西南日本の赤色土壌の大半は,定説のような,現在の暖帯の生物-気候条件下で生成した成帯性赤色土ではなく,地質時代(洪積世温暖期)に生成した古土壌のレリックであることが筆者(松井)らにより主張され,現在の西南日本の条件下で生成しつつある成帯性土壌型は,ソ連や中国の黄褐色森林土に対応する独立の土壌型で,その性格は褐色森林土と,亜熱帯の赤黄色土との中間的なものであるという作業仮説が提案されてから,すでに10年以上の歳月が経過した。筆者(松井)は,この仮説を実証するために,加藤芳朗,岩佐安,遠藤健治郎,大羽裕の諸氏と自主的共同研究を試み,母岩を花崗岩に統一し,褐色森林土,赤黄色土との比較研究を通じ,黄褐色森林土の特徴づけをめざしたが,いろいろな事情のため,所期の目的を果すことができなかった。永塚氏のこの学位論文は,筆者らのこの意図を継承し,黄褐色森林土の成因的特徴をきわめて明快に定義づけただけでなく,その系統分類上の位置づけと細分を示し,かつ,筆者らの見解を批判し,発展させた画期的労作である。卒直にいって,本論文は関豊太郎,川島祿郎,菅野一郎ら,日本のオーソドックスのペドロジーの系譜をうけつぐ格調高い力作であり,ペドロジーをこころざす学究にとって最新の必読文献といって過言でない。ここではその核心を紹介するとともに,若干の論評を加えたい。
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