日本観光学会誌
Online ISSN : 2436-7133
Print ISSN : 1341-8270
最新号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 鈴木 晃志郎, 松井 陽史
    2023 年 64 巻 p. 1-12
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、旅行口コミサイトに投稿された白川郷に関する日本人および外国人のeWOM(電子口コミ)をテキストマイニングにより比較解析し、観光行動分析におけるテキストマイニングの有用性を検討した。潜在的ディリクレ配分法によってクラスタリングした日本語と英語のeWOMを比較したところ、食事、散策や見学、写真撮影など、集落内の観光行動に関する複数のトピックで双方の内容に一定の共通性がみられた一方、世界遺産に関する双方のトピックには、大きな違いがみられた。日本語版に外国人観光客の急増に対するネガティブな反応が現れたのに対し、英語版の特徴語からは、対象地がユニークな民俗文化を愉しむ場所として消費されている様子が読み取れた。また、双方が利用可能な白川郷までの移動手段の多寡を反映して、交通手段に関するトピックでも、双方に違いが現れた。出発地で層化した共起ネットワーク分析でも、既存のインタビュー調査の結果を裏づける知見が得られ、定性的な調査で得られた知見を補強する手段としての有効性も示された。
  • 倉本 啓之, 井出 明
    2023 年 64 巻 p. 13-23
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    日本海に面した斜面にいくつもの水田が連なる景観をもつ白米千枚田は、農地として活用されているからこそ観光資源としての価値がある。しかしながら、現在の白米千枚田の稲作は、有志が構成員となった地域団体が農作業面を担い、それを多くのボランティアが支えている。また資金面では、全国から支援者を募るオーナー制度が採用されているものの、行政からの補助金も必要となっている。つまり稲作農業を継続させていくためには耕作者と資金の確保が課題となっている。本研究ではまず、現在の白米千枚田観光の現状と耕作に関わる者との関係性を示し、発展の経緯を調査した。さらに、世界農業遺産が評価する生物多様性を守る伝統的な農法と土地利用の関係に注目し、農地保全と観光活用の両立策を提案した。具体的には、エコツーリズムの方法論を用いて、持続可能な観光開発のあり方を示した。最終的には、耕作者と資金の確保を確実にするために、地域の伝統的な農業方法や生物多様性の保護に焦点を当てた新しいタイプのエコツーリズムの取り組みの可能性を描き出した。
  • 片山 達貴, 大江 靖雄
    2023 年 64 巻 p. 24-32
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    農家レストランは、農家所得の増大を図る6次産業化の役割のみでなく、ツーリズムや都市農村交流としても 注目されている。しかし、近年ウェブサイトでのマーケティングを行う事業体が増えており、訴求性の解明や需要のあるコンテンツの把握は経営上重要な論点であるものの、研究成果は限られている。そこで本稿では、消費者への第一印象が決まる農家レストラン名称を分析対象とし、関東地方(183件)と近畿地方(108件)を比較しながら訴求内容を明らかにした。まずKH Coderを用いたテキスト分析から2地域の特徴的な要因を析出し、次に名称を約90種類に分類し、2値ロジットモデル分析から2地域の決定要因を解析した。その結果、関東地方の農家レストランは和食が主な形態であり、田舎や農地を想起させる言葉で農村への訪問ニーズを引き出し、定番の言葉や読みやすさで消費者の認知と記憶を容易にしようとしていることが判明した。これに対して、近畿地方の農家レストランは品質や清潔さをアピールし、歴史性や地域資源との連動、多種多様な料理や食材で差別化をし、顧客の関心を高めようとしていることが判明した。以上の点から、関東地方と近畿地方の農家レストラン名称の訴求内容は差異があり、近畿地方は関東地方より多様性に優れ、訴求力の高い差別化を図っているといえる。
  • 堀越 聡太, 大江 靖雄
    2023 年 64 巻 p. 33-41
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    コンテンツツーリズムにおいてアニメや映画の流行が永続するのは稀なケースであるため、ある一定期間が過ぎると聖地と呼ばれる地域も観光需要が減ってしまうことが課題となっている。一過性のあるこの観光形態について、流行が終わった後の心理的・経済的効果は十分解明されていない。作品ヒット後の観光需要が増えるポジティブな側面だけでなく、観光客を受け入れる立場の地域住民が感じるネガティブな側面も考慮する必要があると考える。そこで本研究では、首都圏の「聖地巡礼」定番スポットである埼玉県秩父市の市民及び事業者52名への現地調査結果をもとに、心理的・経済的効果の分析を計量的に行った。順序ロジット分析とロジット分析の結果から、観光需要増加に伴う市内インフラの整備や、注目度が高くなることによってより一層深くなる地域への愛着など、住民は一過性の経済効果のみならず長期的な付加価値をコンテンツツーリズムに感じていることが分かった。地域住民の心理的な効果は個々人の経済活動に対するモチベーションに寄与するため、地域住民への心理的な効果についても配慮しつつ観光振興を図ることが重要といえる。
  • 小村 弘
    2023 年 64 巻 p. 42-49
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    歴史的市街地である「ならまち」は衰退した生活空間であったが、町家カフェや雑貨店が観光雑誌に紹介される観光地となっている。本研究は、カフェ、雑貨店や飲食店の店舗数と建物または土地の用途の変遷を1970年代まで遡って調査し、併せて町家の店舗としての利用状況や関係者からの聞き取り結果を分析することにより、「ならまち」の再生の特徴を明らかにすることを目的とする。カフェや雑貨店の増加傾向は、元興寺旧境内を中心とした「ならまち」の中心地区から繁華街の周辺エリアへ拡大した。奈良市外からの来訪者は町家店舗への訪問意向は高かった。一方、出店者による町家の利用は2015年まで受動的であったが、2016年以降能動的利用へ移行した。本稿において、「ならまち」の観光地化による再生は、町家の能動的利用への変容をともなった、カフェ、雑貨店、飲食店の出店・拡大による個人店舗出店型まちづくりであることを明らかにした。
  • 神谷 達夫
    2023 年 64 巻 p. 50-60
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    観光イベント等の企画立案や会場の状況把握のために、著者らは、「ソーシャルディスタンス手持ち行燈」(ディスタンス行燈)と名付けた装置を開発した。この装置は、固定的に設置したアクセスポイントの近傍を通過した観光者を記録することができる。さらに、ディスタンス行燈の改良型は、GPS等の衛星測位(NSS)により取得した観光者の位置情報をデジタル小電力コミュニティ無線で伝送し、ほぼ即時的に観光者の行動を知ることができる。改良の結果、従来のディスタンス行燈では検出できなかったアクセスポイント間の観光者の動きや、会場間の観光者の移動経路をほぼ即時的に知ることができた。さらに、改良されたディスタンス行燈により取得された観光者の移動記録と調査票の回答を組み合わせて分析することで、観光者の属性ごとの経路の使用傾向を知ることができた。 システム運用の結果から、NSS位置情報を無線伝送することにより観光者の動きを即時的に取得できることは、イベント運営に役立つことが確認された。また、観光者の属性と移動経路に関連性が見られた。このことは、観光者の属性に対して会場での案内を変える等の応用が可能である。
  • 上村 明
    2023 年 64 巻 p. 61-69
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/03/09
    ジャーナル オープンアクセス
    コロナ禍で制限されていた「二国間の双方向の観光交流(ツーウェイツーリズム)」も国際線の受け入れ空港の緩和などを受け、緩和されるようになった。しかし、障害者の中でも精神障害や発達障害を有するものは「向精神薬」を服用していることから、国境を跨ぐ際には煩雑な手続が必要である。その一例として海外旅行傷害保険や薬剤携行証明書に関する問題がある。本研究では、これらの問題点を明確にし、関係者間の「建設的対話」につなげていくこと。その上で、発達障害や精神障害を有する者が海外旅行や留学を円滑かつ安心して行えるよう、解決策を提案し、障害当事者のみならず、施設側などの負担を軽減し、国を跨ぐ移動時に生じる当事者・事業者側などの「心のバリア」を軽減し、結果的に当事者・事業者側の経済的負担や心理的負担などの軽減にも寄与できる。よって本研究で指摘する点は、精神障害や発達障害を有する者が今後も予想される国を跨ぐ、国際間の観光に必要不可欠な事項であるため観光学の観点からも有益である。
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