焼畑での陸稲栽培が主要な稲作形態であるラオスの中山間地では,土着の経験則にもとづき多種多様な陸稲品種が栽培されてきた.しかし1990年代から焼畑抑制と市場経済化が推進された結果,焼畑実施状況は変化しており,農家の品種選択にも影響を及ぼしている可能性が高い.そこで本研究では陸稲農家の品種選択の基準となる栽培関連形質の同定を目的に,2014~2015年にかけてラオス北部ルアンパバン県,中部ビエンチャン県,南部セコン県の計26村を対象に陸稲品種を収集し,その栽培頻度や品種特性のインタビュー調査および籾形態の計測を実施した.
26村から計244品種を採取した.1村当たりの品種数は,焼畑陸稲栽培が盛んな北部ルアンパバン県で最も多かった(15.7品種/村).244品種を母集団とし,各村内で最も多くの農家に栽培されていた品種を主要品種群として分類し,両者の属性分布をピアソンのカイ二乗検定を用いて比較したところ,環境適応性および品種早晩性で両者の分布が有意に異なっていた.不良土壌・標準土壌・好適土壌への適応品種の割合は母集団で29%,55%,24%であったのに対して,主要品種群では15%,22%,63%となり,また早生・中生・晩生の割合は母集団で19%,30%,51%であったのに対して,主要品種群では7%,11%,82%となり,主要品種群は晩生性および好適環境適応性の形質を有する傾向が認められた.以上の結果より,ラオス陸稲農家は好適環境に適した晩生品種を優先的に栽培していることが明らかになった.
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