PCR-SSP法と二重標識蛍光プローブとを組み合わたリアルタイムPCR-SSP法は, ABIPRISM(TM)7700シーケンスディテクターを利用して, リアルタイムにPCR産物を測定することで, PCR-SSP増幅後の付加的操作なしに短時間でアリルが決定できるシステムである. 我々は, このシステムを利用することがもっとも困難と思われるHLA-Bアリルに応用し, その実用性と問題点について検討した. HLA-B抗原の特異性が既知の34試料を対象とし, 市販のSSPプライマーキットと我々が設計した7種類の二重標識蛍光プローブを利用して行った. すべてのサンプルは, PCR増幅を35回行うことでもっとも良好な反応態度を示した. プライマーの特異性から増幅が期待されるサンプルはすべてΔRn閾値以上で, 陰性は閾値未満であり, 偽反応はみられなかった. また, 各サンプルでもっとも弱かった陽性ΔRn値と強かった陰性ΔRn値の比は6. 18であり, 判定上問題となることはなかった. 今回開発したリアルタイムPCR-SSPHLA-Bタイピングシステムで判定されたアリルタイプはパネルDNAの血清学的特異性とまったく矛盾しなかった. また, DNA抽出からHLA-Bアリル同定までの過程を約2時間で終了することができた. この方法はPCR増幅から反応結果出力までの過程が自動化されるているので人為的ミスを最小限に抑えることができるものと考えられた.
ヒトゲノムの全塩基配列情報が決定されようとしている現在, ゲノム構成の機能的意味を知る上で進化学的研究は重要である. 主要組織適合抗原複合体(MHC)領域は, ヒトゲノムの中でも特に詳細に解析されており, さらに比較生物学的にもよく研究されていることから, 進化にともなうゲノムのダイナミックな変化や機能の多様化を調べるうえで, 大変興味深い領域である. MHCの遺伝子構成に関する系統進化学的研究の成果に関してはすでに多くの解説がある. そこで本稿では少し視点を変えて, MHCの染色体領域あるいはさらに巨視的にその領域を含む6番染色体全体の進化を考えてみる.
イヌのMHC(Dog Lymphocyte Antigen:DLA)はクラスI抗原として4個の遺伝子(DLA-12, DLA-88, DLA-64, DLA-79)が, クラスII抗原としてDRA, DRB1, DQA1, DQB1がクローニングされ, DRB1遺伝子に36, DQA1遺伝子に10, DQB1遺伝子に21のアリルが確認されている. DLAのDNAタイピングはクラスII抗原についてPCR-SSO, PCR-SSCP, PCR-SBT法が可能である. イヌ品種間でのDLA抗原型の違いは認められていない. DLA-DRB1のDNAタイピングに基ずく計画的交配により, 2世代の交配でMHCホモ接合体のイヌの作製が可能である.