東海北陸理学療法学術大会誌
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ポスター
  • 大田 英登, 柏木 克友, 磯村 隆倫, 大川 裕行
    セッションID: P-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 くも膜下出血発症直後から、急性期、回復期とリハビリテーション(以下リハ)を受けたが、ADL全般に介助を要する発症後19ヶ月の左片麻痺者を老人保健施設(以下老健)で担当した。本症例に対して、起立、歩行訓練を中心に積極的に理学療法を行った結果、ADLの介助量が軽減され自宅復帰となった。本症例を通じて、老健における重度片麻痺者に対する理学療法の重要性を再確認したので報告する。
     なお、本報告にあたり、本症例には趣旨を説明し同意を得た。
    【老健利用までの経緯】 平成20年10月15日、脳出血を伴うくも膜下出血を発症、A病院で加療された。平成21年3月10日、リハ目的でB病院転院となった。同年7月14日C病院へ転院、9月14日退院し当老健入所となった。平成22年4月4日に車いすから立ち上がろうとして転倒、左大腿骨転子下骨折でC病院再入院、同月9日にCHS施行。8月6日当老健再入所後、担当を開始した。
    【理学療法評価(平成22年8月7日)】 症例は42歳男性。Brunnstrom recovery stage(以下Br-Stage)は左上肢、手指、下肢ともにII、非麻痺側筋力は上下肢共に4、感覚は表在、深部ともに鈍麻であった。軽度の半側空間無視、注意障害を認めた。
     基本動作は、起き上がりの際に体幹を起こすための介助を要した。移乗及びトイレ動作は、立ち上がり、衣服の上げ下げ、方向転換に介助を要した。歩行は、四点杖、KAFOを使用し、麻痺側下肢の振り出し、立位保持、重心移動に介助を要した。施設内での移動は車椅子駆動可能であったが、生活全般に人的介助を要していた。FIMのスコアは88/126点であった。
    【理学療法プログラムおよび経過】 理学療法は、起立-着座訓練、下肢装具を用いた歩行訓練を中心とした運動療法を1日40分程度、週4日実施した。
     訓練開始1ヶ月後にBr-StageはⅢとなった。同時期にKAFOはAFOに変更可能となった。
     退所時(平成23年2月28日)には、四点杖とAFOを使用し軽度介助での歩行が可能となった。移乗及びトイレ動作は、立ち上がり、方向転換が手すりを使用し可能となった。FIMは94点に向上した。最終的な施設内の移動手段は車椅子であったが、移乗、トイレ動作の介助量が軽減したため自宅復帰となった。
    【まとめ】 急性期、回復期リハを受けたが、ADL全般に介助を要する慢性期重症片麻痺患者に対して積極的な起立・歩行訓練を約6ヶ月間実施したところ、介助量が軽減し自宅復帰が可能となった。起立訓練は非麻痺側・麻痺側への刺激、全身の筋力強化、バランス能力向上に有効であり、下肢装具を利用した歩行訓練は、起立や移乗動作等、ADL能力の向上に有効な治療手段である。今回、慢性期重症片麻痺患者でもその効果が確認された。維持期に位置付けられる老健の利用者にも機能回復の可能性があることに留意し、積極的な起立・歩行訓練を実施する必要がある。
  • 鷲田 恵
    セッションID: P-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 今回、ポリオを既往に持ち、右大腿骨内顆骨折を受傷した症例を担当した。右膝関節周囲筋の著明な筋力低下が残存したが。装具の修正により屋内T字杖歩行自立、屋外両T字杖歩行自立を獲得できたため報告する。
    【症例紹介】 60代女性。受傷前よりポリオによる両下肢機能不全があり、左下肢に坐骨支持式長下肢装具を装着していた。現病歴は、装具装着時に転倒し、その後経過観察であったが右大腿骨の転位がみられ、受傷後70病日に骨接合術を施行され、術後4週間の免荷期間が設けられた。受傷前の移動能力は装具装着にて屋内独歩、屋外T字杖歩行自立していた。本学会での発表に関して本人の同意を得た。
    【初期評価】 ROM-T(右/左、p=pain)は膝関節屈曲70°p/140°、伸展-10°/-20°、MMTは両下肢2-3レベル。TMD 61㎝/58㎝、大腿長30㎝/28㎝、下腿長31㎝/30㎝、座位での膝関節伸展位保持は不能。連続歩行距離はT字杖歩行約50m(監視)、両T字杖歩行約90m(屋内自立)であり、左下肢振り出し時に分回し様の歩容を呈し、右下肢の膝折れ、筋の易疲労性がみられた。
    【装具作成とアプローチ】 症例は左下肢分回し歩行を呈し、受傷前の動作は右下肢での支持が優位であった。そのため右下肢への負担が増大し筋疲労、膝折れがみられた。負担の原因は、装具装着による脚長差、装具の重量と考えた。また、理学療法開始5ヶ月後でも筋力向上は認められず膝折れが残存したため、装具修正を行った。以前の装具は、全長66㎝、リングロック継ぎ手を使用し、左装具装着で5㎝の脚長差を認めた(右<左)。カフの素材は革、足部の形態は中足趾節間関節以端が露出し、両支柱は鉄であり、総重量2㎏、膝関節初期屈曲角度10°、足関節底屈角度25°、補高7㎝であった。脚長差、重量を軽減するため支柱はアルミ素材を使用して軽量化を図り、底屈角度を軽減する事により脚長差の軽減を行った。修正後は全体長を65.5㎝、総重量1㎏、底屈角度10°、補高5㎝とした。また、再作製後に左下肢への荷重を促すなどの姿勢修正を行った。
    【最終評価】 ROM-Tは膝屈曲130°/140°、伸展-15°/-20°、MMTは著変なく、膝関節伸展保持時間11秒、連続歩行距離はT字杖歩行約120m(屋内自立)、両T字杖歩行約200m(屋外自立)であった。第148病日、両T字杖歩行屋外自立獲得し退院となり、その後、外来通院によりT字杖歩行屋内自立となった。
    【考察】 本例はポリオを既往にもち、右大腿骨内顆骨折後に著明な筋力低下が残存、歩行能力の低下を呈した症例であった。装具再作製による脚長差の軽減、装具軽量化に加え、姿勢の修正を行ったことで歩行距離が延長し、杖歩行屋内自立、両T字杖歩行屋外自立が獲得できた。ポリオ患者に対する装具作製には、軽量化、適合性、耐久性が重要であると言われている。再作製後、歩容が改善され、左下肢への荷重の促しにより右下肢の負担は軽減した。これらにより筋力向上は認めなかったが筋疲労、膝折れは減少し、歩行能力が向上したと考える。
  • 名倉 智也, 柘植 亮伺, 鹿角 唯, 野々垣 嘉男
    セッションID: P-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、人口の高齢化とともに、心身機能能力の低下を起因とし、寝たきり状態に陥る症例が多くみられ、その離脱と対応を求め、車椅子による座位保持姿勢を図る必要がある。車椅子使用者には、高度脊椎変形や認知症を合併し、また一般的に高齢者は骨盤が後傾して座位をとる。そこで今回、試作した車椅子姿勢保持用ベルトにどの程度の牽引力があるのかを検証し、その適応を検討した。
    【方法・対象】 パラシュートのハーネスベルトをモデルとし、長さ70㎝・幅4㎝のバンド2本を中点で交差させ8の字にし、それに調節可能なベルトを両端に付け、背部でバックルを固定できるように作成。被験者は木製の椅子座り、両下腿、脛骨粗面部にバンドを取り付け、ばね式手ばかりに掛かるようバンドに紐を取り付ける。ずり落ちを再現するため、起立台を用いて、-5°、0°、3°、5°の傾斜を作り、傾斜角0°を基準とした各傾斜角との差を車椅子保持用ベルトの有無と比較し、その差を車椅子保持用ベルトの牽引力とした。対象は、健常男性1名とした。
    【結果・結語】 ベルト有無での差は、傾斜角-5°では0.2㎏、傾斜角3°では0.6㎏、傾斜角5°では1.3㎏となった。今回、車椅子姿勢保持用ベルトの牽引力を計測し、傾斜角が大きくなるにつれ、ベルト有無での差も広がり、骨盤を牽引できていることとなった。今回試作したベルトの利点はズボンのように穿くだけと装着が容易であり、骨盤の後傾を予防し、車椅子座位の安定性向上が期待される。しかし、ベルトを使用することで車椅子座位を固定することとなり、活動性のある人には適さない。このことより、本研究で試作したベルトは、筋力低下、認知機能低下、脊椎変形などの正しい座位を保てない患者に対して用いることで、効果がより見込めると期待される。
  • 内藤 善規, 中川 光仁, 森嶋 直人, 飯島 健太郎
    セッションID: P-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 今回、海綿状血管腫起因の橋出血を発症し初期に重度四肢麻痺となり、更には一時的に人工呼吸器管理となる肺炎を併発した症例を経験した。その後、人工呼吸器離脱し、四肢麻痺の改善を認めた。最終的に歩行を再獲得した経過について若干の考察を加えて報告する。
    【症例】 45歳男性、既往歴は尿路結石。現病歴は平成23年11月上旬、急に頭痛が出現、嘔吐もみられたため当院搬送、入院となった。
    【経過】 第3病日頭部CT画像にて血腫拡大がみられた。当科依頼、理学療法開始。初期評価では、意識レベルはJCSⅡ-10で簡単な従命動作が部分的に可能、右上下肢の自発運動はほとんどみられず、左上下肢は分離運動がわずかにみられた。第7病日に麻痺が悪化し完全四肢麻痺となった。第10病日に気管切開術施行、その後人工呼吸器管理。第13病日にベッドアップより離床開始。離床開始時、両側わずかな握手及び足関節底背屈のみ可能でその他の自発運動がみられず、重度四肢麻痺が残存していた。また、頚部保持が困難であった。第16病日端座施行。第17病日人工呼吸器離脱。第23病日ヘッドレスト付リクライニング車椅子乗車開始。第24病日酸素療法離脱。第27病日普通型車椅子乗車開始。この時、意識レベルはJCSでⅠ-3、四肢麻痺はBrunnstrom recovery stage(以下BRS:右/左)で上肢Ⅴ/Ⅴ、手指Ⅴ/Ⅴ、下肢Ⅳ-Ⅴ/Ⅴと改善傾向で、下肢MMTは2~3レベル、頚部保持が可能となった。第31病日床走行式リフトにて歩行開始。第34病日に端座位自力保持可能。第35病日菌血症と診断され一時ベッドサイドでの理学療法継続、第39病日よりリハ室で再開。最終評価時には、意識清明、四肢麻痺はBRSで上肢Ⅵ/Ⅵ、手指Ⅵ/Ⅵ、下肢Ⅴ-Ⅵ/Ⅵ、下肢MMTは3~4レベルであった。歩行器歩行は軽介助で連続100m可能となった。第50病日リハビリテーション病院へ転院、第132病日独歩にて自宅退院された。
    【考察】 穴戸ら(2007)は、海綿状血管腫は通常小さな出血の繰り返しにより症状が徐々に進行するが、急激な出血により発症することも稀にあり、その際、急速増大することが認められていると述べている。本症例は入院後に血腫拡大や麻痺悪化が生じており、病態的に重症な症例であった。木村(2011)は、人工呼吸器装着例を除外した脳幹出血症例の半年後の歩行自立に及ぼす因子は、1ヵ月以内の端座位自力保持能力の獲得、mRSは1ヵ月以内にgrade平均2.7(下限grade 4)であったと報告している。本症例は一時人工呼吸器管理となったが、第34病日に端座位自力保持獲得、1ヵ月時点でのmRS grade 4、発症から半年以内に歩行再獲得に至った。積極的に離床を促し発症1ヵ月前後で端座位保持可能となったことが本症例の歩行再獲得可能となった一要因であると考えられた。
    【まとめ】 海綿状血管腫起因の橋出血において、一時人工呼吸器管理となっても感染コントロールが可能となり麻痺の改善がみられ離床が円滑に進めば、歩行を再獲得できる可能性があると推察された。
  • 藁科 弘晃, 小山 総市朗, 武田 和也, 後山 耕輔, 本谷 郁雄, 田辺 茂雄, 櫻井 宏明, 金田 嘉清, 永田 淳二, 神野 哲夫
    セッションID: P-23
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 脳卒中片麻痺患者の上肢機能に対する治療法として反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation以下rTMS)が注目されている。
     近年、慢性期の軽度片麻痺患者に対して、非損傷脳への低頻度rTMS(1Hz)によって、上肢運動機能の改善が報告された。さらに、慢性期の中等度片麻痺患者に対しては、損傷脳への高頻度rTMS(5Hz)と麻痺側上肢への治療的電気刺激(Therapeutic electrical stimulation以下TES)の併用によって上肢運動機能の改善が報告されていた。重度片麻痺患者にはRosewilliam Sらが麻痺側上肢へのTESによって上肢運動機能が改善したと報告があるものの、対象が発症6週間以内の亜急性期片麻痺患者であった。したがって、慢性期の重度片麻痺患者に対する上肢運動機能の改善は報告が少ない。そこで、本研究は慢性期の重度片麻痺患者に対して、非損傷脳への低頻度rTMSと麻痺側上肢へのTESを併用し、その効果を検討した。
    【方法】 対象者は脳卒中発症後1年以上経過した慢性期の重度片麻痺患者8名(女性5名、男性3名、平均年齢57.8歳±11.6)。麻痺側手指機能はSIAS手指0が4名、1aが2名、1cが2名であった。rTMSには、マグスティム社製Magstim Super Rapidを用い8字コイルで刺激した。磁気刺激部位は非損傷側一次運動野手領域とした。運動誘発電位(motor evoked potential以下MEP)は非麻痺側第一背側骨間筋で記録した。安静時運動閾値は1/2以上50μVのMEPが誘発可能な強度とした。刺激強度は安静時運動閾値の90%、刺激頻度は1Hzとした。TESには、日本光電社製SEN-8203とSS-104Jを用い、手関節背屈筋群に長方形電極を貼付、周波数40Hz、パルス幅250μs、刺激周期500msON-500msOFFで刺激した。rTMSとTESは同期させた。1日午前と午後2回刺激し、10日間施行した。一週間の合計は4,840発行った。各刺激後上肢訓練を1時間実施した。介入前後にFugl-Meyer Assessment(以下FMA)を施行し比較した。統計学的解析は統計ソフトSPSSを用い、Willcoxonの符号付き順位検定をおこなった。有意水準は5%とした。本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り、当院倫理委員会の承諾を得た後に治療を開始した。また、治療は臨床神経生理学会2011を順守した。対象者には、医師により治療並びに評価の手順、意義、危険性、利益や不利益、プライバシー管理、研究目的、方法を説明の上、同意書にサインを頂いた。
    【結果】 FMA上肢項目は、介入前中央値10点(最小値4点-最大値36点)、介入後中央値13点(最小値7点-最大値49点)であった。介入前後で優位な改善を認めた。
    【考察】 慢性期の重度片麻痺患者に対して、非損傷脳への低頻度rTMSと麻痺側上肢へのTESの併用は上肢運動機能の改善に有効である事が示唆された。非損傷脳への低頻度rTMSは、非損傷脳を抑制し、過剰な脳梁間抑制が改善したと考える。さらに、麻痺側上肢へのTESは、損傷脳の興奮性を促通したと考える。
    【まとめ】 非損傷脳への低頻度rTMSと麻痺側上肢へのTESの併用は慢性期の重度片麻痺患者に対して上肢機能の改善を認めた。今後は症例数を増やし損傷部位の大きさや部位、上肢運動機能による介入方法を検討する。
  • 山本 篤志
    セッションID: P-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 今回、小脳梗塞により体幹失調を呈した症例を外来通院にて担当し、自分の理学療法を振り返る機会を得ることができたのでこれを報告する。
    【症例紹介】 本症例A様は既往歴に心筋梗塞、糖尿病、高血圧があり、平成19年9月に脳梗塞を発症し左不全麻痺、頻脈を呈した50歳代の男性である。平成24年3月に右小脳梗塞を発症し当院入院、3月に退院となるがふらつきが残存、主訴は歩きにくい、Needはもっとよくなりたい、復職に向けて自主運動を習得したいとのことで平成24年4月より外来にて週2回の理学療法開始となった。ADLは自立、独力で通院可能であり歩行においても補助具は使用せず可能な状態であり、2週間後に復職する予定であった。
    【理学療法評価】 認知症、高次脳機能障害は見られず、Brunnstorm recovery stage左手指 stage6、左上肢 stage6、左下肢 stage6、左手関節より遠位、足関節より遠位にて重度感覚鈍麻がみられ体幹協調性試験ではstage3であった。MMTでは左<右にて若干の差を感じる程度で上肢、下肢ともに4であった。可動域は問題なし、開眼片脚立位時間は左20.44秒、右4.11秒であった。
    【理学療法および結果】 評価より、小脳梗塞による体幹失調がふらつき、歩きにくさの主たる原因とし、感覚障害の影響も考慮し、体幹失調に対するアプローチを中心に感覚障害がみられる右下肢にもアプローチした。体幹に対して床上動作練習を中心にブリッジ、kneeling、四つ這いなどを行った。右下肢に対しては神経・筋再教育などを行った。2か月の施行の結果、開眼片脚立位時間において左1分7.15秒、右8.22秒の改善がみられ、「ふらつきが減り、歩きやすくなった」とのことであった。その他の検査において変化は見られなかった。
    【考察】 復職が目前に迫っており、自主運動の習得のために速やかな障害の特定と問題の抽出を重視し、疾患、動作、既往歴から体幹失調および片麻痺、感覚検査を中心に評価、理学療法を施行した。ご本人の希望もあり結果的に2ヶ月間の介入期間となり片脚立位時間において改善がみられたものの他の評価項目に変化が見らないことから主訴に対して状態が改善したというデータが得られなかった。
    【まとめ】 当初の予定では3回程度の介入予定であったため効果判定としてのパフォーマンステストは必要ないと判断した。しかし、今回のケースように目標や介入期間の変更に応じ必要な評価を追加するべきであり、パフォーマンステストの重要性を再確認した。そこでSingle Side Step Test(以下SSST)に着目した。SSSTは最大サイドステップ長を測定する側方への動的バランス評価法である。簡便で歩行能力との相関が高いことが示されており、脳卒中、地域高齢者の運動能力と最大サイドステップ長について検討されておりサイドステップ動作の身体運動学的要素から整形疾患においても有効であると考える。そこで今後はSSSTを基本評価として取り入れ他のパフォーマンステストとの比較検討を行い、バランス能力の研究として取り組んでいきたい。
  • 鈴木 教靖, 松下 太一, 宮野 陽子
    セッションID: P-25
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 姿勢異常は、上肢機能・ADL低下と関連があると報告されている。内潟はパーキンソニズムにおける姿勢異常に前屈・脊柱側彎を認めるが、その機序には一定の関連性がないと報告し、多岐にわたる要因の一つに体軸変化が考えられている。Karnathは体軸傾斜症候群において、開眼時の視覚的垂直認知(以下SVV)は鉛直であるが、閉眼時の身体的垂直認知(以下SPV)は偏倚しており、感覚モダリティにより垂直認知が異なり、SPVが姿勢制御に関連すると述べている。今回、SPV偏倚を認めた症例に対し、体性感覚へ注意喚起を図る事で姿勢異常の軽減に繋がったので報告する。本件はヘルシンキ宣言に基づき、症例に説明し同意を得た。
    【自己身体の垂直性を認知する過程と評価の視点】
    1. 注意を向ける事によりはじめて体性感覚野の再組織化が起こる(Recanzone)2. 身体の左右両側に受容野をもつニューロンが存在し、左右の情報を統合する事によって身体の対称性を認識する(Manzoni)3. 体性感覚と視覚を統合し身体表象を符号化する(岩村)。以上の知見より、SPVには体性感覚に注意を向けて認知する能力と、左右の体性感覚を比較照合する能力を評価し異種感覚モダリティによる垂直認知の一致を確認する必要がある。
    【症例紹介】 多系統萎縮症(MSA-P)。固縮・無動・姿勢反射障害を認め、可動域・筋力訓練を中心に介入。罹病4年、姿勢異常が著明に出現。Yahr4、生活機能障害2b度。ROM体幹屈曲20°回旋左右20°、右半身優位固縮。体幹表在・深部感覚中等度鈍麻。TMT-A309秒。端座位は前屈・脊柱右側彎。食事動作介助。
    【内感・解釈・訓練】 SVVは鉛直であるが、SPVは右偏倚。臥位にてベッドと体幹との間に硬度の異なるクッションを入れ識別課題を提示した際、閉眼と比べ開眼では詳細な硬度の識別困難、外界に対して注意が向きやすく体性感覚への選択性注意が低下していると考えた。また、閉眼片側に対する課題であれば注意が向き識別可能であるが、左右同時に比較した場合困難、分配性注意低下あり。これら注意機能低下が原因で、左右の体性感覚情報の収集に問題が生じた結果、SPVが偏倚したと考えた。訓練は、SPVの偏倚修正を目的にクッション識別課題を通し体幹片側の位置覚への注意喚起を図り、識別が可能になると左右比較の課題に移行した。SPVの偏倚が修正された後にSVVとSPVの比較照合を行った。
    【結果】 訓練一回毎の前後で変化を認めた。位置覚の識別が向上すると共にSPVが鉛直へと変化しSVVとSPVが一致。ROM体幹屈曲30°回旋左右30°、固縮軽減。端坐位は前屈軽減・脊柱右側彎消失。3か月後、TMT-A 219秒。体幹表在・深部感覚軽度鈍麻。食事動作自立。
    【考察】 症例は、表在・深部感覚障害に加え体性感覚へ注意が向かずSPVが偏倚していた。外界に対して注意が向きやすい中で、体性感覚に注意を向け選択が可能となり、また左右の体幹の位置識別が可能となる事で身体の対称性が再認識されSPV偏倚が修正されたと考えた。SVVとSPVの一致により、環境に応じた姿勢制御が可能となり姿勢異常が改善したと考える。今回の経験から体軸変化が生じる要因の一つに注意機能が関連している可能性があると考えた。
  • 川畑 真司, 井舟 正秀, 久保 佳子, 田口 裕介, 細田 千尋, 小塚 寛也, 岡田 俊, 川北 慎一郎
    セッションID: P-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 顔面神経麻痺の後遺症の中で、最も悩まされるものは拘縮と病的共同運動とされている。このような、症例に対してボツリヌス毒素(以下BTX)療法とリハビリテーションを併用した報告は少ない。今回、BTX療法と自主練習指導を併用した結果、病的共同運動を抑制した神経筋再教育を行う事ができた症例を経験したので報告する。尚、本症例に対し学術目的にて報告を行う事を説明し、同意を得ている。
    【患者情報】 60歳代男性、ADL:自立、職業:大工
     診断名:左顔面神経麻痺、既往歴:胃癌
     現病歴:約1年前、末梢性顔面神経麻痺発症。他院神経内科を受診し、ステロイド内服、数回リハビリテーションを行った。その後、内服のみの処方となった。X-7日、病的共同運動が顕著であり、当院受診。X日、BTX療法施行、眼輪筋4箇所1.25単位、頬筋2.5単位、口輪筋2.5単位投与された。X+7日、理学療法開始。
    【評価結果】 X-7日、主訴は物を食べると、眼が閉じ涙が出る。Sunnybrook法:76-15-14=47点。病的運動が顕著で、口輪筋収縮時に眼輪筋も収縮していた。X+7日、Sunnybrook法:68-15-4=49点。主訴は眼が閉じにくいとの変化があった。X+14日、Sunnybrook法:52-15-5=32点。X+62日、Sunnybrook法:68-15-6=47点。X+86日、Sunnybrook法:72-15-6=51点。
    【治療】 BTX療法前に医師より治療効果、および自主練習の重要性が説明された。自主練習は正確な運動を行う為パンフレットを作成し、眼輪筋、頬筋、口輪筋の他に、頬骨筋、口角挙筋、笑筋のマッサージ、鏡を使用した視覚フィードバックによる随意運動を指導した。また、X+7日より1回/週で外来通院を2回実施。その後、正確な自主練習を習得したので1回/2週に変更した。随意運動は、X+14日以降より積極的に行うように指導した。
    【考察】 慢性期に拘縮し病的共同運動が合併している顔面筋に対しては、リハビリテーションによる改善が難しいとされている。本症例では発症から1年が経過しており、病的共同運動が顕著であった為、BTX療法により意図的に顔面神経麻痺を発症させ治療を行った。最終評価より病的共同運動の増悪が見られず、随意運動が向上している事から適切な神経筋再教育が成されたと考えられる。
     BTX療法は1~2週後より著明に作用するとされている。本症例では指標としてSunnybrook法を用い、随意運動が下限に達したX+14日以降から積極的に介入した事で、病的共同運動の惹起が予防されたと考える。また、病的共同運動を抑制するには粗大な運動の回避、フィードバックを用いた筋収縮が重要であり、これらを自主練習として取り入れた事で前述の結果が得られたと考える。
     また、本症例では正確な自主練習を指導する為、パンフレットを作成した事、医師と連携し自主練習の重要性を説明し習慣化が成された事も重要であったと考える。
    【おわりに】 慢性期の顔面神経麻痺に対し、BTX療法と自主練習を併用することで、病的共同運動を抑制した神経筋再教育を行う事ができた。また、介入時期についてSunnybrook法を用いた事も有用であった。
  • 宮田 卓也, 小林 雅彦, 渡邉 恵介, 有川 康二郎, 金木 亮, 山本 美香, 入道 孝志, 澤崎 実帆, 山崎 俊明
    セッションID: P-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、がん化学療法を施行される頻度が高くなっている。それに伴い末梢神経障害等の副作用でADLが低下した症例を担当する機会も増えているが、その実践報告は比較的少ない。今回、化学療法中に末梢神経障害および筋力低下を呈し寝たきり状態となった悪性リンパ腫患者の理学療法を経験したので報告する。
    【方法】 本発表に関して患者に説明の上同意を得た。
    患者情報 症例は50歳代後半の男性。他院にて悪性リンパ腫の一種であるバーキットリンパ腫と診断され化学療法(R-hyperCVAD/MA交代療法)を開始。開始6カ月頃に感染症を合併、両下肢筋力低下が進行し寝たきり状態となり理学療法が実施された。ギランバレー症候群、多発単神経炎等が疑われ精査したが確定診断には至らなかった。さらに4カ月間の化学療法によりリンパ腫は不確定寛解状態となったが、寝たきり状態は変わらず自宅復帰が困難であったためリハビリテーション目的で当院入院となり理学療法開始となった。
    評価結果 初期は食事のみ自立、排泄は尿バルーンとオムツを使用、起き上がりに介助を要し端坐位保持も数秒しかできなかった(B.I. 15点)。体重は55.6㎏(BMI:20.4)で下肢筋力はMMT2~3レベル、大腿/下腿周径が33.0/27.5㎝。脛骨運動神経伝導速度の低下を認め、上下肢末梢優位の強い痺れと感覚障害を認めた。
    治療経過 過用性筋力低下を引き起こさないよう疲労感に注意して行った。OKC exerciseでは痺れの訴えが強く筋力増強のための十分な運動量を得られなかったため、段階的なCKC exerciseを中心に行った。介入1カ月半頃から平行棒内歩行練習、3カ月頃から歩行車歩行練習、4カ月頃から杖歩行および独歩練習が可能となった。
    【結果】 約7カ月間介入した。基本動作自立、独歩が軽介助にて可能となり歩行車を用いて400m連続歩行が可能となった(B.I. 80点)。体重は68.0㎏(BMI:25.0)、下肢筋力はMMT3~4レベル、大腿/下腿周径は39.0/31.0㎝まで増加した。また脛骨・腓骨運動神経伝導速度は正常となった。
    【考察】 化学療法の副作用による末梢神経障害と約四カ月間の低活動による著明な廃用性筋萎縮に起因する筋力低下が重大なADL制限因子と考えた。遺伝性ニューロパチー患者に起居、移動動作練習をすることで膝関節伸展筋力の増大を認めたことが報告されており、本症例でも特異性の原理に着目し能力に応じた段階的なCKC exerciseを実施することで筋力増強効果が得られた。しかし歩行練習可能距離の経過は変動があり過用性筋力低下が生じていた可能性が考えられた。
    【まとめ】 化学療法により末梢神経障害と廃用性筋萎縮を呈し寝たきり状態となった症例にCKC exerciseを中心とした筋力増強運動を実施することで歩行動作を獲得することができた。しかし過用性筋力低下防止の方策は明確でなく運動負荷量に関してさらに検討する必要性が考えられた。
  • 川村 和之, 浅田 啓嗣, 中 徹
    セッションID: P-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 脊柱のアライメントに影響を与える筋には、腹筋群、背筋群、股関節周囲筋などがある。最近の研究では、腰椎の分節的コントロールや腰椎骨盤領域の安定性に関与する腰部多裂筋が注目され、姿勢に与える影響などが報告されている。しかし、多裂筋を含む下部体幹筋と脊柱アライメントの関連性についての報告は少ない。そのため、多裂筋を含む体幹筋群の筋厚を測定し、脊柱のアライメントとの関連性を明確にすることを試みたので、考察を加えて報告する。
    【方法】 対象は、脊柱運動に影響を与える外傷および外科的手術、腰痛経験のない健常男性50名とした。脊柱アライメントの測定はSpinal Mouse(Index社製)を用いて、条件を定めた立位姿勢にて、被験者ごとに胸椎後弯角・腰椎前弯角を3回測定し、その平均値を測定値とした。筋厚の測定は、超音波診断装置(株式会社日立メディコ社製、MyLab25)を使用し、脊柱弯曲角度と同一の立位姿勢にて腹直筋・腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋・多裂筋を被験者ごとに3回測定し、その平均値を測定値とした。なお、筋厚は体格差などに影響を受ける可能性が考えられるため、筋厚の測定値㎜を体重㎏で除した値を筋厚補正値(㎜/㎏)とした。
     統計的手法は、胸椎後弯角・腰椎前弯角をそれぞれ「平均-1SD」未満の群(以下群)、「平均-1SD」以上「平均+1SD」以下の群(中央群)、「平均+1SD」より大きい群(以上群)の3群に分け、各筋について胸椎後弯角・腰椎前弯角の違いによる筋厚補正値の差を1元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較を用いて検討した。なお、同様の手順で筋比率(多裂筋/腹直筋、多裂筋/外腹斜筋、多裂筋/内腹斜筋、多裂筋/腹横筋、腹直筋/外腹斜筋、腹直筋/内腹斜筋、腹直筋/腹横筋)の胸椎後弯角・腰椎前弯角も比較検討した。また、胸椎後弯角・腰椎前弯角と筋厚補正値および筋比率の相関は、Spearman順位相関係数を用いて検討した。有意水準は全て5%未満とした。
    【結果】 胸椎後弯角・腰椎前弯角の程度による筋厚補正値の3群比較においては、腹横筋において胸椎後弯角の以下群に比して中央群で大きかったが(p<0.05)、他の弯曲角度では弯曲の程度による筋厚補正値の差は認めなかった。また、胸椎後弯角・腰椎前弯角と筋厚および筋比率の相関は認めらなかった。
    【考察】 筋厚の胸椎後弯角・腰椎前弯角による3群比較から、胸椎後弯角が少ない場合、腹横筋の筋厚補正値が小さいという結果が得られた。これは、腹横筋は下部肋骨を下方に引き、腹圧を上昇させる作用があるため、腹横筋の作用が弱いと下部肋骨を下方に引く力が弱くなり、結果胸椎後弯角が減少することが考えられた。
     脊柱アライメントと腹筋群、多裂筋の筋厚には関連性が認められなかった。これは、対象が若年の健常者であることが影響していると考えられる。
    【まとめ】 脊柱弯曲角度と筋厚補正値および筋厚比率の平均値における差が殆ど認められなかったことから、健常者において脊柱アライメントは下部体幹筋の各々の筋厚によってのみ規定されないことが考えられた。
  • 伊藤 良太, 佐藤 武士, 戸田 恵美子, 川瀬 進也
    セッションID: P-29
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 体幹側屈筋力の測定は腹筋群と脊柱起立筋群のどちらの筋力も評価でき、左右差を比較できる利点があるため臨床上有用だと考える。しかし、徒手筋力計(以下、HHD)を用いた体幹側屈筋力の測定についての報告は少なく測定方法は定まっていない。我々はHHDを用いて壁を使った比較的簡便な体幹側屈筋力の測定方法を考案した。そこで本研究の目的は健常人を対象に測定方法の再現性を確認し、臨床応用が可能であるかを検討することとした。
    【方法】 対象は四肢または体幹に整形外科的異常を認めない健常人16名(男性8名、女性8名、平均年齢25.4±3.7歳)とした。全員に研究の内容を十分に説明し書面にて協力の同意を得た。
     体幹側屈筋力の測定は壁ぎわに設置した治療台にて行い、測定肢位は両上肢を胸部の前で組んだ足底非接地の端座位とした。座る位置は下腿後面と座面前縁が2横指離れ、被験者のすぐ側方が壁となるよう調節し、大腿近位部と遠位部をそれぞれベルトで固定した。HHDはμ-Tas F-1(アニマ社製)を用い、センサーを壁と上腕外側部(肩峰直下)との間に入れ壁に固定した。事前に十分な説明と練習を行ったのち、体幹正中位から壁の方向へ等尺性体幹側屈運動を5秒間行わせ最大筋力を測定した。片側5回-反対側5回の順で測定し、最大値を左右それぞれの代表値とした。なお、疲労の影響を考慮して測定順序は無作為とし、すべての測定間隔は30秒以上空けた(測定1)。また、日の違いによる検者内の再現性を検討するため3日以後(4~7日)に同一方法にて再度測定を行った(測定2)。
     統計学的分析は検者内の再現性については級内相関係数(以下、ICC)を用い、Bland-Altman分析にて固定誤差と比例誤差がないことを確認したのち、最小可検変化量の95%信頼区間(以下、MDC95)を求めた。測定1と2の学習効果の有無と筋力の左右差については対応のあるt検定を用いて比較した。統計解析ソフトはR2.8.1を使用し、有意水準は5%未満とした。
    【結果】 体幹側屈筋力の平均値は測定1が右147.3±72.4N、左155.6±79.2N、測定2が右151.5±80.7N、左157.6±86.6Nであった。ICC(95%信頼区間の下限値-上限値)は右が0.972(0.925-0.990)、左が0.973(0.928-0.990)でいずれも強い相関が認められた。測定1と2に有意な固定誤差と比例誤差は認められず、MDC95は右35.2N、左38.2Nであった。測定1と2に有意差は認められず学習効果の影響は見られなかった。左-右および利き手方向-非利き手方向への筋力に有意差は認められなかった。
    【考察】 ICCで強い相関が認められたことから、今回の測定方法は再現性の高いものであったと考えられる。HHDとベルトがあれば比較的簡便に測定でき、臨床応用が可能な方法だと考えられる。MDC95が右35.2N、左38.2Nであったことから、同年代の健常人においてはそれ以下の変化は測定誤差である可能性が高いことが示唆された。
    【まとめ】 今後は疾患を有する患者を対象に再現性と妥当性を検討していく必要があると考える。
  • 杉本 孝宗, 横川 正美, 三秋 泰一, 中川 敬夫
    セッションID: P-30
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 体幹深部筋である腹横筋は脊椎骨盤間の安定性に貢献しており、腰痛患者では筋活動の遅延や低下が起こるといわれている。腹部引き込み運動は腹横筋の活動を促す方法であるが、口頭指示による運動の実施が難しいなどの課題が挙げられている。運動を行う姿勢に着目すると、立位における腹部引き込み運動は背臥位よりも腹横筋の筋厚が増大するとされている。一方、腹横筋は強制呼気筋としての作用を有しており、呼気筋トレーニングによる腹部筋活動の増加が報告されている。呼気筋運動は腹部引き込み運動よりも実施が容易であるため、腹横筋の活動を促す運動として利用できると考えられる。そこで、本研究では、立位にて腹部引き込み運動および呼気筋運動を行った際の側腹筋群(腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋)の筋厚変化について検討した。
    【方法】 対象は、健常男性18名(平均年齢;23.7±2.7歳、身長;170.5±4.2㎝、体重;62.5±6.9㎏)とした。被験者には研究内容を文書にて説明し、同意を得た。また、本研究は所属する施設の医学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号;334)。運動は立位で行い、まず安静条件での測定の後、腹部引き込み運動条件、呼気筋運動条件での測定を対象者ごとにランダムな順序で行った。呼気筋運動ではThreshold™ PEP(レスピロクス)を使用し、最大呼気圧の15%(15%PEmax)を負荷圧とした。測定筋は、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋の3筋とした。筋厚の測定には、超音波画像診断装置MyLab25(日立メディコ)を使用した。7.5MHzのプローブを使用し、設定はBモード、検者は1名とした。測定部位は、左側前腋窩線上の肋骨下縁と腸骨稜の中間点から前内方とした。筋厚における測定条件間の比較にはBonferroniの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】 腹横筋は、安静条件と比較して、腹部引き込み運動、呼気筋運動ともに筋厚の有意な増大を認めた(p<0.05)。運動間の比較では有意差を認めなかった。内腹斜筋は、安静条件と比較して、各運動ともに筋厚の有意な増大を認めた(p<0.05)。また運動間の比較において、呼気筋運動は腹部引き込み運動よりも筋厚の有意な増大を認めた(p<0.05)。外腹斜筋は、測定条件間に有意差を認めなかった。
    【考察】 呼気筋運動における腹横筋の筋厚の増大は腹部引き込み運動とほぼ同程度であった。呼気筋運動時の内腹斜筋が腹部引き込み運動時よりも筋厚が増大した一因として、呼気筋運動で使用した器具の呼気抵抗の負荷圧が高かったことが考えられる。
    【まとめ】 立位における呼気筋運動は、腹部引き込み運動と同等に腹横筋の筋活動を促す可能性があることが示唆された。
  • 松村 純, 森 健太郎, 間所 昌嗣, 高坂 浩, 石井 健太郎, 藤井 亮介, 清水 砂希, 西 祐生, 中野 希亮, 神谷 正弘
    セッションID: P-31
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 我々は、第21回石川県理学療法学術大会において骨盤中間位での下肢伸展挙上(Straight Leg Raising, 以下SLR)保持時の腹部筋の活動を超音波診断装置を用いて検討した。その結果から、骨盤の傾斜によりSLR保持時の腹部筋の活動が変化するのではないかと考えた。今回、超音波診断装置を用いた筋厚測定から、異なる骨盤の肢位におけるSLR保持時の腹部筋の活動を検討することとした。
    【方法】 研究に対して同意を得られた男性11名(年齢29.1±3.7歳、身長172.8±8.1㎝, 体重62.1±8.5㎏)を対象とした。被験者の選択において、現在腰痛を有する者を除外した。測定機器は超音波診断装置(HI VISION Preirus、日立メディコ)を使用した。6-14MHzの可変式リニア型プローブを使用し、周波数は7.5MHzとした。対象筋は腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋とし、測定部位は左前腋窩線における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とした。その位置にマーキングを行い、プローブ位置を統一した。SLRは右下肢で行うこととし、30°の高さで保持することとした。SLRは検者が他動的に測定を行う高さまで挙上した後、被験者にその位置で保持させた。測定条件は骨盤中間位、骨盤前傾位、骨盤後傾位の3条件とし、各条件で安静時とSLR保持時の筋厚測定を2回行った。測定肢位は、安静背臥位を骨盤中間位とし、ストレッチポールハーフカット(LPN社)を腰仙椎部に挿入した肢位を骨盤前傾位、仙尾椎部に挿入した肢位を骨盤後傾位とした。静止画像の抽出および筋厚の測定は安静呼気位に統一した。統計学的分析として、各測定条件で安静時とSLR保持時の筋厚を対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】 すべての測定条件において、外腹斜筋のみ安静時と比較してSLR保持時に有意に筋厚が高値を示した。腹横筋と内腹斜筋には有意差は認められなかった。
    【考察】 我々は、先行研究において安静時とSLR保持時の腹部筋の筋厚を比較したところSLR保持時に外腹斜筋のみ有意に高値を示した。異なる骨盤の肢位での検討を行った本研究においても、すべての測定条件においてSLR保持時に外腹斜筋のみ有意に高値を示した。このことから、SLR保持時に骨盤の前後傾の肢位に関係なく内腹斜筋や腹横筋の活動は少ないことが考えられ、SLR保持はローカル筋の活動を得るには適さないことが示唆された。運動課題としてSLR保持を用いる際に、腹部筋の中でもグローバル筋に分類される外腹斜筋が優位に働くことが考えられるため、ローカル筋の活動が不十分な症例に対して行う際には、腰部への過剰なストレスが加わる可能性があるため注意する必要があると考えられる。
    【まとめ】 骨盤の前後傾の肢位に関係なく、どの肢位においても外腹斜筋の筋厚のみ安静時と比較してSLR保持時に有意に高値を示した。
  • 青木 謙太, 長野 純二, 大野 秀一郎, 二宮 太志, 神谷 万波, 岡田 史郎
    セッションID: P-32
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 当院の徒手筋力評価方法は理学療法士(以下PT)によるDanielsら測定法と整形外科・せぼねセンター医師(以下Dr)によるChusid JG、McDonald JJら測定法の2つの方法で評価されている。2つの評価方法の違いにより筋力の段階付けに差があるのか。段階付けに差があるならその原因は何か。その差の臨床的意味について腰部脊柱狭窄症の患者の足関節底屈筋力の徒手筋力を分析することで検討し報告する。
    【方法】 当院で2012年5月~6月までに入院された腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)の症例5例(男性3例、女性2例、年齢49~70歳、障害レベルL2-5 1例、L3-5 3例、L4-5 1例)に対し、Chusid JG、McDonald JJらの徒手筋力検査法(以下評価1)とDanielsらの新・徒手筋力検査法(以下評価2)を実施し、検査結果の差異を比較検討した。下肢全領域の評価を行ない、特に段階付け・手技が異なり、差が生じた足関節底屈に着目し分析・検討した。検者は同一検者とし、検査側は患側(患側は神経症状が出ている下肢、両側出ている場合は症状が強く出ている側を患側とした。)とした。今回は細かな段階付けとなる+-、ヒラメ筋単独は除外した。
    【結果】 評価1と評価2の段階付けに差が生じたのは5例のうち3例(男性2例、女性1例)であった。差が生じた症例のうち2例は評価1では段階4、評価2では段階2であった。残り1例は評価1では段階5、評価2では段階3であった。差が生じなかったのは2例(男性1例、女性1例)であった。
    【考察】 評価1と評価2において差が生じた原因は評価1の段階3・4・5と評価2の段階2との検査は同一方法で足関節を底屈し行うものであり、評価自体の段階付けの定義の差が影響したと考える。評価2の肢位では片脚立位での踵上げとなるため、足関節底屈筋力だけでなく片脚立位バランス能力、下部体幹や骨盤帯、股関節周囲の支持性、膝関節伸展位での持続保持、足部のwindlass機構、足趾屈筋筋力等の要因が影響している。今回の症例は足関節背屈筋の筋力低下、坐骨神経痛、足底部・足趾の感覚障害等の足関節底屈筋力以外のLCS特有の要因もさらに影響している。Danielsらの方法ではLCSのように神経根症状の影響を排除して評価する事は困難と考えられた。また、D.A.Neumannによるとつま先立ちでは腓腹筋の1:3の力学的有利性で機能するならば、筋は底屈位を支持するために体重の1/3または33%の持ち上げの力ですむと述べている。このことから評価2は純粋に足関節底屈筋のみの筋力評価とはいえないと考えられる。したがって、足関節底屈筋測定における2つの筋力評価の段階付け結果の相違は異なった観点からの評価であり、互換性がない可能性が推測される。
    【まとめ】 当院ではPTの筋力評価として評価2を用いてDrは評価1を用いて表記していた。今回の検査結果から足底筋力測定の2つの評価法に段階付けに差が生じた。差が生じた原因として評価2における足関節底屈筋力以外の要因の関与が主に考えられた。今後、DrとPT間のデータ共有性を持たせるためには各筋力評価法を明示する必要がある。また、症例数を増やすことで2つの評価法の関連性を明確にしていく必要がある。
  • 佐藤 武士, 伊藤 良太, 金澤 沙耶佳
    セッションID: P-33
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 体幹筋力はADLと関連が深く、定量的に測定することは有益と考えられる。徒手筋力計(以下、HHD)を用いた体幹筋力測定については屈曲と伸展筋力の報告が多く、側屈や回旋筋力の報告は少ない。そこでHHDによる簡便な体幹回旋筋力の測定方法の再現性を検討した。
    【方法】 対象は整形外科的異常の無い健常人15名(男性8名、女性7名、平均年齢27.6±3.7歳)とした。全員に研究の内容を十分に説明し、書面にて研究協力の同意を得た。
     被験者の測定肢位は昇降式治療台上の足底非接地の端座位で、両上肢を胸部の前で組み、測定方向へ15°体幹回旋した肢位とした。下腿後面と治療台の前縁は2横指離し、大腿近位部と遠位部をベルトでそれぞれ固定した。
     HHDはμTas F-1(アニマ社製)を用いた。抵抗は検者の徒手を用い、抵抗部位は被験者の非回旋側の上腕近位前面とした。抵抗方向は水平かつ治療台前縁に対して測定方向に30°回旋した方向とした。5秒間の最大等尺性体幹回旋筋力を片側5回-反対側5回の順に測定し、各測定方向の最大値を最大筋力として採用した。測定方向の順序は無作為とし、各測定間は30秒以上空け、片側と反対側の測定間は3分以上空けた。
     上記の方法で予備測定を行った後、同じ方法で測定を計3セッション実施した。予備測定を含め、各セッション間は3日以上の間隔を空けた。検者は予備測定と1回目、3回目は男性1名、2回目は女性1名とした。
     統計学的分析は、検者内(1回目と3回目間)および検者間(1回目と2回目間)の再現性については級内相関係数(以下、ICC)を用い、Bland-Altman分析にて固定誤差と比例誤差が無い事を確認した後、最小可検変化量の95%信頼区間(以下、MDC95)を求めた。体幹回旋筋力の左右差、検者内と検者間における学習効果による筋力向上の検討には対応のあるt検定を用いた。統計解析ソフトはR2.8.1を使用した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】 再現性はICC(括弧内は95%信頼区間を表示)で検者内が右回旋0.95(0.87-0.98)、左回旋0.96(0.89-0.98)、検者間は右回旋0.98(0.94-0.99)、左回旋0.96(0.89-0.98)であり、強い相関が認められた。いずれも有意な固定誤差と比例誤差は認められず、MDC95は検者内が右回旋35.9N、左回旋35.2N、検者間が右回旋24.2N、左回旋35.9Nであった。体幹回旋筋力の左右差および学習効果は認められなかった。
     なお予備測定と1回目間の検者内の再現性はICCで右回旋0.84(0.60-0.94)、左回旋0.88(0.68-0.95)であり、固定誤差と比例誤差を認めた(p<0.05)。また予備測定と比較し1回目の体幹回旋筋力に有意な向上を認めた(p<0.01)。
    【考察】 今回の測定方法は再現性が高く、簡便なため、臨床的に有用な方法と思われる。ただし予備測定と1回目間の再現性が低く、固定誤差や比例誤差を認めたことなどから、測定には十分な事前練習が必要と考えられる。
    【まとめ】 今後は疾患を有する対象者における再現性と妥当性を検討する必要があると考える。
  • 加藤 喜晃, 中 徹
    セッションID: P-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 Physiological cost index(以下、PCI)は運動前の安静時心拍数と最適負荷での運動時の心拍数を速度または頻度で除したもので、値が小さいほど運動効率が良いとされる簡易的な運動耐久性指標であり、成人の歩行においては0.1~0.3beat/meterが標準値とされている。しかし、歩行以外のPCIや、繰り返し動作で同様の論理に基づく指標であるEnergy expenditure index(以下、EEI)の標準値(beat/回)は報告されておらず、様々な運動の運動効率の評価として用いるには限界がある。そこで、運動課題となりうる動作のPCI、EEIを調べ、それぞれの運動の測定方法や成人標準値を確立することを目的と、予備的な調査研究を行なった。
    【方法】 対象者は健常成人21名とし、年齢は20~21歳、男性9名、女性12名であった。測定対象の運動を歩行・立ち上がり運動(3分間)、四つ這い・ずり這い・寝返り・起き上がり(1分間)とし、速度・頻度は各被験者の最適なもの(以下、最適)・30%増のもの(以下、30%増)・30%減のもの(以下、30%減)とし、メトロノームで速度管理した運動を室温27度、湿度60%の室内で行った。各測定の開始は、各自の安静時心拍数とした。安静時、各運動直後の心拍数(HB)をパルスオキシメータ(日本光電社製)で測定しPCI・EEIを算出した。統計処理はFriedman検定とScheffeの多重比較、Spearmanの順位相関係数を用い、有意水準5%で検討した。
    【結果】 PCI(beat/meter)を最適・30%増・30%減の順に平均±標準偏差で示すと、歩行では0.33±0.13・0.37±0.13・0.3±0.23、四つ這いでは0.72±0.29・0.70±0.29・0.90±0.36、ずり這いでは1.49±0.65・1.80±0.69・2.00±1.01であった。EEI(beat/回)を同様に示すと、寝返りでは1.04±0.47・0.84±0.46・1.06±0.55、起き上がりでは1.55±0.51・1.33±0.66・1.94±0.80、立ち上がりでは1.51±0.50・1.43±0.48・1.83±0.75であった。最適で差がみられたのは、歩行と寝返り・起き上がり・立ち上がり・ずり這いであったが(順にp= 0.01・0.00・0.00・0.00)、歩行と四つ這いでは差がみられなかった。最適と30%増で差がみられたのは、寝返り(p=0.03)、起き上がり(p=0.021)であり、最適と30%減で差がみられたのは、四つ這い(p=0.032)であった。ずり這いは最適と30%増・30%減で差がみられたが(共にp=0.01)、立ち上がり・歩行では速度による差はみられなかった。
    【考察】 今回の結果で、歩行のPCIは0.33±0.13となり、従来と一致する結果となり計測方法に問題はなかった。立ち上がりは歩行同様、多少の速度変化では効率は変わらず、速度依存性が低い動作であるといえる。寝返り、起き上がりは最適な速度よりも遅く、四つ這いは最適な速度より速く行う方が効率的であり、速度依存性がある。ずり這いは最適な速度が最も効率的で速度依存性が強い。今回の結果では健常成人の標準値は、寝返りはEEI 0.84±0.46、起き上がりはEEI 1.33±0.66、立ち上がりはEEI 1.43±0.48、四つ這いはPCI 0.70±0.29、ずり這いはPCI 1.49±0.65と提案できたが、対象者数の拡大や検査方法としては、運動持続時間の設定や最適速度の指示のしかたに関して、更なる検討が必要であると考えた。
  • 都志 翔太, 土山 裕之
    セッションID: P-35
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 中枢神経疾患の麻痺により身体機能の低下のみならず運動イメージにおいても障害されることが報告されている。しかし、発症からの経時的変化をとらえた報告はない。運動イメージの評価には、空間的側面を評価するmental rotation(以下MR)課題と時間的側面を評価するmental chronometry(以下MC)課題があるが、今回脳梗塞発症初期から運動イメージの評価を実施し、身体機能面の改善に伴う運動イメージの経時的変化をとらえたので報告する。
    【方法】 対象は脳幹梗塞により右片麻痺となった80代右利き女性とし、紙面と口頭にて十分な説明を行い、同意を得て実施した。MC課題では左手で「石川県」の3文字をイメージと実際とで書字することとし、その時間を計測した。実際の書字時間とイメージ時間の誤差はイメージ時間/運動遂行時間(M/A比)の比率を算出した。MR課題では左右手掌・手背の写真を0°、90°、-90°、180°と回転させた計16枚の写真を提示し、対象者にはその写真が右手か左手かを回答しその時間を計測した。上下肢の運動障害・感覚の評価にはStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)を用いた。日常生活自立度の評価には、Functional Independence Measure(以下FIM)の運動項目を用いた。リハビリ開始初期から評価を開始し、1ヶ月、2ヶ月後に再評価を実施。統計解析として、MR課題の左手、右手の2群間比較で期間(発症初期、1ヵ月後、2ヵ月後)の2要因とする二元配置分散分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
    【結果】 発症初期、1ヵ月後、2ヵ月後のMR課題平均値は左手で、3.2、2.9、2.7右手で2.9、2.6、2.5と反応時間の低下がみられるが、二元配置分散分析の結果、左手、右手、期間のそれぞれにおいて有意差は認められなかった。SIASによる合計点は運動項目で7、20、22/25点、感覚項目で10、12、12/12点と改善傾向を示し、FIMによる活動度は53、62、86/91点と向上はみられているが、M/A比は1.35、1.34、1.39と大きな変化はみられない傾向を示した。
    【考察】 今回の評価では身体能力の改善に伴う運動イメージの改善はみられない結果となった。年齢とともにMR反応時間は延長し、MCの誤差率は増大する(山田、2007, 2008)と報告がある。MR課題の左右による有意差がみられずM/A比も変化しないことを考えると、今回の発症による運動イメージ鮮明性に変化はなく、元々加齢により運動イメージ鮮明性に低下を起こしていた可能性がある。しかし、MR課題の反応時間は低下傾向を示しており症例数を増やしていくことで有意差がみられる可能性もあり、今後の課題である。
    【まとめ】 脳卒中患者の運動イメージにおいて、年齢や発症前の運動イメージ鮮明性が重要となり個別性を重視する必要が示唆された。
  • 金澤 沙耶佳, 佐藤 武士, 伊藤 良太
    セッションID: P-36
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 脳卒中片麻痺患者の歩行において、麻痺側遊脚期に足部が床に接触し(以下、引っかかりなど)臨床上問題となることが多い。下肢ペダリング運動(以下、ペダリング)は下肢運動機能の改善に効果があるとされ、引っかかりなどの改善が期待される。一方、臨床現場では麻痺側立脚後期の練習(以下、立脚後期練習)により、円滑な遊脚期への移行が可能となり引っかかりなどが改善することもよく経験する。そこでシングルケースデザインを用いて、ペダリングと立脚後期練習のどちらが引っかかりなどの改善に効果があるかを検討した。
    【方法】 対象は初発脳卒中左片麻痺患者1名(60歳代男性、下肢Brunnstrom recovery stage5)とした。
     研究はABABデザインを用い、期間は4週とした。各期は1週間(週5日介入)とし、1週目から順にA1、B1、A2、B2とした。A1、A2にはペダリングを、B1、B2には立脚後期練習を各10分間実施し、その前後に最大速度での45m歩行を3回ずつ実施し効果判定を行った。なお、介入期間前後に下肢ROM、SIAS、下肢運動項目および感覚項目、左右の最大脚伸展筋力を計測し下肢機能の変化を評価した。
     ペダリングは三菱電機社ストレングスエルゴ240を用い、バックレストを後方へ最大に倒し、ペダリング時の最大膝伸展角度が軽度屈曲位となるよう座席を設定した。駆動方向は逆回転とし、回転数は実施前の45m歩行のケイデンスの約100%~110%に設定した。運動負荷はアイソトニックモードで5N・mから開始し、旧Borg scaleの11~13となるよう調節した。
     立脚後期練習は麻痺側後方のステップ肢位にて麻痺側の踵から母趾球への重心移動を行い、円滑な遊脚期への移行を練習した。
     効果判定には練習後の45m歩行の速度、歩幅、引っかかり出現率(引っかかり回数/歩数)、引きずり出現率(引きずり回数/歩数)を用いた。なお、足部が床面と接触した際に、振り出しが妨げられたものを引っかかり、振り出しが妨げられなかったものを引きずりとした。各項目をグラフ化し、中央分割法にてceleration lineの傾きを求め、目視にて判定を行った。また、補助的に二項検定を用い各期の介入効果の違いを検討した。
    【結果】 介入期間を通して歩行速度と歩幅は増大した。引っかかりと引きずりの合計の出現率は、A1は増加し、A1に対してB1は減少した(p<0.01)。B1に対してA2は増加し(p<0.05)、A2に対してB2は減少した(p<0.01)。引っかかり出現率はA1に対してB1は減少し(p<0.01)、A2はB1より緩やかな減少となり(p<0.01)、B2では横ばいとなった。引きずり出現率は、A1は横ばい、B1とA2は増加し、A2に対してB2は減少した(p<0.01)。介入期間前後で、膝伸展位での両側足関節背屈可動域のみ15°から20°へ改善した。その他の項目に関しては変化はみられなかった。
    【考察】 B1、B2に引っかかりや引きずりの改善がみられたことから、症例においては立脚後期練習の方が効果的であったことが示唆された。
    【まとめ】 今後は臨床の現場にて症例数を増やし、適切な介入方法を更に検討していく必要があると考えられる。
  • 植田 和也, 横田 恵里, 小川 晃平, 菅原 貴志, 金井 章
    セッションID: P-37
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作では、左右非対称性や不安定性、動作時間の延長が報告されており、動作困難を呈する例も少なくない。今回、脳卒中片麻痺者における立ち上がり動作の特徴を明らかにする事を目的として、足圧中心左右動揺距離(COP距離)、足圧中心左右動揺範囲(COP範囲)を検討した。
    【方法】 対象は脳卒中右片麻痺者9名(CVA群:平均年齢64±7歳、平均身長160.1±7.8㎝、平均体重61.1±11.1㎏)、健常成人7名(Control群:平均年齢59±6歳、平均身長163.3±6.4㎝、平均体重66.4±9.6㎏)とした。下肢荷重計ツイングラビコーダーG6100(アニマ社製)を用いて、動作時間、COP距離、COP範囲を計測し、測定項目は全て離殿前、離殿後で分けて検討した。計測条件は、座面高を各被験者の下腿長を基準に80%、100%、120%に設定し、快適速度で各2施行実施した。対象者には事前に十分な説明を行い、同意を得た。本研究は豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認を得た。
    【結果】 動作時間は、全条件でCVA群がControl群より高値を示し、CVA群では離殿後時間が延長していた。COP距離(㎝)(離殿前/離殿後)は、Control群では80%:3.26±0.94/5.06±2.34、100%:3.45±1.11/4.65±3.4、120%:3.16±1.13/3.01±1.85、CVA群では80%:6.69±4.36/19.3±6.08、100%:7.32±2.43/19.79±7.96、120%:5.82±2.51/17.85±8.98で、全条件でCVA群が高値であった。COP範囲(㎝2)(離殿前/離殿後)は、Control群では80%:1.83±0.86/2.59±0.88、100%:2.1±0.82/2.52±1.34、120%:1.9±0.92/1.78±0.78、CVA群では80%:3.44±1.98/4.91±1.62、100%:4.16±1.98/4.9±1.41、120%:3.65±1.82/4.47±1.81で、全条件でCVA群が高値であった。また、いずれの条件でもCVA群は離殿前に非麻痺側へ重心を変位させており、80%条件では離殿後のCOP範囲が増大した。
    【考察】 立ち上がり動作は体幹前傾に伴う重心の前方移動から、離殿を経て重心を垂直方向へ移動させる動作である。今回、CVA群で離殿後時間が延長したのは、離殿後の重心移動に時間を要したと考えられる。これは、離殿後COP距離の増加や80%条件における離殿後COP範囲の増加から確認された。また、CVA群は離殿に先立って非麻痺側へCOPを変位させていた事から、離殿後の重心移動には非麻痺側肢の機能が影響している可能性が予測された。
    【まとめ】 脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作では離殿後における重心の垂直方向への移動が円滑に行えず、健常者に比べてCOP距離、COP範囲が増大する事が確認された。今後は、身体アライメントや筋活動との関連性も検討して、より詳細な分析を進めていきたい。
  • 嶋本 尚恵, 小口 和代, 星野 高志, 山口 裕一, 鈴木 琢也, 中嶋 章紘
    セッションID: P-38
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 「脳卒中治療ガイドライン2009」において部分免荷トレッドミル訓練(以下、BWSTT)はグレードBと推奨されているが、急性期のBWSTTに関する報告は少ない。急性期における身体機能の変化に着目し、BWSTTのRCTを開始した。
    【方法】 対象は2010年10月から2012年3月に当院に入院した初発脳卒中患者のうち、発症前ADL完全自立、リハビリ室訓練開始時(以下、開始時)に手すり歩行5m要介助、運動負荷禁忌の合併症なし、を満たす24名(平均年齢64歳)とし、無作為にBWSTT実施群(以下、B群)13名(平均年齢62歳)と実施しない群(以下、C群)11名(平均年齢64歳)に群分けした。理学療法頻度は両群共に週5回で、B群はBWSTTを週3回、通常の理学療法を週2回、C群は通常の理学療法を週5回実施した。BWSTT時の歩行距離・速度・免荷量は個々に設定し、必要に応じて体幹伸展、下肢振り出しを介助した。また、両群とも適切な装具を使用した。手すり歩行5m監視となった、あるいは開始時から3週経過した時点で調査終了とした。開始時から手すり歩行5m監視達成(以下、達成)までの日数・開始時と終了時のSIAS下肢運動項目合計(以下、SIAS下肢)・SIAS体幹項目合計(以下、SIAS体幹)・合計歩行距離の平均値、達成時使用装具を群間で比較した。本研究は当院倫理委員会で承認され、対象者には書面で同意を得た。
    【結果】 達成者(名)/未達成者(名)はB群4/9, C群4/7, 達成者の開始時の発症後日数(日)/開始時から達成までの日数(日)はB群9/13, C群5/15であった。B群達成者、B群未達成者、C群達成者、C群未達成者のSIAS下肢(開始時/終了時)は0.8/1.5, 0.9/1.9, 2.8/7.0, 1.6/2.7, SIAS体幹(開始時/終了時)は1.5/3.8, 1.0/3.0, 2.8/4.0, 1.7/3.1, 合計歩行距離(m)は667.5, 594.6, 184.0, 133.1であった。B群(名)/C群(名)の達成時使用装具は長下肢装具3/0、短下肢装具1/4であった。
    【考察】 B群はSIAS体幹、C群はSIAS下肢が改善する傾向がみられた。B群は懸垂、介助にて体幹伸展活動を促し、長距離の歩行訓練を行ったことで、SIAS体幹がより改善したと考えられる。B群、C群達成者の達成時にSIAS体幹には差はないが、SIAS下肢はB群達成者が低い。また、B群達成者の達成時とB群未達成者の終了時ではSIAS下肢は未達成者、SIAS体幹は達成者の方が高いことから、体幹機能改善が歩行獲得に影響していることが考えられる。渡邊らは身体中枢部や骨盤の姿勢コントロールを回復させることで、より自律的な要素をもつ歩行を再獲得できる可能性が高いと述べている。また、神経生理学的研究ではBWSTTにより脊髄中枢パターン発生器が賦活するとの報告が多い。このことからBWSTTにより体幹機能改善を図り、さらに脊髄中枢パターン発生器を賦活し周期的なステッピング運動を行うことで、麻痺が重度であっても適切な装具使用の下、歩行獲得が期待できることが示唆された。
    【まとめ】 急性期から積極的にBWSTTを導入することで体幹機能が改善し、下肢の麻痺が重度であっても歩行獲得が期待できることが示唆された。今回は症例数が十分ではなかったため、数を増やし検討を進めたい。
  • 寺井 ミカ
    セッションID: P-39
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 プッシャー現象は、程度の差はあるが、座位、立位、歩行時のいずれにもみられ、運動学習およびADL自立の大きな阻害因子になるといわれている。今回、重度のプッシャー現象により起居動作獲得に難渋した症例を経験する機会を得たためここに報告する。
    【症例紹介】 症例は、左被殻出血を発症し、右片麻痺と失語症を呈した70歳代の女性である。発症後26日目に当院へ転院されリハビリ継続の運びとなる。なお、今回の発表の主旨を患者・家族に説明し同意を得た。
    【初期評価】 Brunnstrom recovery stage 右上肢2・手指1・下肢2であり、感覚は、右上下肢ともに痛み刺激に対しても反応がなく脱失であった。Karnathらのプッシャー現象の指標であるScale for contraversive pushing(以下SCP)は6点で最も重症な状態であった。ADL評価は、BI5点(食事のみ)、FIM38点であった。起居動作は、すべて全介助であった。
    【治療内容・結果】 非麻痺側の体性感覚への感覚入力に重点をおき、リハビリ開始より1ヶ月目は左側臥位保持練習・静的座位練習・寝返り練習を中心に行った結果、左側臥位での保持が行えるようになり静的座位も見守りで行えるようになった。2ヶ月目は動的座位練習・立位練習を中心に行った結果、座位での前方へのリーチ時の右への崩れが軽減し、壁際の手すり使用での立位保持が1分程度行えるようになった。3ヶ月目は立ち上がり練習・トランスファー練習を中心に行った結果、日中は1人介助でトイレ誘導が行えるようになった。麻痺側に著名な改善は認めなかったが、SCPは1.25点、ADL評価は、BI35点、FIM64点に改善を認めた。起居動作は、手すり使用にてすべて見守り~軽介助に改善した。
    【考察】 今回は体性感覚への感覚入力に重点をおき、動作を繰り返し行うことで新しい姿勢制御機能が作り出されたと考えられる。その結果、非麻痺側の過剰な活動が抑制されたことでプッシャー現象の軽減につながり、起居動作の介助量軽減を獲得できたと考えられる。
    【まとめ】 今回の症例を通して、非麻痺側への理学療法介入の重要性を改めて認識した。今後は予後予測に応じて、麻痺側のみならず非麻痺側に対しても積極的に理学療法を行っていきたいと考える。
  • 杉浦 徹, 櫻井 宏明, 岩田 研二, 木村 圭佑, 坂本 己津恵, 松本 隆史, 金田 嘉清
    セッションID: P-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 わが国では高齢化に伴い、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)に入院する脳卒中患者も高齢化してきている。そのなかで、特に超高齢者においては、機能回復の遅延、介護する側の高齢化も重なり転帰先を決めるうえで難渋するケースが多い。そこで、本研究では回復期リハ病棟における脳卒中患者の高齢者と超高齢者の比較を行い、超高齢脳卒中患者の転帰の特徴を検討することを目的とした。
    【方法】 対象は、2009年4月から2012年3月までに、当院回復期リハ病棟を退院した65歳以上の高齢初発脳卒中患者で転帰先が自宅もしくは施設となった112例とした。この中で、65歳以上84歳以下の者を高齢者群(63例)、85歳以上の者を超高齢者群(49例)として2群に分類した。方法は、高齢者群と超高齢者群を目的変数とし、転帰先、患者の基本特性、ADL能力を説明変数として2群間比較を行った。転帰先は自宅もしくは施設に分類し、患者の基本特性は、発症から当院入院までの日数、当院在院日数、一日当たりのリハビリ実施単位数、患者家族の構成人数、配偶者の有無、退院時の移動手段とした。ADL能力は、機能的自立度評価表(以下、FIM)における退院時の各得点と各利得とした。統計解析は、配偶者の有無、退院時移動手段、転帰先についてはχ2独立性の検定、発症から当院入院までの日数、当院在院日数、一日当たりのリハビリ実施単位数、家族の構成人数には独立したt検定を実施した。FIMに関しては、全てMann-WhitneyのU検定で比較した。有意水準は5%とし、解析処理ソフトには、PASW Statistics 18.0 for Windowsを使用した。倫理面への配慮は、患者の所属する施設での倫理審査委員会の承認を得た。
    【結果】 高齢者群の在宅復帰率は69.8%であり、超高齢者群では、53.1%であった。この2群間における比較では、配偶者の有無、退院時移動手段、転帰先の3項目において有意な差が認められた(p<0.05)。一方で、発症から当院入院日数、当院在院日数、一日当たりのリハビリ実施単位数、患者家族の構成人数、退院時FIM得点、利得では有意な差が認められなかった。
    【考察】 高齢者群に比べて、超高齢者群の在宅復帰は難しいと考えられたが、見方を変えれば、超高齢脳卒中患者でも2人に1人は再び在宅生活に戻れることが明らかとなった。この背景として、超高齢者群でも家族の構成人数の多さによる家族の協力やFIM得点におけるADL能力の向上が考えられた。しかし、家族の構成人数やADL能力が同程度であっても、配偶者の存在や移動手段として歩行獲得の有無が高齢者群と超高齢者群の在宅復帰率を分けた可能性が考えられた。
    【まとめ】 超高齢脳卒中患者でも回復期リハ病棟からの在宅復帰は十分に可能であり、ADL能力の向上も期待出来た。しかし、高齢脳卒中患者に比べると、配偶者を含めた家族の協力や高い運動能力(歩行)の獲得は難しく、在宅復帰率が低下する傾向にあった。超高齢脳卒中患者が安心して回復期リハ病棟から在宅復帰できるようにしていく為には、療法士はADL能力の向上に努めるとともに、生活期を想定した介護保険サービス等の提案にも参加していく必要があると考えられる。
  • 稲垣 潤一, 髙木 聖, 森 紀康, 中村 優希, 林 由布子, 加藤 陽子, 今村 隼, 川出 佳代子, 今村 康宏
    セッションID: P-41
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 高齢化の進展に伴い大腿骨近位部骨折(以下、近位部骨折)患者数は増加の一途をたどっており、その歩行能力について数多くの研究が報告されている。一方、片側の近位部骨折(以下、片側骨折)後に反対側の近位部骨折(以下、対側骨折)を生じた両側近位部骨折(以下、両側骨折)に関する研究報告は非常に少ない。そこで今回われわれは、両側骨折患者の歩行能力について検討し、若干の知見が得られたので、その結果を考察とともに報告する。
    【対象と方法】 2008年9月から2011年7月の間に当院において理学療法を施行した両側骨折患者22例を対象とした。内訳は男性3例、女性19例、平均年齢85.0±5.9歳であった。方法は、片側骨折後に歩行が自立しており、対側骨折後にも歩行が自立した群(以下、A群)9例、片側骨折後に歩行が自立していたが、対側骨折後は歩行に介助を要した群(以下、B群)5例、片側骨折後すでに歩行に介助を要し、対側骨折後も歩行に介助を要した群(以下、C群)8例の3群に分類した。これら3群について1)対側骨折受傷時の年齢、2)改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)、3)手術から最終歩行能力到達までの日数、4)手術から退院までの日数、5)転帰先を調査し、比較・検討した。統計学的分析は一元配置分散分析にて行い、多重比較はLSD法を用いた。危険率5%未満を有意な差と判断した。なお本研究は、当院倫理委員会の承認を得て実施した。
    【結果】 1)対側骨折受傷時の年齢は、A群80.2±4.1歳、B群89.6±5.1歳、C群87.4±4.5歳で、A群と比較してB群、C群で有意に高かった。2)HDS-Rは、A群25.2±3.3点、B群10.0±8.4点、C群10.9±7.8点でA群と比較してB群、C群で有意に低かった。3)手術から最終歩行能力到達までの日数は、A群51.7±15.6日、B群59.6日±18.4日、C群44.8±21.9日で有意な差は認められなかった。4)手術から退院までの日数は、A群75.3±18.7日、B群99.2±12.9日、C群78.8±27.0日で有意な差はみられなかった。5)転帰先については、A群は全例自宅、B群は自宅4例、他院1例、C群は自宅7例、他院1例であった。
    【考察】 「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン」では、歩行能力の予後に影響を与える因子として年齢、認知症の程度があげられている。今回の調査結果において対側骨折受傷時の年齢がA群に対しB群、C群で有意に高かったこと、また、HDS-RがA群と比較してB群、C群で有意に低かったことから、両側骨折においても受傷時年齢およびHDS-Rが歩行能力の予後に影響を及ぼす要因であることが示された。最終歩行能力到達までの日数は、3群間に有意差は認められず、いずれの群においても術後7週間程度でおおむね達成されていた。このことは、片側骨折患者の最終歩行能力についてのわれわれの先行研究結果と同様であった。
    【まとめ】 両側骨折患者の歩行能力について検討した。受傷時の年齢およびHDS-Rが歩行能力に影響を及ぼす要因であることが示唆された。また、手術から最終歩行能力到達までの日数も片側骨折時とほぼ同様であることが明らかになった。今後は他因子との関係についてもさらなる検討が必要であろう。
  • 柴本 圭悟, 上田 周平, 成瀬 早苗, 林 琢磨, 桑原 道生, 岩﨑 真美, 長谷川 多美子, 足立 はるか, 鈴木 重行, 伊藤 隆人
    セッションID: P-42
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々は第47回日本理学療法学術大会において術後早期に測定した手すり支持椅子立ち上がりテスト(Handrail Support 30-sec Chair Stand:以下、HSCS-30)が大腿骨近位部骨折患者の急性期病院退院時の歩行能力と関連があることを報告した。しかし、HSCS-30は急性期以降の歩行能力を反映する指標であるかは不明である。そこで今回、急性期病院入院時に測定したHSCS-30が回復期病院退院時の歩行能力を反映する指標となるかを検討した。
    【方法】 対象は2011年2月~2012年4月に当院にて手術しリハビリを施行した大腿骨近位部骨折患者で、受傷前歩行能力が屋内歩行自立レベル以上、指示の理解が可能な18例(男性4例、女性14例、平均年齢82±7.3歳)を対象とした。骨折型は頚部骨折13例(人工骨頭9例、Hansson Pin 2例、髄内釘2例)、転子部骨折5例(全例髄内釘)であった。全例が術翌日より全荷重であった。方法は、急性期病院の術後5・7・10日目にHSCS-30を測定した。HSCS-30の測定は、対象者を高さ40㎝の台に座らせ、非術側の肘関節屈曲30°で平行棒を握らせた。平行棒の高さは大転子外側端とした。「用意、始め」の合図で立ち上がり、すぐに開始肢位へ戻る動作を1回として30秒間の回数を測定した。回復期病院退院時の評価項目は10m最大歩行速度(10 Meter Maximum Walking Speed:以下10MWS)を測定した。10m最大歩行速度は、10mの最速歩行時間から求めた。回復期病院退院時のMWSと急性期病院で測定したHSCS-30との関連性を検討した。さらに、回復期病院退院時の独歩、T字杖歩行自立群12名と非自立群6名に分け立ち上がりの回数を比較した。統計処理にはPearsonの相関係数、Spearmanの順位相関係数を用い、有意水準は5%以下とした。
    【結果】 急性期病院の術後7・10日目に測定したHSCS-30は、回復期病院退院時の10MWSとの間に相関を認めた(r=0.60~0.69)。HSCS-30が術後5・7・10日目の各日にて10回以上行えた対象者は、回復期病院退院時に独歩かT字杖歩行が自立できていた。一方、HSCS-30が10回以下の対象者では一定した傾向を示さなかった。
    【考察】 大腿骨近位部骨折術後の患者に対する術後7・10日目のHSCS-30の結果は、回復期退院時の歩行能力との関連があることが分かった。また、術後5・7・10日目でHSCS-30が10回以上の場合では全例が独歩またはT字杖で歩行自立していたことから、大腿骨近位部骨折患者の歩行の自立度を予想できる可能性を示した。しかし、HSCS-30が10回以下の場合でも回復期病院の退院時に独歩またはT字杖が自立されている対象者もおり、別の評価バッテリーの必要性が考えられた。
    【まとめ】 急性期で測定したHSCS-30は復期退院時の歩行能力との関連があり、大腿骨近位部骨折患者の歩行の自立度を予想できる可能性を示した。
  • 畠平 絵梨, 島倉 聡, 山本 健二, 笹川 尚, 松野 晃久, 岩城 悠, 西田 有佑, 竹中 基泰, 今田 光一
    セッションID: P-43
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 大腿骨近位部骨折は、高齢者に代表的な骨折で受傷後ADLやQOLの低下、生命予後が問題となり、術後早期歩行を開始し、歩行を再獲得することが重要な課題となる。当院では、大腿骨近位部骨折術後のリハはクリニカルパス(以下パス)に準じて実施しており、今回、歩行がパスに沿って開始できたか調査を行い、早期歩行と予後の関連性について若干の知見を得たので報告する。
    【方法】 対象は、2010年4月から2011年3月までに当院で大腿骨近位部骨折にてリハを施行し、かつ受傷前歩行が可能であった80例(男性15例、女性65例)とした。パスでは術後2日目に座位、3日目に起立、4日目に平行棒内歩行、5日目に歩行器歩行開始を目標としている。歩行開始が術後5日以内の例を早期群(以下A群)、6日以上要した例を遅延群(以下B群)、歩行に至らなかった例を不能群(以下C群)と分類した。調査項目は年齢、受傷前歩行能力、パス進行状況(術後リハ・座位・起立・歩行開始までの日数)、個人因子、退院時歩行・トイレ動作能力、転帰とした。統計処理はystat2008を使用し、年齢、パス進行状況は対応のないt検定、受傷前歩行能力、個人因子、退院時歩行・トイレ動作能力、転帰はFisher検定を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。
    【結果】 内訳はA群28例(35.0%)、B群45例(56.3%)、C群7例(8.7%)であった。年齢は79.8±8.8歳、86.7±6.8歳、88.9±1.9歳で各群間で有意差を認めた。受傷前歩行能力は杖歩行以上が23例(82.1%)、37例(82.2%)、2例(28.6%)であり、C群では有意な低下を認めた。パス進行状況における術後リハ開始は2.6±1.5日、3.3±1.6日、4.4±3.0日、座位開始は2.8±1.3日、3.6±1.5日、5.4±3.0日、起立開始は3.3±1.3日、4.8±2.2日、11.6±11.5日でA群では有意に早かった。C群を除いたA群とB群で歩行開始は3.9±1.2日、9.1±3.9日、退院時歩行能力は杖歩行以上が19例(67.9%)、13例(28.9%)、退院時に歩行にてトイレ動作が可能であったのは21例(75.0%)、19例(42.2%)でそれぞれ有意差を認めた。転帰は自宅退院がA群13例(46.4%)、B群5例(11.1%)、C群0例(0%)でA群では自宅退院の割合が有意に高かった。個人因子はせん妄、術後全身状態、認知症、意欲低下、術後荷重制限でA群とB・C群間で有意差を認めた。
    【考察】 今回の調査で、パスに沿って早期歩行が開始できた例は35.0%であった。B・C群では術後リハ開始が予定より遅延する傾向にあり、その後の歩行に影響を与えたと考えられた。また高齢や受傷前歩行能力低下に加え、せん妄、認知症、意欲低下といった因子を有する例が多く、これらが歩行獲得を遅延する要因になったと考えられ、個々に応じた適切な対応を行う必要性を感じた。早期歩行開始が退院時歩行やトイレ動作能力の向上に繋がり、結果として自宅退院が増加すると示唆され、大腿骨近位部骨折術後のリハにおいて早期歩行の有効性を確認できた。
    【まとめ】 今後、パスに沿って早期歩行を進めるには標準的プログラムの作成や綿密な連携によるチームアプローチが求められると認識した。また、活動レベルでのミニパスの必要性を感じた。
  • 久保田 聡, 白崎 浩隆, 西潟 央, 藤田 祐之
    セッションID: P-44
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 大腿骨頚部・転子部骨折は早期離床を目的に骨接合術など観血的治療が行われている。しかし全身合併症を有し手術困難と判断される場合や、高齢・認知症を理由に家族が手術を希望しない例も少なくない。保存療法は観血的治療に比べ、痛みの緩和に時間がかかりベッド上で安静になる期間が長く、筋力低下や認知機能低下などの二次的合併症を引き起こすリスクがある。今回当院における大腿骨頚部・転子部骨折保存療法例について調査を行い、現状および今後の課題を検討した。
    【方法】 2010年11月より2012年4月の間に当院に入院した大腿骨頚部・転子部骨折患者29例中、保存療法13例を対象とした。男性1例、女性12例で受傷時平均年齢は90.8歳であった。骨折型は頚部骨折4例、転子部骨折7例であった。また13例のうち他院からの転院が10例であった。保存療法を選択した理由、入院時の痛みの程度、安静臥床期間、リハビリ治療方法とその開始時期、入院期間、退院時の移動などの日常生活動作を後方視的に調査した。本研究は、当院倫理委員会の承認のもと個人情報の保護に配慮し調査を行なった。
    【結果】 退院時の生存例は12例、死亡例は1例であった。保存療法を選択した理由は家族の意向が最も多かった。当院入院からリハビリ開始までの期間は平均5.1日、車椅子座位までの期間は平均7.0日、入院期間は平均52.9日であった。退院時移動能力は独歩2例、車椅子自立3例、車椅子介助7例となった。退院先は在宅が2例、介護老人保健施設8例、他病院1例、グループホーム1例であった。また入院中に2例が肺炎を合併した。
    【考察】 大腿骨頚部・転子部骨折後は受傷が引き金となり全身状態の悪化や心不全や肺炎などの合併症のリスクが高くなることが諸家により報告されている。当院では13例中2例が肺炎を合併した。保存療法では疼痛や骨折部管理をしながら、できるだけ早期離床をすすめ二次的合併を予防することが必要となる。安静臥床から車椅子への離床移行までの期間が平均7.0日間であったが、内科的合併症や強い痛みがあったなどの背景があった。実用歩行獲得は13例中2例で、保存療法患者のほとんどが車椅子レベルとなった。そのうち車椅子介助が7例と多く、認知機能低下の影響が考えられた。また車椅子への離床が遅くなった例では、痛みが原因の一つとして挙げられた。高齢者の場合、認知機能・早期離床の観点から医師と連携し痛みのコントロールが重要である。さらに移動能力の予後を早期に予測し、次の生活の場での移動手段の獲得を考慮したアプローチも必要であると考える。
    【まとめ】 今回当院に入院した大腿骨頚部・転子部骨折保存療法例を後方視的に調査した。安静臥床から車椅子乗車への離床移行までの期間が約1週間だった。また退院時の実用歩行獲得例は少なく、ほとんどが車椅子レベルとなった。今後は早期離床、移動手段の獲得に向けて検討することが課題として挙げられた。
  • 柴田 真理子, 松山 太士
    セッションID: P-45
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 転倒恐怖感に関連する因子として自己効力感や身体運動機能との関連が指摘されており、転倒予防の観点から転倒恐怖感を軽減する介入の必要性が高まっている。しかし、転倒恐怖感に関する報告はいずれも施設入所者や地域在住高齢者を対象としたものが多く大腿骨近位部骨折を対象とした転倒恐怖感に関する報告は少ない。そこで、本研究では転倒により大腿骨近位部骨折を呈した高齢者を対象とし、転倒経験が転倒恐怖感に影響を及ぼすのか、また転倒恐怖感が活動範囲などの参加へ与える影響および身体機能との関連を明らかにすることを目的とした。
    【方法】 対象は転倒により大腿骨近位部骨折を呈し、当院に入院(H21~22)された高齢者のうち、調査・測定が可能な12名(男性5名、女性7名、平均年齢84.6±3.8歳)とした。研究内容に同意が得られなかった者、内容を十分に理解できない程の重度認知機能低下のある者は対象者から除外した。転倒恐怖感の指標としてFall Efficacy Scale(以下FES)を用いた。FESの取り得る範囲は10~40点とし、得点が低いほど転倒恐怖感の程度が強いことを示す。生活の広がりの指標としてLife Space Assessment(以下LSA)を用いた。LSAの取り得る範囲は0~120点とし、得点が低いほど生活範囲の狭小化を示す。身体機能の評価としてTimed Up&Go test(以下TUG)を普段使用する補助具を使用し快適速度にて測定した。FES・LSAの調査においては入院中に病前の状態を聴取し、退院1週間後に再度調査を実施した。また、TUGにおいては退院時に測定した。統計学的解析は、病前・退院後FESの比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を、FESとLSA・TUGとの関連性にはSpearmanの順位相関係数を用いた。また有意水準は5%未満とした。倫理的配慮として、全ての対象者に十分に説明をし、同意を得た。
    【結果】 病前FES(平均値32.8±5.1点)と退院後FES(24.5±3.2点)の比較では、有意差が認められた。また、FESとLSAでは中等度の相関(r=0.65)を認め、FESとTUGでは相関が認められなかった。
    【考察】 病前・退院後のFESにおいて有意差が認められたことから、転倒により転倒恐怖感が増悪することが示された。またFESとLSAにおいて中等度の相関が認められたことから、転倒恐怖感は高齢者の生活範囲の狭小化から廃用症候群をうみ、再転倒するという悪循環を引き起こす要因となり得ることが推察された。また転倒恐怖感とバランス能力では関連を認めるとの報告がなされているが、本研究においてはFESとTUGにおいて相関は認められなかったことから、高齢者の転倒恐怖感は歩行・バランス能力単独では評価し得ない可能性が推察された。
    【まとめ】 本研究結果より、身体機能向上に加え恐怖を減じることへの視点から、転倒しないことへの自信の回復・維持を目指したADL訓練の導入および退院後のafter careが、自宅復帰後の参加制約回避へつながる可能性があると考えられる。
  • 坂本 妙子, 直江 祐樹, 山口 和輝, 谷 有紀子, 岡嶋 正幸, 野首 清矢, 南端 翔多
    セッションID: P-46
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 大腿部近位悪性骨軟部腫瘍に対する腫瘍用人工股関節置換術は、股・膝関節周囲筋の切離や切除が必要となる場合が多く、両関節の機能低下により一般的な人工股関節全置換術(以下、THA)に比べて患肢機能の著明な低下が予想される。今回、腫瘍用人工股関節置換術の術後の歩行様式の推移について検討、考察したので報告する。
    【方法】 当院にて大腿部近位悪性骨軟部腫瘍に対し、大腿骨近位腫瘍用人工骨頭置換術または腫瘍用人工股関節全置換術を行った4例について歩行開始、松葉杖歩行、T字杖歩行の術後獲得日数を調査し、当院THAの歩行様式の推移と比較、検討した。各症例には調査方法を説明し同意を得た上で本調査を実施した。
    【結果】
    症例1. 40歳代男性、左大腿近位骨幹部Ewing肉腫。大腿骨頭から大転子頂部下16㎝までを一塊として切除、腫瘍用人工骨頭による再建を行った。術後12日目より歩行開始し18日目に松葉杖歩行獲得、化学療法を行いながら継続し137日目にT字杖歩行獲得した。
    症例2. 60歳代男性、右大転子部骨肉腫。術前右大腿骨頸部に病的骨折を生じ、股関節は関節包外切除を行い、大転子頂部下17㎝までを一塊として切除、腫瘍用人工股関節による再建を行った。術後13日目より歩行開始し19日目に松葉杖歩行獲得、化学療法を行いながら継続し95日目にT字杖歩行獲得した。
    症例3. 70歳代男性、左大腿部軟部肉腫。中間広筋を全切除、大腿直筋、外側広筋、内側広筋を一部切除し大腿骨頭から大転子頂部下20㎝までを一塊として切除、腫瘍用人工骨頭による再建を行った。術後8日目より歩行開始し26日目に松葉杖歩行獲得、化学療法は施行せず53日目にT字杖歩行獲得した。
    症例4. 40歳代男性、左大腿部脂肪肉腫。中間広筋、外側広筋、内側広筋を切除し大腿骨頭から26.5㎝までを一塊として切除、腫瘍用人工骨頭による再建を行った。術後7日目より歩行開始し19日目に松葉杖歩行獲得、化学療法を行いながら継続し83日目にT字杖歩行獲得した。
    【考察】 当院THA術後の歩行様式について、術後1日目より歩行器歩行開始し退院時(22.6日)にはT字杖または独歩へと推移したと第38回日本股関節学会において報告した。大腿骨近位腫瘍用人工関節置換術では歩行開始までに術後平均10日、松葉杖歩行獲得までに平均21日を要し、術後早期には創部の安静や広範切除による筋力や関節機能の低下により歩行獲得に時間を要する傾向がみられた。またT字杖獲得は平均92日で、特に術後化学療法を行った3例では安静や体調不良により理学療法期間が遷延し、時間を要する傾向がみられた。
    【まとめ】 大腿骨近位腫瘍用人工関節置換術では、THAに比べて歩行様式の推移に時間を要するがT字杖歩行の獲得が可能であり、機能予後を的確に捉えて目標設定を行い理学療法を行うことが重要であると考えた。
  • 川面 博哉, 芦田 勝文, 関 艶子, 明星 隆希
    セッションID: P-47
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 大腿骨頸部骨折は、整形外科領域では代表的な疾患である。その患者様は骨折受傷前から活動能力や歩行能力、認知力が低下していることが多く、術後には長期のリハビリテーションを必要とする場合が多い。
     今回、我々はリハビリテーションの実施において、ICFにおける「環境因子」に着目することで在宅復帰率の向上につながった取り組みと、今後の課題について報告する。
    【方法】 対象は、大腿骨頸部骨折にて地域医療連携パスを利用し、当院でリハビリテーションを実施した2010年4月から2012年3月の41名(男性5名、女性36名、平均年齢83歳±14歳)とした。
     当院では、日常の業務でのリハビリテーションの中でも、特に患者様の「環境因子」に着目して、以下の取り組みを行った。1. 入院時の家族との面談で家族ニーズと退院後の受け入れ状況を明確にし、早期にゴール設定を行う。2. 退院前訪問指導、退院時指導を積極的に実施する。3. 患者様本人が在宅復帰したのち、介護者である家族が介護を怖がらないように、入院時からの介護指導を実施する。4. 入院早期からの多職種(ケアマネージャーを中心)との地域連携と退院前のケースカンファレンスを行う。
    【結果】 退院後の生活の場は自宅:73.2%、併設老人保健施設:17.1%、他施設:7.3%、転院・その他:2.4%
     急性期病院での術後の平均在院日数:24.2日
     退院先別平均在院日数:自宅:39.2日(併設老人保健施設:58.3日、他施設:64.3日、転院・その他:43.0日)
    【考察】 在宅復帰率を上げる要因として、自宅への家族の受け入れが良く、早期から退院先が自宅に設定できた方においては、住宅改修や患者様に応じた福祉用具の選定、地域包括支援センター等の多職種連携の強化によって、介護保険を有効利用できていることがあげられる。また、家族に介護指導を行うことにより、患者様本人の状態を家族が把握することで、「これなら在宅に連れて帰れる」という具体的なイメージを持つことができることも、在宅復帰につながっているものと考える。
    【まとめ】 今回の報告では、大腿骨頸部骨折連携パス患者様を対象に、ICFにおける「環境因子」に着目して在宅への支援を行った当院の取り組みを報告することとなった。「玉城町」という小さなコミュニティであるからこそ地域包括支援センター(当院併設)や居宅支援事業所などの在宅へ向けた多職種との密な連携が小規模多機能的な支援効果を生んだものと思われる。これによって、理学療法士単独では得られにくいタイムリーな患者の情報、介護者の不安や周辺状況などをより正確かつ迅速に得られるようになったため、患者の円滑な退院調整によって、在宅復帰率の向上につながったものと考える。
     しかし、その中で退院が遅延した患者様が4名みえた。これは認知症が高度であったことや、家族の在宅への受け入れが困難であったためである。最終的には在宅復帰につながったものの、在宅復帰するか、施設入所するかの判断に長期間を要し、退院が遅延した。今後の我々の役割としては、在宅に向けて家族が患者様を受け入れるためのよいイメージを提供する支援をすることが後方病院の使命ではないかと思われる。
  • 小松 洋介, 磯貝 直弘, 小瀬 勝也, 古川 雄一, 石田 悠佳
    セッションID: P-48
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 下肢運動器疾患において、荷重下におけるパフォーマンスの向上は立位動作・歩行などのADL獲得のために重要である。また運動スキルの学習では注意の焦点をどこに当てるかが、学習・パフォーマンスに決定的な影響を与えるとされている。我々は第46回日本理学療法学術大会にて、座位荷重訓練における体性感覚への注意喚起が訓練後の座位での下肢荷重量の増加、荷重時痛の軽減をもたらすことを報告した。本研究では座位荷重訓練(以下、荷重訓練)における体性感覚への注意喚起(以下、注意喚起)の有無が立位時の荷重時痛と側方リーチに対して与える影響を検討した。
    【方法】 対象は入院中の下肢運動器疾患患者14名(男性7名、女性7名。年齢67±9.1歳。受傷・術後経過日数19±5.0日)である。研究の内容を理解でき、端座位・手放しでの立位保持が可能な者とし、対象者に倫理的配慮と本研究の概要を説明、同意を得た。荷重訓練はプラットホームにて端座位をとり、3分間患側下肢にて痛みの増強しない範囲で床を踏むよう口頭にて指示した。注意喚起の有無により対象を2群(注意あり群/注意なし群)に分けた。注意あり群には反対側下肢荷重時に伴う体性感覚を確認し、患側荷重時にも可及的に同一の部位・感覚に注意を向けるよう指示した。注意なし群には患側下肢での荷重を繰り返すよう指示した。測定は訓練前後に実施し、立位時の患側下肢荷重量(以下、荷重量)と自覚的荷重感、荷重時痛、患側への側方リーチ距離(以下、患側リーチ)の4項目とした。荷重量は両足底を接地した立位にて患側下肢へと3秒間荷重できる最大値とした。自覚的荷重感・荷重時痛はVisual Analogue Scaleに準じそれぞれ0(荷重感なし)~100(健側と同様)、0(痛みなし)~100(我慢できないほどの痛み)にて測定した。患側リーチは安静立位にて患側上肢を90度外転した姿勢から患側に最大リーチした距離を2回計測し、最大値とした。注意あり/なし群における訓練前後の変化率を2標本t検定、各項目間の相関をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。
    【結果】 訓練前後において注意あり群は、注意なし群と比較し荷重量の有意な増加(p<0.01)、自覚的荷重感の有意な増加(p<0.01)、荷重時痛の有意な減少(p<0.05)、患側リーチの有意な増加(p<0.05)が認められた。各項目の相関について注意あり群の訓練前後の自覚的荷重感と患側リーチ変化率に有意な正の相関(r=0.81, p<0.05)が認められた。
    【考察】 座位荷重訓練での注意喚起により立位下肢荷重量、患側リーチの改善が得られた。また自覚的荷重感の増加は患側リーチの増加と関連していることが示唆された。荷重量・患側リーチの改善には健側の体性感覚を利用することで、受傷・術後に学習された代償・逃避的な荷重戦略の修正が図られたことが要因と思われる。自覚的荷重感と患側リーチの強い正の相関が認められ、運動戦略の修正には単なる運動の繰り返しだけでなく、学習者本人の主観的な知覚経験も重要であると思われた。
    【まとめ】 本研究の結果から体性感覚への注意喚起を促した座位荷重訓練は、安全性と荷重への不安軽減を確保した上で立位能力の改善につながる有効な方法であると考えられる。
  • 服部 潤, 赤羽根 良和, 永田 敏貢, 齊藤 正佳, 栗林 純
    セッションID: P-49
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 梨状筋症候群とは、坐骨神経をはじめとする末梢神経が骨盤出口部で梨状筋により絞扼や圧迫などの侵害刺激を受けることで、疼痛や痺れが惹起される病態である。また、障害される神経は、教科書的には坐骨神経とされているが、実際の臨床では後大腿皮神経や下殿神経の症状も呈することが多い。そのため、臨床症状が多様化ことも少なくない。今回、末梢神経障害を臨床症状から分類し、その割合について検討を行ったので報告する。
    【対象】 対象は、2012年1月から6月までに梨状筋症候群と診断された25例(男性8例、女性17例、右13肢、左11肢、左右1肢)である。平均年齢は54.3±19.7歳であり、発症から来院までの期間は平均52.7±66.0日であった。
    【方法】 末梢神経障害の識別方法について述べる。後大腿皮神経(第1-3仙骨神経)は、感覚枝のみを有する。そのため、臀部下部から大腿後面における神経領域内に疼痛及び感覚障害を認めた場合とした。総腓骨神経(第4腰神経-第2仙骨神経)と脛骨神経(第4腰神経-第3仙骨神経)は感覚枝と運動枝を有する。そのため、前者は、下腿外側から足背における疼痛及び感覚障害と長母趾伸筋の筋力低下を認めた場合とし、後者は、下腿後面から足底における疼痛および感覚障害と長母趾屈筋の筋力低下を認めた場合とした。上殿神経(第4腰神経-第1仙骨神経)と下殿神経(第5腰神経-第2仙骨神経)は運動枝のみを有する。前者は、中殿筋の筋力低下や萎縮を認めた場合とし、後者は、大臀筋の筋力低下や萎縮を認めた場合とした。
     また、それぞれを単独例と合併例に分類した。
    【結果】 神経別に分類すると、総腓骨神経障害は22/25例(88.0%)、後大腿皮神経障害は21/25例(84.0%)と多く認められ、下殿神経障害は3/25例(12.0%)、上殿神経障害は2/25例(8.0%)となった。脛骨神経障害の症例は、0/25例(0%)であり、今回の検討では認めなかった。
     症状別に分類すると、後大腿皮神経+総腓骨神経16/25例(64.0%)、後大腿皮神経+下殿神経1/25例(4.0%)、後大腿皮神経+総腓骨神経+上殿神経群1/25例(4.0%)、後大腿皮神経+総腓骨神経+下殿神経群1/25例(4.0%)、後大腿皮神経+総腓骨神経+上殿神経+下殿神経群が1/25例(4.0%)であった。単独例は、総腓骨神経3/25例(12.0%)、後大腿皮神経2/25例(8.0%)であった。
    【考察】 梨状筋症候群は、坐骨神経の障害とされているが、今回の調査では主に総腓骨神経と後大腿皮神経による障害を多く認める結果となった。また、少数ではあるが下殿神経と上殿神経障害も認められた。つまり、梨状筋症候群の病態把握や治療には、坐骨神経のみならず、他の末梢神経障害の合併も考慮した複合的な病態把握が重要と考えられる。
  • 斉藤 正佳, 赤羽根 良和, 永田 敏貢, 服部 潤, 栗林 純
    セッションID: P-50
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 梨状筋症候群は、坐骨神経が梨状筋下孔を通過する際に梨状筋により絞扼を受け、殿部痛と下腿への疼痛・痺れを出現させる。しかし、臨床上よく観察すると、同時に外側大腿皮神経(以下、LFCN)領域である鼠径部外側から大腿後外側に疼痛・痺れを認める症例に遭遇する。
     今回、梨状筋症候群にLFCN障害を合併する割合と、その合併機序について考察を加えたので報告する。
     尚、症例には、本研究の説明を十分に行い、承諾を得た上で実施した。
    【対象及び方法】 2012年1月から6月までに当院を受診、梨状筋症候群と診断された30例30肢(男性:9例、女性:21例、平均年齢54.0±20.3歳、左:13肢、右:17肢)である。当院における梨状筋症候群の診断は、①梨状筋の圧痛と下肢への放散痛を認める事、②各種梨状筋症候群の整形外科テストが陽性である事、③長母趾伸筋、長母趾屈筋の筋力低下を認める事、④画像上、明らかな脊髄内病変を認めない事の全4項目を満たしたものであり、これを単独型とした。
     さらに、⑤疼痛・痺れがLFCN領域まで及んでいる事、⑥LFCNが走行する鼠径部でチネル徴候を認める事、⑦膝関節30°屈曲位での股関節伸展・内転・外旋(LFCN伸張テスト)でLFCN領域に疼痛・痺れを認める事の全7項目を満たしたものを梨状筋症候群とLFCN障害の合併型とした。
    【結果】 単独型は、22例22肢(男性:8例、女性:14例、平均年齢:49.5±21.3歳、左:7肢、右:15肢)であり、73.3%であった。
     合併型は、8例8肢(男性:1例、女性:7例、平均年齢:60.8±15.1歳、左:6肢、右:2肢)であり、26.7%であった。
    【考察】 梨状筋症候群の特異的所見は、殿部痛と坐骨神経領域における疼痛・痺れである。しかし、臨床ではLFCN領域にも症状を認めるケースは少なくない。本研究の結果では、梨状筋症候群に合併するLFCN障害は26.7%であった。
     LFCNは鼠径部の筋裂口内の腸骨筋表層に位置し、骨盤内から骨盤外へ出る境界部では非常に狭いスペースを鋭角に曲がっているため、機械的に絞扼や摩擦されやすい環境下にある。さらに、同部のLFCNは、鼠径靭帯と共に、腸骨筋や縫工筋に被覆されているため、これらの筋に攣縮や短縮に伴う筋内圧が上昇した場合、LFCNの絞扼はより顕著になる。LFCNの走行は上前腸骨棘の内側から表層に出て尾側かつ外側へ向かい、大腿遠位から後外側まで枝を伸ばしている。そのため、股関節の伸展・内転・外旋で伸張される。また、梨状筋は、その解剖学的走行上、屈曲・内転・内旋で伸張され、攣縮が生じている場合、坐骨神経を絞扼する。つまり、梨状筋とLFCNは股関節の内転運動にて伸張されるといった共通の特徴を有している。これらの解剖学的理由から、梨状筋に攣縮が生じ伸張ストレスが加えられる事により坐骨神経を絞扼すると同時にLFCNも伸張されやすいと考えられる。
     以上より、梨状筋症候群にはLFCN領域の疼痛または痺れも出現しやすく、臨床では評価しておく必要がある。
     また、今後の課題として、どの筋がLFCNを絞扼させやすいのかを鑑別し、治療へつなげる事が重要であると考えられる。
  • 山本 篤史, 高木 亮輔, 磯 毅彦
    セッションID: P-51
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 関節リウマチ(以下、RA)は関節炎を主症状とし、破壊性、進行性の特徴を有する全身性の疾患である。多くは慢性に経過し、経過とともに関節の破壊をきたし機能不全をもたらす。今回、RAを発症して初期の症例を担当する機会を得た。本症例は秋田県に在住し、雪かき動作のように上肢を使う動作にて、腰背部を固定的に制御していた。そこで上肢の動きに合わせた、脊柱の分節的な動きを引き出すよう介入をしたところ姿勢に変化を認めた。その結果に考察を加え、報告する。
     本報告に際し、当院倫理委員会の承認のもと、本症例へ口頭と書面にて説明し、同意を得た。
    【方法】 対象は60代女性、罹患年数6年。Stage1。class1。DAS28, CRP2.35(臨床的寛解状態)。腫脹、熱感部位は認められなかった。BI100点。投薬はアザルフィジン1000㎎/日である。主訴は雪かき動作時に生じる腰痛を軽減したいであった。
     初回評価として、動作に影響する関節可動域の制限は認められなかった。筋緊張は脊柱起立筋、僧帽筋、広背筋、大腿筋膜張筋に亢進を認め、腹部、ハムストリングスに低下が認められた。疼痛は立位で上肢を動かすと、腰背部に認めNRS7/10であった。立位姿勢は腰椎前弯増強、骨盤前傾位であり重心線が後方に偏位していた。立位で上肢を挙上させると、腰背部を過剰な収縮で固定させて動作を行っていた。そこで腰背部の動きを確認するために、座位で骨盤の前後傾運動を評価した。前傾も後傾も腰背部が過剰に収縮し、脊柱の分節的な運動は認められなかった。治療戦略として、立位にて上肢を動かす際、腰背部と腹部の筋緊張をコントロールでき、上肢の動きに合わせ変化できる体幹の伸展活動を獲得することとし、治療を展開した。まず横断マッサージにて脊柱起立筋の過剰な筋緊張を取り除いた。次に臥位、座位、立位にて腹式呼吸で腹部の筋緊張を促通した後、骨盤を徒手的に誘導し、骨盤と脊柱の分節的な運動を引き出した。最終的に上肢を動かし、動きに変化できる腰背部と腹部の筋緊張を促した。
    【結果】 治療は4週間行った。筋緊張は脊柱起立筋、僧帽筋、広背筋に軽減が認められ、腹部は高まった。疼痛はNRS3/10に軽減した。立位姿勢は腰椎前弯、骨盤前傾が軽減し、重心線が中央に近づいた。座位の骨盤前後傾運動は前後傾ともに腰椎の分節的な動きがみられるようになった。立位で上肢を挙上させると、動きに伴い腹部が高まり、脊柱の分節的な動きが観察された。雪かき動作を模擬的に行うと腰背部の固定が若干見られたが、過剰に固定している様子なく動作を行えていた。
    【考察】 本症例は上肢を動かすと、腰背部を過剰に収縮させ固定的に制御する傾向があった。このような姿勢を選択することが慢性化していることで、腰背部に疼痛が生じていた。腹部の筋緊張が高まり上肢の動きに応じた、腰背部と腹部の筋緊張を変化できるようになったことで、脊柱の分節的な動きで姿勢を制御するようになったと考えられる。
    【まとめ】 固定的な姿勢は将来的に変形や疼痛の悪化を引き起こし、動作を制限する。発症初期から姿勢を見直し、改善させることが今後、変形や疼痛を予防できると考える。
  • 石川 恭平
    セッションID: P-52
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 人工股関節置換術(以下、THA)を行う際の進入路には様々あり、近年では早期の社会復帰や入院期間の短縮に優れる低侵襲の手術手技が注目されている。
     今回、侵襲範囲が比較的狭く、軟部組織損傷の少ない、前方進入法(Direct Anterior Approach:以下、DAA)により、術後経過が良好で早期に自宅退院となった症例を経験したので報告する。
    【方法】
    〈患者情報〉 74才女性、身長149㎝、体重40㎏で痩せ型。診断名は右変形性股関節症で、右股関節痛を主訴とし受診され、半年間保存的に経過を観察していたが、改善を認めなかったため、DAAによる右人工股関節置換術を施行した症例である。術前は著明な関節可動域制限はなく、立位や歩行時の荷重時痛が主訴であった。歩行は疼痛性跛行を呈し、T字杖使用にて屋外50m程度の歩行レベルであった。
     手術は股関節の前面部に約10㎝の皮切、術中の股関節可動域は、130°まで屈曲可能であり、屈曲90°、内旋85°、伸展0°で最大外旋位をとっても脱臼しないことが確認されている。
    【結果】
    〈入院経過〉 術後1日目はベッド上安静のため自主トレーニングのメニューを作成し指導した。術後3日目より、脱臼のリスクが極めて少ないこと、禁止動作が無いことを十分に説明し運動療法を開始した。筋力は徒手筋力検査法(以下、MMT)にて、右股関節屈曲2、外転4、左は5レベルであった。関節可動域は右股関節屈曲100°、伸展0°、外転30°、左股関節に可動域の制限はなかった。創部の疼痛は軽度で荷重時、運動時の筋性疼痛もなく病棟では歩行車にて歩行が自立し、理学療法では杖歩行の練習を開始した。4日目には安定した杖歩行が可能となり、杖なし歩行練習を開始し、病棟内ADL(トイレ・更衣動作)も自立となった。7日目の抜鈎後には横座りが可能となり、8日目に自宅での試験外泊を実施し、家事動作も問題なく可能であった。11日目に退院前評価を行い、MMT右股関節屈曲3、外転5、関節可動域は右股関節屈曲115°、伸展5°と改善を認め、自主トレーニングメニューを作成し12日目に自宅退院となった。
    【考察】 諸報告にあるようにDAA-THAは脱臼しにくく後療法を簡略化できるという点で有用な方法である。また筋の損傷が少ないため、疼痛の訴えが少なく、認知症など動作への理解が不十分な症例にも術後早期より積極的な関節可動域練習や筋再教育、ADL練習が可能である。
     本症例が早期退院可能となった理由も、脱臼のリスクが少ないため早期より様々な動作指導が可能で不安要素も少なく、疼痛が軽度で術後より早期荷重歩行が可能であったことが考えられる。
    【まとめ】 THAは進入方法の違いにより獲得可能な動作があり、またその時期についても個別にプログラムを立案していく必要がある。シングルケースではあるが、DAA術後の経過と動作練習の開始時期について報告した。
  • 稲垣 忍, 丸山 高志, 中村 浩之, 杉本 文絵, 中尾 健太, 堤 秀樹, 中瀬古 健, 松本 正知
    セッションID: P-53
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 脛骨天蓋骨折(Rüedi Ⅲ型)術後の理学療法(以下、PT)を経験した。粉砕骨折の修復過程と前、後脛腓靭帯の損傷に配慮し、健側と同程度の足関節可動域を得ることを目的にPTを施行した。これらの経過を若干の考察を加え報告する。
    【症例紹介】 症例は50歳代の男性である。自宅にて脚立から転落し受傷した。受傷1週間後に観血的骨接合術が施行され、その翌日より理学療法を開始した。また、術後8週より通院となった。
    【評価及び理学療法】 PT開始直後から術後3週までのギプス固定期間(背屈5°固定)は、足関節屈筋群と伸筋群の伸張痛と収縮時痛を認め、PTはそれらに対し反復収縮後のストレッチングと前足部の柔軟性向上に努めた。
     術後5週でギプスが除去され、そのときの可動域は足関節背屈-10°、底屈25°で、腫張が高度に認められた。足関節の前面と後面に圧痛と運動時痛、伸筋群と長母指屈筋の伸張痛を認めた。PTはX-Pで足関節を最大背屈位にて撮影し遠位脛腓関節の離開の有無を確認しながら施行した。また、足関節の底背屈運動が天蓋部にインピンジメントしないように前方の伸筋群、関節包、pre-talar脂肪体、後方の底屈筋群、関節包、kager’s脂肪体の柔軟性向上に努め、愛護的な関節可動域練習(以下、ROM-ex)を実施した。さらに不快感を伴わない程度で背屈位を維持するための夜間装具を使用した。
     術後11週で全荷重が許可され、X-P上、遠位脛腓関節の離開及び距骨の外方移動は認めなかった。足関節の可動域は、背屈15°底屈60°となり健側とほぼ同程度の可動域が獲得された。術後12週でしゃがみ込みや正座、職場での階段昇降が手すり利用し獲得された。術後18週目に趣味活動への参加も可能となった。
    【考察】 本症例はRüedi Ⅲ型の脛骨天蓋骨折であり、また前、後脛腓靭帯の損傷も推察された為、同部位に配慮したPTを施行した。早期より腫張軽減に努め、前方の伸筋群、関節包pre-talar脂肪体、後方の底屈筋群、関節包、kager’s脂肪体の柔軟性を十分に引き出し愛護的なROM-exを実施したことが底背屈運動による天蓋部へのインピンジメント回避につながったと考えた。また、装具療法の併用も良好な可動域が獲得された一要因と思われた。
  • 西村 和洋, 徳田 昇, 岩﨑 武史, 道端 わこ, 中垣 卓也, 佐藤 浩基, 河口 大介
    セッションID: P-54
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 脊椎圧迫骨折は加齢とともに発生率は上昇し、歩行や日常生活動作能力、QOL低下の要因となることは多い。当院でも脊椎圧迫骨折で入院する患者は多い。今回、脊椎圧迫骨折患者の在宅復帰が遅延した症例を報告する。
    【方法】 2011年4月1日から2012年3月31日に当院外来受診し脊椎圧迫骨折の診断で入院し、自宅退院となった17例を対象とした。17例の平均在院日数は40.3日±19.9日。在院日数が60日を超えた3例を以下に示す。
    【説明と同意】 今回の発表に関しては17例に説明し了承を得た。
    【症例報告】
    〈症例1〉 在院日数68日。73歳、男性。3人暮らし。退院予定先は本人、家族ともに自宅。要介護度は要支援2。歩行能力は入院前、退院時ともに独歩。入院時FIM48点(運動項目19点、認知項目29点)。退院時FIM115点(運動項目86点、認知項目29点)。
    〈症例2〉 在院日数78日。85歳、女性。独居。退院予定先は本人自宅、家族は施設。介護保険は未申請。歩行能力は入院前、退院時ともに独歩。入院時FIM93点(運動項目58点、認知項目35点)。退院時FIM110点(運動項目78点、認知項目32点)。
    〈症例3〉 在院日数70日。84歳、女性。独居。退院予定先は本人、家族ともに自宅。介護保険未申請。歩行能力は入院時、退院時ともに独歩。入院時FIM64点(運動項目35点、認知項目29点)。退院時FIM105点(運動項目76点、認知項目29点)。
    【経過報告】 症例1は痛み消失とともに身体機能向上したため、入院33日後に外泊を行い退院予定であった。しかし、外泊中はベッド臥床が多く、家族が退院に対して不安が強く退院を延期する事となった。その後、入院中のADL介入を積極的に進めトイレや食事以外の日常生活活動量が増加したところで再び家族に現状ADLの確認と説明を行い退院となる。
     症例2の転帰予定先は、本人・家族間が不仲であったこともあり、独居から同居への変更は困難で、家族の施設入所希望に対して、本人は独居生活を頑なに希望した。徐々に疼痛軽減しADL向上を認めたため、本人の在宅復帰希望が強くなる。その一方、家族の意向は施設入所希望と変化なく、意見の相違が続き退院の調整が遅延。その後、自宅退院するため、さらに介護サービス利用等の調節することに時間を必要とした。
     症例3は独居に加え、和式生活に戻るために床からの立ち上がり獲得は必須であった。また寝具が布団である点、自宅トイレ便座が低く立ち上がれない点で環境調整が必要にもかかわらず、介護保険未申請の状態であった。申請の遅れにより介護サービス導入までに時間がかかり退院遅延となった。
    【考察】 脊椎圧迫骨折患者の在宅復帰には退院時の日常生活活動能力・歩行能力が大きく影響するが、それらを低下させる因子としては疼痛の関与が大きいといわれている。また先行文献によると、FIMの運動項目70点付近が在宅復帰の目安と報告がある。今回3症例とも疼痛の遷延なく、入院後40日目には70点以上であったにもかかわらず、退院が遅延したのは独居、高齢世帯、家屋環境等の社会的要因であった。ADL能力向上に合わせて、家族との関わりやMSW・ケアマネージャーの他職種との連携が重要であり、早期からの退院後生活を見据えたアプローチが必要であった。
  • 野口 雅弘, 藤川 諒也, 木村 朗
    セッションID: P-55
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 血管内皮機能障害は動脈硬化の初期に生じるといわれ、動脈硬化の進展が冠動脈疾患や脳血管障害を引き起こす。脳血管障害患者に対して疼痛軽減や痙縮軽減のために温熱療法や寒冷療法が処方されることが多くみられる。しかしながら、このような物理的刺激が血管内皮機能に影響を及ぼすのかについてはまだ明らかにされていない。そこで本研究では、若年者を対象に寒冷刺激が血管を拡張する血管内皮機能に影響を及ぼすのかについて実験研究によって明らかにすることを目的とした。
    【方法】 研究の対象者は、健常男性30名(年齢20-21歳)であった。対象者の内訳は喫煙者15名、非喫煙者15名であった。対象者には研究内容、参加の自由、個人情報の保護などについて書面と口頭で説明し、同意書への署名を得たうえで開始した。血管内皮機能は、endo-PAT 2000(Itamar Medical社)を使用して、指-振動計測による反応性充血指数(RHI)により評価した。endo-PAT2000は、内皮由来の血管拡張機能を測定するものである。寒冷刺激は、駆血側前腕に対し、10分間の持続アイシングを行った。RHIは、安静時と寒冷刺激後に測定した。また、体重体組成計HBF-362(オムロンヘルスケア社)を使用して体重、体脂肪率、骨格筋率を測定した。身体活動量を姿勢と強度から一日のPAを推定する肢位強度法(PIPA)を使用し、問診によって一日の行動記録を調査して算出した。対象者の中で、脈波の異常な減弱による測定不能者を除外した。その結果、有効なデータは非喫煙者群で13データ、喫煙者群で14データであった。統計解析は、各群の安静時と寒冷刺激後のRHIの比較は対応のあるt検定を使用し、各群間のアウトカムの比較には対応のないt検定を使用した。有意水準は5%とした。
    【結果】 対象者特性は、体重62.9±8.8㎏、BMI20.9±2.6、体脂肪率13.6±5.8%、骨格筋率36.7±6.9%、身体活動量は2066.1±849.3kcal、体重1㎏当たりの身体活動量は33.2±7.8であった。RHIは非喫煙者群で安静時2.14±0.58、寒冷刺激後1.93±0.54、喫煙者群で安静時1.70±0.32、寒冷刺激後1.95±0.66であった。非喫煙者群と喫煙者群の比較では、安静時のRHIにおいて有意差が認められた(p<0.01)。安静時と寒冷刺激後の比較では、有意差は認めらなかった。
    【考察】 RHIは安静時に喫煙者と非喫煙者の間で有意差が認められた。若年者であっても喫煙による化学的な血管内皮のダメージは血管内皮由来の血管拡張機能に影響を与えることが示唆された。また、安静時と寒冷刺激後のRHIは有意な差を認めなかったが、非喫煙者では安静時より寒冷刺激後にRHIは低下し、喫煙者ではRHIは増加するという傾向が見られた。喫煙の有無や寒冷刺激の条件によって血管内皮機能に差が出る可能性が考えられる。
    【まとめ】 若年男性喫煙者と非喫煙者の寒冷療法後の血管内皮機能を評価した。その結果、安静時の血管内皮機能は喫煙者が有意に低下していた。また、寒冷療法後の血管内皮機能は非喫煙者で低下し。喫煙者で増加する傾向がみられた。なお、本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(22700553)の助成を受けたものである。
  • 水谷 元樹, 堀部 雅晃, 加納 寛子
    セッションID: P-56
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年、心臓デイバス治療の発展でリハビリテーション分野でもペースメーカだけでなく植込み型除細動器(以下ICD)や両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(以下CRT-D)などの埋め込み術を施行した患者を経験することがある。その中でもCRT-Dは心臓内の収縮のタイミングのズレをペースメーカ等で補正することで、正常に近いポンプ機能をとり戻す治療法である。これに除細動器機能を併せ持った植込み型の治療機器となる。CRT-Dを必要とする状態は、致死的不整脈を有する、あるいは発症する可能性が高い重症心不全とされている。心臓リハビリテーションではCRT-D植込み患者の不整脈の抑制効果やそれに伴うQOLの改善が重要視されている。しかし、運動療法の効果については未だ報告が少ない。今回、当院でCRT-D植込み患者に対して運動療法前後に心肺運動負荷試験(以下CPX)を施行し、その結果から運動療法の効果について若干の考察を加えて報告する。
    【心臓リハビリテーション】 全症例において、CRT-D植込み前と施行植込み1ヶ月後にCPXを施行した。運動強度はCRT-D施行前のCPXの結果からATを算出し決定した。運動内容と手順は運動前にストレッチを実施し、その後エルゴメーター30分、レジスタンストレーニングを行い、最後にストレッチを実施し、終了とした。運動療法は1回/日を週5日から6日間実施した。
    【症例】 症例1は62歳男性、心不全と不整脈の治療後、CRT-D植込み術施行した。CPXの結果ではAT/Peak vs VO2 11.0/15.4ml/min/㎏、Peak WRは86WattsでVE vs VCO2 Slope 45.0、開始時時定数22秒であった。運動療法後はAT/Peak vs VO2 11.3/17.5ml/min/㎏、Peak WRは95WattsでVE vs VCO2 Slope 34.0、開始時時定数21秒となった。症例2は84歳男性で拡張型心筋症の心不全増悪にて入院後、CRT-D植込み術施行した。CPXの結果ではAT/Peak vs VO2 10.1/14.9ml/min/㎏、Peak WRは79WattsでVE vs VCO2 Slope 35.9、開始時時定数31秒であった。運動療法後はAT/Peak vs VO2 8.0/12.5ml/min/㎏、Peak WRは80WattsでVE vs VCO2 Slope 35.5、開始時時定数26秒となった。症例3は62歳男性で狭心症後非持続性心室頻拍を合併してCRT-D植込み術施行。CPXの結果ではAT/Peak vs VO2 9.6/12.3ml/min/㎏、Peak WRは50WattsでVE vs VCO2 Slope 31.4、開始時時定数34秒であった。運動療法後はAT/Peak vs 8.3/12.8ml/min/㎏、Peak WRは71WattsでVE vs VCO2 Slope 35.9、開始時時定数41秒となった。
    【考察】 前原らは、2週間程度の運動療法によって血管内皮機能はATやPeak VO2などの指標よりも速やかに大きく改善されると言われる。今回の症例においてもこれらの指標となるVEvs VCO2 Slope、開始時時定数の変化およびPeak WRの向上も認めた。しかし、一方で変化していない症例も認めた。CRT-Dが植え込まれた心臓の状態は心不全と同様な状態であり、運動の効果としては心不全の運動療法と同様の効果が期待できると考える。
    【まとめ】 今回、CRT-D植込み患者に対してCPXの結果から運動療法の効果を検討した。症例数が少ない為、統計的な結果までには至らなかったが、CRT-Dの植込み患者に対して、急性期でも運動療法の効果として運動耐容能の改善が可能と考えられた。
  • 櫻田 隆悟, 河島 徹, 平嶋 隆浩, 石山 裕通, 鈴木 悠太, 佐藤 潤
    セッションID: P-57
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 内蔵ブレンダーを有しない非侵襲的陽圧換気装置(以下NPPV)において、しばしば、SaO2を90%以上に維持する為に、呼吸回路に酸素が添加される。また、このような患者に対して、呼吸困難感の緩和や排痰を目的に呼吸介助が行われるが、その際のFiO2についての報告は少ない。そこで、呼吸介助による一回換気量(以下TV)の増加が、FiO2と呼吸困難感に与える影響を調査し、呼吸介助の安全性を検証した。
    【方法】 本研究に対し説明し、書面にて同意の得られた9人(平均年齢25.9歳)の健康成人男性を対象に内蔵ブレンダーを有しないNPPV(BiPAP synchrony2)を使用し、フェイスマスク(ConfortGel Blue)を装着した。FiO2は、Oxgen moniter(MiniOX3)を使用し、フェイスマスク直前に接続した。SpO2は、パルスオキシメーター(PULSOX-300)にて測定した。NPPVは、IPAP12, EPAP4, STモード、換気回数15回/分、フローは1秒に設定した。呼吸介助実施と非実施の2条件に対し、室内気(以下RA)、1, 2, 3, 4, 5L/minの酸素を添付し、計12条件を測定した。酸素は、NPPVの送気口直後にTコネクターで接続した。被験者は背臥位とし、RAにてNPPV装着し5分間の安静呼吸の後に、ランダムに選びだされた条件下にて2分経過した後のFiO2、SpO2、TV、平均リーク、呼吸回数の測定と呼吸困難感の評価を実施した。呼吸困難はVASにて評価した。各データの解析はSPSS(Dr. SPSS 2)にて行った。多重比較検定はTukey検定を行い、有意水準(危険率)はp=0.05もしくはp=0.01とした。
    【結果】 呼吸介助によって、TVは3L/min条件下を除き、有意に増加させた(p<0.01)。酸素流量の変化によってTVは、呼吸介助実施と非実施ともに差を認めなかった。酸素流量の上昇によるFiO2の変化として、3L/min以下の条件においては、呼吸介助実施と非実施ともに有意な上昇を認め(p<0.01)、なお且つ、両者に差は認めなかった。一方、呼吸介助非実施での4L/minと5L/min条件間のFiO2に有意な上昇は認めず(p=0.85)、4L以上の条件では、一定の傾向は得られなかった。呼吸介助はすべての条件下で呼吸困難感を悪化させなかった。
    【考察】 本研究結果から、呼吸介助は3L/min以下の条件において、FiO2を変化させない事が示された。4L/min以上の条件において一定の傾向は明らかとなっていないが、我々は事後研究として、本研究と同条件のNPPVとTest lungにおいて、FiO2を900秒間モニタリングした所、添付された酸素の流量が多いほど、FiO2の安定に時間を要し、5L/min条件下での安定には255秒程度必要であることを確認した。呼吸介助非実施の条件における各酸素流量の多重比較検定において、4L/minと5L/minの間に有意差を認めなかった事からも、測定方法の検討が必要と考えられる。
    【まとめ】 本研究結果より、3L/min以下の酸素を添加した内蔵ブレンダーを有しないNPPV使用患者に対する呼吸介助の安全性を示す根拠の一つが示された。4L/min以上における安全性の検討の為には、対象者数を増やす事や測定方法を検討する必要がある。
  • 相本 啓太, 上村 晃寛
    セッションID: P-58
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【症例紹介】 60歳代男性。平成22年3月、外出後動けなくなり、翌日に市内病院受診し、入院。ガフキー9号PCR陽性のため肺結核治療目的で感染症病棟へ転棟。抗結核治療(INH、RFP、PZA、EB)を開始。同日、急性呼吸不全のため挿管・人工呼吸器管理。平成22年8月上旬に理学療法開始し、8月中旬に人工呼吸器からの離脱訓練開始。8月下旬に3週連続ガフキー0号となる。9月中旬に閉塞性動脈硬化症のため右下腿切断術施行。10月中旬に当院回復期病棟へ転院。
    【転院時評価】 身長160㎝、体重29.8㎏、BMI11.6。会話中に息切れが生じており(MRC Grade5)、著明な浅頻呼吸を認めた。鼻腔カニューレにて病棟では0.3L、理学療法時は1Lの酸素吸入。SpO2は安静時95%、運動時87%。筋力は上下肢MMTで3~4レベル。ROMは頚部・体幹に著明な制限あり、胸郭可動性にも制限がみられた。FIMは91点で、歩行は酸素吸入1Lで平行棒内監視にて行い、2往復でSpO2が87%となり、継続困難であった。Hb値は12.6 g/dLであった。
    【経過】 運動耐容能、呼吸困難感の改善を目的として、義足完成までは呼吸指導、可動域練習、筋力増強運動を中心に実施。10月下旬に病棟での酸素吸入offとなり、理学療法時の酸素吸入を1Lから適宜調整開始。11月中旬には酸素吸入offで平行棒内歩行6往復が可能となった。11月下旬に下腿義足が完成し、歩行練習を中心に先述のプログラムを併せて実施した。義足歩行練習開始後7日で理学療法時の酸素吸入offとなり、監視でT字杖100m歩行可能となった。平成23年1月下旬にはT字杖にて500m(約10分)歩行可能となった。2月上旬のHb値は14.3 g/dLであった。
    【最終評価(3月中旬)】 体重34.9㎏。会話中の息切れなし。呼吸数毎分15回。SpO2は安静時90%台前半、運動時は80%台。筋力は上下肢MMT4レベル。頚部・体幹のROMはやや改善が見られたが、胸郭可動性には変化なし。歩行は屋外独歩にて平均500m(約10分)可能となった(MRC Grade3)。FIMは123点。平成23年3月中旬に退院。
    【考察】 本症例における最大の運動制限因子は、胸郭可動性の低下による肺胞低換気と考えられたが、理学療法施行前後における胸郭可動性の変化はなく、呼吸機能の改善による呼吸困難感の軽減の可能性は乏しいことが推察された。一方で体重が約5㎏増加したことから栄養状態や筋力増強運動、歩行練習などにより末梢骨格筋増大と酸素抽出能の増大、更にはHb値の改善から酸素輸送能の改善が考えられた。これらが本症例の呼吸困難感の減少につながり、運動耐容能増大に寄与した可能性が最も高いと考えられた。また、義足処方後7日で100mT字杖歩行可能となった。義足歩行が松葉杖歩行と比較し、酸素消費量が小さい(Waters et al, 1976)ことから本症例においても酸素消費量が減少した可能性が考えられた。義足歩行は練習過程で、酸素消費量が徐々に減少していく(長倉ら、2000)ことも歩行距離が延長した要因と考えられた。
    【まとめ】 肺結核により人工呼吸器管理下で約5ヶ月の臥床後、右下腿切断を行った患者に義足を製作し、500m独歩可能となった。運動耐容能改善要因としては末梢骨格筋増大、Hb値改善、義足歩行による酸素消費量減少が考えられた。
  • 山口 慎一, 北村 卓也, 野口 雅弘, 越野 慶隆
    セッションID: P-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、透析患者数は増加し続け2009年には29万人を突破している。透析年間医療費は1兆円以上に達し、医療費を圧迫している。その為、腎臓リハビリテーションの注目度が増している。しかしながら、慢性腎不全患者、透析患者に対する腎臓リハビリテーションについての報告は少ない。そこで、本研究の目的として、当院の理学療法介入における透析療養患者の傾向について検討を行った。
    【方法】 当院は79床の療養病棟、40床の透析施設、理学療法士2名からなるリハビリテーションセンターを有している。対象は、平成24年1月1日~5月30日の間に理学療法を施行した全ての入院患者、外来透析患者106名とした。今回の調査項目は、年齢、透析日数、退院患者数、在院日数、入院初期時のBarthel Index(初期BI)、退院時もしくは平成24年5月30日時点でのBarthel Index(最終BI)とした。データは自宅退院者、施設退院者、外来透析者、入院継続者の群に分けて、それぞれの群間の傾向を検討した。統計解析は、各群の初期BIと最終BIとの比較には対応のあるt検定を用いた。また、各群間の透析継続年数、在院日数の比較には一元配置分散分析を用い、事後検定として多重比較法を用いた。有意水準は5%とした。
    【結果】 自宅退院者は15名で年齢74±9歳、透析継続日数2434±2876日、在院日数80.2±88.2日、初期BI70.3±18.8、最終BI79.0±17.9、施設退院者は7名で年齢78±13歳、透析継続日数3308±3260日、在院日数143.6±134.1日、初期BI65.0±23.5、最終BI67.9±24.6、入院継続者は47名で年齢78±9歳、透析継続日数2233±2856日、在院日数254.4±275.2日、初期BI41.5±31.8、最終BI40.9±33.3、外来透析者は10名で年齢69±17歳、透析継続日数1856±2223日、通院日数161.7±111.3日、初期BI82.5±12.1、最終BI80.0±15.5であった。転院者は21名、入院中の透析離脱者は2名であった。自宅退院患者のADLは有意に改善していた(p<0.01)。その他の群では有意な差は認められなかった。また、透析年数で各群に有意差はみられなかった。
    【考察】 本研究の結果、自宅退院者のADLは有意に改善している。改善が見られた主な項目は移動、移乗、階段昇降であった。入院継続者のBIに、有意な差は出なかったが、初期BIが退院者と比べ低値であった。透析患者においては外来通院時からの予防的な介入が必要と考えられる。
     自宅退院者、施設退院者、入院継続者について、透析年数による有意な差は見られていない。透析年数は運動療法を行う上で大きな障害とはならないことが示唆された。
    【まとめ】 医療療養病棟の透析患者であっても、積極的な理学療法介入は有効であると実感している。ただ、介助が必要な状態の生活になると、透析患者は改善が難しくなるという研究結果となった。今後、予防を含めた透析患者に対する早期のリハビリテーション介入が重要となってくると考えられる。
  • 高橋 和久, 重松 良祐
    セッションID: P-60
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年生活習慣病は増加傾向にあり、運動や食事を中心としたライフスタイルの改善が重要視されている。これまでリハビリテーション医学では日常生活活動の改善を主体とした取り組みがなされているが、運動療法に生活習慣病の維持・改善を視野に入れた理学療法の展開は重要と思われる。脳卒中および脊髄損傷患者とインスリン抵抗性の関係についての報告は認められるが、脳性小児麻痺と生活習慣病における報告は見当たらない。そこで本研究は脳性小児麻痺患者での運動と糖尿病の関係について一症例を対象とし検討を行った。
    【症例紹介】 50代男性。脳性小児麻痺。既往歴は高血圧、糖尿病、高脂血症、脂肪肝。経過は、学童期にアキレス腱延長術、下肢延長術施行。X年に胆嚢摘出術を施行した。それを機に歩行機会が減少し、以後片松葉杖を使用するようになった。X+15年10月に胃部分切除術を施行。さらに歩行機会が減少し、以後両松葉杖を使用するようになった。以降人間ドックで糖尿病の指摘を受け、A病院を通院となる。X+21年5月より当院内科通院(糖尿病)となり、肩関節周囲炎を機に当院整形外科受診した。歩行能力低下のため、X+21年12月より当院理学療法開始。X+22年5月より左長下肢装具及び右短下肢装具を作成し、歩行訓練開始。5月末より自宅での自主歩行訓練開始となる。
    【理学療法初期評価】 機能的自立度評価法(FIM)は114点であった。X+22年5月より以前の21カ月間の運動開始前平均血糖値は159.9㎎/dl、運動開始前平均HbA1cは6.5%であった。
    【経過】 X+22年5月より装具を使用し、サイドウォーカー、四点杖へと段階的に歩行訓練を進めた。X+24年3月に、一本杖使用にて約100mの連続歩行が訓練室にて可能となったが、FIMに関して顕著な変化は認めなかった。運動を開始したX+22年5月以降の23カ月間の運動開始後平均血糖値は128.4㎎/dl、運動開始後平均HbA1cは6.1%と改善した。経過期間中の運動内容は、訓練室では筋力強化訓練、歩行訓練を中心に週2回の頻度で1回約1時間、自宅内では歩行訓練を約30分とした。食事に関しては本人の意向に沿い、摂取量の維持に努めた。薬物療法に関して、種類と量に変更はなかった。
    【考察】 今回運動実施前後の血糖値及びHbA1cの経年的変化について検討した。その結果、運動実施後において両測定値ともに改善することが確認された。本症例の活動量は、糖尿病患者向けの一般推奨活動レベルよりも、少ないと思われる。しかしながら、座位中心といった生活活動に運動を継続して実施することで、糖尿病を良好にコントロールできる可能性が示唆された。今後は症例を増やして検討することが必要と考える。
  • 中島 由季, 辻 聡浩, 山田 高士郎
    セッションID: P-61
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、平成22年よりがんのリハビリに介入した。一般的に、がんのリハビリとはQOLの向上に重点を置き、変化していく病状に合わせて、ADLの改善、維持、緩和的ケアへとギアチェンジしていく必要があると言われている。今回、我々は病状に合わせて、目標設定していくことに難渋した症例を経験したため報告する。
    【倫理的配慮】 当院倫理委員会規定に基づき、家族の同意を得て報告する。
    【症例】 60歳代女性。2012年11月対麻痺のため救急搬送され同日入院。当院へ搬送される3週間ほど前から、両下肢のしびれと脱力感を自覚し、3日前には立つこともできなくなっていた。入院した時点で左乳癌stageIV。精査の結果、胸水貯留や多発骨転移を認め、胸椎転移による対麻痺を認めた。治療方針としては、病状進行遅延目的での化学療法で経過をみていくこととなり、緩和ケアチームの介入の一環として、第19病日より「拘縮予防」を目標にリハビリ介入となった。
    【理学療法経過】 開始時、ベッド上寝たきりの状態で、両下肢とも弛緩性麻痺、両下肢の触覚鈍麻、痛覚脱失。また、下位腹筋群も麻痺しており寝返りも全介助の状態であった(FIM総点55点PS:4)。しかし、本症例の希望は「歩いてトイレに行きたい」であった。再評価した結果、歩くことは困難でも車椅子駆動やトイレへの移乗は可能ではないかと考え、硬性コルセットを作成し離床を開始。起立台での起立、端座位、車椅子移乗、電動車椅子駆動と徐々に離床をすすめていった。少しずつ全身状態は悪化していったがリハビリに対する期待は大きく「歩いてトイレに行きたい」という希望は最期まで変わらなかった。病状悪化に伴って、歩行は不可能であることについて説明するべきかとも思われたが、緩和ケアチームで話し合い、わざわざ患者の希望を断ち切るような説明はしないほうがよいのではないかとの結論に至り「歩く」「トイレに行く」という目標は変えなかった。その後、抗がん剤の副作用で心不全の状態に陥り、敗血症や肺炎も併発し、第108病日に永眠された。
    【考察】 本症例は、認知面は保たれており、最期まで自立しようとしていた。「トイレに行きたい」「歩行訓練がしたい」などの本人の意思がはっきりしており、リハビリによって、寝たきりの状態から、一時は電動車椅子での離床(FIM総点55点から58点へ)を果たした。離床のタイミングが少しでも遅れていたら、本症例は一度も離床することなく最期を迎えていたと考えられる。実際はトイレへの移乗も歩くこともできなかったが、病的骨折等のリスクを考慮し、できる限りの離床をすすめたことで、最期まで「歩行訓練がしたい」と歩行獲得への希望をもって前向きに治療に取り組むことができたのではないだろうか。
    【まとめ】 本症例を通して、がんのリハビリではギアチェンジのタイミングを見逃さないように、リハビリの目標は変化させていかなければならないことを学んだ。また、できる限り可能な最高のQOLを実現するべく、医療者は科学的根拠に基づいたリスク管理を行いながらも、患者本人のニーズにできるだけ応える姿勢をもつ必要があると感じた。
  • 梶原 史恵, 大西 徹郎, 橋本 真一, 塩中 雅博, 下野 俊哉
    セッションID: P-62
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 尿失禁は直接生命に関わることはないものの、生活の質(Quality Of Life:QOL)に多大な影響を与えることが報告されている。しかし、尿失禁による様々な問題があるにも関わらず、実際に医療者に相談する高齢者は18%に過ぎないという報告がある。
     今回、尿失禁を呈する人々に有益な情報を提供することを目的に骨盤底筋訓練の効果とQOLの変化を調査した。
    【方法】 対象は折り込み広告で募集した。骨盤底筋訓練はホームエクササイズを中心に10週間実施した。初期評価は、基本情報調査(年齢、身長、体重、出産経験、尿失禁を自覚してからの期間、尿失禁の治療経験)、QOL問診票(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form:ICIQ-SF)とキング健康調査票(King’s Health Questionnaire:KHQ)を調査した。ICIQ-SFとKHQは、訓練開始5週目(中間評価)と10週後(最終評価)に実施した。前半5週間のホームエクササイズは坐位で行い、できるだけ強く6秒間収縮12秒間弛緩を10回、できるだけ速く強い収縮を10回、できるだけ強く6秒間収縮と12秒間弛緩を10回の計30回の収縮弛緩を1セットとして、1日に3セット(1日計90回の収縮弛緩)を実施した。後半5週間のホームエクササイズは、前半のエクササイズメニューを臥位、坐位、立位のそれぞれの姿勢で1セットずつ行い、骨盤底筋を収縮させてからしゃがみ込む動作を10回(1日計100回の収縮弛緩)実施した。さらに、骨盤底筋収縮のための運動指導を週1回60分間実施した。
     本調査は同意のための説明書を提示し、同意書に署名を受けた者のみを対象として行った。なお、研究に先立ち星城大学倫理委員会の承認を得た。
    【結果】 尿失禁を呈する女性10名(年齢56±7歳、腹圧性尿失禁6名、混合性尿失禁4名)から応募があった。全ての対象者は移動能力に制限が無かった。最終評価で尿失禁が無くなったと回答した者は10名中4名(40%)と高い割合を示した。尿失禁の頻度が減少した者を含めると100%に改善を認めた。また、KHQが示す全般的健康感、生活への影響、仕事・家事の制限、身体活動の制限、社会的活動の制限、個人的な人間関係、心の問題、睡眠・活力、重症度評価のすべての項目は、初期評価に比べ最終評価で改善を認めた。
    【考察】 骨盤底筋訓練の効果を示した論文は散見されるものの、訓練の回数、期間、頻度、方法が異なっている。そのため尿失禁の改善率が17%~84%と論文によって大きな差がある。今回の我々の取り組みは先行研究を上回る結果であった。また、10週間の骨盤底筋訓練の取り組みは、QOLの改善に効果を示した。
    【まとめ】 今回は特別な機器を使用せず、ホームプログラムを中心に骨盤底筋訓練を実施した。この結果は、尿失禁に対する運動療法を実施するための有益な情報であると考える。
  • 青山 満喜, 安藤 正和
    セッションID: P-63
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 我が国における高齢者の割合は増加し続けており、2050年には総人口のほぼ3人に1人が高齢者になると予想されている。
     転倒は高齢者に頻発する「老年症侯群」の一つであり、要介護の主因の一つであり、寝たきりを招く原因になりうる。
     以上のように高齢者の転倒は、生命やその後のADLやQOLに重大な影響を及ぼす。転倒予防は要介護状態を抑制するだけでなく、要介護者、介護者のQOL、医療費の抑制にもつながり、超高齢者社会を迎える我が国において医療福祉政策上も極めて重要である。今回我々は、高齢者の転倒に関与する因子について検討した。
    【方法】 名古屋市と近郊の老年内科外来に通院する65歳以上の高齢者100名(男性:42名、女性58名、平均年齢80.2±5.7歳)で、歩行補助具を用いてもよいが、自立歩行が可能な者を対象とした。
     対象者にFall Risk Indexを実施し、スコア6点以上で『転倒リスクあり』と判定された100名の身体計測、握力、下肢筋力、Berg Balance Scale, Timed Up and Go, Functional Reachを測定した。
     ADLは、Barthel IndexとFIM, Motor Fitness Scaleを調査し、初期調査時の《横断研究》と6ヶ月間の《前向き観察研究》を行い、転倒の有無との関連を検討した。
     この調査は、大学医学部倫理委員会にて承認後、実施した。対象者には口頭と書面にて説明をし、書面にて同意を得た。
    【結果】 登録から半年間の転倒の有無別に、登録時の対象者の特性をstudent t-testおよびカイ二乗検定を用いて解析した。半年間の転倒と関連する因子に関して、ロジスティック回帰分析を用いて抽出した。統計解析にはSPSS18.0を用い、いずれも危険率5%未満を有意差ありとした。
     6か月の観察期間中に100名中35名が転倒を経験した。半年間の転倒経験者は未経験者に比べ女性の割合が多く(p=0.04)、過去1年間の転倒経験者が多かった(p=0.03)。
     しかし、身体計測、下肢筋力、バランス・スケールで転倒の有無別の2群間に有意差は認められなかった。
     転倒者は非転倒者と比較し、握力が低い傾向にあった(p=0.05)。単回帰分析で転倒と有意な関連を認めたものは、性別(p=0.04)、過去一年間の転倒経験(p=0.03)であった。握力(p=0.06)、薬剤数(p=0.08)は、統計的有意差はないものの転倒と関連する傾向を認めた。
    【考察】 今回の半年間の転倒は全て自己申告であり、正確な報告であったか否か検証が難しい。また、外来に自分で通院できる高齢者が対象であったため、筋力が比較的保たれていたことが下肢筋力と転倒との関連を見いだせなかった原因であると考えられる。
     しかしながら、服用する薬剤数と転倒の関連を認めたこと、ならびに転倒を予測する因子として握力が抽出されたことは、リハビリテーションを実施する上で参考になると考える。
    【まとめ】 転倒は外傷、特に骨折による身体的な障害を生じさせるだけでなく、一度転倒すると、再転倒の恐怖のあまり、行動や日常生活活動範囲を極度に狭小化し、高齢者を虚弱に至らせる転倒後症侯群を引き起こす。
     今回提示した転倒予測因子を、転倒予防を考える上で活用していきたいと考える。
  • 藤井 佑衣, 武藤 由樹, 坪内 貴志, 曽我部 知明, 斗谷 公美, 古川 三郎, 中村 達也, 名和 隆英, 千田 美穂子, 横山 仁美
    セッションID: P-64
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 介護老人保健施設(老健)は利用者が自立した生活を営むことを支援し、家庭復帰を目指す場であるが、近年の高齢化・介護の重度化により在宅復帰困難例が増加している。当施設では、入所初日にリハビリ部門を中心に転倒予防、生活自立度向上の為の生活環境支援(支援)評価を行い対応している。今回、医療機関に入院中転倒を繰り返し在宅復帰困難となった症例に対し、生活環境を主眼に置いた支援、理学療法を行うことで在宅復帰を果たし、その後も通所サービス利用を継続することにより介助者との旅行が可能なレベルまで改善した症例を経験した為、報告する。
    【方法】 対象は60代女性。平成20年7月24日、クモ膜下出血を発症し、右片麻痺となる。開頭手術を受け、ADL動作自立レベルで退院するも自宅で転倒し、急性硬膜下出血にて再入院となる。入院中にも転倒を繰り返し、計7回手術を受けたことにより動作能力が低下し、在宅復帰困難と判断され、平成21年1月28日当施設に入所となった。病院退院時は、両麻痺、左視野欠損、感情失禁を認め、昼夜オムツ対応、車椅子離床時はベルトでの拘束を必要とする状態であった。入所時評価により、ベッド周囲環境整備、拘束解除、排泄形態の調整を行い、介助量軽減の為の理学療法を提供した。
    【説明と同意】 報告の趣旨を本人に説明し同意を得た。
    【結果】 入所から1ヶ月が経過し、つかまり立ちが自立あるいは見守りレベルにて可能となり、危険認識も向上した為、施設内車椅子移動を自立とした。この頃より、「自宅に帰りたい」という目標が生まれ、それに向けた支援、理学療法の提供を行い、平成21年4月29日、在宅に復帰した。退所時の在宅生活環境は、昼夜ポータブルトイレ動作軽介助、屋内4点歩行器歩行監視レベルで、日中はベッド上座位での生活が中心であった。退所後は当施設併設のデイケアで週3回の継続的なリハビリを行った。在宅復帰後も「2階へ1人で行けるようになりたい」「布団を上げられるようになりたい」「家事が出来るようになりたい」「買い物に1人で行けるようになりたい」と段階的に高い目標を設定していき、達成していった。在宅復帰1年後には家事全般や御主人のお弁当作りも可能となった。現在は「電車に乗って同窓会へ1人で出掛けたい」という新たな目標に向かってリハビリに励まれている。
    【考察】 在宅復帰困難例に対し、生活全般のマネジメント、理学療法の提供を行った結果在宅復帰が出来た。又、在宅復帰後も老健と通所サービス事業所、ケアマネジャー、家族との連携を行い段階毎の支援・理学療法を提供できたことが身体能力の向上や生活の質の向上に繋がった。このことから、在宅復帰、生活の継続の為には、身体機能の維持、向上だけでなく、生活環境や感情、嗜好へも目を向けた支援の実施が重要であると思われる。
    【まとめ】 24時間体制の施設生活支援を行うことで、在宅復帰が出来た。在宅復帰後も通所系サービスでの理学療法を継続することで、より質の高い生活を獲得することが出来た。理学療法士への在宅支援の必要性は高まっており、多様なサービスの提供が求められる時代になってきている。
  • 井戸田 学, 古川 公宣
    セッションID: P-65
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年、高齢者の転倒に関する心理的問題として転倒恐怖感が注目されている。これまでに年齢、歩行能力、バランス能力、うつ傾向、Activities of Daily Living(以下、ADL)、Instrumental Activities of Daily Living(以下、IADL)などが関与することが報告されているが、起居動作能力との関連についての研究は散見できる程度である。本研究の目的は、地域在住高齢者における起居動作能力が転倒恐怖感に与える影響について、定量的データを用いて検討することである。
    【方法】 対象は、認知機能に問題がなく起居および移動動作が自立した地域在住高齢者27名(男性9名・女性18名、平均年齢77.9±8.4歳)とした。対象者には事前に本研究の趣旨を説明し、十分な理解を確認した後、書面にて同意を得て実施した。転倒恐怖感の測定は、日本語版fall efficacy scale(以下、FES)を用いた。起居動作能力は、起き上がり、床からの立ち上がり、5回連続椅子からの立ち上がりに要する時間を各2回測定し、その平均値を解析に用いた。分析は、FESと各起居動作所要時間との関係について、Spearmanの順位相関係数を用いて検討した。また、過去1年間の転倒経験の有無から対象者を転倒群12名と非転倒群15名に分類し、FESをMann Whitney検定により比較した。さらに、FESを従属変数、各起居動作所要時間を独立変数とした重回帰分析(Stepwise法)を行い、転倒恐怖感に影響する因子について検討した。有意水準は5%未満とし、統計処理にはSPSS ver. 12 for Windowsを使用した。
    【結果】 FESと各起居動作所要時間との相関係数は、起き上がり所要時間:r=-0.59、床からの立ち上がり所要時間:r=-0.76, 5回連続椅子からの立ち上がり所要時間:r=-0.67であり、すべての起居動作所要時間との間に有意な負の相関が認められた(P<0.01)。転倒経験によりFESに有意な差は認められなかった。また、重回帰式は、FES=-0.83×床からの立ち上がり所要時間+39.7(R2=0.55, P<0.01)であり、FESに寄与する因子として床からの立ち上がり所要時間が抽出された。
    【考察】 本研究により、高齢者の転倒恐怖感には起居動作能力が関与することが示された。とくに床からの立ち上がり動作は、身体重心が最も低く支持基底面が広い安定した状態から、身体重心が最も高く支持基底面が狭い相対的に不安定な状態へと至るまでの重心移動距離が長い一連の動作過程であるため、FESに対して高い相関が認められ、関連因子としても抽出されたと考えられる。一方、転倒経験によりFESに有意な差は認められず、諸家が指摘しているように、高齢者は転倒の有無に関わらず転倒恐怖感を抱いていることが確認された。高齢者においては、転倒恐怖感によりADLやIADLの制限のみならず、社会参加の制約も生じることが危惧されるため、多角的かつ詳細な介入が重要であると思われる。
    【まとめ】 高齢者に対しては、転倒経験に関わらず転倒恐怖感が存在していることを考慮する必要がある。転倒恐怖感に着目してアプローチを行う場合、個々の身体機能やADL, IADLに加えて、起居動作能力の向上を目指した介入が有用である可能性が示唆された。
  • 鈴木 裕士, 南出 光章, 小瀬 理絵, 吉田 奈央, 中山 和恵, 上田 千恵, 柳瀬 仁
    セッションID: P-66
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年、高齢化社会における問題点として、独居高齢者の比率が高くなってきている。そこで家事等、基本的動作を一人で行う場合と家族等と分担する事ができる場合では、身体能力および活動量に変化があると考え、独居高齢者(以下独居群)と、同居している高齢者(以下同居群)の当通所リハビリ利用者における身体能力の変化を分析した。
     計測期間は6月から12月までの6ヶ月間とし、温かく動きやすい夏から寒く動きにくい冬への変化により、活動量に変化があると予想される為、若干の考察を加え報告する。
    【対象者】 調査対象者は、当通所リハビリを利用されている53名。内訳は、平成23年6月から12月の6ヶ月間継続して利用された53名(要支援1:21名、要支援2:32名)である。平均年齢は81.66±8.78歳、男性14名女性39名である。
    【検査項目と方法】 検査項目は握力、ファンクショナルリーチ(以下FR)、Timed Up&Go Test(以下TUG)、最大歩行(5m)と通常歩行(5m)を計測した。方法としては3ヶ月ごとに評価をおこない、6月を基準に9月、12月の変化を比較した。
    【結果】 独居群では6月と12月の間でTUGのみ優位に速くなったが、その他全ての項目においては優位な身体能力の差はなかった。同居群については、経時的変化はなかった。しかし同居群と独居群を比較すると、独居群がTUGと最大歩行の項目で優れていた。
    【考察】 通所リハビリを利用している事で身体機能が維持できていることが考えられる。これは四季の変化による活動量では、どちらにも有意差がでなかった事から推察する事ができる。だが、独居と同居では独居群の方が同居群よりも多数の検査項目が優れているという結果により、環境の違いによって身体機能の差が出現したと考えられる。
    【結論とまとめ】 初期に予想された季節の変化では身体機能に変化をもたらす結果とはならなかった。しかし、優位な身体能力の変化が認められなかった事から、本通所リハビリを利用している要支援者は、身体機能を維持できていると考えられる。しかし独居、同居の二点から検討すれば、独居高齢者は日常生活を一人で行う必要があるため、家事等を分担できる同居高齢者よりも活動量が多く、身体機能が高いということが示唆された。これにより計画書等を作成する際の評価に、環境因子として家族構成を考慮した目標を設定する必要性があると考えた。
  • 澤崎 実帆, 渡辺 貴之, 小林 雅彦, 渡邉 恵介, 宮田 卓也, 山本 美香, 有川 康二郎, 入道 孝志, 金木 亮
    セッションID: P-67
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 平成18年から高齢者に対し要介護状態の予防を目的として通所型介護予防事業が始まり、当院でも平成22年より石川県白山市委託にて開始された。本研究は、平成23年度の事業開始時と終了時の運動機能評価ならびに基本チェックリスト自己記入結果の比較検討である。
    【方法】 対象は参加者5名(男性:1名、女性:4名)、平均年齢77.5±2.5歳で、全対象者には研究内容を説明し、同意を得た。事業目的は介護予防を通じた活動的で生きがいある、生活支援であった。参加者は開始時および終了時に運動機能評価と基本チェックリストの自己記入を行った。運動機能評価では握力、片脚立位、Timed Up and Go test(以下、TUG)、5m最速歩行時間を2回ずつ測定した。握力と片脚立位は左右を測定し、右側を測定値とした。基本チェックリストは質問形式で、生活5項目、運動器5項目、栄養2項目、口腔3項目、閉じこもり2項目、認知症3項目、うつ3項目から成り、リスクが該当する項目に対しチェックを行うものであった。事業は週1回、90分が3ヶ月間行われ、内容は学習時間などを設けた後に、マシントレーニングと自宅での体操指導が実施された。なお、結果は対象者の平均値で示し、運動機能評価は各項目で対応のあるt検定を行った(有意水準5%未満)。
    【結果】 運動機能評価では、握力が22.4±1.7㎏から23.2±2.0㎏に、片脚立位が15.3±7.5秒から28.2±15.5秒に、TUGが6.9±0.4秒から6.5±0.4秒に、5m最速歩行時間が3.2±0.2秒から2.9±0.1秒に変化した。TUGと5m最速歩行時間は有意に減少した。基本チェックリストのチェック数は、生活が1.4±0.7個から1.2±0.7個に、運動器が3.4±0.2個から3.6±0.2個に、栄養が0.4±0.2個から0.4±0.2個に、口腔が0.6±0.3個から1.2±0.5個に、閉じこもりが0.6±0.2個から0.6±0.2個に、認知症が0.8±0.3個から0.8±0.3個に、うつが1.0±0.6個から0.6±0.4個に変化した。
    【考察】 TUGと5m最速歩行時間に有意な減少と、うつチェック数に減少傾向がみられ、事業が心身機能向上に影響を与えた可能性があり、介護予防の一端を担えたと考えられる。しかし運動器チェック数に変化はなく、日常動作を変化するまでには到らず、今後は日常に直結した動作練習の充実を図る必要があると考えられる。生活、運動器、閉じこもりのチェック数の変化は少ない傾向であったことから活動変化は少なかったと思われ、目的である活動的で生きがいある、生活支援は不十分であったと考えられる。事業参加自体が介護予防を意識した活動向上を伴う行動変容であり、その行動変容が継続できるよう、生活の中に根付いた活動の場を紹介していく必要があると考えられる。
    【まとめ】 平成23年の白山市委託通所型介護予防事業を通じて心身機能の改善傾向が示唆されたが、活動変化は少ないように思われ、今後は日常生活に根付いた活動の場を紹介し、生活支援の充実を図る必要がある。本事業が受動的な介護予防から、より主体性を引き出した介護予防へと繋げていく場となれるよう工夫が必要と考えられる。
  • 曽田 直樹, 植木 努
    セッションID: P-68
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 高齢者の転倒は、寝たきりや要介護状態の要因となり、高齢者の健康増進とともに転倒予防対策は重要な課題である。転倒の内的要因の代表的なものとして姿勢制御能力の低下がある。姿勢制御能力には、足関節戦略や股関節戦略、踏み出し戦略があり、その中でも踏み出し動作は、外乱に対して新たに支持基底面を形成し、転倒を回避する動作である。踏み出し動作の解析は、高齢者の転倒防止に貢献でき、それに関わる筋肉を同定することでより効果的な運動療法を実施することができると考える。本研究の目的は、前方への踏み出し動作時の筋活動および反応時間の特徴を明らかにすることとした。
    【対象】 下肢に既往のない健常成人7名(男性3名、女性4名)とした。対象者には、本研究の主旨および方法、研究参加の有無によって不利益にならないことを説明し書面にて承諾を得た。また本学倫理委員会の承認を得て行った。
    【方法】 静止立位から前方への踏み出し動作を測定課題とし、踏み出す距離はつま先から50㎝(条件1)と80㎝(条件2)の2条件とした。動作開始の合図は、光刺激によって行われ、「できるだけ早く足を出すよう」に教授した。各条件とも3回行った。測定筋は、両側の前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋、大腿直筋、内側広筋、大腿二頭筋の12筋とし、表面筋電計(ノラクソン社製)を用い、課題中の筋電図波形を記録した。測定した全波形は、整流化後、50msのRMS値を求め、3秒間の最大等尺性収縮時のRMS値を100%として正規化し%MVCを算出した。解析区間は、合図から足底離地までの時間(reaction time以下RT)と足底離地から足底接地までの時間(movement time以下MT)の2区間とした。なお足底接地および離地の判別には、フットスイッチを踏み出し側の踵および母指球に貼り付け使用し筋電図に同期させ同定した。統計学的分析には、条件の違いによるRTおよびMTの比較を対応のあるt検定を用い検討した。またRT, MT、筋活動量の条件1から条件2の変化率〈変化率=条件2/条件1〉を求め、RT, MTの変化率と各筋活動量の変化率との関係をピアソンの相関係数を用い検討した。有意水準は5%とした。
    【結果】 RTにおいて50㎝での平均値は0.49秒、80㎝では0.54秒と80㎝で有意に増加した。またMTでは50㎝での平均値は0.33秒、80㎝では0.40秒と80㎝で有意に増加した。RT, MTと筋活動量の変化率の相関関係では、RTにおける支持脚の前脛骨筋(r=-0.885)が高い負の相関関係を示した。また踏み出し脚において、腓腹筋(r=0.799)、ヒラメ筋(r=0.725)が高い正の相関関係を示した。MTにおいては有意な相関関係は認められなかった。
    【考察】 RTにおける前方への重心移動には、支持脚の前脛骨筋の活動により重心を前方へ移動させる方略と踏み出す脚の腓腹筋やヒラメ筋でけり出す方略があると考えられ、支持脚の前脛骨筋の活動を高めることが速い踏み出しにつながる可能性がある。運動療法を行う上で支持脚に注目することが重要である。
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