中国内モンゴル自治区では草原退化(劣化)が大きな問題となっており,その原因には過放牧および過耕作が挙げられてきた。しかし,近年同区では草原観光が盛んになっており,その観光行動も草原退化を促進している可能性が高いため,本研究では内モンゴル自治区のフルンボイル草原において,観光行動が植物および土壌に与える影響を評価した。具体的には,乗馬や散策などの観光活動の有無により利用区と非利用区を設け,植生調査および土壌調査を実施した。その結果,植被率,地上部バイオマス量,優占種の草丈,多様性指数は利用区で非利用区に比べ有意に低下し,草原退化の指標植物種の株数は利用区で非利用区に比べ有意に上昇した。表層土壌の有機態炭素含量,全窒素含量,陽イオン交換容量及び軽比重画分の炭素量,同窒素量は,利用区で非利用区に比べ低下した。土壌硬度は利用区で非利用区に比べ有意に上昇した。以上のことから,観光行動も植生および土壌の劣化を引き起こすことが示された。また,ジオスタティスティクスを用いて土壌硬度の空間依存距離(レンジ)を調べたところ,利用区でレンジが111mとなり,非利用区では測定範囲内でレンジが検出されなかった。よって,対象地では観光活動の影響が111mの範囲で見られること,また今後植生・土壌への影響を分散するためゲルや乗馬施設などを移す場合には,元の場所から111m以上離す必要があることが示された。
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