レギュラトリーサイエンス学会誌
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12 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 平田 恭洋, 尾上 洋, 藤岡 要彰, 西尾 洋紀, 孫 尚孝, 益山 光一, 北垣 邦彦
    2022 年 12 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    薬局薬剤師は,病院薬剤師をはじめとした医療従事者と連携することにより,切れ目のない医療を地域全体で支える地域包括ケアシステムにおいて重要な役割を担っている.入退院時における患者の服薬状況などの情報共有は,連携の重要な一つであり,医療従事者の業務負担軽減や医療の質向上につながる可能性がある.本研究は,薬局薬剤師が入院前の患者の服薬状況などの情報を提供することが,病院薬剤師の負担軽減や円滑な業務遂行につながるかを検討することを目的とした.病院薬剤師を対象として入院患者の持参薬管理の現状と薬局薬剤師からの情報提供の有用性などについて質問紙調査し,その結果をCS分析に付した.薬局薬剤師による情報提供は病院薬剤師業務に対する有用性が高いことが示唆された.しかし,薬局薬剤師が提供する文書を使用する病院薬剤師は20%にとどまり,お薬手帳に比べて信頼性が低かった.その課題解決には,患者の服薬情報を一元的・継続的に把握する「かかりつけ薬剤師・薬局」を一層推進していくことと,その情報が薬局薬剤師・病院薬剤師間でスムーズに共有される連携体制の構築が求められる.

オピニオン
  • 神名 明寛, 中村 淳子
    2022 年 12 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    研究開発型製薬企業と医療機関との円滑な協働のためには,高い透明性の確保と,情報公開による社会からの信頼・信用の獲得は不可欠である.日本製薬工業協会や医療用医薬品製造販売業公正取引協議会は,奨学寄附のあり方や医療機関との関係性に関する指針などを示している.加盟各社はそれらの指針を遵守し,医療関係者や研究者が企業から独立して行う「研究」や学会などが行う「学術集会・講演会」に対し,各社の責任のもと「寄附」による支援を行っているが,多くの課題が残されている.ファイザーでは,医療関係者や研究者が企業から独立して,自ら企画・立案し,自らの責任で実行する患者さんのアウトカムを向上させるための課題解決の取り組みに対し,契約にもとづく「助成」による支援を行っている.この助成の枠組みでは,期待される成果を事前に評価し,助成契約を締結した後に資金や物品供与による支援を行い,支援の結果,患者のアウトカムがどのように改善・向上したかについても報告を求める.また,この助成による支援の対象は研究分野にとどまらず,医療現場で必要とされている医学教育やトレーニング,医療関係者の行動変容やシステム(体制)の変更を促すための取り組みにまで及ぶ.本稿では,日本における製薬企業からの支援,とりわけ奨学寄附による支援に対する問題提起を行うとともに,ファイザーの助成プログラム “Independent Medical Grants” の紹介,および製薬企業からの支援のあり方に関する提言を述べる.

資料
  • 豊田 浩子, 渡部 ゆき子, 衣川 佳伸, 友谷 美知子, 松浦 潤治, 松澤 寛
    2022 年 12 巻 1 号 p. 25-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    治験依頼者が治験責任医師および実施医療機関の長に被験者を保護するための安全性情報を伝達することは「医薬品の臨床試験の実施の基準」(GCP)に基づいて行われている.この安全性情報の伝達方法に関して日本製薬工業協会(以下,製薬協)は2009年にガイダンスを提案した.この提案から10年以上が経過し,その間に国際共同治験の増加など治験を取り巻く環境の変化があった.そこで,実施医療機関および治験依頼者(企業)に対して,治験における安全性情報の伝達について2019~2020年に現状調査を行った.その結果,緊急かつ重要な情報は迅速に伝達し,それ以外の情報とでは伝達期限にメリハリをつけていた.また,製薬協が提案してきた共通ラインリストが普及していることが確認できた.伝達の効率化がみられる一方で,実施医療機関へ伝達する安全性情報の量はこの10年で増加しており,特に日本特有の要求事項である外国市販後情報はかなりの割合を占めている.これは,これまで法規制上解決することのできない課題であったが,2019年に「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」の一部が改正され,被験薬の外国市販後症例に関しては条件によって報告免除とすることが可能となり,伝達量の軽減が期待できることとなった.一方で,新たに治験使用薬という概念ができ,伝達対象として被験薬以外に併用薬なども含まれることとなった.これにより,伝達すべき安全性情報の量の増加が予想されることから,さらにメリハリのある情報伝達が求められる.今回の薬機法改正による変化に対し,治験依頼者は治験での安全性情報の取り扱いにおいて新たな課題に対応し,被験者の安全を確保することが重要である.

特集(「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス」に係る基本的考え方と今後の課題)
  • 鈴木 直
    2022 年 12 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    近年がん医療と生殖医療の発展に伴い,がん治療開始前に妊孕性(子どもを将来授かる可能性)を温存できる小児・AYA世代がん患者が増加している.がん治療医は,がん治療開始まで時間的猶予がない中で,がん患者に対して治療による性腺機能障害の可能性に関する正確な情報を伝え,生殖医療を専門とする医師との密な連携のもと,妊孕性温存療法に関する患者の意思決定を促す場を可能な限り早期に提供すべきである.なお,がん・生殖医療においては,原則としてがん治療が何よりも優先されることになる.一方,挙児希望を有するがん患者が,原疾患の状態によってはがん治療終了後早期に,妊娠にトライする場合がある.その際,抗がん薬による治療や放射線治療の配偶子に対する影響を排除した後に,がん治療終了後いつから妊娠にトライすることが可能になるのかが問題となる.生殖可能な若年がん患者などへの医薬品使用が胚・胎児または次世代に及ぼす影響を回避するために,米国食品医薬品局は2019年5月に,また2020年2月には欧州医薬品庁が本領域のガイダンスを公表した.しかしながら本邦には,本領域のガイダンスに該当する指針が存在していなかった.そこで,日本医療研究開発機構(AMED)の「生殖能を有する者に対する医薬品の適正使用に関する情報提供のあり方の研究班(JP20mk0101139)」では,生殖医療,毒性学および医薬品の安全対策に精通した専門家の意見を集約して,医薬品使用時の避妊に対する考え方に係るガイダンスを2021年3月に作成した.

  • 小野寺 博志
    2022 年 12 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    サリドマイドは大きな薬害をもたらし,この世から回収された.このサリドマイド事件により薬の安全性に対する規制やガイドラインが大きく進んだ.危険な薬は事前に予測できるようになった.しかし,サリドマイドは2008年再び承認された.難治性多発性骨髄腫の適用で適正ガイドラインにより厳しく管理することが条件である.医薬品開発での安全性はICH(医薬品規制調和国際会議)ガイドラインで試験の種類や実施時期が決められている.その非臨床安全性試験の結果にもとづき臨床試験が行われ,適切な用法用量が決められる.特別な場合以外,妊婦や妊娠の可能性のある女性での治験はできない.添付文書での多くは「妊婦,妊娠可能な女性への投与経験はない」という記載である.特に遺伝毒性のある薬は「禁忌」となる.AYA世代にがん治療を受けた女性のリスクについて改訂されたICH S5(R3)から考えてみた.

  • 根来 宏光, 西山 博之
    2022 年 12 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    医薬品の避妊に関するガイダンスが,AMED(日本医療研究開発機構)研究班「生殖能を有する者に対する医薬品の適正使用に関する情報提供のあり方の研究」でとりまとめられた.このガイダンスでは,生殖可能な患者への医薬品使用による胚・胎児発生に対する潜在的リスクを最小限に抑えるため,投薬治療中および最終投薬後に避妊が推奨される条件および避妊期間に係る基本的な考え方を示している.本稿では,ガイダンスの男性避妊について概説するとともに,「生殖補助医療(配偶子の凍結など)」,「放射性医薬品,再生医療等製品,ワクチン等の生殖発生毒性リスク」,「感染性を有する可能性のある医薬品における性行為に伴うパートナーへの感染リスク」の3点について補足したい.

  • 髙井 泰, 中村 永信
    2022 年 12 巻 1 号 p. 63-73
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    抗がん剤など,がん患者に対して用いられる医薬品では卵巣毒性や遺伝毒性を有するものが少なくない.加齢によって卵巣予備能(卵巣中の卵子数)は徐々に低下するが,卵巣毒性物質に曝露されると卵巣中の卵子数が急激に低下する.このため,化学療法前に卵子・卵巣を採取して凍結保存する妊孕性温存治療が近年普及しつつある.また,加齢に伴い卵子の質が低下することを「卵子老化」というが,卵子のDNA修復能が加齢に伴い低下することが知られている.米国食品医薬品局や欧州医薬品庁と同様に,わが国の添付文書ガイダンスでも,卵巣毒性を有する医薬品の投与後まもなく受精した場合に胎仔死亡率や奇形発生率が増加しうるというマウスの実験結果にもとづき,遺伝毒性を有する医薬品の中止後は,血中半減期の5倍+6カ月間の避妊が望ましいとされる.しかしながら,一般に医薬品の胎児に対する催奇形性が問題となるのは受精後2~8週(妊娠4~10週)の器官形成期であり,化学療法直後に採取・凍結された卵子・卵巣からも健児が得られているため,避妊期間中に妊娠した女性やそのパートナーには,リスクに関する丁寧なコミュニケーションと十分なカウンセリングが必須である.

  • 米村 雅人, 藤城 法子, 元永 伸也
    2022 年 12 巻 1 号 p. 75-83
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    日本,欧州,米国における医薬品添付文書に係る規制は,各国の規制当局において管理されている.日本における医薬品添付文書に相当するものは,欧州では欧州製品概要(summary of product characteristics: SmPC),米国ではLabelingとして扱われている.この添付文書における避妊に係る情報記載内容に関して,日本,欧州および米国における内容に差異があることがわかった.海外の添付文書において,具体的な避妊期間の記載がある場合においても,国内添付文書においては「一定期間の避妊」とする具体性の乏しい記載があることもわかった.米国では,「Oncology Pharmaceuticals: Reproductive Toxicity Testing and Labeling Recommendations Guidance for Industry」が2019年5月に発出され,各医薬品に関する血中濃度半減期にもとづく具体的な避妊期間の注意喚起がされている.本邦の添付文書における避妊期間の記載においても,具体的な期間が記載される必要があると考える.

  • 堀口 逸子, 本田 恭平, 高田 拓哉, 石橋 由基
    2022 年 12 巻 1 号 p. 85-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    本報告では,医療提供者とがん患者との間で行われる,医薬品の使用に伴う避妊の必要性に関するリスクコミュニケーションについて考察する.20歳代から40歳代の男女2,000人を対象に,Webサイトを利用した質問紙調査を実施した.10の用語のうち,最も認知率が高かったのは「抗がん剤」で79.8%だった.しかし,半数以下の用語で,認知率が20%以下だった.これらの結果から,医療提供者は情報提供の際に,コミュニケーションスキルを駆使する必要がある.「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス」は,患者に対して正確な情報を提供するためのツールになる.ホームページ上の表現を精査したり,用語集を用意したりすることで,医療提供者と患者双方のコミュニケーションの負担を軽減し,理解を促進することができると考えられる.

  • 大平 隆史, 上杉 幸嗣, 勝良 藍子
    2022 年 12 巻 1 号 p. 93-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス(案)」は,性別を問わず生殖可能な患者への医薬品投与による次世代以降に対する発生毒性および遺伝毒性の潜在的リスクを最小限に抑えるため,投与中および最終投与後に避妊が推奨される条件および避妊期間にかかわる基本的な考え方を示すことを目的として取りまとめられた.非臨床試験,臨床試験および市販後に得られる安全性情報を踏まえた避妊に関する注意喚起について,添付文書上の避妊を規定する際の設定方法および医療現場における避妊に関する安全性情報の解釈の一助となることが期待される.今回,本ガイダンス(案)の概要およびガイダンス(案)をふまえた製薬企業の今後の対応について紹介する.

シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 福田 悠平
    2022 年 12 巻 1 号 p. 99-105
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    近年,AIを活用した画像診断支援システムや患者がスマートフォンにインストールして使用する治療用アプリなど,さまざまなプログラム医療機器が開発・実用化されており,新たな診断・治療の選択肢として期待されている.2013年の医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)の改正により,単体プログラムが医療機器の範囲に含まれることが明確化されて以降,プログラム医療機器の承認件数は増え続けている.加えて,「経済財政運営と改革の基本方針2021」(2021年6月18日閣議決定)および「成長戦略実行計画」(2021年6月18日閣議決定)においても,プログラム医療機器の開発・実用化を促進するため,承認審査の迅速化を図ることとされた.このような背景を踏まえ,厚生労働省では,2020年11月に「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略」(通称:DASH for SaMD,DX(Digital Transformation)Action Strategies in Healthcare for SaMD(Software as a Medical Device))を公表した.DASH for SaMDは,①萌芽的シーズの早期把握と審査の考え方の公表,②相談窓口の一元化,③プログラム医療機器の特性を踏まえた審査制度の創設,④早期実用化のための審査体制強化等の4つの柱からなる.このうち,②と④については,2021年4月までにすでに対応しており,①と③については,今後対応していく予定である.

追悼文
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