経て,2019年4月から費用対効果評価制度が本格導入された.これは先行する諸外国に比べて20年程度遅れたものの,この4年間の実績は一定程度の評価を得ている.対象となる医薬品の価値を測るには,比較対照薬と比べて増加した費用(増分費用)を増加した効果(増分効果)で除した増分費用効果比(ICER)を,一般的には閾値と呼ばれるその国での目安となる数値と比較することになる.ちなみに我が国の閾値は500万円/QALY程度とみなされている.また,QALYというのは生存年とQOLを同時に評価できる効果指標である.本来であれば,企業が自由に決めた薬価に基づき,こうした評価を行い,費用対効果に劣る(ICERが閾値よりかなり高い)場合は,償還を拒否する(その国の保険でカバーしない)か,ICERが妥当な範囲に入るように価格を調整(薬価を下げる)するのが自然である.それが価値に基づいた価格であるともいえる.ところが我が国には既に確固たる薬価制度が存在しているところに,この費用対効果評価制度を後付けしたことから,外国にはあまり見られない各種の矛盾が生じている.本邦では薬価算定組織というところで,ルールに基づいて公定価格(薬価)を定めているが,その薬価について,その後に費用対効果組織で評価を行い,薬価の一部分(加算部分等)の調整を行うという形を取っている.つまり,国が決めた価格をもう一度別の国の組織で調整している風にも見えてしまう.その場合薬価算定組織は,基本ルールとして類似薬効比較方式という類似薬に比べて優れている点があれば加算をつけるというやり方で薬価を決めている.この類似薬は上述した費用対効果評価の対照薬と同じと思われがちであるが,それぞれの組織が別々のルールで作業を行っていることから,両者が一致することは稀であることが判明している.これにより,加算がつくときに比べた相手ではないものを対照に費用対効果を評価して,その加算部分の調整をしているという奇妙なことが生じている.また,対照となった医薬品が原価計算方式というコストを積み上げた形でつけられた薬価を有している場合,それと比較することが果たして対象となる薬の正確な評価につながるのかという疑問も残る.そこで今回のシンポジウムにおいては,国のみならず医療提供者が行う費用対効果評価の活用法を検討する前提として,こうした制度上の問題点を整理して提示したい.

  • 粟野 宏之
    セッションID: 44_2-C-S29-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    私は小児科医で、主に神経筋疾患の患者の診療に携わっている。従来、神経筋疾患に対する治療法はなかったが、近年になり疾患特異的な治療法が保険適用となり、急に薬剤を取り扱う立場となった。さらに、取り扱う薬剤が非常に高額であったため、医療経済とはこれまで縁がなかったが、費用対効果なるものを意識するようになった。本講演では、脊髄性筋萎縮症(Spinal muscular atrophy: SMA)という神経筋疾患の「高くて良く効く薬」の費用対効果について考え、皆様と議論したい。SMAはSMN1遺伝子異常によって発症する下位運動ニューロン病で、進行性の筋力低下を主症状とする。生直後から症状があり生存が困難な最重症型(0型)から、成人になり症状を認める成人型(4型)まで5つの臨床型に分類される。SMAの疾患特異的治療薬として2017年にスピンラザが発売されたことを皮切りに、2020年にはゾルゲンスマ、2021年にはエブリスディが発売され、3種類の薬剤が臨床で使用可能である。薬剤の投与方法や投与回数は様々であるが、どの薬剤も疾患自然歴を変える有効性が確認されている。患者一人当たりの年間薬剤費はスピンラザが約1,900~2,800万円、エブリスディが約2,500万円である。ゾルゲンスマは単回の静脈投与を行う遺伝子補充治療薬で、患者当たりの薬価は約1億6,000万円である。これらの高額な薬剤について、「値段に見合った効果があるか?」という問に答えるのは難しい。本邦ではSMAのような指定難病に対する薬剤は、費用対効果評価の対象からは除外される。ゾルゲンスマは著しく保険償還薬価が高いため評価対象となったが、長期有効性データの不足など不確実性が多いことから評価が中断となった。臨床では薬剤が生命予後、および患者QOLを改善している実感があるため、適切な医療経済的評価がなされ、薬剤の価値が説明されることが期待される。海外では、希少疾患に対する薬剤を対象とした費用対効果評価の特別な枠組みもあり、患者QOLや医療費だけでなく、イノベーションの大きさや介護負担が考慮されている。今後、臨床現場から出てくるデータが評価に用いられる可能性も大きく、臨床データ収集が重要となる。

  • 大村 友博
    セッションID: 44_2-C-S29-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    高齢化に伴い、アルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとした神経変性疾患を発症する患者は増加の一途を辿っている。令和2年の本邦における調査ではアルツハイマー病は794,000人、アルツハイマー病は289,000人と報告されており、医療財源への負荷も多大なものとなっている。パーキンソン病に目を向けると、欧米では1998年からパーキンソン病治療薬や治療法に関する費用対効果の分析が報告されているが、本邦ではこれまであまり報告は少なく、最近になって徐々に増えつつある。

    一方、本邦の国民医療費は急激に増大しており、令和2年度の医療費は約43兆円、そのうち薬剤費比率は約20%と言われ、費用対効果を考慮して薬剤選択を考える必要がある。そのためには、フォミュラリの策定とともに後発医薬品やバイオシミラーの使用等を推進し、病院薬剤師も病院経営に積極的に関与していくフェーズに入ってきている。

    本発表では、欧米と本邦の神経変性疾患、特にパーキンソン病治療における費用分析事例を紹介しながら、今後どのような観点から治療薬を選択するか考察したい。また、薬剤師として医療費の削減にどう関わるか、病院薬剤師として病院で使用する医薬品費用の削減に対してどのように対峙するかについて、自施設での取り組みも紹介しながら皆さんと考えていきたい。

  • 飯村 康夫
    セッションID: 44_2-C-S30-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品開発には、他の領域での製品開発と比較して、多大な費用、長い時間、成功率のかなりの低さが課題である。こうした中、臨床試験(治験)の迅速化、効率化のために期待されているのが、リアルワールドデータの活用である。

    このため、厚生労働省では、治験DXとして、1)レジストリの活用、2)電子カルテ情報等の活用、3)DCT'(Decentralized Clinical Trials;分散型治験)の普及について、創薬プロセスの加速・効率化に向けて取り組んでいる。

    1)レジストリの活用については、CIN(クリニカル・イノベーション・ネットワーク)構想として、被験者リクルート、市販後安全対策での活用の他、将来的には治験対照群としての活用を目指して、国立高度専門医療研究センター(NC)や医療系学会が構築しているレジストリの活用やそのための改修等を進める研究の支援を行っている。

    2)電子カルテ情報等の活用については、PMDAが構築・運営しているMID-NETを参照して、臨床研究中核病院によるリアルワールドデータを活用するための仕組みとして「臨中ネット」の構築に取り組んでいる。臨床研究中核病院とARO部門の協力により、いわゆるデータ駆動型臨床研究を実施するための各種課題解決に取り組んでいる。

    3)DCTの普及については、AMEDの研究事業の中で、臨床研究中核病院によるDCTの実施を進めるため、EDC(Electronic Data Capture)による情報の収集と送達のためのネットワークの構築とDTCによる模擬治験を実施している。DCTの普及に向けた環境整備、課題・ノウハウ等の共有を進めて行く。 

     また、日本主導での国際共同治験の実施体制を強化し、新薬等の開発の加速化を目指すため、感染症領域で国立国際医療研究センター、非感染症領域で国立がん研究センターをアジア地域における臨床研究・治験ネットワークの拠点としている。感染症や希少疾患のように、国内での必要症例数の確保が難しい場合でのアジアを中心としたグローバル試験の実施拡大が期待される。

  • 永井 洋士
    セッションID: 44_2-C-S30-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    わが国の臨床研究デジタル・トランスフォーメーション(DX)は世界に大きく遅れ、この状態が続けば国際競争から脱落するのは時間の問題である。実際、コロナウィルス感染症が流行し始めた当時、世界の主要国では、迅速に多数の臨床試験が立ち上がり、人々の生命に直結する重要な成果が次々に公表された。一方、わが国で開始されたコロナウィルス関連の臨床試験はわずかであり、そこから発出された情報は極めて限定的であった。世界の主要国でそうした機動的対応を可能にした要因の1つが、直接的な接触なしに被験者を診察して臨床試験に組み入れ、試験薬等を処方し、そして効果と安全性を評価するやり方、すなわち、分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial; DCT)の仕組みであった。こうした仕組みは、電子カルテや、遠隔での説明・同意取得、試験薬の配送、オンライン診療等のプロセスと、それらとよく連携が図られたITシステムがあって初めて円滑に稼働する。しかしながら、わが国の産学において、DCTの運用体制とそれに必要なITシステムは整備の途に着いたところである。更に、治験で求められるSource Document Verificationの実施に際しては、製薬企業等のモニターが時間と交通費を使って旧態依然のままに医療機関を訪問し、そのリソース(CRC、電子カルテ端末、カルテ閲覧室、等)を費やしている現状がある。こうした状況下、わが国が臨床研究・臨床開発の国際舞台に残り続けるために臨床研究の合理化・効率化は不可欠であり、そのDX推進は待ったなしの課題と言ってよい。本講演では、全国立大学病院を対象とした実態調査の結果を提示しつつ、わが国における臨床研究DXの現状と課題を明らかにすることで、その改善・解決に向けた道筋を照らすことを試みる。

  • 戸高 浩司
    セッションID: 44_2-C-S30-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    臨床研究中核病院ではReal World Evidence創出基盤の構築に2018年度より取り組み、電子カルテから品質の高いデータ抽出が実施されている。しかしながら観察研究であるため、通常診療に用いない有効性指標を収集したり、定期的な評価スケジュール(ビジット)を設定するなど、介入試験に特有なものには対応が難しい。 これらの課題に対応すべく標準化電子ワークシートを開発した。2018~20年度、標準クリニカルパス(ePath日本医療情報学会標準)を開発、電子カルテに実装しており、ベンダー横断的に標準業務実施、標準化データ収集が可能である。 このePathを下敷にした標準化電子ワークシートを実装し、治験実施の上、電子カルテ/ワークシートとEDCの連結を可能とする。

    同時に、治験実施を促進する分散型臨床試験(DCT)の枠組みを臨床研究中核病院中心に整備している。DCTには大きく分けて、規制面、技術面、運用面の課題がある。規制面の課題は主に厚労省マターであり2022年度以降に発出されるガイダ ンス群を待たねばならないが、AMED先進的臨床研究環境基盤整備プログラムでは、技術面、運用面での整備を行った。 技術面に関しては、DCTを構成する複数の要素(eConsent、eCOA、遠隔診療等)を包括的に運用し記録を効率化するため に標準化電子ワークシートを用いる。 一方、運用面の整備としてDCTを実施するための要素群を統合して運用するために必要なSOP等の作成支援とトレーニングを行った。軽症COVID-19を対象とする経口治療薬を想定した模擬プロトコルを用いて全臨床研究中核病院で模擬治験を実施し、各施設での運用の課題を抽出し対応を行った。

  • 近藤 充弘
    セッションID: 44_2-C-S30-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    2011年にPfizer社が米国で実施したトルテロジンのREMOTE試験が、DCT(Decentralized Clinical Trial)の先駆けと言われているが、2011年以降欧米においては様々なスタイルのDCTが立案・実施されてきた。我々も、2019年に日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会内にタスクフォースを立ち上げ、「来院に依存しない臨床試験手法の活用」に向けた検討を開始した。しかしながら、海外と国内の現状比較等を取りまとめ、企業側にDCT導入の考え方を発信するに留まり、2020年に拡大したCOVID-19に対する臨床試験に広く活用することは叶わなかった。臨床試験に対するCOVID-19の流行による影響として、海外においてはRECOVERY試験等のPragmatic Trialが成果をあげ、DCTに関しても加速度的に導入が進み始めてきているなど臨床試験のスタイルが大きく変化してきた。国内においても、DCTの一つの要素であるeConsentに関するガイダンスとして本年3月に厚生労働省より「治験及び製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明及び同意に関する留意点について」が発出されるなど、DCTの取り組みが注目されてきている。しかしながら、海外ほどDCTが活用される環境が整っていないのが現状であろう。

    医薬品開発においてはグローバル試験が一般的になりつつある現在、グローバル共通のDCTプラットフォームで実施する日も近いかもしれない。また、昨今の医薬品開発においては、希少疾患等に対する開発割合も増加してきている。このような状況下において、患者に負担が少ないスタイルのDCT要素を取り入れた臨床試験が適宜実施できる体制になっていることは重要と考える。国内で取り組みが進んでいない理由として様々な課題があげられるが、早期に産官学が連携してDCTを実施できる体制を構築していく必要がある。今回のシンポジウムの場においても、産官学が連携してDCTを推進していくための課題整理と今後の取り組みについて、前向きに意見交換したい。

  • 上田 恵子
    セッションID: 44_2-C-S30-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    Decentralized trial(以下、DCT)の発展に必要な体制や法規制等について、European Union加盟諸国(以下EU諸国)の例を挙げて議論したい。

    EU諸国においては、家庭医やかかりつけ薬局等の制度が古く、プライマリケアを対象とした試験が1990年代から試みられてきたともと言われているが、近年のコロナウイルスのパンデミックによって、より体系的に必要要件の整備がなされた。

    地理的に近郊にあっても多様な規制や民族、社会的背景の隣国とのコラボレーションが多い欧米諸国においては、試験の立ち上げや、伝統的に国際共同研究が多く、その運営の経験が豊富である。また、早くから患者参加型の試験が行われてきた歴史もあり、被験者の治験に対する意識も高いという背景が整っている。DCTの目的、実施の運用に関しては、各所で議論されているため反復は避けるが、EU諸国では、上述の背景の元、DCTは受診困難な患者に対する試験参加への選択肢といった役割には留まらず、試験の多様性、全般化可能性などの特徴を踏まえてより適切なデザインやオペレーションの一つとして積極的によってDCTを選択している傾向がある。また、European commission(EC)等からの公的資金のプロジェクト研究が政策策定等に先立つことが多いEUにおいて、DCTに関しては、data sharing、EHR(Electronic Health Record)の利用、薬剤提供方法など、規制のハードルと思われる各場面において、ガイドラインや規制のposition paperの発出が早く、先導する意識が強いようにも思われる。また、DCTの発展を議論する際にはそれのみではなく、周辺の関連項目(特に、プラットフォーム試験構築等)を体系化し、関連づけて議論している。

    European Clinical Research Infrastructure Network(ECRIN)は主にメンバー国の国際共同試験を支援するとともにガイドライン作成等のinfra整備にも関わっている。また、EU非加盟国とも共同研究により大規模試験に耐えうる体制構築とその調整に貢献している。ECRINは毎年メンバー国に向けてInternational Clinical Trial Day に一つのテーマを取り上げた全体会議を行っているが、2023年ではDCTを取り上げた。

    今回は規制当局の方針や事例(PANORAMIC、ECRAID PRIME等)を含む当会議関連の公表内容を紹介しつつEUの現状についてご紹介したい。*本発表は個人的見解を含むため所属組織の公式見解を代表するものではありません。

  • 松倉 裕二
    セッションID: 44_2-C-S30-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    近年、希少疾病や難病、小児用の医薬品を中心に、必要な医薬品の国内開発が進まない「ドラッグ・ロス」の拡大が指摘されており、国内の治験環境の整備も課題の一つとなっている。市場の大幅な成長が見込めない中で、日本の創薬力を強化し、医療上必要性の高い医薬品の導入を進めるためには、分散型臨床試験(DCT)の推進や、リアルワールドデータの薬事申請への活用など、新たな技術を迅速に取り込みながら規制のアップデートを図ることが求められている。DCTにおいては、デジタル技術を活用して、被験者募集、説明・同意、データ収集(ウェアラブル・デバイス等)、モニタリング・SDVなど、治験の様々な場面をデジタル化・オンライン化することにより、治験の効率化に加え、患者の置かれた環境にかかわらず治験に参加しやすい機会を確保するなど、多くの付加価値が期待されている。

    その普及に向けた取組の一環として、2023年3月にはオンラインでの説明・同意(e-Consent)に関する初めてのガイドライン「治験及び製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明及び同意に関する留意点について」(令和5年3月30日付け薬生薬審発0330第6号・薬生機審発0330第1号)を厚生労働省から発出した。この通知では、オンラインの特徴を踏まえ、本人確認の方法、被験者のプライバシー保護、コミュニケーションのあり方、動画の活用、電子署名等について、留意が必要な点を述べている。

    当日はガイドラインの紹介を中心にDCTを巡る薬事規制の最近の動向に触れつつ、国内でのDCT普及に向けた動きがより一層加速化することへの期待を述べたい。

  • 大和田 康子
    セッションID: 44_2-C-S31-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトへ初めて治験薬を投与する健康成人を対象としたFirst in Human (FIH) 試験は、被験者の安全確保のため、幾重にも対策を講じた上で実施に至る。そのため、命にかかわるような重篤な有害事象というのは非常にまれである。しかしながら、これまでそのような事例がなかったわけではない。例えば、2006年3月に英国で実施したTGN1412試験、2016年1月にフランスで実施したBIA10-2474試験が挙げられる。

    TGN1412試験の重篤な有害事象発生時に英国で臨床試験に携わっていた演者は、非常に衝撃を受け、他人事とは思えぬ心境で経緯を追った。本試験の有害事象の原因については、現在までに多くのことが判明しており、再発防止対策も十分とられてきた。

    にもかかわらず、その約10年後、フランスで実施した健康成人を対象とした初期臨床試験で、今度は死亡例を含む重篤な有害事象が発生した。本試験で起きた事象は、TGN1412試験とは性質が異なり、いまだ未解明な部分も多い。本事象の予測や予防がどの程度可能であったのかは議論の余地があるが、適切な再発防止対策を考えるに十分なだけの情報がないのも現状である。

    日本でのFIH試験実施の在り方を考えるにあたり、再度これらの試験を振り返り、事故後の経緯などについても言及する。

  • Jorg Taubel
    セッションID: 44_2-C-S31-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    In my talk, I focus on three main topics:

    1) An overview of clinical trials conducted in the UK, particularly advanced medicines

    2)The initiatives to make drug development more efficient, focussed and thereby faster

    3)How early-phase clinical trial units need to adapt to stay relevant

    I started working in clinical pharmacology 30 years ago. Since then, I only had success with five medicines progressing from FTIM to market authorization — two of which are gene silencers. I will be discussing the SWOT of small molecule versus gene-based medicines and comparing FDA/EMA market authorizations until now.

    I will discuss ex-vivo and in-vivo gene editing, and newer in-vivo therapies such as NTLA-2001 or VT-1001 but will use gene silencing using RNAi as an example to dive deeper into some principles pertaining to the development of these medicines.

    Shortening times from FIH to MA from 5 to 10 years to only 3 to 5 will have effects on how we work. For biotech firms, a very important aspect of fundraising is the time until revenue can be generated. With RNAi even in prevalent indications, these shorter timelines to MA have already been seen. Regulators in all regions help by offering fast-tracking approvals and I will discuss ILAP in the UK.

    Advanced study designs and integrated protocols play a prominent role in this context and the inclusion of patients in FTIM studies may be the only option to start human studies but there is the option to use the same strategies in many other programs where healthy participants could be – but don’t have to be – included.

  • Ulrike Lorch
    セッションID: 44_2-C-S31-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    The role of early phase principal investigators (PI) changed significantly over the last decade. It shifted from clinical pharmacology trials with healthy volunteers to applied human pharmacology trials that require a different set of PI capabilities.

    Most investigational medicinal products now used in clinical trials are biologicals and advanced therapies, including gene silencing and in-vivo gene editing. Many therapies can only be trialled in patients with the relevant diseases, which may be rare or common, with diverse patient populations. These trials require expert PI medical oversight and focus on clinical risk management, as well as specialist oversight of non-medical aspects and close collaboration with other experts.

    The UK put in place a PI accreditation scheme following the Tegenero incident in 2006. To adjust training and accreditation to our current environment, a group of stakeholders have joined forces to update the scheme.

    The three main aims are:

    (1) To make capability assessments relevant to the new early phase trials environment

    (2) To make the programme accessible to all (prospective) early phase PIs who want to obtain or expand their capabilities

    (3) To make the programme attractive and to provide certification

    The stakeholder group consists of experts in clinical disciplines, clinical pharmacology and pharmaceutical medicine, as well as representatives from UK regulators.

    We found that the scope of work and relevant capabilities of early phase PI vary significantly, depending on their background and workplace. However, we were able to agree on a curriculum of areas of core capabilities early Phase PI need to have, irrespective of their scope of work.

    We envisage an open, flexible, modular assessment and certification programme, that PI from all disciplines can tailor to their scope of work and their own professional development.

    My presentation will give an update on the status of the project and our vision for the future.

  • 中野 真子
    セッションID: 44_2-C-S31-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    国際的戦略のあるFirst-in-Human (FIH)試験の実施国選びに、パンデミックとその後の世界経済状況、ヨーロッパの新治験登録制度などが影響をしている。海外で実施する日本人を含めたFIH試験や日本人のPhase 1試験については、COVID-19のパンデミックや円安などの影響で海外在住の日本人が減ったこともあり、パンデミック以前に比べて海外での日本人健康被験者の登録が難しくなっている。また、ヨーロッパの治験申請制度が変わり、この制度を避けて早期臨床試験がイギリスに集中している。このため、イギリスでの治験の審査が遅延し、2023年中旬に提出した試験では6か月(通常の3倍以上)かかると言われた例も出てきている。イギリスを含むヨーロッパで早期臨床試験をするメリットが減ったため、他の国に目が向いている。その代表はアメリカだが、日本もFIH試験を実施する国として候補に挙がりやすくなった。

    日本には早期臨床開発に適した治験実施施設・基盤があるにもかかわらず、欧米の開発研究者から認識されておらず、十分に活用できていない。FIH試験は初めてヒトに投与を実施するので、リスクが高い試験であり、適切な施設選びと十分な安全性対策が重要である。TGN1412・レンヌ事件では、臨床薬理専門家としても学ぶことが多く、施設の対応や規制当局の対応にも注目した。TGN1412事件の経験から学び、Sentinel dosingのデザインや初回用量設定のMABEL法が世界的に広まり、日本ではE2082のFIH試験で死亡例が出たが、適切に調査や対応が行われた。日本でFIH試験を実施することに対する欧米の開発研究者の懸念については、丁寧に説明をし、日本の実施施設に対する信用を得るのが重要である。

    ノバルティスでは、2020年にアメリカの施設で開始したFIH試験で日本の施設を追加することにより、抗がん剤以外でも日本でのFIH試験実施の実績ができ、試験実施の質のよさも海外の開発研究者に感じてもらえた。その後、別のプロジェクトで日本単独でのFIH試験実施を決定し、年内の試験開始に向けて準備をしている。海外の物価の上昇と円安による影響は予想以上に大きく、欧米での治験実施費用は大きく上昇している一方で、日本の治験実施費用はドルに換算すると比較的安くなる。これを機会に、日本でのFIH試験実施の実績を増やし、世界の患者さんのために、日本が得意強みを発揮できる早期臨床開発の分野で貢献できる機会を増やしたい。

  • 松井 利浩
    セッションID: 44_2-C-S32-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    関節リウマチ(RA)に対する治療は、生物学的製剤の登場により著しい発展を遂げている。

    1998年にエタネルセプトが米国で初めて承認されて以来、多くの生物学的製剤が上市されてきた。本邦では2003年にインフリキシマブが承認されたのを皮切りに、現在までに計6剤のTNF阻害薬、2剤のIL-6阻害薬、1剤のT細胞選択的共刺激阻害薬が承認され使用されている。また、生物学的製剤と同等の効果を有するJanus kinase (JAK) 阻害薬が2013年に承認され、RA治療の選択肢はさらに拡大した。現在までに計5剤のJAK阻害薬が承認されている。

    RA治療では、まずメトトレキサート(MTX)もしくは従来型の抗リウマチ薬を使用し、その効果が十分でない場合に生物学的製剤またはJAK阻害薬の使用を考慮することとなる。どちらを選択するかについては、「関節リウマチ診療ガイドライン2020薬物治療アルゴリズム」では、MTX併用・非併用のいずれの場合も長期安全性、医療経済の観点からJAK阻害薬よりも生物学的製剤の使用を優先することが推奨されている。また、MTX非併用の場合は、生物学的製剤ではTNF阻害薬よりもnon-TNF阻害薬(この場合はIL-6阻害薬)を優先することが推奨されている。

    実臨床におけるこれらの使用状況を全国規模のRAデータベース"NinJa"でみてみると、生物学的製剤は約28%でここ数年横ばい、JAK阻害薬は年々増加傾向で現在約6%である。選択される薬剤は経年的に変化しており、MTXの併用・非併用や、患者の年齢や背景(高齢者、挙児希望の有無)などによっても大きく異なっている。いずれも高額な薬価が導入や継続使用の障壁となることが少なくないが、減量投与や投与間隔延長などの工夫や、バイオシミラーの使用などにより、以前よりも使用しやすい状況ではないかと思われる。

    安全性については常に懸念されるところだが、例えばTNF阻害薬使用開始当初にみられた結核については、スクリーニング検査や予防投与などの徹底が奏功し著しく減少している。JAK阻害薬使用による帯状疱疹の増加は悩ましいところであり、悪性腫瘍やDVTなどについてはさらなるデータの蓄積が望まれる。

    本講演では、実臨床における生物学的製剤およびJAK阻害薬の具体的な使用状況を紹介するとともに、今後登場が期待される新たな治療についても少し触れたいと考えている。

  • 藤尾 圭志
    セッションID: 44_2-C-S32-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    全身性エリテマトーデス(SLE)は代表的な全身性自己免疫疾患である。治療の基本はグルココルチコイドと免疫抑制剤の併用であるが、最近分子標的薬が使えるようになり、その治療戦略は大きく変わってきている。1950年代にはグルココルチコイドの使用は不十分で、SLEの3年生存率は60%程度であった。1960年代から高用量グルココルチコイドが使用されるようになり、3年生存率は80%程度まで改善した。1990年代にはシクロホスファミドが使われるようになり、2000年代にはSLEの10年生存率は95%程度まで改善している。しかしながらより長期の生命予後は不十分であり、近年のレジストリ研究でも死亡年齢の中央値は60歳代である。疫学研究により、グルココルチコイドの動脈硬化、骨粗鬆症、耐糖能異常などの作用による臓器障害の蓄積が、SLEの長期予後を悪化させていることが分かってきた。そこでSLEの長期予後改善のための目標を持った(Treat to target: T2T)治療戦略が提案されている。この治療戦略はまずグルココルチコイドと免疫抑制剤のコンビネーションにより寛解または低疾患活動性を達成し、その後免疫抑制剤や分子標的薬を組み合わせることで、グルココルチコイドの使用量を最低限にするというものである。これまでのガイドラインではグルココルチコイドの使用量はPSL換算7.5mg/日以下が目標だったが、2023年のヨーロッパリウマチ学会(EULAR)のリコメンデーションではPSL換算5mg/日以下が目標とされ、この目標達成のために積極的に抗BAFF抗体ベリムマブや、抗I型IFN受容体抗体アニフロルマブを使用することが提案された。またこのような薬物療法以外に、少数例の難治性SLEにおいてCD19 CAR-T細胞療法が高い有効性を発揮し、抗核抗体を陰性化させ1年半以上のドラッグフリー寛解を達成できることが報告された。このことはB細胞系のリセットによりSLEの寛解が達成できる可能性を示しており、今後の治療戦略にも大きな影響を及ぼすと考えられる。本講演ではこのようにダイナミックに変化しているSLEの治療を概説し、免疫介在性疾患の層別化医療を考えてみたい。

  • 南木 敏宏
    セッションID: 44_2-C-S32-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    血管炎は、チャペルヒルコンセンサス会議2012で、主に罹患する血管のサイズにより分類されている。大血管炎には、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎が含まれ、中血管炎には結節性多発動脈炎、川崎病などが含まれる。また、ANCA関連小血管炎として、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症が、免疫複合体性小血管炎には、クリオグロブリン血管炎、IgA血管炎が含まれる。

     血管炎の治療はいまだステロイドが中心であるが、免疫抑制薬、生物学的製剤なども積極的に用いられる様になってきた。高安動脈炎、巨細胞性動脈炎には、ステロイド、各種免疫抑制薬と共に、抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブが保険承認され用いられる様になった。新たな治療ガイドラインが作成予定となっている。結節性多発動脈炎にはステロイドと共に重症度に応じてシクロホスファミドなどが用いられるが、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班より治療の手引きが出版された。顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症に対しては、ストロイドに加えて、シクロホスファミドまたは抗CD20抗体であるリツキシマブが広く用いられる様になってきた。ステロイドを減量して投与するプロトコールも報告されている。更に、近年C5a受容体拮抗薬であるアバコパンが使用可能となった。今後、適応患者、使用法などに関するエビデンスが示されることが期待される。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対しては、抗IL-5抗体であるメポリズマブも用いられる様になっている。2023年にANCA関連血管炎診療ガイドラインが出版されている。

     このように、血管炎治療も確立され治療ガイドラインもアップデートされている。また新規の治療薬も開発され、今後更なる治療法の発展が期待される。

  • 冨田 哲也
    セッションID: 44_2-C-S32-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    体軸性脊椎関節炎は「強直性脊椎炎」と「X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎」を含む疾患である。体軸性脊椎関節炎治療の目的は、疼痛やこわばりをはじめとする様々な症状をコントロールすること、靱帯骨棘の進行による強直の抑制を目標とすること、最終的には機能を維持し、QOLを最大限とすることである。ASAS- EULARの体軸性脊椎関節炎のマネジメントに関する推奨に基づいたアルゴリズム(2022)およびACR/SAA/SPARTANによる強直性脊椎炎治療の推奨(2019)が参考になる。治療方針を決定するにあたり医師と患者間で共通認識を持ち決定することが必要である。患者教育として疾患による将来的な不安の軽減は重要であり、また喫煙は靱帯骨棘進行のリスク因子であるため、禁煙指導も必要である。運動療法は症状の緩和、関節可動域や姿勢の維持などの効果が期待できる。薬物療法として2000年代初頭までは非ステロイド性消炎鎮痛薬が中心であったが、本邦でも2010年以降強直性脊椎炎に対しては抗TNF製剤が2製剤承認され、より高い治療効果が期待できるようになった。一方病態的には骨増殖は抗TNF治療では抑制できないのではという臨床的な疑問があったが、長期成績が明らかになるにつれ構造破壊抑制効果も示されている。さらに脊椎関節炎ではIL-23/17pathwayが付着部での炎症病態に大きく関与している可能性が示されている。IL-17阻害薬の国際臨床治験が実施され、本邦でも強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎に対して2017年以降3製剤が承認されている。現在IL-17A, Fに対する抗体製剤が承認申請中である。さらにJAK inhibitor が体軸性脊椎関節炎に有効性が示され2022年に強直性脊椎炎、2023年にはX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎に対して承認されている。一方IL-23阻害薬に関しては臨床的には治療効果が示されず現時点では体軸性脊椎関節炎に対しては無効であると認識されている。これまで本邦ではX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎に対して抗TNF製剤が承認されていない状況であったが、公知申請により承認され、今後本邦でも1製剤が使用可能になる予定である。2010年以降治療薬選択しが増えているが、最も重要なのは診断であり、的確に診断し治療薬を選択することが肝要である。

  • 大久保 ゆかり
    セッションID: 44_2-C-S32-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/09
    会議録・要旨集 フリー

    皮膚科領域ではこの10年で治療のパラダイムシフトが起こった.乾癬では生物学的製剤から始まり,さらにその治療薬による高い効果から病態が明らかになり次の新薬の開発に繋がった.2010年から既存の治療に抵抗性である中等症以上の乾癬患者に対して,生物学的製剤による治療が承認された.乾癬の病態に関与する炎症性サイトカインは主にTNF(tumor necrosis factor) -α, IL(interleukin)-23, IL-17,一部IL-36であり,各阻害薬,合計13種の製剤が治療薬として使用されている。皮疹への即効性はIL-17阻害薬,効果の持続性はIL-23阻害薬,関節炎への効果はTNF阻害薬が優れている.さらに低分子医薬品としてPDF4阻害薬やJAK阻害薬,TYK2阻害薬などの内服薬も次々と承認されている.

    それは疾患を超えて広がり,アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD),蕁麻疹,円形脱毛症,尋常性白斑など多くの皮膚免疫疾患で新薬の承認や臨床試験が進行している.2018年には既存治療で効果不十分なADに対して,その病態形成に重要なタイプ2サイトカインに対するIL-4/IL-13受容体阻害薬が生物学的製剤として初めて承認された.さらにL-13阻害薬やL-31受容体A阻害薬が,内服薬としてJAK阻害薬の保険適用が続いている.外用薬としてPDF4阻害薬やJAK阻害薬なども次々と承認されている.

    これまでにない優れた臨床効果が得られ,患者のQOL(quality oflife)の改善に大きく寄与している.使用にあたっては学会策定の使用ガイダンス等を遵守し,患者背景を考慮した薬剤選択を行う.本講演では主に乾癬やADに対する生物学的製剤による治療において,各薬剤の特性と使用法,使用中の注意点などについて述べる.

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