レギュラトリーサイエンス学会誌
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5 巻, 3 号
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原著
  • Naoko MATSUI, Daichi YAGUCHI, Kazushige MURAYAMA, Satoshi TOYOSHIMA
    2015 年 5 巻 3 号 p. 181-194
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    バイオ医薬品は従来の低分子医薬品と比べ,製造に高度な技術と設備を必要とし,多大な開発コストがかかることから,薬価が高額なものが多い.そのため,患者アクセス及び医療経済的な観点から,バイオ後続品(バイオシミラー)がもたらす社会的な恩恵は大きいと考えられる.しかしながら,バイオ医薬品は一般に複雑な高次構造を有するため,バイオシミラーではジェネリック医薬品とは異なり,製造段階で先発品と同一性を検証することが困難である.我が国を含むICH加盟国において,バイオシミラーの承認申請時には非臨床試験及び臨床試験を実施し,先発品との同等・同質の品質,安全性,有効性を示すことが求められている.本研究の目的は,バイオシミラーの申請データパッケージ戦略で鍵となる因子を見出すことにより,2015年以降の大型バイオ医薬品の特許切れにより活発化するバイオシミラー開発に寄与することである.本研究では,本邦において製造販売承認を受けたバイオ後続品4薬効群6品目(ソマトロピン,エポエチン,顆粒球コロニー刺激因子[G-CSF],インスリン)を対象とし,承認申請時に提出された品質,非臨床及び臨床試験のデータパッケージを品目横断的に比較した.さらに,日米欧当局が発出した関連ガイドラインの時期を踏まえ,それらが承認申請時のデータパッケージ戦略に与えた影響を時系列的に分析した.申請当時にバイオ後続品の申請区分が存在しなかったソマトロピン及びエポエチンでは,対照的なパッケージ戦略を有していたことが明らかとなった.エポエチンは,ほぼ先発品に近い申請データパッケージを有しており,新有効成分含有医薬品としての開発・申請が行われていた.一方,ソマトロピンは欧州ガイドラインを参考としながらも,比較的ジェネリック医薬品の開発に近い申請データパッケージであった.このことは,ソマトロピンはバイオ医薬品の中では比較的分子量が小さく糖鎖を有さないという特徴を反映していると考えられる.フィルグラスチムのバイオシミラー3品目及びインスリンのバイオシミラーでは,本邦におけるバイオ後続品のガイドラインを活用した開発が行われたことが特徴的である.しかしながらフィルグラスチムの3品目間では,不純物の多寡や海外データの有無に起因すると考えられる申請データパッケージの差異が認められた.インスリンのバイオシミラーは分子が小さく構造が比較的単純であることを反映し,ソマトロピンと近いデータパッケージで申請が行われていることに加え,特に効率的なグローバル開発が行われており,主要な市場である欧州及び日本で承認されるまでの開発期間が短いという特徴を有している.以上の6品目の横断的なデータパッケージ比較より,特に(1)品質特性解析における不純物プロファイルの同定及び管理の困難さ,(2)臨床の安全性予測のための適切な非臨床試験パッケージの選定,(3)臨床試験のエンドポイント選定,及び(4)海外試験結果の活用と国際共同治験への参加は,全体の開発期間及びコスト面に与える影響が大きい要素であることが示唆され,バイオシミラーの開発計画全体において極めて重要であると考えられた.
特集(医療機器の臨床試験から承認審査)
  • 佐久間 一郎
    2015 年 5 巻 3 号 p. 195-202
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    医療器機器の開発では,その有効性と安全性が審査過程で評価される.医療機器の動作原理,使用環境,リスクレベルなどの多様性が,医療機器を体系的に評価するうえでのむずかしさとなっている.市場に出てから間もない早期の段階では,当該機器の効果を最大化するための利用技術が未整備である.このため当該機器の有用性を十分に評価できない場合も存在する.この場合,機器の潜在的な価値を適切に判断できないこともある.安全性と有効性に関する知識を臨床応用を通じて継続的に蓄積していかなければならない.これらの開発過程では,大学・学会等の学術活動が知識の獲得に有用である.トレーニングや臨床応用に関するガイドラインの制定は,この観点から重要となる.学術活動は,原理的にこのような医療技術評価に求められる透明性が担保されているという利点が存在する.医療機器に関するイノベーションを推進するには,研究開発側,審査側が協力して思考の枠組みを共有し,開発と審査プロセスの最適化を図ることが重要である.
  • 昌子 久仁子
    2015 年 5 巻 3 号 p. 203-209
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    医療機器産業は日本では成長産業とされ,政府は様々な施策を打ち,その成長を後押ししている.一方,社会保障費,とりわけ医療費の伸びは国の課題として取り上げられている.医療器機器業界の使命は,医療の質の向上による患者さんへの貢献であるとともに,適正なコストと医療機器を提供することである.市場に必要とされるよりよい製品開発の加速には,日本のみならず世界の医療に貢献することを視野に,グローバル展開を考えていくことではないか.グローバル展開にあたり,医療機器の特長,世界の状況を俯瞰してみたい.
  • 内田 毅彦, 小林 宏彰, 石倉 大樹, 虞都 韻, 村上 哲朗, 中野 壮陛
    2015 年 5 巻 3 号 p. 211-217
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    世界の医療機器マーケットは拡大し続けているが,日本の医療機器産業はあまり活発ではなく,毎年7000億円もの貿易赤字を作り出している.しかしながら,技術力があり,モノづくりが匠で,医療水準が高い日本は本来であれば世界の医療機器産業を牽引していても不思議ではない.日本の医療機器産業が世界をリードするようになるために,幾つかのポイントが考えられる.米国のオバマケア,費用対効果,リバースイノベーション,国際共同治験,デジタルヘルスといったキーワードを踏まえた上で,日本のベンチャー企業が医療イノベーションを作り出そうとする際に,これからはよりグローバルな視点で事業化を行っていく必要があると考える.
  • 方 眞美, 鈴木 由香
    2015 年 5 巻 3 号 p. 219-226
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    医療機器開発は国の再興戦略のひとつとして位置付けられている.このたび,医療機器の主な特性を踏まえた迅速な実用化に向けた規制・制度の合理化を行うため,薬事法が「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」として,法整備がなされたところである.医療機器の承認審査にあたっては,ベネフィットとリスクのバランスを評価し,ベネフィットがリスクを上回る場合においてのみ,承認が可能と判断する.このベネフィットリスク評価は,薬や医療機器規制の基本的な考え方であり,国際的に共通している.医療機器は物理的作用を期待した「道具」であり,多くのひとがベンチテストや動物試験による評価で十分と考えている.しかし,医療機器は臨床使用されるものであり,臨床上の有効性及び安全性について,臨床データによる評価が必要である.市販前に求められる臨床試験について,各国の規制は様々であるが,新規性の高い医療機器開発には,臨床試験による評価が必要である.効率的な医療機器開発をすすめるために,臨床試験のデザインをどのように最適化すべきか,産官学を含めて議論していくことが重要と考える.
  • 岩元 真, 方 眞美, 鈴木 由香
    2015 年 5 巻 3 号 p. 227-234
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    日米の産学官をメンバーとして国際共同治験の実施等について検討しているHBD活動は,医療機器開発促進の1つのモデルである.HBD活動を通して,冠動脈領域では複数の薬剤溶出型ステントの国際共同治験が実施されるようになり,その他の循環器領域の医療機器においても国際共同治験の実施の動きが広がりつつある.また,HBD活動から派生した厚生労働省/PMDAとFDAとの医療機器の対面助言及び承認審査に係る情報交換の試行を通して,循環器領域の医療機器(例えば,SFAステント)に関してFDAとの情報交換及び審査の考え方に関する議論を行うことにより,審査の迅速化を行うことが可能であった.さらに,開発促進及び審査の迅速化を目的に,評価方法が定まっていないCLI血管内治療機器に対する国際共同治験に関する基本的な考え方について,日米の医学専門家及び規制当局(FDA及びPMDA)をメンバーとして,議論を行った.その結果,日米の医療環境等の違いを踏まえたCLI血管内治療機器の国際共同治験に関する基本的な考え方を示すことができ,今後実施される治験への活用及び審査の迅速化に寄与するものと期待される.今後,循環器領域での成功体験を基に,その他の領域においても,関連学会及び企業の協力を得ながら,医療機器開発の促進のための活発な議論を行うことで,問題点の解決策を模索する活動を広げていくことが重要と考える.
シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 高橋 史峰
    2015 年 5 巻 3 号 p. 235-243
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/31
    ジャーナル フリー
    独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)では,これまで副作用自発報告,製造販売後調査結果等を主な情報源として,医薬品の安全性評価を行っており,それにより一定の成果が得られている.しかし,これらの副作用情報には,未報告,情報の不完全性,分母情報の欠如といった限界が知られている.そこで,安全対策業務の更なる強化・充実に向けて,PMDAでは第二期中期計画(平成21年度~25年度)においてMIHARI Projectを立ち上げ,電子診療情報による定量的な評価を行う体制の構築を目指してきた.第三期中期計画(平成26年度~平成30年度)では,この体制に基づき,評価及び調査等の結果を実際の安全対策措置に活用することを目標としており,さらに厚生労働省や協力医療機関(10拠点)と協力しつつ,新たなデータベースシステム(MID-NET)を開発中である.MID-NETにおいては,電子診療情報や医事データを変換・統合して,協力医療機関ごとにデータベース(統合データソース)に格納する.PMDA等の利活用者は,データ抽出条件をスクリプトとして作成し,それを「データセンター」から協力医療機関に送る.スクリプトを了承した協力医療機関は,集計結果データ等の出力結果をデータセンターに送り返し,利活用者はデータセンターへアクセスし,集計結果データ等を確認することが可能である.現在,PMDAは,平成30年度の本格運用に向けてMID-NETのデータ検証(バリデーション)を実施中である.MID-NETの運用により,定量的な安全性評価や,効果的な安全対策が可能となることが期待される.
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