土木学会論文集B2(海岸工学)
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74 巻, 2 号
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論文
  • 矢代 幸太郎, 神尾 光一郎, 金城 孝一, 中村 由行
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1201-I_1206
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     閉鎖性内湾である石垣島川平湾では湾奥部が比較的低濃度で恒常的に濁っており,サンゴ白化現象の発生抑制や死亡率の低減に寄与していると考えられる.濁度上昇を引き起こす定常的な現象として潮位変動に着目し,その周期性と流れの再現計算から推定すると,湾奥近辺の浅所の濁度は土粒子の堆積量が多い湾奥部西側干潟付近で再懸濁した高濁度水の移流により上昇すると考えられた.短期的な濁度上昇イベントについては,濁度の連続観測によって湾奥部の濁度が上昇する気象・海象条件を選定し,水質,底質,流況の調査結果から濁りの発生要因と恒常的な濁りに対する寄与度を検討した.湾奥部の濁度は,南風の卓越に伴う濁りの移流と湧昇により全層で上昇するが,その頻度は低い.また,高波浪によりWave Set-upが起きるものの,浅所の濁りへの影響は小さい.
  • 大谷 壮介, 安原 汰唯我, 辻 大地
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1207-I_1212
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     大阪市に位置する淀川河口干潟において一次生産者であるヨシ,底生微細藻類,植物プランクトンの炭素固定機能を評価することを目的として,現存量・生産速度の経月変化の現地調査を実施した.各生産者の現存量・生産速度は夏季に高く,生産速度は年間を通して呼吸速度を上回っており,炭素固定に寄与していた.晩秋から冬季においてヨシの光合成・呼吸等の活動はなかったことから,ヨシの枯れた期間は2種の微細藻類がその期間の干潟域の生産を担っていた.さらに,各一次生産者の中で現存量,炭素固定速度が最も大きい植物はヨシであり,ヨシの炭素のストックおよびフローが大きいことから河口干潟の炭素固定における役割は大きいと考えられた.
  • 山下 俊彦, 東出 崇志
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1213-I_1218
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     オホーツク海沿岸では, ホタテ稚貝を放流し成長させる, 地まき栽培が盛んに展開され, 重要な産業となっている. この地域では, 数年に1回程度どこかの海域で, 大しけの後にホタテの移動, 死滅が発生し, 大きな被害が発生することが問題となっている. しかし, ホタテ被害の発生メカニズムは十分に把握されていない. そこで本研究では, 2014年12月の爆弾低気圧の影響によって発生した常呂沖のホタテ被害の実態を, 水中ビデオ画像により各水深ごとに把握した. さらに, この海域での波動流速, 吹送流, 宗谷暖流の流動特性を把握し, ホタテ被害との関係を考察した.
  • 秋山 吉寛, 黒岩 寛, 岡田 知也
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1219-I_1224
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     沿岸域の生物多様性再生に適したシースケープの特徴を調べるため,浮遊幼生期に受動的に移動する底生生物を扱い,1次元仮想空間で多世代に渡る数値計算を行い,無撹乱条件下の底生生物群集の多様性および持続性,あるいは,撹乱条件下の特定の生物(カニ類)個体群の持続性を高める生息場の空間配置の特徴を定性的に明らかにした.総延長が一定の生息場を配置し,底生生物群集の多様性および持続性を高めるには,生息場の個数を少なく,各生息場の延長を長くする事が効果的と考えられた.また,生息場外からの浮遊幼生の加入と,生息場内の多様な生物の持続的な生息の間には,生息場の個数および面積に対してトレードオフの関係があった.強い撹乱条件下では,生息場を適度な個数に分割し適度に離して配置すると,カニ類の持続性は高まると考えられた.
  • 赤塚 真依子, 高山 百合子, 伊藤 一教, 森本 哲平, 源 利文
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1225-I_1230
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     水域における生物情報を入手する方法のひとつである環境DNA分析は,1L程の採水となる現地作業は簡便であるものの,広域に放出された希薄なDNAを対象とするため,様々な要因が環境DNAの検出結果に影響を及ぼすことが懸念される.著者らは,流動解析と環境DNAを組合せたアマモ場モニタリング手法の構築を目指している.次世代シーケンシングと定量PCRによる環境DNA分析を試み,各分析方法の現地調査との対応性評価を目的とした.11地点の現地調査では,次世代シーケンシングは数点の検出となり,定量PCRはアマモ場から離れるに従って,高い値から徐々に低下した.また,室内試験から得られた海草の環境DNA減衰特性を取り入れた三次元拡散解析を実施し,分析結果と相関が得られた.流動解析と環境DNA分析による分布評価について適用の可能性が示唆された.
  • 高山 百合子, 赤塚 真依子, 伊藤 一教, 源 利文
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1231-I_1236
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     環境DNAを活用したアマモ場モニタリング手法に向けて「環境DNAが通過する地点の採水・分析により,環境DNA発生地点における海草の成長・減衰等の変化を捉えるモニタリングが可能になる」という仮説を立て,その成立性について粒子追跡計算のケーススタディーにより検討した.現地の環境DNA分析結果に見られた特異的なDNA量の考察を通して,採水タイミングが得られる環境DNA量に影響を及ぼすこと,さらには環境DNA発生量の空間分布が得られる環境DNA量に影響を及ぼすことを示した.そして,採水地点とアマモ場分布に特定の関係がある場合には,環境DNAを活用したアマモ場モニタリングが成立する可能性があることを示した.
  • 田多 一史, 中山 恵介, 桑江 朝比呂
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1237-I_1242
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     東京湾に面する走水海岸を対象として,アマモ場の海水中CO2分圧モデルの構築を行った.走水海岸のアマモ場では,海水中CO2分圧は大気中よりも低く,大気-海水間CO2フラックスは概ね大気から海水への吸収傾向にあった.海水中CO2分圧は時間的に大きく変動しており,流動等の物理過程,光合成や呼吸といった生物過程等による影響が考えられるため,3次元数値計算モデルによる再現計算を行った.海水中CO2分圧のモデル化では,溶存無機炭素濃度(DIC)に注目し,生物過程を考慮することで観測結果を再現することができた.移流拡散,呼吸,光合成の3成分に関する比較を行った結果,光合成の効果が最も卓越していることが分かった.また,DICの高精度な再現には,潮汐のみならず風も含めた流動の再現が必要であることが分かった.
  • 永尾 謙太郎, 中村 由行
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1243-I_1248
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     閉鎖性水域の窒素・リン濃度の変化に対する浮遊系微生物群集の応答を観測および数値シミュレーションモデルにより明らかとした.2014年・2015年に行われた観測結果では,窒素・リン濃度の増加に伴って大型のマイクロサイズの植物プランクトンが増加し,逆にシアノバクテリアであるsynechococcus sp. は窒素・リン濃度が低下した時期および海域において増加する傾向が捉えられた.とくにsynechococcus sp. はT-Nが約0.3mg/L,T-Pが約0.03mg/L以下の条件で増加する傾向にあった.
     これら微生物群集の発生状況の違いが海域の生物生産性に与える影響について数値シミュレーションにより評価を行い,伊勢湾では現状から窒素・リン濃度がさらに低下した場合,食物連鎖に占めるmicrobial-food-webの割合が高くなり,一次生産から二次生産に至る転送効率が低下することを明らかとした.
  • 国分 秀樹, 羽生 和弘
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1249-I_1254
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     伊勢湾内の湾奥部に位置する名古屋港湾区域およびその周辺域を対象として,アサリの分布および浮遊幼生の調査を実施し,伊勢湾内のアサリ母貝場としての港湾区域の重要性について検討した.名古屋港内では水深5m以浅のエリアに殻長20mm以下の稚貝と殻長20mm以上の成貝が,木曽三川河口域では,潮間帯から最大水深10mのエリアで主に稚貝の成育が確認でき,名古屋港内のアサリは大きく減少することなく生残成長した.また浮遊幼生の分布と周辺海域のアサリ成貝の肥満度と生殖細胞の成熟度との比較により,伊勢湾奥部では,2017年7月と12月にアサリの産卵が行われていることが分かった.湾奥部の名古屋港港湾区域では,通年安定して約1000トン規模の資源量が維持されており,それらの産卵によって伊勢湾中南部へ浮遊幼生を供給する重要な母貝場として機能していることが推測された.
  • 土山 美樹, 鈴木 準平, 藤田 昌史
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1255-I_1260
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     汽水湖における貧酸素水塊形成時の水質を想定し,ヤマトシジミに塩分,溶存酸素,硫化水素を外乱として与え,総抗酸化力(ORAC)と抗酸化酵素(スーパーオキシドジムスターゼ,カタラーゼ)の活性を評価した.その結果,これらの酸化ストレスマーカーには有意な応答は見られなかった(p>0.05).一方,貧酸素水塊形成時の水質に都市下水を外乱として付加したところ,ORACが減少した(p<0.05).また,都市下水のみに曝露したケースとはORAC挙動が異なった(p<0.05).単一要因と複合要因では,ORACの応答が異なる場合があることが示された.以上より,人為的水質要因に対するヤマトシジミの抗酸化力を評価する場合には,摂餌条件を含めたバックグラウンド要因を考慮する必要性が示された.
  • 藤家 亘, 井下 恭次, 武元 将忠, 江口 秀治, 西 利明, 松山 幸彦
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1261-I_1266
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     近年の有明海におけるアサリ等二枚貝類資源の減少を受け,有明海沿岸4県と国は,浮遊幼生の産卵から着底までの移流機構を明らかにする調査を協調して実施している.本研究では,有明海での現地調査結果に基づいたアサリ浮遊幼生挙動モデルを構築し,干潟間幼生供給ネットワークを推定し,母貝団地造成や漁場環境改善による着底場増大の可能性など,有明海のアサリ資源回復のための有効な方策を示した.
  • 相馬 明郎, 中居 瑞貴, 久保 篤史, 桑江 朝比呂
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1267-I_1272
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     沿岸生態系は,炭素を貯留・隔離し,大気中のCO2濃度を低下する機能を持つ可能性がある.大気-海洋間のCO2フラックスは,沿岸生態系が,大気から炭素を吸収し・貯留し・隔離する,という一連のプロセスを構成する重要な要素である.本研究では,炭酸化学理論,生物生産,移流・拡散過程を包括的に取り扱った生態系モデルを東京湾に適用し,河口域における大気-海洋間CO2フラックスの動態とその要因について解析した.解析の結果,大気-海洋間CO2フラックスは,年平均値でみると,河口域では大気への放出,湾央域では海洋への吸収であった.また,河口域では,4月下旬から11月下旬にかけて,放出と吸収を繰り返し,CO2吸収は光合成による溶存無機態炭素(DIC)の消費に支配され,放出は硝化による全アルカリ度の消費に支配されている可能性が示された.
  • 相馬 明郎, 春田 拓郎
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1273-I_1278
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     東京湾の貧酸素化は,湾全体では改善傾向にあるものの未だ深刻な領域も存在する.本研究では浮遊系―底生系結合生態系モデルを用い,1979~2009年までの陸域からの栄養塩・COD流入削減に伴う海底溶存酸素と酸素消費メカニズムの経年変化を解析した.解析の結果,海底酸素が増加するA類型,減少から増加に転じるB類型,低下するC類型が存在した.また,栄養塩・COD流入削減は,A類型では,貧酸素改善に伴う還元物質(Mn2+, Fe2+, S2-)減少と底生動物増加を導き,C類型では,酸素上昇による還元物質減少と餌不足による底生動物減少を導いた.B類型では,貧酸素化改善に伴い底生動物は1994年まで増加し,その後,餌不足により減少した.これらの結果は,底生動物増加と貧酸素改善の両視点に鑑みた最適な栄養塩・COD流入量は,領域によって異なることを示している.
  • 山本 裕規, 吉木 健吾, 小松 輝久, 佐々 修司, 柳 哲雄
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1279-I_1284
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     志津川湾はカキ,ワカメ,ホタテガイ,ホヤ,ギンザケの養殖が盛んな海域であるが,東日本大震災の津波により養殖施設がほぼ全損し現在も復旧途上にある.本研究では,志津川湾流域の土地利用変化に伴う流入負荷量の変化を組み込んだ陸域-海域統合数値モデルを構築し,漁業者の収益や海域の生産性を損なうことなく,環境への負荷も少ない将来の最適養殖量の解析を行った.その結果,カキ養殖筏の台数を震災前の約1/3で維持し,湾奥部のワカメ養殖筏台数を現在の約3/4に削減することが,最も生産性を高め環境への負荷の少ない養殖量であることが示された.また,湾全体の基礎生産速度と栄養塩回転率は,震災前に比べるとそれぞれ約1.4倍,約4.5倍に増加しており,適正な養殖の実施により,湾内の栄養塩が効率的に再生産に利用されることが示唆された.
  • 中村 文則, 大原 涼平, 滝 晴信, 下村 匠
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1285-I_1290
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     構造物に作用する海水飛沫量の違いを時間・空間的に予測することは,構造物の塩害劣化の予測精度の向上に直接つながるため重要である.本研究では,海岸近傍の気象・波浪作用と海水飛沫量の時間・空間的な変動を予測できる方法を確立するために,構造物周辺において2時間間隔の気象作用と海水飛沫量の現地観測を実施した.さらに,風況・波浪と海水飛沫量を予測できる3次元数値モデルを用いて,気象・波浪・海水飛沫量の時間・空間的な分布の予測を行い,その結果について妥当性の検証を行った.その結果,気象・波浪作用に応じた海水飛沫量の時間・空間的な変動を確認でき,海水飛沫量が風速・風向と波浪条件に影響されていること,数値解析により構造物周辺の気象・波浪作用と海水飛沫量の時間・空間的な変動を予測できることが明らかになった.
  • 内山 雄介, 宮川 翼, 小谷 瑳千花, 上平 雄基
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1291-I_1296
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     3段ネスト高解像度海洋流動モデルとサンゴ卵・幼生を模した3次元Lagrange中立粒子追跡により,沖縄本島沿岸域における浮遊幼生の海洋分散とコネクティビティの出現特性および形成機構を明らかにした.合計約2427万個の粒子を用いたLagrange解析から,本島東海岸での北上流,西海岸での南下流によって特徴づけられる沿岸域を時計回りに周回する残差流が粒子分散パターンとコネクティビティ形成に対して重要であることが分かった.また,半閉鎖性内湾は湾スケールの局所的な停滞性の循環流によって強い粒子捕捉を促進するが,特に東海岸の金武湾と中城湾は,本島北端の辺戸岬と併せて集積域を形成し,分散パターンのノードとなる.したがって,沖縄本島におけるローカルな近距離コネクティビティ形成に対しては,本島を周回するように発達する時計回りの沿岸循環流と地形的な拘束が重要となることが示された.
  • 三戸 勇吾, 遠藤 敏雄, 家島 修, 化生 順一郎, 萩野 裕朗, 菅野 孝則, 栗栖 一之, 中本 健二, 中村 由行, 日比野 忠史, ...
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1297-I_1302
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,フェロニッケルスラグ(FNS)と石炭灰造粒物(GCA)を干潟基盤材へ適用した現地試験を実施し,その生態系機能を定量的に評価した.現地試験結果より,FNSは砂に近い底質や生物相が確認されたのに対して,GCAは間隙水中の溶存硫化物濃度の低下や生物相の変化等,砂と異なる結果が得られた.次に,干潟基盤材から得られる7つの生態系機能を定義し,各生態系機能の最良な状態を100点として規格化することで,生態系機能の定量化を行った.さらに,7つの生態系機能の得点それぞれに対して,生態系機能の変動要因と基盤の種類(砂,FNS,GCA)を説明変数に組み込んだ階層ベイズモデルを構築し,MCMC法により係数の推定を行った.解析により得られたFNSとGCAに対する係数とその信用区画から,砂に対するFNSとGCAの生態系機能の差を定量的に評価した.
  • 渡辺 雅子, 上月 康則, 矢野 司, 岡田 直也, 山中 亮一, 松島 輝将
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1303-I_1308
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究は,徳島県で希少種ルイスハンミョウが唯一生息する吉野川河口干潟において,その地形変動と本種幼虫の生息地の変化の解明を目的としている.そこで,本干潟の長期間にわたる地形測量と幼虫確認調査のデータを解析し,本干潟の近年の地形変動と本種幼虫の生息地の変化,それらの特徴や関連性について研究を行った.その結果,本干潟では多様な地形変動が起きており,堆積により形成された潮間帯にルイスハンミョウ幼虫の新しい生息地ができることや,幼虫の巣孔が存在し続けた場所は変動の小さな場所であることが確認された.以上のことから,ルイスハンミョウの個体群が維持されるためには,新しい生息地が形成されること,または地形変動の影響を受けず生息地として機能する場所が長期間存在することが必要であることが示唆された.
  • 三島 豊秋, 川崎 浩司, 清水 涼太郎, 灘岡 和夫, 風呂田 利夫, 八木 宏, 中川 康之, 二瓶 泰雄, 山中 亮一
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1309-I_1314
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,東京湾多摩川の河口干潟に豊富に生息しているヤマトシジミおよびクロベンケイガニを対象とした幼生分散モデルを構築することにより,多摩川河口域ならびに東京湾でのこれらの浮遊幼生の分散挙動について検討した.ヤマトシジミ幼生に関する幼生分散モデルでは,好適塩分に対する鉛直移動特性および水温・塩分依存型死滅率等をモデル化した.クロベンケイガニ幼生に関しては,底層での貧酸素水塊を考慮した鉛直日周移動および水温依存型死滅率等をモデル化した.その結果,現地調査結果におけるこれらの幼生の相対個体数密度および相対幼齢比率の分布特性を再現することができた.
  • 遠藤 徹, 嶋野 純平, 池永 健二, 国分 秀樹
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1315-I_1320
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     大阪湾のCO2吸収能を把握するため,環境特性の異なる大阪湾,播磨灘および英虞湾の3海域を対象にDICの空間分布調査を実施し,DICの分布特性を比較するとともに海面CO2フラックスを評価した.外部負荷の影響を強く受ける大阪湾奥部では,植物プランクトンの現存量が多くDICは低かった.一方,養殖が盛んな英虞湾のDICは,底質の有機汚濁により全体的に高かった.また,日中は全海域で概ねCO2の吸収源となっており,特に大阪湾は表層海水中のCO2分圧が他海域と比べて小さく,他海域と比べて高いCO2の吸収ポテンシャルを有していた.
     DICとpHから炭酸化学理論に基づいてCO2フラックスを求めた結果,大阪湾は春:12.6,秋:14.0 mg CO2/m2/hr,播磨灘は春:3.7,秋:1.5 mg CO2/m2/hr,英虞湾は秋:0.8 mg CO2/m2/hrでCO2を吸収しており,大阪湾のCO2吸収量は,世界各地で報告されている沿岸海域の平均より高かった.
  • 桝本 一成, 加 三千宣, 日向 博文
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1321-I_1326
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     最近,マイクロプラスチックの海底への堆積フラックスの解明が,マイクロプラスチックの環境影響を考える上で非常に重要であることが明らかになりつつある.我々は,別府湾湾奥におけるマイクロプラスチックの堆積フラックスを1998年から5年毎に見積もった.具体的には,グラビティーコアラーで採取した底質コアサンプルを使ってマイクロプラスチック数密度の鉛直分布と堆積層の年代測定を行ない,マイクロプラスチックの堆積フラックスを求めた.年代は210Pb法で求め,マイクロプラスチックの数密度は,鉛直方向に厚さ1 cmに分割した底質コアサンプルからマイクロプラスチックを抽出し求めた.分析の結果,1998年以降,5年毎のマイクロプラスチックの堆積フラックスに有意な差はなく,20年平均の堆積フラックスは223[pieces/(m2・y)]であった.
  • 高 裕也, 二宮 順一, 森 信人
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1327-I_1332
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     現在気候実験3,000年(60年×50メンバ)および将来気候実験5,400年(60年×90メンバ)の大規模アンサンブル気候予測データ(d4PDF)領域モデル実験から,再現確率10年程度の強度かつ日本海上を通過し,北海道周辺域で長時間の停滞する爆弾低気圧に起因する高波,特に寄り回り波のアンサンブル将来変化予測を実施した.日本海沿岸部および北海道北東部において有義波高の最大値で+2.0mの将来変化が示された.また,波高増大の推算値は標準偏差が小さく,爆弾低気圧の強化と関連することがわかった.さらには,最大波高時の有義波周期の大きさから,うねり性波浪の卓越が考えられ,日本海沿岸部では+0.5sの将来変化がみられたことから,将来的に災害リスク増大が懸念される結果となった.
  • 澁谷 容子, 小竹 康夫, 森 信人, 佐々木 淳
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1333-I_1338
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     海上施工は波浪の影響を受けやすく海上作業時は低波浪が必須である.これまで波浪特性に関する検討は高波浪に着目されることが多く,低波浪の変化の検討はあまり行われてこなかった.そこで,本研究では,海上施工に影響する低波浪およびうねり性波浪に着目し経年変化を調べた.さらに全球波浪変化予測結果を用いてそれらの将来変化傾向を算出し,地域特性についても考察を行った.本研究により,太平洋側では低波浪の出現頻度が日本海側と比べて低く,うねり性波浪の出現頻度は高いことが分かった.また太平洋側では年々変動が大きいことから,施工機会の安定的な確保が難しいことが明らかとなった.将来変化については,低波浪の出現頻度は増加傾向にあり,うねり性波浪の出現頻度は太平洋側の高緯度帯で減少,低緯度帯で増加する傾向が確認できた.
  • 豊田 将也, 吉野 純, 小林 智尚
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1339-I_1344
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,2000年~2017年までに日本に上陸した台風49事例を対象に台風強度の将来変化の統計的特性を評価することを目的として,高解像度台風モデルを用いた擬似温暖化実験(CMIP5 RCP8.5シナリオ:2080年~2099年)を行った.その結果,将来気候下の台風強度(最大風速)は,現在気候に比べて,ピーク時も上陸時も共に増大する傾向(+18.1 m/sおよび+6.88 m/s)にあることが明らかとなった.また,上陸地域(東日本,西日本および九州),上陸強度(弱い勢力および強い勢力)および上陸季節(春季・夏季および秋季)の3つの観点から現在気候下の台風を分類し,上陸時の最大風速の将来変化について比較した結果,将来気候においては,「西日本」や「九州」に上陸する「春季・夏季」の「弱い勢力」の台風が特に強まりやすいことが明らかとなった.
  • Adrean WEBB, Tomoya SHIMURA, Nobuhito MORI
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1345-I_1350
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     A high-resolution wave climate projection for the northwestern Atlantic Ocean has been conducted to help assess possible regional impacts due to global climate change. The spectral wave model NOAA WAVEWATCH III is utilized with three coupled (two-way) grids to resolve the northwestern Atlantic and coastal southern and eastern USA at approximately 21 km and 7 km respectively, and covers the periods 1979-2003 (historic) and 2075-2099 (future). Hourly wind field forcings are provided by a high-resolution AGCM (MRI-AGCM 3.2S; 21 km) and allow for better modeling of large storm events (important for extreme event statistics). Climatological (25-year) comparisons between future and historical periods indicate significant wave heights will decrease in the northwestern Atlantic Ocean (-5.7 %) and Gulf of Mexico (-4.7 %) but increase in the Caribbean Sea (2.4 %). Comparisons also indicate that large changes in mean wave direction will occur in the Gulf of Mexico (5.0°), with the largest occurring west of the Florida peninsula (over 15°).
  • Bahareh KAMRANZAD, Nobuhito MORI
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1351-I_1355
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     High quality wave data in data-scarce regions are required in order to provide a reliable source for wave climate assessment. In this study, numerical modeling was utilized in order to generate the wave characteristics in the Indian Ocean (IO) region using super-high-resolution wind field MRI-AGCM3.2S as forcing. The model was evaluated in comparison to the satellite data and the validated model was performed to simulate historical and future projections of the wave in the study area (25 years for each period). Comparison of mean annuals of the wave indicated a slight decrease of significant wave height (SWH) in the Northern Indian Ocean (NIO) and middle parts of the Southern Indian Ocean (SIO) while there is a considerable increase near the southern ocean adjacent to Antarctica. The change of mean wave period (Tm01) will be less in the future, however, there will be a considerable increase in the south of India. The results of this study indicate the different patterns of change for wind and wave parameters in different regions of the IO.
  • Josko TROSELJ, Yuki IMAI, Junichi NINOMIYA, Nobuhito MORI
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1357-I_1362
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     Increasing climate change impact to natural disasters is important to be evaluated for changes in coastal hazard extremes, such as mean sea levels and surface temperatures because higher exposure of coastal zones increases their disaster risk. Objective of the study is developing methods and simulating for dynamical downscaling of coastal current system for Ibaraki coast in Japan from 10 km scale reanalysis to related projections of 222 m scale with included freshwater impact from three major rivers. Its application is to formulate techniques for providing fine scale ocean circulation reanalysis and future projection which can be used for adaptation of countermeasures for climate change impact assessment. COAWST model, consisting of hydrostatic ocean model (ROMS) and spectral wave model (SWAN), is used for dynamical downscaling. The coastal current was downscaled by COAWST model using 3 domain nesting with 2 km, 667 m and 222 m scales, for targeted reanalysis period of whole 2000. The downscaled data was validated by in-situ observed data. We found that the downscaling model can precisely simulate related projections of coastal currents and other ocean parameters on the fine scale of 222 m with better precision than with the coarse scale parent reanalysis model and that surface velocities at Hasaki have quick and strong response to northward surface velocities at Cape Choshi originating from the Kuroshio Current. The changes in surface temperature due to downscaling are significant for shallow water environment due to heat radiation effects rather than momentum advection. The freshwater impact to surface temperature is mostly negligible but it can have significant impact to reducing surface salinity which consequently changes water density and ocean circulation patterns. The freshwater impact to storm surge heights is negligible before and during the Typhoon Kirogi passage but is important to be considered in evaluating the after-runner storm surge mechanism.
  • 吉野 純, 松井 友梨, 小林 智尚
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1363-I_1368
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     2016年台風10号は,北西太平洋上で2回の転向を伴い,東北地方太平洋側に初上陸した複雑な動きをした台風であり,進路予報の難しい台風の1つであった.本研究では,この台風10号の進路予報に対して渦位部分的逆変換法を適用することで進路予報の誤差要因を究明することを目的とする.予報誤差が大きかった時刻の予報データと解析データに対して,渦位部分的逆変換法により部分的指向流ベクトルを推定し両者を比較することにより,進路誤差を生み出す台風周辺の渦位偏差を特定することが可能となった.
  • 鷲田 正樹, 山下 隆男, 高橋 智幸
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1369-I_1374
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     IPCC,AR5では人間活動の最悪シナリオRCP8.5で,全球平均の海面上昇量は2100年で100cmに達する可能性が示されているが,実際の上昇量は海域により大きく異なる.特に,貿易風の影響を受ける赤道太平洋,黒潮の影響を受ける日本近海では全球平均とは異なる変動特性になっているため,長期変動特性を的確に考慮した海面上昇量の予測が必要である.本研究では,NASAの海面変動再構築データセット,Restructured Sea Level Version1(RSLV1)を解析し,太平洋全域および日本近海での長期的な海面変動特性を示すとともに,RSLV1の観測結果から季節型自己回帰和分移動平均過程(SARIMA)モデルを用いて,季節性を変化させた2070年までの日本近海の海面上昇予測を行った.さらに,季節性を30年と仮定した場合の2015,2040,2060年の海面上昇量の平面分布を示した.
  • 浦野 大介, 志村 智也, 森 信人, 水田 亮
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1375-I_1380
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     気象庁気象研究所の大気気候モデルであるMRI-AGCMに,スラブ海洋モデルを結合することで,海洋のフィードバックを考慮した大気気候モデルを開発した.大気海洋モデルを開発する上でAGCMに与えた式は,スラブ海洋モデルに基づく海水温低下式であり,海上風速に依存する冷却係数が海水温低下に重要な役割を果たす.大気および海洋再解析値により最適化した海水温冷却式を用いて,ある台風の発生から消滅までを追った短期解析と,25年間の気候計算による長期解析の2種類の解析を行った.その結果,スラブ海洋モデルの影響により,台風の強度が低下し,実際に観測された台風の特性に近づいた.また,最大風速と最低中心気圧の関係に対しての影響は大きくなく,台風気候値として整合性の取れた結果となった.
  • 西村 規宏, 會田 義明, 中林 孝之, 臼井 雅一
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1381-I_1386
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     将来的な洋上風力施設計画にあたり環境に与える影響として,流れにより生じる施設由来の乱れがどの程度で収まるかを推定する必要がある.本研究では,洋上風力施設計画での環境影響を論じる上で,構造物から生じる乱れを現地調査により把握し,構造物により生じた乱れの減衰距離を把握することを目的とした.結果として,構造物で生じた乱れの空間的な減衰特性は,指数関数的に減衰しており,この減衰特性を基に,海洋構造物による乱れの減衰距離を把握すると,概ね10 D程度で環境場と同じになることが分かった.
  • 蝦子 翼, 宮武 誠, 猿渡 亜由未
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1387-I_1392
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     津軽海峡における小規模潮海流発電の実現可能性を探るにあたり,津軽海峡の流れ特性に適したディフューザの最適形状を検討する初段階として,3種のディフューザ模型を用いた鉛直2次元場での定常循環流実験を実施し,ディフューザ形状による周辺の流況特性及び通過する流れの増速効果を把握した.また,実験で検討した2次元断面でのディフューザを3次元形状に拡張した数値シミュレーションを実施し,ディフューザ周りの流れ特性と内部流速の増速メカニズムの関係について考察した.その結果,つば付き漸拡ディフューザは,つば背後の円周方向に間欠的に放出される渦輪を流下方向の渦度が巻き取るように移流することで,ディフューザ内部の負圧領域が更に流下方向まで維持され,安定したジェットが下流方向へ形成されることにより,漸縮部流速の増速効果を向上させていることを示した.
  • 石垣 衛, 三好 順也, 長岡 あゆみ, 黒川 忠之
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1393-I_1398
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     再生可能エネルギーを用いた各種発電技術の需要が高まる中,海洋エネルギー発電技術の実現が望まれている.瀬戸内海は周期的で予測可能な潮流が卓越しており,架橋が施されている場所が多く,既存の橋脚を活用した潮流発電が可能となれば発電施設等の建設コストの削減が期待できる.橋脚利用式潮流発電では,橋脚近傍に形成される潮流や乱流が発電装置の発電効率や設計強度に影響をおよぼすことが懸念される.本研究では,大島大橋第4橋脚近傍の海域にて超音波流速計を用いた潮流観測を実施することで,橋脚近傍で形成される潮流や乱流を評価した.その結果,橋脚近傍の潮流や乱流の分布が発電装置のエネルギー取得量や発電効率,設計強度におよぼす影響を考慮することで発電装置の最適設置位置を選定し,当該地点における潮流発電の実現性を検証した.
  • 笹 健児, 三井 正雄, 青木 伸一, 田村 政彦
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1399-I_1404
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     外洋性港湾にて発生する長周期波による係留問題について,関連研究が実施されて約20年が経過するが,その運用状況について全国規模でのアンケートおよび現地調査を実施した.この結果,財政事情の厳しさ等もあり,対策工が実現した港湾は少ない.この中でも太平洋に面した港湾の石炭船バースを対象に港内外の長周期波を含めた波浪条件をデータ分析し,港内静穏度の指標である港内有義波が閾値内であっても必ずしも長周期波は閾値内に収まっていない.現状では波浪予報にて長周期波の状況を予測,沖待ちを含めた対応を取っているが,予報が的中しない状況を想定したセーフティネット,沖待ちを減少させることを目指した係留システムの増強による緊急安全システムをシミュレーション結果より提案する.対策工ごとの必要投資額とその費用対効果も同時に評価することで,実現可能性も高めることが期待される.
  • 犬飼 直之, 塚田 佳樹, 山本 浩
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1405-I_1410
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     平成26年5月に新潟県上越市の上下浜海岸において,砂浜を遡上する波浪で5名が死亡する事故が発生した.既往研究により,事故当時の遡上波浪の挙動を現地調査や数値計算により把握し,同様な事故が発生する可能性がある波浪条件などを把握した.本研究では,過去10年間の天気図と波浪情報から,同様な波浪条件となる天気図を抽出し,同様な事故が発生する可能性がある天気図パターンを把握した.また,上下浜では波長が45mよりも小さいカスプ地形が生成している.遡上波浪はカスプ地形の窪地に集中することで,遡上時の流速や水厚が増大し,事故発生の可能性が増大する恐れがあるが,このカスプ地形がどのような波浪条件などで生成されるかは検討されていなかった.そこで.本研究では,上下浜のカスプ地形が生成される波浪や地形条件を把握した.
  • 犬飼 直之, 山下 晃史, 山本 浩
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1411-I_1416
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     既往研究成果によると,新潟県内だけでも2001年からの13年間で合計193件の海浜事故が発生しており,特に新潟東港周辺において離岸流が原因と思われる海浜事故が多く発生している.既往研究による現地調査によって離岸流の流速や規模などのデータが取得されているが,調査時の波浪・地形条件下の離岸流であり,波浪や地形条件が異なる場合,離岸流の流速は変化するが,それを予測することは困難である.本研究では,波浪や地形条件から離岸流流速を安易に把握することを試みた.まず現地調査を実施し,離岸流や向岸流の発生状況を把握した.次に,現地調査に得た観測データと波浪・地形条件を用いて,離岸流流速を推算した.最後に波浪・地形条件を変化させ離岸流流速を推算し,観測値と比較した.
  • 岡田 知也, 三戸 勇吾, 菅野 孝則, 高橋 俊之, 秋山 吉寛, 黒岩 寛, 遠藤 徹, 大谷 壮介, 矢持 進, 上月 康則, 日下部 ...
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1417-I_1422
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,干潟健全度指数(THI)を大阪湾湾奥の4つの干潟へ適用し,THIの汎用性の確認を行うとともに,東京湾の4つの干潟との比較から,各干潟における特徴の把握を行った.その結果,大阪湾においても各干潟のTHIの得点がそれぞれ合理的に説明され,THIの汎用性が示された.ただ,場の利用に関するデータが少なく,THIの汎用性を向上させる上での一つの課題であることも明らかとなった.また,大阪湾と東京湾の8干潟のTHIを用いて主成分分析を行ったところ,東京湾・大阪湾の違いおよび自然・造成干潟の違いによる系統的な差は現れなかった.各干潟をサービスの特徴(人の利用度,場の自然度,生物の現存量,生物の種数)から整理し,両湾および自然・造成干潟の違いを超えて類型化した.
  • 新井田 靖郎, 坪野 考樹, 中屋 耕, 坂井 伸一, 仲敷 憲和, 石井 孝
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1423-I_1428
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,無人航空機に搭載したサーモグラフィによって,沿岸域に放水される密度噴流の熱画像計測を行った.定点観測で連続的に取得した熱画像データに対して,直接相互相関法を適用することで,水温分布と同時に流速や乱流統計量を求めた.本手法で求めた流速についてはADCP観測結果と比較し,良好な一致を得た.水温変動の標準偏差は乱れエネルギーの高い位置で高い値を示した.放水口近傍の流速分布・水温分布は,これまで理論や実験,数値計算で示されていたように,ガウス分布で記述できる事が現地海域でも確認できた.本観測手法では,取得データが表層のみに限られるものの,排水の海洋拡散において重要な放水口近傍の初期過程に関して,従来の海域モニタリング調査では得られなかった高い時空間解像度の計測データを得ることができる.
  • 浜口 耕平, 加藤 史訓, 橋本 孝治, 小金山 透
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1429-I_1434
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     UAVによる人工リーフの簡易な点検方法を検討することを目的として,海面における屈折の影響の補正法を検討した.撮影した静止画を色調の補正を行った上で三次元形状復元計算を行い,異常値を除去した上で見かけの水深に補正係数を乗じることで真の水深を推定した.その結果,リーフの天端上で三次元点群データが生成され,人工リーフ天端上の標高の平面分布が推定可能であるとわかった.また,現地で行った測量成果を用いて最小二乗法により水深の補正係数の取りうる範囲を求めたところ,1.59~2.33であることがわかった.さらに,撮影した画像から,砕波や濁りが欠測の要因となり,標高の推定値のばらつきには濁りの影響が卓越することがわかった.
  • 水上 幸治, 白谷 栄作, 桐 博英, 関島 建志, 金子 俊幸, 大石 哲, 豊福 恒平
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1435-I_1440
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     近年その利用性が飛躍的に高まってきた無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)による空撮画像から作成した3次元点群データを用いて,維持管理に必要な変状情報を自動抽出する高精度点検システムを開発した.海岸保全施設維持管理マニュアルで求めている0.2mmのひび割れを抽出可能な画像を得るための飛行方法を実現するため,耐風性能の向上を目的にUAV機体にRTK-GPSを搭載するとともに,プロペラを小型化する等の改良を行った.変状を自動抽出するために,AIによるひび割れの自動抽出およびPCL(Point Cloud Library)を活用した点群モデルからの構造物自動抽出や1cm以上の段差抽出等を行った.さらに,撮影結果を閲覧するためのビューアと点検結果を保存するデータベースを構築した.
  • 長尾 正之, 牟田 直樹, 西嶋 涉, 宮本 浩司, 月坂 明広, 鈴木 淳
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1441-I_1446
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     超音波反射強度画像に基づいた表層堆積物の分類では,結果が実態と一致しない場合がある.本研究では,その分類方法について総括し問題点を整理した.また,海砂を主体とする潮流が速い水域で,反射強度画像の解像度に係わるパラメータを変えて反射強度画像を取得し課題を整理した.さらに,深層学習に基づいた画像分類による表層堆積物・地形分類を検証した.その結果,表層堆積物の分類には高周波数を用いるべきであること,堆積物分類には,サイドスキャンソナーの海底からの高度が低いほうが有利である点が確認できた.また,学習済みニューラルネットワークは,テスト用画像を砂(およびサンドウェーブ),画像接合部,それ以外に分離する能力があった.今後の深層学習の課題は,学習に必要な大量の「正解」付き超音波反射強度画像の整備と考えられた.
  • 中村 聡志
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1447-I_1452
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     茨城県鹿島灘にある波崎海洋研究施設周辺の海岸でグリーンレーザー光を用いた航空レーザー測量を行い,同時刻に実施した観測桟橋に沿った断面地形測量結果,および,年2回の観測桟橋周辺での深浅測量結果を用いて,航空レーザー測量による砕波帯内における海底地盤の測得状況の確認,および,測量精度の検証を行った.グリーンレーザーによる海底地盤の測得点密度は(平均6.4点/m2)で小さく,砕波によって白泡が生じている範囲内では欠測であった.また,水深の深い場所において濁り等によると思われる誤計測があった.白泡直下および誤計測の場所を除き,観測桟橋に沿った海底地形は,桟橋杭周辺の洗掘形状が正確に計測されており,航空レーザー測量による海底地盤高の測量精度は,平均0.13mであった.
  • 内藤 了二, 鮫島 和範, 仲井 圭二, 田中 陽二, 川口 浩二
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1453-I_1458
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     日本の沿岸域には人口・産業機能等が集積しており,平均海面水位が上昇した場合,社会・経済活動への影響が懸念される.日本沿岸における平均海面水位は,近隣検潮所であれば同一の変動が生じるものと考えられるが,実際に検証した研究例は少ない.本研究では,港湾域と近隣検潮所における平均海面水位のトレンドを比較し,その変動特性を考察した.その結果,近隣検潮所間といえども,トレンドの傾向が異なっている場合があることが判明した.平均海面水位のトレンドと水温上昇トレンドを比較し,水温上昇が平均海面水位のトレンドに与える影響を評価したところ,水温増加に対する水位上昇率に地域差があることが原因の一つであることが分かった.
  • 片岡 智哉, 藤木 峻
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1459-I_1464
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     実海域における短波海洋(HF)レーダを用いた波浪計測手法を確立するため,伊勢湾沿岸設置のHFレーダで計測されたドップラースペクトルにベイズモデルを応用した波浪計測手法を適用して有義波高を計測した.波浪計測精度が2次散乱に混入するノイズに依存するため,ローパスフィルターを適用して簡易的にノイズを除去したところ,計測精度が向上した.そこで,フィルター適用後のドップラースペクトルを用いて伊勢湾全域の有義波高を計算し,第三世代波浪モデル(SWAN)で推算された有義波高と比較した.その結果,ローパスフィルターで除去できない多様なノイズにより有義波高が局所的に過大評価されていることがわかった.従って,実海域での波浪計測精度の向上に向けて,よりロバストなノイズ除去アルゴリズムを開発する必要がある.
  • 比嘉 紘士, 福田 智弘, 中村 由行, 鈴木 崇之
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1465-I_1470
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究では,富栄養化した沿岸域において静止海色衛星COMS/GOCIの衛星画像から有色溶存有機物の光吸収係数(aCDOM)を推定し,aCDOMと塩分との関係を利用して塩分の空間分布を推定する手法について検討した.東京湾湾奥部における光学特性の実測値に基づき構築されたBio-Opticalモデルを用いて,クロロフィルa(Chl-a),non-algal particles(NAP)の変化に対するaCDOM推定精度の検証を行った.その結果,クロロフィルa(Chl-a)が低濃度のときにリモートセンシング反射率の比Rrs(660 nm)/Rrs(490 nm)に基づくaCDOM推定モデルが有効であり,高濃度の場合,Rrs(550 nm)/Rrs(660 nm)に基づくモデルがaCDOMを適切に推定できることが分かった.そこでGOCIの衛星画像に,従来提案されている現場同期型FLHを適用しChl-aを予め推定し,Chl-aの空間分布を閾値として用いて,2のモデルを切り替えてaCDOMを推定する手法を考案した.塩分の実測値と推定値を比較したところ,R2=0.71,RMSE=1.04(N=114)となり,従来手法よりも高い精度で塩分を推定することが可能になった.
  • 作野 裕司, 森本 雅人
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1471-I_1476
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,海岸のプラスチックゴミ検出のための近赤外分光反射率特性と衛星からの検出可能性を検討することである.可視~近赤外(350nm~2500nm)の放射測定が可能であるポータブル分光放射計を使って,ペットボトル,レジ袋などのプラスチック物質,ビンや段ボールなどの非プラスチック物質,砂や土などの背景物質が,室内や室外(実際の海岸も含む)において分光反射率が測定された.代表的なプラスチックゴミの吸収帯(1100-1250 nm, 1600-1800 nm,2100-2350 nm)を明らかにした.また屋外の分光反射率実験において,太陽光源を使用する場合の問題点(1350-1420 nmと1800-1970nmの大きなノイズ)を明らかにした.衛星Sentinel-2のBand 11とBand 12を使ったNDSI(Normalized Difference Spectral Index)手法による広域のプラスチックゴミ検出の可能性が示された.
  • 野原 秀彰, 及川 隆仁, 中本 健二, 日比野 忠史
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1477-I_1482
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     利根川水系中川に流れ込む昭和排水樋管堤外水路は,東京湾からの干満の影響を受ける感潮水路であり,周辺住宅地からの生活排水の流入等により,水路底に汚泥(有機泥)が堆積する環境下であった.過剰な有機泥の蓄積は,有機泥に含まれる有機物の腐敗や還元化に伴う悪臭(アンモニア等)を発生させ,水路内の水底質を悪化させることが懸念される.本研究の目的は感潮水路に散布された石炭灰造粒物(GCA)による水底質改善効果を検証することである.GCAに付着した有機泥に,GCAから溶出するミネラルに起因するCa2+が吸着されること等で,有機泥の性状変化(含水比低下,有機物分解)が促進され,有機泥の蓄積抑制(減量・掃流)等,礫間接触酸化法に準ずる水底質改善効果が検証された.
  • 柿沼 太貴, 野原 秀彰, 日比野 忠史, 山田 正
    2018 年 74 巻 2 号 p. I_1483-I_1488
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/10
    ジャーナル フリー
     都市感潮河川である日本橋川では降雨時に放流された未処理下水が堆積し,嫌気的に分解され,有機物が還元化,酸性化を進行させ,底泥の還元化は貧酸素や硫化水素の発生に繋がり,周辺環境の悪化の主要因となる.本研究では,還元状態の緩和や栄養塩除去が期待できる石炭灰造粒物を用いた礫間接触構造体による水・底質浄化効果を検証した.石炭灰造粒物の効果はセジメントトラップに堆積する沈降泥の性状変化から浄化効果を評価した.その結果,河川水が構造体を流れ,礫間接触効果による全リン,有機物量,n-ヘキサン抽出物質の低減,有機物の低分子化,窒素除荷効果等を確認できた.さらに,石炭灰造粒物の敷設厚を増すことで,有機物分解量が増加する等の浄化能力が認められた.
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