Second Language
Online ISSN : 2187-0047
Print ISSN : 1347-278X
ISSN-L : 1347-278X
最新号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
Editor's Note
PART I
特別寄稿「2024年度秋季研究大会」
  • 新多 了
    2025 年24 巻 p. 3-23
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    言語は, 私たちの文化的, 社会的, 心理的な側面と深く結びつき, これらが絶えず相互作用する中で, 時間の経過とともにダイナミックに変化する.中でも第二言語学習は, 異なる母語, 経験, 性格, 動機づけ, さらには異なる学習目標を持つ学習者が, 多様な環境で取り組む複雑なプロセスである.複雑系理論は, 学問分野間の壁を越え, 分野超越的な視点から第二言語学習を再考・再検討するための理論的枠組みを提供する.本稿では, 複雑系理論の視点から, 第二言語学習とは何か, どのようにして学習は進むのか, また同じ教育環境において学習が進む人と進まない人がいる理由について考える.まず, 「複雑系」とは何か, その特徴と現象について説明する.次に, 著者らが15年間にわたり行ってきた研究プロジェクトを紹介する.このプロジェクトでは, ライティングタスクのくり返しを通じて, 大学生の第二言語ライティング能力がどのように発達するか調査してきた.これまでに, 600名以上の大学生から18,000件以上の英語ライティングデータを収集している.このプロジェクトから得られた研究成果は, 大きく2つの側面に集約できる.一つは, 第二言語ライティング能力の長期的発達, もう一つは学習者心理, 特にエージェンシーの変化に関するものである.前者では, タスクのくり返しが第二言語ライティング能力の発達にどのように影響するかを調査し, 「相転移」の条件や長期的な発達パタンを特定した.後者では, エージェンシーの変化が第二言語ライティングシステムとどのように相互作用するかを調査し, 英語学習に対する主体的な態度が第二言語ライティング能力の発達に与える影響について様々な知見を得た.この研究プロジェクトで得られた教訓をふまえ, 第二言語学習を新たな視点から考察する.

PART II
寄稿 シンポジウム1:第24回 国際年次大会 (J-SLA 2024)
  • 門田 修平
    2025 年24 巻 p. 24-25
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー
  • 村岡 有香
    2025 年24 巻 p. 26-38
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    本稿では, ワーキングメモリやLevelt言語産出モデル(1989)などの認知脳システムを参照しながら, 第二言語(L2)のスピーキングを向上させるための口頭練習としてシャドーイングについて検討した. 2023年に実施された全国学力テストで, 中学生の英語スピーキングテストの平均スコアの低さが明らかになっており, 日本の英語授業におけるL2流暢さの向上は難しいことが示唆されている. 複数のプロセスの同時処理という特徴と発話の自動化が欠如していることから, 第二言語での発話は難しいと考えられる. シャドーイングは, 聞き取った音声の即座な繰り返しを通して, 第二言語でのスピーキング力を高める効果的な練習法として提案されている (Kadota, 2012, 2015, 2018, 2019). シャドーイングがワーキングメモリの音韻ループをどのように活用して強化するか, 発話産出における調音装置と言語化装置をどのように鍛えるかについて論じる. これまでの先行研究では, シャドーイングが音声知覚と言語産出プロセスの一部を自動化することで, 音素知覚, 発音, より速い構音の改善につながることが示されている. 最後に, 7つのステップ (リスニング, マンブリング, パラレル・リーディング, プロソディー・シャドーイング, コンテンツ・シャドーイング, なりきり音読, リテリング) からなるシャドーイング・トレーニングの方法を紹介した. この体系的なアプローチは, 全体的チャンク学習, 分析的規則学習, 自動操作の段階を経て, スピーキングスキルを向上させることを目的としている.

  • 門田 修平
    2025 年24 巻 p. 39-50
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    言語の習得・学習は, 基本的に社会的プロセスであり, 人の社会脳システムの機能に依存している.本論では, 第二言語学習を促進する社会脳の基本的な3つのメカニズムについてまず検討する.すなわち, 1) メンタライジング, 2) ミラーリングシステム, および3) 視線情報の認識と共同注意の形成、である.

    1)メンタライジング:目の前の他者の視点や意図を推測する認知的メカニズムである.会話における他者の意図や含意を把握できるようになることで, 言語コミュニケーションをより円滑に行う役割を担う。この能力は第二言語においても、コミュニケーション能力の習得に必須である.言語教育においてメンタライジングを育む活動の一つにタスク・ベース学習があるが, ここでは、学習者は他の学習者の視点や考え方を考慮しながら仮題に取り組むことが求められる.

    2)ミラーリングシステム:ミラーリングは, 視覚的ジェスチャーや言語音声の模倣を可能にするもので, 流暢なコミュニケーションを支えるメカニズムである.このシステムを, 音声インプットの自己完結型シャドーイングや, インタラクティブ・シャドーイングの実施に際して活用することで, 英語の分節音や韻律音(プロソディ)の習得を促進し, その結果, 学習者間の神経同期を達成できる可能性がある.

    3)視線の認識と共同注意の形成:このメカニズムは, 右大脳半球の下前頭回を活性化させることで機能する, 社会的インタラクションによる第二言語学習に不可欠である.学習者は他者の視線を追うことで、第3項的な事物や出来事に共同注意を向けることができるようになる.この能力は, L1(母語)およびL2(第二言語)の語彙習得においては特に重要で, 共同注意を形成する活動の結果, 自他以外の第3項的な対象に注意を共有する協同学習タスクになる.

    本論では, 第二言語の習得を促進する「社会脳インタラクション能力(SBIC)」を提案し, 学習者の社会脳システムがその習得にいかに関与するか, その全貌を示したい.しかしながら, このSBICの習得には, 第二言語習得の認知的なキーポイントである, インプット処理, プラクティス, アウトプット産出, モニタリング(I.P.O.M.)を実践することが不可欠である.そうすることで, 第二言語運用に必要な知識の自動性が達成され, 効果的な社会脳インタラクションの前提条件となる.

  • 金澤 佑
    2025 年24 巻 p. 51-66
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    認知が情動と不可分に根本的に結びついているという考え方は, 哲学, 精神医学, 神経科学, 第二言語習得など複数の学問分野において理論化され, 支持されてきた.さらに, 感情は社会的に構築された現象であり, 社会情動リテラシーにおいても不可欠な要素である.言い換えれば, 認知と社会的インタラクションはどちらも情動と密接に関連している.本論では, 外国語学習におけるミクロレベル情動についての3つの仮説を概観する.第1の仮説は「Emotion-Involved Processing Hypothesis(EIPH;日本語訳=情動関与処理仮説)」であり, これは意味処理における感情的精緻化が, 情動関与がない単なる意味処理よりも強力な偶発的記憶痕跡をもたらす(すなわち、より深い処理となる)というものである.EIPHは複数の実証的研究によって支持されている.次に検討すべきは, どのような感情が言語学習にとって効果的であるのかという問題である.これに関連する第2の仮説は「Deep Positivity Hypothesis(DPH;日本語訳=ディープ・ポジティビティ仮説)」であり, 深い/意味的処理と学習はネガティブな感情よりもポジティブな感情によって促進されることが, 学際的な事実の線によりアブダクティブに提起されている.DPHは実証的に検証されているだけでなく, 第二言語習得において貴重な実践的洞察を提供しているポジティブ心理学の洞察と調和的である.では, ポジティブな感情が万能薬なのだろうか?必ずしもそうとは言えない.自由エネルギー原理に基づき提唱された第3の仮説は「Deep Epistemic Emotion Hypothesis(DEEH;日本語訳=深いエピステミック情動仮説)」であり, この仮説によると、快・不快といった情動価よりも, ポジティブ対ネガティブの二元論的構図を越えた知的な驚きや好奇心といったエピステミック情動が, 高次の知識獲得や記憶定着の促進において枢要であるというものである.DEEHは実証的に裏付けられているだけでなく, 擬似オートエスノグラフィー的にも支持されている.これらの発展する仮説は, 言語学習における情動と認知の動的な相互作用を理解し, 活用するための理論的・実践的な洞察を提供している.

PART III
寄稿 シンポジウム2:第24回 国際年次大会 (J-SLA 2024)
  • 若林 茂則
    2025 年24 巻 p. 67-69
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    本誌Second Languageの発行母体である日本第二言語習得学会は, その設立の趣旨で第二言語習得(SLA)研究とは何かを明確に定義付けている.2024年日本第二言語習得学会国際年次大会(J-SLA2024)のシンポジウムでは, 3人の研究者がその定義に合う研究とはいかなるものかについて提案をし, それに基づいて議論を行った.本章はその提案並びに議論に基づく論考である.いずれの論考も, これまでのSLA研究を批判的に振り返り, 科学研究としてSLA研究が取るべき道筋について提案を行っている.

  • 福田 純也
    2025 年24 巻 p. 70-83
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    第二言語習得の分野では、言語知識は意識的に活用できるもの(以下、意識的知識)と無意識的に活用できるもの(以下、無意識的知識)に伝統的に二分され、その区別は数十年にわたり活発な議論の焦点となってきた。本稿では、このような第二言語習得における意識的知識と無意識的知識に関する枠組みを広く紹介し、この分野の研究の歴史的発展を概観する。次に、これらの伝統的な枠組みを検討し、これまで示されてきた二分法は、同じものを対象にしているようでいて、拠って立つ枠組みによって異なるということを明らかにし、同じ現象に対しても枠組みによって違う解釈や予測が生じることを示す。そして、知識に内在する意識に関する理論は、第二言語を研究する限り、どのような言語理論に基づく研究にも関連する可能性があることを示す。これらの議論に基づき、このような意識の理論的研究には、言語理論と同様の探求の論理が必要であることを示し、今後の展望について述べる。

  • 木村 崇是
    2025 年24 巻 p. 84-101
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    本稿では, 生成文法の枠組みで行われる第二言語研究(GenSLA)において提案されてきた仮説の概念的問題を概観する.生成文法は本来, 明示的な文法体系を意味し, 明示的な定義を施された理論的装置のみが仮定され, 反証可能性の高い説明仮説が多数提案されてきた.本稿では, そうした試みの一部を紹介した上で, GenSLAにおいてこれまで提案されてきた仮説を批判的に検討する.特に, 近年提案された仮説の中には, 記述的性格をもち, より深いレベルの説明の探求に至らないものも多く, それらは主張の不明瞭性や検証不可能性といった根本的な問題も抱えていることを論じる.また, 表示欠陥仮説や表層屈折欠落仮説を例に, 導出された記述的一般化に対して, 適切な言語理論に基づいて明示的な説明仮説を構築する重要性について論じる.

  • 中田 達也
    2025 年24 巻 p. 102-109
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    本論文では, 第二言語(L2)の語彙習得に関する研究の現状を概観し, 今後の研究の可能性について論じる.具体的には, (1) 語彙習得研究におけるモデルの不在, (2) 語彙習得の定義, (3) 単語の習得 vs. 定型表現の習得という3点に関する問題を取り上げる.第1に, Meara (1997) は, L2語彙習得研究は“remarkably model-free” (p. 111)であり, これが語彙学習プロセスの理解を妨げていると指摘した.この分野でどのような進展があったかを議論する.さらに, 認知心理学など他分野の知見(例:検索効果, 分散学習効果)をL2語彙学習に応用した研究の意義と課題について論じる.第2に, 「語彙を習得するとはどういうことか」という点について検討する.語彙知識には, 少なくとも「サイズ」と「深さ」という側面がある.サイズとは, 「学習者はいくつの単語を知っているか?」という量的な側面であり, 深さとは, 「ある単語について学習者はどのような知識を持っているか?」という質的な側面である.これまでの研究の多くは, 語彙習得を初期の形式・意味のマッピングと定義し, 深さを無視してきた.しかし, 過去20年間で, 語彙知識の深さの学習に影響を与える要因を調べる試みがなされてきた.近年では, プライミングや視線計測などの手法を用いて, 宣言的のみならず非宣言的な語彙知識の測定に関する研究も行われている.第3に, 語彙習得研究の多くは単語の習得に焦点を当てていたが, 近年の研究により, 複数の単語から構成される定型表現(例:イディオム, コロケーション, 句動詞)が, L2の習得・処理・使用において重要な役割を果たしていることが示されている.定型表現の習得に関する研究の重要性と, その課題について議論する.

PART IV
研究論文 <国際年次大会からの投稿>
  • 久米 啓介, ヘザー マーズデン
    2025 年24 巻 p. 110-126
    発行日: 2025/10/31
    公開日: 2025/12/27
    ジャーナル フリー

    本研究は, 第二言語(L2)日本語における複数形態素「たち」の特定性(specificity)に関する制約の習得について「素性再構築仮説(Feature Reassembly Hypothesis, FRH)(Lardiere, 2008, 2009)」の枠組みで調査する.随意的に複数性を標示する日本語の「たち」には, それが接辞した名詞句が義務的に特定的な(specific)解釈を受ける(したがって, 特定の指示対象がない文脈において不適合である)という制約がある.本研究では, L2日本語学習者が「たち」の特定性制約を習得できるのか, また, 同様の特性が母語(L1)にある場合, それによって習得が促進されるのかを検証する.「たち」と同様に特定性制約を受ける複数形態素(-tul)がある韓国語と, 複数形態素(-s)が特定性制約を受けない英語がL1であるL2日本語学習者を比較した.容認性判断実験の結果から, (統制群として参加した)L1日本語話者が特定性制約を感知していることがわかった.一方でL2日本語学習者は, L1話者と類似した傾向を示しているものの, 当該制約への感度がL1話者ほど明確ではなく, また, その点において, 学習者のL1による差があることを示唆する証拠は得られなかった.しかし, 個人分析の結果は, それぞれのL2学習者集団において, 数名の上級レベルの学習者が明確に制約を感知していることを示しており, 当該制約のL2習得が少なくとも可能であることが示唆される.これらの結果にみられる「たち」のL2習得の困難性とL1の影響の不在は, 「たち」が, 通常の複数性(plurality)と特定性に加えて, 連合複数性(associativity)(「xとそれに関連する他者」を指す解釈)という複数の意味を持つことによる形式と意味の対応づけ(form-meaning mapping)の不透明性に起因するものであると考える.また, FRHに基づけば, 習得対象のL2の語彙項目にそれと類似するL1の語彙項目の素性をマッピングするための前提条件として, 形式と意味の対応関係が検知される必要がある(さもなければL1の転移やL2習得が起きることはない)ことから, 習得上の課題は最初の素性マッピング(feature mapping)にあると考えられ, 本研究の結果はFRHの枠組みで説明することができる.

PART V
feedback
Top