バイオ医薬品は従来の低分子医薬品と比べ,製造に高度な技術と設備を必要とし,多大な開発コストがかかることから,薬価が高額なものが多い.そのため,患者アクセス及び医療経済的な観点から,バイオ後続品(バイオシミラー)がもたらす社会的な恩恵は大きいと考えられる.しかしながら,バイオ医薬品は一般に複雑な高次構造を有するため,バイオシミラーではジェネリック医薬品とは異なり,製造段階で先発品と同一性を検証することが困難である.我が国を含むICH加盟国において,バイオシミラーの承認申請時には非臨床試験及び臨床試験を実施し,先発品との同等・同質の品質,安全性,有効性を示すことが求められている.本研究の目的は,バイオシミラーの申請データパッケージ戦略で鍵となる因子を見出すことにより,2015年以降の大型バイオ医薬品の特許切れにより活発化するバイオシミラー開発に寄与することである.本研究では,本邦において製造販売承認を受けたバイオ後続品4薬効群6品目(ソマトロピン,エポエチン,顆粒球コロニー刺激因子[G-CSF],インスリン)を対象とし,承認申請時に提出された品質,非臨床及び臨床試験のデータパッケージを品目横断的に比較した.さらに,日米欧当局が発出した関連ガイドラインの時期を踏まえ,それらが承認申請時のデータパッケージ戦略に与えた影響を時系列的に分析した.申請当時にバイオ後続品の申請区分が存在しなかったソマトロピン及びエポエチンでは,対照的なパッケージ戦略を有していたことが明らかとなった.エポエチンは,ほぼ先発品に近い申請データパッケージを有しており,新有効成分含有医薬品としての開発・申請が行われていた.一方,ソマトロピンは欧州ガイドラインを参考としながらも,比較的ジェネリック医薬品の開発に近い申請データパッケージであった.このことは,ソマトロピンはバイオ医薬品の中では比較的分子量が小さく糖鎖を有さないという特徴を反映していると考えられる.フィルグラスチムのバイオシミラー3品目及びインスリンのバイオシミラーでは,本邦におけるバイオ後続品のガイドラインを活用した開発が行われたことが特徴的である.しかしながらフィルグラスチムの3品目間では,不純物の多寡や海外データの有無に起因すると考えられる申請データパッケージの差異が認められた.インスリンのバイオシミラーは分子が小さく構造が比較的単純であることを反映し,ソマトロピンと近いデータパッケージで申請が行われていることに加え,特に効率的なグローバル開発が行われており,主要な市場である欧州及び日本で承認されるまでの開発期間が短いという特徴を有している.以上の6品目の横断的なデータパッケージ比較より,特に(1)品質特性解析における不純物プロファイルの同定及び管理の困難さ,(2)臨床の安全性予測のための適切な非臨床試験パッケージの選定,(3)臨床試験のエンドポイント選定,及び(4)海外試験結果の活用と国際共同治験への参加は,全体の開発期間及びコスト面に与える影響が大きい要素であることが示唆され,バイオシミラーの開発計画全体において極めて重要であると考えられた.
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