言語の習得・学習は, 基本的に社会的プロセスであり, 人の社会脳システムの機能に依存している.本論では, 第二言語学習を促進する社会脳の基本的な3つのメカニズムについてまず検討する.すなわち, 1) メンタライジング, 2) ミラーリングシステム, および3) 視線情報の認識と共同注意の形成、である.
1)メンタライジング:目の前の他者の視点や意図を推測する認知的メカニズムである.会話における他者の意図や含意を把握できるようになることで, 言語コミュニケーションをより円滑に行う役割を担う。この能力は第二言語においても、コミュニケーション能力の習得に必須である.言語教育においてメンタライジングを育む活動の一つにタスク・ベース学習があるが, ここでは、学習者は他の学習者の視点や考え方を考慮しながら仮題に取り組むことが求められる.
2)ミラーリングシステム:ミラーリングは, 視覚的ジェスチャーや言語音声の模倣を可能にするもので, 流暢なコミュニケーションを支えるメカニズムである.このシステムを, 音声インプットの自己完結型シャドーイングや, インタラクティブ・シャドーイングの実施に際して活用することで, 英語の分節音や韻律音(プロソディ)の習得を促進し, その結果, 学習者間の神経同期を達成できる可能性がある.
3)視線の認識と共同注意の形成:このメカニズムは, 右大脳半球の下前頭回を活性化させることで機能する, 社会的インタラクションによる第二言語学習に不可欠である.学習者は他者の視線を追うことで、第3項的な事物や出来事に共同注意を向けることができるようになる.この能力は, L1(母語)およびL2(第二言語)の語彙習得においては特に重要で, 共同注意を形成する活動の結果, 自他以外の第3項的な対象に注意を共有する協同学習タスクになる.
本論では, 第二言語の習得を促進する「社会脳インタラクション能力(SBIC)」を提案し, 学習者の社会脳システムがその習得にいかに関与するか, その全貌を示したい.しかしながら, このSBICの習得には, 第二言語習得の認知的なキーポイントである, インプット処理, プラクティス, アウトプット産出, モニタリング(I.P.O.M.)を実践することが不可欠である.そうすることで, 第二言語運用に必要な知識の自動性が達成され, 効果的な社会脳インタラクションの前提条件となる.
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