本報告はカンキツ黒点病の伝染について試験した結果について述べた.
1. 胞子角の再形成は関係湿度98%以上で認められ,その再生能力は低かつた. 湿度100%処理区においては時間の経過と共に再形成の増加を示した. 各種の異なつた湿度に保つた罹病枝を飽和湿度で処理した場合, 処理後24時間で処理前67%以上の区に胞子角の再形成を認め,48時間後ではすべての区 (32~100%)が再形成を示した.
2. 降雨時における柄胞子の溢出状態は降雨始めより認められ, 漸次時間の経過にともない増加し, 最も溢出の高いのは降雨始めより3~8時間の間と考えられ, それ以降は減少するようである.
3. カンキツ樹冠下で採取した雨水および蒸溜水での柄胞子の発芽は常に雨水での発芽が高く, 発芽管の伸長も良好であつた.
4. 葉令を異にするカンキツ葉上での発芽は葉令の高い旧葉での発芽が新葉に比して発芽率が低かつた.
5. 柄胞子の飛散と葉, 果実の被害との関係は葉の被害においては発芽後より5月下旬までの柄胞子の飛散度に影響されるところが大きく, 果実については落花後から7月下旬頃までの飛散状態で左右される.
6. 温州みかんにおける後期感染は熟期の近づくにしたがつて感染力が弱まり, 9月下旬以降の感染は認められなかつた.
7. 枯枝の発生消長は冬期に少く, 8~10月に多い傾向を示したが, 胞子角形成度の高い多年枝の発生は5~8月に高いことを認めた. 罹病枝の発生消長は3~11月まで認められ, 年によりかなりの差異を示した.
8. 樹令と保菌枝の関係は樹令を経るにしたがい保菌枝の発生率は増加し, 35~40年生で最も高く老木になると再び低下した. 同一樹令のものでも栽培管理, 薬剤散布, 寒害の影響等で発生率にかなりの差異が認められた.
9. 静岡県下における保菌枝の分布は中部地帯で最も高く, 次いで東部, 西部の順に高かつた.
10. 前年の越冬菌密度と翌年の果実の被害度との関係は1962年, 63年の両年について検討したところ, 殺菌剤の無散布樹ではγ=+0.584で5%危険率で有意差を示し, 散布樹ではγ=+0.123で有意差のある相関を示さなかつた.
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