移植
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57 巻, Supplement 号
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  • 南園 京子, 佐々木 元, 西田 翔, 大山 雄大, 須田 遼祐, 石川 暢夫, 岩見 大基
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s284_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】免疫抑制療法の腎移植成績の大きな改善をもたらしたが、一方で日和見感染症はいまだ移植腎および患者生命予後に影響を与えうる。今回、腎移植後にJCウイルス(JCV)による進行性多巣性白質脳症(PML)を発症した症例を経験したので報告する。【症例】SLEを原疾患とする末期腎不全で兄をドナーとする生体腎移植を17年前に施行した50歳代の女性。タクロリムス(TAC)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メチルプレドニゾロン (mPSL)で移植腎機能良好で免疫抑制を維持していたが、急激な認知機能低下と左半身麻痺を発症した。頭部MRI画像所見と髄液PCR検査よりJCV-DNAが検出されたことからPMLと診断した。TACとMMFをエベロリムス(EVR)に変更したがのちに中止、mPSLを漸減し最終的にmPSL2mg単剤管理とした。同時に治療効果報告のある塩酸メフロキン(抗マラリア薬)、ミルタザピン(5HT2Aセロトニン受容体拮抗薬)を開始した。現在PML発症から6ヶ月(治療開始より4ヶ月)が経過しているが神経症状の進行は止まり拒絶反応の発症もなく、認知機能低下や左片麻痺等の後遺症は残存したものの退院に向けてリハビリを継続中である。【考察】腎移植後PMLはJCVによる中枢神経脱髄性疾患でまれな疾患であるが特異的な治療法はなく生命予後は発症後数ヶ月と極めて不良である。有効な治療法の確立が望まれる。

  • 三輪 祐子, 岩﨑 研太, 安次嶺 聡, 雫 真人, 石山 宏平, 小林 孝彰
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s284_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、腎移植後の免疫抑制下で再活性化し、神経痛などの後遺症もあり発症予防が必要である。免疫抑制患者には禁忌であったVZV生ワクチンに変わって、近年VZVタンパク抗原のリコンビナントワクチン(シングリックス)が開発され、腎移植患者にもワクチン接種が可能となった。

    【方法】VZV特異的T細胞の検出は、IFNγ ELISPOT反応を確立し、愛知医科大学病院で2012年7月から2021年6月までに施行された腎移植215症例のうち、帯状疱疹発症は30症例であり、そのうち発症群7症例、非発症群22症例の移植前PBMC中のVZV特異的T細胞性免疫能をELISPOT法を用い比較した。

    【結果】健常人のシングリックス投与前後のVZV特異的T細胞数を比較した所、2spot→136spotに増加しELISPOT法のpositive controlとした。帯状疱疹発症群、非発症群の比較では、平均spot数(発症群,非発症群)=(22spot, 29spot) P=0.669で有意差はなかった。

    【結論・考察】

    帯状疱疹の発症には液性免疫より細胞性免疫が強く関与していることが報告されているが、腎移植前のVZV特異的T細胞数の有意差は認められなかった。免疫抑制がどの程度で帯状疱疹が発症するか、今後腎移植後のVZV特異的T細胞数の変動も調査し腎移植前後のVZVワクチン接種の効果を判定できる系を確立する。

  • 平野 一, 藤原 裕也, 岡部 知太, 川床 友哉, 中森 啓太, 谷口 俊理, 前之園 良一, 中村 公, 南 幸一郎, 上原 博史, 能 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s285_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【症例】

    37歳女性。29歳時に父をドナーとし生体腎移植施行。CKDの原疾患はIgA腎症。4年目にIgA腎症再発し、ステロイドパルス療法、扁桃腺摘出術を施行した。その後は腎機能、尿所見とも安定して経過していた。7年目に胸部異常陰影あり、精査にて肺結核の診断。抗結核剤4剤による治療開始となった。

    【経過】

    リファンピシン(RFP)開始に伴い、CYP3A4代謝亢進によるタクロリムス(TAC)の血中濃度低下が想定された。TAC trough値を維持するための投与量は約5倍を要した。TAC trough値のみならず、AUCも測定し、血中濃度を維持した。RFP併用中はTACの代謝が促進されている状態であるにも関わらず血中濃度高値が遷延していた。あらかじめTACの血中濃度低下を想定し、投与量設定を行なったが、想定以上に濃度のばらつきが生じ、コントロールに難渋した。

    【考察】

    RFPの完全な酵素誘導が消失するまでは2週間との報告もあったが、本症例では投与中止後2週間のAUCは高値であったため、酵素誘導期間はさらに長期であったことが示唆された。

    経過中TACの濃度低下による拒絶反応、濃度上昇によるCNI急性毒性などを招くことなく腎機能は維持できた。経過中、TAC trough level、AUC0-4の頻回モニタリングにより、TAC投与量調整を行い、免疫抑制剤を維持しつつ肺結核治療を完遂することができた。

  • 中川 由紀, 三重野 牧子, 剣持 敬, 湯沢 賢治, 小笠 大起, 堀江 重郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s286_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2006年に日本移植学会登録委員会のもと、日本における臓器移植例の全例査を目標に登録事務局が設立し日本における臓器移植登録事業が発足した。腎移植登録事業においてもその際に発足し、腎移植本登録システムによりデータを集積し、症例数、生存率・生着率等の基礎データを解析し日本における移植医療の評価・発展にすることを目的とした。

    移植実施後の症例登録により年症例数を把握し、定期的に、登録症例について移植時の詳細デ

    ータをベースラインデータとして回収する。さらに過去全登録症例調査を定期的に実施するこ

    とより、移植後のアウトカム情報や患者の予後や死亡、移植腎の予後等を取得し、生存率・生

    着率等の検証を行い、信頼性の高い有意義な成果を得るために全集調査を目標としている。

    また、生体腎移植の場合、ドナーの長期予後を検討する目的でドナーデータも回収している。

    しかしながら、2021年12月までに腎移植総数は42,779症例であるが、追跡調査ができているのは約24,000症例(56%)程である。また、生体腎移植ドナーのフォローにおいて入力されているのは10,896(25%)でそのフォローは年々減少している。

    近年ドナーの高齢化が進み、2018年には生体腎移植ドナーの47.3%は60歳以上であり、70歳以上のドナー200症例を超え、マージナルドナーは増加傾向にある。基礎データを解析し日本における移植医療の評価・発展にすることを目的とした腎移植登録事業の現状と問題点を検討するとともに、生体ドナーのフォローの必要性ついて検討し報告する。

  • 山野井 友昭, 荒木 元朗, 西村 慎吾, 奥村 美紗, 関戸 崇了, 吉永 香澄, 丸山 雄樹, 定平 卓也, 岩田 健宏, 別宮 謙介, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s286_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】生体腎移植ドナーの長期的予後は、一般人口と同様でQOLも損なわないことが示されている。しかし、高血圧や年齢などの医学的問題を抱えたマージナルドナー(MD)のQOLに関する報告は少ない。今回、当院におけるMDの腎提供後5年間のQOL変化をスタンダードドナー(SD)と比較した。【対象・方法】2009年2月~2021年4月の間に当院で腎提供を経験した症例のうち、SF-36v2を使用したQOL評価を腎提供後1年以上継続して行えた81例(SD40例、MD41例)を対象とし、国民標準値50点と比較した。また、術後の腎機能推移、CVD併発、新規悪性腫瘍発生についても比較検討した。【結果】両群間で術後の腎機能推移、CKD 3b以上の症例数に有意差なく(各群10例ずつ)、CVDや悪性腫瘍発生についても有意差を認めなかった。術前において3つのQOLサマリースコアは国民標準値と比較し高く、両群間で有意差を認めなかった。術後の身体的QOLサマリースコア(PCS)において、術後2か月(53.3 vs 50.1, P=0.03)、術後1年(55.3 vs 52.5, P=0.03)、術後4年(53.8 vs 51.8, P=0.01)、術後5年(53.9 vs 49.5, P=0.03)でMD群はSD群と比較し有意に低下していた。術後の精神的QOLサマリースコア(MCS)、社会的QOLサマリースコア(RCS)においては国民標準値と比較し高く、両群間で有意差を認めなかった。【結語】マージナル生体腎移植ドナーの術前QOLは国民標準値と比べ良好であるが、術後PCSにおいてSD群、さらには一般人口と比較し長期的に低下する可能性があり、今後更なる調査が必要である。

  • 橋本 浩平, 田中 俊明, 前鼻 健志, 太刀川 公人, 小笠原 卓音, 栗栖 知世, 中山 奨, 小林 皇, 舛森 直哉
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s286_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】腹腔鏡下ドナー腎採取術の基本的手技は、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下根治的腎摘除術と類似するがコンセプトは大きく異なる。【目的】当科で非移植医・単一術者により施行された、腹腔鏡下ドナー腎採取術の成績を検討した。【方法】2018年9月から2022年5月に当科で腹腔鏡下ドナー腎採取術を施行した23症例を対象とした。術者は日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会泌尿器腹腔鏡技術認定医で、腹腔鏡下ドナー腎採取術前に腹腔鏡下根治的腎摘除術の指導的助手として100例以上の経験があった。左腎では経腹膜的操作で、傍腹直筋の5cmの創より腎摘出をおこない、右腎では後腹膜操作で、側腹部の5cmの創より腎摘出をおこなった。手術時間、温阻血時間、入院期間、合併症、レシピエントの移植腎機能につき検討した。【結果】ドナー年齢中央値は58歳(43-73)、男性7例(30%)、女性16例(70%)、摘出腎は左16例(70%)、右7例(30%)であり、腎動脈は8例(35%)で2本、1例(4%)で3本であった。温阻血時間は中央値4分(2-7)、手術時間が中央値231分(169-277)であった。合併症は腎動脈損傷1例、リンパ嚢腫1例、左精巣痛1例であり、術後入院期間は中央値6日(5-8)であった。移植後は全例で直ちに利尿が得られ、レシピエントの移植後1か月のeGFRは中央値42.1ml/min/1.73m2(26.6-68.1)であった。【結論】手術のコンセプトを十分に理解することで、非移植医による腹腔鏡下ドナー腎採取術は、安全に施行可能であった。

  • 近藤 晃, 春口 和樹, 蜂須賀 健, 川瀬 友則, 三宮 彰仁, 小山 一郎, 中島 一朗
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s287_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    症例は53歳女性。夫への腎提供希望あり術前精査を施行したところ、造影CTで馬蹄腎を認めた。左右ともに腎動脈は3本、腎静脈は2本であった。点滴静注腎盂造影検査で腎盂・尿管は腹側に位置し、走行異常があるものの独立しており摘出可能と判断し、左腎をグラフトとした。

    右側臥位ジャックナイフ体位で、左季肋下・左下腹部に12mm portを挿入し、臍右側にGelport®を装着し、腹腔鏡下に手術を行った。峡部が厚さ13mm、幅43mmであったため、先に尿管及び腎動静脈を切離した。峡部に綿テープを巻きつけて可及的に圧縮し、ボール電極によるソフト凝固でさらに菲薄化させたうえでエンドGIA™トライステープル™ブラックカートリッジを用いて離断した。断端はボール電極によるソフト凝固、組織接着用シートで止血し、閉創した。手術時間は234分、出血量は90mlであった。

    術後はドナー・レシピエントともに尿漏など合併症なく経過し、ともに術後14日目に退院とした。現在術後約5か月になるが、両者とも安定して経過している。

    馬蹄腎ドナーからの生体腎移植に関する報告は少ない。今回我々は峡部が厚かったにもかかわらず、鏡視下に腎採取術を施行し得た1例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 北岡 壮太郎, 森田 伸也, 松本 一宏, 篠田 和伸, 吉田 理, 浅沼 宏, 中川 健, 大家 基嗣
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s287_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    腎移植ドナーはガイドライン上BMI25以下への減量に努めるよう定められているが,減量自体を評価した報告はほとんど見られない。今回当院の腎移植ドナーにおいて,初診時にBMI25以上であったが術前にBMI25未満を達成したドナーの減量効果を,減量未達成のドナーと比較し検討した。【対象】2012年以降の当院68例の腎移植ドナーのうち,初診時にBMI25以上であったのは17例(平均初診時BMI: 26.3,25.0-30.5),うち手術直前にBMI25未満の減量を達成したドナーは6例であった(減量達成群,平均術前BMI: 24.12)。減量未達成群11例(平均術前BMI: 26.02)と比較し,初診時BMI・年齢・男女比・初診時血清クレアチニン値に差はなかった。【方法】術前血圧・手術時間・気腹時間・出血量・温阻血時間・周術期血清クレアチニン値・術後1年血清クレアチニン値について減量達成群,未達成群で比較検討した。【結果】減量達成群では手術時間と温阻血時間が有意に短いという結果であった(平均手術時間: 320.8 vs 350.1 (min) p=0.044,平均温阻血時間 : 233.2 vs 299.1 (sec) p=0.041)。気腹時間と出血量は,有意差はないものの減量達成群が低い傾向にあった。術前血圧および周術期・術後1年クレアチニン値は両群で有意差を認めず,初診時よりBMI25未満であった減量不要群とも有意差を認めなかった。【考察】腎移植ドナーにおけるBMI25未満への減量は,温阻血時間を短縮させ移植腎機能の温存に貢献する可能性が示唆された。

  • 井上 國彰, 堀 俊太, 橘 進彰, 西村 伸隆, 富澤 満, 米田 龍生, 森澤 洋介, 後藤 大輔, 中井 靖, 三宅 牧人, 鳥本 一 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s287_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】献腎移植が極めて少ない本邦において生体腎移植の役割は非常に重要である。生体腎移植は生体ドナーがあってはじめて成立する治療であり、生体腎移植に期待し移植施設を受診しても惜しくも生体ドナーとして不適格となることも経験する。今回われわれは、生体ドナー不適格の実態調査を行った。

    【方法】2002年1月~2022年3月の期間に当科に生体ドナー候補として受診した222例を対象とした。後方視的に患者背景情報や検査データを電子カルテより収集した。腎移植に至らなかった割合やその理由について検討した。

    【結果】222例中、生体ドナー不適格のため腎移植に至らなかった症例は41例 (18.5%) であった。不適格と判断された理由は、糸球体濾過量低値が最も多く全体の20%を占めた。次いでBack out (ドナーの意思で辞退) が17%、免疫学的ハイリスクが12%、悪性腫瘍が12%、糖尿病が10%とこれらで、全体のおよそ75%を占めた。その他、感染症や肥満等が原因として挙げられた。

    【考察】腎代替療法として生体腎移植は透析療法に比較し、生命予後や生活の質が改善されるとされ、患者からの期待が比較的大きい医療である。生体ドナー不適格の実態を知ることは、移植医のみならず腎代替療法に関わる多くの医療スタッフによる、より根拠のある説明を可能とする。

  • 福原 宏樹, 西田 隼人, 髙井 諭, 縄野 貴明, 竹原 知宏, 成澤 貴史, 八木 真由, 山岸 敦史, 菅野 秀典, 櫻井 俊彦, 内 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s288_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    緒言: 当科で施行した腹腔鏡下ドナー腎採取術(LDN)において、Mayo adhesive probability (MAP) scoreを含め、手術難易度と関連する因子について検討した。

    対象と方法:2015年1月から2022年5月までに当科でLDNを行った71例(男性30例、女性41例)を対象とした。手術難易度の指標として腹腔鏡手術時間を用いた。手術難易度を予測する因子として以下の項目:年齢、性別、既往歴(高血圧、糖尿病、脂質異常症)、喫煙歴、初診時BMI、MAP score、腎動静脈の位置関係、腎動脈の本数、提供腎(左右)、術前腎機能、提供腎体積、経験症例数、を解析した。

    結果:年齢の中央値は61歳(範囲:41-75)、LDNの腹腔鏡手術時間の中央値 (範囲)は170分(112-255)であった。単変量解析では、MAP score、腎動脈の本数、出血量が手術難易度と関連する因子であり、多変量解析ではMAP score、腎動脈の本数が手術難易度と関連する独立因子であった。

    結論:MAP score、腎動脈の本数がLDNの手術難易度を予測する因子であった。

  • 村上 礼一, 日村 美玲, 奈川 大輝, 金城 育代, 藤田 雄, 島田 美智子, 富田 泰史, 畠山 真吾, 米山 高弘, 橋本 安弘, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s289_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    <緒言>

    2019年より腎性貧血治療薬として従来のESA製剤とは異なる作用機序を有するHIF-PH阻害薬が使用可能となった。今回、同薬を導入した腎移植後の症例について12か月を追跡し報告する。

    <対象と方法>

    当施設外来通院中の腎移植後症例のうち、ESA製剤からの切り替えもしくは新規にダプロデュスタットを導入された症例を対象とし、導入前後の各検査値について比較した。対象症例は18例で、男性9例、女性9例、導入時の平均年齢は44.2±15.1歳、移植後月数は109±69か月、移植腎機能はsCr. 2.12±1.16mg/dLであり、18例中7例はESA製剤にて加療中であった。

    <結果>

    いずれの症例も大きな合併症は認めずに切り替えもしくは導入が可能であり、ヘモグロビン値は導入後6か月で10.5±0.07g/dLから12.2±0.14g/dLと有意差をもって改善させることができた。鉄利用と脂質代謝においても改善傾向が認められた。

    <考察>

    腎移植後症例においても、HIF-PH阻害薬を安全に導入しつつ有効な貧血治療の継続が可能であった。同薬には鉄の有効利用と脂質に対する改善効果が諸家から報告があり、導入後12か月までの経過を報告する。腎移植患者における腎性貧血治療の新たな展開が期待される。

  • 春口 和樹, 近藤 晃, 蜂須賀 健, 川瀬 友則, 三宮 彰仁, 小山 一郎, 中島 一朗
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s289_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【諸言】腎移植後のTMAは免疫抑制剤や拒絶反応による二次性のものが多いとされるが、その他の様々な要因でも発症しうる上に、類似する疾患も多く鑑別は多岐にわたる。そしてTMAを疑った場合には、診断を進めるとともにエンピリックに治療を開始することが肝要である。今回、ダプロデュスタットの投与が契機と考えられたTMAを経験したので報告する。【症例】56歳女性。IgA腎症による末期腎不全に対し、X-9年に父をドナーとした生体腎移植術を施行した。X-4年より血清Cre値が緩徐に上昇傾向を示し、移植腎生検を施行したところ結果はCAAMRであった。X-1年10月より腎性貧血に対しダプロデュスタットの内服を開始したところ、同時期より急激な血圧上昇と、血清Cre値上昇を認め、同薬を中止し降圧薬を投与するも、コントロール不良であった。X年2月に急激な腎機能低下に加え悪性高血圧、貧血、LDH上昇、血小板減少、破砕赤血球像を認め入院となった。加速型-悪性高血圧による二次性TMAを疑い、血圧コントロールに加え血漿交換を施行した。またPJPの予防のため内服していたST合剤による、ダプロデュスタットの代謝経路阻害の可能性を考慮し同薬を中止した。血液透析を継続しつつ腎機能の回復を待ったが離脱は困難であり、透析再導入となった。【考察・結語】本症例は、ダプロデュスタットの代謝障害による高血圧の遷延がTMAを惹起したと推察された。ダプロデュスタットの投与を契機としたTMAの経験はなく、その報告もみられない。貴重な症例を経験したため症例報告する。

  • 竹原 知宏, 縄野 貴明, 髙井 諭, 福原 宏樹, 西田 隼人
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s289_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    症例1は37歳男性。移植前は血液透析を施行しており、ダルベポエチン10μg/週で投与していた。生体腎移植後貧血が進行し、Hb7.3g/dLまで増悪したため、術後17病日にダプロデュスタットを2mg/日で開始し、Hb値に応じて6mg/日まで漸増した。その後鉄欠乏を呈したため移植半年後より鉄補充を開始した所、Hb14.0g/dLまで急激に上昇したためダプロデュスタットを中止した。以降は鉄補充のみで貧血進行なく経過している。

    症例2は74歳女性。移植前は血液透析を施行しており、ダルベポエチン15μg/週で投与していた。生体腎移植後貧血が進行し、Hb8.4g/dLまで増悪したため、術後17病日にダプロデュスタット2mg/日、鉄補充を開始した。貧血の改善に伴いダプロデュスタット1mg/日に減量したが、開始7週後にHb12.1g/dLに上昇し、ダプロデュスタットを中止した。しかし、3週後に両側下肢深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症を来したため、アピキサバンで加療した。血栓は退縮傾向となり、造影CTでフォローを継続している。

    腎性貧血に対するHIF-PH阻害薬の使用では、急激な貧血の改善に伴う血栓塞栓症のリスクが指摘されている。当院で経験した2症例において、腎移植後の貧血に対するダプロデュスタットの有効性は認められたが、非移植例と同様に急激な貧血の改善や、血栓症について注意が必要と考えられた。

  • 中川 由紀, 小笠 大起, 野崎 大司, 毎熊 将行, 鈴木 祐介, 堀江 重郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s290_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    はじめに: HIF分解酵素阻害薬は、貧血治療に有効性があるだけでなく、虚血再灌流障害において腎保護効果や、末梢動脈疾患への保護効果、LDLコレステロール低下に寄与し、虚血性心疾患に対しても治療効果を発揮する可能性がある。近年、糖尿病性腎症や高齢者の夫婦間など持ち込みの細動脈硬化や末梢循環不全の腎移植が増加傾向にあり、こういった移植患者にはHIF分解酵素阻害薬は夢のような貧血治療薬である。今回、腎移植患者にHIF分解酵素阻害薬を投与し、その安全性と有効性を検討したので報告する。

    対象:当院で移植後フォローしている27人を対象とし,HIF-PH阻害剤と鉄剤を投与し貧血の改善、鉄の代謝、腎生検所見、尿細管障害について検討した。

    G1:腎移植後1年以上経ってから投与した群(n=15  移植後平均15年、平均年齢52歳)

    G2腎移植後早期に投与した群(n=12 移植後0-1ヶ月、平均年齢50歳、PEKT9)

    結果:①HIH-PH阻害薬投与によって速やかに貧血は改善し、(G1;Hb12→13.4、G2:10.6→13.3)その後内服継続するも多血となる症例はいなかった。②エリスロポエチンは、貧血状態では増加するも貧血改善後は定常状態で安定した。TSATはHIH-PH阻害薬投与によって横ばいであった(G1; 30.1→32.3、G2:28.0→21.0)③m-TOR阻害薬投与の有無によって貧血の改善率に違いはなかった。④移植後早期群ではHIH-PH阻害薬投与によって虚血際還流障害の改善が見込まれた。

    結語:HIH-PH阻害薬投与は安全に投与でき、移植後の貧血の改善だけでなく、腎保護作用にも寄与する可能性がある。

  • 佐藤 優, 野口 浩司, 久保 信祐, 目井 孝典, 加来 啓三, 岡部 安博, 中村 雅史
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s290_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】腎移植後の腎性貧血に対しても低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害剤が使用され始めているが、周術期使用の報告はほとんどない。2週〜4週毎に使用するエリスロポエチン製剤(ESA)と比較し、HIF-PH阻害剤は用量調整が行いやすく、周術期の貧血治療に有用である可能性がある。当科では2021年1月以降、周術期にも積極的にDaprodustatを使用しており、その安全性と有効性に関して若干の知見を得たため報告する。

    【対象と方法】2019年6月から2022年1月までに当科で生体腎移植を施行した162人のうち、タクロリムスおよびミコフェノール酸モフェチルを用いて免疫抑制導入した18歳以上の初回腎移植患者で、移植後3ヶ月以内に腎性貧血に対してDaprodustatあるいはESAで治療を行った患者を対象とした。周術期アウトカムおよび術後3ヶ月間のHbの推移を比較した。

    【結果】Daprodustat群28人、ESA群44人が対象となり、逆確率重み付け(IPTW)法を用いてDaprodustat群25人、ESA群44人とした。周術期の輸血量および合併症に有意差はなかった。移植後3ヶ月のeGFRおよび血栓症・拒絶の頻度にも有意差はなかった。術後3-7日目および2, 3週目のHb値はDaprodustat群で有意に高く、ESA群で最も低値となった術後7日目ではESA群9.3±1.3(g/dL)に対してDaprodustat群10.0±1.5(g/dL)であった(p=0.027)。術後3ヶ月間の反復測定分散分析でもHb値はDaprodustat群で有意に高かった(p<.001)。

    【結論】Daprodustatは腎移植周術期でも安全に使用でき、かつ術後の貧血に対して有効であると考えられた。

  • 丸山 通広, 遠藤 悟史, 木下 和也, 佐々木 拓馬, 貝沼 駿介, 森下 弘基, 松原 久裕
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s290_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】HIF-PH阻害薬は最近腎移植患者への有効性が報告されているが、副作用も懸念される。今回当院におけるHIF-PH阻害薬を用いた貧血治療戦略につき報告する。

    【対象】腎移植後当院にてフォローしている86名中HIF-PH阻害薬を投与した16名。内訳は初回投与としてロキサデュスタットを用いた12名およびダプロデュスタットを用いた4名。ESAからの切り替えは9例。

    【方法】投与開始後貧血改善状況、副作用の発生頻度を検討した。

    【結果】副作用は、消化器症状3例、脱力感1例、上肢の疼痛1例の計5例であり全例ロキサデュスタット投与例であり、初回投与量は添付文書通りであった。5例ともロキサデュスタットを中止した。血栓塞栓症、網膜症等はいなかった。投与を継続した全例で貧血改善を認め、24週以上投与を継続した例での平均ヘモグロビン値は12.45g/dLであった。副作用にてロキサデュスタット投与を中止した2例へダプロデュスタット2mgから投与を開始したが、副作用は認めていない。また新規にロキサデュスタットを開始する症例への初回投与量を20mgとしているが、副作用は認めていない。

    【まとめ】HIF-PH阻害薬にて腎移植後患者の貧血は全例改善した。ロキサデュスタットによると思われる副作用にて投与中止した例があったが、低用量から開始することにより副作用は回避できる可能性が示唆された。

  • 松岡 裕
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s291_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    当院では移植後患者の長期フォロー施設として約450人のレシピエントと約370人のドナーを診察している。腎移植後の貧血の管理目標については一定のコンセンサスが得られていないがHb値12.5g/dLが最も死亡率や合併症率が低いこと、Hb値が高いと移植後の腎機能の悪化率が低下する等の報告がある。

     当科の移植後貧血の現状として、439名中146人(33.2%)に移植後貧血(Hb値:男性<12.5g/dL、女性<12.0g/dLとして解析)を認めていた。また移植腎機能低下に伴い貧血の発症率は増加しeGFR<30の症例では24.5%であった。

     同意を得られた106名の移植後貧血患者にHIF-PH阻害薬の投与を開始した。血栓症、胃部不快感などの副作用、内服拒否、HD導入等で12例を除外し94例(ダプロデュスタット65例、ロキサデュスタット29例)を解析した。投与前のHb値(中央値)はダプロデュスタット群、ロキサデュスタット群それぞれ11.5g/dL、11.7g/dLで、腎機能(eGFR)はそれぞれ32.0、36.7(中央値)ml/min/1.73m2であった。投与3カ月後のHb値はダプロデュスタット群、ロキサデュスタット群それぞれ12.6g/dL、12.8g/dLで、腎機能(eGFR)はそれぞれ30.7、32.8ml/min/1.73m2であった。106例について詳細を報告する。en-copyright=

  • 平光 高久, 二村 健太, 岡田 学, 後藤 憲彦, 一森 敏弘, 鳴海 俊治, 渡井 至彦
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s292_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    はじめに

    これまでにtacrolimus+mTOR inhibitor(EVR)のについて安全性と有効性は示されてきた。最近では、extended release tacrolimus (TACER)が使用されることが多くなってきているが、TACER+EVRについての報告はほとんど認められていない。

    方法

    2018年4月から2020年12月までの生体腎移植のうち、TACER+EVR(EVR group)、TACER+ mycophenolate mofetil (MMF)(MMF group)で導入された患者160例(EVR group 83例、MMF group 77例)について、eGFR、de novo DSA、rejection、graft failure、recipient survival、腎移植後1ヶ月、1年後におけるプロトコール腎生検におけるCNI毒性についてinverse probability of treatment weighting法を用いて検討した。TACERの投与量はAUC0-24hrに基づいて、腎移植後3ヶ月まではEVR group 200ng/ml・hr、MMF group  250 ng/ml・hr、3ヶ月以降は、EVR group 150ng/ml・hr、MMF group  200 ng/ml・hrとした。MMFはAUC0-12hrで 40-80μg/ml・hr、EVRは腎移植後3ヶ月まではトラフ値  5-8 ng/ml・hr、3ヶ月以降は3-5 ng/ml・hrで管理した。

    結果

    eGFR、de novo DSA、rejection、graft failure、recipient survivalでは、両群で有意差を認めなかった。しかし、腎移植後1ヶ月、1年後におけるプロトコール腎生検におけるCNI毒性をEVR groupで有意に多く認めた(P=0.059、P=0.006)。

    結語

    TACER+EVRはTACER+MMFとほぼ同等の結果を得ることが可能であったが、TACER+EVRでCNI毒性を多く認めたため、今後適切な血中濃度について検討が必要と考えられた。

  • 岩原 直也, 堀田 記世彦, 広瀬 貴行, 篠原 信雄
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s292_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】我々はエベロリムス(EVR)を導入しカルシニューリン阻害薬(CNI)の離脱に8例で成功した。しかし、EVRを導入しCNIを離脱した腎移植患者の免疫学的状態は不明である。

    【目的】EVRを導入しCNIを離脱した腎移植患者の直接認識経路を介したT cellの反応を評価する。

    【対象・方法】対象はEVRを導入しCNIを離脱した腎移植患者8例のうち、Donor細胞が使用できた5例。Donorと3rd partyに対する反応を混合リンパ球反応試験により評価した。

    【結果】CNIを継続している患者と同様に、3例でCD8+•CD4+ T cellの反応は、3rd partyに対する反応と比べDonorに対する反応は弱く、Donor特異的なT cellの反応の低下を認めた。対して、2例でDonorに対するCD4+ T cellの反応が強かったが、CD4+FOXP3+ T cellの反応は3rd partyに対する反応と比べDonorに対する反応は強く、Donor特異的な制御性T cellの反応の亢進を認めた。

    【結語】EVRを導入しCNIを離脱した腎移植患者の直接認識経路を介したT cellの反応を報告した。

  • 岩原 直也, 堀田 記世彦, 広瀬 貴行, 篠原 信雄
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s292_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】カルシニューリン阻害薬(CNI)腎毒性に対する治療はCNIの中止(または減量)であるが、抗ドナー特異的抗体(DSA)産生や拒絶反応の危険性がある。

    【目的】CNI腎毒性に対し、エベロリムス(EVR)を導入し、CNIを安全に中止できたかを評価する。

    【対象・方法】CNI腎毒性と診断され、DSA陰性で拒絶所見がなく、EVRを導入しCNIを中止した9例を対象とした。移植腎機能・DSAの有無・移植腎生検拒絶所見の有無、最終転帰を評価した。

    【結果】

    移植からCNI中止までの中央値は10.1(5.8-17.3)年。CNI中止後のフォローアップ期間は中央値5.1(1.4-9)年。CNI中止前後で移植腎機能に違いは認めなかった。9例中8例はDSA陰性で拒絶所見はなく、6例は現在まで移植腎生着中、1例が移植腎機能廃絶、1例が病死した。1例はDSA陰性も急性T細胞関連型拒絶所見を認め、EVRを中止しCNI再開となった。

    【結語】EVR導入により9例中8例でCNIを安全に中止でき、6例が移植腎生着中である。

  • 中村 有紀, 三木 克幸, 横山 卓剛, 石井 保夫
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s293_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    エベロリムス(EVR)はカルシニューリン阻害薬(CNI)との併用により、CNIの減量、CMVの発症抑制、抗悪性腫瘍効果などが期待された。今回われわれは当施設での腎移植患者におけるEVR追加プロトコールを2020年4月より開始したので報告する。対象は2020年1月から2021年5月までの腎移植術41例。平均年齢51.3±10.7歳、男女比は25:16。生体腎移植35例(うち1例は2次移植)脳死移植5例心停止移植は1例であった。血型不適合4例、PEKTは14例であった。本院はEVR投与なし。分院はEVR投与するプロトコールとしている。移植直後よりEVR投与の20例と非投与21例を比較した。観察期間は619日。拒絶反応を認めた症例はなかった。EVR投与群とEVR非投与群の腎機能は3ヶ月血清Cr1.26±0.33/1.42±0.6 mg/dl,12ヶ月血清Cr1.32±0.41/1.33±0.54であり統計学有意差を認めなかった。EVR投与群で術後肝細胞癌1例、腎細胞癌1例を認めた。6例のCMVハイリスクのうち3例はEVRを投与されていたが発症はなかった。BKウイルス感染症を1例に認めた。当施設で初期EVR導入について腎機能推移は良好であった。CMV感染については非投与群と差がなかった。今後も症例を重ねEVRの効果を検討する。

  • 堀見 孔星, 澁谷 祐一
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s293_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    近年の免疫抑制療法や周術期管理、合併症対策の向上により、腎移植後生着率は10年90%を凌駕するほどの成績となり長期生着症例が増加している。しかしその一方で、長期生着症例では移植腎機能が維持されたまま合併症により死亡する、DWFG(death with functioning graft)が増加傾向にある事が問題となっている。今回我々は、腎移植後の死亡原因として多い感染症や心血管系合併症の減少を期待して、エベロリムス早期導入によるステロイドフリーレジメンによる免疫抑制療法を行っている。レジメンは、バシリキシマブ・タクロリムス・ミコフェノール酸モフェチル・ステロイドの4剤併用療法にて導入、2週間でステロイド漸減し中止、同時にエベロリムスをadd onするといったレジメンである。mTOR阻害剤であるエベロリムスは、in vitroではあるが血管内皮細胞上で抗HLA抗体の発現を抑制するとの報告もあり、血管内皮細胞障害阻害作用による長期の腎保護を期待する。そして耐糖能異常や高脂血症・易感染性・血栓傾向・骨密度低下等のステロイド関連合併症の軽減からの長期生着・長期生存を目標とする。

    今回、高知医療センターで行った腎移植191例のうち、2017年3月以降のエベロリムス早期導入によるステロイドフリーレジメン77例について、生着率・生存率、合併症、de novo DSAの検出率等について検討したので文献的考察も含めて報告する。

  • 宮内 勇貴, 杉原 直哉, 佐伯 佳央里, 山川 真季, 河野 玲奈, 渡辺 隆太, 野田 輝乙, 西村 謙一, 福本 哲也, 三浦 徳宣, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s293_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】腎移植領域にエベロリムス(EVR)の使用が保険収載されて約10年が経過した。効果や副作用の報告が散見されているが、決まったレジメンがないのも現状である。今回当院で行っている周術期投与について検討した。【対象と方法】当院で2011年以後に行った腎移植症例103例のうち、EVRを未導入で現在も使用していない31例(A群)と、周術期に投与(ミコフェノル酸モフェチル(MMF)にadd-on)した37例(B群)を比較した。多くの症例が12日目にEVR1.5㎎/日で追加し、MMFを1000mgに減量した。【結果】A群にのみ献腎症例が4例あった。透析期間はA群で有意に長かった。免疫学的なリスクに群間差はなかった。カルシニューリン阻害剤はじめ、導入期免疫抑制レジメンに群間差はなかった。B群の12人(32.4%)が中央値9.7ヶ月でステロイド離脱を行っており、有意に多かった。術後の脂質代謝異常に群間差はなく、内臓脂肪蓄積や筋肉量の変化なども有意差はなかった。ただし、B群は23人(62.2%)で脂質代謝異常に対する投薬を受けており、有意に多かった。術後B群の1例でリンパ嚢腫に対して治療が必要であった。蛋白尿は有意にB群に多かったが、腎機能、拒絶発生率、生着率に有意な差はなかったが、de novo DSAの出現はEVRの内服で抑えられた。【まとめ】EVRは適切な管理を行えば代謝異常もコントロールでき、副作用も許容できるため有用と考える。さらなる症例の蓄積と確立したレジメンの報告が待たれる。

  • 今村 一歩, 足立 智彦, 松島 肇, 黒滝 航希, 福本 将之, 吉野 恭平, 円城寺 貴浩, 松本 亮, 原 貴信, 曽山 明彦, 日高 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s294_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】

    当院は2016年10月に膵臓移植実施施設に認定され、これまで7例の膵腎同時移植を実施。当科での膵移植成績およびグラフト十二指腸関連合併症に対する治療について症例を提示。

    【膵移植成績】

    レシピエント背景は、男性5名、平均年齢: 48±7歳/ HbA1c: 7.6±1.0%/ 糖尿病罹患歴: 24±7年/ 透析期間: 20±9.6ヶ月/ 脳死待機期間: 198±184日であった。移植後膵グラフト生着率85.7%、腎グラフト生着率100%、1例で血栓症からの膵グラフトロスを呈したが、他6例は全例インスリン注射/透析からの離脱を得ている。

    【合併症詳細】

    いずれの症例も術式は膵腎同時移植であり、膵液は回腸にRoux-en Y吻合を用いた腸管ドレナージとした。グラフト十二指腸排出不全を認めた2例では腹部CTでグラフト十二指腸~輸入脚の拡張を認めた。排出不全の診断で経肛門的ダブルバルーン内視鏡を用いた減圧チューブを挿入にて、グラフト十二指腸の拡張改善を認めた。他1例では排出不全に加え、血液検査でサイトメガロウィルス抗原血症を認めたため、経肛門的ダブルバルーン内視鏡による減圧及びグラフト十二指腸粘膜の生検を施行。免疫染色でサイトメガロウィルス陽性細胞認め、ガンシクロビルによる点滴治療を施行。十二指腸グラフト穿孔と診断された1例では最終的にグラフト十二指腸切除術・膵回腸再建を施行した。現在、いずれの症例においてもグラフト膵機能は保たれている。 

    【結論】

    グラフト十二指腸関連合併症に対して内視鏡治療あるいは手術にて対応を行い、全例において膵グラフト温存が可能であった。

  • 今村 宏輝, 富丸 慶人, 小林 省吾, 伊藤 壽記, 佐々木 一樹, 岩上 佳史, 山田 大作, 野田 剛広, 高橋 秀典, 土岐 祐一郎 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s294_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)は、臓器移植後の免疫抑制状態により発生する疾患で、臓器移植後に発生する悪性腫瘍のうち多くを占める。PTLDは移植手術後比較的早期に発生し、予後と有意な相関を示すことが報告されている。しかし、膵臓移植手術においては、PTLDの臨床的因子に関して未解明な点が多い。

    方法:当院にて2021年までに施行された脳死膵臓移植手術58例を後方視的に参照し、術後にPTLDの発生を認めた症例の詳細を検討した。

    結果:58例中3例(5.2%)に術後PTLDの発生を認めた。移植時の年齢は40, 53, 54歳で、原疾患はいずれも1型糖尿病であり、術式はそれぞれPAK, SPK, SPKであった。発見契機は、それぞれ会社健診(便潜血陽性)、ふらつき、頚部リンパ節腫脹の自覚であり、術後88, 14, 17か月にPTLDと診断された。治療はそれぞれ、R-CHOP, 放射線療法, リツキシマブ投与が行われ、治療効果はそれぞれ、腫瘍消失、腫瘍縮小、腫瘍消失を得ていた。治療後は全例で免疫抑制剤の減量が行われ、うち1例ではエベロリムスが追加されていた。予後は、それぞれ腫瘍診断後75か月無再発生存、21か月で他病死、170か月無再発生存という結果であった。

    結語:PTLD発生は当院膵臓移植手術症例の5.2%に認められた。少ない症例ではあるがいずれの症例においてもPTLDは制御されていたことから、膵臓移植後のPTLDは適切な治療を行うことで制御し得る病態であると考えられた。

  • 門 威志, 富丸 慶人, 小林 省吾, 伊藤 壽記, 今村 亮一, 佐々木 一樹, 岩上 佳史, 山田 大作, 野田 剛広, 高橋 秀典, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s294_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】臓器移植において阻血時間はグラフト生存に関与し得る因子とされているが,膵腎同時移植(SPK)における膵臓および腎臓の総阻血時間(TIT)が手術成績に与える影響は明らかではない.

    【対象・方法】2000年4月から2022年3月までの期間に1型糖尿病および慢性腎不全に対してSPKを施行した52症例を対象とした.対象症例を,本邦のSPKにおけるTITの中央値(膵:718分,腎611分)を用いて,短時間TIT群(S群)と長時間TIT群(L群)に分け,手術成績を比較検討した.

    【結果】腎TITによる2群の比較における短期成績は,L群において,術中に初尿を認めなかった症例の割合,術後血液透析を要した症例の割合が有意に高かった(50% vs 7%:p=0.0007)(78% vs 40%:p=0.0402).また,術後合併症の発症率に有意差を認めなかったが,術後ICU滞在日数が有意に延長していた(32±39日 vs 11±8日:p=0.0023).術後にグラフト機能が確認された症例における長期成績は,膵および腎グラフト生存率において両群間に有意差を認めなかった(膵:p=0.9082,腎:p=0.7885).一方,膵TITによる2群の比較では,短期および長期成績のいずれにおいても両群間に有意差を認めなかった.

    【結語】SPK症例において,膵TITが術後短期および長期成績に与える有意な影響は認められなかったが,腎TITは術後短期成績に影響する因子であった.術前に腎TITを推定することで術後短期成績が予測可能となる可能性,腎TIT短縮による術後短期成績改善の可能性が示唆された.

  • 北島 久視子, 近藤 晃, 蜂須賀 健, 三宮 彰仁, 小山 一朗, 中島 一朗, 渕之上 昌平
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s295_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    目的:膵移植後の移植十二指腸関連合併症症例に関する分析を行い、グラフト予後改善のための課題について考える。方法:東京女子医大腎臓外科で施行した膵移植のうち移植十二指腸合併症を発症した症例について非合併例と比較検討した。結果:全71例(膵腎同時移植(SPK)62例、腎移植後膵移植(PAK)9例)中、11例に12回(16.9%)の十二指腸関連合併症を発症した。全例SPK症例(膀胱ドレナージ(BD) 6例、腸管ドレナージ(ED) 5例)で、その内訳は縫合不全(吻合部または十二指腸断端)8例、吻合部出血2例、(縫合不全、のちに吻合部出血)1例であった。吻合部出血合併例はすべてBD症例である。移植膵摘出となった4例(BD1例、ED3例)については全例吻合部縫合不全例であった。非合併例との比較において出血症例ではドナー年齢が高かったこと以外差異は認めなかったのに対し、縫合不全症例ではこれに加えレシピエント術前透析期間や周術期血清アミラーゼ値およびCRPなどでも明らかな違いがみられた。さらに膵摘出の4例では他と比べ高齢のレシピエントであった。結語:合併症が重症化する背景としてレシピエント背景の他、グラフトの虚血/再灌流障害がその一因として大きく影響することが示唆された。

  • 北國 大樹, 富丸 慶人, 小林 省吾, 伊藤 壽記, 佐々木 一樹, 岩上 佳史, 山田 大作, 野田 剛広, 高橋 秀典, 土岐 裕一郎 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s295_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:脳死膵臓移植では,摘出手術で肝臓摘出チームが肝臓と共に総肝動脈を採取する場合には,膵グラフトの胃十二指腸動脈(GDA)は総肝動脈より切離される.本邦ではBench Surgeryにて膵頭部の血流維持の目的に間置グラフトを用いたGDA再建が行われる場合があるが,その意義は明らかにされていない.

    対象・方法:2000年4月から2021年までに当院にて1型糖尿病に対して膵臓移植を施行した57例のうち,間置グラフトを用いてGDA再建を行い,造影CTによってグラフト膵動脈血流を評価した24例を対象とし,間置グラフトの意義について検討した.

    結果:間置グラフトとして使用した血管は腸骨動脈21例,空腸動脈2例,腎動脈1例であった.うち5例に術後動脈血栓を認めたが,間置グラフトに血栓を認めた症例は1例のみであった(4.2%).その症例では血栓は術後4日目に同定され,間置グラフトのみならず上腸間膜動脈(SMA)および門脈にも認められ,グラフト摘出術が施行された.一方,動脈血栓を認めたその他の4例では,全例においてSMAに血栓を認めていたが,間置グラフトは開存していた.治療として1例に血栓溶解療法,3例では経過観察が選択されていたが,4例全例でグラフト摘出は回避されていた.

    結語・考察:間置グラフトの開存性は比較的良好であった.間置グラフトの有効性は,本検討結果からは明らかではないが,SMA血栓症症例でグラフト摘出が回避できた症例が一定数存在していたことから,間置グラフトの有効性が示唆された.

  • 加来 啓三, 岡部 安博, 久保 進祐, 佐藤 優, 目井 孝典, 野口 浩司, 中村 雅史
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s295_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】膵臓移植の主な合併症の一つがグラフト血栓症であり、早期グラフト廃絶のリスクとなる。血栓形成に関わる要因の一つである「血流の停滞」を膵臓移植において考えると、グラフトおよびグラフト門脈の圧迫、屈曲等による物理的要因が考えられる。今回、この物理的要因がドナー・レシピエント(D/R)のサイズミスマッチに起因し、グラフト予後に関与するとの仮説を立てた。

    【対象と方法】2001年から2020年12月までの本邦膵臓移植登録データ438例を対象とした。D/Rサイズミスマッチと関連する因子として、身長、体重、体表面積 (BSA)、D/R BSA比とした。BSAの算出にはDuboisの式を用いた。血栓症による早期膵グラフト廃絶に関わる因子をCox比例ハザードモデルにより解析した。

    【結果】多変量解析ではドナー体重 (p=0.02)、レシピエント低身長 (p=0.02)、ドナーHbA1c (p=0.02)が血栓症による早期膵グラフト廃絶に関わる独立予後規定因子であった。仮想膵グラフトサイズとして、膵グラフト重量と最も強い相関を認めたドナーBSA(Spearman順位相関係数=0.63, p<0.01)で同様の解析を行ったところ、D/R BSA比 (p<0.01)、ドナーHbA1c (p=0.02)が独立予後規定因子であった。D/R BSA比の血栓症による早期グラフト廃絶に対する予測能はROC解析でAUC : 0.65, cut-off値は1.09であった。制限3次スプライン曲線ではD/R BSA比とグラフト血栓症発症に正の相関を認めた。

    【結語】膵臓移植においてD/Rサイズミスマッチは血栓症による早期グラフト廃絶のリスク因子であり、レシピエントの体格が小さい場合はより注意が必要である。

  • 石川 博補, 小林 隆, 三浦 宏平, 田崎 正行, 池田 正博, 斎藤 和英, 坂田 純, 若井 俊文
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s296_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     臓器移植後の長期生存者の増加に伴い、晩期合併症として悪性腫瘍が問題になっている。今回、腎移植後膵移植(PAK)の経過観察中に子宮体癌を発症した1例を報告する。

     症例は49歳女性。8歳で1型糖尿病を発症しインスリン療法を導入された。29歳時、糖尿病性腎症に対し血液透析を導入された。31歳時に生体腎移植を施行され、透析を離脱した。36歳頃から無自覚低血糖発作を頻回に生じるようになり、腎移植後膵移植の適応と判断された。移植待機中の46歳時に右卵巣嚢腫に対して腹腔鏡下右卵管卵巣摘出術を施行された。組織学的診断は良性右卵巣内膜症性嚢胞であった。以後、産婦人科でも経過観察された。48歳で脳死ドナーよりPAKを施行され、インスリン離脱を達成した。49歳時、経過観察目的の子宮体部スメア検査でClass V、adenocarcinomaと診断された。CTおよびMRIで子宮体癌と診断され、左卵管卵巣摘出術を伴う腹部子宮全摘出術を施行された。特段の術後合併症を認めず、術後8日目に退院となった。術後病理所見より子宮体癌 IA期と診断された。術後は引き続き産婦人科で経過観察されている。術後23か月経過し、明らかな再発所見を認めていない。

     膵臓移植後の発癌は致死的な晩期合併症となる可能性がある。発癌を考慮した定期的な検診を行うことが重要である。

  • 田中 知香, 平塚 いづみ, 四馬田 恵, 高柳 武志, 清野 祐介, 栗原 啓, 會田 直弘, 伊藤 泰平, 剣持 敬, 鈴木 敦詞
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s297_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】末期腎不全を伴う1型糖尿病(T1DM)患者は、低血糖や合併症の進行によりQOLが著しく低下し、身体的・精神的・社会的に大きな不安を抱えている。今回我々は、膵臓移植(PTx)登録時にT1DM患者のQOLを評価し、PTx後のQOLが改善されるかどうか比較検討した。【方法】対象は当院にてPTxの待機者リストに登録されたT1DM患者58名(男性22例、女性36例)、平均年齢は42.8±8.0歳。Medical Health Survey Short Form (SF-36) version 2を用いて定量的にQOLの評価を行なった。うち24例(男性8例、女性16例/膵腎同時移植20例、腎移植後膵臓移植4例)については、PTx前後のQOLの変化も検討した。【結果】PTx登録時においてSF-36の下位尺度8項目、身体的要素(PCS)、精神的要素(MCS)、役割的要素(RCS)のサマリースコアは、いずれも国民標準値(=50)を下回っていた。透析患者36例、非透析患者12例、腎移植後患者10例の各群間でも比較を行なったが、QOLスコアに有意差は認めなかった。PTxを施行した24例では、SF-36の各スコアの過半数およびPCS、MCSで改善を認めた【考察】PTxを希望するT1DM患者は、透析の有無にかかわらずQOLが低下しており、PTxはQOLスコアを改善することが示された。【結語】PTxによりQOLの改善を期待できるが、各患者の多様な課題に応じて必要な医療を提供していく必要がある。

  • 廣瀬 雄己, 小林 隆, 坂田 純, 三浦 宏平, 石川 博補, 齋藤 征爾, 安部 舜, 宗岡 悠介, 田島 陽介, 市川 寛, 若井 俊 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s297_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景:侵襲性肺アスペルギルス症は、主に日和見感染として発症する致死的な疾患である。膵腎同時移植後の抗体関連拒絶反応の治療中に侵襲性肺アスペルギルス症を発症し、軽快した一例を経験したので報告する。

    症例:40歳男性。18歳から1型糖尿病に対しインスリン治療を開始され、38歳から糖尿病性腎症で血液透析を開始された。39歳時に脳死下膵腎同時移植を施行され、免疫抑制はステロイド、抗胸腺細胞グロブリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルを投与されていた。術後4か月目から血清クレアチニンが上昇し、抗体関連型拒絶反応と診断され、ステロイドパルス療法、血漿交換、リツキシマブ投与、ガンマグロブリン療法により腎機能は改善した。術後6か月目に発熱を主訴に受診し、両側の肺炎を認め入院した。喀痰培養からはAspergillus nigerが検出され、侵襲性肺アスペルギルス症と診断された。入院後5日目からvoriconazoleを投与し、発症4か月後に中止した。Voriconazole休薬から12か月が経過し、抗体関連型拒絶反応および侵襲性肺アスペルギルス症の再燃なく経過中である。

    結語:膵腎同時移植後に発症した侵襲性肺アスペルギルス症に対し、早期のvoriconazole投与開始により軽快した一例を経験した。侵襲性肺アスペルギルス症は致死的な疾患であり、発症ハイリスク群とされる好中球減少例や免疫抑制療法例における肺炎発症の際は同疾患を念頭におき、早期の治療介入が重要である。

  • 四馬田 恵, 平塚 いづみ, 田中 知香, 栗原 啓, 會田 直弘, 髙栁 武志, 清野 祐介, 伊藤 泰平, 剣持 敬, 鈴木 敦詞
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s297_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    (背景)膵臓移植を希望する1型糖尿病患者の多くは、頻回の低血糖発作や様々な合併症を抱えている。移植待機期間は近年短縮傾向だが、依然待機患者は数多く存在する。(方法)2009年から2021年の当院での膵臓・腎臓移植登録患者の臨床的背景を検討した。(結果)登録患者数91名(男性35名、女性56名)、膵臓・腎臓同時移植(SPK)71名、膵臓単独移植(PTA)14名、腎臓移植後膵臓移植(PAK)6名であった。平均年齢41.6 ± 7.7歳、平均HbA1c  7.2 ± 1.4%、平均BMI 20.8 ± 2.9 kg/m2。SPK、PTA、PAKのeGFR(mL/min/1.73m2)は、各々SPK 5.5 (25 th-75th, 4.3-7.4)、PTA 57.4(25 th-75th, 25-85)、PAK 47.0 (25 th-75th, 34.1-58.7)であった 。重症低血糖は57/91名で発症頻度は4.5回/月(25 th-75th, 1.0‐12.0)、無自覚低血糖は84/91名で発症頻度は10.0回/月(25 th-75th, 4.0-30.0)、両者を伴っている者は55/91名であった。91名中72名は既に移植を行っており、待機期間中に2名が死亡した。(まとめ)登録患者は複数の進行した合併症を抱えており、待機期間中も細心の全身管理を行うことが重要と考えられる。

  • 野口 浩司, 加来 啓三, 岡部 安博, 西田 留梨子, 下野 信行, 中村 雅史
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s298_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】膵移植後の真菌感染症は臓器生着率、患者死亡率に相関するとされる一方で、抗真菌剤の予防投与を支持するエビデンスは限られており、全例予防投与を行うことに対してのコンセンサスは得られていない。

    【方法】当科ではこれまで膵移植患者に対する抗真菌薬予防投与を行っておらず、移植後の真菌症発症率を検討した。対象は2015年から2022年4月までに当科で行った膵移植患者47例とし、真菌症の定義は術後半年以内に「β-D-グルカン陽性」または「培養で真菌陽性」で、かつ臨床症状があり真菌症として加療したものとした。

    【結果】47例中10例(20%)が真菌症と診断された。移植後から発症まで期間は中央値13日(4-113日)であった。真菌症の発症と術後半年以内の移植膵機能廃絶とは有意に相関していた(P<.001)。臓器保存液の培養では31例中1例(2%)が、ドナー十二指腸液培養では17例中12例(71%)がカンジダ陽性であった。いずれかがカンジダ陽性であった13例中4例(31%)が、術後真菌症をきたしたのに対して、どちらも培養陰性であった5例は真菌症を認めなかった(P=.082)。

    【結語】膵移植後真菌症は術後早期に発症し、その後の移植膵機能廃絶と有意に相関していた。また真菌症発症のリスク評価に臓器保存液と十二指腸液培養が有用である可能性が示唆された。

  • 大塚 聡樹, 長坂 隆治, 剣持 敬, 浅野 武秀
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s298_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】本邦の膵臓移植は、脳死法案の成立により世界と同様な環境下での移植医療となっているが、それ以前には生体膵部分移植が行われた。生体膵移植は高度の医療技術を要しごく一部の医療機関に全国から集まり、術後は生活圏で連携して診ている。今回、維持管理を連携しておこなった1型糖尿病者の生体部分膵・腎同時移植後の症例に脳卒中をきたしたので報告する。【症例】50歳代女性。現疾患は1型糖尿病で、8歳時よりインスリン療法を施行。腎機能低下により腎移植について紹介され、献腎移植、生体膵・腎移植について説明し、2009年2月千葉東病院で生体間移植をおこなっていただいた。血糖値は安定し腎機能も保たれているが、近年は眼科系疾患(眼底出血)、肥満、高血圧等の合併症をきたしている。移植後13年目に近所の出先で 突然、右片麻痺、失語をきたし近隣の急性期病院で治療された。左視床出血であった。その後亜急性期病院でリハビリを行い自力歩行し、発症後3ヶ月目に自宅退院し、通院リハビリをしている。【考案】臓器移植での生命予後は、移植片の喪失、感染症,悪性疾患,心・脳血管疾患等により決まり、その基礎的因子として全身の動脈硬化、高血圧、脂質異常などが挙げられ、これらには免疫抑制剤や生活習慣、糖尿病背景が深く関わっている。多因子が複雑に絡み合っており、生活習慣病の治療薬一つとっても常に免疫抑制にどれほど影響するのか、どれが最善かその指標は確立されていない。更なる検証の積み重ねによる方策の確立が望まれる。

  • 圷 尚武, 丸山 通広
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s298_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】1型糖尿病性腎不全の患者は、妊娠出産が困難であるが、膵腎移植をすることにより可能になると考えられている。今回、我々は、膵腎移植をすることにより、妊娠出産した1型糖尿病性腎不全の症例を経験したので報告する。

    【症例】症例は、39歳代女性、AB型。10歳代で1型糖尿病を発症し、20歳代で血液透析導入。導入5年後に脳死膵腎同時移植を受けた。移植後経過良好で、移植3年後に出産を希望し、免疫抑制剤や降圧剤を調整した。移植8年後、妊娠。移植約9年後、帝王切開により男児出産。体重は2300gであった。現在まで、母子共に問題はない。

    【まとめ】1型糖尿病性腎不全患者が膵腎移植をすることにより、移植膵腎機能や免疫抑制剤の調整等のハードルはあるが、妊娠出産が可能になると思われた。

  • 谷口 俊理, 東 治人, 能見  勇人, 平野 一, 上原 博史, 小村 和正, 藤原 裕也
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s299_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    症例は50歳女性。幼少期より原因不明の腎機能低下認め200X年に腹膜透析導入し当院にて献腎登録。200(X+10)年に血液透析に移行し現在で献腎登録16年目となる。

    ドナーは61歳男性、20XX年X月X日脳出血,脳室穿破にて入院、入院後全身状態悪化によるCPAを発症しROSCするも蘇生後低酸脳症認め脳死判定となった。入院時Cre値は2㎎/dl台、脳死判定時のCre値1.4~1.6mg/dlで推移していたがmarginal donorであり、かつ他施設での1腎での移植希望がなかったため当院にて2腎同時移植を行った。術後尿量安定まで6週間程度要するも現在までCre1.5㎎/dl前後で経過している。

    今回我々は献腎ドナー腎機能不良例に対し2腎同時移植行い現在まで腎機能良好に経過した症例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 望月 保志, 倉田 博基, 松田 剛, 迎 祐太, 中西 裕美, 光成 健輔, 松尾 朋博, 大庭 康司郎, 日髙 匡章, 竹田 昭子, 宮 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s299_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】1997年臓器移植法成立により、本邦において脳死下臓器提供が施行されるようになった。さらに、2010年の臓器移植法改正により、脳死下臓器提供数は増加傾向となり、多くの施設で多臓器採取手術を経験するようになった。脳死下多臓器採取では採取予定臓器の状況により献腎採取の方法が異なる。長崎県における脳死下臓器提供の現状と献腎採取方法のバリエーションについて検討を行った。【対象・方法】長崎県内では1965年以降91例の臓器提供を経験し、そのうち、2010年から現在までに19例の脳死下臓器提供を経験した。19例における多臓器採取における献腎採取方法について検討した。【結果】19例中1例が家族希望により腎採取がなく、18例で腎採取が施行された。小腸採取は19例中1例であった。腎採取があった18例中10例が膵採取・腎採取ともにあり、8例が膵採取なし・腎採取あり、そのうち1例は腎単独採取(胸部臓器なし、腹部腎のみ)であった。すなわち、脳死下献腎採取では、①腹部で肝・膵・腎(+小腸)採取あり、②腹部で膵採取なし、肝・腎採取、③腹部で腎採取のみ、④腎単独採取、のバリエーションがあり、それぞれを経験した。腎臓チームは各採取方法で役割が異なるため、各々に対する準備が必要であった。【結語】脳死下臓器提供における献腎採取は他臓器採取の有無あるいは状況により大きく異なる。バリエーションに応用できる器材の準備と手術手技の確認と習得が重要であると考えられた。

  • 小松 智徳, 辻 克和, 社本 憲俊, 刀根 慶太朗, 伊藤 康雄, 湯口 友梨, 木村 亨, 絹川 常郎, 後藤 百万
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s299_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    はじめに

    2010年7月に改正臓器移植法が施行された以降の当院での献腎移植について脳死下提供(DBD)と心停止下提供(DCD)の比較を行った。

    対象

    2010年7月以降30例の献腎移植を施行し14例が脳死下提供であった。レシピエントは7例の20歳未満を含み、ドナーの未成年症例は1例のみであった。

    結果

    レシピエント年齢、移植前透析期間、ドナー入院時Creについては両群間で差を認めなかったが、ドナー年齢、ドナー摘出前Creでは有意にDCD群が高く、総阻血時間はDCD群が有意に長かった。移植直後に透析を行わなかったimmediate function症例はDBD群で8例(57%)、DCD群で1例(6%)であった。 DBD群では平均観察期間52.8カ月で全例生着、生存している一方、DCD群では平均観察期間82.9カ月で2例のPNF、2例のDWFG、2例の腎廃絶を認めた。腎廃絶例は2例とも二次移植で、1例は慢性抗体関連拒絶、1例はIgA腎症の再発が原因であった。

    考察

    諸家の報告通り、献腎移植においてDBDはDCDに比べ良好な成績であった。しかしながら状態の悪いDCDでも適切なドナーおよびレシピエントの選択によりDBDに匹敵する成績が得られるとも考えられる。当院の過去の症例や文献的考察を踏まえ発表させていただく。

  • 木原 優, 沖原 正章, 赤司 勲, 今野 理, 岩本 整
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s300_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    COVID-19感染症が発生し、パンデミックとなってから2年以上経過しているが、今もなお多数の感染者が毎日認められている。オミクロ株が主流となってからは、重傷者が減少しており死者数も減ってはいるが、死者がほぼ毎日報告される感染症であり、いまだに感染予防が必要な疾患である。当院では、COVID-19感染症が流行してからも、なるべく腎移植を施行するスタンスで手術を行ってきており、緊急事態宣言下でも患者さんの同意があれば施行してきた。最近になり、COVID-19感染症の病態がかなり解明されてきており対処もできるようになってきたが、流行初期段階ではどの程度命に関わる病気かもわからずかなり手探りで治療を行っていた状況であった。今回、COVID-19感染症流行時に心停止ドナーから提供頂いた献腎移植を経験したため報告する。いわゆる第6波の感染急拡大の時期で、東京都の1日の感染者数が1万6000人を超え、まん延防止等重点措置が実施されていた。このような社会状況の影響もあり、多数の辞退者がでて、元順位61位の37歳男性が1位まで順位が上がり移植を行うこととなった。幸いにも、ドナー摘出が順調に進み、低温機械灌流保存後に移植を行った。術後透析は1回で離脱可能で、Cr2.04で退院となった。現在合併症はなく経過し外来通院中である。感染症流行時の移植で感じた難しさや問題点も併せて発表させて頂きたい。

  • 長坂 隆治, 大塚 聡樹, 石山 宏平, 小林 孝彰
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s300_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2017年より献腎移植登録患者の年1回通院も義務づけられ、献腎候補に挙がった際には、より生体腎移植例に近い術前管理ができるケースが多くなってきた。またレシピエント検索システム (E-VAS) の導入に伴い、献腎移植登録患者のステータスもより明確となった。当院は地域中核病院であり、献腎登録患者の脳血管系・心血管系・悪性疾患に対する治療で当院に入院することが多く、透析センターにおいて登録患者の病状経過を追うこともできている。入院中に患者本人と相談して待機状態を inactive とすることに同意を得たり、登録抹消を勧めるなどして、アクティブな献腎登録患者数は100名前後にとどまっている(2019年95名、2020年89名、2022年96名)。ここ1年では登録例よりも本人希望や死亡による抹消例の方が多いようにみえる。これまでの当院での献腎登録患者289例中、副甲状腺手術 (PTx) を施行した症例が37例(腎移植後PTx 6例、腎移植前PTx 5例)あった。年1回の定期通院でPTxを勧めた症例が多かったが、calcimimetics の登場で正Ca血症を維持できることもあり、未だに腎移植前PTxの手術同意を得るのに容易でない。この外来で発見した悪性疾患は自己腎癌 7例、肝癌 1例であり、長らくの受診拒否例1例を除いては早期癌で根治的治療が可能であった。腹部CTなど画像検査の経時的フォローによる成果と評価している。献腎移植登録外来の今後のあり方について考察する。

  • 岡部 安博, 久保 進祐く, 佐藤 優, 目井 孝典, 野口 浩司, 加来 啓三, 中村 雅史, 小川 智子, 津々浦 康, 宮本 京子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s300_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    脳死下での臓器提供は増加しているが、心停止下での腎提供は年々減少傾向にある。このため、当県でも出動回数は減少しており、若手の移植医が心停止下での腎摘出を経験する機会が少ない。しかし献腎移植施設であれば、情報は突然やってくるため、常に準備をしておく必要がある。 ポイントは、①出来るだけ脳死下での摘出と手技を統一すること、②最少人数(2名)でも対応できるようにすること、③道具を少なくすること。④できるだけ数多く経験することである。 一番の問題点は、心停止から灌流までのWITを出来るだけ短くしたいが、それが分からないことである。ベッドサイドでダブルバルーンカテーテルを挿入する方法もあるが、挿入後に低血圧が遷延し、右下肢壊死から敗血症になったことを経験している。また灌流開始時に血栓で閉塞しており、急いで手術室に搬送したこともある。このため、必ずしもカテーテル挿入がベストとは言い難い。また、胸腔内脱血が不十分であったり、頭側の大動脈クランプがかかっていなかったことも経験した。 このように心停止下でも腎提供の現場では頻度が少ないにも関わらず、対応すべき要点が多いが、迅速な判断を求められるような不確定要素も多い。これまで経験してきたピットフォールを含めて紹介することによって、若手腎移植医の経験の一助となれば幸いである。

  • 加藤 櫻子, 纐纈 一枝, 宮島 由佳, 吉川 充史, 明石 優美, 剣持 敬
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s301_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景)当院では、2019年度から日本臓器移植ネットワークが主催する臓器提供施設連携体制構築事業に参画している。2019年、2020年は4施設、2021年は6施設、今年度は5施設と連携し継続申請中である。

    目的・方法)拠点施設(当院)、連携施設において、患者・家族の崇高な意思を叶える体制作りを目標に、講演会、セミナー、シミュレーションなどを企画開催し、知識の習得や情報の共有を行っている。本事業の取り組みについて紹介する。

    結果・考察)事業開始2年目には当院2例、連携施設1例の脳死下臓器提供があり、3年目には当院1例、連携施設4例の脳死下臓器提供があった。2年目からはCOVID-19感染拡大のため、本事業ではWEBを使用して、講演会、セミナーなどを継続し、参加施設のモチベーションの維持ができた。事業を継続することにより、地域の臓器提供体制の輪を広げることが可能で、連携施設全体の臓器提供に対する意識向上につながり、その結果、臓器提供数の増加につながった。

    まとめ)経験のある臓器提供施設が経験の少ない施設の院内コーディネーターをはじめ関係医療者を継続的に支援していくことにより、地域の臓器提供体制基盤を強化し、地域での臓器提供数の増加に効果的であった。本事業は1年単位の事業であるが、継続することで3年目には愛知県内で連携した5施設から初の脳死下臓器提供があり、臓器提供数増加に効果を上げた。

  • 佐々木 聡
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s301_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的・対象・方法】手術室があれば心停止後臓器提供は可能とされているが実態は定かではない。そこで県内の手術室がある施設に心停止後臓器提供の体制整備について紙面による調査を実施し,その後電話等で状況を確認した。【結果】県内手術室がある施設は39施設(回答率100%)。体制整備されているのは10施設(25.6%)、されていないのが29施設(74.4%)であった。その内,5類型施設で整備されていないのが3/11施設,5類型外施設では26/28施設であった。また,手術室が稼働していない施設は11/29施設であった。【考察】体制整備されていない理由の88.2%がマンパワーの問題であり,単に人手不足のことであればこの問題に介入することは困難である。手術室が稼働していない病院も同様である。筆者は以前心停止後臓器提供を含めた臓器提供は5類型施設からが9割を超えていることを報告しているが,手術室がある施設であれば心停止後臓器提供が可能という認識で幅広く体制整備を検討するのではなく,本邦における臓器提供が5類型施設を中心に行われてきたことを鑑みれば,心停止後臓器提供であっても5類型施設で体制整備されている施設に普及啓発することが肝要である。また,現在議論されている臓器提供を行うための転院搬送が進展することを期待したい。

  • 種田 聡美, 纐纈 一枝, 水野 友紀, 剣持 敬, 伊藤 泰平
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s301_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    <背景>

     臓器提供には手術室看護師が大きく関わるため、A病院では院内ドナーコーディネーター(以下Co)の1名として、2020年に手術室看護師が任命された。今回、他院摘出チームへの器械貸し出しの実践と効果について報告する。

    <実践内容>

     A病院は、2020年から摘出医の負担軽減を目的に他院の摘出チームへ手術器械、診療材料の貸出しを行っている。手術室担当Coは、摘出術前日に日本臓器移植ネットワーク(以下JOT)と打ち合わせをし、提示している貸出し器械リストに対する医師の要望・質問に回答した。摘出術当日は、各チームの到着前に摘出器械を展開し、到着後に担当医師と器械の最終確認を行った。

    <結果・考察>

     2施設へのアンケート結果では、当院の摘出器械で問題なく臓器摘出術が実施できたため、今後も使用したいとの回答を得た。また、COVID-19流行時期でもあったため、器械・トランクを持参しての長距離移動の負担が軽減し、JOTや厚生労働省から評価された。手術室看護師が院内ドナーCoとして調整役を担ったため、提供施設での器械貸出しを含め、円滑な臓器提供に貢献できたと考える。

    <結論>

     臓器摘出術、移植医療は院内だけではなく他施設の摘出チームとの連携が必要である。手術室看護師が院内ドナーCoを担うことにより、臓器提供の最終かつ最もCriticalなプロセスである、臓器摘出術のスムースな実施が可能であった。今後も手術室院内ドナーCoとして尽力していきたい。

  • 吉川 充史, 纐纈 一枝, 加藤 櫻子, 宮島 由佳, 剣持 敬
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s302_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    (はじめに)当院では臓器提供連携体制構築事業に参画、経験の少ない連携施設に、臓器提供時の情報提供や脳死判定等の実際、また人員配置やマニュアル作成のノウハウを助言、臓器提供事例発生時に医師や臨床検査技師が応援に駆けつける等の支援を行なっている。

    (目的・方法)臓器提供連携体制構築事業では、月1回定例会を開催し、互いに顔の見える関係を構築し、臓器提供体制構築を支援している。脳死下臓器提供事例発生時の現場支援の取り組みについて紹介する。

    (結果・考察)2施設の連携施設に院内コーディネーター(以下院内CO)と臨床検査技師の現場派遣を行った。初めての脳死下臓器提供は、知識はあるが経験値が低いため現場が混乱する。事例発生早期から経験のある拠点施設の院内COを現地に派遣し、ノウハウや助言をすることで連携施設の院内COの不安が軽減され、円滑な院内調整に繋がった。また法的脳死判定では、一番重要な脳波測定に、拠点施設から経験値の高い臨床検査技師が現地で支援する事で、経験値の低い臨床検査技師の精神的負担を軽減し、技術的サポートが可能となった。

    (まとめ)経験のない連携施設において、初回の提供事例では患者家族との対応、院内調整など限られた資源と時間の中で行う事は混乱を伴う。経験のある拠点施設職員が現地で協同し助言を行うことで、連携施設職員の精神的な不安軽減につながり成功体験は次回の提供にもつながると考える。

  • 磯部 伸介, 石垣 さやか, 岩倉 考政, 藤倉 知行, 大橋 温, 加藤 明彦, 本山 大輔, 杉山 貴之, 大塚 篤史, 三宅 秀明, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s303_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    腎移植は透析と比較して生命予後、生活の質が優れた腎代替療法である。当院では1978年泌尿器科において腎移植が開始され、現在年間10数例の腎移植手術を施行している。腎移植後長期生着が期待できるようになり慢性腎臓病管理や再発腎炎等、移植内科医の重要性が増加してきた。更なる腎移植医療推進のため、2019年から腎移植内科外来を設立し、保存期腎不全の治療、移植前評価、移植後の管理を内科で行い、周術期管理を泌尿器科にて行う体制を確立した。

    当院にて生体腎移植手術を施行した連続60症例を、腎臓内科が腎移植へ参入後、移行期、参入前の20症例ずつに分けて比較すると、参入後は参入前と比較して院内紹介の割合が5%から35%に増加し、先行的腎移植の割合も15%から30%と増加した。このような変化が生じた理由を調べるため、関連病院の腎臓内科医に腎代替療法に関するアンケート調査を行った。腎臓内科が腎移植へ参入前と比較して、参入後では、腎移植を療法選択として提示する割合が増加し、療法選択を行うCKDステージが有意に早くなっていた。

    腎臓内科医が腎移植に携わることで、保存期腎不全から腎移植後まで連続した管理を行えること、院内腎臓内科医にとって腎移植を腎代替療法の選択肢として提示する敷居が下がること、結果として先行的腎移植が増加していることが示唆された。

  • 日高 悠嗣, 山永 成美, 日比 泰造, 横溝 博
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s303_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【症例】30歳代,男性.Stanford A型急性大動脈解離による低酸素脳症で脳死状態となり,オプション提示後の家族同意で脳死下臓器提供に至った.臓器摘出に際する問題点として,大動脈解離による偽腔開存が両側総腸骨動脈まで及んでおり,通常の大動脈カニュレーションでは腹部臓器の灌流が不十分となる可能性が挙がった.当初,通常通り総腸骨動脈分岐部直上の大動脈で真腔と偽腔を確認してカニュレーションをし逆行性に灌流する方針であったが,胸部摘出チームとの協議で弓部置換した人工血管の側枝からカニュレーションをして腹部臓器を順行性に灌流する手技が提案された.実際の摘出手術時は胸部チームにて人工血管の側枝からカニュレーションをし,クロスクランプはせず心停止と同時に臓器保存液で腹部臓器を灌流した.腹部臓器の灌流・脱血は良好で,腹部臓器の摘出は互助制度を活用して熊本大学移植外科と共同で行い,肝臓と両腎を摘出して各施設で移植を行った.心臓・両肺・肝臓・両腎の提供であったが,全臓器生着しており移植後の経過は順調である.【結語】今回の症例は腹部臓器が灌流不十分で臓器提供が断念となる可能性もあったが,カニュレーション方法を工夫することで安全かつ十分な臓器灌流ができ,適切な臓器保存で移植に繋げることができた貴重な症例である.

  • 蔵満 薫, 小松 昇平, 木戸 正浩, 権 英寿, 福島 健司, 浦出 剛史, 宗 慎一, 津川 大介, 柳本 泰明, 浅利 貞毅, 味木 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s303_3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景;日本臓器移植ネットワークからの報告によると、2010年には32件であった脳死下臓器提供数はコロナ禍の2021年も66件まで増加していた。肝臓では病状が深刻な患者から移植が実施されるため、単一施設で移植が続くことも珍しくない。2024年4月から導入が検討されている医師の働き方改革の中で規定されている時間外労働の上限規制をクリアするためには、移植医療におけるタスクシフティングが必須となる。自施設における移植医療の現状とレシピエント移植コーディネーター(RCT)の育成について報告する。

    現状;4日間に2例の移植が週末にある場合、自施設だけの診療体制では8人摘出チームの派遣が必要であったが、互助制度を利用することで4人まで削減することが可能となった。また日々の患者対応をするRTCの育成目的に関連病棟で勉強会を毎年実施し、病棟師長の協力を得た上で2014年より移植外来への病棟看護師の派遣を開始した。関連学会へも複数名で参加し、2016年以降継続的にRCTの認定を得ている。考察;時間外労働の最たる理由となる摘出手術に際した人的資源の投入は、互助制度の利用により大幅な削減が可能となるが、削減された若手医師の摘出医としての育成が今後の課題である。移植患者の予後を担保するためにはRTCの存在が不可欠であるが、自施設では関連病棟でRCTを複数名育成することにより専従看護師の業務を軽減した。いかに継続して若手のRTCを育成するかが今後の課題である。

  • 関 晃裕, 中沼 伸一, 岡崎 充善, 蒲田 亮介, 高田 智司, 寺島 健志, 山下 竜也, 八幡 陽子, 水野 一美, 水腰 英四郎, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s304_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】当院は北陸で唯一の肝臓移植認定施設であるが、2021年の臓器移植センター新設を契機に多診療科および多職種が連携した肝移植術前後の管理を試みている。新体制では、消化器内科医が兼任する移植内科医1名が、多職種の協力のもと肝移植術前および術後管理の一端を担っている。今回、当院における新たな取り組みについて報告する。【方法】新規症例は移植内科医が診察し、外科、内科、放射線科がカンファレンスにて適応を検討する。待機症例は内科通院し、定期的に外科、移植コーディネーター、栄養士、小児外科等が参加するミーティングにて問題点が共有される。臓器移植センター専属職員によりEVAS更新、外注検査等のサポートを得る。移植前は更に麻酔科、集中治療部を加え、移植後は外科が主体となり集中治療部、内科、栄養士、理学療法士等が各々の専門性を活かし管理する。【結果】この取り組みのもと、2021年以降29名について肝移植の適応について検討を行い、5名の生体肝移植および1名の脳死肝移植を行った。また8名の脳死肝移植待機登録を行い、現在11名が脳死または生体肝移植待機中である。2021年以前の全待機登録者数は33名であり、この取り組みにより肝移植候補症例に対し的確な検討と管理が行われ、待機登録者数の増加に繋がっていると思われた。【結語】移植内科医と外科医を含めた多職種の連携は適切な患者管理に重要であると考えられた。

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