輸送技術の発展や生活の豊かさの向上などから移入し野生化した生物, すなわち移入種が近年問題となっている. 移入種による経済被害や生態系の撹乱, 感染症媒介による健康被害への懸念が深刻化するなか, 全国レベルでの移入種問題に対する調査と対策が進められている. その一環としてアライグマのDNA分析による捕獲個体調査が実施されている. 現在まで12道府県で約4,000個体のサンプルからミトコンドリアDNA多型を決定し, 母系の動態調査を行ってきた. さらに, 移入種の起源や詳細な動態調査を行うためMHC遺伝子分析より得られた結果は, 遺伝的多様性, 個体群の遺伝的独立性や遺伝子流動の評価を可能とした. このことはMHCがアライグマの捕獲駆除や遺伝的保全, 生態系保全において有効利用できるアイテムであるといえる. 「はじめに」輸送技術の発展や生活の豊かさの向上などから, 生物の国内外への移動が活発化している. 生物は自己の能力を超えて本来生息していなかった地域へ生物の意志に関わらず人為的に導入されている.
マイナー組織適合性抗原とは, 患者細胞表面のHLA上に提示される細胞内タンパク由来のペプチドのうち, 遺伝子多型により患者とドナー間で異なるアミノ酸配列をもち,非自己のTリンパ球に認識されるものをいう. ヒトでは20数個のマイナー組織適合性抗原が分子レベルで同定されている. マイナー組織適合性抗原に対するTリンパ球応答は, HLA一致ドナー同種造血幹細胞移植後の移植片対宿主病の発症や移植片対腫瘍効果の発現に関与している. 「1. はじめに」悪性腫瘍に対する同種造血幹細胞移植は, 大量の抗癌剤や放射線による前処置に続いてドナーの造血幹細胞を移植し, 生着したドナー由来の免疫担当細胞により残存腫瘍細胞を根絶する治療法である. この移植後免疫反応による抗腫瘍効果のことを移植片対白血病(graft-versus-leukemia:GVL)効果あるいは移植片対腫瘍(graft-versus-tumor:GVT)効果と呼ぶ.
Terasakiらがリンパ球ダイレクトクロスマッチテスト陽性症例の移植腎生着率が有意に悪いことを報告して以来40年弱の時が経過しようとしている. これ以降クロスマッチ陽性例を腎移植適応としないことにより, いわゆる超急性拒絶反応の発生は大幅に減少したことが報告された. その後, 強力な免疫抑制剤, タクロリムスやミコフェノール酸モフェチルなどのため細胞性拒絶反応は激減し, 拒絶反応といえば抗体関連拒絶反応が目立つようになった. さらにこの時期, 抗HLA抗体の検出キットが開発され検査が行いやすくなったこともあり, 抗HLA抗体の腎移植における役割がより明確になってきたのである. 抗HLA抗体陽性例, 特にドナー特異的抗体を持つ症例では移植腎の予後が有意に悪いことが明らかにされつつある. 「まえがき」1969年Terasakiらがリンパ球ダイレクトクロスマッチテスト(compliment-dependent cytotoxic crossmatch test, 以下CDCと略する)陽性症例の移植腎生着率が有意に悪いことを報告して以来40年弱の時が経過しようとしている.
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,血小板膜に反応する抗血小板抗体によって引き起こされる疾患であり, 最近, ヘリコバクターピロリ菌とITPの関連性について指摘されつつある. そこで今回ピロリ菌に関連したITPの病態を解明する目的で, 72例のITP症例につき, ピロリ菌感染とHLAクラスIIアリルの関係を検討した. 46例(63.9%)がピロリ菌陽性であり, 除菌治療によって26例(56.5%)が血小板数の改善を示した. HLAの解析では, ピロリ菌陽性群においてDRB1*0405, DRB1*0410およびDQB1*0401, DQB1*0402の頻度が陰性群よりも有意に高く, またDRB1*0901とDQB1*0303は逆にピロリ菌陰性群において高い頻度を示した. さらに, DQB1*0301は, 除菌効果が有効であったITP例において高頻度であった. 以上よりITP症例におけるピロリ菌除菌効果は, 一部の症例では特定のHLAクラスIIアリルと関連している可能性が示唆された.