モモハムグリガに関する試験の一端として薬剤による防除について1960年6~9月に圃場試験および室内試験を試みたが,それらの結果を要約すると次のとおりである.
ただし,圃場・室内試験を通じ供試薬剤はホリドール乳剤2000倍,EPN乳剤1000倍,バイジツト乳剤1000倍,エカチン乳剤1000倍,デトロン乳剤300倍および硫酸ニコチン800倍の6種薬剤,1薬剤1濃度とした.
圃場試験によれば,
1.各薬剤とも無散布の場合より被害は少なく被害防除効果が認められたが,薬剤間には有意な差を認められなかつた.しかしEPNの効果が他に較べて高い傾向を示した.
2.6月15日,6月27日,7月9日および7月21日の12日毎に4回の薬剤散布を行なつたが,果実登熟期~収穫期の7月中旬~8月下旬の被害を十分に防除することは出来ず,例え無散布の場合より防除効果が高かつたとて更に効果の高い防除の必要があると考えられる.
室内試験によれば,
3.卵に対する効果はホリドール・EPN・バイジットおよび硫酸ニコチンがそれぞれ100%の殺卵効果を示したが,エカチンおよびデトロンの効果は明らかに出来なかつた.
4.幼虫に対する効果はホリドール・EPNおよびバイジツトは若・中・老令の各令期の幼虫に常に100%の殺虫効果を示したが,エカチン・デトロンおよび硫酸ニコチンの幼虫に対する殺虫効果は令期により約90~20%と変動し,若~中令幼虫には約90~60%の殺虫効果を示すが,老令幼虫に対しては約40~20%に止まり,幼虫の成長に従つて殺虫効果の低下がみられた.
5.蛹に対する効果はホリドール・EPNおよびバイジットは100%の殺蛹率を示し完全に蛹繭内で死んだが,エカチンの効果は殆んど認められなかつた.デトロンおよび硫酸ニコチンは成虫の羽化はみられたが総て羽化直後に成虫は死亡,結局殺蛹効果(広義)はホリドール・EPNおよびバイジツトの効果と同等に優れていた.
6.成虫に対する効果は本試験では比較出来なかつた.
両試験を通じて,
7.ホリドール・EPNおよびバイジツトは室内試験によれば十分に本種の各態に対する効果が認められるので,圃場においても本種の発生時期および発生期間等を考慮して散布すれば現在慣行法として用いられている薬剤で更に効果の高い防除を行なえる可能性はある.
8.この場合,ホリドール・EPNおよびバイジツトについてはEPNが優れた傾向を示し,その原因はEPNが残効性の点で他より優れているためであると考えられる.比較的効果の不安定なデトロンおよび硫酸ニコチン等でも圃場試験ではホリドール等と大差ない効果を示したのも同様の原因と思われる.9.供試薬剤および供試濃度の範囲では薬剤の桃樹に対する薬害は認めなかつた.
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