レギュラトリーサイエンス学会誌
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10 巻, 3 号
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原著
  • 成川 衛, 山田 知子
    2020 年 10 巻 3 号 p. 87-98
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    医薬品リスク管理計画 (RMP) に基づく追加のリスク最小化活動として実際の製品 (製品名 : ゾフルーザ (成分名 : バロキサビル マルボキシル) ) に対して作成・提供されている患者 (保護者) 向け情報資材を用いて, 患者の保護者を対象としたインターネット調査により, その配布 (受領), 内容の理解, 安全対策の実施などの状況を評価した. その結果, 資材を受け取り, 内容を理解した保護者においては, 高い割合でリスク最小化の対策がとられていたことが確認できた. 一方, 調査の内容, 手続きの両面において, 実際的なさまざまな課題があることが明らかとなった. リスク最小化活動は, 患者の安全の確保・向上を究極の目的に計画・実施されるものであり, それが当初目的とした効果を実際に発揮しているかどうかを確認する必要性に疑いの余地はない. しかし, そのためのプロセス・方法論は確立されていない状況にあり, 今後, RMP制度の実施に伴って蓄積していく情報・経験も踏まえながら, その手法や考え方について検討を深めていく必要がある.

  • 神山 幸輝, 阿部 貴至, 唐澤 健介, 小林 江梨子, 佐藤 信範
    2020 年 10 巻 3 号 p. 99-108
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究ではラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の先発医薬品とその後発医薬品4製剤を対象に, 製剤学的性質と経済性を比較検討することを目的とした.

    デジタルフォースゲージ (ZTS-500N, (株) イマダ) を用いて, 点眼液1滴を滴下する時に要する押し出し力 (スクイズ力), 1滴重量および総滴数の測定を行った. また, 各製剤の薬価をもとに, 1滴当たりの薬剤費を算出した.

    1滴重量は先発医薬品が最大の27.13mgであり, すべての後発医薬品と比較して有意に大きかった (いずれもp<0.01). スクイズ力は, 先発医薬品の3.05Nに対し, 後発医薬品は2.75Nから7.24Nまで相違があった. 総滴数は先発医薬品が最少の104滴で, すべての後発医薬品と比較して有意に少なかった (いずれもp<0.01). 1滴当たり薬剤費は先発医薬品が24.42円, 後発医薬品は10.17円から10.71円まで相違があった.

    総滴数はすべての製剤で100滴を超えており, 使用期限である開封後4週間経過時点において残液が生じることが想定されるため, 薬液の充填量を減らすことの必要性が示唆された. スクイズ力の小さな製剤が点眼しやすい一方, 液垂れの懸念があるとの報告があるため, 今後は対象製剤の液垂れと使用感との関係について調査する必要性があると考えられた.

  • Ryota INABA, Jin SUZUKI, Takako MORIYASU
    2020 年 10 巻 3 号 p. 109-121
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    カラーコンタクトレンズは, 色素の露出や色素による表面の粗さについて問題視されているが, Z-stack法を除き, 効果的な色素の深さ測定法が確立されていない. 本研究の目的は, 存在の深さを高分解能に測定する定量分析法を提案することである. この目的のため, 電子顕微鏡を用いて, カラーコンタクトレンズ中の色素の深度分布を解析する方法を検討した. 本研究では, レンズ表面から色素までを測長するために, 包埋樹脂中におけるコンタクトレンズの表面の可視化法を検討した. その結果, 切り出したカラーコンタクトレンズを凍結乾燥してから, 表面に白金/パラジウムをスパッタコーティングすることで境界を明瞭に観察できることがわかった. STEMで測定した結果をZ-stack法で測定した値と比較したところ相関関係を認め, この前処理方法がレンズの厚さに及ぼす影響はZ-stack法の分解能以下であった. 色素深度を分析したところ, 検討で使用した試料では, 表面から色素までの距離が36.9nm~18.7μmであった. 電子顕微鏡観察に必要な前処理を行い分析することでmmオーダーからnmオーダーの測定が可能となり, 従来の深度の定量分析法では分析できなかった100nm未満の分布も測定が可能である. この方法は, 製品の品質と健康被害の因果関係を明らかとする, 有力な評価法となると考えている.

総説
  • 高村 建人, 鈴木 伸敏, 橘 敬祐, 近藤 昌夫
    2020 年 10 巻 3 号 p. 123-130
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    現在の日本では人口減少や少子高齢化が急速に進展しており, 社会保障の充実と財政健全化は喫緊の課題である. 団塊の世代が75歳以上となる2025年, さらには高齢者数がピークを迎える2040年に向けて総人口は減少の一途をたどり, 2040年には総人口が11,092万人にまで減少し, 1.4人の現役世代が1人の高齢者を支えることになると予測されている. また, 社会保障給付費のうち国民医療費も, 2018年度の39.2兆円から2040年度の66.7~68.5兆円まで約1.7倍に上昇すると考えられている. 近年, 革新的な医薬品が開発・承認されて医療に貢献している一方で, その高額な薬価が問題視されている. それら薬剤料に大きな影響を及ぼす薬価の算定において, 類似薬がない新薬では原料費や製造経費のほかに, 販売費および一般管理費なども加算される. そこで本総説では, 現役世代が減少し高齢者数がピークを迎える2040年を見据え, 社会保障の持続可能性を確保するための医療費の削減に向けて, 薬価制度における製薬企業の費用構造をふまえた上で, 医療費の削減に寄与し得る薬剤師の役割について考察する.

  • 太田 和, 橘 敬祐, 日下部 哲也, 近藤 昌夫
    2020 年 10 巻 3 号 p. 131-137
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    最近, 健康・医療に係る大量の生体情報の医療への利活用が進み, 人工知能 (AI, Artificial Intelligence) 技術などを用いた多種多様な機器の開発が加速している. これらの機器の中で, その使用目的や提供形態などから医療機器に該当するものは, 医薬品医療機器等法にもとづき安全性, 有効性などを確保することが求められる. 医療機器の性能を承認後に変更するには一部変更承認などを経る必要があり, 結果的に市販後の性能変化は段階的であったが, AI技術によって創成される医療機器は, 承認後の速やかな改良・改善, 市販後に常に性能が向上するといった従来の医療機器にはない特性を有するケースがある. そのため, 性能などの段階的な変化を前提とした承認事項の変更スキームとは異なる, 常に変化することを前提とした新たな薬事規制の枠組みが必要となる. 実際, 令和元年の医薬品医療機器等法の一部改正に係る議論の中で, 医療機器の特性を踏まえた新たな承認制度の在り方が俎上に上り, 一定の範囲で継続した改良・改善を可能とするスキームが構築されている.

    本稿では, 国内での承認事例などをもとに, AI技術の進歩に伴い芽吹きつつある性能が常に変化しうる医療機器について, 規制法上の課題とその解決の方向性を議論する.

報告
  • 日下部 哲也, 立石 千晴, 藤井 比佐子, 西川 武司, 南 千華子, 西宇 美恵子, 日野 雅之
    2020 年 10 巻 3 号 p. 139-152
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    医薬品医療機器等法で取り扱うレギュレーションは, 医薬品・医療機器等の薬事関連製品の開発, 承認審査, 製造および市販後の各段階を厳格に制御している. アカデミアにおいても, 医療イノベーションを達成するためには, 医薬品等の基礎研究・臨床研究を実施するにあたって, 薬事レギュレーションの熟知と遵守が求められる.

    近年, AROはアカデミアにおける薬事関連製品などの新規開発を促進するため, 基礎研究から臨床研究・治験, 実用化までの工程を一貫して支援する組織として, アカデミアの内部に設置されるようになってきた. 特に, オープンイノベーションにおいては, アカデミアの役割が大きく期待されており, 大阪市立大学では, 「レギュレーションを制する者はイノベーションを制する」 をキャッチフレーズに掲げ, 各種ARO活動を精力的に進めてきた.

    本稿では, アカデミアにおけるイノベーション創出に向けた取り組みとして, 大阪市立大学医学部附属病院にAROとして設置された臨床研究・イノベーション推進センターが担うイノベーション創出への取り組みの状況を紹介するとともに, イノベーションと相互浸透の関係にあるレギュレーションへのアカデミアの関わりについて考察する.

資料
  • 池田 孝則, 田口 和彦, 津田 雅之, 渡部 一人
    2020 年 10 巻 3 号 p. 153-167
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    日本の 「医薬品毒性試験法ガイドライン」 の最終改正が行われて, すでに約20年が経過した. 医薬品規制調和国際会議 (ICH) では, ガイドラインの新設や既存ガイドラインの改正が行われているが, その内容は 「医薬品毒性試験法ガイドライン」 に反映されていない. そこで, 日本製薬工業協会医薬品評価委員会基礎研究部会では, この間にアップデートされたICHガイドラインの内容, 動物福祉の推進および科学的な進歩を取り入れた検討案, すなわち 「医薬品一般毒性試験法ガイドライン」 (検討案) を作成した. 本検討案が今後の同ガイドライン見直しの一助に資することを期待する.

特集(臨床試験の電子データ標準化と活用)
  • 小宮山 靖, 淡路 直人, 土屋 悟, 橋尾 美穂, 鈴木 正人, 月田 あづさ
    2020 年 10 巻 3 号 p. 169-174
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    承認申請に際してCDISC標準に準拠したデータの提出を日本と米国の規制当局が義務づけた. このことが製薬業界に大きな影響を与えている. 世界共通の臨床試験データ標準であるCDISC標準は我々に大きな恩恵をもたらすはずである. つまり, ①再利用を可能にする力, ②相互利用を可能にする力, ③異なる試験のデータを併合し単独の試験では得られない知見を得る力である. しかしながら, 現時点において製薬業界はこれらの恩恵を完全には享受できていない. その大きな理由は, CDISC標準に準拠していなかった臨床試験データをCDISC標準に準拠するデータに変換する仕事に追われていることである. 我々は承認申請直前のデータ変換から脱却し, CDISC標準の完全な実装を急ぐべきである. 我々がPMDAに期待することは, 提出され蓄積されるデータをもつこととなったPMDAだからこそできるレギュラトリーサイエンス研究をたくさん行っていただくこと, そのフィードバックを医薬品を開発しようとする企業や研究者に与え続けていただくこと, 世界中に有用な情報を発信し続けていただくことである.

  • 湯川 智仁, 牧野 奈緒, 田畑 一作, 䅏田 真生
    2020 年 10 巻 3 号 p. 175-182
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    2020年4月の申請電子データ提出義務化に向けて, 各組織でCDISC準拠データ作成プロセスの標準化に取り組み, 経験も蓄積されてきた. 委受託業務においては, まだ組織や担当者間の業務品質や手順に対する考え方のばらつきに起因する手戻りも多く, 業務開始前の委託・受託側による共通認識の形成プロセスに課題が残る. 日本CRO協会加盟会社を対象とした申請電子データ支援サービス提供体制や課題を問うアンケート調査結果からは, CDISC準拠データ作成プロセスの標準化が一般的に業務効率化につながることが確認できた一方で, 標準化に至っていない業務も明らかになった. 事例として, 申請支援および臨床薬理領域関連業務における課題と解決策例を示す.

    そこで, CROが高品質の申請電子データ関連サービスを安定的かつ効率的に提供するため, 委託・受託側それぞれの申請電子データ提出関連プロセスの標準化に加え, 委受託業務において各社の標準化のメリットを発揮し無駄なく進めるための留意事項を検討した. 業務の各段階で押さえるべき事項として, 開始前までの委受託業務範囲, 役割分担, および品質基準の合意形成と実施計画への反映, 実施中の評価, 終了後の振り返り時に確認すべき項目をチェックリストにまとめ, 委受託業務で利用できるようにした.

  • 山口 拓洋, 山田 優子, 邱 士韡
    2020 年 10 巻 3 号 p. 183-186
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    東北大学病院臨床試験データセンターでは, 2013年度から業務プロセスにCDISC標準の導入を進めている. 本稿では, PMDAの臨床電子データの試行的提供 (パイロット) に参加した経験を中心に, 当データセンターのCDISC標準推進の取り組みについて説明するとともに, 今後の課題についても言及する.

  • 關野 一石
    2020 年 10 巻 3 号 p. 187-193
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    医薬品の製造販売承認申請時の電子データについて, 2016年10月に電子データの受付を開始し, 2020年3月31日に電子データ提出に係る経過措置期間が終了した. 経過措置期間の終了に向け, 適宜, 通知の改正などの対応を行ってきた.

    申請電子データの提出に係る相談について, 2015年5月15日に相談開始後2020年3月31日までに387件の相談を実施した. 申請電子データの提出に係る相談の実施件数は, 毎年増加傾向にある.

    申請電子データの受付開始後2020年3月31日までに116件の申請電子データの提出があり, 承認審査で提出された電子データを利用している. また, PMDAでは, 蓄積された申請電子データを利用した品目横断的な臨床試験データの解析などの検討を進めている.

    経過措置期間終了後も, 申請電子データの提出状況などをふまえ, 必要に応じて適宜, 通知の改正などの対応を行っていく予定である.

シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 妙圓薗 あや, 横山 敬正, 緒方 映子, 福田 英理子
    2020 年 10 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/30
    ジャーナル フリー

    PMDAが2016年に設立したアジア医薬品・医療機器トレーニングセンター (略称 : PMDA-ATC) は, これまでに培った知識・経験を活用し, アジアをはじめとする世界の規制当局の担当者向けの研修を提供してきた. 研修内容は, 薬事規制の基礎から実践的なものまで多岐にわたる. 基礎的な講義については, 規制当局担当者の人材育成に必要な情報として, 例えば国際標準やガイドライン, 医薬品・医療機器等のベネフィット・リスク評価, 製造販売後安全対策などが含まれ, また, 実践的な研修については実際の製造施設における模擬調査などを実施し, 各国のGood Manufacturing Practice (GMP) 査察官にとって貴重な経験の場となっている.

    PMDA-ATCの活動は, アジアをはじめ世界における薬事規制水準の向上, 医薬品・医療機器等へのアクセス改善, および保健衛生の向上を目指したものであり, 近年, その活動が国際的にも評価されている.

    本稿においては, これまで4年間にわたるPMDA-ATCの取組みとその成果についてまとめ, 今後の方向性について述べる.

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