近年, 臓器移植や造血幹細胞移植において, レシピエントの保有するHLA抗体が重要視されるようになった. 特にドナー特異抗体は移植成績への影響が大きいため, 精製抗原結合蛍光ビーズを用いた高感度のHLA抗体同定検査が広く用いられるようになってきた. 我々は, 蛍光ビーズを用いた抗体検査の結果と交差適合試験の結果との乖離を3例経験したが, いずれも被検血清を希釈して検討した結果, この乖離はプロゾーン様現象によると考えられた. また, 保管血清を再度検査した際に, 蛍光ビーズを用いた抗体検査での蛍光値が保管前より明らかに高くなる検体が存在した. さらに, 血清を56℃30分で非働化するとプロゾーン様現象が抑制されたこと, およびウサギ補体やヒト新鮮血清を用いた実験から, この現象には熱処理で失活する補体の関与が示唆された. 一方, HLA抗体陽性と判定された20検体について検討したところ, 10検体でプロゾーン様現象が確認された. この10検体中3検体については, 新鮮検体を用いた抗体検査ではHLA抗体陰性と誤判定する可能性があった. 以上のことは, HLA抗体検査においてプロゾーン様現象が生じている可能性を考慮することの重要性を示す.
HLA遺伝子のDNAタイピング法は, SSP法, SSO法, SBT法が主流であるが, 多くの場合単一のアリルに絞り込むことが困難な, いわゆるあいまいさ(ambiguity)により明確な判定結果を得るのが困難である. 本研究では, 次世代シークエンサーを用いてambiguityを排除した8桁レベルの超高解像度DNAタイピング(SS-SBT)法の開発を試みた. その結果, HLA-A, -Bおよび-C遺伝子についてエンハンサーやプロモーター領域を含む遺伝子全領域(約5kb)をそれぞれ特異的にPCR増幅させ, かつ両染色体由来のHLAアリルをほぼ1:1で増幅させるPCR条件を設定した. この条件にて従来法では単一のアリル判定ができない10検体を用いたDNAタイピングにより, いずれの検体とも8桁レベルのHLAアリルが判定された. したがって, 本法はambiguityの認められない8桁レベルのHLAタイピングに有効であるとともに, 新規HLAアリルやnullアリルを効率よく検出するための精度の高い, 究極のHLA-DNAタイピング法であることが示唆された. また, 本法は各遺伝子のPCRプライマーを混合して, 一本の試験管内でのマルチプレックスPCR法とその後のシークエンシングが可能であることから, 従来法に比して費用の点でも優れた方法になりうると考えられる.