関西病虫害研究会報
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65 巻
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
原著論文
  • 木村 重光
    2023 年 65 巻 p. 1-5
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    トマト黄化葉巻ウイルス(tomato yellow leaf curl virus,TYLCV)によるトマト黄化葉巻病はトマト産地において深刻な被害を与えている。一般的に,TYLCVはタバココナジラミによってのみ媒介され,汁液伝染はしないとされている。機械的な接種は,トマトの抵抗性品種のスクリーニングなど,実用的な用途が大きいと考えられたため,我々は,歯ブラシを用いたTYLCVの感受性トマトへの接種方法を開発した。本研究では,京都府で分離されたTYLCV-Kumiyama株の物理的性質および宿主範囲について検討した。ウイルスの物理化学的諸性質は,失活温度(TIP)75–78°C,10分,希釈限界(DEP)10–6および耐保存性(LIV)25°C,6日間であった。供試した7科17種の植物のうち機械的接種法によって本ウイルス株に感染したのは4科に属する9種であった。症状は主に黄化および葉脈黄化であった。

  • 小島 葵, 久保 中央, 辻 元人
    2023 年 65 巻 p. 6-15
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    根こぶ病は絶対寄生性の原生生物Plasmodiophora brassicaeによって引き起こされるアブラナ科作物の難防除土壌病害の一つである。我々は,キャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata)の根こぶ病抵抗性品種および罹病性品種の連作が,根こぶ病の発病と土壌中の病原菌密度に与える影響を圃場レベルで調べた。抵抗性品種‘BCR龍月’および罹病性品種‘おきな’をそれぞれ4期繰り返し栽培したところ,罹病性品種連作区と比較して抵抗性品種連作区では土壌菌密度の有意な減少がみられた。一方,同期間を休閑とした無栽培対照区においても抵抗性品種連作区とほぼ同等の減少がみられ,両区間で有意差は認められなかった。上記の試験を行った後の試験区画にて罹病性品種‘おきな’を栽培したところ,無栽培対照区と比較して抵抗性品種連作区では発病が抑制される傾向にあった。また,‘BCR龍月’を栽培したところ,発病はほとんどみられなかったが,大型のこぶを持つ罹病性個体が1個体生じた。そこで,その原因菌(Shimo-22DM)を分離し,同抵抗性品種への再接種を行ったところ,明確な病徴はみられず,非親和性の菌群である可能性が示唆された。結論として,圃場での抵抗性品種の連作により,自然減の寄与があるものの,罹病性品種の栽培と収穫が可能なレベルまで土壌菌密度を低減できることが示された。

  • 鈴木 良地, 竹山 さわな, 久保田 健嗣
    2023 年 65 巻 p. 16-21
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    RT-LAMP法を用いて,ナシ(Pyrus spp.)の葉からナシ葉退緑斑点随伴ウイルス(PCLSaV)を検出する技術を開発した。設計したプライマーセットのうち,R2LP4が最も増幅が早く,退緑斑点症状のあるナシ葉の全RNAから15分以内にPCLSaVが検出された。12県で採取されたニホンナシおよびセイヨウナシの葉を用いた診断では,RT-LAMP法は既報のRT-PCR法と同等の感度と精度を示した。さらに,注射針で採取した汁液を用いた簡易なRT-LAMP検定においてもPCLSaVを検出することができた。また,塩基配列情報の比較から,設計したプライマーの一部は,日本以外で発生が確認されているPCLSaVの中国分離株と適合する可能性が示された。

  • 北野 大輔, 近藤 篤, 小久保 信義, 増田 倫士郎
    2023 年 65 巻 p. 22-27
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    移植直後のイネ苗を食害するスクミリンゴガイの防除法の一つとして,トラップを用いた捕獲が実施されている。本研究では,滋賀県内の本種の発生地において,イネ苗を食害する殻高2.1 cm以上の個体に対する箱型トラップとMix餌(誘引餌)の組み合わせによる防除効果を検証した。水田内の試験区で捕獲率(捕獲された個体数/全個体数)とイネ苗の食害率(食害された株数/全株数)を調査したところ,捕獲率は31.8%であり,イネ苗の食害率は高密度区(20個体/m2)でも50%以下であった。水路内で捕獲率の時期的変動を調査した結果,時期によって捕獲率が異なり,水温が最も高い8月よりも,9月の捕獲率が最も高かった。以上の結果は,箱型トラップとMix餌を使用した防除の導入や,効率的な防除体系の構築の判断材料になると考えられた。

  • 増田 倫士郎, 北野 大輔
    2023 年 65 巻 p. 28-34
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    スクミリンゴガイは,移植直後のイネを食害する有害生物である。本種の防除にはコイの餌,米ぬかおよび米麹を重量比で1:1:1になるように混合したMix餌を使用したトラップの有効性が指摘されてきている。しかし,同餌には他の生物種も誘引される可能性があり,水生生物に及ぼす負の影響が懸念される。本研究では,Mix餌が水生生物の誘引と生存に及ぼす影響を把握するために,滋賀県の水路と水田において,Mix餌を入れたトラップに捕獲される生物を調査した。その結果に基づき水生生物種を選定し,水田において,Mix餌がその生存率に及ぼす影響を明らかにした。トラップには,魚類6種,貝類3種,水生甲虫9種およびカエル類3種(幼体)が捕獲された。水田での調査の結果,Mix餌はミナミメダカ,ヒメタニシ,水生甲虫,ならびにカエル類の幼生各種の生存率に影響を及ぼさなかった。以上のことから,Mix餌には様々な水生生物が誘引されるものの,その生存に及ぼす影響は小さいことが示唆された。

  • 恒川 健太, 石井 直樹, 水上 優子
    2023 年 65 巻 p. 35-41
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    愛知県のコムギうどんこ病菌におけるQoI殺菌剤耐性を調べるため,2021年にコムギ産地6地区から本病原菌を採取し,QoI剤感受性の生物検定とシーケンス解析によるcytb遺伝子の変異調査を実施した。その結果,QoI剤に耐性を示した株が存在し,それらの株はcytb遺伝子にG143A変異を有することが判明した。さらに,この病原菌の耐性型アレルと感受性型アレルを識別するために,quantitative allele-specific PCR(ASqPCR)を実施し,本法が有効であることを確認した。2022年には,県内24地点から本病原菌を計72菌株採取し,ASqPCRにより耐性と感受性を判定した。その結果,QoI剤耐性型アレルを持つ株は県内に広く分布していることがわかった。また,耐性型アレルと感受性型アレルが混在したサンプルについては,両アレルの存在比を明らかにした。本論文は,コムギうどんこ病におけるQoI剤耐性の地域内分布を定量的に明らかにした,国内初の報告である。

  • 冨村 健太, 望月 雅俊
    2023 年 65 巻 p. 42-47
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    2019年5月,静岡県静岡市のガラス温室内のブンタン新葉に奇形・縮葉が生じた。これら症状を呈したブンタンでチャノキイロアザミウマの寄生が確認された。本種においてはYT系統およびC系統が知られていることから,ブンタンにおける症状がどの系統に由来するかを明らかにするために,マルチプレックスPCRにより系統識別を行った。本研究で調査したチャノキイロアザミウマの6個体は全てYT系統に属することが明らかとなった。ミトコンドリアチトクロームオキシダーゼの塩基配列情報を用いたハプロタイプネットワーク解析により,これら6個体は4つのハプロタイプ(SdYT01,SdYT02,SdYT09およびSdYT38)より構成されることが明らかとなった。加えて,今回解析した東アジアのYT系統に属するチャノキイロアザミウマ集団は計51のハプロタイプにより構成されることが明らかとなった。カンキツから採集した個体のハプロタイプは,特定のハプロタイプにより構成されていなかった。

  • 西岡 輝美, 溝手 舜, 藤江 隼平, 徳永 由佳, 草刈 眞一
    2023 年 65 巻 p. 48-52
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    イチゴ灰色かび病を対象として,細霧冷房システムを用いた電解水散布技術の発病抑制効果とハウス内の温湿度に与える影響を調査した。その結果,夜間の電解水散布では灰色かび病の発病が抑制されず,高湿度条件の持続につながった。このため,灰色かび病の発生に好適な気温で周辺からの胞子飛散量の多い条件では,夜間の電解水散布は本病の発病を助長する可能性が考えられた。一方で日中の電解水散布では,湿度上昇は一時的で,電解水区で果実発病が抑制された。この効果は,細霧冷房システムによって電解水が十分に散布され葉に濡れの確認された株で特に高かった。

  • 井上 浩, 竹元 剛, 佐古 勇, 西村 昭, 梶本 悠介
    2023 年 65 巻 p. 53-61
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/05/27
    ジャーナル フリー

    Sclerotium cepivorum Berkleyが引き起こすネギ黒腐菌核病の防除のため,春どり作型におけるセル成型育苗トレイ灌注処理に適する殺菌剤について土壌消毒を実施しない圃場で検証した。殺菌剤はペンチオピラド水和剤,ピラジフルミド水和剤,インピルフルキサム水和剤およびマンデストロビン水和剤の合計4種類を比較した。4種類のうちピラジフルミド20%水和剤は,100倍液のセル成型育苗トレイ灌注処理によって感染,発病期間が長く,被害の最も大きい春どり作型において優れた防除効果を示した。本剤のセル成型育苗トレイ灌注処理により,ネギ茎盤部および茎盤部近傍葉鞘部では,病原菌の感染を抑制し得る十分量のピラジフルミドが感染適期に維持されていることを確認した。

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