レギュラトリーサイエンス学会誌
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5 巻, 1 号
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原著
  • 福田 治久
    2015 年 5 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    背景:医療材料を対象とした費用対効果を勘案した保険償還制度が導入予定である.しかしながら,費用効果分析を実施するために,医療材料の性質に関して精緻な検証が実施されているとはいえない.
    目的:製造販売業者が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出している市販前承認申請(PMA)および市販後調査(PMS)における有効性データの質を評価し,我が国における医療材料を対象にした費用効果分析の実施可能性について検討することである.
    方法:1999年4月から2012年8月の間の83件のPMAと39件のPMSにおける審査報告書における有効性データを対象にした.その上で,交絡やバイアスを最小化する上で不可欠だと考えられる方法論的な属性データを評価した.
    結果:83試験中32試験(39%)において無作為化が,11試験(13%)において盲検化が実施されていた.臨床試験の実施国に関する層別解析の結果,無作為化試験は34試験8試験(24%)であり,盲検化試験は3試験(9%)であった.国内における実施施設数の平均値(最小値-最大値)は,添付資料が付随する試験においては6.6(2-15)施設,添付資料が付随しない試験においては4.4(1-10)施設であった.実施総施設数と実施日本施設数の間には大きな差異が認められた.
    結論:医療材料を対象にした市販前承認は試験デザインが不十分な試験に基づくことがしばしばあり,バイアスに脆弱な側面がある.医療材料を対象にした費用効果分析を実施する際には,費用データや追加的な有効性データを市販後調査において評価することも有用であると考えられる.
  • Masafumi SHIMOKAWA, Kazumichi KOBAYASHI, Kazuishi SEKINO, Satoshi TOYO ...
    2015 年 5 巻 1 号 p. 13-27
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本発の革新的医薬品の実用化に向けて,ベンチャー企業と製薬企業の間のアライアンスに関する認識のギャップを埋めるため,この認識のギャップを客観的かつ定量的に示すことを目的とし,ベンチャー企業と製薬企業に対するアンケート調査及びヒアリング調査を行った.調査の結果,両者の間にはアライアンス不成立の理由,製薬企業のライセンス検討の時期などについて認識のギャップがあり,それに伴う問題点があることもわかった.これらの原因を調査することによって両者の円滑なアライアンスを阻害するボトルネックを考察した.ベンチャー企業は,製薬企業による評価方法,アライアンス提案先の適切な選定方法について意識又は理解が不足していた.一方,製薬企業はアライアンス提案に対する断り理由の説明や,アライアンスの意思及び興味を持っている分野・技術等の内容についての情報提供が不足していた.これらがボトルネックと考えられた.特に,製薬企業がアライアンス提案に対して,「開発ステージとして時期尚早」とのみ伝え,ベンチャー企業に断りの理由の真意が十分伝わっていないことは,ベンチャー企業が製薬企業の視点での改善を行わないまま,単に開発を先に進めればよいと誤認することになり,両者のアライアンスにとってマイナス要因となると考えられた.
特集(臨床試験データの電子化)
  • 中島 唯善, 近藤 充弘, 藤岡 慶壮
    2015 年 5 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    コンピュータ・情報通信技術の発展は,治験においても大きな変革をもたらしている.臨床研究・治験活性化5か年計画2012のアクションプランにて「IT技術の更なる活用等」が目標として掲げられ,治験手続きに関しては,治験審査委員会の審査資料を電子ファイル化することが示されている.電子化は業務の効率と品質の両方を同時に向上できる反面,データの破損により一瞬にして見読性が失われたり,内容の改ざんが判明しにくい等の問題がある.本稿では,治験手続きの電子化を正しく実施するうえでの留意点を,法令上の整理も含めて解説する.
  • 小宮山 靖
    2015 年 5 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    医薬品医療機器総合機構が,次世代審査・相談体制構築に向けて準備を進めている。申請者は,承認申請時に主要な治験のデータをCDISC標準に準拠した形で提出することが求められることになる。製薬業界は,この大きな変化の大義には賛同するものの,変化のスピードが速すぎることが,さまざまな課題や不安を生み出している。しかし,これらは克服可能であると筆者は考えている。CDISC標準に準拠していない治験データを,CDISC標準に準拠した形式にデータ変換することが当面の課題として注目されているが,多大なコストを費やし,実施中の治験の質を向上させることもないデータ変換は可能な限り早くやめるべきである。データ収集から報告までのすべての過程でCDISC標準を導入することにより,事後的なデータ変換にかかるコストはゼロにして,「データを扱うプロセスに質を作りこむ力」,「データを相互利用する力」を高めることができる。
  • 吉田 易範
    2015 年 5 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    医薬品の承認審査に関しては,「日本再興戦略」においてPMDAの強化の必要性が指摘され,さらに,「健康・医療戦略」では,「PMDA自らが臨床データ等を活用した解析や研究を進め,審査・相談において,より合理的で効率的な評価・判断プロセスの構築を進める」こととされている.PMDA自らがデータを活用した解析や研究を実施するためには,まず,PMDAに提出される臨床試験成績が電子データとして提出されることが重要となる.臨床試験成績を電子データとして収集することで,個々の品目の承認審査において様々な解析が可能となり,より客観的で科学的な意思決定につながり,承認審査の質の更なる向上に資するものと考えられる.また,様々な品目に関する試験データを同様に集積することで,品目横断的な検討が可能となるとともに,近年注目されているModeling & Simulation等の活用にもつながるものと考えられる.一方,承認申請時に電子データを提出することは,申請者側にも多くの利点があると考えられる.本稿では,我が国における次世代審査・相談体制構築の現状について概説する.
  • 髙田 宗典, 青木 敦, 荒川 義弘
    2015 年 5 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    現在,国により信頼性の確保された臨床研究を支援する拠点の形成を推進している.また,倫理指針の改訂では信頼性の確保が義務づけられている.そこで必須となるのは,人材育成と信頼性の確保の支援,試験を貫徹できるための支援である.医療機関での電子化に関する課題として,長期の記録の保存・管理,申請・審査の効率化,症例データの収集と品質管理,e-learningによる教育・研修の4点が挙げられる.中でもElectrical Data Capture(EDC)によるデータ収集と品質管理は,医師主導の治験だけでなく,医療機関における多数の臨床研究の信頼性の確保のためには不可欠なものとなっている.そこで,設定容易で気軽に使用可能なEDCが必要となり,アカデミアが独自に開発している.筆者らも,独自のEDCシステムUHCT ACReSSを企業と共同開発し,大学間で運用を開始しており,最近利用が急拡大している.また,臨床研究に携わる者がそれぞれの役割に応じた学習目標と履修状況を把握しe-Learning等により学習していくLearning Management Systemの導入も着手している.医療機関においても,臨床研究の実施と信頼性確保のために電子化が担う役割は大きい.
  • 齋藤 俊樹, 齋藤 明子, 近藤 修平, 永井 かおり, 西岡 絵美子, 堀部 敬三
    2015 年 5 巻 1 号 p. 61-71
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    名古屋医療センターが主に支援してきた希少疾患領域の臨床試験は,市場が小さく臨床研究実施の資金供与を受けにくかった.電子化により品質を担保しつつ業務を効率化することを試みた.具体的にはコスト,即ち時間と資金がかかる症例報告書作成,問合せ業務,重複登録対応,安全性情報マネジメント,収集データの標準化,国際共同試験対応,検査値入力とモニタリングについて電子化を推進した.独自ウェブアプリケーション開発,安全性情報マネジメントシステム開発,CDISC対応,電子カルテ連携コンセプト実装など,各業務の特性を考慮した電子化の導入によりデータマネジメント業務の品質向上とコスト低下が認められた.
シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 石井 健介, 俵木 登美子
    2015 年 5 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    市販後調査(PMS: Post Marketing Surveillance)は,治験では得られなかった実臨床下での医療機器の有効性・安全性を確認し,患者にとって臨床上の有益な情報をもたらすと共に,市販後の安全対策を図る上でも重要なものである.しかし,企業のみによるPMSには様々な課題を抱えている.現在,世界的にも産官学の連携による市販後レジストリの構築が重要な位置を占めつつある.良くデザインされた質の高い市販後レジストリは,迅速な安全対策の実施や,患者治療の最適化,医療機器の真の性能把握,治験の軽減などにつながる可能性がある.すでに我が国でも産官学の連携による市販後レジストリ(J-MACS,TAVIレジストリ)が開始されているが,今後さらにレジストリから得られるエビデンスの利用価値などを検討しながら,様々なレジストリを実施していくことが望まれる.
講演録
ICH(日米EU 医薬品規制調和国際会議)の報告
  • 齋藤 宏暢, 金澤 誠器
    2015 年 5 巻 1 号 p. 93-101
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)は日本,米国,欧州の審査当局と製薬業界が中心となって,Quality,Safety,Efficacy,複合分野における新薬開発に関わる技術的文書を作成し,3極の審査当局が作る新薬開発に関わる薬事規制文書を後押しする活動である.ICHの活動は20年が過ぎ,基本的なガイドライン策定は終了したが,昨今の新薬開発の多様化および新しい技術の導入に関する国際的な調和の必要性から複数の新規案件および重要なガイドラインの改定が行われている.特に,Efficacyの分野においては,臨床試験の品質向上とコスト低減の必要性とともにグローバル試験の定着を目的としたGCPの改定(E6),Multi-Regional Clinical Trialの考え方の統一的な見解の議論(E17),遺伝子情報の取得・保存の検討(E18)が行われている.また,次世代審査体制の導入と世界同時申請・承認を目指す企業の増加により,承認申請文書(Common Technical Document)へのRisk/benefitの評価項目の導入(M4),統計解析における脱落・中止症例のフォローの意義や解析方法の検討(E9)が議論されている.ICH活動はグローバル化されてきた新薬開発へのImpactが強く,作成されたガイドラインが現状にあった新薬開発の道しるべになることが期待される.
報告
  • 塚本 桂, 竹中 登一
    2015 年 5 巻 1 号 p. 103-110
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/06
    ジャーナル フリー
    医薬品開発は,よりグローバル化,より長期化しており,これに伴い開発コストは増加している.より優れた革新的な医薬品を効率よく生み出すためには,レギュラトリーサイエンスの教育と研究の推進をせねばならない.そこで,世界最大の医薬品市場を持ち,新薬創出の起点でもあるアメリカのアカデミアにおけるレギュラトリーサイエンスの教育と研究の現状を調査した.その結果,日本と同様にアメリカにおいても規制当局である米国食品医薬品局がイニシアチブを取ってレギュラトリーサイエンスを変革させていた.その上で,各大学が特色のある教育と研究を進めており,①完全オンライン化を含めた教育提供方法による専門教育の最適化,②同じ場所で産官学が学ぶことによる情報共有,③シームレスな大学間並びに産官学連携の3つの鍵となる取り組みが明らかとなった.日本では薬学におけるレギュラトリーサイエンスの教育と研究は緒に就いたところであり,アメリカのようなダイナミックな産官学連携がまだ少ない.薬物動態学,製剤学,分析化学などの複合学問領域である薬学は,レギュラトリーサイエンスの発展に重要な役割を果たすべきである.我々は,アメリカの実例を参考にしつつ,レギュラトリーサイエンス教育と研究を発展させ,規制当局及び製薬企業と一緒になって医薬品開発推進を加速すべきであると考える.
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