レギュラトリーサイエンス学会誌
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13 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 角谷 優, 村山 耀隆, 小林 江梨子, 佐藤 信範
    2023 年13 巻2 号 p. 51-61
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,添付文書の「重大な副作用」の改訂情報と,医薬品の承認当時のRMPの記載内容の関連を調べ,RMPから得られる情報の有用性を検証し,RMPの利活用における方向性を提案することを目的とした.対象医薬品は,2013年4月~2016年3月に承認された新有効成分含有医薬品のうち,2021年3月31日時点で薬価基準に収載,販売されていたものとした.対象とする添付文書の改訂は,厚生労働省の通知による「重大な副作用」の改訂で,医薬品の再審査期間中に行われたものとした.対象医薬品は全116品目で,改訂が行われたのは37品目(31.9%)であった.これらのうち,承認当時のRMPが入手できた30品目(81.1%)を解析対象とした.30品目では54件の改訂が行われていた.これらの改訂のうち16件(29.6%)は承認当時のRMPに記載されており,このうち15件は改訂前の添付文書で「その他の副作用」等に記載されていた.「その他の副作用」には多くの副作用が記載されているが,その中でもRMPにも記載されている副作用に注目することで,より重要度の高い情報を知ることができる可能性がある.本研究の結果から,RMPは添付文書に加えて有用な情報源であることが裏付けられた.RMPは医薬品の安全性監視に役立てられると考えられる.

  • Toru MATSUMOTO, Manabu TAMURA, Ken MASAMUNE
    2023 年13 巻2 号 p. 63-73
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本邦において医療機器開発を促進するためには,医工連携のいっそうの推進が重要である.診療報酬における新しい技術料の設定が必要な革新的医療機器(区分C2)の保険収載プロセスにおいても,医学関連学会との組織的な連携があるものと考えられる.本研究の目的は保険収載プロセスにおける企業と学会の連携実態を明らかにし,また学会連携による技術料決定への影響を把握することである.2012年度から2021年度までに区分C1および区分C2で保険収載された医療機器を対象に次の2分析を行った.①保険収載プロセスにおける学会連携の動向を分析調査し,区分C2では適正使用指針等の発出による学会連携が増加傾向にあった.過去10年間の区分C1全数における学会連携品目の占める割合が20%(26/130)に対し,区分C2全数における学会連携品目は63%(72/114)と有意に高かった(p<0.01).②区分C2を対象とし,希望点数に対する最終的な決定点数への反映率に関して,学会連携の有無で2群に分けた群間比較分析を行った.区分C2の前述反映率は,学会連携あり群(n=38)で76%となり,学会連携なし群(n=10)の48%より高かった(p=0.24).以上より,区分C2の保険収載にあたっては企業と医学関連学会の連携が進んでいることが明らかとなった.学会から発出される適正使用指針には詳細な対象患者や使用方法のほか,トレーニングや実施医あるいは施設基準も記載されている.保険収載によって良質な医療が普及する一方,新しい医療技術に関する適正使用のためのトレーニングや基準の策定が重要になっている.本邦における革新的医療機器の開発や保険収載プロセスにおいて,医学関連学会との連携は必要不可欠であると考えられる.

報告
  • 鈴木 香菜子, 成川 衛
    2023 年13 巻2 号 p. 75-81
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    わが国における新薬の薬価算定の運用改善に向けた考察を行うため,近年,薬価基準に収載された新薬の類似薬の選定状況について整理・分析した.類似薬効比較方式(Ⅰ)で薬価が算定された新薬のうち8割近くの品目において,新薬と比較薬で効能・効果,薬理作用,組成・化学構造,投与形態(類似薬選定時の4つの事項)のいずれか1つ以上が異なった.これらのうち新薬と比較薬で効能・効果が異なったケースでは,対象とする症状が重複したり,効能・効果が同じ疾患群に属するといった一定の共通性が認められ,さらに,薬理作用,組成・化学構造,投与形態には強い類似性があった.また,新薬と比較薬で組成・化学構造が異なったケースでは,組成・化学構造の違いに起因して両者間で薬理作用および投与形態は異なる場合が多かったものの,効能・効果は同じであるか,または少なくとも一部は重複するものであった.近年,原価計算方式により算定された品目において価格の内訳の開示度が低いものが多く存在することに対する指摘がなされており,薬価算定の透明性・納得性を高めるという観点から,類似薬の対象を拡大する仕組みについても検討していくことが重要と考える.本研究で得られた,比較薬との類似度が相対的に低くても類似薬効比較方式により薬価が算定された品目についての情報は,今後,類似薬効比較方式の適用範囲を拡大しようとする際の議論において参考になると考えられる.

  • 中山 能雄, 山内 園子, 小林 正次, 清水目 梢, 原田 千智, 中西 顕伸, 佐藤 幸広, 松本 直之, 尾崎 恭代, 樽井 行弘, ...
    2023 年13 巻2 号 p. 83-94
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    日本製薬工業協会薬事委員会では,日米欧における品質に係る承認事項の記載量の差異,日本で薬事手続きが行われた品質に係る承認事項の変更事例が米国および欧州ではどのように扱われたかのアンケート調査を実施した.また,米国および欧州でも薬事手続きが行われていた場合は,変更カテゴリー,手続きに要した期間,さらに,手続きの際にGMP調査が行われたか等を調査した.その結果を報告する.

特集(医薬品の薬事承認におけるリアルワールドデータの利活用)
  • 柴田 大朗
    2023 年13 巻2 号 p. 95-106
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    RWDの活用は,医薬品開発の原則を適用できる領域での活用と,原則の適用が困難な希少疾病など,開発戦略の選択肢を増やすことで開発の効率化・unmet needs解消が期待できる領域での活用とに大別できるが,ここでは後者を取り上げる.本邦では2015年度の厚労科研 特別研究事業 武田班の取り組みや,厚生労働省のCIN事業の下で医薬品開発へのレジストリ活用の議論が活発化し,2021年の厚生労働省のレジストリに関する通知により薬事申請への活用の可能性が広く認識されるに至った.治験以外のデータの活用という観点でRWDの活用を捉え直すと,治験対照群への利用に限らず,今後,データパッケージの構成方針の多様化の可能性や,従来は開発・承認審査時の関与が少なかった薬剤疫学専門家などのかかわり方が変わっていく可能性がある.これらは過去の本邦や海外における薬事承認審査事例にも該当する先例はあり,決して単なる理論上の可能性には留まらない.このような,原則にもとづく開発ができない医薬品などの事例をひもときつつ,RWD活用ありきでの議論ではなく,治療開発からネグレクトされがちな領域の医薬品などをどのような戦略で開発・評価していくかという問題意識の中でRWDを取り上げるという形に議論のあり方を変え,unmet needs解消のための方策を考えていくことが喫緊の課題であろう.

  • 藤田 泰三
    2023 年13 巻2 号 p. 107-115
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    日本製薬工業協会(製薬協)では,これまでリアルワールドデータ(RWD)の利活用に関するさまざまな検討を行ってきた.薬事申請(承認申請等)におけるRWDの利活用促進に向けた取り組みのひとつとして,「医薬品の承認申請等にレジストリを利活用する際の社内プロセスフロー」に関する検討を行った.プロセスフローとして具体的な手順や留意点を示すことで,製薬企業によるレジストリデータの利活用を後押しすることを目指している.さらに,プロセスフロー等を製薬企業以外のステークホルダーにも示し,企業内でどのような意思決定が行われ,何を課題と捉えているのかを知っていただくことで,ステークホルダー間の相互理解が促進することも期待している.

  • 小林 千鶴, 小室 美子, 山口 光峰
    2023 年13 巻2 号 p. 117-123
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    本邦において,医薬品または再生医療等製品の承認申請,再審査等申請へのリアルワールドデータ(RWD)の利活用を推進するため,さまざまな検討や取り組みが行われている.厚生労働省および独立行政法人医薬品医療機器総合機構(機構)は,これまでRWDに関する活用および信頼性確保について,関連通知および事務連絡を多数発出するとともに,学会等における情報発信を行ってきた.さらに,機構はRWDの信頼性の観点から,相談枠の設置,薬事申請にもとづく適合性調査の実施方法の明確化,相談経験にもとづく一般化できる情報の発信等の活動を行い,RWDの利活用推進に向け積極的な支援体制を構築してきた.すでに,RWDの信頼性の観点からの対応が不明瞭という状況は解消されたため,今後,本邦におけるRWDの薬事申請への利活用がより一層促進することが期待される.

  • Hitomi SUMIYOSHI OKUMA
    2023 年13 巻2 号 p. 125-132
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    希少がんは概ね人口10万人あたり6人未満の罹患率のがん種とされ,その発生は全がん種の22%にのぼるものの,それぞれの数が少ないため診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きく予後も悪いことが報告されている.希少がんの診療・開発上の課題と薬剤開発の方向性などの背景をふまえ,希少がんの治療開発を推進基盤として多施設共同・産学連携のMASTER KEYプロジェクトを2017年に立ちあげた.MASTER KEYプロジェクトはレジストリパートと副試験パートの2つのパートで構成され,希少がん・原発不明がん・主要がんの希少組織亜型を対象に組み入れている.本レジストリの目的である治験の対照群としてのレジストリデータの活用のための対応を行っている.レジストリ部分ではデータ品質確保の取り組みに注力しながら臨床データを蓄積し,将来的に治験の対照群としてレジストリデータが活用されるための対応を行っている.副試験部分では複数の治験が同時並行で進み,特定のバイオマーカーもしくは特定の希少疾患を対象として実施している.MASTER KEYプロジェクトの取り組みと蓄積されたデータの活用により,希少がん・希少フラクションへの治療開発を推進することが期待される.

  • 高橋 秀之, 松澤 寛, 草分 知弘, 北川 峰丈
    2023 年13 巻2 号 p. 133-139
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    医薬品開発におけるReal World Data(RWD)/Real World Evidence(RWE)の利活用は,臨床試験のデザイン・計画立案(標準治療,競合品調査,選択・除外基準設定など)および臨床試験のフィージビリティ調査,並びに臨床試験の外部対照群や適応拡大を含む承認申請や添付文書の改訂といった薬事目的の利用などがある.特に小児・難病・希少疾患開発において,薬事承認への利活用の期待は高いものの,データの適切性および信頼性の観点で課題があり,これら期待の高い活用も含め外部対照群などへの利活用は進んでいない.このような状況の中,弊社では医薬品の薬事承認におけるRWE活用に関して,米国のScientific Registry of Transplant Recipients(SRTR)のレジストリデータを主たる有効性および安全性データとして,タクロリムスの肺移植の追加適応症を2021年7月に米国で取得した.レジストリデータは治験のデータと異なり,データの信頼性の観点から信頼性が担保できないデータが含まれているのが実態である.もちろん,これら不適切なデータが,有効性および安全性を評価するうえで重要なデータであれば,当該データは使用できなくなり,結果的に薬剤の評価に影響する可能性は高い.一方で,今回弊社が申請に用いたSRTRのレジストリデータは有効および安全性に関するデータの内容およびその信頼性に大きな問題はなく,U. S. Food and Drug Administration(FDA)からデータの品質に関しては許容範囲内と判断された.企業が,RWD/RWEの実態を適切に理解し,利活用するデータの適切性および信頼性の観点をふまえ,積極的かつ柔軟に活用方法を検討することが重要である.

シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 坂口 宏志, 安藤 友紀, 伊熊 睦博
    2023 年13 巻2 号 p. 141-147
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    「ICH E8臨床試験の一般指針」は,医薬品の承認に必要となる臨床試験や臨床開発の進め方について総論的に述べたICHガイドラインである.ICH E8ガイドラインは,1997年に策定されて以来,改定は行われてこなかったが,近年,臨床試験ではより多様なデザインやデータソースが用いられるようになった.また,ICH E8ガイドラインでは取り扱われていない「臨床試験の質」についても,事後的に実施される文書やデータのレビューやモニタリングによってではなく,試験の計画や手順の中に前向きに作り込むことにより向上させることが重要という考えも提唱されつつある.以上を背景とし,今般,ICH E8(R1)“General Considerations for Clinical Trails” としてガイドラインの改定が行われたことから,本稿では,当該ガイドラインの改定の概要およびその作成経緯について,ガイドライン改定にかかわった規制当局の立場から記載する.

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