本研究は, 実際の患者集団に占める高齢者割合と臨床試験に組み入れられた被験者集団に占める高齢者割合の乖離状況を調査するとともに, 添付文書にて高齢者の薬物療法に係る情報がどの程度提供されているか調査し, 高齢者を考慮した新薬開発および情報提供のあり方を検討することを目的とした. 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」 より高齢者の薬物療法で遭遇する頻度の高い疾患を選定し, 当該疾患を適応にもち, 2010年4月~2016年3月の期間に我が国で承認された新有効成分含有医薬品および新効能医薬品を抽出した. 当該医薬品について, 臨床試験に組み入れられた被験者数および高齢被験者数に係る情報を, 公開資料に基づき収集した. また, 同ガイドラインより選定した疾患の実際の患者集団の年齢分布を 「平成26年患者調査」 に基づき調査した. 臨床試験に組み入れられた被験者集団に占める高齢者割合は, 実際の患者集団に占める高齢者割合より小さかった. さらに, 実際の患者集団に占める高齢者割合と臨床試験に組み入れられた被験者集団に占める高齢者割合の乖離の程度は, 65歳以上75歳未満の高齢者で小さく, 75歳以上の高齢者で大きかった. また, 添付文書に記載された高齢者の薬物療法に係る情報の多くは, 使用上の注意記載要領に従った画一的な注意喚起であり, 安全性懸念事項に対する具体的な対応策等が記載された品目は限られた. 新薬の開発時に高齢者における臨床的有効性および安全性に係る情報等を適切に収集・評価するとともに, 市販後に高齢者への処方実態を把握したり, 高齢者と非高齢者の薬物療法に係る情報に差異が認められない場合にはその旨を情報提供するなど, 継続して臨床現場に最新の情報を適切に提供することが重要である.
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