潜在自然植生の照葉樹の幼樹を密植するエコロジー緑化工法により姫路市南部の臨海工業地帯の緑地内に造成された,造成後の経過年数1年,11年および18年の造成林3地点(ZR, TNおよびTW)と対照の照葉樹の自然林1地点(NF)において植生調査を行い,それらを経時的な変化とみなして植生の遷移を考察した。結果を要約すると次のとおりである。1)造成林の群落高はZRの1m前後からTNおよびTWでは10m前後に増加したが,造成後の経過年数の大きいTWのほうが小さいTNよりも低かった。また,階層構造もZRの1層からTNおよびTWの3層へと分化し,高木層の優占種はTNではクスノキ,クロガネモチおよびカクレミノ,TWではマテバシイ,タブノキおよびヤマモモであった。一方,自然林のNFの群落高および階層構造は造成林よりも大きい20m前後および5層で,高木層の優占種はコジイ,アラカシおよびアカシデであった。2)造成林の単位面積あたりの幹数はNFに比べて2〜4倍程度多かった。TNおよびTWの胸高断面積(BA)合計は,ZRに比べて20〜40倍に増加したが,NFに比べて単位面積あたりでは概ね同様であったものの,幹1本あたりでは30%前後しかなかった。また,D^2HもTNおよびTWではZRよりも200〜300倍に増加していたが,NFに比べて単位面積あたりでは40%前後,幹1本あたりでは10%前後しかなかった。3)幹数およびD^2Hの優占種の数はZR, TNおよびNFでは2,3種,TWでは5,6種であったが,それらの組成は異なっていた。4)樹高階級の頻度分布はZRでは2m以下が100%を占めていた。TNおよびTWでは最大値が4〜6mであったが,TWでは二つ目の極大値が2m以下にも認められた。一方,NFでは1.3〜2mの30%から階級が高くなるにつれて漸減した。クスノキの幼樹はTNの6m以下の階級には認められなかったが,TWでは優占する6種のすべてに幼樹が認められた。また,直径階級分布も樹高階級分布と概ね同様の分布様式であった。TNおよびTWのいずれも胸高直径と樹高との間には正の相関関係が認められた。しかし,それらのプロットの分布様式は異なり,TNは5m前後で傾きが緩やかになり,TWは3m前後で分布が切れる特徴が認められた。5)造成林は潜在自然植生の自然林に発達する途中の段階にあり,今後は自然淘汰による幹数の減少にともなって階層構造およびD^2H等のバイオマスを増加させて自然林と同様の植生に発達すること,しかし,自然淘汰が起こらない場合には衰退の可能性もあること,これらのバイオマスの発達には土壌の性質が深く関係することを考察した。
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