認知神経科学
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13 巻, 2 号
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第16回 認知神経科学会学術集会
特別講演Ⅰ
  • Marsel Mesulam
    2011 年 13 巻 2 号 p. 153
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    Dementias can be classified as amnestic, comportmental or aphasic, according to the nature of the major impairment. Alzheimer’s disease typically leads to an amnestic dementia where memory loss is the major cause of impaired daily living activities. This is consistent with the hippocampal/entorhinal location of the initial neurodegeneration. The frontotemporal Lobar Degenerations(FTLD)constitute the second major class of dementias. The neuropathology is characterized by focal neuronal loss, gliosis, tau inclusions, or TDP-43 inclusions. FTLD can lead to pure cognitive changes as in primary progressive aphasia(PPA)and the behavioral variant of frontotemporal dementia(bvFTD). Patients with bvFTD have preserved language and memory function but display major impairments of insight, judgment, working memory, problem solving and other executive functions. Disinhibition in the areas of sexual misconduct, shop lifting, impulsive gambling are frequently seen and fail to elicit remorse. The major atrophy in these patients is seen in prefrontal cortex, caudate nucleus and the temporal poles. The principal focus of this talk will be PPA, a focal neurodegenerative syndrome characterized by an isolated and gradual dissolution of word finding and word usage. The language disturbance is initially the most salient deficit and the major obstacle to the execution of daily living activities. This does not mean that there are no deficits other than the aphasia, but that such additional deficits are relatively minor in the first two years following symptom onset. Some patients develop prominent agrammatism, others profound word comprehension(semantic)deficits. The speech output in PPA can be fluent or non-fluent. Memory, visual processing and personality remain relatively preserved during the initial stages. Terms such as progressive non fluent aphasia(PNFA)and semantic dementia(SD)have been used to denote subtypes of PPA. Structural and physiological neuroimaging confirms the selective predilection of PPA for language-related cortices of the left hemisphere. The majority of the autopsies in PPA have shown the neuropathology of FTLD but approxiametely 30% of PPA can be caused by atypical forms of AD neuropathology. The mechanisms that determine the initial selectivity of the cognitive impairment and the asymmetry of atrophy in PPA remain to be elucidated. An informed approach to PPA helps to address the challenges associated with the care of these patients. This syndrome also offers unique opportunities for exploring the cognitive architecture of language processing and the neurobiological fingerprints of the language network.
特別講演Ⅱ
  • Sandra Weintraub
    2011 年 13 巻 2 号 p. 154
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    Thirty years ago, neurodegenerative dementia was considered a neuroanatomically and functionally diffuse class of diseases, and, therefore, of no importance to understanding cognitive localization in the brain. Public awareness of neurodegenerative dementia has increased dramatically over the past 30 years, leading to much earlier diagnosis. In early stages of dementia, it has been shown that neurodegenerative changes are highly selective, targeting very specific cortical and subcortical regions and producing highly circumscribed cognitive deficits before they evolve into more generalized impairment. Four distinctive neuropsychological profiles of dementia, each associated with a different large-scale neuroanatomical network, will be contrasted with respect to their salient clinical features and associated neuroanatomical and neuropathologic signatures. An amnestic profile has been associated with medial temporolimbic dysfunction and most of these cases are diagnosed with pathologic Alzheimer’s disease at post mortem autopsy. The profile of primary progressive aphasia has been associated with structural and functional disruption in left perisylvian “language regions” and is neuropathologically heterogeneous with most cases due to one of the several forms of frontotemporal lobar degeneration(FTLD). An early profile of progressive visuospatial dysfunction has been associated with posterior cortical atrophy and hypometabolism in visual processing regions of the brain. At post mortem, this clinical profile is primarily linked with Alzheimer neuropathology in a distribution that favors visual association cortex. Finally, the syndrome marked by early progressive comportmental and executive function deficits is marked by frontotemporal atrophy and dysfunction and, at post mortem, with one of the many entities under the rubric of FTLD. The neurocognitive profile approach to dementia has led to important discoveries about how cognition is organized in the brain as well as to more effective diagnosis and management of these illnesses.
会長講演
  • 蜂須賀 研二
    2011 年 13 巻 2 号 p. 155
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害とは、運動麻痺、感覚障害、痴呆などでは説明できない中枢神経系の障害による言語、認知、動作の障害のことであり、高次脳機能障害の症状には、失語、失行、失認、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、精神情動障害などがあり、原因疾患として脳血管障害、外傷性脳損傷、脳炎、変性疾患などがある。近年、我が国では、交通外傷などを契機として生じる認知機能障害で、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害を主症状とする認知障害に限定して用いることがあり、我々のリハビリテーション科では診療対象患者の多数は外傷性脳損傷や脳血管障害であるので、本報告では主に後者の意味で高次脳機能障害の用語を用いることにする。高次脳機能障害の発症数は必ずしも明確ではないが、2008 年に東京都が実施した調査では49, 508 人の患者が抽出された。福岡県で実施した外傷性脳損傷を主体とする高次脳機能障害の発症調査では、中等症および重症の高次脳機能障害患者は6. 4/人口10万人であったが、軽症のものも含めると5〜10 倍の患者がいると推定できる。外傷性脳損傷の発症率は年米国のCentersfor Disease Control and Preventionによれば79. 0/人口10万人である。高次脳機能障害の治療は、急性期は救急診療科、脳神経外科、神経内科などで集中的治療が実施され、その後は回復期リハビリテーション病院で神経心理学的評価や訓練が実施される。回復期リハビリテーション病院を退院して直ちに社会復帰や職場復帰が可能な症例は少なく、多くはリハビリテーション科、脳神経外科、神経内科、精神科での通院診療や訓練を要する。最近の5 年間に当科に入院した高次脳機能障害患者92 症例に対して、Wechsler Intelligence Scale,Wechsler Memory Scale, The Rivermead Behavioral Memory Test, Frontal Assessment Battery,Behavioral Assessment of Dysexecutive Syndromeを実施し、訓練や指導を行い、退院後の帰結により一般雇用、保護雇用、非雇用に分け、3 群間を比較した。一般雇用群は非雇用群に比べてWAIS-RのPIQ、FIQ、WMS-Rの言語性記憶、視覚性記憶、一般的記憶、遅延再生、RBMT が有意に高得点であり、保護雇用群は遅延再生のみが非雇用群よりも有意に高得点であった。FABとBADS には3 群間で相違はなかった。職場復帰が可能であった症例および不可能であった症例を提示し、さらに高次脳機能障害と職場復帰の要因に関して概要を述べる。
教育講演Ⅰ
  • 渡邉 修
    2011 年 13 巻 2 号 p. 156
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    2001 年、厚生労働省は高次脳機能障害支援モデル事業を開始し、高次脳機能障害に関する実態調査および評価、支援方法の検討を行った。2004 年には、診療報酬請求の対象として高次脳機能障害が診断名として申告できるようになった。今後は、他の先進諸国と同じく、高次脳機能障害に対するリハビリテーション(認知リハビリテーション:以下、認知リハ)の各種治療技術に関する厳密な効果の検証とガイドラインの公表が求められる。本発表では、特に脳卒中患者および脳外傷患者を対象に報告されてきたエビデンスの高い認知リハについて、自験例も交えて報告する。急性期から回復期は、高次脳機能障害の自然回復が期待される一方で、この時期のリハ効果にも高いエビデンスがあり、言語能力の改善、記憶能力の改善など要素的なレベルでの改善が期待できる(restorative training)。一方、時期が経過すると、これらに加え、代償手段を身につけるリハに重点を置き(compensatory training)、特定の環境に適応する技術の訓練を行う(functional adaptation approach)。記憶障害に対する代償手段の活用訓練およびerrorless learningの効果、注意障害に対するtime pressure management(情報処理速度が低下している場合には、こなすべき作業を前にして、時間を十分に確保する工夫)の効果が示されている。失語症に対し、強制的言語使用訓練、グループ訓練、地域においてコミュニケーションを主体とする地域リハプログラムおよびコンピュータ訓練も効果がある。また、遂行機能障害に対し、Goal managementtraining(意図した行動が実現するように、計画し、構造化できる訓練)の効果が報告されている。さらに職業リハの一環として、援助付き雇用(supported employment)やジョブコーチの有効性も実証されている。Comprehensive・Milieu-oriented・Muti-professional・Holistic approachとは、患者のおかれた社会環境を重視しながら、身体障害、認知障害、情緒行動障害、経済的問題、就学・就労問題等に対し、多職種が、全人的、包括的に支援していくリハ体制である。主に脳外傷患者を対象とした比較研究が多いが、慢性例でも、高次脳機能の改善を認められるとする高いエビデンスがある。また、高次脳機能障害者の中には、暴力、暴言等の問題行動によって社会参加が困難となる例がみられる。従来、このような例には、結果をフィードバックする手法が用いられてきたが、脳損傷が特に前頭葉眼窩内側面にある場合、このフィードバックが問題行動の修正に対し効果が乏しいとする意見から、近年重要視されている支援方法として、問題行動に先行する契機となる出来事や環境に対し、肯定的な行動を引き起こすための配慮を行うPositive BehaviorSupports の効果が無作為化比較試験によって報告されている。
教育講演Ⅱ
  • 前島 伸一郎
    2011 年 13 巻 2 号 p. 157
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    小脳は、これまで純粋に運動の調節や制御を行うための神経基盤であると考えられてきた。小脳病変では運動失調や筋トーヌスの低下などの運動機能障害が前面に現れ、めまいや嘔気を合併することも少なくない。1980 年代の半ばごろから、小脳と高次脳機能の関連性を示唆するような解剖学的、あるいは神経心理学的な種々の報告がなされるようになってきた。特に、近年の電気生理学や神経画像の発展に伴い、注意や記憶、視空間認知、計画、言語などに関する様々な課題の遂行に、小脳が関与していることが明らかになってきた。一方、脳幹は生命維持のための神経基盤であると考えられており、意識の制御、体温調節、血圧制御などが行われている。また、大脳皮質と小脳、脊髄との連絡路であるため、脳幹損傷では眼球運動障害・麻痺・失調・嚥下障害など様々な症状を呈する。近年、高次脳機能との関連を示唆する解剖学的、神経心理学的な報告がなされている。臨床的にもテント下に限局した病変を持つ患者で、視空間認知や遂行機能障害などの合併が注目されている(Schmahmann, 1998)。報告例の多くは小脳病変だが、脳幹病変の関与も指摘されている(Maeshima, 2010)。本講演ではこれらの解剖学的特徴を整理し、自験例を含む高次脳機能との関連について述べ、これまでの問題点と今後の展望について解説を行う。
教育講演Ⅲ
  • 相原 正男
    2011 年 13 巻 2 号 p. 158
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    生後数か月からヒトは反応を遅らせる能力(遅延反応)、すなわち行動・反応抑制(behavior/response inhibition)が認められるようになる。もし、反応を抑制できなければ、短期的な報酬を求め、さらに自分の思考を内・外からの干渉から抑制できない。我々は行動を遂行する際、その行動が将来にどのような利益(報酬)をもたらすか、あるいは不利益(罰)を受けるか予想して、行動(抑制・促進)を随時調節している。臨床的に行為障害(非道徳的行為)が認められた前頭葉離断症候群(両側内包前脚の脱髄)、前頭葉眼窩部形成異常、脳梁欠損に伴う帯状回形成異常の3 症例に対し、誘発性と覚醒性の2 次元モデルで析出した視覚的情動刺激により誘発される交感神経皮膚反応(sympathetic skin response;SSR)を測定した。全症例とも、画像に対する誘発性評価は可能であったが、健常者では出現する誘発性の低い刺激課題(violence)に対しSSR はすべて消失していた。SSR は、いわゆるDamasio(1994)が提唱したsomatic markerと考えられ、行動抑制に関連の深い情動性自律反応と思われる。さらに、衝動性眼球運動(サッケード)を行ったところ、記憶誘導性/アンチサッケード課題でミスサッケードが過半数を占めた。ADHD をはじめとした発達障害児も同様な結果を得ていることから脱抑制に関与する機能低下部位は前頭葉眼窩部、帯状回と考えられる。Tanaka(2004)は強化学習課題であるMarkov decisiontask(MDT)施行中のfMRI による健常成人における検討で、長期的報酬学習には帯状回、島背側、線条体背側、前頭前野が関与していることを明らかにした。この課題は、PC 画面上の3種類のヒント図形と2 種類のボタン押しの組み合わせの結果、PC 画面に表示される得、失点を手がかりに高得点を目指す強化学習課題であり、目前の小失点を我慢しないと高得点を得られない仕組みになっている。我々は、MDT 施行中に各画像表示をトリガーにSSR を経時的に測定した。報酬期待と罰予測(警告)に関係するヒント図形表示は、行動の促進と抑制を意味するが、得点増加を認めた群ではこれら図形表示時のSSR 出現率はセットを重ねるごとに上昇していった。発達障害児では、罰予測(警告)に関係するSSR の出現率が低く得点が有意に低かった。臨床生理学、神経心理学的実験結果から、状況に則した適切な行動(抑制・促進)を選択(意思決定)し、さらに長期的報酬予測学習に至る文脈を形成するためには生理的覚醒反応がbiasとして不可欠と考えられる。
教育講演Ⅳ
  • 宮内 哲, 寒 重之, 小池 耕彦, 三崎 将也
    2011 年 13 巻 2 号 p. 159
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    これまでのfMRI は、刺激やタスクに伴って生じる一過性の脳活動の局在を高い空間分解能で同定するための非侵襲的計測法として用いられてきた。そこでは対照条件としてのRest 条件では、(1)明確な脳活動が存在せず、(2)ほぼ一定の状態が保たれている、という暗黙の前提があった。どちらの前提も必ずしも満たされているとは限らない事は以前から知られてはいたが、あくまで実験計画及び解析の際の留意事項にすぎなかった。言い方を変えれば、fMRI では自発性脳活動はノイズと見なされて研究対象としては扱われてこなかった。しかし、fMRI の実験中に被験者が眠気を感じない事の方が稀であるし、時には実験中に眠ってしまう事も少なくない(睡眠は健常者における最大の脳活動変化である)。また安静時及び睡眠時の脳活動が単に脳のアイドリングではない事は、Steriade による神経生理学的知見や90 年代後半より極めて活発に研究が進められた睡眠時のmemory consolidationに関する研究からも明らかである。近年fMRI を用いた研究でも、自発性脳活動を対象とした研究が飛躍的に増加している。これらの研究は大きく二種類に分けることができる。第一はfMRI と脳波を同時に計測し、脳波の基礎律動の変化(=覚醒水準の変動)及び自発性脳活動に伴うBOLD信号の変化から、脳波の基礎律動及び自発性脳活動に関与する脳領域を同定し、その生理学的意義を検討する研究である。第二は、安静覚醒時のfMRI 時系列データを用いて、領域間のfMRI 信号の相関から機能的結合性(functional connectivity)を計算して、全脳の自発性活動を複数の領域が協調して活動する数種類のネットワークに分類し、健常者と神経・精神疾患患者での相違や意識との関連を検討する研究(resting-state fMRI)である。そしてこれらの自発性脳活動ネットワークの中核的存在として考えられているのがDefault Mode Network(DMN)である。本講演では、われわれが行ってきた研究(レム睡眠時の急速眼球運動に伴う脳活動及び覚醒〜睡眠に伴うDMN の変動)を紹介しながら、上記の二種類の研究について概観し、今後のfMRIによる脳研究の方向性を検討する。
教育講演Ⅴ
  • 美馬 達哉
    2011 年 13 巻 2 号 p. 160
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    運動の反復によって、健常者で運動学習の効果が現れたり、運動麻痺患者でも麻痺が改善したりすることは古くから知られていたが、1990 年代頃から、その脳内機構として使用依存性の脳可塑性(use-dependent brain plasticity)の誘導があることが知られるようになった。その結果、学習や記憶に関する基礎研究とリハビリなどの臨床応用とを結ぶキーワードとして、可塑性が注目されている。とりわけ、ヒト脳可塑性という点では、たんに運動反復による誘導という自然な手法だけではなく、1980 年代に開発されたTMS による脳電気刺激という人工的な手法で、TMS終了後にも長時間にわたって持続する影響(脳可塑性)を誘導して治療につなげる可能性が議論されている。従来の方法は、傷害側の一次運動野(M1)などのターゲット脳領域に高頻度反復TMS を与えることで運動機能を促通する、あるいは健常側M1 に低頻度反復TMS を与えて機能抑制を起こさせ、間接的に脳梁間抑制を介して傷害側M1 の機能を向上させるという手法であった。しかし、患者への臨床応用という点では、M1 機能一般ではなく、各個人の病状にあわせてよりターゲットをしぼった運動機能改善ができることが望ましい。こうした問題意識から、私たちは、use-dependent brain plasticityの原理を用いて、TMS と特定の種類の反復運動(この場合は手首の伸展)を繰り返したハイブリッド型のニューロリハビリの新しい手法を開発し、検討中である。慢性期の脳卒中患者での痙性麻痺をターゲットに、伸筋群の運動機能改善を目標に、TMS を損傷側のM1 に与える(1 秒に5回)と同時に麻痺に対抗して手指を伸ばす運動訓練を行うハイブリッド型リハビリを考案して、慢性期脳卒中患者9 名を対象に実施して(1 回15分、週2 回、6 週間)、麻痺した手の握力の強化と痙性麻痺の改善を認めた。また、このリハビリ方法による回復が伸展方向の運動に関わるM1 可塑性によるものであると証明した。これは、神経生理学的知識に基づいた科学的なリハビリの提案として重要であろう(Koganemaru et al., 2010)。また、こうした手法も含めて、近年、感覚入力とTMS や反復TMS を組み合わせる手法(連合性対刺激:Paired Associative Stimulation PAS)による脳可塑性が報告され、注目されている。私たちは最近、正常ヒト被験者で新しく開発したPAS を用いて、脳可塑性を誘導することに成功したので、その結果についても簡単に報告する(Thabit et al., 2010)。
教育講演Ⅵ
  • 渡辺 茂
    2011 年 13 巻 2 号 p. 161
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    美に生物学的起源を求める考え方は進化美学あるいはダーウィン美学といわれ、生息圏の選択が美的感覚の起源であるという環境説や、性選択起源説が考えられてきた。しかし、これらの理論は思弁的なものが多かった。この講演ではヒト以外の動物における美を1)弁別刺激としての美(美を見分ける)、2)強化としての美(美の快楽)、3)運動技能としての美(美の創造)、の3 つの観点から実験的に分析する。1)については弁別訓練によってある程度美のカテゴリーが弁別可能であることが示されたが、もちろん、ここで言う美は洗練された芸術的な意味でのそれではなく、ごく低いレベルの美しさである。2)については種差、個体差があるが、個体差はヒトの場合にも認められるものである。3)は訓練によって絵画を描くといったことは可能であるが、作られたものが他個体にとって、あるいは自分自身にとって強化的であるかは不明である。
特別企画
  • 杉下 守弘
    2011 年 13 巻 2 号 p. 162
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    認知症の診断と心理検査の得点との関係についてはいろいろなことが言われている。たとえば、心理検査から「〜点以下は認知症」といった単純な理解をすることは厳に慎まねばならないとか、MMSE が24 点未満でも認知症でないことは多いし、30点でもその他の徴候からAD と診断することも稀ではないなどといわれている。ここでは認知症の診断基準で心理検査の得点がどのように扱われているか検討する。1984 年、アルツハイマー病認知症の診断基準として最も知られている、NINCDS-ADRDA のアルツハイマー病診断基準(McKhann et al. 1984)が公にされた。この基準の第1 項目には「診察によって定められ、MMSE、ブレスド認知症尺度或いは同様の検査によって立証され、神経心理検査によって裏付けられた認知症」が存在することが挙げられている。認知症が心理検査で立証され、裏付けられていなければならないとされ、心理検査の成績が認知症の臨床診断の一部となっていることがわかる。2011 年4 月、27 年ぶりにNINCDS-ADRDA の診断基準が改定され、「すべての認知症用の基準:中核的臨床基準」が作成された(McKhann et al. 2011)。この新しい基準の第4 項で次のように述べられている。「認知障害は、患者および知識の豊富な情報提供者からの病歴聴取と客観的認知評価(ベッドサイドで行う精神状態検査であれ、神経心理学的検査であれ、)との組み合わせを通して発見され、診断される………。」新しい基準では心理検査が病歴聴取と組み合わされて診断に用いられることが述べられている。
  • 杉下 守弘
    2011 年 13 巻 2 号 p. 162_1-162
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    Mini Mental State Examination(MMSE)とClinical Dementia Rating Scale(CDR)はいずれも国際的に広く使用されている認知症検査である。両検査はすでに数種の日本版が公表されている。しかし、2006 年、日本で国際プロジェクト「アルツハイマー病神経画像戦略」(J-ADNI)が始まり、原版に忠実な日本語訳で、原版と等価性の高い日本版の使用が要請された。そのような要請に答えられる新版の検査として、日本版としてMMSE-J とCDR-J が作成された。J-ADNI でこれらの検査の有用性が認められたので紹介したい。1.精神状態短時間検査―日本版(MMSE-J、翻訳・翻案杉下守弘、2006)国際的に最もよく使用されているMMSE は2001 年版である。この原版に等価な日本版(MMSE-J)を作成した。MMSE にはいろいろな修正版があり、これらにも配慮して日本版を作成した。この検査は2011 年秋、日本文化科学社から出版の予定である。2.臨床認知症尺度―日本版(CDR-J、翻訳・翻案杉下守弘、古川勝敏、2008)CDR は、記憶、見当識、判断力と問題解決などの6 項目について被験者に行わせた検査結果と情報提供者の評価をもとに、認知症の重症度を測定する検査である。従来、CDR の日本版が数種試みられたが、課題の翻訳で適切でないところがみられ原版との等価性は高くなかった。また、1993 年以降の修正を反映してないなどの問題もあり、J-ADNI では新版を作成した。この版はhttp://www.nur.ac.jp(新潟リハビリテーション大学ホームページ)から入手可能である。CDR は米国では医師や心理士以外に看護師によって広く施行されている検査である。
  • 原 英夫
    2011 年 13 巻 2 号 p. 163_0-163
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    認知症の診断には症候、認知機能検査、血液検査、画像診断(MRI、脳血流検査、PET)などの結果を踏まえた総合的な判断が必要である。認知機能検査はHDS-R、MMSE など簡易認知機能検査だけでは不十分で、詳細なウェックスラー成人機能検査・記憶検査法や前頭葉機能検査などを必要とする場合も少なくない。簡易認知機能検査中でも患者の意識や注意、自活性、精神運動スピード、依存性などにも注意を払いながら情報を得る必要がある。最近の進歩によりアルツハイマー型認知症の脳老人斑の画像診断ができるようになり、診断の確実性は向上してきたが、基本的には認知症の症候が重要である。今回はアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症について症候学を中心に概説します。
  • 林 洋一, 小池 敦
    2011 年 13 巻 2 号 p. 163_1-163
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    認知症に薬物をはじめとする種々の治療法が行われた場合、その治療効果を測定するテストとして最もよく使用されるのがADAS-COG である。このテストがよく使用される理由は、二回以上検査すると学習効果が認められやすい記憶課題について、6 つの代替課題が用意されており、6 回まで繰り返して検査できるようになっているからである。また、英語圏の治験において、数多くの実績があることも理由にあげられる。良い認知症テストが作成されても、検査をする人が正しく検査し、検査結果を正しく解釈しなければ、検査結果の意味がなくなってしまう。これからは、認知症テストを施行する人の質を確保するための資格認定を考える必要があろう。米国から始まった国際プロジェクト「アルツハイマー病神経画像戦略」(ADNI)では、認知症テストのうち、ADAS-COG とCDR については資格認定に合格することを義務付けている。米国のADAS-COG の資格認定はADAS-COG の教示、問題の内容、どういう答えを正答にし、どういう答えを誤答とするかなどについての筆記試験である。この試験を受けるとADAS-COG 施行について深く理解できるようになっている。また、試験は平易で95% 近くの方が認定される。米国と同じ試験問題を用い、日本でも、資格認定をおこなう。
リハ評価講習会Ⅰ
リハ評価講習会Ⅱ
シンポジウムⅠ
  • 三村 將
    2011 年 13 巻 2 号 p. 165
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    失語症の臨床は、Paul Broca の歴史的な症例“Tan” をはじめとして、脳血管障害による局在病変の症候学、すなわち大脳局在病変と「巣症状」を考えることで発展してきた。その後、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎など、さまざまな病因によって生じる失語症も標的となってきたが、基本的に血管障害による失語症の理解の延長線上にあった。このような失語症の症候学を大きく変革させたのはMesulam, Weintraub ら(1987)が変性性認知症の最初期病像をslowly progressiveaphasia(without dementia)(その後primary progressive aphasia, PPA)として提唱してからであろう。アルツハイマー病をはじめとして、変性性認知症において失語を認めることは稀ではない。一方、変性性認知症による失語では、血管性失語に比べて臨床的にさまざまな相違があることもいうまでもない。まず、経過が停止性か進行性かは症状の捉え方のみならず、対応や言語リハビリテーションを考える上で、決定的に重要である。また、局在病変による「巣症状」としての失語が問題になる血管性失語症は、より広範に脳内病変が広がって、記憶、注意、視知覚その他、さまざまな神経心理学的問題が重畳しやすい変性性失語症とでは、症状評価に際して相違があることも不思議ではない。組織への侵襲という観点からは、血管性病変では血管の支配領域に沿って、虚血ないし壊死によってその範囲内の神経組織が「非システム的に」障害される。一方、変性性病変においては、大脳皮質・白質が血管分布によらず、それぞれの疾患ごとの好発部位が病変集積性、組織内集積性をもって「システムとして」障害される。ここで問題にするのは、典型的な血管性失語症と、PPA を含めた認知症初期の病像としての変性性失語症とでは、横断面の失語症症候学として臨床像が異なるのか否かという問題である。筆者はかつてPPA の病像から臨床的には前頭側頭型変性症として進行し、病理診断は皮質基底核変性症であった症例を報告した。失語型としては超皮質性運動失語として矛盾しないものであった(Mimura,2001)。変性性失語症も、古典的な失語類型を検討することで、基本的にはいくつかの臨床型に分類することができる。しかし、その一方、PPA では、非流暢型、流暢型といった区分は可能でも、血管性失語症の臨床類型がうまくあてはまらない症例もしばしば経験する。この問題は完全に結論が出るものではないが、変性性認知症による失語の臨床像を検討することで、あらためてプロトタイプである血管性失語の病像の理解もさらに深まるといえる。また、ごく最近、PPA症例においてTDP-43 封入体分布に左右差があることが示された(Gliebus ら, 2010)。このことは血管性、変性性を問わず、失語症の生じる神経基盤を組織レベルで解明していける可能性を示唆しており、さらなる検討が期待される。
  • 小森 憲治郎
    2011 年 13 巻 2 号 p. 166
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    脳変性疾患に伴う失語症に関しては、Mesulam(1982)が提唱した緩徐進行性失語(slowlyprogressive aphasia:SPA)に端を発し、原発性進行性失語(primary progressive aphasia:PPA)と改められた概念の下に臨床分類が進められている。PPA は現在、シルビウス裂周囲の萎縮に伴う進行性非流暢性失語(progressive non-fluent aphasia:PNFA)、葉性萎縮と呼ばれる側頭葉前方部の著明な萎縮に伴い流暢性失語像を呈する意味性認知症(semantic dementia:SD)、側頭頭頂葉領域の萎縮に伴い発話の遅延や休止を特徴とするprogressive logopenic aphasia(LPA)の3 型の分類が提唱されている。いずれも左半球に萎縮の優位性が認められるものの、変性疾患の場合には原則的に両側性に萎縮が存在する。PNFA は、努力性で停滞する発話、構音の不明瞭さ、プロソディー障害、音韻性錯語、失文法など非流暢性失語像を構成するいずれか一つ、ないし複数の要素的症状の組み合わせを呈する場合が多く、典型的Broca失語像を呈する例はむしろ稀である。北米を中心に、失文法を主症状とするagrammatic PPA をPNFA の中核群とする見解もあるが、日本語話者における失文法の評価は難しく、失構音やプロソディー障害などの努力性発話を目安とする場合が多い。SD の言語症状は、わが国では古くから注目されてきた典型的な語義失語像に一致する。喚語困難に始まり、復唱や統語理解は良好で、語(具体語)の理解障害を呈し、「爪楊枝(つまようじ)って何ですか?」といった反問に特徴的な語義の障害を認める。選択的意味記憶障害と呼ばれるSD では、進行の過程で、また萎縮の左右差により、語の意味記憶のみならず、対象概念そのものが失われ、対象物の認知や使用が困難となり、より知性障害に近い症状が出現する。LPA は最も新しいPPA の下位分類である。Gorno-Tempini ら(2004)によれば発話の遅延と文レベルの復唱障害がみられる。PPA の音韻障害型と呼ばれ、発話面では音韻性錯語の出現があり、言語性短期記憶障害を伴う。側頭・頭頂葉領域(左縁上回を含む)の萎縮がこのタイプの責任病巣と見なされ、LPAは伝導失語の要素を持つことが予想される。Logopeniaと呼ばれる発話の遅滞は、PPA の初期の概念であるSPA の症状記載にも頻繁に認められる症候であり、彼らの意図としては、発話速度の遅延と統語の障害を区別することにあったのかもしれない。PPA はいずれも潜行性に生ずる喚語困難に始まり進行性に悪化する点でほぼ共通するものの、原因の異なる多様な脳変性疾患を含む包括的な概念であり、病巣の特定が困難な場合も多い。また、進行の速度や、随伴する神経学的症状も異なり、代表的なプロトタイプに分類困難な言語症状を示す例も少なくない。しかし、症状と損傷部位の対応が確立された脳血管障害による失語症から得られた症候学の知識や、脳機能画像は脳変性疾患に伴う失語症の理解にも有用と考えられる。
  • 板東 充秋
    2011 年 13 巻 2 号 p. 167
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    臨床の場では、具体的な人間が問題となる。具体的な失語症患者を対象とした場合、その関わりが遙かに複雑となるだけではなく、さまざまな価値や要請を考慮する必要がある。そのため、この発表では、対象をもっと抽象的なものに限局してその問題点を論ずる。2.このような限定のもとでも、臨床の場では、無視できないさまざまな因子が複合しており、個々の症例がユニークとなる、いわば一回性の問題がある。これらの因子は多様であるため、我々が統制することは、非常に困難である。3.これと関連して、理論とデータのいずれも不十分かつ不安定ななかで、研究活動を行わなければならない、いわば危機的な状態にある。4.失語症患者の呈する症状は失語症のみではない。これには病因や病巣の広がりが「言語野」以外に広がるということもあろうが、失語症の病巣が失語症以外の症状に関与する可能性も考えられる。また、失語症が起こす言語障害と言語機能とはその範囲が一致するかどうかは自明ではない。つまり、失語症では、ヒトにおける言語的活動全てが何らかの影響を受けるとしても、その全てが損傷されているかどうかは自明ではない。例えば、fMRI などでは言語野以外の部位も賦活されている。5.非臨床の知との関係。失語症は、言語・心理学的側面と、生物学的側面を持っている。(1)生物学的アプローチとの関係。生理学や遺伝子などとの関係も単純ではない。(2)心理・言語学的アプローチ。まだ、これらのアプローチそのものが十分発達していない。このため、いままでの言語学的知見を臨床に応用しようとした試みはうまくいっていないように思われる。また逆に、これらの学に失語症研究が与えた影響も多くない。このため、失語症研究は、言語学に役立たないと明言されたこともあった。しかし、失語症がなければ、言語機能が局在することは想定されることもなかったであろう。また、言語機能がモデュール化されているという主張の根拠の一つに失語症をあげる心理学者もある。(3)これらの学のその時々に優勢な説を鵜呑みにして失語症研究に応用することには注意が必要であるが、失語症研究の持つ生物学的および機能的側面の解明に、これらの学が重要であることは明らかであるので、対話の場を確保し保持していくことが、失語症研究の進歩には必要である。(4)工学的アプローチなどその他の研究も、今後の失語症研究には重要な寄与をする可能性がある。
シンポジウムⅡ
  • 灰田 宗孝
    2011 年 13 巻 2 号 p. 168
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    脳機能測定装置には、神経活動を直接測定する脳磁図や脳波の他に、脳の神経活動の亢進に伴う、脳血流の増加を測定するPET、SPECT、functionalMRI、近赤外光(NIRS)による方法がある。その中で、近赤外光を用いた脳機能測定装置が普及し始めている。侵襲性が低く、かつ他の脳磁図やfunctionalMRI などに比べ安価であり、その操作に特殊な免許を必要としない利点がある。そのため、医学以外の方々への応用が広がっている。測定手技そのものは比較的容易であり、測定すれば何らかの結果も得られる。しかし、得られた結果の解釈や、解釈しやすい、あるいは意味のある測定結果を得るためには、測定方法に工夫を要する。論文投稿を可能にするような信頼性のある測定結果を得るためには、それなりの測定計画を必要とし、それには専門的知識が必要となる。本シンポジウムにおいて、光トポグラフ装置による脳機能測定原理と、それに基づく測定法での工夫、得られた結果の解釈の仕方などを説明する。NIRS は近赤外領域でのヘモグロビンの吸収の波長依存性を利用して、脳内のヘモグロビンの状態、酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)、脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)、全ヘモグロビン(total-Hb)量の変化を相対的に推定するものである。つまり、異なった波長、例えば640nm と830nm の近赤外光を用いることにより、脳内のoxy-Hb とdeoxy-Hb、そしてその和であるtotal-Hb 量を連立方程式を解くことで求めるのである。この場合、散乱による影響を、散乱係数が使用した波長の範囲で変化しないとの仮定をおいて求めることが多い。散乱が無い場合、通常の分光装置では、強度I0 で入射した光が生体を通過し、検出強度I で検出されたとき、式(1)により吸収係数μが求められる。μ L=-log(I/ I0)・・・・・・・・・・・・・(1) ここでL は実際に光が進んだ距離(光路長)である。しかし、脳の光機能計測の場合、生体は強い散乱体であるために、入射した光が生体内で散乱し、どのくらいの距離を伝わったかの光路長を、特殊な工夫をしないと求めることができない。そのため、現在使われている装置は、μ L の積の形で求められているものが多い。このことから、定量性が無いといわれ、単位にmol/ L をつけての表示はできず、mol/ L・cm といった、光路長を含んだ表示をしている。多数の光源と検出器を頭部に配置し、多チャンネルで測定し、結果を2 次元で表示したものが、光トポグラフである。脳に何らかの負荷を与えるために被験者に課する事柄をタスクと呼ぶが、タスクとそれとに対しての対照となる事柄をどのように配置するかといった、測定プロトコールが非常に重要である。よく使われるのはブロックデザインと事象関連法である。これらは講演の中で説明する。
  • 小黒 恵司, 横田 英典, 伊沢 彩乃, 檀 一平太, 渡辺 英寿
    2011 年 13 巻 2 号 p. 169
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    光トポグラフィー(=Optical topography=、以下OT)は近赤外線を利用し、脳表の血液量の変化を非侵襲的かつリアルタイムに測定する計測器である。脳機能局在診断のほか、脳神経外科や精神科等各種領域で臨床応用されている。言語有意半球の同定とてんかん焦点診断に関しては保険点数が認められ、うつ症状の診断には先進医療の適応を得ている。本装置は空間分解能の低さが最大の欠点である。本欠点を改善すべく、我々は、従来型OT に比し約2 倍の空間分解能を有する倍密度光トポグラフィー(Double Density OT:DD-OT)を日立メディコ社と共に開発を進めてきた。今回は、正常脳での計測といくつかの臨床応用例を報告する。【方法】DD-OT は従来のOT と送受光器の配列が異なり、対となる送受光器の間隔は3cmに保持したまま、その中間位置に異なるチャネルの送受光器を配置することにより、計測間隔を従来の半分、すなわち1. 5cmとなるように設定した。正常成人5 人に手指運動・感覚課題を負荷し、5 回のタスクの加算平均による結果をオフラインで解析した。また、送受光器装着位置を3D 磁気センサーにて計測し、各人の頭部MRI 画像に重ねることにより、血液量変化をMRI 脳表画像上にマッピングした。さらに、皮質てんかんの焦点診断や腫瘍性病変の画像的に不明瞭化した運動野の術前同定等、臨床応用における有用性を検討した。【結果】手指運動課題では一次運動野を、手指感覚刺激では一次感覚野を中心とした脳血液量増大を認めた。従来のOT のチャネル配置で解析した結果と比較すると、従来型ではプローブの位置のわずかな変化によって小さな活動領域の描出が出来たり出来なかったりと安定せず、DD-OT により初めて安定的かつ限局性境界明瞭なマップが得られることがわかった。皮質てんかんの発作焦点や腫瘍や付随した浮腫性病変により不明瞭化し、位置の変わった運動野の同定にも有効であった。【結論】DD-OT は従来のOT に比較して空間分解能が高く、脳回単位での脳機能局在診断が可能であった。さらに、皮質てんかんの焦点診断や画像的に診断困難な運動野同定等、臨床応用への可能性も示唆された。
  • 野田 隆政, 中込 和幸
    2011 年 13 巻 2 号 p. 170
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    精神疾患はその原因が解明されておらず、これまで診断に結びつく有効な検査方法がないことが課題であった。そのため、実際の臨床では問診で得られた情報から診断し治療をするのであるが、診断は治療に反映されるため、的確な診断が大変重要である。さらに、問診による診断のみで客観的な検査がないことから、患者が病識を獲得しきれず治療につながらないこともあり、診断に有用な検査が必要とされてきた。これまで遺伝子検査や脳機能画像検査、生化学的検査など、精神疾患を対象としてさまざまな研究がされてきた。近赤外線光トポグラフィー(near-infrared spectroscopy:NIRS)は脳機能画像検査として精神科へ応用された。1994 年にOkada らが統合失調症の報告を行い、以後気分障害、統合失調症を中心に前頭葉機能課題に対して気分障害圏や統合失調症圏において、精神疾患毎に異なった脳血液量変化のパターンを示すという報告がされている。このような診断補助ツールとしての有用性が評価され、2009 年4 月「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として先進医療に承認された。また、最近はパニック障害や摂食障害などへも応用されるようになっている。NIRS は非侵襲的な検査方法であり、自然な姿勢で検査ができる。また、時間分解能が高く、装置がコンパクトであるため移動もでき、再現性も比較的高い。このようなNIRS の利点を生かすことで、空間分解能が低いという欠点を補うことができると思われる。NIRS は精神科へ応用しやすい利点を備えており、今後の発展が期待される検査方法であるといえる。今回のシンポジウムでは先進医療に承認されたNIRS および、精神疾患を対象としたNIRS 研究の最近の動向について紹介する。
シンポジウムⅢ
  • 橋本 泰成, 牛場 潤一, 富田 豊, 木村 彰男, 里宇 明元
    2011 年 13 巻 2 号 p. 171
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    近年、重篤な身体障害を持つ人々の脳波から直接意思を推定して四肢の運動を介さずにロボットアームやコンピュータの操作を可能にする「機能代替型BMI」の研究が数多く進められている。剣山電極や硬膜下電極による侵襲的・低侵襲的な脳活動記録は、得られる神経情報が多く、多自由度のロボットアームを高精度に操作することに成功している例があるものの、非侵襲の頭皮脳波計測ではそのような制御は現在難しい。本研究の目的は、頭皮脳波を使って、三次元仮想空間内のキャラクタをリアルタイムに操作するBMI の開発とした。発表者らは、多自由度のキャラクタ操作を実現させるために右手、左手および足の運動イメージを自動で検知するシステムを構築し、高い操作精度を実現させるために、被験者に繰り返しBMI を使用させることによる精度向上(BMI トレーニング効果)を計測した。運動イメージの検知には、被験者から計測した運動関連の脳波変化であるミュー波のEvent Related Desynchronization(ERD)およびベータ波のEvent Related Synchronization(ERS)を利用した。この内、ベータ波のERSと運動イメージの関連は不明な点が多かった。本研究では、まず健常者13名の実験により運動生成に関わる神経ネットワークが運動の実行とイメージ、双方において共通に関与していることを明らかにし、ベータ波ERS の発生過程において、実際の運動機能に関連した中枢神経系の活動が関与していることを確認した。この結果を運動学習研究に則って考察すると、ベータ波ERS の小さい被験者であっても繰り返しERSを制御させるBMI トレーニングを施すことにより、その可塑的変化をうながすことができるはずである。そこで発表者らは前述のBMI システムを構築し、ほとんど体を動かすことができない重度の筋ジストロフィ患者1 名においてBMI トレーニング効果を調べた。半年におよぶ長期間のBMI トレーニングの結果、トレーニング日数を経るにつれて脳活動が可塑的変化を起こし、微弱なベータ波ERS が1. 5 倍程度増強することがわかった。増強にともないBMI の操作精度も向上し、被験者はインターネット上の仮想空間内でキャラクタを随意的に移動させ、他のユーザとコミュニケーションをすることもできるようになった。以上のように本研究では、独自に開発したBMI が重度肢体不自由者の運動代替に有効であることを示したほか、BMI の長期使用によって運動関連の神経活動を可塑的に変化させることができることを明らかにした。この結果はBMI が、機能代替への利用だけでなく、神経リハビリテーションへの応用も可能であることを示しており、新しいBMI 研究のパラダイムを拓く上で重要な知見であると考えられる。
  • 柳澤 琢史, 平田 雅之, 齋藤 洋一, 貴島 晴彦, 後藤 哲, 福間 良平, 松下 光次郎, 横井 浩, 神谷 之康, 吉峰 俊樹
    2011 年 13 巻 2 号 p. 172
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    BMI は麻痺患者に対する機能代替だけでなく、脳卒中などによる脳損傷後の機能回復にも有用であることが指摘されている。しかし、脳損傷に伴って皮質活動がどのように変化するか、また、変性した脳信号を用いてBMI が可能であるかは明らかでない。我々は感覚運動野より運動課題施行時の皮質脳波を計測し、麻痺による皮質脳波の変化を定量的に検討し、BMI への適応可能性を評価した。
  • 牛場 潤一
    2011 年 13 巻 2 号 p. 173
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    私たちは、脳卒中片麻痺上肢に対するリハビリテーションとして、頭皮脳波から運動企図を推定し、その状態に応じて電動装具による運動介助をおこなうブレイン・マシン・インターフェース(Brain-Machine Interface, BMI)を開発した。このBMI を慢性期脳卒中片麻痺症例に適用し、麻痺側手指伸展動作を訓練したところ、筋活動の随意性の改善を認めた。両側の体性感覚運動野近傍の頭皮脳波では、麻痺側手指伸展の運動企図にともなって、8-35Hz 帯の事象関連脱同期現象(Event-Related Desynchonization, ERD)が認められ、BMI 訓練後にはこれが有意に増強した。経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation, TMS)による運動閾値を評価したところ、麻痺側一次運動野ではBMI 訓練後に有意な低下を認めた。機能的磁気共鳴画像の評価では、麻痺側上肢の把持運動中に生じるBOLD信号の有意な増加が、対側一次体性感覚運動野、補足運動野、同側小脳において認められた。以上の結果から、麻痺側上肢運動に対するBMI の介入は、神経系機能の可塑的再構築をうながす可能性が示された。次に、BMI が感覚運動神経系におよぼす影響について、健常者を対象とした電気生理学的検討をおこなった。一連の実験では、被験者が一側上肢の単関節運動を持続的に想起した際のERDを定量し、TMS による運動誘発電位の振幅がERD 依存的であることを明らかにした。TMS により皮質内抑制回路を評価した実験においても同様に、脱抑制量がERD依存的であった。更に、一次運動野の興奮性を一過性に修飾する手法である経頭蓋直流電気刺激法を適用した結果、一次運動野の興奮性の促通にともなってERD は増大し、逆に興奮性を抑制した際にはERD が減少した。また、ERD 量を棒グラフのような抽象表現によって視覚フィードバックする従来のBMI よりも、あらかじめビデオ撮影した被験者の上肢運動を、ERD 量に応じて再生することで自己身体所有感覚を視覚的に誘導する手法のほうが、運動企図によるERD発現量は顕著であった。すなわち、ERDの発現には視覚運動統合における内部モデルの獲得が重要であることを明らかにした。以上の結果から、脳卒中片麻痺上肢に対するBMI リハビリテーションは体性感覚運動野の興奮性を高め、このことが運動機能の改善に寄与しているものと推察された。
ポスターセッション
原著
  • 宮村 春菜, 佐藤 正之, 梶川 博之, 新堂 晃大, 伊藤 伸朗, 高島 慎吾, 橘 径, 阿部 倫子
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 13 巻 2 号 p. 189-197
    発行日: 2011年
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    地誌的障害を呈した症例に対し進行方向を示した写真付き地図を使用し、有効であったため報告する。症例は81歳、右利きの独居女性。某年8 月頃より自宅から約1 km 離れたパン屋への道で迷うようになり10月に当院神経内科を受診。同年12月に再度出かけた際にはパン屋にたどり着くことができなくなった。一般身体および神経学的所見には特記事項なし。頭部MRI では軽度の脳萎縮を認めたが123I-IMPSP ECT では有意な集積低下は認めなかった。神経心理学的所見ではMMSE 26/ 30、半側空間無視や相貌失認はなく、軽度の構成障害が示唆された。地誌的見当識障害に関する机上検査では、道順障害のほかに街並失認の存在も指摘されたが、日常生活面での患者の訴えからは、道順障害が主体であった。そこで症例の障害、対処法をLynchの分類に従って検討した。症例はLynchのいうパスやノードにおける目的地への方向定位、ランドマークの位置関係の定位、そしてランドマークやノードの認知が困難となっているものと考えられた。対処法として目的地までの地図を2 枚用意しそれぞれ行き帰りの進行方向を矢印で示しランドマークの写真を付けた。患者はそれを手がかりに目的地まで往復可能となり、数回の施行の後、地図無しでも往復できるようになった。
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