移植
Online ISSN : 2188-0034
Print ISSN : 0578-7947
ISSN-L : 0578-7947
57 巻, Supplement 号
選択された号の論文の557件中351~400を表示しています
  • 石山 顕信, 西川 晃平, 大植 裕之, 出口 佳穂, 宮地 志穂里, 渡邊 麻里, 梶原 達也, 東 真一郎, 佐々木 豪, 加藤 学, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s325_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】

    本邦の献腎移植の斡旋基準ではBリンパ球でのリンパ球交差試験は必須とされていないが、Bリンパ球フローサイトメトリークロスマッチ(B-FCXM)が陽性となる場合にも抗体関連型拒絶反応のリスクが上昇すると報告されている。そこで、B-FCXM陽性化を起こしうる様な抗HLA-ClassⅡ抗体の保有状況を献腎移植待機患者において評価し今後の対策について検討した。

    【方法】

    2016年6月から2021年1月までの間に当院にて献腎移植待機登録をした139例中、抗HLA抗体スクリーニング検査が陽性であり、抗体同定検査としてLABScreen® Single Antigenをした21例を評価対象とし、抗HLA-ClassⅡ抗体の頻度、normalized mean fluorescence intensity(nMFI)を評価した。尚、当科では各抗原の陽性cutoffはnMFI 1000としているが、B-FCXMが陽性化しうるとされるnMFI 2000以上となる割合も算出した。

    【結果】

    ClassⅡ抗体陽性は14例(67%)、そのうちClassⅡ抗体のみ陽性であった症例は3例(14%)、ClassⅠ・Ⅱ抗体ともに陽性であったものは11例(52%)であった。Locus別では、DR、DQ、DPに対する抗体はそれぞれ33%、33%、29%であった。また、パネルの中での最大のClassⅡのnMFIが2000を超える症例は8例(38%)であった。

    【考察】

    B-FCXMを陽性化しうるClassⅡ抗体を有する症例が散見されたことから、献腎移植待機患者に対してもClassⅡ抗体の有無の評価もしくはB-FCXMを検討すべきであると考えられた。

  • 早稲田 貴斗, 會田 直弘, 伊藤 泰平, 栗原 啓, 剣持 敬
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s325_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    抗体関連型拒絶反応は移植臓器廃絶の要因として,その予防と治療は重要な課題である.2018年に臓器移植後の抗HLA抗体測定が保険収載され,当科では定期的に抗HLA抗体測定を実施している.膵移植後,腎移植後のde novo抗HLA抗体産生につき検討した.

    【対象と方法】

    2020年3月までに移植を受け,外来フォローアップしている膵移植後,腎移植後患者178 名 (膵腎同時移植 56例,膵単独移植(腎移植後膵移植を含む)12例,腎移植後110名)を対象とし,抗HLA抗体の産生状況について,患者背景,術後因子,グラフト生着などとの関連性を検討した. 

    【結果】

     平均フォローアップ期間は3.4±2.4年であった.178例中75例 (42.1%) で抗HLA抗体産生を認め,うち17例 (9.6%) は抗ドナー特異的抗体 (DSA) であった.術式別のDSA陽性率は,腎移植後3例(2.7%),膵単独移植6例(50%),膵腎同時移植8例(14.3%)であり,腎移植に比較して膵移植で有意に高値であった(p<0.01).

     DSA陽性群(n=17)とDSA陰性群(n=161)の2群比較では,陽性群に輸血歴を多く認め (12例 vs 57例, p<0.01),免疫抑制薬減量例の割合が高かった(64.7% vs 39.8%,p=0.069).抗体関連型拒絶反応の発症は陽性群で有意に多かった(35.3% vs  3.1%, p<0.01).移植臓器別の3年Death censoredグラフト生着率は,腎移植では陽性群90.9% vs 陰性群 99.2% (p=0.024),膵移植では陽性群 56.2% vs 陰性群 94.1% (p<0.01)といずれも陽性群で低値であった.

    【結語】

    DSAの産生は,膵移植,腎移植いずれでもグラフト生着率を低下させるため,適切な術後管理と免疫抑制療法が重要であると考えられる.

  • 德田 雄亮, 山田 全毅, 福田 晃也, 庄司 健介, 阪本 靖介, 内田 孟, 清水 誠一, 岡田 憲樹, 中尾 俊雅, 兒玉 匡, 小峰 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s326_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     肝移植後の小児では免疫抑制療法によりEpstein-Barr virus(EBV)の感染が頻繁に経験される.EBV関連合併症を防ぐ目的で,移植後には定期的なウイルス定量モニタリングが行われる.一般にEBV関連伝染性単核球症の患者にペニシリン系抗菌薬を投与するとアンピシリン発疹が経験され,ペニシリン系抗菌薬の投与は原則禁忌とされている.しかしながら,末梢血中EBV DNA量が増加している肝移植後の小児において,ペニシリン系抗菌薬が安全に使用できるかについて検討した報告はない.そこで我々は,小児肝移植後患者におけるペニシリン系抗菌薬による発疹の発生頻度やリスクを調査した.

     当院で2014年6月から2020年5月の間に肝移植を受けた小児患者を対象とし,移植後2年以内にペニシリン系抗菌薬投与を要した入院歴につき調査した.EBV DNA量にもとづき,陽性群と陰性群に分類し比較した.

     対象となった294症例中EBV陽性群は111例,陰性群は175例であった.アンピシリン発疹と臨床的に診断された症例は両群ともにいなかった.抗菌薬投与後に非特異的発疹を認めた患者はそれぞれ8人(7.2%),10人(5.7%)であり,発疹の発生率に差はなかった(p = 0.797).さらにEBV DNA量が1000 copies/μgDNA以上の患者においてサブグループ解析を行ったが,発疹の発生率に差はなかった.また抗菌薬の種類による発疹の発生率の差も認めなかった.

     小児肝移植後のEBV感染患者に対するペニシリン系抗菌薬の使用は,発疹のリスクを増加しない.

  • 岡田 憲樹, 阪本 靖介, 福田 晃也, 内田 孟, 清水 誠一, 中尾 俊雅, 兒玉 匡, 小峰 竜二, 大西 康晴, 眞田 幸弘, 平田 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s326_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    目的:国立成育医療研究センターおよび自治医科大学での再肝移植の治療成績を報告する。

    対象と方法:2001年5月~2021年12月に2施設で行った小児肝移植後(18歳未満)の再肝移植35例を、初回肝移植から1年以内の再移植(早期群n=18)と1年以降の晩期群(n=17)に群別し検討した。

    結果:原疾患は早期群が胆汁鬱滞性疾患8例、代謝性疾患1例、急性肝不全7例、他1例、晩期群が胆汁鬱滞性疾患11例、代謝性疾患1例、急性肝不全3例、他2例であった。初回移植時月齢は早期群39.1±55.0か月、晩期群34.1±57.5か月、再肝移植までの期間は早期群76(3-318)日、晩期群2128(517-8867)日であった。再移植原因は早期群が拒絶関連11例、血管合併症4例、他3例、晩期群が拒絶関連12例、血管合併症5例であった(p=0.319)。レシピエント1/5年生存率は早期群61.1%/61.1%、晩期群94.1%/86.3%(p=0.055)、グラフト1/5年生存率は早期群55.6%/55.6%、晩期群88.2%/88.2%(p=0.060)であった。フォローアップ期間は早期群7.0年、晩期群4.7年であった。早期群で1例(primary nonfunction)、晩期群で2例(拒絶関連2例)再々移植を行った。死亡例は早期群7例(敗血症3例、血管合併症1例、拒絶関連1例、血球貪食症候群1例)、晩期群2例(拒絶関連2例)であった。血管合併症は早期群4例、晩期群3例、再開腹症例は早期群4例、晩期群7例、拒絶反応は早期群10例、晩期群7例でいずれも有意差を認めなかった。

    結論:初回移植から1年以内の再肝移植と比較し、1年以降の再肝移植では生存率の改善がみられた。

  • 青木 光, 伊藤 孝司, 平田 真章, 上林 エレーナ幸江, 奥村 晋也, 政野 裕紀, 岡本 竜弥, 小川 絵里, 岡島 英明, 波多野 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s326_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景

    グラフト肝のうっ血領域の肝機能については未だ不明な点は多い。小児症例でグラフトサイズが小さい場合、中肝静脈を伴わない内側区域をグラフトにつけるべきか否かについては議論のあるところである。

    方法

    2006年から2021年に京都大学で施行された15歳以下の胆道閉鎖症術後の初回生体肝移植のうち、GRWR2%未満のレシピエントを対象とした。うっ血領域を含むMHVなし左葉グラフト15症例をうっ血あり群、MHVあり左葉グラフトと外側区域グラフト38症例をうっ血なし群とし術後成績を比較検討した(Study1)。次に、うっ血あり群の症例で、術前のドナーのCT画像から非うっ血領域のみのGRWRを算出した。うっ血領域を追加した場合の影響をみるため、2群間で非うっ血領域のGRWRが同程度となるように、うっ血なし群の中でGRWR1.4%未満の症例18例を抽出し(うっ血なしSmall群)、術後成績を比較検討した(Study2)。

    結果

    Study1:うっ血あり群では、うっ血なし群と比べ、PTの回復は有意に悪く、腹水量も有意に多かった。

    Study2:うっ血あり群では、うっ血なしSmall群と比べ、術前の背景因子や非うっ血領域のGRWRが同程度あり、うっ血領域の分GRWRは平均0.32%大きいにも関わらず、PTの回復は有意に悪く、腹水量も有意に多く、入院中に投与を要したアルブミン量、γグロブリン量も有意に多かった。

    結語

    小児症例にとって、small for sizeが危惧されるような場合、GRWRを単純に大きくするためにうっ血領域を追加することは、悪影響を及ぼす可能性がある。

  • 直江 篤樹, 土屋 智寛, 村山 未佳, 近藤 靖浩, 渡邉 俊介, 安井 稔博, 井上 幹大, 鈴木 達也
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s327_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】肝移植術前検査にて胸腔内腫瘍が疑われた胆道閉鎖症(BA)術後の2症例を経験したので報告する。

    【症例1】7か月、女児。BA(Ⅲb1ν)にて生後54日に葛西術を行ったが、減黄不良で生体肝移植目的で当院紹介となった。術前の造影CT検査にて右中縦郭に長径約3㎝の内部不均一な増強効果がある軟部腫瘤影を認めた。腫瘤は右心房、下大静脈、横隔膜に接しており、横隔膜の境界が不明瞭であり横隔膜下の浸潤を疑う所見であった。CT再検査で増大傾向を認めたため生体肝移植前に生検を行った。生検結果はリンパ節であり悪性所見は認めなかったため生体肝移植を行った。

    【症例2】2歳、男児。BA(Ⅲa1ν)にて生後62日に葛西術を行った。一旦減黄するも胆管炎を繰り返し黄疸遷延するようになり、減黄不良、成長障害で生体肝移植適応のため当院紹介された。術前CT検査 にて横隔膜上に長径約3cmの腫瘤影を認めた。生検を検討したが、針生検はリスクが高いと判断されたこと、CT再検査では増大傾向は認めないこと、悪性リンパ腫としては非典型的な部位である事から、PET-CT検査を行い集積がないことを確認し生体肝移植を行った。

    【考察】移植前に肺野に軟部影を認めた報告は数例あるが、奇静脈瘤が巨大化したものなどでありリンパ節腫脹による報告はなかった。造影CTだけでは悪性腫瘍が否定できない症例では、生検、PET-CTなどを考慮する必要があると考えられた。

  • 堀内 俊男, 眞田 幸弘, 大西 康晴, 岡田 憲樹, 平田 雄大, 大豆生田 尚彦, 佐久間 康成, 佐田 尚宏
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s327_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:肝移植における胆管外瘻チューブを用いた胆道再建の有用性が報告されているが,方法や管理に関する検討は少ない.今回,胆道再建時に留置した胆管外瘻チューブの位置別に胆道合併症の有無を検討したので報告する.

    方法:対象は2011年6月〜2021年12月に胆管外瘻チューブを用いて胆管空腸吻合を行った小児生体肝移植113例.胆管空腸吻合は4Fr膵管チューブを肝内胆管に挿入して前壁中央に固定し外瘻とした.チューブ排液が多い場合やクランプにて肝障害を認める場合は外瘻管理を継続し,術後3カ月時に抜去した.

    結果:113例に対して121本(2本留置:8例)の胆管外瘻チューブを留置し,移植終了時のチューブ先端位置はB3:62本,B2:46本, 左肝管12本,逸脱1本であった.56例に監視胆汁培養を施行し,培養陽性は42例(75.0%)であった.胆管外瘻チューブ留置中の10例(8.8%)に胆管炎を認め,B3:5例(4.4%),B2:4例(3.5%), 2本留置1例(0.9%)であった.8例は監視培養を参考にした抗菌薬治療で改善したが,2例は肝内胆管拡張を伴う閉塞性胆管炎を来たし,PTBDを施行した.胆管外瘻チューブ抜去後の5例(4.4%)に胆管空腸吻合部狭窄を認め,B3:4例(3.5%),B2:1例(0.9%)であった.小腸鏡下IVR治療を4例,PTBDを1例に施行した.

    結語: 胆管外瘻チューブを用いた胆道再建により術後胆管空腸吻合狭窄を予防できるが,B3留置時は閉塞性胆管炎を合併することがあり,症例によりチューブ変更を考慮する必要がある.

  • 柳 佑典, 松浦 俊治, 内田 康幸, 梶原 啓資, 鳥居ヶ原 幸博, 白井 剛, 河野 雄紀, 田尻 達郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s327_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】小児肝移植ではレシピエント門脈径が細く,しばしば門脈再建に苦慮する.当科の小児生体肝移植における門脈再建について検討し報告する.

    【対象と方法】2008年~2021年に当施設の小児生体肝移植94例について診療録を基に後方視的に検討した.結果は中央値を示す.

    【結果】94例の移植時年齢1.0歳,体重8.2kg,胆道閉鎖症は54例(57.4%).門脈再建法は,Ⅰ:本幹と直接吻合:23例,Ⅱ:臍静脈まで伸ばして吻合:3例,Ⅲ:間置graft:4例,Ⅳ:前壁graft patch:24例,Ⅴ:branch patch:40例に分けられた.Ⅲ,Ⅳ群で使用したvein graftは1例を除き27例はドナーIMVを使用した.Ⅰ群は年齢8.2歳,体重21.8kgと年長児が多く,Ⅱ群は新生児,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ群は順に年齢:0.7歳;0.8歳;1.0歳,体重:5.6kg;6.4kg;8.3kgと順に低年齢,低体重でいずれもⅠ群と有意差を認めた.レシピエントのnative門脈径はⅠ:10mm,Ⅱ:9mm,Ⅲ,Ⅳ:4mm,Ⅴ:6.0mmとⅢ,Ⅳ,Ⅴのplastyを要した症例は優位に細かった.また,Ⅲ,Ⅳ群ではそれぞれ2例,5例の門脈逆流症例を認めた.Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ群はplasty後レシピエント門脈径は1.75倍,2.5倍,2.14倍となった.グラフト肝とレシピエント門脈の吻合径の差はⅠ:4mm,Ⅱ:1.5mm,Ⅲ:7mm,Ⅳ:3mm,Ⅴ:0mmでⅢ群のみ形成後も有意に差が大きかった.術後門脈合併症はⅠ,Ⅱ群になく,Ⅲ:2例(50%),Ⅳ:7例(29.2%),Ⅴ:3例(7.5%)に認めた.形成法による統計学的有意差は見られなかったが,最終的なレシピエント門脈の吻合径が細いほど合併症が多い傾向にあった.

    【結語】前壁graft patchおよびbranch patchは十分な吻合径が得られていたが,IMVを用いた間置graftは細く,使用するvein graftや形成法を慎重に選択する必要がある.

  • 児玉 匡, 小峰 竜二, 中尾 俊雅, 岡田 憲樹, 清水 誠一, 内田 孟, 阪本 靖介, 福田 晃也, 笠原 群生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s328_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】アラジール症候群(AGS)は乳児期から慢性胆汁鬱滞を認め、心血管などに肝外症状を伴うことがある遺伝性肝内胆汁鬱滞症であり、乳児期に肝移植が必要になることがある。

    【目的】2022年5月までに当院で行われたAGSに対する肝移植を後方視的に検討した。

    【結果】15例のAGSに対して肝移植が施行されており、1例が脳死肝移植であった。生体ドナーは全例MRCPを施行し胆管に異常が無い事を確認していた。適応は、全例胆汁鬱滞に伴う肝障害と成長障害であり、うち4例は非常に強い掻痒感でQOLの著しい低下も認めていた。肝外症状では12例(75%)に末梢肺動脈狭窄、11例(69%)に蝶形椎体、9例(44%)に特異的顔貌、6例(40%)に後部胎生環の合併を認めた。男女比は8:7で移植時の月齢中央値は10か月であった。身長体重の中央値は62.2cm(Z-スコア:−3.7)と5.9kg(Z-スコア:-3.0)で、著しい成長障害を認めていた。移植後観察期間中央値は5.4年で、生存率は86.7%であった。術後1、3、5年での身長体重のZ-スコアはそれぞれ-1.9、-1.1、-0.4と-1.1、-0.4、-0.6であり、成長障害の改善を認めていた。移植前に末梢肺動脈狭窄を認めた12症例においては増悪なく、心不全を生じた症例は現時点では認めなかった。

    【結語】肝移植が必要になるAGSでは成長障害を認めるが、移植後の成長および経過は良好と考えられる。一方で心血管障害といった肝外病変に対しては移植後も継続した経過観察が重要である。

  • 渡辺 正明, 嶋村 剛, 後藤 了一, 川村 典生, 太田 拓児, 武冨 紹信
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s329_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:小児のvaccine preventable diseaseは移植後留意すべき感染症であるが、移植前に予防接種を完遂できる症例は限られる。一方、臓器移植後の弱毒生ワクチン接種は、流行状況などを加味し実施を考慮すべきとされている。小児肝移植患者に対する弱毒生ワクチン接種の安全性と有効性を検討した。

    対象・方法: 肝移植後小児患者のムンプス、風疹、麻疹、水痘ワクチン接種歴と、抗体価(IgG)を測定した。ワクチン接種基準(免疫抑制剤の血中トラフ値が低値、肝機能安定、十分なリンパ球数、リンパ球幼若化試験が基準値内、血清IgG 500 mg/dl以上)を満たす抗体値陰性患者に、倫理委員会承認のもと、informed consentを得た上で弱毒生ワクチンを接種した。

    結果:対象は2-15歳の32例(男児8例、胆道閉鎖症27例、急性肝不全2例、Alagille症候群2例、肝芽腫1例)。ムンプス22例、風疹14例、麻疹14例、水痘21例でワクチン未接種であり、ムンプス13例(41%)、風疹15例(47%)、麻疹8例(21%)、水痘16例(50%)で抗体価陰性であった。このうちワクチン接種基準を満たす11例に弱毒生ワクチンを接種した。接種後抗体価陽転化率は、ムンプス13%、風疹88%、麻疹100%、水痘50%であった。ムンプス1例、水痘2例では、追加接種により抗体価が陽転化した。ワクチン接種による疾患発症を含む有害事象は認めなかった。

    結語:ワクチン接種基準を満たす肝移植後小児患者に対する弱毒生ワクチン接種は安全に施行できた。麻疹、風疹では多くの症例で抗体価陽転化したが、水痘、ムンプスでの陽転化率は低値であり、追加接種などの対策が必要である。

  • 納屋 樹, 井原 欣幸, 田村 恵美, 前田 慎太郎, 新村 兼康, 水田 耕一
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s329_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】腹部手術後の乳糜腹水は剥離操作等に伴う合併症で、一般に中鎖脂肪酸を用いた食事療法やソマトスタチンアナログ投与による治療法が知られているが、血液凝固第XIII因子製剤の有用性に関する報告は少ない。今回生体肝移植術後の乳糜腹水に対して第XIII因子製剤の投与が奏功したと考えられる一例を経験したため報告する。

    【症例】7ヶ月男児、体重8kg。胆道閉鎖症術後非代償性肝硬変に対し母親をドナーとする生体肝移植を施行した。術中門脈血流障害を認め、ドナー空腸静脈による血管グラフト間置と、後腹膜から側腹部に及ぶ門脈側副血行路の郭清を行った。術後5日目より腹水の増加を認め(max 525ml/kg/日)、術後10日目の肝生検で中心静脈内皮炎を伴う高度T細胞関連型拒絶反応の診断となった。術後11日目よりステロイドパルス療法を行うも腹水量の再増加を認め、術後17日目よりサイモグロブリン療法を開始した。経過中、肉眼的乳糜腹水となり術後11日目よりMCTミルクへ変更したが効果なく、術後21日目には腹水中トリグリセリド(TG)252 mg/dlと増悪を認めた。この時点の第XIII因子活性が25%と低下を認めたため、術後21日目より5日間第XIII因子製剤を投与した。開始翌日より腹水量の減少と性状の改善を認め、腹水中TG は34 mg/dlと低下した。術後37日目にドレーン抜去し術後61日目に自宅退院となった。

    【結語】肝移植後乳糜腹水の治療として第XIII因子製剤投与は第一選択肢になり得る。

  • 中尾 俊雅, 阪本 靖介, 小峰 竜二, 兒玉 匡, 岡田 憲樹, 内田 孟, 福田 晃也, 野坂 俊介, 笠原 群生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s329_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】肝静脈狭窄は小児肝移植後に認められ,グラフト不全の原因となる合併症である.治療方法としては,バルーン拡張,ステント留置及び再吻合術がある.今回我々は当院で経験した肝静脈狭窄症の治療選択及び成績を報告する.

    【対象】 2005年11月から2022年4月に肝移植を施行した713例のうち,術後1ヶ月以降で肝静脈狭窄を認めた6例(0.8%)を対象とした.

    【結果】移植時平均月齢は43.8ヶ月,性別は男児2例女児4例,原疾患は2例が急性肝不全,2例が胆道閉鎖証,2例がWilson病であった.外側区域グラフトが4例,左葉グラフトが2例,平均GRWRは2.55%であった.術後平均観察期間は7年11ヶ月,術後8年10ヶ月に慢性拒絶反応で死亡した1例以外は肝不全で再移植した1例含め全例生存している.肝移植から初回カテーテル治療までの平均期間は2.83ヶ月.全例でカテーテル治療により肝静脈狭窄は解除できた.バルーン拡張で改善を認めなかった2例及び再発を繰り返した1例でステントを留置した.治療回数の平均は1.5回であり,肝静脈狭窄が再発した3例は平均2ヶ月後に再発した. 

    【考察・結語】当院における肝静脈狭窄の頻度は低く,カテーテル治療の成績は良好であるが,カテーテル治療後早期に再発を繰り返す症例があり注意が必要である.またステント留置は再移植時のリスクであり適応を慎重に決定する必要がある.

  • 清水 誠一, 阪本 靖介, 福田 晃也, 内田 孟, 岡田 憲樹, 中尾 俊雅, 児玉 匡, 小峰 竜二, 羽賀 千都子, 中野 憲之, 義 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s330_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】肝移植後の慢性拒絶反応(CR)はグラフト予後に影響するが、未だ不明なことが多く、小児肝移植後のCRについて文献的考察を加えて報告する。

    【対象】2005年11月以降当科で小児生体肝移植を施行し、術後1年以上経過して肝生検で病理学的評価をし得た370例(移植時月齢9.8(1-144))を対象とした。CRの診断はBanff criteriaに準拠した。

    【結果】病理組織学的検討でearly CRと診断された症例は38例(10.3%)であった。原疾患は胆汁うっ滞性疾患16例、急性肝不全6例、代謝疾患5例、移植後グラフト不全3例、その他8例であった。診断までの期間の中央値は73.6か月(15 - 168)であり、移植後5年以内にearly CRと診断された症例は16例(42.1%)、5年から10年が12例(31.6%)、10年以降が10例(26.3%)であった。early CR症例に対する免疫抑制療法強化の内訳は、単剤によるカルシニューリン阻害剤増量が11例、2剤併用が10例、3剤併用が11例、4剤併用が6例であった。治療期間の中央値は27.8か月(2.7 – 94.7)で、治療後も11例では線維化および萎縮の進行を認めた。すでに4剤併用している2例以外はmTORiやMMF追加などの更なる免疫抑制療法強化をおこなったが、3例はlate CRに進行し、グラフト不全で再移植に至った。early CR診断から再肝移植までの期間は、21か月、101か月、102か月であった。

    【結語】early CRの診断後に免疫抑制療法強化によって萎縮や線維化進行が止まる症例とlate CRに進行する症例が存在するため、慎重な免疫抑制管理と定期的な肝生検評価が必要である。 

  • 田中 秀明, 滝口 和暁, 南 洋輔, 清水 裕史, 西間木 淳, 佐藤 直哉, 丸橋 繁
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s330_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     移植術後の創離開は併発する感染や低栄養、免疫抑制も相まって時に難治性であり、治癒後の大きな瘢痕形成は美容上の問題となる。PICOⓇ7(Smith & Nephew)(以下本装置)は、キャニスターのない単回使用の小型局所陰圧閉鎖療法システムであるが、本装置の小児の離開創への使用報告は限られている。

     症例は9か月女児(体重5.5kg)、原因不明の胆汁うっ滞性肝硬変に対し生体肝移植を受けた。術後2週目に逆T字切開創の右側1/3に感染をきたし、筋層上まで離開した。またその創の尾側に熱傷(閉創時の皮下剥離操作による)による径1.5cmの皮膚欠損を認めた。洗浄処置にて前者の感染を抑え、移植後26日目より本装置を装着した。二か所の離開部の創縁をそれぞれステリストリップⓇにて寄せ、胆管ステントの出口部を避けつつドレッシングを貼付した。胆管ステントがドレッシングの下を走る隙間からエアリークが生じたが、テープ補強を強化することで解決した。週二回のドレッシングの交換を繰り返し、計3週間の治療を完遂、整容性にも満足のいく上皮化が得られた。

     肝移植症例に本装置を使用する場合は胆管ステント出口部に陰圧がかからないよう注意することと、ステント走行部のすき間からのエアリーク防止が重要である。-80mmHgの陰圧設定においても皮膚トラブルを生じず、本装置が今後小児の創傷治療の有用な選択肢の一つとして期待できると考えられた。

  • 安井 稔博, 直江 篤樹, 近藤 靖浩, 渡邉 俊介, 井上 幹大, 鈴木 達也
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s330_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】イヌリンクリアランス検査(以下、ICtest)を実施し、小児の糸球体濾過量予測値と比較することで今後の腎機能評価において注意すべき点を検討することを目的とした。

    【対象と方法】2004年6月から2020年12月までに藤田医科大学病院で生体肝移植術を実施した15歳以下の小児患者を対象とした。対象患児にICtestを実施し、得られた糸球体濾過量(以下GFR: glomerular filtration ratio, ml/min/1.73m2)の結果を血清クレアチニン(以下、Cre)および血清シスタチンC(以下、CysC)による日本人小児の予測GFR、Schwartzの推算式で得られた予測GFRとそれぞれに対しBland-Altman plotを用いて統計学的に比較した。

    【結果】12名に実施した。ICtestによるGFRが90を下回っていたのは6例であった。予測GFRとICtestによるGFRにはそれぞれ相関を認めた。

    【結語】予測式はいずれもICtestとの相関を認めた。日本人予測式でのGFRにおいてCre, CysCのいずれかが100を下回る症例はICtestでは90を下回っている可能性が高そうであった。

  • 工藤 裕実, 筋野 智久, 山田 洋平, 東條 杏奈, 金森 洋樹, 高橋 信博, 加藤 源俊, 長谷川 康, 松原 健太郎, 岡林 剛史, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s331_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【諸言】小腸移植の成績改善には小腸特有の拒絶反応メカニズムの解明が必要である。本研究ではシングルセル解析および腸内細菌叢解析を行い、ドナー、レシピエント間における腸管免疫細胞のダイナミズムと腸内細菌叢の変化を明らかにすることを目的とした。

    【方法】当院で施行された脳死小腸移植の1例において、術後経時的に内視鏡下で小腸生検および腸管上皮付着菌の回収を行なった。腸内細菌は16S rRNA解析を行い、 グラフト腸管細胞におけるsingle cell RNA解析にSingle Nucleotide Polymorphism (SNP)解析を加えて解析を行う新手法によりドナー由来細胞、レシピエント由来細胞を分けて捉えることを可能とし、組織中の細胞分画や遺伝子発現解析を行った。

    【結果】シングルセル解析により、レシピエント由来細胞においては急性拒絶反応に伴い骨髄球の割合が増加し、拒絶後にCD8+T細胞に置き換わるダイナミズムが確認された。また、急性拒絶反応の間グラフト腸管におけるレシピエント由来細胞の数は非常に少なかった。腸内細菌フローラパターンは移植前後で大きな変化を認めた。

    【考察】我々は脳死小腸移植において初めて急性期拒絶反応における腸管内免疫細胞のシングルセルレベルでの遺伝子発現および細胞種類のダイナミズムをドナー、レシピエント由来細胞を分ける新たな解析技術を利用することで可能にした。また急性拒絶反応には腸内細菌叢の変化が関わっている可能性が示唆された。

  • 松本 匡永, 内田 康幸, 河野 雄紀, 梶原 啓資, 鳥井ケ原 幸博, 白井 剛, 栁 佑典, 松浦 俊治, 田尻 達郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s331_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    本邦での小腸移植患者の原疾患の約4割が腸管運動機能障害であり、海外に比して多い。当科ではこれまでにHirschsprung病類縁疾患に対する脳死単独小腸移植を3例実施した。症例1:慢性特発性偽性腸閉塞(CIIPs)の29歳男性。長期静脈栄養の結果、カテーテル関連血流感染(CRBSI)を繰り返し、中心静脈ルートが枯渇したため、脳死小腸移植を施行した。術後native十二指腸の滞留により急性膵炎、経口摂取困難が続き、十二指腸グラフト小腸吻合術を追加した。移植後147日目に退院したが、5日後に急性拒絶を発症し、CMV感染も併発した。最終的にグラフト摘出まで施行したが移植後1年2か月で死亡した。症例2:CIIPsの36歳男性。頻回のCRBSIと中心静脈ルート枯渇のため、脳死小腸移植を施行した。術後、graft腸管に留置していた栄養チューブが胃に迷入し、栄養内服管理が困難となったため、腸瘻再造設を要した。移植後141日に退院。移植後2年が経過し、電解質補正は要するが、これまで拒絶反応はなく、stoma, device-freeとなっている。症例3:Hypoganglionosisの19歳女性。新生児期から腸管運動機能障害を認め、頻回のCRBSIと中心静脈ルート枯渇のため、脳死小腸移植を施行した。栄養摂取は全量経口で可能で術後76日目に退院。術後4ヶ月経過し、1度も拒絶所見は認めていない。各例native腸管の機能的差異から、消化管再建や栄養・薬剤投与ルートの確保に工夫が必要であった。比較検討して報告する。

  • 松島 肇, 藤木 真人, 曽山 明彦, 原 貴信, 今村 一歩, 足立 智彦, 日髙 匡章, 江口 晋
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s331_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    [背景]結腸を含む小腸移植は腎保護効果の面からも十分長の残存結腸が有さない患者に有用な術式であると報告されている。今回我々はSRTRデータベースを用いて結腸付き小腸移植がグラフト生着及び拒絶反応に及ぼす影響を後方視的に検討した。

    [対象と方法]1998年から2017年の間に小腸移植を受けた2372例を対象に、結腸を含む小腸移植372例(結腸+群)と結腸を含まない2000例(結腸−群)を傾向スコアマッチングを用いてグラフト生着率、患者生存率、移植後6か月以内の急性拒絶発症の頻度を比較した。

    [結果]傾向スコアマッチング後の結腸+群356例と結腸−群356例を比較してもグラフト生着率(P=0.812)、患者生存率(P=0.696)に有意差はなかった。一方で、移植後6か月以内急性拒絶反応の発症率は結腸+群40.1%と結腸−群32.1%に比べ有意に高かった(P=0.043)。全コホートで移植後6か月以内急性拒絶反応のリスクを多変量解析すると、結腸付きグラフト、高齢ドナー年齢、B細胞クロスマッチ陽性、免疫導入療法使用が独立した危険因子であった。さらに、結腸付きグラフトを用いた372例でそれらの因子と移植後6か月以内急性拒絶反応の発症率との関連を見てみると、ドナー年齢が高くなるにつれ急性拒絶の発症率が上昇する傾向を認めた。

    [結語]結腸付きグラフトはグラフト生着率に影響は及ぼさないが、移植後早期の拒絶反応のリスクを高める可能性があり、ドナー年齢はそのリスクに影響し得る。

  • 曽山 明彦, 松島 肇, 小坂 太一郎, 藤田 拓郎, 原 貴信, 今村 一歩, 足立 智彦, 日高 匡章, 江口 晋
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s332_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    肝小腸同時移植の実施に向けて、肝臓レシピエント選択基準における腸管不全関連肝障害(Intestinal failure-associated liver disease, IFALD)の患者の優先順位に関する改正が行われたことは大きな一歩である。肝臓移植レシピエント選択基準において、小腸移植適応評価委員会において肝・小腸同時移植の適応と判断された患者は(総ビリルビン値 6mg/dl 以上) 、MELDスコア16点での脳死肝移植待機登録が可能となり、その後、180日毎に2点が加点される。1年間待機するとMELDスコアが4点上昇することになる。2年経過時には24点となり、肝臓があっせんされる可能性が高まる。肝小腸同時移植の希望者に肝臓があっせんされることになった場合、レシピエント選択基準に従って、肝臓、小腸が同時にあっせんされる。抄録執筆時点では、IFALDで待機登録している患者はいないが(小腸移植待機登録者数は11名)、現段階からレシピエント選択基準の正しい理解のもとに準備を進めることが必要となる。例えば膵臓の提供がない場合やあっせんが行われない場合の摘出手術の実際について学会内で臓器横断的にコンセンサスを確立しておくこと、また肝小腸同時移植の際のロジスティックスについて、行政や日本臓器移植ネットワークと情報共有しておくことが重要である。

  • 城崎 浩司, 山田 洋平, 前田 悠太郎, 山岸 德子, 工藤 裕実, 金森 洋樹, 高橋 信博, 加藤 源俊, 長谷川 康, 松原 健太 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s332_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】移植後リンパ球増殖性疾患(Post-transplant lymphoproliferative disorder, PTLD)はEBVの初感染、再活性化を背景とした移植関連合併症で小腸移植後に特に多いとされる。近年腸管不全の内科的治療が向上し小腸移植後の長期予後が期待され、PTLDの重要性が増すと思われる。今回脳死小腸移植後に高EBV血症を呈しリツキシマブ投与で治療を行った症例を経験したため文献的考察を含め報告する。

    【症例】症例は19歳女性、腸管神経節細胞僅少症を原疾患に脳死小腸移植を施行した。サイモグロブリンで免疫抑制を導入、タクロリムス、ステロイド、エベロリムスで維持し明らかな拒絶なく経過している。術後1か月より血中EBVコピー数が増加し、52日目に20000まで上昇した。明らかな感染徴候はなく画像検査で腫瘤は認めなかったが、急激なコピー数増加からPTLDへの移行を懸念し53日目にリツキシマブを投与し数値は200まで改善した。現在術後3ヶ月を経過し、トラフ値7 ng/mL前後のタクロリムス、0.2 mg/kgのステロイドで免疫抑制を維持している。

    【考察】複数の単施設報告では小腸移植後PTLDの頻度は13-17%、死亡率は16%と報告され、早期発見および介入の重要性が述べられている。治療は免疫抑制剤の減量であるが小腸移植後では拒絶反応が同時に発生することもあり過度な減量は危険である。無症候性の症例や高い再発率が報告されており本症例では引き続き慎重な経過観察を要すると考えている。 

  • 中江 昌郎, 吉岡 大輔, 戸田 宏一, 川村 匡, 齊藤 哲也, 河村 拓史, 河村 愛, 松浦 良平, 三隅 祐輔, 宮川 繁
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s333_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】臓器移植法改正後、心臓移植数は増加しつつあるが、依然ドナー不足は逼迫しており、移植待機期間は年々延長している。海外に比べマージナルドナー心の使用率も高い。今回、当科での心臓移植後成績にマージナルドナーが及ぼす影響について検討した。

    【対象・方法】2007〜2022年に当院で18歳以上のレシピエントに施行した心臓移植108例を対象とした。マージナル因子を一つも持たないドナー群(N群)および何らかのマージナル因子を持つドナー群(M群)の2群に分け検討を行った。さらに、M群の中でマージナル因子数別に比較を行い、その影響を検討した。

    【結果】マージナル因子を持たないドナー心は全体の15%(16例)であった。フォロー期間中に9例の死亡を認めた。10年生存率でN群とM群の間に有意差を認めなかった(N群 vs. M群:88% vs. 88%; p=0.66)。primary graft dysfunction (PGD)発症率も、2群間に有意差を認めなかった(19% vs. 23%; p=0.757)。一方で。マージナル因子数毎に検討した結果、マージナル因子が2個以下ではPGD発症率はN群と同等であったが(N群 vs. M≦群 19% vs. 20%; p>0.99)、3個以上の症例ではPGD発症率が有意に高い結果であった(N群 vs. M≧3群 19% vs. 59%; p=0.01)。

    【結語】当院では多くの症例に何らかのマージナル因子を持つドナー心を使用していたが、その成績は非常に良好であった。マージナルドナー心の適切な活用は、ドナー不足を解消する一つの選択肢と考えられた。

  • 三上 翔, 河村 拓史, 三隅 祐輔, 河村 愛, 松浦 良平, 斎藤 哲也, 平 将生, 川村 匡, 吉岡 大輔, 島村 和男, 戸田 宏 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s333_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】末期重症心不全に対する心臓移植の良好な治療成績が報告される一方で、待機期間の長期化や深刻なドナー不足などの課題がある。臓器提供の推進に加えて、心臓移植におけるドナー適応基準の見直しも急務である。今回、僧帽弁閉鎖不全症(MR)を伴うドナー心に対してバックテーブルで僧帽弁形成術(MVP)を行った心臓移植の2例を報告する。【症例1】38歳女性。アドリアマイシン心筋症に対して体外式左室補助人工心臓(LVAD)装着状態で移植待機中に臓器提供を受ける方針となったが、三次評価でこれまでに指摘のない重症MRが判明した。僧帽弁後尖の腱索断裂と弁尖逸脱を認め、バックテーブルで三角切除法によるMVPを行った後に心臓移植を行った。総虚血時間は246分であった。術後1年7ヵ月に渡りMRの再発を認めなかった。【症例2】48歳女性。虚血性心筋症に対して植込型LVAD装着状態で移植待機中に臓器提供を受ける方針となったが、三次評価でこれまでに指摘のない中等症から重症の機能性MRが判明した。僧帽弁弁尖に異常を認めず、バックテーブルで僧帽弁輪縫縮術を行った後に心臓移植を行った。総虚血時間は212分であった。術後9ヵ月に渡りMRの再発を認めていない。【結語】MRを伴うドナー心は一般的にはマージナルドナーとみなされるが、心機能が保たれ虚血許容時間内にMVPが実施可能と想定される場合には、虚血時間を最小限に抑える戦略下に積極的に使用することが許容される可能性がある。

  • 國部 祐吾, 安藤 政彦, 井上 龍, 石井 大介, 金子 寛行, 尭天 孝之, 小前 兵衛, 木村 光利, 嶋田 正吾, 山内 治雄, 小 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s333_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景)2015年に心臓外科周術期の肺高血圧症への一酸化窒素吸入療法(iNO)が保険償還されたが、本邦の心臓移植後におけるその有用性のデータは限られている。

    方法)当院で施行した178例の心臓移植のうち、当院でiNOが使用可能となった2016年以降の成人心臓移植95例が対象、術後のiNO使用の有無で比較した。

    結果)iNO vs 非iNO群で16 vs 79例。投与時間の中央値は20.4時間、年齢/性別/原疾患/移植前心機能/虚血時間に有意差なし。iNO群で移植前PDE-V阻害薬の内服が多く(44 vs 14%, p=0.015)、移植後1週の肺血管抵抗が高かった(1.6 vs 1.3単位, p=0.045)。iNO群で移植3日後のSOFAスコアが高い傾向あり(7 vs 6点, p=0.052)、挿管時間も長いが(20 vs 14時間, p=0.002)、ICU滞在日数や(7 vs 7日, p=0.311)、生存率に有意差なし。

    結語)移植後iNO使用率は約17%であり、肺血管抵抗の高い症例で使用される傾向あり。iNO使用の有無による生存率の差はない。

  • 薦田 宗則, 西村 隆, 福西 琢磨, 得松 美月, 山田 文哉, 黒部 裕嗣, 三好 徹, 東 晴彦, 青野 潤, 井上 勝次, 池田 俊 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s334_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:血流感染を発症したVAD患者は血流感染のない患者と比較し脳血管障害を発症しやすいと報告されている。しかし血流感染から脳血管障害に至るまでの過程については解明されていない。目的:VAD治療における血流感染と脳血管障害の関係性を明らかにする。対象と方法:当施設においてVAD植込みを行った20症例を対象とし血流感染陽性群(BSI+群11例)、血流感染陰性群(BSI-群9例)に分けた。BSI+群の中で脳血管障害を発症しなかった群(CVA-群)と発症した群(CVA+群)の2群に分け比較した。またBSI+群かつCVA+群においてNIH Stroke Scale(NIHSS)19以下を発症した群(non-critical群)と20以上を発症した群(critical群)に分けて脳血管障害を発症するまでの日数、血液培養陽性の回数を比較した。また同様に脳血管障害を発症する直前CRP、WBC、発症する1週間前のCRP、WBCの平均値について比較した。結果: BSI-群、BSI+群とCVA-群、CVA+群の間のFisher検定はp= 0.01252であった。また直前のCRPはnon-critical群(3.3±3.3)、critical群(6.5±1.8)、p=0.044であった。直前のWBCはnon-critical群(7.5±2.4)、critical群(11.8±2.5)、p=0.016であった。考察・結論:血流感染を発症した群ほど、脳血管障害を引き起こす傾向にあり血流感染と脳血管障害が関連している可能性が示唆される。また血液培養陽性かつNIHSS20以上の脳血管障害を発症している症例では、直前のCRP、WBCは有意に高くなっており、予後に関わる脳血管障害を引き起こす指標となる可能性が示唆された。

  • 小谷 恭弘, 横田 豊, 山﨑 悟, 清水 秀二, 黒子 洋介, 廣田 真規, 宍戸 稔聡, 新谷 泰範, 笠原 真悟
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s334_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:右心不全は脳死ドナー(DBD)からの心臓移植後早期の重要な合併症である。心停止ドナー(DCD)においては、DBDに比べ心停止に至る過程の圧・容量負荷により右心不全のリスクは高くなる。そこで、心停止による心筋の機械的ストレスを明らかにするため、early response geneであるc-jun及びc-fos mRNAに着目した。

    方法:鎮静・鎮痛下ラットの気管を結紮し、心停止を誘発した。気管結紮時点を開始点とし、0、15、30、45分の時点で心臓を摘出し、右室自由壁、左室自由壁をそれぞれ採取した。Total RNAを抽出し、cDNAに逆転写を行い、droplet digital PCR法にてc-jun及びc-fos mRNAを定量した。

    結果:左室自由壁では、c-jun及びc-fos mRNA量は気管結紮15分後に最大となり、30分後には、結紮0分後の値まで戻っていた。一方、右室自由壁では、c-jun及びc-fos mRNAは 結紮15分後から増加し、気管結紮後30分後にピークを示した。結紮45分後にもc-jun mRNAは増加したままであった。

    結語:右室では、左室と比較してc-jun及びc-fos mRNAの上昇が遷延することが判明した。このことは、DCDにおいて右室への機械的ストレスが持続していることを示しており、右心不全の原因となる機械的ストレスを取り除くことが重要であると考えられた。

  • 任 芝杏, 菊池 規子, 曽根 麻衣子, 服部 英敏, 野本 美智留, 市原 有起, 齋藤 聡, 新浪 博士, 山口 淳一, 布田 伸一
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s334_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】我が国では心臓移植まで長期に及ぶ待機を要し、90%以上の患者で年単位

    の植込型左室補助人工心臓(iLVAD)装着を経て移植に到達する。iLVAD植込前後で大

    動脈壁の形態的変化を観察した報告では、植込後に大動脈のリモデリングと線維化を

    認め、より長期での管理でその変化は顕著であったことが報告されている。

    <症例1>50歳代男性、偽腔開存Stanford A型急性大動脈解離後の低心機能、難治性

    心不全で、発症約2年後にINTERMACS profile 3で心臓移植適応と判定され、iLVAD

    (HeartWare)を装着した。iLVAD植込み時の腹部大動脈径は33mm、植込み1年後で

    36㎜、2年後で36㎜であった。径の拡大について慎重に経過観察中である。

    <症例2>50歳代男性、心筋梗塞後の低心機能、難治性心不全であり、発症約1年後に

    INTERMACS profile 3で心臓移植適応と判定され、iLVAD (EVAHEART)を装着した

    。iLVAD植込み6年2か月後に心臓移植された。移植後約5か月、偽腔開存型Stanford A型

    急性大動脈解離を発症し、上行弓部置換術を施行した。

    【結語】長期にわたるiLVADが大血管に及ぼす影響について詳細は不明なことが多

    いが、長期iLVAD装着がもたらす動脈への影響が待機中・移植後の血管合併症と関係し

    ている可能性もあり、検討結果と合わせ文献的考察を報告する。

  • 羽田 佑, 瀨口 理, 米山 将太郎, 望月 宏樹, 渡邉 琢也, 福嶌 五月, 藤田 知之, 塚本 泰正
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s335_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    症例は30歳代女性。若年性左冠動脈主幹部梗塞による虚血性心筋症を基礎心疾患とした重症心不全に対し植込型補助人工心臓装着下に心臓移植待機。待機後5年目に心臓移植術施行。術後心機能良好で手術当日に抜管。術前腎機能Cr 0.80 mg/dlと問題なく、ステロイド、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルによる免疫抑制を開始。その後タクロリムス投与量を漸増したが、術後2日目より腎機能の悪化を認め、術後12日目にはCr 1.89 mg/dlまで悪化し、全身浮腫を伴う溢水状態となった。術後1週目の心筋病理では拒絶所見認めず、心機能も良好に維持されていたが、腎エコードップラー検査では腎動脈と腎実質内の血流低下を認めた。タクロリムスによる腎血管攣縮による急性腎障害を強く疑い、タクロリムスを中止し、レスキューセラピーとしてバシリキシマブを投与した。タクロリムス中止後より利尿剤投与なく尿量が得られ、溢水状態も速やかに改善した。タクロリムス中止1週間後の腎エコードップラー検査では、腎動脈・腎実質内の血流は著明に改善しており、Creも0.62 mg/dlに改善した。術後28日目からエベロリムス内服を開始し、移植7週目に拒絶のないことを確認後退院した。今回、心臓移植後急性期のタクロリムスによる腎血管攣縮が強く疑われ、バシリキシマブのレスキュー投与を経てエベロリムスへの切替を行ったことで腎血流の改善とともに腎機能の改善を得られた症例を経験したため報告する。

  • 瀬口 理, 米山 将太郎, 羽田 佑, 望月 宏樹, 渡邉 琢也, 塚本 泰正, 福嶌 五月, 藤田 知之, 福嶌 教偉
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s335_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景

    BKウイルス(BKV)腎症(BKVN)は腎移植後症例においてしばしば認められるが心臓移植後症例における報告は少ない。今回、当院心臓移植後2症例におけるBKNV治療経験と、当院にて実施している移植後尿細胞診スクリーニング検査について報告する。

    方法

    国立循環器病研究センター心臓移植症例を対象として実施した尿細胞診検査、血清BKV-DNA定量検査の結果を収集し、後方視的に解析した。

    結果

    1999年から2021年の期間に実施した心臓移植151例中、2例をBKVNと診断した。いずれも移植後より腎機能の悪化を認め、1例目は腎生検所見とBKV-DNA高値により、2例目は血清BKV-DNA高値によりBNVNと診断した。2例ともに診断時の免疫抑制剤であるエベロリムスと減量タクロリムスをエベロリムスと少量ミコフェノール酸に変更することで血清BKV-DNAは低下し、腎機能悪化もプラトーに達した。当院では移植後の117例を対象としてこれまでのべ2478回の尿細胞診検査を実施した(1症例あたりの検査回数中央値16回、平均検査間隔125.9日)。57例(48.7%)にDecoy細胞の出現を認めており、Decoy細胞の出現は①持続陽性、②持続陰性、③混在、④陽転化、⑤陰転化、⑥その他、の6パターンに分けることができた。BKVNと診断した2例では移植後1年以内からDecoy細胞の持続陽性パターンであった。

    結論

    当院におけるBKVNの治療経験を報告した。尿細胞診でのDecoy細胞持続陽性例では腎機能悪化時に積極的に腎生検もしくは血清BKV-DNA検査を行いBKVN早期診断につなげることが望まれる。

  • 安田 宜成, 金 恒秀, 石川 裕介, 斎藤 尚二, 加藤 規利, 小杉 智規, 六鹿 雅登, 丸山 彰一
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s335_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    症例は50歳代男性。Xー12年に心不全のためA病院入院。心筋生検にて拡張型心筋症と診断。その後入退院を繰り返し、心臓移植申請を目的にX-5年7月に名大病院紹介となった。心臓移植適応判定を得て、同年10月に植込み型補助人工心臓(HM-II)植え込み術施行。X年3月24日にドライブラインの断線疑いでHM-IIIへ入れ替え術施行。術後に尿路感染合併し4月2日より抗菌薬治療開始したところ、sCr(mg/dL)0.79-0.96から2.49へと悪化し、その後も改善しないため、4月4日腎臓内科紹介された。CTでは左胸水少量認め、IVC虚脱や水腎症を認めず、腎機能障害の原因は不明であった。ARB中止して経過観察したが4月8日sCr3.02と腎機能は改善せず,別の腎機能検査であるsCysC(mg/L)は0.91と著しい乖離を認めた。4月18日イヌリンクリアランス検査を行い実測GFR84.2(mL/分/1.73m2)、sCr.2.59,sCysC0.85、eGFRcreat21.3,eGFRcys88.8であり、偽性高Cr血症が疑われた。そこで酵素法(シグナスオートCRE)とHPLC法でsCrを比較したところ2.4と0.8であった。酵素法のR-Ⅱ試薬添加後に副波長の吸光度が上昇し続けており、血清に含めれる蛋白成分による混濁が疑われた。その後はsCrは希釈無し、2倍、4倍希釈で評価しており、各々3.23~4.69,0.76~1.14、0.76~0.96であった。心臓移植待機者において偽性高Cr血症を経験したため文献的考察を含め報告する。

  • 野本 美智留, 服部 英敏, 菊池 規子, 吉澤 佐恵子, 横手 沙織, 水谷 美緒, 遠藤 奈津美, 山口 淳一, 布田 伸一
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s336_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    本邦の心移植後の生存率は欧米と比較し良好であり、今後移植後長期生存者のQOL保持、再移植適応は課題になると予想される。特に幼少期に心移植を経験した症例では社会人になる時期に再移植登録を余儀なくされる懸念もある。今回小児期に心移植され、青年期に再移植登録を行うも、再移植待機期間中に死亡に至った症例と他の再移植適応された2自験例の経験から今後の課題について報告する。【症例】拡張型心筋症に対して3歳時に米国で心移植された男性。移植後、リンパ増殖性疾患への加療および移植心冠動脈病変の進行を経て、初回心移植後22年目に難治性心不全に至り再心移植登録となった。カテコラミン持続投与での待機を開始するも、心不全コントロールに難渋し、難治性腹水および繰り返す感染イベントを経験した。最終的に腎障害の進行から透析導入へ至り、心不全の増悪および真菌感染により待機開始から560日目に死亡した。【総括】本邦において、心移植登録患者は長期の待機期間を要し、再移植待機症例においても同様である。再移植待機症例では感染予防の観点から本邦で使用可能な左室補助人工心臓や経皮的機械的補助循環の使用は困難であり、心不全加療は一層困難となる。幼少期の心移植例が再心移植適応に至る時期は思春期前後となることもあり、複雑な心理状態への介入に加え、心不全治療、さらには緩和医療へ慎重に繋いでいかねばならないと思われる。

  • 加藤 倫子, Kim Kyung-Hee, Eisen Howard J
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s336_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    国際心肺移植学会(International Society for Heart and Lung Transplantation)は本年心臓移植レシピエントケア・ステートメントについて、2010年ガイドラインからの更新・改訂を行い、現在リリースに向けて最終調整を行っている。改訂版における更新点は、運動耐容能、競技スポーツ、就学・就労、妊娠・出産、移行期医療、感染症、飲酒・喫煙・各種依存症への医療的介入による指導など多義に渡り、内科医を含む多職種連携の大切さが明記され一層強調される内容となった。特筆すべきは、急性・慢性拒絶反応や感染症予防・治療など医学的な事項における最新の知見は全世界共通である一方、生活面について、各国の文化的・宗教的な背景、医療体制・保険制度の相違を加味して検討する必要にも言及されている点である。これを受け、本ガイドラインは、日本や韓国などアジア圏の文化に則した形で更に見直され、各々の言語でのリリースが議論されている。

    改訂ステートメントで明記された内科医の役割について、Task-Force委員・国際心肺移植学会財団北米代表・同財団アジア圏アンバセダーの立ち場から解説し、今後の課題について検討したい。

  • Yang Yong, 尭天 孝之, 網谷 英介, 木村 利光, 波多野 将, 嶋田 正吾, 小野 稔
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s336_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    The survival for 125 adult HTx by donor originating from the various distant locations was compared. 10-year survival was 86%. There was no difference when comparing donors from each region despite significantly lower ischemic times in donors from area around Tokyo. Each hospital is recommended to survey risk influenced by distant donor location.

  • 大角 明宏, 田中 里奈, 豊 洋次郎, 濱路 政嗣, 中島 大輔, 伊達 洋至
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s337_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     小児の臓器提供は世界的にも少なく、本邦では生体肺移植が選択肢となり得る。しかし小児胸郭に成人下葉グラフトは時に大きすぎるため、当科では区域肺の移植を選択することがある。区域切除はドナーの肺機能を温存できる反面、技術的には通常の下葉切除より煩雑となる。当科での経験症例を提示する。

     これまで7例の生体ドナー肺区域切除を行い、切除区域は右S6/底区:1/4例、左S6/底区:1/1例であった。肺動静脈は区域枝まで十分に露出し、時に血流遮断のため中葉・舌区分枝まで露出が必要である。区域間は、温存区域の動静脈を遮断した後ICGを静脈投与することで、グラフト区域肺となる灌流域をマーキングする。区域間作成の末梢側は主に電気メスで焼灼し、中枢側は自動縫合器で作成する。Sealing testを行い、細気管支瘻や肺瘻は摘出前に可能な限り修復しておく。斜切開を要したドナー肺動脈切離面に対しては心膜パッチを用いて閉鎖する。

  • 杉本 誠一郎, 松原 慧, 清水 大, 橋本 好平, 田中 真, 三好 健太郎, 石原 恵, 富岡 泰章, 塩谷 俊雄, 鹿谷 芳伸, 山根 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s337_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    メディカルコンサルタント(MC)は、従来、移植施設から5類型施設に派遣される移植医により行われてきた。今後の臓器提供の増加によりMC制度の維持困難が予測されるため、現在、5類型施設が自立して評価・管理できるようなマニュアル作りが進められている。肺MCでは、肺移植施設10施設と非移植施設2施設の合計12施設で各地区を担当しているが、当院は中四国8県を担当しており担当県数は最多である。一方、脳死下臓器摘出時に提供施設の近隣にある移植施設の協力を得て摘出手術を行う「互助制度」が、腹部臓器では積極的に利用されている。こうした互助制度を肺MCに取り入れた、肺MC互助の取り組みについて報告する。2021年1月~2022年5月に当院が担当した肺MC 11例のうち3例を対象にした。過去に当院で肺移植や肺MCの経験がある、非移植施設の移植認定医や呼吸器外科専門医に互助を依頼した。肺MCの互助には①移植施設から派遣された肺MCを非移植施設の呼吸器外科医が支援する場合と、②非移植施設の呼吸器外科医が自身で肺MCを担当する場合がある。前者は若手医師が肺MCを初めて担当する場合に有用で、後者は手術等で移植施設から肺MCを派遣できない場合に有用であった。3例とも円滑に業務は遂行され、提供肺は肺移植に使用された。肺MC互助は、5類型施設が自立してMC業務を担当するまで、業務移管の一つの選択肢となりうる。

  • 富岡 泰章, 三好 健太郎, 田中 真, 杉本 誠一郎, 伊賀 徳周, 金井 理恵, 二階 哲朗, 豊岡 伸一, 山根 正修
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s337_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】脳死下臓器提供の少ない本邦では、小児レシピエントに適切な脳死ドナーからの肺の提供は少なく、生体肺移植を選択することがある。また、肺移植までのブリッジECMOは生体肺移植では行われうるが、脳死肺移植では緊急性に基づいたレシピエント選定システムが確立していないため難しい。そのため、待機中の呼吸不全増悪時のECMOの適応判断は困難である。今回生体肺移植のオプションがない待機中の男児に対して長期的な肺移植までのブリッジとしての使用も視野に入れてV-V ECMOを導入した経験を報告する。

    【症例】造血幹細胞移植後の慢性GVHDに対して10歳時に生体右片肺移植を受けた16歳男児。慢性移植肺機能不全となり、脳死肺移植の登録を行った。その後呼吸不全のため夜間NPPV併用の酸素療法で入院管理となった。4か月後に呼吸状態が悪化し、人工呼吸管理となった。高CO2血症に伴う呼吸性アシドーシスが改善せず、レスキュー・ブリッジ目的のV-V ECMO導入について多職種間で検討した。長期的に待機可能な状態をゴールとして導入を決定した。気管切開し人工呼吸器管理下で呼吸状態は改善し、9日目に離脱した。その後も人工呼吸器管理下にリハビリを継続し、ECMO離脱6か月後に脳死ドナーの斡旋があり、肺移植登録施設にて移植が実施された。

    【まとめ】肺移植までのブリッジECMOも視野にいれた診療体制を構築することで、移植実現に繋がる可能性がある。

  • 安井 健, 藤堂 太右, 伊藤 智絵, 長谷川 真人, 中平 有, 酒井 勇雅, 横田 一彦, 大木 孝裕, 此枝 千尋, 佐藤 雅昭, 中 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s338_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】上葉優位型肺線維症(PPFE)は間質性肺炎の中でも新しい疾患分類で,特発性に加え造血幹細胞移植後肺障害等による二次性のものがあり,特徴的な臨床像が報告されている.肺移植は進行例における唯一の有効な治療法とされるが,そのリハビリテーション(リハ)に関する報告は少ない.PPFEについて,肺移植前後の経過をその他間質性肺炎(IP)と比較し,特徴を明らかにした.

    【方法】対象は,2015年1月~2021年12月に当院で肺移植を行った成人患者より,退院を経ず死亡の転帰となった者,リハ評価を行えなかった者を除いた83名から,PPFE 11名(うち,特発性7名),IP 33名を抽出した.移植登録時,移植直前,移植後の初回退院時,移植6ヶ月後および1年後の経過を,PPFEとIPの2群間で比較した.

    【結果】PPFE群はIP群に比して女性の割合が高く(63.6vs24.2%),移植後抜管までに日数を要し(中央値7vs3日),気管切開率が高かった(54.5vs15.2%).全期間を通して低BMIであったが,術後の筋力や動作能力に有意差がなかった.6分間歩行距離は全期間で有意差がなかったが,修正MRC息切れスケールは術後に高値を示す傾向にあり,長崎大学呼吸器ADL評価表における動作速度や息切れの点数は移植1年後で低かった.

    【考察】PPFEでは低BMI状態は移植後も続くが,筋力や耐久性は回復する.呼吸器管理が長引くことによる合併症と,長期化する息切れ対策が重要である.

  • 田中 真, 石上 恵美, 石原 恵, 橋本 好平, 枝園 和彦, 諏澤 憲, 三好 健太郎, 山本 寛斉, 岡﨑 幹夫, 杉本 誠一郎, 豊 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s338_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    日本では2010年に臓器移植法が改正され脳死ドナー数は増加傾向にあるが、従来行われていた心停止ドナー(Donation after Cardiocirculatory Death, DCD)からの提供は激減している。日本においてDCDが減少した理由の一つとして諸外国と比較して特殊なシステムであることが挙げられる。DCDは心停止に至った経緯により、Maastricht分類を用いて5つに分類される。日本のDCDはどの分類にも当てはまらず自然経過を待って臓器摘出を行っている。そのため死戦期間が予測できず、提供施設や摘出医への負担が大きい。このことが計画的に臓器摘出を行うことができる脳死ドナー臓器摘出と比べ、日本でDCDが衰退した一因であると考えられる。現在、日本ではDCDの摘出臓器は腎臓・膵臓・眼球のみでしか認められていない。今後、肺への適応を目指すにおいて現行のシステムのままでよいか、もしくはDCDが盛んな諸外国において実臨床で実施されているDCDカテゴリーIIとIIIの導入を検討するか、地域や国によって異なる救急医療システムにより心停止にいたる環境の相違があることも踏まえ、慎重な議論が必要である。今回、上記二つのタイプのDCDを積極的に施行しているスペインの肺移植施設での経験を踏まえて日本でのDCD肺移植導入に関して考察する。また、ヨーロッパ諸国でDCD腹部ドナー臓器の使用率向上のため用いられているnormothermic regional perfusionに関しても実臨床を経験した観点で実際の使用、肺への影響やその応用に関して考察する。

  • 松井 優紀, 狩野 孝, 福井 絵里子, 木村 亨, 大瀬 尚子, 舟木 壮一郎, 新谷 康
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s338_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】肺移植医療で,虚血再灌流肺障害は移植肺機能不全の主な原因の一つである.新規細胞死のNecroptosisは肺移植後虚血再灌流傷害に関与し,移植肺機能不全に対する治療の標的になりうると報告がある.近年,細胞内蛋白分解酵素の一つのcalpainの抑制がNecroptosisの改善につながると報告されている.今回,ラット肺移植モデルでcalpain阻害薬(ALLN)による肺移植後虚血再灌流肺傷害の抑制効果を検討した.【方法】雄Lewisラット(体重250-350g)を用い,傷害群と治療群を各々8例ずつに分けた.ドナー肺を臓器保存液(ET-Kyoto液20ml)で灌流し,心肺ブロックとして摘出後に臓器保存液内(20ml)で15時間4℃保存した.その後,分離した左肺をレシピエント側にカフテクニックで移植し,2時間再灌流後に各種解析した.治療群は臓器保存液内にALLN 10mg/kgを,傷害群は溶媒のみを含有した.評価項目は生理学的所見,病理学的所見,タンパク所見,炎症性サイトカイン所見とした.【結果】肺生理学的機能において,治療群は傷害群に比べ,動脈血酸素分圧,及び湿乾重比(肺水腫の指標)が有意に改善し(p=0.0009, p=0.0014),また病理所見で血管外への赤血球,好中球浸潤が治療群で改善していた(p=0.0406, p=0.0313).肺組織のwestern blotと蛍光免疫染色において治療群でnecroptosis経路の抑制を認め,炎症性サイトカイン評価では治療群のIL-1βが傷害群に比べ,有意に改善していた(p=0.0313).【結語】ALLNを臓器保存液に含有させることで,抗necroptosis作用を介して,肺移植後虚血再灌流肺傷害の軽減が示唆された.

  • 新井川 弘道, 渡辺 有為, 渡邉 龍秋, 宇井 雅博, 平間 崇, 大石 久, 岡田 克典
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s339_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:欧米に習い、本邦でも心臓死ドナーからの肺移植を検討することは重要である。本研究の目的は、特定機能病院における院内死亡患者に注目し、Maastricht category IIIに近い状態で、心停止後に肺移植ドナーとなり得る患者を顕在化し、その特徴を見出すことである。

    方法: 2019年1月から同年12月まで東北大学病院における全死亡患者585人を対象に後方視的に検討した。死亡時年齢18未満70歳以上、死因または原病名において肺疾患、悪性腫瘍、重症感染症、胸部外傷など医学的に移植不適と判断される症例は除外された。加えて肺の質的評価のため年齢、喫煙歴、および胸部レントゲン所見が評価された。

    結果:条件により553例が除外された。残る32例のうち、本人あるいは家族が延命治療を希望されず、積極的生命維持装置の中止は無いにせよ、院内にて心臓死を待たれた患者は30名存在した。平均年齢は53.2 歳、男性22例(73%)、喫煙歴20 pack-year以下は24例(80%)、胸部レントゲン所見が MinorもしくはClearと判断された症例は13例(43%)あった。これら13例の死因は脳出血5例(38%)が最も多く、全例が救急科において加療され、入院から死亡までの平均日数は8.2 日であった。

    結語:血液ガスや気道内分泌物の評価は欠落しているものの、特的機能病院において心臓死ドナー候補となり得る患者は、年間13/585例(全死亡患者の2.2%)程度いる可能性が示唆された。重要なドナー候補として考慮すべきであり、救急科との連携から環境を整えていくことが重要であろう。

  • 松本 寛樹, 鈴木 秀海, 山中 崇寛, 西井 開, 太枝 帆高, 伊藤 祐輝, 海寳 大輔, 畑 敦, 伊藤 貴正, 田中 教久, 坂入 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s340_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】肺移植は他の固形臓器移植と比較して成績が不良である。その原因として抗体関連型拒絶(AMR)があり、予防・治療法が大きな課題である。リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)は、B細胞を抑制し、AMRに有効な薬剤として期待されている。

    【目的】マウス同所性左片肺移植モデルを用いて、抗マウスCD20抗体(anti-CD20)のAMRへの有効性について検討する。

    【方法】ドナーにBALBcマウス(H-2d)、レシピエントにBL/6マウス(H-2b)を使用し、非薬物投与群(Allo群)、シクロスポリンA群(CyA群)、CyA+anti-CD20併用群(CyA+anti-CD20群)、さらにドナーとレシピエントを共にBL/6を使用した群(Iso群)の計4群で比較検討を行った。CyA投与は移植日から開始し、anti-CD20は移植7日前に投与した。術後14日目に犠牲死させ、血液・移植肺・脾臓・リンパ節におけるB細胞割合、移植肺の病理像、血清中のドナー特異的抗体(DSA)について評価した。

    【結果】血液・脾臓・リンパ節・移植肺内のリンパ球中のB細胞の割合はCyA群と比較してCyA+anti-CD20群で低かった。病理では、拒絶Agrade/C4dscoreの平均が、CyA群が2.4/2.9、anti-CD20+CyA群は1.5/0.3であった(P<0.01/P<0.01)。血清DSAのIgM/IgGの蛍光強度は、CyA群が11284/4177、anti-CD20+CyA群が1605/3071であった(P<0.01/P=0.09)。

    【考察】CyAにanti-CD20を併用することで、AMRを制御できる可能性が示された。今後、より臨床に近い慢性拒絶モデルの研究が期待される。 

  • 山中 崇寛, 鈴木 秀海, 松本 寛樹, 海寳 大輔, 畑 敦, 伊藤 貴正, 田中 教久, 坂入 祐一, 大島 拓, 中田 孝明, 吉野 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s340_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】肺移植医療において、術後の免疫抑制剤や感染症予防に関するプロトコールは大部分が統一されている一方で、術後の栄養管理に関する指標はほとんどない。移植後急性期の代謝動態の把握は難しく、体液バランスや消化管機能の管理に難渋し栄養状態が不安定になりやすい。欧州臨床栄養代謝学会のガイドラインでは人工呼吸管理中の重症患者では間接熱量計による消費エネルギーを測定し栄養管理を行うことが推奨されている。

    【方法】生体肺移植後の症例に対して間接熱量計を用いた消費カロリーの測定を行った。間接熱量計は吸気・呼気ガス測定から酸素消費量と二酸化炭素消費量を測定してWeirの式( )からより正確な消費エネルギーを計算した。

    【結果】生体肺移植を受けた間質性肺炎の40代女性の術後の栄養管理について、従来法のHarris-Benedictの式からは必要栄養量が1600kcalと計算されていたが、高血糖と下痢の管理が必要であった。術後7日目から間接熱量計で測定された安静時消費エネルギー量(1291kcal)に合わせた管理を行い、上記臨床症状は改善した。以後、この手法で栄養管理を継続した。

    【結語】間接熱量計は人工呼吸管理中であれば容易かつ正確に消費エネルギー量が算出可能で、経時的な指標が示せるため急性期栄養管理おいて有用である可能性がある。

  • 土肥 良一郎, 松本 桂太郎, 田中 健之, 朝重 耕一, 町野 隆介, 小畑 智裕, 溝口 聡, 芦澤 信之, 中司 交明, 松本 理宗, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s340_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】 肺移植に限りドナーからのSARS-CoV2伝播が起こりうるため、本邦では感染流行期には臓器提供の著しい落ち込みが見られる。しかし、感染流行期であっても医療者と移植患者の安全を担保しながら、臓器不全患者の救命に努める必要がある。今回、新型コロナ第6波の期間中にCOVID-19罹患後ドナーからの脳死肺移植を経験した。【症例】レシピエントは原疾患が特発性間質性肺炎で、脳死肺移植登録後1年弱の待機期間中であった。ドナーは、職場クラスター発生によりCOVID-19に罹患し、無症状で自宅療養後に職場復帰したのち、クモ膜下出血を発症し臓器提供となった。ドナーはCOVID-19診断後5週間経過時点での鼻咽頭スワブ検体がPCR陽性(サイクル数Ct値34、36)であったため、上位施設が辞退し、移植待機リスト下位であった当該患者へ斡旋があった。感染症専門医へコンサルトし、極めて低いウイルス感染性(高Ct値より)、再検査陰性(気管支吸引痰および鼻咽頭スワブ)、レシピエントの抗体保持への期待(COVID-19既感染、ワクチン2回接種後)を根拠に移植を受諾した。下葉無気肺を有するマージナル肺であったが、左片肺移植を実施した。術後はタクロリムス脳症と急性拒絶の合併があったが、その後の経過は順調であった。術後も定期的なPCR検査を行ったが、レシピエントへのCOVID-19伝播を認めなかった。【考察】本症例では「COVID-19の移植医療における基本指針(第5版)」に準じた対応でCOVD-19罹患後ドナーからの脳死左肺移植に成功した。

  • 朝重 耕一, 土谷 智史, 松本 桂太郎, 土肥 良一郎, 町野 隆介, 溝口 聡, 市川 宏美, 永安 武
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s341_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】タクロリムスは免疫抑制剤の一種であり、肺を含む移植後の拒絶反応抑制や自己免疫疾患の治療にも使用されている。副作用としては易感染性や腎機能障害、手指の振戦、高血糖、高血圧などがあるが、加えて中枢神経障害を生じることが知られている。今回、肺移植後にタクロリムスが原因と考えられる痙攣を発症した症例を経験したため報告する。【症例】57歳男性、特発性肺線維症に対して脳死左片肺移植を施行した。術後3日目から全身性の痙攣を複数回認めた。鎮静にて症状は改善するも、鎮静を浅くすると症状が再燃し、薬剤誘発性の痙攣発作を考えた。髄液穿刺を含む検査所見から感染による脳症は否定的であった。術後であり、様々な薬剤が投与されていたが、原因としてはタクロリムスを第一に考慮し、シクロスポリンへの切り替えをおこなった。血中濃度のモニタリングでタクロリムスの濃度が十分低下した後は痙攣の再燃は認めず経過した。シクロスポリンへ切り替え後、2度の急性拒絶を発症したが、ステロイドパルスにて軽快し、自宅退院となった。

    【結語】タクロリムスは臓器移植の分野では多用される優れた免疫抑制剤であるが、その副作用として痙攣を発症し、シクロスポリンへの切り替えを契機に肺移植後急性期の免疫抑制に大きな影響を与えた症例を経験したので報告する。

  • 春藤 裕樹, 緑川 健介, 宮原 聡, 早稲田 龍一, 白石 武史, 藤田 昌樹
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s341_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     本邦における脳死肺移植の現状から、特定の感染症や肺高血圧症を合併症のしていない症例はドナーシェアリングの観点から片肺移植が第一選択とされる。脳死片肺移植の適応疾患のうち半数以上を占めるのが間質性肺炎であり、移植後の成績を良好とするために脳死片肺移植後の間質性肺炎症例の長期管理は重要と言える。おもな移植後合併症は拒絶と感染症である。移植後の経過観察中に残存肺に浸潤影が出現した場合、急性拒絶反応や各種感染症に加え、間質性肺炎急性増悪も鑑別として考える必要があるが、移植後残存肺における急性増悪に関するまとまった報告はなく、国内外からの症例報告が散見される程度である。発症頻度など不明な点も多く、また残存肺の間質性肺炎に対する治療介入についても一定の見解は得られていない。

     そこで今回、当施設でこれまで実施した肺移植症例のうち、間質性肺炎に対して脳死片肺移植を実施した症例について後方視的に検討を行った。その結果、移植後に残存肺における間質性肺炎急性増悪を来した症例は1例も認められなかった。症例数が限られており因果関係の言及は困難であるが、移植後残存肺における間質性肺炎急性増悪の発症抑制と関連が推測される機序や因子について文献的考察を加えて報告する。

  • 坂入 祐一, 山中 崇寛, 越智 敬大, 由佐 城太郎, 太枝 帆高, 西井 開, 松本 寛樹, 伊藤 祐輝, 海寳 大輔, 畑 敦, 伊藤 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s341_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】

    脳死肺移植手術は緊急手術であり、かつ全身状態の悪い患者が対象となる。

    【方法】

    2016年から2022年までに当院で脳死肺移植手術を行った10例について、データベースをもとに後方視的に臨床情報の解析を行った。

    【結果】

    男性・女性ともに5例で、平均年齢は42.4歳だった。A型5名、O型4名、AB型1名で両肺移植4名、右片肺移植2名、左片肺移植4名だった。術後抜管まで平均3.2日(2-6日)であり、気管切開は4名に行われていた。ICU退室まで平均21.6日(10-39日)、退院/転院まで平均61.5日(36-94日)であった。2週間以内にICU退室可能であった6例(平均11.8日)に対して、1ヶ月以上を要した4例(平均36.3日)では高率で術前に肺高血圧症を有し(75% vs 16%)、術中に膜型人工心肺を要する症例が多かった(75% vs 16%)。また高率で気管切開され(75% vs 16%)、急性拒絶反応を起こしていた(100% vs 67%)。一方で、ICU退室後の一般病棟入院期間に差はなかった(平均39.0日 vs 40.5日)。

    【結論】

    循環動態の不安定な患者はICU入室期間が長い傾向にあるが、当院ではICU入室中は重症管理用のカンファレンスシートを作成し、適切な情報共有および他科と連携しつつ急性期管理を行っていた。現在の術後管理体制とあわせて報告する。

  • 大島 洋平, 佐藤 晋, 芳川 豊史, 中島 大輔, 吉岡 佑二, 濱田 涼太, 梶本 泰志, 太田垣 あゆみ, 伊達 洋至, 松田 秀一
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s342_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景と目的】生体肺移植(LDLLT)は本邦を中心に行われており,生命予後は脳死肺移植(CLT)とほぼ同等とされるが,健康関連QoL(HRQoL)に関しては定かでは無い.移植後5年までのHRQoLについて検討を行った.

    【方法】当院の肺移植患者を対象とし,術前,術後3ヶ月,6ヶ月,1年,以後1年毎に5年までのSF-36を調査し,3コンポーネント・サマリースコア(PCS, MCS, RCS)を算出した.CLTは術前評価の欠測値が多く,LDLLTとの術前比較にはmMRCを用いた.術後経過の比較では,術前mMRC,QoL評価時の慢性移植肺機能不全合併の有無を共変量とし,線形混合モデルを用いて解析した.なお,有意水準は5%とした.

    【結果】LDLLT68例,CLT148例が解析対象となり,全体では中央値4.4年まで経過観察され,5年後観察を完遂したのは94例(44%)だった.術前のmMRCはLDLLTで有意に高値であった(p<0.001).PCSは術後3ヶ月でLDLLT36点 vs. CLT40点,術後5年で41点 vs. 39点と同等になった.MCSは術前からLDLLT56点と高値であり,術後はLDLLT,CLT共に50点を超えて推移した.RCSは術前LDLLT27点と低値であり,術後3ヶ月においても低値が持続したが,術後5年ではCLT46点に対し,LDLLTは50点を超えた.線形混合モデルによる評価では,LDLLTとCLTの経過に有意な差は認められなかった.

    【結論】LDLLT患者はCLTと比較して,術前の呼吸器症状はより重度であったが,少なくとも術後のHRQoLは同等,もしくは一部でLDLLTが上回ると考えられた.

  • 鈴村 海斗, 趙 向東, 祝迫 惠子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s343_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    肝移植後の急性拒絶はカルシニューリン阻害剤によって劇的に改善したが、長期の服用による合併症が問題である。また、慢性拒絶には不明な点が多く、有効な治療法開発が求められている。基礎研究で用いられているげっ歯類の肝移植モデルでは、ほとんどの場合、動脈再建が行われず長期の観察はされていなかった。今回、MHC不一致のマウス間で肝動脈再建を行う肝移植モデルを確立し、術後32週までの観察を行った。MHC不一致であっても、胆道閉塞などの合併症がなければ、生存可能であった。体重は、術後8週ごろに術前の体重に戻り、以後、増加した。肝組織の病理学的解析では、術後2-4週に免疫細胞の著しい浸潤が観察されるが、8週以降は低下した。ただし、術後32週においても免疫細胞の浸潤は消失せず、肝組織の線維化が観察された。

    MHC不一致間の動脈再建マウス肝移植モデルでは、部分的寛容が誘導されたと考えられ、長期生存が可能であったが、免疫細胞浸潤は持続している。

  • 小野沢 博登, 河野 光智, 酒井 宏水, 岩﨑 正之
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s343_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】

    ヘモグロビン小胞体(Hemoglobin vesicle; HbV)は、期限切れ輸血用 ヒト赤血球から抽出した濃縮ヘモグロビンをリポソーム化した人工酸素運搬体である.HbVは粒子径が250nmと小さいため毛細血管を効率的に灌流できる可能性がある。

    【目的】気管移植モデルにおいて、HbVによる毛細血管の再灌流を評価しRBCによる再灌流と比較すること。

    【実験】

    マウス気管並走移植モデルでHbVを投与し,移植された気管の上皮下毛細血管(Subepithelial capillaries; SEC)の血流を観察した。モデルにはC57BL6J,7週齢を使用した。まず全身麻酔下にドナーの輪状軟骨下から分岐部までの気管を摘出し生食に浸漬して4℃で冷保存する。その後レシピエントの気管にドナー気管を2カ所で端側吻合を行う。移植後に尾静脈からHbV溶液(Hb濃度10g/dL)0.3mlを投与し覚醒させる.所定の時間(1、4、6、8時間)で犠牲死させ気管を摘出し組織学的に評価を行った。

    【結果と考察】

    移植気管のSECには赤血球は認めなかったがHbV投与4時間後に、電子顕微鏡でHbV粒子が観察された。その数は6時間で最大となり8時間後まで観察された。

    赤血球より小さいHbVは移植後、赤血球より早く移植片の毛細血管に再灌流し、移植組織の酸素化に寄与する可能性が示唆された。

  • 中野 亮介, Yadani Hamza, Geller David , 大段 秀樹
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s343_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】我々は,これまでにexercise training (ExT)が肝臓における虚血再灌流傷害(IRI)を改善し、また腫瘍増殖に抑制的に働くことを報告してきた。しかし、肝移植IRIにおけるドナーのExTの役割は不明である。

    【目的】マウス同所性肝移植モデルを用いて、ドナーのExTが肝移植IRIに与える影響を解明することである。

    【方法】C57BL / 6マウス(CD45.2)をExTまたはsedentary(Sed)グループに分けた。最終ExTの2日後に肝臓グラフトを摘出した。1時間の冷保存後,コンジェニックマウス(CD45.1)をレシピエントとするマウス同所性肝移植を施行した。再灌流6時間後に血液サンプル、および肝臓グラフトを採取した。血液検査、病理組織学的検査、フローサイトメトリー、qPCR法等を用いて、2グループ間(ExT vs Sed)の比較検討を行った。

    【成績】ExTグループは、再灌流6時間後の血清ALT / AST / LDH値が、Sedグループに比べ有意に低値であった(ExT vs Sed; p <0.05)。肝臓グラフトの病理組織学検査では、Sedグループと比較して、ExTグループで肝細胞壊死が減少していた。このExTグループにおける肝保護効果は、肝臓内へのレシピエント由来の好中球浸潤および好中球細胞外トラップ(NET)形成の減少を伴う、肝内炎症性サイトカインカスケードの抑制が関与していることが示唆された。

    【結論】ドナーのExTは、肝移植虚血再灌流障害に保護的に働いていることが示唆された。このことは、肝移植成績のさらなる向上のために、ドナーのExTが新たな治療介入手段となる可能性がある。

  • 今岡 洸輝, 大平 真裕, 別木 智昭, 今岡 祐輝, 中野 亮介, Doskali Marlen, 谷峰 直樹, 田原 裕之, 井手 健太 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s344_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:動脈硬化を有する生体肝移植ドナーでは、肝内在性ナチュラルキラー(lr-NK)細胞の腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)発現が低下することを報告した。動脈硬化マウスでも同様にTRAILが低下し、動脈硬化と肝臓内抗腫瘍免疫の関与が示唆された。そこで、TRAILの可溶性受容体であるオステオプロテゲリン(OPG)に着目した。本研究の目的はOPGがlr-NK細胞のTRAIL活性に与える影響を明らかにする事である。方法:1. ApoE KOと野生型マウス(WT)を用いて門脈中OPG濃度と肝組織OPG mRNA発現率を比較検討した。2. OPG KOマウス及びWTを用いてFCM法でlr-NK細胞活性の評価及びマウス肝癌細胞株(Hepa1-6)に対する細胞傷害性試験を比較検討した。3. OPG KOのlr-NK細胞と各濃度(0, 100, 1000 ng/ml)のOPGを1時間共培養しlr-NK細胞活性の変化を評価した。結果:1. ApoE KOはWTと比較し、門脈中OPG濃度(612 vs. 459 ng/ml, p=0.032)は高く、肝組織内OPG mRNA発現率(5.1 vs. 1.2, p=0.052)も高い傾向だった。2. OPG KOはWTと比較し、lr-NK細胞のTRAIL活性(43.7% vs. 34.2%, p=0.026)は上昇し、Hepa1-6に対する細胞傷害性(17.8% vs. 3.4%, p=0.049)も上昇した。3.OPG濃度依存性にlr-NK細胞のTRAIL活性は36.9→29.1→23.0%と低下した。考察:動脈硬化マウスでOPG発現は上昇していた。OPGをノックアウトすることでlr-NK細胞のTRAIL活性は上昇し、抗腫瘍効果は増強した。動脈硬化により発現したOPGがTRAILと結合することで、肝臓内抗腫瘍効果を低下している可能性が示唆された。

feedback
Top