日本惑星科学会秋季講演会予稿集
日本惑星科学会2003年秋季講演会予稿集
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オーラルセッション1 10/8(水)9:15~10:30
  • 山中 大学
    p. 99
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    Hot Jupiterと呼ばれるものに代表される太陽系外の様々な惑星の発見は、GFD(地球流体力学)に新しいカテゴリーの問題を提供しつつある。これまでのGFDは、質量、角運動量、エネルギーの全てにおいて閉じた惑星システム内の大気(海洋)力学であり、一義的にはエネルギー(放射)収支で規定される子午面内で不均一な温度場と、自転方向の大気運動(角運動量)との間の平衡状態を論じるものであった。これまでの問題では、温度場は主星(および惑星内部)との放射収支で与えられるので、主星がどのような距離からどのような放射を発していても、それとバランスするような風速場を求めることができた(ここでは簡単のため、子午面循環による角運動量やエネルギーの再分布を無視している)。しかし、例えばhot Jupiterの場合は自転(ガス惑星の場合は大気角運動量にほかならない)が公転とシンクロナスであると考えられており、従って大気角運動量には主星との間に天体力学的な束縛条件(Kepler第三法則)が新たに要請される。放射収支で決まる風速場が、この天体力学的条件を満たすためには、hot Jupiterは主星に対して任意の位置に存在することは許されないことになる。これはほんの一例であるが、このように惑星系全体でみればミクロな力学(熱力学よりは大きいスケールなのでメソというべきかもしれないが)であったGFDには、巨視的な天体力学との間の連立系を構成することによって、新たな理論的諸問題が生まれてくることになる。また、天体力学的な惑星系形成論の側においても、本来ミクロ(メソ)なGFDとの連立によって要請される新たな条件が与えられるはずである。今回は、今後展開する予定の具体的な諸問題を解く前の導入編として、そのような新たな力学系の一般論について論じておきたい。
  • 木村 勇気, 墻内 千尋
    p. 1
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    隕石中でダイヤモンドが見つかり、星間空間におけるプリソーラーナノダイヤモンドの存在が示唆されてから、ダイヤモンドへの興味が非常に強く持たれるようになった。ナノダイヤモンドは隕石中のプリソーラーグレインとして最も多く存在しているだけでなく、銀河中のカーボンの多系としても最も多く存在していると考えられている。この星間でのダイヤモンドの生成メカニズムについて、多くの提案がなされ議論されているが、いまだ明らかとされていない。今回、ナノダイヤモンドがカーボンとシリコンの混合膜から、シリコンの存在だけで容易に生成できることを見出したことについて報告する。
    混合膜は、シリコンとカーボンの真空同時蒸着法を用いて作製した。膜中の比はおおよそ、シリコンが30% であった。この膜の電子回折パターンはハローであったが、高分解能電子顕微鏡観察の結果、ダイヤモンドの微結晶から成っている事が分かった。
    600℃で一時間加熱した結果、5 nmサイズのダイヤモンドが得られた。800℃で一時間加熱した結果、そのダイヤモンドは15-20 nmへと成長し、ダイヤモンドを示す電子回折パターンが得られた。また、高分解能電子顕微鏡観察の結果、(111)の格子縞が見られるダイヤモンド結晶の表面をβ-SiCが取り囲むようにエピタキシャルの関係で存在していた。そのため、ダイヤモンドはシリコンを吐き出しながら成長していると考えられる。
    アモルファスカーボン膜はグラファイトとダイヤモンドから構成されているが(1, 2、真空中で加熱してもダイヤモンドは現れない。シリコンがカーボン膜中に混合して触媒的に働くことで、カーボン原子はSP3軌道が優勢となり、ダイヤモンドが成長したものと思われた。しかし、シリコンと同様にSP3軌道を持ちダイヤモンド構造を取るゲルマニウムとカーボンとの実験を行った結果、ダイヤモンドは生成しなかった。それ故に、シリコンのSP3軌道よりも触媒的な効果の方がより重要であると考えられる。
    [1] T. Kozasa et al., Astron. Astrophys. 307 (1996) 551-560.
    [2] Y. Kimura et al., Carbon 40 (2002) 1043-1050.
  • 木村 勇気, 池上 亜紀美, 鈴木 仁志, 墻内 千尋
    p. 2
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年、カーボンリッチなAGBスターの中間赤外スペクトルに見られる特徴的な20.1 μmの起源について盛んに議論されている。最近、1.1 nmサイズのTiCクラスターにおいて20.1 μmに吸収が見られるという報告がなされ、TiCに候補物質としての注目が集まった。現在、これに対し否定的な結果が多く出ており、盛んに議論が行われている。バルクのTiC結晶においては、中間赤外領域に吸収はまったく見られない。隕石中から抽出されたTiCのサイズはおよそ50 nmであることから、我々は50 nmサイズのTiCグレインを作成し、その赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、9.5と12.5 μmに特徴的なピークが見られたが、20.1 μm付近にはまったく吸収は見られなかった。
    ガス中蒸発法を用いてTiCを直接作製する方法では、数ナノメートルサイズのTiCを作製するのが困難なため、今回、Ti粒子上に真空蒸着法を用いてカーボンを蒸着し、界面での反応を用いてナノオーダーのTiC微結晶を作製した。また、その粒子を700℃で60分間加熱することにより、TiC微結晶を成長させ、微結晶サイズと赤外線吸収スペクトルとの関係を明らかとした。さらに、膜厚の異なるTi- C粒子を用意し、カーボンマントル層の赤外吸収スペクトルに与える影響を調べた。まずカーボン膜厚3 nm程度のTi- C粒子では、Ti粒子表面におよそ3 nm 程度のTiC微結晶が生成し、赤外線吸収ピークは14.3 μmに見られた。その粒子を加熱すると、Ti粒子中へのカーボンの拡散によって、TiC微結晶はおよそ6 nm 程度に成長し、14.3 μmの吸収強度は減少した。次に、カーボン膜厚を、6 nm程度まで増加させたTi- C粒子では、約4 nm のTiC微結晶が生成していたが、この赤外スペクトルには吸収が見られなかった。これはTiC微結晶が厚いカーボン層に覆われているためであると考えられる。この粒子を加熱するとTiC微結晶が成長し、表面に現れる。この時、赤外吸収を測定すると14 .5 μm に吸収が見られた。3 nmサイズのTiC微結晶においても、20.1 μm付近に吸収ピークは見られなかった。
  • 木村 勇気, 佐藤 岳志, 墻内 千尋
    p. 3
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの多くの観測によって、我々の銀河に存在する星間塵のほとんどが217.5 nmに減光のピークを示すことが分かっている。この減光の起源となる物質は炭素質グレインが有力であると考えられており、graphite、HAC、coal、fullerenes、graphite onions、diamond-like carbon、PAHs そして QCCなどが提案されているが、これまでそのピーク波長位置やシャープなprofileを十分に満たす物質は得られていない。今回我々は、メタンガス中で金属ワイヤーを加熱するだけの簡単な方法で、この220 nm付近にシャープな減光ピークを示すcarbonaceousグレインの創製に成功したことについて報告する。また、生成条件によって吸収ピーク波長をコントロールできることが分かった。さらに、高分解能電子顕微鏡観察からグレインサイズとピーク波長位置との関係を明らかにする。
    メタンガス80 Torrで満たした実験装置内で金属ワイヤーを加熱すると黒い煙が立ち昇るのが見えるようになる。1,400℃で加熱した際に得られた煤の紫外線スペクトルを測定したところ、224.5 nmに鋭い吸収ピークを示した。この吸収ピークは、加熱温度を上げる事で短波長側にシフトし、2,800℃においては216.5 nmを示した。この時、生成温度とピーク位置とはリニアな関係がみられ、星間減光スペクトルに見られる217.5 nmの吸収ピークは2,600℃でメタンガスを加熱することで得られる事が分かった。
    高分解能電子顕微鏡観察の結果、得られた煤はグラファイトが巻いた構造をしていた。煤のグレインサイズは、224.5 nmを示す1,400℃での場合50 nmであり、2,800℃では5 nmであった。すなわち、217.5 nmに対応する候補物質が5 nm程度のグレインサイズをもつグラファイトの巻いた構造によって説明できることが分かった。これまで計算によって、5 nmサイズのグラファイトが217.5 nmを示すであろうと予測された。しかし、5 nmというサイズの揃った粒子が存在しているとは考えにくく、その様な粒子を作製する事も困難であった。しかし、今回の実験により、ガスから粒子が生成する場合には、条件次第でかなりサイズの揃ったものが得られることが分かった。
  • 達見 圭介, 小沢 一仁, 永原 裕子, 橘 省吾
    p. 4
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    惑星形成時の現象の考察する時、惑星を構成する固体物質の最小構成単位として気相から凝縮したダストの描像が求められる。こういったダストがいかなる形態、組成、鉱物からなっているか、というのは未だ直接確かめられてはいないが、宇宙に存在する難揮発性元素の存在度からMg, Fe, Siなどがこういうダストを構成する主だった元素だと考えられている。若い天体周辺の赤外吸収スペクトル観測からダストとしてのマグネシウムシリケイトの存在が有力である。一方もう一つの主要な難揮発性元素であるFeは酸化物あるいは硫化物としての存在が示唆されているが必ずしも酸素や硫黄がダスト形成の場で存在していたとは限らず鉄が単体でダストを形成していたり、先に凝縮したマグネシウムシリケイトの上に凝縮していた可能性もある。本発表ではこの鉄のダストの様相を探るべく行った凝縮実験の結果を報告しそこから考えうる宇宙空間中での現象を議論する。 今回の実験では真空実験装置を用いた。ステンレス製の円筒形容器(内径高さ共約40cm)中にタングステン製の円筒形電熱メッシュヒーターが据えられておりその周囲を円筒形に断熱板が覆っており、ヒーターの輻射熱が真空装置外壁に直接伝わらないようになっている。容器は常に真空ポンプで10^-4_から_-5 Pa程度に減圧され、気相の鉄はヒーターの中心に0.5mm厚の鉄プレートを設置しヒーターで過熱し表面から蒸発させることによってえる。ヒーターを取り囲む断熱板は数箇所穴が貫通している箇所があり断熱板内部で蒸発した気体はその穴を通って外部に排出される。今実験ではその穴の一つの出口をモリブデン製のプレートで塞ぎ、そのプレート上に凝縮した鉄の様相を操作型電子顕微鏡などを使って観察した。実験温度はW-Re熱電対で計測され、中心の鉄を蒸発させる場を約1,130℃に固定し行った。この条件下では凝縮させる場の温度は約430℃であった。実験時間は6,24,96時間の3回行った。回収された鉄のプレートの質量減少量は実験時間に比例しており、実験中の装置内の圧力もほとんど変動してないため、Fe原子は蒸発試料上から定常的なフラックスで蒸発していたものと考えられ、その為凝縮基盤への気相鉄の供給量は時間比例だと考えてよい。走査電子顕微鏡での観察像からは以降の事柄が見て取れた。 6時間の実験では凝縮物は平均径100nm、最大でも200nm程度の球形_から_結晶面らしき面の確認できる塊を単位としてそれらが互いに成長途中で衝突し連結したような凝縮物群が観察された。また、ところどころに基盤の面が見られた。24時間の実験では平均サイズが500nm程度の一つの結晶と見られる塊が同様に連結しあった凝縮物が卓越し、6時間のものに見られた球状の表面は姿を消しほぼ全てが結晶面に覆われた凝縮物の様子が観察された。またそれらは階層状に積み重なっているように見えた。96時間の実験では24時間のものに比べて多少結晶の塊の最大サイズが大きくなっており(700nm程度)それ以外は劇的な変化はなかったが階層構造は空隙を作りながらさらに奥行きを増しているように見受けられた。また、凝縮基板上で断熱板の穴の端の方にあたり、単位時間当たりに到達する気相鉄原子の数が中心部より少ない、と見られる場に凝縮したものは生のモリブデンの基盤が見えている上にぽつりぽつりと最小で径が数十nmから最大で1μm以上程度の大きな鉄結晶を作っており、小さな凝縮粒子でも結晶面が見て取れた。 以上の観察結果から以下のことが言える。この実験の温度圧力条件下では鉄は気相から直接結晶として取り込まれるわけではなく、直線的に飛来して基盤に衝突した場所に蒸着し、その後基板上をある程度移動しておそらく最初はアモルファスな塊として2次元核形成をする。気相鉄のフラックスが多いところでは今回の実験で見られたような密度で核形成が起こり成長し、互いがぶつかる。飛来する鉄粒子のフラックスの少ない断熱板の穴の端にあたる場所では2次元核形成の頻度が少ないので一つの核が他の核と衝突しないため中心部より大きく成長できる。結晶化は実験中にアニーリングの結果として進行する。その為、6時間の実験では比較的大きな塊でも表面が曲面状であったが96時間の実験で見られた凝縮物は小さくても結晶化していた、と考えられる。今回はこのような観察事実を元にダストとしての鉄の様相に言及する。
オーラルセッション2 10/8(水)10:45~12:00
  • 山田 真保, 橘 省吾, 永原 裕子, 小澤 一仁
    p. 11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    鉱物の蒸発にともなう元素・同位体分別は、原始太陽系や星周環境の物理化学条件やその履歴の解析、隕石などの惑星物質の化学進化の理解に有効である。惑星や隕石を構成する主要物質のひとつであるフォルステライトの蒸発速度には結晶方位の違いによる異方性があることがわかっている。本研究では、蒸発に伴うMg同位体分別係数の異方性を調べることを目的とする。
     合成単結晶フォルステライトを(100)、(010)、(001)面に垂直に切り出し、1504-1786℃で1-420時間、蒸発させた後、蒸発残渣の各結晶面のMg同位体組成を二次イオン質量分析器によって測定した。蒸発表面のMg同位体組成は、25Mg、26Mgに富み、質量に依存する同位体分別を示した。全ての実験温度において、試料表面の同位体分別の程度は(001)で最大、(010)で最小であり、(001)面に垂直方向に最も速く、(010)面に垂直方向に最も遅いフォルステライトの蒸発や拡散の異方性と同様である。
     蒸発残渣表面の同位体組成の時間進化と、蒸発速度・同位体分別係数・拡散係数をパラメータとした一次元同位体拡散律速分別モデルを組み合わせ、1692℃での同位体分別係数を各結晶面について求めた。得られた26Mgと24Mg の間の同位体分別は、(100)、(010)、(001)面について、それぞれ1.028、1.023、1.017で、(010)面が最も1に近い。同位体分別係数の異方性の原因として、各結晶面での表面吸着原子と表面原子との結合エネルギーの同位体効果や、表面吸着原子と結晶表面の同位体組成の差などが候補として考えられる。
     本実験の結果は、原始太陽系や星周で蒸発・凝縮する結晶の経験した温度履歴などを調べる際に、これまでの研究では扱われてこなかった異方性を考慮する必要があることを強く示すものである。
  • 友村 晋, 永原 裕子, 橘 省吾, 木多 紀子
    p. 6
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    友村 晋・永原裕子・橘 省吾・木多紀子はじめに
     始原的隕石コンドライトの主要構成物質であるコンドリュールは,原始太陽系で固体前駆物質が溶融してできたと考えられているが、具体的な成因については未解決な部分が残っている。Tachibana et al. (2003) は、消滅核種26Alの存在度から求めたferromagnesianコンドリュールの形成年代と全岩化学組成、特に全岩Si/Mg比に相関があること(Siに富む程年代が若い)を示した。これはコンドリュール成因論への重要な制約となるものと考えられるが、より詳細な議論のためには、コンドリュールの全岩化学組成および年代情報を、系統的・統計的に求めていく必要がある。今回我々は、コンドリュールの全岩化学組成のデータを統計的に集めることを目的に、非平衡普通コンドライト薄片から無作為に選んだ47個のコンドリュールの全岩化学組成を分析し、全岩Si/Mg比の頻度分布を求めた。また、Tachibana et al. (2003) が示した年代と全岩Si/Mg比の相関から、コンドリュールの年代分布の推定も行った。
    試料・分析
     分析に用いた試料は非平衡普通コンドライトBishunpur (LL3.1) で、Tachibana et al. (2003)でコンドリュールの年代と化学組成の相関が得られた試料である。Bishunpur隕石薄片中のコンドリュール47個を無作為に選び,それらの岩石学的、鉱物学的記載をSEMを用いておこなった。全岩化学組成分析はEPMAを用い、1つのコンドリュールにつき等間隔で約500ポイントの分析を行い、その平均値を全岩組成とした。その際金属鉄や硫化鉄、試料表面の傷や欠落部分を測定したデータは除き、珪酸塩成分のデータのみを用いた。
    結果および考察
     47個のコンドリュールの内、44個はオリビンや輝石の斑晶を含むferromagnesianコンドリュールであった(残り3個はほぼ球形でガラス質のAl-richコンドリュール)。オリビン・輝石斑晶の量比や、斑晶中のFeO含有量は多様であり、全岩化学組成はJones and Scott (1989)、 Jones (1990, 1994, 1996) やTachibana et al. (2003)が報告したferromagnesianコンドリュールの組成範囲をほぼカバーする。また、ferromagnesian コンドリュール中のNa、Mnなどの揮発性元素の存在度は、Tachibana et al. (2003) などで報告されているように、Siの存在度と正の相関を示した。測定したferromagnesianコンドリュールの全岩Si/Mg比(C_I_コンドライトのSi/Mg比で規格化)は、Si/Mg=0.63-1.49で、Si/Mg=1.0-1.1にピーク(10個)を持つほぼ左右対称の頻度分布を示すことがわかった。
     求めたferromagnesianコンドリュールの全岩Si/Mg比の頻度分布を、Tachibana et al. (2003)が示した年代と全岩Si/Mg比の関係式に当てはめ、ferromagnesianコンドリュールの年代分布を推定した。得られたferromagnesianコンドリュールの年代分布は、CAI形成後1.43-2.53Maの幅を持ち、ピークが1.9-2.0Maのほぼ左右対称な分布である。
  • 土山 明, 矢田 達, 野口 高明, 中野 司, 上杉 健太朗
    p. 7
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    宇宙塵スフェリュール(3個)の3次元外形をX線CT法を用いて調べた。3軸不等楕円体近似をおこない、その軸比のプロットをおこなったところ、コンドリュールの分布域と一致することがわかった。また、コンドリュールと同様にコンパウンドスフェリュールも見出せた。これらは、両者が類似の物理過程(衝撃波加熱)で生成されたことを意味しているように見える。今後、CT撮影するスフェリュールの数を増やすとともに、衝撃波モデルにおけるスフリュ_-_ルとコンドリュールの生成過程を比較し、理論的に検討していくことが重要である。
  • 中本 泰史, 三浦 均
    p. 8
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    彗星に含まれているシリケイトダストには,アモルファスと結晶化しているものの2種類あることが知られている.一方,彗星物質の起源物質と思われる星間ダストには結晶化しているものはない.したがって,ある段階でダストが結晶化することが予想されるが,その結晶化機構はまだわかっていない.本研究において私たちは,ダストの結晶化機構として原始太陽系星雲中での衝撃波加熱機構を考えた.ここでは,ダストが彗星に取り込まれる前に,原始太陽系星雲内で加熱を受けて結晶化するという状況を考えている.そして,原始太陽系星雲中に存在するアモルファスシリケイトダストを結晶化するのに適当な衝撃波の条件を詳しく調べて明らかにした.その結果,原始太陽系星雲内に存在し得る衝撃波の条件で,シリケイトダストが結晶化されることがわかった.さらには,最小質量原始太陽系星雲モデル(京都モデル)の場合,およそ20AUよりも外の領域では適当な衝撃波は存在せず,ダストは結晶化されないことがわかった.このことは,短周期彗星には結晶化ダストが存在せず,長周期彗星にのみ結晶化ダストが存在し得るということを示唆する.実際これまでのところ,短周期彗星には結晶化ダストが検出されていないが,私たちのモデルは,この観測事実と整合的である.
  • 田中 今日子, 河村 雄行, 田中 秀和, 中澤 清
    p. 9
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    核生成理論は、天体周りの固体微粒子の非平衡凝縮過程を調べる際の重要な武器である。一方、核生成理論により得られる凝縮核の生成率には不定性が挙げられている。我々は過飽和状態のガスからクラスターが生成される分子動力学シミュレーションを行ない、理論の検証を試みた。 分子動力学シミュレーションを行なう際、粒子数は5000体から最大1万体とし、シミュレーション中、体積、温度は一定に保つように設定した。また、本研究の目的は理論を検証することなので、相互作用ポテンシャルは、簡単な関数で表せるレナードジョーンズポテンシャルを用いた。 過飽和状態から計算を行なうと、系はガス分子の状態では不安定なためクラスターが生成し始める。核生成率はこのゆらぎによって生成されるクラスター数により決まると考えられるため、クラスター分布を精度良く求めることが重要である。よって我々は同じパラメータ(粒子数、体積、温度)のもと、粒子の初期位置を変えた10のシミュレーションを行い、そのアンサンブル平均からクラスター分布を求めた。さらに、生成されるクラスター数の時間変化から核生成率を求めた。このシミュレーションにより得られるクラスター分布と核生成率を理論のものと比較することにより、詳細な検証が可能となる。 分子動力学シミュレーションと理論との比較を行った結果、シミュレーションにより得られるクラスター分布は、古典的核生成モデルを補正した半現象論的核生成モデルと大変良く一致することが分かった。また核生成率もファクター以内で一致していることが明らかになった。
最優秀発表賞選考セッション  10/8(水)12:55~15:30(オーラル)、15:45~17:00(ポスター)
  • 三浦 均, 中本 泰史
    p. 10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
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    コンドライト隕石はそのグループごとに、内部に含まれるコンドリュールの平均サイズとコンドリュール含有率(vol.%)が異なる。このふたつの量には相関があるように見えるが、私たちは今回の発表において、その相関が衝撃波加熱コンドリュール形成モデルによって説明可能であることを示す。私たちが行なったコンドリュール形成の数値シミュレーションの結果、前駆体ダスト粒子を隕石内に見られるほど大量にコンドリュール化するには、ある適切な衝撃波強度(衝撃波速度、ガス数密度)が必要であることが分かった。また、衝撃波によって形成されるコンドリュールのサイズ分布は衝撃波強度に依存するが、上記の衝撃波強度において形成されるコンドリュールの平均サイズはほぼ100-300μm程度になることも分かった。これらの結果は実際の相関及び平均サイズをよく説明している。
  • 倉橋 映里香, 木多 紀子, 永原 裕子, 森下 祐一
    p. 15
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    太陽系の起源および進化を解明するうえで、初期太陽系物質がいつどこでどのように形成されたかを知ることは大変重要である.特にコンドライトの主要構成物質であるコンドリュールは初期太陽系の情報を保持していると考えられる.普通コンドライト(OC)はコンドリュールが65_-_75%を占めている一方で、炭素質コンドライト(CC)は35_-_45%しか占めていない.さらに、OCにはFeO-richコンドリュール(Type II)が多くを占めるのに対し、CCではFeO-poorコンドリュール(Type I)が優勢である.これらの違いの原因として初期太陽系星雲内での元素分布の違いや形成年代の違いなどが考えられるが実質的な証拠は未だに得られていない.初期太陽系星雲内の元素分布やコンドリュール形成メカニズムを解明するために、コンドリュールの形成年代およびバルク組成を詳細に調べることは大変重要である.
    コンドリュール形成年代に関して、近年では Al-Mg年代測定法を用いた詳細な研究が行なわれている.最も変成度の低いOC中のコンドリュールはCAIs形成後約200万年で形成し [1, 2, 3]、コンドリュールの年代が若くなるほどSiや揮発性元素に富むことがわかっている[3, 4].一方で、CC中コンドリュールに関しては、Type IIコンドリュールの形成年代がOCに比べ若い年代が得られている[5].しかし、CC中コンドリュールの多くを占めるType Iについては詳細な年代測定は行なわれていない.そこで、本研究では、最も変成度の低い非平衡炭素質コンドライト(CO3.0)を用いてType Iコンドリュールについて詳細なAl-Mg年代測定を行ない、コンドリュールバルク組成と比較することで、組成の系統的な変化と年代との関係について考察する.
    Al-Mg年代測定は5個のType Iコンドリュール(Porphyritic olivine pyroxene (POP)4個、Barred olivine (BO)1個)と1個のAl-richコンドリュールについて行なった.POPコンドリュールはolivine (Ol)、pyroxene (Px)、metalおよびmesostasis(plagioclase (Pl)およびCa-rich Px)、BOのmesostasisはPlおよびCa-rich Px、Al-richコンドリュールはPlおよびCa-rich Pxで構成されている.各コンドリュールのPlにおいてAl-Mg年代測定を行なった結果、CAIs形成後約100-200万年でType Iコンドリュールが形成したことが初めて明らかになった.これはOC中コンドリュールの形成年代とほぼ同じである一方で、CO中Type IIコンドリュールで得られている年代よりも明らかに古い値である.さらに、コンドリュールバルク組成分析から、Type IはType IIに比べCa・Al・Ti含有量の変化が大きく、Mn・Na・K含有量の変化は小さいことがわかった.
    上記の結果を用いて、コンドリュールのバルク組成と形成年代を比較してみると、Ca-Al-richになるほど年代が若くなる傾向があるという重要な結果が得られた.OC中コンドリュールにおいて年代が若くなるほどSiや揮発性成分に富むことはコンドリュールの蒸発・再凝縮で説明が可能である [4].しかし、今回の結果は単純な元素の蒸発・凝縮では説明できない.CCのコンドリュールについては初期太陽系星雲内のコンドリュール発生領域の元素分布が時代とともに変化している可能性がある.さらに、CC中コンドリュールにおいてType IとType IIではバルク組成だけでなく形成年代にも相違がみられることから、これらは異なるコンドリュール形成過程を経た可能性が示唆される.
    [1] Kita et al., (2000) GCA, 64, 3913-3922 [2] McKeegan et al., (2000) LPSC #2009[3] Mostefaoui et al., (2002) MPS, 37, 421-438 [4] Tachibana et al., (2003) MPS, in print [5] Kunihiro et al., (2003) LPSC #2124
  • 小南 淳子, 井田 茂
    p. 12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    現在、以下のような惑星形成シナリオが広く認められている。まず km サイズの微惑星が暴走成長を起こし、月質量弱(約10^{25}g)の天体が形成される(e.g. Kokubo & Ida 1996)。その後、天体は寡占的成長をし、火星質量程度(約0.1地球質量)の原始惑星が地球型惑星領域(0.4 - 1.5AU)に数十個形成される(Kokubo & Ida 1998,2000)。形成当初はほぼ円軌道をしているが、原始惑星どうしの相互重力や、原始惑星からの重力相互作用により楕円軌道化していく。原始惑星は軌道交差を開始し、衝突合体を起こす。楕円軌道は、円盤ガスや残っている微惑星からの重力相互作用により円軌道化され、地球型惑星は形成される。以上のような惑星形成が起こる際、円盤内にはガスや残存微惑星盤が残っていると考えられる。円盤があることにより、ガスの粘性による摩擦(e.g. Adachi et al. 1976)や円盤との重力相互作用による力学的摩擦が天体に働く。その結果、原始惑星の離心率、軌道傾斜角、軌道長半径は減衰される(Ward 1986, Artymowitz 1993, Tanaka et al. 2002)。粘性摩擦は天体の質量小さいほど効いてくるが、天体質量が月質量程度(約10^{25}g)以上になると力学的摩擦力が効いてくる。原始惑星ができる段階までの軌道計算において、ガス円盤からの力学的摩擦力の効果を入れた計算はなされていない。しかし、原始惑星の質量は月質量以上なので、この効果により、出来上がる原始惑星分布が今まで考えられている分布と異なってくる可能性がある。地球型惑星の配置や質量等は原始惑星の配置、質量などに左右される。本研究では力学的摩擦力による離心率、軌道傾斜角、軌道長半径の減衰を考慮し、原始惑星が形成される段階を N 体計算し、それらが原始惑星形成にどのような影響を与えるのかを調べる。
  • 藤原 大輔, 渡邊 誠一郎
    p. 16
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
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    現在の惑星系形成の標準シナリオでは円盤ガス中のダストが重力不安定を起こすほど薄く沈殿するメカニズムについてはよくわかっていない。円盤ガスがダスト沈殿に最も影響を与えると考えられるが、これまでの研究において円盤ガスの自己重力の影響はほとんど考慮されてこなかった。そこで、本研究では原始惑星系円盤進化の過程において円盤ガスの自己重力が影響を与えるかどうかについて調べた。
    円盤ガスの自己重力は中心星重力に対しては十分小さいが、圧力勾配に対しては同程度の大きさになり得る。そのことを考えるとガス-ダストの相互作用にとって重要な圧力勾配と同様に円盤ガスの自己重力もガス-ダストの相互作用に効いてくることが予想される。
    本研究では円盤ガスの面密度分布を与えることによって自己重力ポテンシャルを数値的に計算し、それをもとに自己重力がガス-ダストの相互作用に与える影響について調べた。その結果、円盤の中心面で自己重力の影響は最大になり、ガス流の回転速度の鉛直方向シアが増大した。また、この結果はガス流自体の不安定化の可能性を示唆しており、ガス-ダストの相互作用に重大な影響を与える可能性がある。
  • 小林 浩, 井田 茂, 田中 秀和
    p. 14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
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    太陽系の最外縁部であるカイパーベルトの天体はとても軌道が乱されている事が知られている。現在、カイパーベルト天体は600個以上も観測されている。その軌道分布について統計的に調べられ、軌道離心率と軌道傾斜角の関係において2つの集団がある事が発表されている。1つは軌道離心率と軌道傾斜角が比較的小さく軌道離心率と軌道傾斜角の大きさが同程度である天体の集団、もう一つは軌道傾斜角が軌道離心率に比べ非常に大きい天体の集団である(Brown 2002)。この軌道離心率の大きい天体の集団は軌道離心率が小さい天体の集団に比べてサイズが小さいことも知られている(Levison and Stern 2001)。
    カイパーベルト天体の乱れた軌道の起源についていくつかの過去の研究がある。太陽系が若い頃に恒星と遭遇しカイパーベルト天体が乱される説、過去に海王星付近に地球大の原始惑星があり、その原始惑星が海王星に跳ね飛ばされる間にカイパーベルトを乱したと言う説、原始惑星系円盤が消失する間に永年共鳴がカイパーベルトを通り軌道を乱した説など様々な説がある。しかし、これまでの説では軌道傾斜角と天体のサイズの関係を説明することは難しかった。
    原始惑星系において天体はガス円盤との摩擦を受けている。この摩擦力によりカイパーベルト天体の軌道も変化する。もし、カイパーベルト天体の軌道が何らかの原因で乱されているとしたら、ガス抵抗による軌道傾斜角の減少はサイズが小さい方が大きくなる。そのため、サイズが小さいものが軌道傾斜角が小さいことを説明できる。
    このようにガス抵抗力が効いたとなれば、小さな天体はガス抵抗の効果により太陽に向かって落ちてしまい、カイパーベルトに存在しないだろう。観測が進み、カイパーベルトで小さい天体を発見できるようになれば、ガス抵抗により天体が存在できない大きさ以下では天体が無いことがわかる可能性がある。
  • 中村 貴純, 田近 英一
    p. 18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
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    火星表層環境の進化を議論するにあたって,CO2とH2Oの挙動と進化を理解することは非常に重要な問題である.演者はいままで,火星表層におけるCO2のふるまいを調べるために,数値モデルを用いた大気‐極冠_-_レゴリスシステムの解析を行ってきた.その結果,かつての温暖な気候環境から現在のような寒冷な気候状態に遷移するときには,急激かつ大規模な気候変動(気候ジャンプ)を経なければならないことを導いた.この気候ジャンプは,大気の暴走凝結(極冠の暴走成長)によって生じる.気候ジャンプによって形成される極冠は大きく,相当量のCO2を保持している.一方で,現在の火星におけるCO2極冠は小さく,保持するCO2量もかなり少ないと推定されている.そこで,気候ジャンプ直後の極冠中のCO2を他の場所に輸送・隔離するプロセスを考える必要がある.本研究では,極冠中のCO2を地下に輸送するメカニズムを新たに考え,H2Oと共に地下に貯蔵されている可能性を検討した.これらの解析に基づき,地表‐地下系におけるCO2,H2Oの挙動,および,火星の気候進化を議論する.
  • 押上 祥子, 並木 則行
    p. 13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    金星の溶岩チャネルBaltis Vallisは、全長約6800 kmのcanali-typeに分類される溶岩チャネルである。溶岩チャネルの形成過程には、constructionalとerosional、そしてこれらの組み合わせの3つが考えられる [Baker et al., 1997]。Canaliは主としてconstructional起源とされているが、SAR画像からはconstructional起源の溶岩チャネルに特徴的な堤防をはっきりと見出すことができない。また、その深さはレーダーのforeshorteningの効果から数十mと見積もられているが、解像度75 mのFMAP画像では誤差が大きく疑わしい [Komatsu et al., 1992]。そこで本研究では、Magellan FMAP画像の輝度データに対し、Muhlemanの後方散乱関数 [Muhleman, 1964]を用いることでBaltis Vallisの横断地形プロファイルを作成し、その形状の特徴からBaltis Vallisの形成過程を考察する。本研究で用いたMagellan FMAP画像の各ピクセルに割り当てられた輝度値は、SARの後方散乱の強さ(後方散乱係数)を表している。一般に、この後方散乱係数を支配する要素は、地表面の傾斜(レーダー入射角)、粗さ、地表物質の誘電率である。Muhlemanの後方散乱関数は、金星表面の後方散乱の強さをレーダー入射角の関数として表したものであり、地表面の粗さと誘電率は、ローカルなパラメータとして関数中の係数α、βに含まれている。チャネル周辺の滑らかな平原領域において、領域の平均面が水平面に等しいと仮定すると、レーダー入射角の異なるstereo-looking、left-lookingの2つのFMAP画像を用いて係数α、βが決定できる。また、平原領域を流れるチャネルの地表物質の誘電率や地表面の粗さが周囲と同一であると仮定してこのα、βをチャネルに適用すると、輝度データから求められる後方散乱係数の値から、ローカルな散乱面に対するレーダー入射角が求まる。Magellan SARでは水平面に対するレーダー入射角は緯度によって与えられている。さらにチャネルの流れている方向も考慮すると、FMAP画像のピクセル毎に地表の東西傾斜角が求まる。これを東西方向に積分することで横断地形プロファイルが作成できる。しかし実際には平均面が東西、南北に1_から_2°前後傾斜していても、結果には大きく影響しない。 stereo-looking、left-lookingの2つのFMAP画像から、横断地形プロファイルを作成した。なお、ノイズによる影響を減らすために、南北20 pixel(およそ1.5 km)で平均したデータを用いている。その結果、同じ地点に対して両画像から得たプロファイルは一致しないが、チャネルの深さや幅といった主要な構造については矛盾のない結果が得られている。チャネルの全体的な特徴として、深さは平均約50 mとなった。プロファイルの形状からは、ほとんどの場合堤防らしい構造ははっきりと認識できない。また、チャネルの底面は周辺よりも数十m低いことから、Baltis Vallisの形成過程は主として侵食である可能性が示唆される。
  • 玄田 英典, 阿部 豊
    p. 19
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    地球型惑星は、複数回の火星サイズの巨大天体衝突が起こったと考えられている。これまで、我々は、巨大天体衝突時の大気散逸について研究をしてきた。その結果、相当量(50-90%)の大気が生き残ることがわかった(Genda & Abe, 2003)。これにより、ネビュラ中で微惑星が集積して火星サイズに成長するまでに捕獲した原始大気が、地球型惑星の大気の起源に重要な役割を果たすことを示した。太陽組成の希ガスを適度に多く含んだ原始大気は、現在の金星の大気を説明するのには都合がよいが、地球にとっては、都合が悪い。したがって、地球だけ大気を効率良く吹き飛ばす何らかのメカニズムが必要である。そこで、惑星表面の海の存在に注目する。巨大天体衝突時に海が存在すると、海が蒸発することによって大気の大規模散逸が起こる可能性がある。本講演では、海が存在する時の大気散逸量を計算し、海が存在しない場合と比較し、現在の金星・地球大気の違いをどこまで説明できるか議論をする。
  • 小野瀬 直美, 藤原 顯
    p. 17
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    低密度の小惑星上における衝突によるレゴリス形成過程を考えるために、空隙率が63%の石膏ターゲットに直径7mmのナイロン球を4.3km/secで衝突させ、高速度カメラを用いて破片速度を測定した。速度が測定されたのは0.02g以上の全ての破片、および0.0003g以上の破片のうちの約半数である。また、本実験において測定可能な破片速度は0.1から200m/sであり、小惑星上のレゴリス形成を論じる上で必要かつ十分である。各破片がターゲット表面を離れた時刻が破片の軌跡から求められた。この放出時刻をもとに、全破片は早期放出破片群と後期放出破片群(以降早期群、後期群と呼ぶ)の2つのグループに分けることができる。早期群の破片のうち大きなものはSpall破片であることが回収破片との対照から確認された。また、その速度-質量分布はNakamura and Fujiwara (1991) で示された衝突破壊における表面破片の速度質量分布と似た分布を示す(図.1)。一方で、後期群は速度-質量分布のグラフのうち、遅くて小さい領域に集中する。これらの破片群は、ターゲット表面とほぼ垂直に、クレーターのボウル部分から放出されており、その数は観測した全破片のうちの9割に上る。この遅くて小さな後期群はクレーター形成でのみ見られるもので、クレーターの底が抜けてしまう完全破壊時には見られない。画面上で得られた破片面積から求めた破片の質量分布を0度の衝突に関して足し合わせたものを図.2に示す。早期群と後期群は-0.3および-1.6という、異なったべき係数を持つ。衝突クレーター形成時の破片質量分布に見られる『折れ曲がり点』は、これらの破片群の重なり合いで説明できる。
ポスターセッション1 10/8(水)15:45~17:00
  • 平岡 賢介, 吉川 賢一, 荒川 政彦, 中村 昭子
    p. 20
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    岩石を含む擬似氷地殻へのクレーター形成実験を行い、岩石含有率や衝突速度と、クレーターの破片の速度との関係等について調べ、Melosh(1983)のモデルとの比較を行った。
  • 荒川 政彦
    p. 21
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    氷惑星・氷衛星の衝突集積過程は、その物理的素過程である衝撃波の発生と伝播及び破壊過程の研究を通して理解することが重要である。天体の衝突時には、破壊・合体・再集積等の現象が起こるが、このうち実際に起こる現象は、天体の衝突物性に大きく依存する。特に天体内部での衝撃波の減衰過程は、破壊の程度や破片速度を決める重要な物理過程である。これまでこの減衰過程は氷や岩石等の単物質で調べられているが、現実の氷天体は氷と岩石の混合物であると考えられる。そこで、大きく衝撃インピーダンスの異なるこれらの成分からなる混合物中を衝撃波がどのように減衰するかを調べる必要がある。本研究では、この衝撃波の減衰過程に対する岩石混合の効果を調べるため氷・岩石混合物の高速度衝突実験を行った。
     衝突破壊がカタストロフィックに起こる場合、試料表面から飛び出す衝突破片の飛翔速度は自由表面での物質速度とみなすことができる。そこで試料の表面速度(vs)を観測することにより物質速度の減衰の様子を調べた。また、物質速度がバルク音速より小さい場合、衝撃圧(P)は、P=ρC0vs/2(ρ:密度, C0: バルク音速)で見積もることができるので衝撃圧力の減衰過程も知ることができる。
      氷・岩石混合物試料は空隙のない均質な構造をしており、氷粒子と蛇紋岩粉末を1対1の質量比で混合して作成した。試料はサイズ15mmから30mmの立方体で、この試料に二段式軽ガス銃により加速したサイズ1.6mmのナイロン弾丸を速度3から4km/sで衝突させた。破壊の様子は高速度カメラにより撮影し反対点速度と衝突面でのエッジ速度を求めた。実験後の試料は回収してサイズ分布を計測した。解析の結果、衝突面でのエッジ速度は反対点速度の4から1.5倍の速度になることがわかった。試料サイズが大きくなる程この比が大きくなることから、圧力の減衰が衝突点から遠方になる程大きくなることが予測される。また反対点速度は、試料サイズと-2.5のベキ乗の関係にあり、これを衝撃圧に換算すると圧力も距離の2.5乗で減衰していることになる。
  • 佐藤 潤一, 中本 泰史, 三浦 均
    p. 22
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    コンドリュールを形成するためのメカニズムのひとつに衝撃波加熱モデルがある。最近、このモデルは精力的に研究されており、形成されるコンドリュールのサイズ分布などが、このモデルを用い予言されている。コンドリュールの最小サイズは、ダストの蒸発の観点から評価されている(Miura et al. 2003)。一方、コンドリュールの最大サイズは、液滴の表面張力と高速流の動圧のバランスから大まかに見積もられている(Susa & Nakamoto 2002)。しかし、分裂など非線形現象まで含んだコンドリュールの最大サイズの評価は、まだ十分に行われていない。そこで我々は、この現象を数値シミュレーションにより理解することを考えている。その一歩として、今回我々は非圧縮SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)コードを用いて高速流にさらされた液滴の変形と分裂のシミュレーションを行った。なお今回のシミュレーションは、簡単のため2次元とした。このコードは、液滴表面に働く表面張力の作用も含んでおり、表面張力による液滴の振動を正確に再現できる。我々は、このコードから液滴の変形と分裂に対するウェーバー数依存性を確かめた。将来、我々は以上の結果を衝撃波加熱によるコンドリュール形成問題におけるサイズ分布の定量的な解析のために用いる予定である。
  • 門野 敏彦, 杉田 精司, 松井 孝典
    p. 23
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    最大エネルギー15Jのパルスレーザー(YAG)を使ってシート状飛翔体の加速を行った。この飛翔体を衝突させることにより衝撃波を試料中に発生させ、試料のユゴニオ状態方程式の計測を行った。
  • 西口 克, 上田 康平, 豊田 岐聡, 石原 盛男, 大竹 真紀子, 杉原 孝充, 交久瀬 五雄
    p. 25
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    惑星探査において,大気や表面物質の元素組成,元素の同位体存在比はその星の起源や進化を知る上で重要な情報である.質量分析装置は試料の元素組成や同位体比の測定に適しており,惑星探査機搭載用の観測機器として利用価値は大きい.現在我々のグループでは,将来の月・惑星探査機への搭載を目指し質量分析装置の開発をおこなっている.質量分析装置の種類には同位体比測定に対する定量性のよい磁場型を採用し,消費電力に配慮し永久磁石を用いることとした.永久磁石を用いる場合,検出器の前にコレクタースリットを置き加速電圧を掃引する分析計タイプと,検出器に位置検出器を用いる分析器タイプに分かれるが,広い質量範囲のイオンを同時検出可能である点で定量性の向上に優位である分析器タイプを選択し,Mattauch-Herzog型イオン光学系での設計をおこなった.Mattauch-Herzog型では二重収束点が一直線上に並ぶため,この直線上に位置検出器を置くことにより広い質量範囲を分解能を落とすことなく同時に検出することが可能である.今回,将来の月探査機への搭載を目指し装置の性能を設定した.測定対象に極氷や,クレーター岩石中の希ガス,レゴリス中の希ガスなどを検討しており,HからArまでの測定を考え質量範囲を1から50uとした.質量分解能はHeの同位体比測定が可能であるように500と設定した.サイズは200×150×100mmとし,重量を3kg以下とする.以上のコンセプトにより,ラボラトリモデルを設計,製作した.装置は,イオン源,電場,磁場,位置検出器から構成される.今回,測定質量範囲を1から50uとしているが,磁石の大きさ,検出器の大きさ等の問題があり,一度に検出する質量範囲を7倍とし,加速電圧を変化させることで質量範囲を切り替える方法を採用した.イオン源には,電子イオン化EIイオン源(JMS-HX110用,日本電子(株))を用いた.電場は縦方向の収束性を考慮して球面電場とした.電場半径は50mmであり,電極間隙は10mmである.永久磁石には,NEOMAX(39SH,住友特殊金属(株))を用い,脱ガスに配慮して表面にTiイオンプレーティングをほどこした.ヨーク,ポールピースには低炭素鋼SS400を用いており,磁束密度は0.57T,磁極間隙は4mm,有効磁場半径が25から75mmである.位置検出器には,蛍光体を塗布したファイバオプティクプレート(FOP)がカップリングしてあるマイクロチャンネルプレート(MCP)(F4301-04,浜松ホトニクス)を用い,蛍光板の発光をCCDにより検出するシステムを採用した.MCPアッセンブリのサイズは55×8mmであり,蛍光体材料はP46である.MCP,CCDともに二次元の検出が可能であり,検出感度の向上に配慮している.また,焦点合わせの調整のために検出器の移動機構を設けた.まず,真空容器の外に光学レンズ系を介してCCD(S7010-1007,浜松ホトニクス(株))を設置し,残留ガスの2次元スペクトルを得た.CCDのサイズは25×3mmである. CCDの駆動および制御には,CCDマルチチャンネル検出器ヘッド(C7021,浜松ホトニクス(株)),MCDコントローラー(C7557,浜松ホトニクス(株))を用いた.m/z=28のピークの半値幅で,質量分解能200が得られている.次に,FOPとCCDの間での光の反射の影響による分解能の低下を改善するため,FOPの後段にCCD(S7175,浜松ホトニクス(株))を直接カップリングした.CCDは,MCPアッセンブリのサイズに適合したもの用いるため,CCD駆動回路系,およびデータ取得システムをPCIボードを用いて開発した.発表では,外付けCCDのスペクトルと,直付けCCDでのスペクトル,および装置の性能評価の詳細を報告する.
  • 西原 説子, 猿楽 祐樹, 石黒 正晃
    p. 26
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    67P/Churyumov-Gerasimenko短周期彗星は、ROSETTAミッション(ESA,2004年打ち上げ予定)の探査候補天体である。この彗星は2002年8月に近日点を通過後、北半球から観測好機を迎えた。我々の研究グループでは、木曽105cmシュミット望遠鏡、ハワイ大学2.2m望遠鏡を使って2002年9月9日から2003年6月4日にかけて可視撮像を実施した。観測した波長域はRバンドとBバンドである。
    観測の結果、67P/Churyumov-Gerasimenko短周期彗星の周囲には比較的大きなサイズのダストが多いことが分かった。本研究では、撮像した輝度分布を説明するために、彗星から放出されたダストの軌道進化を数値シュミレーションし、比較・検討を行った。その結果について報告する。
  • 平敷 兼貴, 栗田 敬
    p. 27
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    MGSから得られた火星重力場をもとに、その地殻やプレートの構造を見積もった。
  • 高木 靖彦, 長谷川 直, 寺元 啓介, 矢野 創, 安部 正真, 山本 聡, 杉田 精司
    p. 28
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    衝突クレーター形成過程において、サイズ等を支配するパラメーターが、標的が岩石等の場合は物質強度、標的がレゴリス等の場合は表面重力であることは様々な研究により明らかにされている。しかし、標的がレゴリスでかつ表面重力が微小な場合に、どのようなパラメターにより支配されるかは明らかでない。このような領域でのクレーター形成過程を定量的に明らかにすることは、小惑星の表面進化過程を研究するうえで重要である。今回我々は、落下カプセルを用いた微小重力環境下でのクレーター形成実験を行ったので、その結果を発表する。
  • 坪井 大樹, 古磯 美沙, 金子 竹男, 小林 憲正, 高野 淑識, 広石 大介, 池田 秀松, 春山 純一, 大竹 真紀子
    p. 29
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    月にはこれまで多くの彗星が衝突したと考えられ,月に水(氷)の存在する可能性が議論されてきた。一方,彗星中には種々の有機物が存在し、その多くは難揮発性の複雑な有機物であると考えられる。これらの有機物が月との衝突の際の分解を免れれば,現在も月上に存在する可能性が考えられる。この場合,彗星起源の有機物は月探査の重要なターゲットとなる。我々は、月のレゴリス環境下での有機物の反応(生成および分解)を調べ、これらの有機物の存在の可能性を検討している。
    本研究では、過去の衝突によりもたらされた彗星有機物、あるいは月面上で生成した有機物の安定性について考察した。今回はアミノ酸の形態と環境による安定性の違いについて調べた。調べたパラメータは,i) 遊離か結合型(タンパク質・模擬星間物質に陽子線を照射したもの)か,ii) 模擬月レゴリスを加えたか否か,iii) 凍結乾燥により水を除いたか否か,などである。試料はPyrex管に封入し,室温,または液体窒素温度で東大原子力総合研究センターの60Co線源からのγ線を照射した。照射試料を酸加水分解後,アミノ酸分析計(Shimadzu LC-10A)を用いてアミノ酸の定量を行い,安定性を比較した。
    凍結乾燥しないで照射した場合,遊離型アミノ酸よりも結合型アミノ酸の方が,また,レゴリスが存在した時の方が安定であった。一方,凍結乾燥した状態で照射したものは,15kGyまでの照射ではいずれもほとんど分解が検出されなかった。このことは,彗星などにより月に持ち込まれた後,水が昇華した場合,有機物は月面上で極めて安定に存在しうることを示唆し,これらが月探査のターゲットとなりうることを示唆する。
  • 松山 浩子, 伊藤 洋一, 豊田 英里, 佐藤 文衛
    p. 30
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    現在までに見つかっている系外惑星のうち、連星を母天体にしているものは少ない。連星系内で、惑星は安定に存在できないと考えられていたからであるが、近年の研究から軌道半径の大きな連星系内で惑星は安定に存在することがわかった。現在までに見つかっている系外惑星のうち、連星を母天体にしているものは少ない。連星系内で、惑星は安定に存在できないと考えられていたからであるが、近年の研究から軌道半径の大きな連星系内で惑星は安定に存在することがわかった。(Holman & Weigert 1999) 一方、連星系では惑星を持っている恒星の方が高い金属量を持つ可能性が高いと考えられている。 そこで連星系に着目し、岡山天体物理観測所の可視高分散分光器HIDESを用いて、金属量の概算とドップラ─シフトによる系外惑星探査を行った。 今回の結果は、3組の連星系に注目して行われたドップラ─シフト観測の3回の観測結果である。今後継続的な観測を行い、また、観測天体の数を増やし広範囲のドップラ─シフト観測を行っていく。
  • 斎藤 靖之, 疋田 肇, 横田 康弘, 白石 浩章, 田中 智, 水谷 仁
    p. 31
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    月における熱流量観測は、Apollo15・17号着陸地点において、共に月の海と高地の境界付近で行われた。そのような場所ではmegaregolithの厚さが海側と高地側で大きく変化していると考えられている。Warren and Rasmussen (1987) はmegaregolithの熱伝導率は極めて低いため、熱流量がmegaregolithの厚い高地側から薄い海側へ集中し、そのためmegaregolithの厚さの変化がApolloミッションの熱流量観測に大きな影響を与えたことを指摘した。しかし月の表面熱流量は、レゴリスの厚さ変化だけでなく、地形の変化や熱生成放射性元素にも影響される。本研究は数値計算によってこれらがApollo15・17号での熱流量観測に与えた影響を調べることを目的としている。本研究では月の地殻中において、UやThなどの熱生成元素が次の式になると仮定した。C(h) = Co exp (-h/D) ここでhは深さ、Coは表面での存在度、Dは熱生成元素の上部集中度を示すSkin Depthである。計算の結果、表面熱流量への地形とmegaregolithの厚さ変化による影響は、観測値から10-50%の変化をもたらしていることが明らかになり、Apolloミッションの熱流量観測からその地域の代表的な値を求めるためには、大きな修正を行わなければいけないことがわかった。修正された熱流量値をApollo15号と17号地点において比較した結果、Skin Depth Dの値は20-40kmであることがわかった。この値は地球での値、D=10km(Lachenbruch, 1970)よりも十分大きい。Dの値が大きいということは、incompatible elementsの分布が地球よりも一様であることを意味している。これは、月の地殻は大量に、かつ急速に生成されたことを示唆する。
  • 沢辺 頼子, 松永 恒雄, 六川 修一
    p. 32
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では2005年に打ち上げ予定のSELENEに搭載されるマルチスペクトルセンサMI(マルチバンドイメージャ)、ハイパースペクトルセンサSP(スペクトルプロファイラ)を対象としている。これらのマルチスペクトルセンサの広刈幅データとハイパースペクトルセンサの測線データから推定できる様々な月表面の特徴を組み合わせ、詳細な地質を自動的にマッピングする手法の開発が目標である。今回は、マルチスペクトルセンサであるMIから得られる画像を想定し、同様にマルチスペクトルセンサであるClementine画像を用いて地形的特徴の抽出と分光情報を用いた岩相分類を試みた結果を報告する。月表面の最も特徴的な地形はクレータである。クレータの存在密度を把握することにより、その地形の形成年代に制約を与えることができる。またクレータ内やエジェクタの構成物質を分類することにより、その場所の地殻鉛直構造に関する情報が得られる。そこで、本研究ではクレータについての自動抽出を、シミュレーション画像及びClementineUVVIS画像(Full Resolution Clementine UVVIS Digital Image Model)を用いて試みた。これまでのクレーター抽出研究は対象画像に合わせて人の目でパラメータチューニングを行うものが大部分であるが、本研究では完全自動化を実現した。解析手法は、まずClementine画像に対しMNF(Minimum Noise Fraction)変換を行った。前処理としてMNF変換を用いることで、ノイズの影響を減らした画像を作成することができる。その画像に対してエッジ抽出処理を施し、自動閾値法を用いて2値化処理、さらに細線化処理を経てエッジ画像を抽出した。クレーターの抽出にはエッジの抽出精度が大きく効いてくることは沢辺ほか(2003)で分かっている。そのため、エッジ抽出には、エッジの高さとノイズの影響度合いを用いる方法を使用した。この方法は、月の画像のようにエッジが不明瞭である画像に適すると考えられる。以上の手順で作成したエッジ画像に対し、クレータを円であると仮定して円の抽出を行うが、本研究では円抽出にファジィハフ変換を用いた。具体的には、以下のような手法を用いている。連続するエッジ上の3点をランダムに抜き出し、その3点を通る円を推定し、円の中心点候補を得る。円の中心点候補を得ることで、画像にもよるが通常のハフ変換に比べ、計算負荷を100分の1以上減らすことができる。続いて、得られた中心点候補に対し円を描き、その円とエッジまでの距離に基づくメンバーシップ関数を規定して、ファジィハフ変換投票を行う。投票の多い円から順に円抽出を行うことで、複数の円抽出ができる。さらに、得られた円の内部と外部に存在する岩相の分類を分光情報に基づいて行う。最終的にはクレータの中心位置、半径、内部・外部の岩相分類、クレータのタイプ等を自動で得ることができる。以上の手法によりシミュレーション画像では、100%円の抽出が可能であった。クレメンタイン画像では、前回よりもクレータを約80%の確率で抽出することができた。また、さらに分光情報を付加することで、自動クレータ抽出/分類手法を実現した。参考文献沢辺頼子・松永恒雄・六川修一,月表面におけるクレータの自動抽出,2003年地球惑星関連学会合同大会,2003年5月.
  • 木村 淳, 栗田 敬
    p. 33
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    木星の衛星エウロパやガニメデに代表される多くの氷衛星には構造運動の痕跡と見られる地形が数多く残されており,ある時代に表面が更新されたことを示している.地質学的解析によればこれらの地形は拡張性の断層運動によって形成した開口亀裂や地溝帯であると解釈されており,氷衛星の表面活動を理解するためには氷地殻の応力状態とその進化を明らかにすることが重要な鍵となる.氷衛星上では表面拡張を補償するような沈み込み領域や圧縮地形が見られないことから,拡張性地形の存在は表面積の増加すなわち衛星内部の体積増加の現れと言える.氷衛星において考えられる体積変化の要因のうち,地形形成に最も寄与するのは液体H2O層の固化現象であり,特に低圧氷への相変化は大きな体積増加を伴う.従来よりこの過程は表面更新活動の主要因と考えられてきたが,内部の構造進化に伴う地殻応力の発生とその進化といった問題についてはこれまで十分な研究はなされていない.
    液体層の固化によって発生する地殻応力は液体層の固化速度に依存するため,本研究ではまず一般的な氷衛星の内部構造としてシリケイトコアと液体H2O層の二層モデルを仮定し,内部の熱輸送と移動相境界問題を考慮した数値シミュレーションを行った.また氷地殻を粘弾性体球殻としてモデル化し,熱史計算に得られた固化速度を用いて地殻に生じた応力とその時間変化を見積もった.本講演では,氷衛星のサイズや地殻粘性率をパラメタとした地殻応力の計算例について報告する.
  • 柿並 義宏, 渡部 重十, 小山 孝一郎
    p. 34
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    金星電離圏を特徴付ける大きな要因のひとつは固有磁場を持っていないことであろう。そのため固有磁場を持っている地球とは異なり、電離圏は太陽風と直接相互作用をする。その直接相互作用によって引き起こされていると考えられている現象の一つに、電離圏プラズマが局所的に枯渇するホールと呼ばれる現象がある。ホール中心では磁場の強度が強くなるという特徴があることことが知られている。しかしそこで観測される磁力線が金星のどこにつながっているかは詳しくは分かっていない。ホールだけではなく、金星電離圏で観測される磁力線がどのような条件の下、どこに、どのように巻きついているのかも詳しく調べられていないのが現状である。
    本講演では、電離圏において、太陽風圧、磁場強度による磁力線巻きつきの違いを調べる。また、電離圏プラズマの運動が磁力線巻きつきに与える影響を考察する。
    その結果、ホールで観測されるような強い磁場と弱い磁場において巻きつき方に違いは見られず、動圧の強弱の違いに対しても巻きつき方は大きな違いは見られないことが分かった。また、磁場巻きつきに電離圏プラズマの運動の影響と思われる非対称性が観測された。この特徴はホールが観測された磁場で見られる特徴と似ているため、ホールで観測される磁場もホール以外の電離圏で観測される磁場と同様に巻きついていると推測される。
  • 山岸 保子, 柳澤 孝寿, 栗田 敬
    p. 35
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    岩石型天体である、地球、火星、金星を比較すると、その熱的活動の現われでもある表層環境は現在大きく異なっている。各の惑星の大きさや太陽からの位置の違いが、その熱的活動度の違いをもたらす要因であるのは明らかである。しかしより重要な要因はプレートテクトニクスの存在の有無である。地球においては、もちろんその存在は明らかであるが、火星については、過去存在していた可能性は示唆されているものの、現在はプレートテクトニクスの存在はおろか、いかなる熱的活動も見られない。また金星では、その存在を示唆する証拠は無い。プレートテクトニクスの存在の有無は、その惑星の熱的進化に対して極めて重要な影響を及ぼす。このことはプレートの進化が天体の熱史に対し重要な要素であることを示している。本研究ではプレートの成長に従って、天体内部の熱的状況がどのように変化するかを調べる。
    プレートの進化は、天体の内部がその熱をどれだけ効率的に表層へと輸送出来るかによって支配される。しかし、急激に熱が表層へ運ばれると、プレートの進化は阻害されるが、天体内部の冷却はそれだけ急速に進行し、最終的にプレートは大きく成長する。一方で、プレートが順調に成長する場合は、内部の熱輸送率は時間と共に減少し、現在でも内部での熱活動は活発である可能性がある。一度、巨大なプレートが形成されてしまった場合、内部の熱輸送は著しく阻害され、結果、間欠的な熱輸送率の上昇をもたらす可能性もある。即ち、プレート厚と天体内部の熱的活動度は相互に密接な関係を持っており、しかも、プレートの成長率と熱的活動度の低下率が、一概に正の相関を持っているとは言えない。プレートの成長が天体内部の熱的状況を変化させ、かつ内部の熱的状況がプレートの成長を支配する。プレートは、天体が、自らが運べる熱の輸送効率が大きくなるように成長、または退化し、その厚さを自己調節していると考えられる。本研究では、粘性率が温度に依存する場合の対流を考え、単純化する為に対流層上部に出来る伝導層をプレートと捉える。対流の活発度と粘性率の温度依存性の強度、発熱の度合いにより、伝導層厚がどのように変化するか求める。様々な対流でのパラメータスタディを行い、どのような対流の場合に、前述のような自己調節機構が働くのかを調べ、岩石型天体の熱的進化を規定している物理は何かを考察する。
  • 浦川 聖太郎, 伊藤 洋一, 向井 正
    p. 36
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    1995年に初めて太陽系以外の惑星系が発見されて以来、100個を超える系外惑星が発見されている。惑星を持つ恒星の物理量には、何らかの特徴的な傾向があるのだろうか?これまでの研究では、惑星を持つ恒星は金属量が高いと報告されている。本研究では、このような特徴の一つとして、恒星の自転速度と惑星を持つことの関係に注目した。原始惑星系円盤の角運動量の分配先は、惑星を持つ恒星と惑星を持たない恒星の間で次のような違いがある。・惑星を持つ恒星:惑星や小天体の公転運動がもつ角運動量+恒星の自転運動がもつ角運動量+恒星風として散逸する角運動量。・惑星を持たない恒星:恒星の自転運動がもつ角運動量+恒星風として散逸する角運動量。星形成段階での全角運動量はそれぞれの星で異なる。しかし全体として、惑星を持つ恒星の自転速度は、惑星を持たない恒星のものより遅い傾向があると予想される。この考えのもと、惑星を持つ恒星と、惑星が発見されていないG、K型矮星の自転速度分布を2標本検定した。その結果、惑星を持つ恒星は、惑星を持たない恒星よりも自転速度が遅い傾向にあることが分かった。講演ではこの傾向を利用した、効率の良い系外惑星候補天体の選択方法についても報告する。
オーラルセッション3 10/9(木)9:15~10:45
  • 疋田 肇, 水谷 仁
    p. 37
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    月の地殻形成がマグマオーシャン起源であると考えれば地殻の厚さはマグマオーシャンの規模、すなわち月の集積エネルギーが内部を温めるのにどの程度効率的に利用されたかを推定する手がかりとなり、これは月起源を明らかにする上で重要である。そこで本研究では地震学とは独立した観測結果である月地形データ (GLTM2C, Smith et al., 1997)・重力データ (LP165P, Konopliv et al., 2001) を用いてBouguer anomalyから予想される地殻-マントル境界層の起伏を求めた。Apollo計画による地震計測結果が得られて以来長い間、Apollo地震計測ネットワークが取り囲んでいた嵐の海周辺の地殻の厚さは、ほぼ60kmと考えられてきた。これはToksoz et al. (1974) や Nakamura et al. (1982) のPassive Seismic Experiment の総合的解釈に基づくものであり、重力・地形データから構築された過去の月地殻モデル (例えばNeumann et al., 1996; Wieczorek and Phillips, 1998) もこのApollo時代の地殻の厚さを制限としてモデル化されている。しかし、最近の月震データの再解析によるとApollo時代の結果より地殻が薄いとする結果が得られており (例えば45km: Khan and Mosegaad 20002; 30km: Lognonne et al., 2003)、重力・地形データから構築される月地殻モデルもこの新しい制限に基づいて更新されるべきである。重力・地形データから構築された過去の月地殻モデルは、いずれも地殻の密度は一定とされている。しかし月面の可視・近赤外反射スペクトルから表面組成の不均一性は明らかであり、従って地殻の密度も不均一であると予想される(例えばLucey et al., 1998)。そこで本研究では水平方向の密度分布として、Lunar Prospector のg 線観測の結果から得られた月面の鉄の存在度 (Lawrence et al., 2001) に着目した。月試料中の鉄の存在度と試料の化学組成から予想されるノルム密度によい相関があることから、本研究では月面の鉄の存在度と地殻物質のノルム密度の相関を用いて水平方向に分布を持つ地殻密度モデルを構築した。また、月の地震波速度モデルから地殻の密度は深さ方向にも不均一であると予想される。地殻密度の深さ方向の分布は、月岩石試料の弾性波速度の圧力依存性 (例えばMizutani et al., 1974) から空隙率の影響を見積もりモデル化した。
  • 森沢 祐介, 水谷 仁
    p. 38
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    潮汐加熱を取り入れた月の熱的初期進化

    ○森沢祐介(東大・宇宙研)、水谷仁(宇宙科学研究所)

    1.はじめに
    月は形成初期段階では現在よりも地球に非常に近かった。現在は地球からおよそ38万kmの軌道を周っているが、形成初期段階では数万kmの軌道を周っていたと考えられている。月は地球から潮汐力を受けることで発熱しており、その量は地球から遠ざかるほど小さくなる。そのため、形成初期段階では現在よりも非常に大きな潮汐加熱を受けて月は暖められていたと推測される。

    2.目的
    これまで月の潮汐加熱を見積もった研究はPeale and Cassen (1978)によって行われてきた。しかしPeale and Cassenの計算では、月の熱史を見積もる際に月の軌道進化を考慮に入れておらず、地球によって引き起こされる潮汐加熱の効果はさほど重要ではないだろうと結論づけている。そこで本研究は、潮汐加熱は月の軌道進化と内部構造モデルの取り方によって大きく変化するという観点からPeale and Cassen et al. (1978)の結論の見直しを図ることを目的とした。

    3.研究内容
     本研究において行ったことは大きく分けて2つある。
    [1] 月の熱的進化を見積もる際、地球によって引き起こされる潮汐加熱が熱源としてどれくらい効くのかという点を定量的に明らかにする。
    [2] 潮汐加熱には不確定な散逸パラメータと呼ばれるものがあり、それをどう置くかによって結果は大きく変化するので、その依存性を定性的に明らかにする。
    計算方法はPeale and Cassen et al. (1978) およびKawakami and Mizutani et al. (1986)を参考にした。

    4.結果
    本研究において次のことが示された。形成初期段階の月の軌道進化と、取り得る内部構造モデルを考慮に入れて月の熱史の数値シミュレーションを行った結果、潮汐加熱は重要な熱源であり、月の初期熱史を見積もるためには軌道進化を考慮に入れる必要があるだろうということが示された。しかし、潮汐加熱の見積もりは不確定なパラメータの取り方によって大きく変化するので、その依存性についても議論する。

    [Reference]
    [1]Peale, S., and P. Cassen. Contribution of Tidal Dissipation to Lunar Thermal History. Icarus 36, 245-269 (1978).
    [2] Kawakami,S., and H. Mizutani. Thermal history of IO. Icarus 70, 78-98 (1986).
  • 板垣 義法, 荒木 博志, 水谷 仁
    p. 39
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    1969_から_1977年の間のおよそ8年強、アメリカが行ったアポロミッションにおける地震学的観測により、月震の1種類である深発月震に関して多くの特徴が明らかとなった。しかしながら、今日に至るまで深発月震の震源領域における潮汐応力の振る舞いに関しての詳細は明らかにはなっておらず、アポロミッションから30年余を経た現在においても推測の域を出ないのが現状である。
    本研究では、月内部潮汐応力と深発月震との関連性について新たな理論の第一歩を構築するために潮汐応力そのものの振る舞いに注目した。
    潮汐応力の計算はTakeuchi (1950) によって構築されたy関数法を用い、また地球_-_月系の相対的な位置に関しては、Chapront and Chapront (1982) により与えられた高精度を誇る半解析解月暦(ELP2000/82)を採用している。用いた月内部速度構造モデルは、アポロ月震データの解析により得られたNakamura et al.(1982) によるものであり、密度構造はTanaka et al.(1990) を用いている。
    計算された潮汐応力6成分の大きさや振幅は、仮に月の内部構造を固定とした場合でも深さや位置によって異なる。さらに深発月震に関する興味深い事象の1つとして、その震源の深さがおおよそ900km前後に集中していることが挙げられ、この原因の一例としてとして月深部への応力集中も考えられている (Nakamura, 1976)。つまり、震源の空間分布と潮汐応力とを対応させて考える必要があろう。そこで、半径400kmの流体鉄コアからなる月モデルを用いて緯度経度5°刻みで月内部潮汐応力の計算を行い、各震源直下深さ900kmにおける成分のうち最大のものを月面上にプロットしてみると、潮汐応力分布は定性的に6つの領域に区分される。それは、(1) 低経度かつ低緯度の領域、(2) 中経度かつ低緯度_から_中緯度の領域、(3) 高緯度領域、(4) 低緯度_から_中経度かつ高緯度の領域、(5) 中経度かつ高緯度の領域、そして (6) 低経度かつ高緯度の領域、である。この6つの領域ではそれぞれ、σrr, σ, σφφ, σ, σθφ, そして σθθ の各成分が卓越している。これを深発月震の震源分布と照らし合わせると、震源はσrrの卓越する領域とσrφの卓越する領域、特にσ領域に集中しており、これらの成分が深発月震発生に対して支配的なトリガとして働いていると思われる。以上の特徴より、Itagakiら (2003) は、月深部に働く東西方向のテクトニックな応力の存在の可能性を結論付けている。またこの結果は、先に述べた震源の深さ分布を説明することができ、潮汐応力の観点から考えるとコア半径はおおよそ400km以上というかなり大きなものでなければならないことを示している。
    さらに議論を深めるためには、このような区分のみならず各々の領域に存在する震源について潮汐応力との関連性を詳細に調べる必要があると考えた。そこで、6つの領域に関して各々の震源における潮汐応力6成分の計算結果に着目し、それにより潮汐応力の深さ分布を示した上でそれらを比較検討した。その結果、最も震源数の多いσ領域では、その全てが実際の震源深さにおいてもσrφ成分が卓越している。しかしながら、次に震源の集中しているσrr領域では、σrr,成分がトリガであることがはっきりと見て取れる震源も存在するが、この領域に属する半数の月震は深さ1100km以上という非常に深い地点で発生しており、そこではσθθ, σφφといった他の成分が卓越する結果となっている。σrr領域に関して、1000km以深、特に1100kmよりも深い地点で起こる深発月震は、深さ900km前後という平均的な深さで起こる深発月震とは異なったメカニズムで発生している可能性がある。
  • 山本 聡, 和田 浩二, 松井 孝典
    p. 40
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、重力支配域における衝突クレータのスケーリング則について再検討を行った。これまでの重力支配域(重力が重要なスケールやレゴリス層での衝突現象)におけるスケーリング則では、ターゲットの物性や粒子の粒径は、クレータ形成過程においてその影響を無視できると仮定し、スケーリング則が確立されてきた。しかし、実際の実験データをそのスケーリング則に応用した場合、その絶対値はターゲット物性や粒径サイズによって値が変わることが指摘されている。そのため、これらのスケーリング則を実際の天体現象に応用する場合、スケーリング則から導かれる結果が、用いるターゲットのパラメータにおおきく依存するという問題が生じる。これを解決するには、粒径や物性がクレータ形成過程にどのように影響を及ぼすかを明らかにする必要がある。しかし、その基礎過程に対する理解は乏しい。これを明らかにする為に本研究では、粉体層に対する衝突クレータ実験を行った。ビデオカメラを用いて、掘削段階とトランジェント・クレータの形成段階の物理過程について調べた。これらの結果を基にして、トランジェント・クレータに対するスケーリング則について議論する。
  • 佐伯 和人, 秋山 演亮, 中村 良介, 武田 弘
    p. 41
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
     画像分光望遠鏡ALIS(Akita Lunar Imaging Spectrometer)は、月の分光反射率を測定するために開発された望遠鏡である。得られる月画像は、その各ピクセルが380nm~1060nmの連続スペクトル輝度データを持つ。この秋には測定波長がさらに1700nmまで延長される予定である。発表ではALISによる地上月観測技術の現在と、最新の成果データを報告する。 ALISは、国際宇宙ステーション搭載をめざして開発された。軌道上からの長期月観測により、月面反射率モデルを構築し、月面を衛星搭載センサの放射輝度校正のための標準被写体とすることを目的としている。この計画は日本宇宙フォーラムの宇宙環境利用地上公募研究の一環である。ALIS画像は以下の手順で処理される。フラットフィールド補正、ダークフィールド補正、により見かけ相対輝度の正しい画像をつくる。この相対輝度を絶対輝度にするために、恒星ベガの分光撮像データを元に、測光用に公表されている標準スペクトル輝度に変換する係数を各波長ごとに計算し、この係数を月画像に乗じて絶対輝度画像を得る。今回のバージョンでは月観測時とベガ観測時との大気厚さの差の影響が未補正なので、絶対輝度値にはまだ達していない。一方、相対反射率画像を作るためには、太陽入射角・観測角の違いによる見かけ輝度の差を補正するために、測光補正関数でつくたフィルター画像を各波長の月画像に乗算する。これら各段階の処理に必要なALIS用ソフトを開発し、撮影した月画像を処理した。 得られた月および恒星のスペクトルにより、4万箇所以上の月地質特徴を表した相対反射率連続スペクトルデータを得た。また、大気の散乱による像のにじみの波長依存性を定量的に測定した。宇宙ステーションからの月観測では大気はないが、月探査機SELENEの分光データ解析手法の研究や、月上空のSELENEとの同時観測に、地上に設置したALISを使用する計画を進めているため、大気の補正は必須である。今後は、得られた大気散乱のデータ解析や、月面の絶対輝度と相対反射率それぞれから絶対反射率を導き比較することで、月測光モデル精密化を図る。
  • 恩田 靖
    p. 42
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
     月表面における物質の分布を解析する方法の一つとして、可視・近赤外波長域におけるマルチバンド画像解析が挙げられる。観測される月の反射スペクトルは観測の位相角に応じて変化し、さらに反射光強度の位相角依存性を表す位相関数にはスペクトルタイプ依存性がある。これらはマルチバンド画像解析によって月面の組成・表面状態を推定する際に障害となる。
     過去にClementine探査機により撮影されたUV-VIS画像の観測幾何学補正法は幾つか発表されている。特にClementineサイエンスチームが発表した補正式(McEwen et al., 1998)が広く受け入れられている。しかし、位相関数の鉱物依存性、宇宙風化依存性、地質依存性等のスペクトルタイプ依存性は課題として残されている。
     Clementine探査機の画像データから、スペクトルタイプ依存性を考慮した位相関数を求める方法が確立された(横田2002)。この方法では、3つの観測バンド(415nm, 750nm, 950nm)において自己組織化マップ(Self-Organizing Map)と呼ばれるクラスタリング法に従い、月面を9個の領域に自動分類している。その分類の妥当性はUSGS地質区分図及びルナプロスペクタの元素存在度データを利用して確認された。その後、Clementine画像データベースから同一月面を異なる位相角で観測したデータを用いて各グループに対し、3つの観測バンド毎に0°から30°までの範囲で位相関数を求めている。この結果、スペクトルグループ毎に位相関数を用いて補正を行う事で、月全面における化学組成の推定が従来よりも正確に行えるようになった。
     本研究では月面レゴリスを模擬した試料を作成し、その試料からスペクトルタイプ依存性を含めた位相関数を測定する。試料は自己組織化マップによる分類 (横田2002)に適合する鉱物組成で作成する。作成した試料の反射スペクトルは、入射出角を自由に変えることができる可変角反射測定装置を用いて測定する。この測定により各試料について連続した観測波長に対する詳細な位相関数を求める。さらに、求めた位相関数の中で位相角範囲が15°から30°かつ観測バンドが415nm、750nm、950nmであるものに関してClementineデータから得られた結果(横田2002)と比較し、本研究の妥当性を確認する。本研究による測定が妥当であれば、異なる観測バンドや30°以上の位相角に関しても実験的に位相関数を求めることができるようになる。
オーラルセッション4 10/9(木)11:00~12:30
  • 春山 純一, 大竹 真紀子, 松永 恒雄, LISM ワーキンググループ
    p. 43
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    本講演では、月周回探査機SELENEに搭載されるLISMの開発状況ならびに、初期成果論文の検討状況を発表する。
  • 大竹 真紀子, 春山 純一, 松永 恒雄
    p. 44
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    月面撮像/分光機器(LISM)は2005年打ち上げ予定の月周回衛星SELENEに搭載される観測機器である。マルチバンドイメージャ(MI)は、LISMを構成する3つのセンサのうちの1つであり、他の2つのセンサ、地形カメラ(TC)やスペクトルプロファイラ(SP)と共有の電気回路を持つ。MIは高度約100kmの軌道から可視・近赤外波長域合計9バンドの月面分光撮像データを高空間分解能、高S/Nで取得し、月全球の鉱物分布を知ることによって、月の起源と進化を明らかにすることを目標としている。MIデータを用いた解析目標のうち最も重要なものの1つがクレータ中央丘であることから、本研究においてはクレータ中央丘を例とし、製作および光学性能試験がほぼ終了したMIフライトモデルのハードウェアについて実際の観測を想定した性能評価を行うとともに、MIデータから得られる研究成果について考察を行った。具体的な手順は以下のとおり。1)ある中央丘における月面反射率(ただし位相角関数については中央丘内で一定とする)を仮定する、2)MIによる中央丘の観測条件(太陽高度、蓄積時間等)を仮定する、3)本地域を観測した場合に得られるMI画像を光学性能試験の結果(S/N測定値、画像のぼけ具合の指標であるMTF測定値等)をもとに求める、4)3)で求めたMI想定画像とクレメンタイン中央丘画像を比較し、考察を行う。評価の結果、MIフライトモデルは実際のデータ解析のために要求されるS/NやMTF等の性能を十分に達成しており、これまでに同様の月面分光画像を取得したクレメンタインによる観測データと比較して格段に質のよいデータが得られ、科学的意義が大きいことが確認できた。また同時に、観測データの質において重要な補正・校正項目の洗い出しを行った。今回の発表ではMIデータの解析目標とともにMIハードウェア・ソフトウェアの開発状況についても紹介する。
  • 秋山 演亮, 佐伯 和人
    p. 45
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    今後増えると考えられる、月や小惑星など固体天体への着陸探査では、岩石表面をマクロ分光観測し、サンプルの一次分析を行う手法が重要となる。岩石組織を見るために表面はある程度平滑化する必要があるが、どの程度の平滑化が必要かに関しては、まだ検討が進められていない。我々は、鉱物表面の粗さを調整し画像分光を行うことにより、表面の粗さが分光反射率に与える影響に関して実験を行った。これにより必要となる平滑度合いを調べ、(粉体ではない)”固い”表層を持つ物質の表面粗さと分光特性の関連を調べた。
  • 佐々木 晶, 加藤 学, SELENE-B サイエンスチーム
    p. 47
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    月の起源・進化の解明の上で、月を構成する物質の起源の解明のために、月面での直接探査が不可欠である。理学と工学の研究者が協力して、月面での無人ローバ直接探査の検討を行ってきた。月の起源・進化の研究において、地殻形成・火成活動の初期と最終段階はまだ未解明である。そのため、クレータ中央丘の物質を直接観測することで、月の地下物質の組成を同定し、マグマオーシャンからの成層構造形成モデルに制約を与える探査、海の玄武岩火成活動の後期に進行した火山体形成を調べることで、マグマ進化の最終段階の情報得る探査が重要である。SELENE‐B 計画へのローバ搭載を目指して、シナリオ検討、科学機器開発を行っている。月の起源・進化の解明を目指して、SELENE 計画がはじまり、極軌道衛星による月全体のリモートセンシング探査が行われる。しかし、月を構成する物質がどのように形成されたのかを知るためには、月面での直接探査が不可欠である。我々は1年半前より、理学と工学の研究者が協力して、ローバを使った月面での無人直接探査の検討を行ってきた。これまでにクレータ中央丘探査による初期地殻・マントル物質の探査が重要であるという結論に達した。月の起源・進化の研究において、地殻形成・火成活動の初期と最終段階はまだ未解明である。クレータ中央丘の物質を直接観測することで、月の地下物質の組成を同定し、マグマオーシャンからの成層構造形成モデルに制約を与えることができる。月面探査で着陸船(ランダ)だけによる探査を行う場合は、表面試料の直接観察対象はアームなどを使用したとしても、周囲数 m が限界である。ローバを利用すると、広範囲の目標に対し、物質科学的特徴を知るための 1次分析、サンプルの採取が可能である。ランダのみの探査や有人探査が困難な地域(影、急傾斜地、崩壊地)の探査が可能になる。詳細分析が必要な場合は、ランダに戻り高感度・精度の分析機器を使用したり、さらにサンプルリターンを行えばよい。特にローバ・ランダの直接交信による高いデータ輸送量を保つためには、ローバの移動距離が数 100m 程度に制限されるため、ローバ・ランダの協調ミッションが現実として重要になる。いずれにせよ、月・惑星探査の将来ビジョンではサンプルリターンは重要な目標となる。その基礎技術としてローバは不可欠である。
  • 杉原 孝充, 佐々木 晶, 佐伯 和人, 岡田 達明, ローバサイエンス チーム
    p. 46
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    月面無人地質探査SELENE-Bで目指すサイエンスとサイエンス目的を満足する着陸候補地点の選定について議論する。
  • 岡田 達明, 杉原 孝充, 佐伯 和人, 秋山 演亮, 大竹 真紀子, 佐々木 晶, 長谷部 信行, 國井 康晴, 久保田 孝, 白井 慶, ...
    p. 48
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    次世代の月惑星着陸探査をになうピンポイント軟着陸や自律制御ローバ技術などの実証を目指して、月着陸実験セレーネB計画が工学試験ミッションとして提案されているが、月クレータの中央丘に露出する深部物質を採取し、その場で分析する地質探査が検討されている。本報告ではその観測機器候補の検討について述べる。このミッションではランダからの分光撮像やローバでの多色撮像で路頭の特徴を調べ、また採取試料の選定を行う。ガンマ線分光により、ローバ走行経路に沿った放射線元素濃度の分布を調査する。採取した試料を顕微撮像やX線蛍光・回折等の分析を行うが、表面に付着した塵の除去や切断、研削を行うことで試料内部の組織まで調べることを目標にする。観測機器のシステム構成案についても考察した結果を述べる。
ポスターセッション2 10/9(木)13:30~14:45
  • 高田 昌和, 香内 晃, 荒川 政彦
    p. 49
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
     コンドリュールの形成機構を解明するためには,コンドリュール形成時の物理条件をおさえることが重要である.これまでに,加熱温度,加熱時間,冷却速度などは推定されているが,コンドリュールの運動や空間密度に関する情報は少ない.そこで,本研究では複合コンドリュールに着目し,実験的にコンドリュールの変形度合いを調べ,それをもとに天然のコンドリュールの相対運動速度の推定を試みた. 赤外線集中加熱炉内でコンドリュール模擬物質を加熱し(1400-1700度C),グラファイト平面に0.41-0.75 cm/sで衝突させる実験を行った.衝突したコンドリュールはグラファイト平面上で変形して冷却・固結した.衝突変形したコンドリュールの扁平率を測定し,扁平率の衝突速度・加熱温度依存性を調べた. 1600度C以上では,コンドリュールの扁平率は温度と衝突速度に依存することがわかった.扁平率は衝突速度とともに増加し,また,速度が一定の場合,扁平率は温度とともに増加した.1600度C以下では,コンドリュールの扁平率は温度と衝突速度に依存せず一定であった. 以上の結果をもとに,天然の複合コンドリュールの扁平率と,実験で衝突変形したコンドリュールの扁平率を比較して,天然のコンドリュールの衝突速度を推定した.その結果,天然の複合コンドリュールは,温度が1600-1700度Cの場合,0.5-3 m/sの速度で衝突して形成されたことが明らかになった.この結果をもとにコンドリュール生成時のコンドリュールあるいはコンドリュール前駆物質の空間密度を推定すると,10^-3から10^-4 cm^-3であることがわかった.このような大きな空間密度を原始太陽系星雲内で実現することは困難である.
  • 森脇 一匡, 中川 義次
    p. 50
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
    観測によれば、連星を取り囲むようなガス・ダスト円盤(周連星円盤)がみつかっている。このような円盤から惑星が形成される可能性に着目し、微惑星が集積されるための条件を調べた。連星系まわりをめぐる微惑星は、連星に近いほど大きな摂動を受ける。そのため微惑星間の相対速度が大きくなり、脱出速度を越えると集積が不可能となる情況が生じうる。本研究では、連星をめぐる微惑星の運動を数値計算し、微惑星の速度分散が脱出速度を越える最遠の軌道長半径を明らかにした。数値計算の結果、連星間距離を1AU、連星の離心率を0.1とした場合、連星の重心から13AU以内の領域では、集積の妨げられることが分かった。また、微惑星が合体成長可能な外側領域において、励起される微惑星離心率の解析的表式を得た。
  • 佐々木 貴教, 阿部 豊
    p. 51
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/06/02
    会議録・要旨集 フリー
     ここ数年、Hf-Wの放射壊変を用いた年代測定法が、年代測定の新しい手法として注目されている。Hfが親石性、Wが親鉄性であり、かつ共に難揮発性の元素であることから、メタル・シリケイト分離の年代を表す時計として用いることができるためである。実際この年代測定法によって、地球のコア形成年代の推定等がいくつかのグループによってなされてきた。 しかし、メタル・シリケイト分離に大きな影響を与えたと思われる Giant Impact イベントについては、一回の Giant Impact で完全に年代がリセットされるとして議論をしている研究が多い。そこで本研究では、Giant Impact による部分的なリセットが年代測定に与える影響、特に複数回の Giant Impact が起きた場合に、いったい年代が何を表しているのか、何が制約されるのか、といった問題について検討した。また、Giant Impact によって実際に得られる平衡化の割合を見積もった。 その結果、Giant Impact の回数とその平衡化の程度が分からなければ、Hf-Wシステムを用いて地球のコア形成年代を決定することはできないこと、および実際に大きな平衡化・時計のリセットを引き起こすのは容易ではないことが分かった。特に後者については、現在の惑星形成論に対して再考を促す結果である。
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