農業経済研究
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86 巻, 2 号
大会特集号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
論文
  • ─静岡県三ヶ日地区を事例として─
    徳田 博美
    2014 年 86 巻 2 号 p. 51-63
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    中規模優位の技術構造を特質とするため,大規模経営の形成が困難とされてきたミカン農業において,静岡県三ヶ日地区では,生産基盤整備の積極的な推進と高い市場競争力を背景として大規模経営の形成が進んでいる.そこで,大規模経営形成を実現してきた経営規模階層間の技術構造を農家実態調査によって分析した.土地生産性では,従来の適正規模の枠内にある中規模層が優位に立っているが,労働生産性では,従来の適正規模を大きく超えた大規模層が優位に立っていた.大規模層は園地整備と機械化による省力化,マルチ栽培などの品質向上技術への積極的な対応,労働集約的作業での雇用労働力の大量投入によって,従来の適正規模を超えた規模でも高い収益性を実現している.
講演
  • ─グローバル化時代の日本農業経済学会に課せられた課題─
    原 洋之介
    2014 年 86 巻 2 号 p. 69-78
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    農業経済学会の歴史の中間時点時であった1970年頃,戦前から存在していた農業における過剰就業のあり様の解明が中心的課題とされていた.この研究を引き継いだ,アジア諸国での農業雇用の形態を解明した研究業績をみると,それぞれの地域の農業発展経路の違いによって,農業賃金が平均労働生産性とほぼ一致している所得均分化がみられるジャワと,農業賃金が限界生産性に一致している市場原理が働いている中部タイといった,異なった形態の存在が確認できる.そしてグローバル化の時代である今,世界にみられる農業構造の多様性を解明することこそが,これらの農業経済学に課されている重要課題であることを強調する.
報告
  • ─等級を中心に─
    川崎 賢太郎
    2014 年 86 巻 2 号 p. 82-91
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本報告では品質の重要な指標の1つである等級に焦点を当てて,論点整理と分析結果の紹介を行う.はじめに品質を表すいくつかの指標を比較して等級の位置付けを整理した上で,等級が必要となる根拠を情報の非対称性という観点から考える.次に温暖化が稲作に与える影響を例に,農家経済における等級の重要性を明らかにする.計量分析の結果,気温の上昇は量ではなく質の悪化を通じて収入を低下させることが示される.最後に等級の改善策として,上位等級ほど補助金の単価が上昇する仕組み,品質支払に着目し,理論分析を行う.現実的な仮定の下,品質支払は数量支払や固定支払よりも費用効果的に品質と単収を向上させることが示される.
  • 豊 智行
    2014 年 86 巻 2 号 p. 92-102
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本報告課題に接近するために,輸入食料はオーストラリアとアメリカからの輸入牛肉に対象を絞り込む.また,食料属性のうちすべての買い手の「良い」と判断する評価方向が一致している属性を品質とし,安全性は品質に含まれるものと捉える.課題解明のために,まず,牛肉の輸入から肉牛の飼養に至る輸入肉牛フードシステムにおける品質・安全性向上の取り組みを,そのフードシステムを構成する主体間の垂直的関係と各段階間の市場構造を把握しながら明らかにする.そして,輸入牛肉の品質・安全性向上のいくつかの成果とそれらの要因を分析することにより,オーストラリアとアメリカからの輸入牛肉の品質・安全性の水準の選択について考察する.
  • 阪本 亮
    2014 年 86 巻 2 号 p. 103-113
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    我が国では国産農産物は輸入品より「安全・安心」であるとの見方が根強い.しかし,安全性が国産品の品質優位な状況を確立するのか否かを検証した分析は見当たらない.本稿ではWTO/SPS協定を考慮しつつ,二国間貿易モデルにより安全性と品質競争力の関係を検証した.理論的な余剰分析からは,輸入国が科学的根拠に基づき食品安全に関する措置を変更する場合,総余剰最大化の観点から,輸入品について国産品と同水準の主観的安全性を確保する必要があることがわかった.日米間のBSE事案からも主観的安全性の平準化の傾向を確認できる.こうした状況は,安全性は国産品の品質競争力を確立する要因にはならないことを示唆している.
  • ─販売競争力の諸要素の検討─
    冬木 勝仁
    2014 年 86 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本稿の目的はコメ販売における競争力に影響を及ぼす諸要素を明らかにすることである.そのために,品質という視点からこれまでのコメ流通の歴史を振り返った.その結果,かつての食管制度下では等級以外に,産地・品種によるグレーディングが行われていたため,現在でもその意識が生産サイドのみならず消費者にも残存しているが,実需者段階では多様な「品質」が必要とされていることを明らかにした.また,国際的な競争を前提にすれば,本来の品質面での向上が求められるが,それに対応するための農業労働力の脆弱化が深刻な問題であることを指摘した.
  • 木立 真直
    2014 年 86 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本稿は,食市場の不完全性がもつ積極面と品質概念の多面化,アクターの役割を整理した上で,国内食関連企業の輸入農産物・食品調達行動の複雑な展開を明らかにした.中国産野菜の安全性は残留農薬問題の発生を契機に改善がみられるが,なお部分的である.食関連企業には信頼を基礎とするサプライチェーン構築が課題となっている.また,輸入農産物には輸送期間の長期性や輸送ロットの大量性などの物流品質の劣位が不可避である.食関連企業が延期的調達を志向するかぎり,国内農産物に優位性が認められる.もっとも,高付加価値戦略の柱に差別的な品質の輸入農産物が位置づけられる場合があり,品質優位の比較は食関連企業の戦略に依存する面が強い.
  • 林 正德
    2014 年 86 巻 2 号 p. 127-136
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    貿易ルールは,市場メカニズムへの介入からより市場を志向するものへと変化するとともに「大量生産・大量消費型」の農産物と食品を中心とするものから「少量生産・少量消費型」の農産物と食品およびその品質に関するものが重要な地位を占めるようになり,ルール内容も措置それぞれの目的や性格に応じ,より精緻に定められるようになってきた.WTOでは貿易問題の解決とともにルールの詳細化の機能が働いており,地域貿易協定においてはWTOの貿易ルールを補完する動きとともに自国の立場やルールに沿ったものとしようとする動きがある.日本は,自国の農産物と食品およびその品質属性について正確な自己認識を持つとともに貿易ルールを積極的に活用しなければならない.
特別シンポジウム
  • 北川 太一
    2014 年 86 巻 2 号 p. 148-151
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本学会の財政状況は,単年度での赤字決算が常態化している.しかしその一方で,特別会計は,比較的潤沢な状況にある.こうした事態を受けて,特別会計をはじめとする支出に関するルールの整備を行った.当面(2期4年間程度)は単年度の収支均衡を保ち,多少でも繰越金を蓄えていくことが必要である.したがって,学会財政の健全化のためには,速やかな会費納入が行われる等,会員のさらなる意識向上と協力が不可欠である
  • 橋口 卓也
    2014 年 86 巻 2 号 p. 152-155
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本稿は,日本農業経済学会における学会誌の電子化と科研費助成に関する課題を整理したものである.本学会では学会誌のアーカイブ化の方針を定め,現在J-Stageへの搭載が進められている.また,学会の学術研究成果を広く国際的にも発信することが求められている.ただし,これらの取り組みには多くの費用も伴う.しかし現状では,学会誌刊行に当たって,これまで受けてきた科研費補助を受給するのが困難な状況にあり,学会誌の抜本的な充実と本格的な国際化対応の取り組みが求められている.
  • 清水 みゆき
    2014 年 86 巻 2 号 p. 156-161
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    現在,農業経済学会で研究成果を投稿できる媒体は紙媒体のみで,3誌ある.しかし,会員からの投稿数は『論文集』に圧倒的に偏在しており,英文,和文ともに本誌が低迷状況にある.この状況が及ぼす影響は,科研費の不採択のみでなく,学会の存続が疑われる事態と言え,大きな改革が求められている.会員にとって研究を発表する場としての会誌活性化の対応策として,査読項目の統一化,それによる査読システムの効率化を図ってきた.本稿では,今後の改革点について提起する.
  • 草苅 仁
    2014 年 86 巻 2 号 p. 162-165
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    日本農業経済学会の大会シンポジウムは,過去の24回のうち,時事問題が17回を占め,平均して50歳前後の報告者とコメンテーターで担われてきた.その結果,実証による批判的検討を重ねてきた学会の特徴が,しだいに希薄化した.こうした状況の中で,従来からの懸案である「本誌投稿数の低迷」は改善されず,新たに「若手研究者のシンポジウム離れ」が進行している.本報告では,学会が1)政策談議好きグループ,2)業績好きグループ,3)研究好きグループの3つに分断され,「合成の誤謬」が生じている現状を指摘し,若手の研究者・行政担当者を報告者に,中堅・シニア研究者を討論者に起用することで,企画担当の立場から改善策を提示した.
  • 福田 晋
    2014 年 86 巻 2 号 p. 166-169
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    日本農業経済学会は1924年に設立されている.それ以降,今日まで,農業・農村におけるあらゆる領域の問題を研究の対象としてきた.研究領域が拡大するとともに,その中の特定分野を一層深く専門的に研究しようという目的で関連する専門分野の研究会が設立され,学会に発展している.本稿では,まず第1に,いくつかの関連学会を取り上げ,農業経済学会の会員とそれらの学会の会員との相互関係について考察することで日本農業経済学会の位置づけを再確認したい.第2に,農業経済学関連学会協議会の組織について,その活動の現状と課題について検討する.そして最後に,農業経済学の学問領域の広がりと学際化について触れる.
  • 李 炳旿
    2014 年 86 巻 2 号 p. 170-178
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    本報告では,韓国農業経済学会(KAEA)の組織と運営の現状,学術活動の内容を中心に,主に文献資料を用いて,その特徴と問題点を分析し今後の課題を提示した.KAEAは農業経済学関連学会の中で最も歴史が長く規模も大きく,国内外の農業構造の変化に伴い,その役割と機能への改革が求められている.具体的には,まず,強い責任感と心意気を持って先導的な役割を遂行すること.第2に,自主財源により財政基盤を築くこと.第3に,学会誌の研究対象を広め方法論を多様化すること.第4に,討論会の活性化とともに農政イシューや農業・農村問題に対して積極的な姿勢で議論し解決方策を提示すること.最後に,国際交流機能を強化することである.
  • 大塚 啓二郎
    2014 年 86 巻 2 号 p. 179-183
    発行日: 2014/09/25
    公開日: 2016/03/26
    ジャーナル フリー
    日本人が,英文の査読付き学術雑誌に論文を掲載することは容易ではない.しかしこのグローバル化した時代に,日本語で研究論文を書いていたのでは学問をしたことにはならない.高い志を持って,英語の論文に挑むべきである.英語の微妙なニュアンスがわかるまで,英語を徹底的に読むことも重要である.また若い時には,教育を犠牲にして研究に集中しなければならない.国際会議は,研究者の戦場でもあることは理解すべきである.いろいろと苦労して投稿した論文も,意地の悪いレフリーにあらを探されて棄却されてしまうことも多い.本論は,英語の論文の雑誌に掲載しようとしている研究者に,著者の経験からアドバイスをしようとするものである.
座長解題
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