ボタンボウフウ(
Peucedanum japonicum Thunb.)は東アジアの亜熱帯から暖温帯地域に固有なセリ科カワラボウフウ属の多年草である.我が国では沖縄県本土と島嶼部から鹿児島県島嶼部に自生しており,沖縄では長命草と呼ばれ,健康に良いと考えられ食されてきた.これはボタンボウフウにはビタミンC, βカロテン,ルテイン,ポリフェノールが豊富に含まれ,多様な抗酸化成分を豊富に含むことが報告されているからである. 本研究では鹿児島県における分布について詳細に調査し,自生地の現状を明らかにすること,伝播の経路の解明の一助とすることを目的とした.今回は調査地として鹿児島県の南さつま市,甑島,奄美大島,種子島,喜界島,沖永良部島,加計呂麻島の沿岸部とした.自生地ではGPSデータを記録し,ボタンボウフウの変種を形態から識別した.その結果,ボタンボウフウは主として海岸の岩場で多く見られ,砂地ではほとんど見られなかった.甑島では標高200 m程度の断崖で観察できた.奄美大島瀬戸内町では,外形からナンゴクボタンボウフウに類似した個体を確認した.調査地のうち,5地域(鹿児島県南さつま市,奄美大島,上甑島,中甑島,下甑島)の本葉を採取しDNA抽出を行い,start codon targeted(SCoT)分析を実施し,その結果に基づきクラスター分析を行った.その結果ME法,NJ法およびUPGMA法の三種の系統樹とも南さつま市,奄美大島および甑島3つのクラスターに分類できた.
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