我々はHLAの多検体のルーチン検査に適したDNAタイピング法として, Polymerase Chain Reaction-based Microtiter Plate Hybridization(PCR-MPH)法を用い, HLA-DRB1やDQB1遺伝子のタイピング法をすでに確立した. 今回, 従来の血清学的方法ではダイビングが困難なHLA-A2, A26およびB61遺伝子のアリルタイピングをPCR-MPH法で検討した. それぞれのグループに特異的なプライマーを用いてPCRを行い, A2は日本人に報告されている5種類のアリル(A* 0201, * 0203, * 0206, * 0207, * 0210)を10プローブが固定されたマイクロタイタープレートを用いてタイピングした. 同様にA26は3種類(A* 2601, * 2602, * 2603)を5プローブで, B61は4種類(B* 4002, * 4003, * 4004, * 4006)を6プローブでタイピングした. 本法を用いてアリルタイピングを行った結果, PCR-SSO法などの結果と一致した. 本法はPCRが約3時間, MPHが約2時間の計5時間で終了する. さらに今回報告したHLA-A2, A26およびB61遺伝子タイピングのMPH操作は, HLA-DRB1やDQB1のタイピングと同じ条件なので, これら全てのタイピングを同時に行うことができる.
ウシMHC(Bovine Leukocyte Antigen:BoLA)遺伝子は, 第23染色体に位置していて, ヒト・マウスに相同性の高いクラスI, クラスII, クラスIII遺伝子を含んでいる. クラスII領域にはDRA,DRB,DQA,DQB, ヒト遺伝子との対応が不明なDYA,DYB(DIB), DNA,DOB遺伝子座の存在が推測されていたが, 機能発現可能な遺伝子として, DRA,DRB3, DQA1, DQB1, DQA2, DQB2が同定された. ウシにおいて発現可能な遺伝子DQA2とDQB2は, 興味深いことに, ヒトにおいてはmRNAや蛋白レベルでの発現が確認されていない. 一方・ヒトDR遺伝子座には機能蛋白をコードする複数の遺伝子が存在するが, ウシにおいてはDRB3遺伝子のみである. このように, クラスII遺伝子の構成とその産物には, ヒトとウシの間に大きな相違があることが明らかになった. またウシにおいて, 抗原提示に重要なIi鎖およびDM遺伝子の存在も立証されたことから, ウシもヒトと同様のMHCクラスII抗原を介する抗原提示経路を持つことが強く示唆された.