レギュラトリーサイエンス学会誌
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13 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 内田 茉莉花, 石橋 輝太, 前田 英紀
    2023 年13 巻3 号 p. 151-161
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    コンパッショネートユースは致死的な疾患を有する患者に対して,代替治療法がない場合に利用でき,例外的に臨床試験段階の未承認薬を患者に使用できるようにする制度である.この制度は日本においては拡大治験と呼ばれ,2016年1月に制度制定されてから現在まで6年間しか行われていない制度である.そのため,詳しい実態の調査はできていない状況である.本研究は2016年1月~2022年5月末までに行った日本における拡大治験の実施状況について入手可能なデータをもとに調査したものである.6年間のデータを集めたところ,合計36試験(31剤)の拡大治験が行われており,主たる治験に対する割合は1.53%であった.また,対象疾患として抗悪性腫瘍薬が最多であり,36試験中24試験であった.本研究から拡大治験は6年間で社会的要請や患者からの要請がある分野で行えていたことが判明したが,積極的には実施されていないことが示唆された.

  • Katsuhiro KURIYA, Yuna OKAZAKI, Yuto AKABA, Yuki NOJO, Kazumichi KUWAB ...
    2023 年13 巻3 号 p. 163-177
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    近年,がん治療は外来化学療法が主流になりつつあり,保険薬局が果たす役割は重要性を増している.本研究では,がん領域の薬薬連携のあり方のひとつとして,どの薬局でも容易に入手可能な情報の現状を把握するために,がん診療連携拠点病院がホームページで公開,提供している内容を調査した.全国の都道府県がん診療連携拠点病院(都道府県拠点病院)51施設,地域がん診療連携拠点病院(地域拠点病院)275施設のホームページから2021年2月末時点で入手可能な,外来化学療法における薬薬連携に関する20項目の情報の公開の有無を調査した.20項目の情報の中から5項目を主要評価項目に選定し,都道府県拠点病院と地域拠点病院における情報公開率から相関係数を算出した.結果,両群間における情報公開内容に強い相関性があることが認められた.また,同一都道府県内の都道府県拠点病院と地域拠点病院における情報公開率からWilcoxonの順位和検定を実施し,同一都道府県内の都道府県拠点病院と地域拠点病院の情報公開内容の対応性を検討した.結果,投与経路,支持療法情報,併用治療情報の3項目に有意な対応性が認められた.本研究では,全病院が保険薬局に情報提供の必要性を重視している項目に一定の統一見解があることが示された.一方,同一都道府県内の都道府県と地域拠点病院間の情報提供状況に対応性がなかった.以上の結果から,薬局薬剤師は病院ごとに個別の対応が必要となり,薬薬連携の円滑化を阻害する可能性が示唆された.

  • 田中 里佳, 小林 江梨子, 成川 衛, 佐藤 信範
    2023 年13 巻3 号 p. 179-192
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    近年,健康面,供給面で信頼性を損なう恐れのある後発医薬品の回収事例が発生している.そこで本研究では,医薬品回収件数の経時的推移を調査することによって現在の医薬品回収の実態を明らかにし,後発医薬品の信頼性向上,使用促進のための課題を検討することを目的とした.2018年度から2022年度前半6カ月までに回収された医療用医薬品を対象とした.回収情報をクラス,品目,剤形,薬効,回収理由,製造販売業者ごとに分類し,年度ごとに集計解析を行った.2018年度から2021年度まで,回収件数の合計は毎年増加していた(2018年度:111件,2019年度:141件,2020年度:271件,2021年度:507件).2022年度の上半期は64件の回収があった.後発医薬品は30.6%,41.1%,74.2%,91.1%と増加傾向にあった.後発医薬品の回収増加の原因として,安定性モニタリングなどでの承認規格外,承認書からの逸脱による回収の増加がみられ,先発医薬品では発生していない理由での回収も確認された.回収件数の減少,後発医薬品の信頼性向上のためには,品質管理体制の整備,法令遵守と倫理の再教育を行う必要があると考えられる.

報告
  • 相田 直樹, 印南 一路
    2023 年13 巻3 号 p. 193-210
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    わが国の薬剤費の推計は,国民医療費と社会医療診療行為別調査に依拠しており,その手法上の限界が指摘されてきた.本研究は,IQVIAソリューションズジャパン社の2012年度より2021年度までの全医療用医薬品のデータと,株式会社医薬情報研究所のデータをYJコードで結合して分析する手法を用い,わが国の薬剤費の推移を種別ごとに把握し,医薬品に関連する政策目標が達成されているか否かを定量的に評価した.第一に,先発品,長期収載品,後発医薬品ごとの市場規模の推移を記述した結果,昨今わが国が目指してきた長期収載品依存の体質からの脱却,後発医薬品の使用促進といった政策目標はおおむね達成されていた.第二に,抗ウイルス剤,抗PD-1抗体薬の再算定による適正化効果,各種再算定の適正化効果,通常薬価改定の適正化効果,新薬創出加算対象品の市場規模の推移,安定確保医薬品の市場規模の推移,通常薬価改定および各種再算定がなかった場合のシミュレーション分析などの分析の結果,全体として,薬価改定や各種再算定は薬剤費のコントロールに寄与していることが示された.これは2016年の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に沿っている.

  • 廣野 めぐみ, 三枝 聡, 新谷 嘉章, 林 秀承, 室伏 俊昭, 江面 美祐紀
    2023 年13 巻3 号 p. 211-219
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    2019年4月より費用対効果評価制度の導入により新規医療技術の価格調整が始まり,同時に慶應義塾大学医療経済評価人材育成プログラムも開始され4年目となった.本プログラム必修科目の医療経済評価特論における2021年度の報告に引き続き,すでに費用対効果評価結果が公表されているH1該当品目2品目について,2022年度も基本知識を学んだ主に修士1年生が参加し,企業側,当局側に分かれて模擬分析前協議のワークショップが行われた.模擬分析前協議では両者の視点で分析枠組みを議論し,模擬分析前協議の後に両者が合意した分析枠組みを決定した.最後に,その枠組みと公的分析が実施した分析枠組みとの違いについて議論や考察を行い,比較対照技術選択の難しさや,一律の指標で評価可能なのかなどの課題があげられた.また,受講後に執筆者らで制度全体にかかわる共通の課題や検討の必要性についての議論を行った.その内容も合わせて学生の視点から報告する.

特集(プログラム医療機器における医療データの利活用について)
  • 中野 壮陛
    2023 年13 巻3 号 p. 221-230
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    SaMDフォーラムの勉強会としてサブフォーラムが2023年2月6日に開催された.テーマは,「SaMDにおける診療報酬に関する課題」と「医療データの利活用に関する課題」である.本稿では二つのテーマに対して,当日の議論に留まらず広範にレビューを行い情報提供することとした.前者の議論では,SaMDに特有の課題をふまえて評価することについて産業界から提言があった.後者の議論では,医療データの提供に関する個人情報を適切に保護した上での具体的な提供方法についての現状の課題を中心に議論が行われた.このような議論を経て,現在,厚生労働省の中医協にてSaMDの具体的な評価のあり方について議論が行われている.また,厚生労働省の研究班にて医療データの適切な提供方法に関するガイドラインの作成が行われている.今後もイノベーションとレギュレーションのバランスのあり方に関する議論が継続的に行われることを期待したい.

  • 髙江 慎一
    2023 年13 巻3 号 p. 231-237
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    近年,AIの利活用の進展もあいまって,プログラム医療機器の開発が活発になされている.他方,プログラム医療機器の開発に必須である診療情報の利活用に当たっては,各種法律や指針などにもとづく対応が必要となることから,規制改革実行計画において利活用を円滑に進めるための措置の必要性が示されているところ.本稿では,わが国におけるこれまでの医療関連データ利活用に関する課題と取り組みについて概説する.

  • 成行 書史, 田中 志穂, 久芳 明, 和田 賢治
    2023 年13 巻3 号 p. 239-244
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    AI技術の発展に伴い,SaMDとしての活用検討が急速に進んでいる.AI技術の開発においては,学習データとして医療情報を利活用する必要があり,研究開発~社会実装後を通じて,データの二次利用が重要な観点となってくる.配慮すべき点としては,①個人情報保護法,②生命・医学系倫理指針,③医薬品医療機器法の3つの点があげられる.個人情報保護法においては,仮名加工情報などが整備されつつあるが,実務的な手順や基準が明確になっていないという課題がある.また倫理指針においても,関連法規との不整合などの問題があった.薬機法(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律)に関しては,承認審査に伴う信頼性保証の具体的な方法についてまだ不明確な部分が残っていると感じている.しかしながら,昨今,行政によって取り組みが迅速に進められており,業界側としても期待をもって捉えている.今後の展望としては,二段階承認などの新しい制度が行政から発出されており,RWD(real world data)を活用することによって,これまで実用化や保険申請のエビデンス構築が難しかった品目についても道が開けるのではないかという期待をもっている.業界としても,社会実装の事例,患者のアウトカムにつながる実例を積み上げ,社会の理解を醸成して,SaMDの開発・社会実装の好循環に向けて取り組んでいきたい.

  • 横井 英人
    2023 年13 巻3 号 p. 245-254
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    AI開発にはさまざまな医療情報が大量に必要となる.本稿では,日本の典型的な地方国立大学病院である香川大学病院(KUH)のデータ提供事例を紹介し,現状認識している課題を取り上げた.最も重要な課題は個人情報保護との兼ね合いである.たとえ仮名化を行ったとしても,それだけで制約がなくなるわけではない.電子カルテ(EMR)から医療情報を抽出するための当院のワークフローを紹介する.電子カルテからデータを抽出する主な目的は,診療,研究,教育の3つとなる.研究目的での抽出には倫理委員会の承認が必要である.倫理委員会の承認を得る場合には,オプトイン・オプトアウトに関するインフォームド・コンセントなどの準備が必要であり,データの保管場所や提供先などの詳細も明記する必要がある.研究計画書には,計画された研究にもとづいて抽出クライテリアが指定されており,医療情報部門は,抽出依頼のクライテリアに従ってデータを抽出し,抽出したデータの記録を保存する.当院のSaMD(Software as a Medical Device)やAI開発向けのデータ提供事例は数件存在する.データ提供は,病院の基幹電子カルテから,または部門システムから直接されることがあった.後者の場合,病院の管理部門にデータ提供の記録が残らない可能性があり,管理上の問題が残っている.レジストリ研究のためのデータ収集は,SaMDやAIの開発に有用である.われわれは地域医療ネットワーク(K-MIX R)を活用し,効率的にレジストリ調査を行っている.大量のデータを必要とする研究では,このような方法を検討する必要があると考える.

シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 石橋 健一
    2023 年13 巻3 号 p. 255-261
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    MDSAP(medical device single audit program)は,医療機器製造業者に対するQMS(quality management system)調査をMDSAP参加国が適当と判断した第三者調査機関に行わせ,その調査結果をそれぞれの国が活用する枠組みである.MDSAPは,国際規制調和の場で議論されたフレームワークをもとに,日本,米国,カナダ,オーストラリア,ブラジルのリーダーシップのもと,パイロットケースでの実証を経て,2017年以降社会実装されている.一方,そのアプローチは同じ医療製品である医薬品における国際規制調和の枠組みとは異なっており,医療機器の有効性および安全性にかかる国際規制に馴染みのない方には理解し難いものとなっている.そこで本稿ではMDSAPの取り組みを医薬品分野における事例と対比することで,MDSAPの特性を明らかにする.またMDSAPの成り立ちから現状に至るまでの歴史を振り返り,併せてMDSAPの全体像について紹介する.

  • Kiyoto NAKAI
    2023 年13 巻3 号 p. 263-266
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    厚生労働省では,医薬品医療機器等法にもとづいて,エフェドリン,コデイン(鎮咳去痰薬に限る),ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る),ブロムワレリル尿素,プソイドエフェドリンおよびメチルエフェドリン(鎮咳去痰薬のうち,内用液剤に限る)の6成分を濫用などの恐れのある医薬品の成分として指定し,濫用を防止するための規制を行ってきているが,一般用医薬品の濫用事例が増えてきていると指摘されてきた.また,その入手しやすさや,使っても捕まらないという合法性がその原因として指摘されてきた.そこで,厚生労働省では,濫用の恐れのある成分について,鎮咳去痰薬や内容液剤といった用途の限定をなくし,濫用防止に対策の強化を図った.

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