レギュラトリーサイエンス学会誌
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12 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 大沼 雅也, 久保田 達也, 積田 淳史
    2022 年 12 巻 2 号 p. 111-123
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,医師による「医療機器の創出活動」への関与に影響を与える要因を明らかにすることにある.医療機器産業の活性化には,医療機器の開発などの活動に対する医療従事者の関与が不可欠である.しかし,どのような要因が活動への関与と関係しているのかについて,既存研究の知見は限られる.そこで,われわれは個人によるイノベーションへの関与にかかわる経営学研究の知見にもとづき,当該活動に関与する医師の特徴と動機,関与を阻害する要因や関与が起きやすい条件について質問票調査を設計し,調査を実施した.対象は,横浜市立大学の附属機関である2つの病院とその関連病院に所属する医師とした.その結果,関与者26名,非関与者55名からなる回答が収集された.それらをもとにt検定と相関分析を行った結果,関与と正の関係がある要因として,同僚効果(所属先で関与が推奨されていることや同僚に関与者がいること),リードユーザーネス,内発的動機・問題解決・資源獲得に関する動機が導出された.他方,関与と負の関係がある要因として,専門分野との適合性やコスト(活動に労力や時間を費やすことなど)があげられた.この結果から,医療機器の創出活動を活性化させるためには,医療従事者の関与を組織的にサポートしたり推奨したりすることが有効である可能性が示唆された.

  • Chisato NISHIDA, Akira OKADA, Naomi NAGAI
    2022 年 12 巻 2 号 p. 125-141
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    新医薬品開発において,経口投与医薬品の食事の影響を評価することは必須である.吸収に及ぼす食事の影響は,規制文書にもとづき,通常臨床開発の初期段階で検討され,また,最終製剤を用いた食事の影響試験(以下,FE試験)も実施されている.本研究は,2010年度から2019年度までに日本で承認された経口投与の新有効成分含有医薬品開発時に実施されたFE試験を系統的に評価し,新医薬品開発におけるFE試験デザインと実際的な留意点について考察した.典型的なFE試験デザインは,健康成人を対象とした臨床用量での単回投与による,高脂肪食摂取後と空腹時のクロスオーバーデザインであった.FE試験が実施されなかった場合,また標準的な試験デザイン以外のFE試験が許容されたケースについて整理した.低い溶解性を示す原薬,徐放性製剤などの製剤,消化管からの吸収への影響が示唆される添加剤の処方変更があった場合では,基本的に最終製剤を用いたFE試験を実施すべきと考えられた.原薬特性または疾患によっては複数の食事条件下でのFE試験にもとづく情報は有用である.一方,高溶解性かつ高膜透過性を示す原薬の即放性製剤では,バイオアベイラビリティへの食事の影響は限定的であり,初期段階に検討したFE試験成績は,情報提供に利用可能と考えられた.本研究で得られた知見は,新医薬品開発におけるFE試験の計画,実施および評価における具体的な留意点として役立つと考える.

  • 八木 遥, 成川 衛
    2022 年 12 巻 2 号 p. 143-152
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    新薬の開発において,ヒト初回投与量(FHD)の設定は慎重に行う必要があるが,その時点で参考にできる情報は非常に限定的である.本研究では,日本で2009年から2018年に承認された新薬について,反復投与毒性試験の無毒性量(NOAEL)にもとづくヒト等価用量(HED)を算出し,FHD設定時の安全係数を評価した.また,クリアランス(CL)にもとづく方法によるHEDも算出し,両手法によるHEDと承認用量の関係について分析した.本研究で算出された安全係数は,多くの薬剤において,米国食品医薬品局(FDA)によるガイダンスで推奨されている安全係数10よりも大きな値をとり,過去に実施されたヒト初回投与試験における開始用量は非常に慎重に決定されたことが示唆された.また,多くの薬剤において,NOAELまたはCLのいずれにもとづくHEDであっても,それに安全係数10を適用することで算出される初回用量は承認用量よりも低用量であり,多くの場合,HEDに対して安全係数10を適用することで,承認用量よりも低いFHDを設定することが可能であることが示された.

報告
  • 中田 雄一郎, 勢力 麻維
    2022 年 12 巻 2 号 p. 153-160
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    医薬品回収状況をまとめた報告は少ない.そこで2017年4月1日から2020年3月31日までの3年間を対象として,医薬品医療機器総合機構で公表されている自主回収情報を分析し,整理した.年度別の自主回収件数は,2017年度129件,2018年度150件,2019年度156件の総件数435件で,総回収品目数は701品目であった.先発医薬品,後発医薬品ともクラスⅡの自主回収件数がほとんどで,2019年はラニチジン製剤中の発がん性物質N-ニトロソジメチルアミンの問題で,重篤なクラスⅠの回収が増加した.剤形別自主回収品目数が最も多かった剤形は注射剤で,次いで多かった剤形は錠剤であった.回収理由は,異物混入44品目,規格不適129品目,承認書からの逸脱177品目,献血後情報にもとづく措置による回収79品目,不正表示68品目,容器不良34品目,承認書からの逸脱と規格不適の2つの理由で自主回収したものも7品目で,その他は163品目あった.主に後発医薬品を取り扱うメーカーに関して,取り扱い製品数と自主回収品目数の間に相関が認められた.

資料
  • 蜂須賀 暁子, 東 達也, 細野 眞, 小野 正博, 上原 知也, 西村 伸太郎, 村上 学, 渡邉 リラ, 根元 貴行, 高井 希望, 西 ...
    2022 年 12 巻 2 号 p. 161-177
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    近年,治療分野での放射性医薬品開発は,大手製薬企業が参入するなど,グローバルで活発化している.放射性医薬品の一つの特徴として,リガンド自体が薬理作用を示すのではなく,標識された微量の放射性同位元素(RI)が放射性壊変した際に放出する放射線により効能または効果を示すことがあげられる.その特性から,放射性医薬品では一般医薬品とは異なる品質・安全性の評価手法が必要とされ,一般医薬品を対象とするガイドラインにおいて適用対象外とされているケースも珍しくない.本邦における放射性医薬品開発に関するガイドラインとしては,「診断用放射性医薬品の臨床評価方法に関するガイドライン(平成24年6月11日付薬食審査発0611第1号)」があげられるが,治療用放射性医薬品開発に関する文書は発出されていない.診断薬と治療薬では医薬品開発としての戦略が異なる側面も多く,ガイドライン類の発出が望まれている.一方,米国食品医薬品局(FDA)からは,腫瘍治療用放射性医薬品の非臨床試験および添付文書に関するガイダンス「Oncology Therapeutic Radiopharmaceuticals: Nonclinical Studies and Labeling Recommendations Guidance for Industry(Guidance for Industry,FDA-2018-D-1772)」が発出されている(2019年8月).また,欧州医薬品庁(EMA)からは,「Guideline on the non-clinical requirements for radiopharmaceuiticals」(ドラフト段階)が出されている(2018年11月).今回筆者らは,FDA発出のガイダンスの日本語訳を作成し,また,ガイダンスのより深い理解のために追加説明が必要であると判断した箇所に,補足を挿入した.前述したとおり,本邦において治療用放射性医薬品開発に関する文書は発出されていない状況であり,今後,FDAやEMAから発出されている文書などを参照し,ガイドライン整備を進めることが,本邦における放射性医薬品の開発を進める上で重要になると考えられる.

  • 村垣 善浩, 岡本 芳晴, 小川 久美子, 野村 祐介, 蓜島 由二
    2022 年 12 巻 2 号 p. 179-193
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    ヒト用医療機器開発における一般的な非臨床試験では,人為的に特定の疾患を誘発したモデル動物を用いる.一方,がんなどの自然発症した疾患を有するコンパニオンアニマル(疾患動物)は,免疫機能を保持しているとともに,慢性疾患の病態を試験対象部位やほかの臓器に反映させることができるため,ヒトでの安全性や有効性をより正確に評価するために有用な動物種であると考えられる.疾患動物を用いたパイロット試験は,革新的な技術を用いたヒト用医療機器のFirst-in-Human試験前の貴重な評価方法のひとつとして利用できる可能性がある.しかし,その実践にあたっては,倫理的基盤,遵守すべき法律,適応症例,リスク評価,安全性・有効性評価法,実施体制などについてレギュラトリーサイエンスの視点から十分検討する必要がある.これらの背景から,われわれは世界に先駆けて最先端の試験法を確立する一環として,関連学会,業界団体,規制当局の協力を得て,疾患動物を用いたヒト用医療機器の安全性・有効性評価に係る基本的考え方を取りまとめた.

特集(「医薬品リスク管理計画制度の充実と効果の向上のための基盤研究」の成果)
  • 成川 衛, 林 昌洋, 中村 哲也, 前田 玲
    2022 年 12 巻 2 号 p. 195-202
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    医薬品市販後の包括的なリスク管理のための活動を計画し,実行するためのスキームである医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan: RMP)の制度がわが国で開始され,10年近くが経過した.本制度の実効性を向上させていくためには,個々の活動内容の充実を図っていくことと並行して,関係者に必要以上の負荷をかけないような仕組みの検討を行い,これらのバランスを維持していくことが求められる.このためにはRMPにもとづくリスク最小化活動の効果および関係者への負荷の評価,それらを通じたリスク最小化活動の最適化,また,ルーチンに行われる安全性監視活動の充実が必要と考えられる.本稿では,日本医療研究開発機構(AMED)研究費のもとで実施した各課題に関する研究の成果および関係者での議論をふまえて取りまとめた医薬品リスク管理活動の効果と効率性の向上に向けた対応策の概要を紹介する.

  • 林 昌洋
    2022 年 12 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    医薬品リスク管理計画制度では,処方医の研修義務づけ,医療従事者向け資材作成,患者向け資材作成などの追加リスク最小化を講じることがある.リスク最小化資材が効果を発揮するためには,対象者に当該資材が届き,利用し,理解し,行動することが必要である.われわれの研究によると,リスク最小化資材は医療現場に十分に届けられていない可能性が考えられた.多忙な医療現場において,リスク最小化資材に記載された副作用管理に必要な検査を確実かつ効率的に実施するためには,チーム医療によるリスク管理体制構築や,電子カルテシステムを活用した実施などの組織的取り組みが必要と考えられた.このような組織的な実装への取り組みは医療現場に普及していない状況が認められた.患者向け資材は,リスク最小化のために患者自身が果たすべき役割や行動を理解しやすい構成とすべきである.必要な知識が,患者向け資材後半に記載されている,ほかの情報が大半を占めるなど,必要な情報が認識されにくい状況が認められた.潜在的なリスクに対して追加のリスク最小化が行われることがあり,追加リスク最小化の必要性について十分に説明されておらず医師,薬剤師の正しい理解につながらない可能性が考えられた.これらの課題を解決するために製薬企業,医療従事者,規制当局のステークホルダーがRMPの実装と効果の確認に関して相互理解を醸成するための取り組みが必要と考えられた.

  • 前田 玲, 石田 和彦, 山田 知子, 田中 佐千代, 長濵 敬樹
    2022 年 12 巻 2 号 p. 209-220
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan: RMP)の3つの構成要素の1つであるリスク最小化策は通常と追加の2種類に分類される.日常診療下ではRMPに規定される資材以外にもさまざまな医療従事者や患者向け資材が流通している.多くの資材では,さまざまな情報が丁寧に説明されているが,リスク最小化の本来の目的である重要なリスクの発現防止と発現時の重症度の低減にどの程度有効なのか明らかではない.欧米では,医療従事者や患者のリソースに対する影響,実施可能性を検討した上でリスク特性に相応な追加のリスク最小化策を策定し効果評価を行うことを企業は求められる.本稿では,日本医療研究開発機構(AMED)研究費のもとで取り組んだ「リスク最小化対策の最適化とその有効性の評価に関する研究」の成果ならびに日本における改善のための提言をまとめたので報告する.

シリーズ「医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題」
  • 足利 太可雄
    2022 年 12 巻 2 号 p. 221-231
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)において有害性発現経路(adverse outcome pathway: AOP)の開発が進められている.AOPは特定の毒性エンドポイントについて試験の結果や情報を組み合わせて化学物質の安全性を評価する,試験の実施と評価のための戦略的統合方式(integrated approaches to testing and assessment)の理論的基盤になることが期待されている.こうした国際的な動きの中で日本は積極的に免疫毒性に関するAOPおよびそれにもとづくin vitro試験法の開発を進めている.本稿では,AOPの基本的概念について概説した後,日本における免疫毒性に関するAOPの開発状況と,AOPがOECDテストガイドラインの理論的基盤となった例として皮膚感作性について紹介する.

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