レギュラトリーサイエンス学会誌
Online ISSN : 2189-0447
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7 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 盛岡 一輝, 髙山 茜, 成川 衛
    2017 年 7 巻 3 号 p. 151-162
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究では, 我が国で現在もなお臨床現場で活用されている古くからある医薬品に着目し, 臨床上の有用性および利便性の観点からその特性を分析した. 1999年以前に我が国で承認され, 2013年国内売上高100億円以上の医療用医薬品を 「ロングセラー医薬品」 と定義し, 併せて, 各ロングセラー医薬品の競合品を2013年時点で製造販売されていた医薬品から選出した. 2013年国内売上高100億円以上であった154医薬品のうち, 58医薬品 (38%) がロングセラー医薬品であった. ロングセラー医薬品では, その競合品に比べて, 適応症に係る治療ガイドラインで第一選択として推奨される作用機序をもつ医薬品の占める割合が大きかった. また, 作用機序が同一の医薬品群における検討では, ロングセラー医薬品の添付文書には, その競合品の添付文書に比べて豊富な臨床成績が記載されており, さらに, 競合品に比べて適応症に係る治療ガイドラインで引用された市販後臨床成績をもつ医薬品の占める割合が大きかった. また, ロングセラー医薬品の1日投与回数は, その競合品の1日投与回数に比べて少なかった. 豊富な臨床上の有用性に係るエビデンスを有し, 新薬に比べて相対的に安価なロングセラー医薬品の活用は, 質の高い効率的な医療の提供および医療費の適正化の面から重要と考える.

  • 還田 悠平, 髙山 茜, 成川 衛
    2017 年 7 巻 3 号 p. 163-172
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は, 実際の患者集団に占める高齢者割合と臨床試験に組み入れられた被験者集団に占める高齢者割合の乖離状況を調査するとともに, 添付文書にて高齢者の薬物療法に係る情報がどの程度提供されているか調査し, 高齢者を考慮した新薬開発および情報提供のあり方を検討することを目的とした. 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」 より高齢者の薬物療法で遭遇する頻度の高い疾患を選定し, 当該疾患を適応にもち, 2010年4月~2016年3月の期間に我が国で承認された新有効成分含有医薬品および新効能医薬品を抽出した. 当該医薬品について, 臨床試験に組み入れられた被験者数および高齢被験者数に係る情報を, 公開資料に基づき収集した. また, 同ガイドラインより選定した疾患の実際の患者集団の年齢分布を 「平成26年患者調査」 に基づき調査した. 臨床試験に組み入れられた被験者集団に占める高齢者割合は, 実際の患者集団に占める高齢者割合より小さかった. さらに, 実際の患者集団に占める高齢者割合と臨床試験に組み入れられた被験者集団に占める高齢者割合の乖離の程度は, 65歳以上75歳未満の高齢者で小さく, 75歳以上の高齢者で大きかった. また, 添付文書に記載された高齢者の薬物療法に係る情報の多くは, 使用上の注意記載要領に従った画一的な注意喚起であり, 安全性懸念事項に対する具体的な対応策等が記載された品目は限られた. 新薬の開発時に高齢者における臨床的有効性および安全性に係る情報等を適切に収集・評価するとともに, 市販後に高齢者への処方実態を把握したり, 高齢者と非高齢者の薬物療法に係る情報に差異が認められない場合にはその旨を情報提供するなど, 継続して臨床現場に最新の情報を適切に提供することが重要である.

報告
  • Ryo NAKAJIMA, Atsushi ARUGA
    2017 年 7 巻 3 号 p. 173-184
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    近年, 高額な抗体医薬品 (抗がん剤) が登場し, 国民医療費財源への懸念および薬価期中外改定の必要性を余儀なくされている. 医薬品の薬価は, 中央社会保険医療協議会 (中医協) における薬価算定基準に基づき算定され, その内, 他に類似した効能・効果, 作用機序などをもつ医薬品が存在しない場合, 薬価は原価計算方式で算出される. 筆者らは, 2004年10月~2016年8月までの中医協資料, 審査結果報告書を調査し, 原価計算方式で算出された抗体医薬品 (抗がん剤) 30品を抽出し, 薬価および薬価の大部分を占める製品総原価に寄与する因子を解析した. その結果, 企業が薬価申請の際に提出するピーク時予想売上が低い抗体医薬品ほど1カ月に要する費用が高額であることに強い相関性が認められ, また, 薬剤開発の研究費用が低い抗体医薬品ほど1カ月に要する費用が高額である傾向が認められた. 前者のピーク時予想売上が低いことによる影響は現行の原価計算方式の算出方法から推察される傾向であったが, 後者の研究費用が低いことによる影響は製品総原価の内訳情報が公開されていないため詳細に検討できなかった. これらの未公開の情報が適正価格設定に重要なファクターとなりうる可能性が示唆された. 公正で透明性のある薬価算出および薬価改定のためには, 製品総原価内訳の公開 (特に, 研究開発費償却計画) および適応追加ごとに研究開発費償却計画を作成し, 適応追加後の適切な薬価を検討するべきである.

  • 伹野 恭一, 川西 徹
    2017 年 7 巻 3 号 p. 185-196
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    2012年からの世界薬局方会議での議論を経て, 2016年5月にWHOから薬局方の役割・存在意義, 原薬・最終製剤等の医薬品各条 (モノグラフ) 作成にあたっての基本的考え方と留意事項, 構成内容, 作成の手順等をハイレベルで簡潔に記載した 「薬局方作成指針ガイドライン」 が公表・出版された. 日本国内の薬局方関係者への周知とその活用を進めるため, 本ガイドラインの作成の背景と経緯, 記載内容, 留意点および今後の課題について報告する.

特集(リアルワールドデータの活用と課題について)
  • 林 邦彦
    2017 年 7 巻 3 号 p. 197-203
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    従来から, 治療法の評価では, ランダム化比較試験 (RCT) が最も適切な研究デザインとして用いられてきた. しかしながら, 難病, 希少疾患, 医療機器, 手術などの領域では, 疾患の重篤性や対象患者数の限界のために, 通常のRCTによる治療法開発が困難なことが多い. また, すでに社会で広く使用されている治療法についてRCTを実施すると, 研究対象集団が偏り, 結果の一般化が困難な外的妥当性に劣る研究となってしまうこともある. そこで, RCTの反対命題として, リアルワールドデータを用いた研究の重要性が再認識されている. 治療法開発においてリアルワールドデータの特徴と利用の注意点とともに, RCTとリアルワールドデータ研究との統合命題的な新たな研究デザインについても述べる.

  • 大津 敦, 岡本 渉, 布施 望, 青柳 吉博, 土原 一哉
    2017 年 7 巻 3 号 p. 205-214
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    SCRUM-Japan (産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業) は, 製薬企業15社と全国245医療機関との共同研究として, 先端的な多遺伝子パネル診断に基づいた肺・消化器がんの企業・医師主導治験 (現在合計40試験) への紹介・登録促進を行う全国的な組織である. 2015年2月から登録開始し, 2017年3月末の第Ⅰ期終了時点で4,800例を登録. 各がん種別でのゲノム疫学データを明らかにし, 各種治験結果をもとに承認申請作業に入っている. また, 臨床ゲノムデータの企業および参加施設とのオンラインデータ共有や新薬承認審査に活用するための疾患レジストリ構築も開始し, 我が国全体での新薬開発促進につなげている. レジストリの構築は, 新薬承認審査時の治験対照群となるデータを収集する目的で, 後ろ向き調査, 前向きレジストリ, 新規医師主導治験での同時並行でのレジストリ収集の3つのアプローチで開始している. SCRUM-Japanによる開発治験・レジストリデータ双方を用いることで, 最適なprecision medicineの実現を目指している.

  • 猪俣 聡美, 伊藤 真和吏, 平田 花織, 石黒 智恵子, 稲角 嘉彦, 山口 光峰, 宇山 佳明
    2017 年 7 巻 3 号 p. 215-224
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    MID-NET®は, 日本の10拠点23病院で構成される, 医療情報のデータベースシステムおよび関連ネットワークの総称である. MID-NET®構築の目的は, Real World Dataを活用した薬剤疫学的調査を通じて医薬品の効果的な安全対策を促進することである. MID-NET®は各拠点にデータベースを設置している分散型データベースであり, 各拠点のデータは, 共通のデータ形式に変換されている. MID-NET®のデータソースには, 各拠点で保存されている, 2009年以降の傷病, 診療行為, 処方, 検体検査などのデータが含まれ, 2018年におけるデータベース規模は約400万人になる見込みである. MID-NET®のデータ品質が高いことは, 病院情報システムデータとMID-NET®データベースのデータ間での整合性を確認することで担保されている. MID-NET®の利活用者はオンサイトセンターから各拠点のMID-NET®データベースにアクセスして分析することが可能であり, PMDAではベネフィット・リスク評価のためのいくつかの試行的利活用を実施している. 現在, 2018年度からの本格運用開始に向けた最終段階であり, 製薬企業やアカデミアなどが参照する利活用ルールの策定や利活用者の利用料の議論を進めている.

  • 兼山 達也, 阪口 元伸, 中島 章博, 青木 事成, 白ヶ澤 智生, 丹羽 新平, 松下 泰之, 宮崎 真, 吉永 卓成, 木村 友美
    2017 年 7 巻 3 号 p. 225-236
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    リアルワールドデータ (RWD) は製薬業界にとってもはや欠かせないツールである. マーケティング目的のみでなく, アンメットニーズの探索, エンドポイントの妥当性検討や患者層の特定など臨床試験のデザインや, 試験を実施する国や地域, 施設の選定や組入れ計画などの実施可能性の検討, 医療技術評価やアウトカム研究などに幅広く利用されている. サイズも大きく企業からアクセス可能なレセプトなどの医療管理データベース (DB) が主に用いられているが, その他の電子医療記録や患者レジストリなども同様に有用である. 日本製薬工業協会 (製薬協) のタスクフォースで2015年夏にデータサイエンス (DS) 部会加盟会社を対象にアンケートを実施したところ, 回答が得られた会社のうちおよそ半数ですでに社内に日本のDBを保有しているか, ウェブツールを通じてアクセス可能であった. 実際, すでに多くの研究結果が各社から, またアカデミアとの共同研究として公表されている. 若手DS担当者が産官学で話し合うDSラウンドテーブル会議でも臨床試験デザインにRWDを応用した事例が共有された. これらの事例は必ずしも論文として公表されず, 社内の意思決定に応用されるものであるので, このような機会に事例を学べることは特に貴重である. RWDの安全性評価への応用は, 来年度からDB研究がPMSのオプションの1つとなることからあらたに注目されている. しかし従来のPMSがすべての目的にかなうものではなかったのと同様にDB研究がすべてを満たせるものでもなく, 目的に応じた研究計画が必要なことはいうまでもない. ほぼ全国民をカバーするナショナルデータベース (NDB) は有益な疫学研究ツールとなり得るが, 企業の研究者は基本的に直接利用できない. 製薬協から申出に従ってある一月のデータを表形式にまとめたものが提供される予定であり, 特定の薬剤に関する結果としてのみでなく, 他のDBの外部妥当性の担保としても貴重なデータとなることが期待されている.

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