熱帯農業研究
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15 巻, 2 号
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原著論文
  • -現代東南アジア農業の理解に向けて-
    松田 正彦, 富田 晋介, 広田 勲, 山本 宗立
    2022 年 15 巻 2 号 p. 73-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    東南アジアでは,過去数十年にわたり様々な局面において,農業・農村の重要度が低下する「脱農化(de-agrarianization)」が進行してきたといわれる.一方で,農地面積の拡大や農業生産の増加といった「農業化(agriculturalization)」傾向も同時期にみてとれる.本研究の目的は,この逆説的状況の解明である.まず,国・地域レベルの公式統計を用いて脱農化と農業化を概観し両者の関係を整理した.次に,それを東南アジアの地域固有性の観点から検討した.その上で,非農業部門の拡大(脱農化)と農業生産の増大(農業化)との関係性についての説明仮説を推論した.その結果,東南アジアでは総人口に対する農村人口比率の急減に代表される相対的な脱農化が進む一方で,依然として農村には数多くの人びとが住み続けるとともに技術的な集約化や面的拡大を含む農業発展が同時進行しており,脱農化パラドクスと呼びうる状況が見出された.欧州や東アジアが経験したような脱農化が東南アジアで同様のかたちで顕在化していない理由は,東南アジアが持つ農業資源の賦存量の大きさ(東南アジアの地域固有性)を以て説明できるだろう.また,相対的な脱農化と農業発展との因果関係に対して,不確実性の高い環境下で営まれる熱帯農業の特徴を踏まえ,人びとのリスク観に着目した推論をおこなうことで一定の合理性を与えた.つまり,小農の世帯生計におけるリスク恒常性を仮定することで,非農業部門の拡大が集約的技術による農業の近代化を誘起しうることを演繹的に示した.この説明仮説に従えば脱農化パラドクスは農業と非農業部門との経済的な共栄関係を示唆しており,現代東南アジアは脱農化よりむしろ「共農業化(co-agrarianization)」の最中にあるといえる.

  • 西澤 優, 荒木 小梅, 相場 可奈, 福留 弘康, 廣瀬 潤, 川口 昭二, 山本 雅史, 朴 炳宰, 遠城 道雄
    2022 年 15 巻 2 号 p. 86-94
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    ビワ果実を大果生産するための栽培管理方法の確立を目指し,‘長崎早生’(露地栽培),‘茂木’(露地栽培)および‘なつたより’(施設栽培)を用いて,結果枝の剪定・芽かき処理(中心枝のみ,中心枝+副梢1本,中心枝+副梢2本)や摘房処理(摘房率50%,30%,無処理)が結果枝の形状,果実重,樹冠および受光環境に及ぼす影響を調査した.その結果,どの品種も結果枝が少ない管理方法で太い結果枝が多く,果実重が重かった.また,結果枝および1果当たりの葉数も多かった.摘房率50%の‘長崎早生’および30%の‘なつたより’では,果実重が重く結果枝も太かったが,‘茂木’では処理区間に有意差は認められなかった.果実重と結果枝の形状との関係では,どの品種もr = 0.54以下で有意,もしくは相関に有意性がなく,結果枝の形状が果実重に及ぼす影響は小さいことが示唆された.結果枝の直径と葉数との関係は,‘なつたより’の中心枝のみ区以外で結果枝が太くなると葉数が増加することが示唆された.樹体の構造および受光状態は,摘房率50%にした‘茂木’で樹冠植被率が低く開空率と年積算光合成有効放射値が高かったが,樹冠の葉面積指数はどの処理区でも同等であった.一方,結果枝の管理方法の違いが葉面積や樹体の受光状態に及ぼす影響は小さかった.以上より,ビワを大果生産するためには,結果枝を少なく管理し,50%から30%程度摘房することで樹体の受光環境を改良した方が良いと考えられた.

  • 島田 温史, 香西 直子, 山本 雅史
    2022 年 15 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    近年,我が国ではアボカド果実生産の拡大が期待されているが,南九州以北で栽培する場合は冬季の低温が問題となる.そこで本研究では,葉のクロロフィル蛍光分析,変色程度および電解質漏出ならびに枝のFDA染色の4手法を用いてアボカド品種の耐寒性を総合的に評価した.葉のクロロフィル蛍光および電解質漏出ならびに枝のFDA染色では‘メキシコーラ’,‘フェルテ’,‘ベーコン’, ‘ハス’,‘ピンカートン’,‘チョケテ’および‘シモンズ’の7品種,葉の変色程度ではこれらに加え,‘ウィンターメキシカン’,‘エッティンガー’,‘ニムリオ’,‘マラマ’,‘リード’,‘リンダ’,‘カハルー’,‘ミゲル’,‘セルパ’,‘フルマヌ’,‘ホアンホセ’および‘サンミゲル’の計19品種を供試した.その結果,葉のクロロフィル蛍光分析(Fv/Fm)では-3 ℃において品種間差が見られなかったが,-9 ℃では‘メキシコーラ’が他の品種よりも有意に高かった.葉の変色程度では,-6 ℃において‘メキシコーラ’,‘フェルテ’,‘ウィンターメキシカン’および‘エッティンガー’では葉が変色しなかったが,その他の15品種では変色した.葉の電解質漏出による評価では品種間に有意な差は認められなかった.枝のFDA染色による評価において低温障害が発生した温度は‘ハス’で最も高く,最も低かったのは‘メキシコーラ’であった.以上のことから,本研究の電解質漏出以外の耐寒性評価は従前の報告と同様の結果を示し,アボカドの耐寒性評価方法として有効であることが明らかとなった.

  • 比屋根 真一, 野瀬 昭博, 伊禮 信, 寶川 拓生, 平良 英三, 鄭 紹輝, 上野 正実, 川満 芳信
    2022 年 15 巻 2 号 p. 101-109
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    沖縄県農業研究センターで長期間実施された気象感応試験における調査データを活用して,サトウキビ収量予測モデルの開発を検討した.サトウキビの仮茎長はロジスティック曲線的に変化することを確認し,栽培型毎の変曲点出現時期を導き出し,その近傍の生育データに基づいて最終収量の早期予測を試みた.平年的な仮茎長のロジスティック曲線の変曲点は,春植え灌水区で植付け後144日目,同無灌水区で153日目,株出しは両処理区ともに株出し開始134日目に出現した.夏植えは,植付けから220日までと,それから収穫日までの2つのロジスティック曲線に分離でき,前者の変曲点は植付け後87日目,後者のそれは293日目に現れた.10月以降の原料茎重の実測値にフィットさせたロジスティック曲線の変曲点は,春植えでは両処理区ともに植付け後177日目,株出し灌水区で139日目,同無灌水区で154日目,夏植え灌水区で346日目,無灌水区で296日目に出現した.これらの変曲点出現時期に近い生育データの内,春植えでは9 ・ 10月,株出しでは8 ・ 9月,夏植え無灌水区では6 ~ 8月における3形質の積(仮茎長×茎径×茎数) と収穫時の原料茎重との単相関係数が有意に高かった.一方,夏植え灌水区の原料茎重は6 ・ 7月の仮茎体積との単相関係数が有意に高かった.以上より,ロジスティック曲線に基づく変曲点の出現時期付近の生育データを用いることによって最終収量の早期予測の可能性がある.

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