日本調理科学会大会研究発表要旨集
2021年度大会(一社)日本調理科学会
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特別企画 次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理 ポスター発表
  • 津田 和加子, 會田 久仁子, 加藤 雅子, 中村 恵子, 阿部 優子, 福永 淑子, 栁沼 和子
    セッションID: P-k7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】福島県内における伝統的家庭料理の中から、年間行事および冠婚葬祭に供される食をまとめ、その特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】本県は地形上、浜通り地方、中通り地方、会津地方と大きく区分される。平成24年度から26年度にかけて、その地域に30年以上居住する総30名を対象とし、12名の調査協力者をもって聞き書き調査を実施した。また、その後に調査した結果も加えた。

    【結果】正月料理で、福島県全域で共通するものとして、「いか人参」「ひたし豆」「ごぼうのきんぴら」が見られた。また、地域ごとに多彩なもち料理が供される。会津では、「こづゆ」の他、棒たらや身欠にしんを使った料理がある。雑煮は、切り餅を用いた醤油味であるが、浜通り北部ではいもがらを、中通り北部では凍み豆腐(凍り豆腐)を、会津では干し貝柱などと、乾物を加える特徴が見られた。1月3日には、県内全域で、「三日とろろ」が食されている。端午の節句には、浜通りでは「柏餅」が、中通り、会津では「ちまき」「つの巻き」と呼称が異なるが、もち米の笹巻きが盛んに作られる。お盆や秋の彼岸、月見には、枝豆をすりつぶした「ずんだ」を用いたもち、だんごがある。「冬至かぼちゃ」は、かぼちゃと小豆を一緒に甘く煮て仕上げている。祭礼料理では、相馬野馬追の「かつおの焼きつけ」、二本松提灯祭の「ざくざく」、会津田島祇園祭の「棒たら煮」などがあり、古い歴史を持つ地域ならではの特徴がみられた。仏事では「白ふかし」「切り昆布の煮物」が県内全域で、「まんじゅうの天ぷら」が会津で供されている。総括すると、浜通りでは鮮魚を、中通りでは河川や湖沼による淡水魚を、会津では乾物の魚介類を使った伝統的な行事食が残されていた。

  • −23区、都下、島しょにおける行事食の特徴−
    成田 亮子, 赤石 記子, 伊藤 美穂, 色川 木綿子, 宇和川 小百合, 大久保 洋子, 香西 みどり, 加藤 和子, 佐藤 幸子, 白尾 ...
    セッションID: P-k8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】平成24,25年度特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」に基づき、昭和35〜45年頃に食べられていた東京都における家庭料理について聞き書き調査を実施し、次世代に伝え継ぐ家庭料理における行事食の特徴を検討した。

    【方法】東京都23区(台東区・世田谷区・中野区・杉並区・品川区・板橋区・練馬区)、都下(日野市・奥多摩町)、島しょ(新島・式根島)の3地域に分け、70歳以上の都民を対象に、家庭料理を聞き書き調査した。その結果より正月、節分、桃の節句、端午の節句、七夕、お盆、土用、お彼岸、月見、七五三、大晦日などの行事食について抜出した。

    【結果・考察】正月は雑煮が食べられていたが、23区と都下でも地域によって食材が異なり特徴がみられた。お節料理では、黒豆、紅白なます、昆布巻き、数の子、きんとん、田作りなどが重詰めにされて食べられていた。節分では23区でイワシの焼き魚、煎り豆、都下で福茶が飲まれていた。桃の節句では蛤の潮汁、ひなあられ、端午の節句では島しょでしょうぶ、いももち、お彼岸ではぼたもちの他に、都下で海苔巻きずし、いなりずしが食べられていた。お月見では月見団子の他に島しょであおやぎ、七五三では都下で、とりの子餅、大晦日では23区で年越しそば、すき焼きなども食べられていた。不祝儀や仏事では23区で白和え、島しょでひら、忌明けだんごが食べられていた。ひらは祝儀と不祝儀で盛り付け方を区別して用いていた。東京23区、都下では行事食で食べられているものは現在と変わらないものが多かった。島しょでは特徴があるものがみられた。聞き書き調査を行い、昭和35年ごろから現在まで行事食は変わらず受け継がれていることが分かった。

  • −年中行事・儀礼等を中心に−
    櫻井 美代子, 大越 ひろ, 増田 真祐美, 河野 一世, 津田 淑江, 大迫 早苗, 酒井 裕子, 清 絢, 小川 尭子
    セッションID: P-k9
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】 

     次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理を掘り起こすことを目的とする。今回は神奈川県で行事においての特徴を明かにしたい。

    【方法】 

     神奈川県内の地域、横浜市中区・泉区・多摩区・鎌倉市・三浦市・横須賀市・大和市・相模原市・伊勢原市・秦野市・小田 原市・大磯町・山北町・真鶴町・清川村・藤沢市・綾瀬市等を中心に、その土地で生まれ育った方、嫁いでこられた年配者 の方に、1960年代頃の食生活について聞き取り調査を行った。調査結果から、行事にかかわる料理をまとめ、市史類からの文献 による補足調査も行った。

    【結果】 

     神奈川県での、行事時の食関係をみてみると、年中行事の正月には、雑煮など、なかには、暮れに打ったそばを正月まで食した地域や、正月にうどんを食する地域もみられた。一月七日、小正月には、それぞれ粥類が用いられ、どんど焼きには、繭玉など作られていた。端午の節句には、柏餅が蓬を用いていた地域もみられた。そのほか、仏事のお盆や彼岸で、ぼたもちや、酒饅頭などがみられた。また、人生儀礼の葬儀では、高齢者の場合、長寿を祝う意味から、祝い事と同様に赤い色の赤飯や白いおこわにささげ又は小豆を加えたものを配る習慣がみられた地域によっては、えびす講・稲荷講などもみられた。氏神様を祀る祭りでは、太巻きや赤飯がつくられる地域もある。それら料理などは、行事以外でも人寄せや来客時に用いられる料理もみられた。それらの料理に使用された食材は、特別な時に用意する品もあるものの、その地域でその時期に手に入る食材や品でそれらの料理のほとんどを賄われることが多かったのが特徴といえる。

  • −豊かな自然と農に寄り添った料理−
    駒場 千佳子, 加藤 和子, 河村 美穂, 木村 靖子, 島田 玲子, 土屋 京子, 徳山 裕美, 名倉 秀子, 成田 亮子, 松田 康子
    セッションID: P-k10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会特別研究平成24〜25年度「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」の調査を通して,昭和30-40年代の行事食の特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】東部低地:加須市,北足立台地:さいたま市,比企:東松山市,大里・児玉:熊谷市,入間台地:日高市,入間山間部:飯能市,秩父山地:秩父市,川越商家:川越市の8地域9か所で、対象者は食事作りに携わってきた19名(居住年数平均72.3年)である。当時の地域環境と共に、食料の入手方法、調理・加工・保存方法、日常食や行事食、食に関連する思い出や伝え継ぎたいと考える料理について聞き書き法で調査を行った。

    【結果】食が関連する行事は、正月や盆などの年中行事や節句を祝うもの、農作業などの節目(収穫の願いや収穫祝い、農作業や養蚕業のひと段落した際の地域の祭事)、人寄せをする地域の祭事などがあった。

    赤飯やおはぎ(ぼたもち)、いなり寿司や巻きずし、ちらし寿司は、多くの行事で作られ、祝い、楽しまれた様子が伺える。海なし県であるが、正月にはお頭付きの海の魚が利用されるなど、日常にない料理も多かった。埼玉県は、里芋の栽培が多く、芋がら(ずいきの茎)を甘酢漬けにしたり(十日夜)、芋は雑煮(角餅・すまし汁)の具としても利用されていた。地域の野菜を使ったかて飯、七福なます、ゆず巻きなども食べられている。また、小麦の栽培も多いことから、行事食にはうどんだけでなく、小麦を使ったお菓子(酢まんじゅう、炭酸まんじゅう、ゆでまんじゅう)がつくられた。特徴的な料理は、穀倉地帯のいがまんじゅう(季節の節目)、塩あんびん(十日夜)、山林地帯のとち餅(正月:栃の実を利用)、つとっこ(端午の節句:栃の葉を利用)などがあった。

  • −行事食にみる食文化の特徴−
    渡邊 智子, 梶谷 節子, 柳沢 幸江, 今井 悦子, 石井 克枝, 大竹 由美, 中路 和子, 鈴木 亜夕帆
    セッションID: P-k11
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】『次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理』のガイドラインに準じた調査結果から、昭和35〜45年頃までに定着し現在も食される千葉県の行事食について報告する。

    【方法】千葉県の9地域について調査研究を行い、行事食について検討した。

    【結果・考察】千葉県は、平野と丘陵が大半を占め,豊かな海と温暖な気候に恵まれ、多様な食材を使い行事食として食してきた。

     正月の行事食は、九十九里海岸を除き雑煮が代表料理である。千葉県独自のはば海苔を使う「はば雑煮」は、東金地域、安房地域及び市川地域で食され、全国の生産量の2位である八つ頭を含む里芋は、東金地域、安房地域及び船橋地域で用いられていた。いずれの雑煮も醤油と塩で味付けし煮た餅を加えて食する。餅は自宅や地域で作ることも多かった。正月に「かいそう」を食すのは、東金地域と九十九里海岸であった。

     正月以外の行事食で共通した行事食は、「太巻き寿司」が成田地域、房州海岸および九十九里海岸、「おはぎ」または「ぼたもち」が、東金地域、船橋地域および東京湾奥地域、「赤飯」が成田地域、東金地域、安房地域、船橋地域及び市川地域、「そうめん」が東金地域、安房地域及び市川地域、「小麦粉饅頭」が利根川地域、成田地域及び船橋地域であった。一方、地域独自の行事食は、成田地域の「草餅」「混ぜご飯」、房州海岸の「羊羹」、安房地域の「握り寿司」「かんぴょう巻」「からなます」、船橋地域の「なます」「五目寿司」、市川地域の「天ぷら」であった。

     千葉県の行事食は、千葉県の食材を用いた正月の雑煮が代表であり、地域で工夫し作られている。正月以外の行事食は、「太巻き寿司」などいくつかの地域に共通する料理と地域別に異なる料理があった。

  • −調査地における特色のある行事食−
    石島 恵美子, 渡辺 敦子, 飯村 裕子, 荒田 玲子, 野口 元子
    セッションID: P-k12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会特別研究会「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の茨城県の調査地域である5地域において昭和30〜40年代に行事食として食されていた中で特徴的なもの8品を報告する。

    【方法】県内5地域(県北、県央、県西、県南、鹿行)において平成24年〜26年度に聞き書き調査を実施した。その調査から分かった地域ごとの行事食の特徴について検討した。

    【結果・考察】県北のひたちなか市では、地区によって正月の餅の食べ方に違いがみられる。畑作地の那珂台地にある勝田地区では、今は市販品になっているが、昭和30年頃までは年末に手造りした納豆をのせた納豆餅を、海に面した漁港のある那珂湊地区では、荒巻鮭を餅で挟んだ塩引き餅を食している。県北の常陸太田市では、「芋串」が正月に供されていた。三が日の三食とも、戒めの意味で「芋串」だけを食していた。県央の水戸市では、「子安講」(関東地方で見られる既婚の女性が当番の家に集まって毎月19日に安産祈願のために子安神をまつる講)の際のもてなし料理として供されていた「煮和え」がある。県西の結城市では、初午の時期に近所で分けあう「すみつかれ」がある。これは、正月の残りの塩鮭の頭や節分の残りの煎り豆を使って作る。県南の土浦市では、「わかさぎの昆布巻き」が正月に食されていた。霞ヶ浦で取れたわかさぎとごぼうやにんじんを昆布で巻いたものである。石岡市では、正月に「矢羽の羊羹」を用意し、正月の重箱に彩を添えた。鹿行では、「三つ目(出産後3日目)」に、出産した女性の疲労回復と乳の出がよくなるよう願って、「三つ目のぼたもち」を供した。材料はおはぎと一緒だが丸めず、重箱にもち米飯を敷き、その上に餡を重ねたものである。

  • −自然の尊重と近隣との交流−
    名倉 秀子, 藤田 睦
    セッションID: P-k13
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会特別研究平成24,25年度「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の聞き書き調査に基づき,昭和30〜40年頃の栃木県における次世代に伝えるべき家庭料理を抽出すると共に,同地域について追加調査を実施し,行事食の特徴を把握することを目的とした。

    【方法】栃木県内の6地域,那須野ヶ原,日光山間,両毛山地,渡良瀬流域,鬼怒川流域2か所を調査対象地域とした。対象者はその地域に30年以上居住している60歳以上の約20名であり,地域の暮らしや食生活について,その特徴と概要,印象に残っている暮らしや食,伝え継ぎたいと考える家庭の料理について聞き書き調査した。その中から祭りや行事に関する料理とその行事の概要を把握した。

    【結果・考察】栃木県の地形は,県北の日光や那須連山の山間部,県央と県南の関東平野北縁部を占める平野部で,境界部に海岸線を持たない内陸県である。主な行事食について,正月は耳うどん,八つ頭の煮物,水ようかんなど,節分には福茶とゆずのみそ漬け, 2月初午の日ではしもつかれ,田植え時は赤飯や身欠きにしんの煮物,田植え終了後にはさなぶり饅頭などがあがった。さらに,十五夜のけんちん汁,収穫祭には芋串や里芋の煮物,梵天祭りでは鮎のくされずしなど,いずれも米作りを中心に五穀豊穣を願い,年中行事の行事食がご馳走として調理されていた。また,通過儀礼の弔い時には,白飯,うどん,豆腐の汁物,がんもどきの煮物,酢の物や白和え,煮豆などの精進料理が近隣の人に作られていた。昭和30〜40年頃は農家戸数も多く,農作業にまつわる行事,地域や集落での祭りや神事,ご節供,通過儀礼行事などにおいて,地域で収穫された食材を使い,手間をかけた料理が多くみられた。

  • −粉ものときんぴら−
    堀口 恵子, 神戸 美恵子, 永井 由美子, 阿部 雅子, 高橋 雅子, 渡邊 静, 綾部 園子
    セッションID: P-k14
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会平成24〜26年度特別研究で、群馬県各地域の家庭料理について、次世代へ伝え継ぐ資料として聞き書き調査を行い報告した。その後の追加調査や刊行資料調査も含め、群馬県の家庭料理 行事食の特徴について報告する。

    【方法】平成 25 年 10 月〜27 年 2 月に群馬県内の8地域において,特別研究の方法に従い,各地域 2 名以上の調査対象者に対して同意を得た上で,調査票に沿って対話したものを記録し,その後の追加調査の結果も加えた。

    【結果】群馬の行事食では、赤飯ときんぴらの組み合わせやけんちん汁の頻度が高い。赤飯にはもち米だけでなくキビやアワ加えることもあり、豆は小豆、ささげ、いんげん豆、花豆などを用いて色をつける。小麦の産地なので、日常食として手打ちうどんやそばを食するが、行事食としても供される。また、蒸かし饅頭も行事の折(田植え、農休み、七夕、釜の口開けなど)に作る。焼き饅頭は、初詣、初市、地域の祭りなどでは必ず屋台がたつ。代表的な年中行事の行事食は、正月(雑煮、きんぴら、なます、煮物、煮豆)、七草(七草がゆ)、小正月(小豆粥)、どんど焼き(まゆ飾り、餅花)、節分(しもつかれ、ざく煮、福豆、いわし)、ひな祭り(ちらしずし、菱餅、草餅、きんぴら)、お彼岸(ぼたもち、おはぎ、天ぷら)、端午の節句(柏餅、鯛の塩焼き、赤飯)、田植え(おにぎり、田植えにしん)、お盆(煮しめ、うどん、天ぷら、きんぴら)、十日夜(けんちん汁、もつ煮、だんご)、えびす講(ざく煮)、屋敷祭り(けんちん汁、いわし)、冬至(かぼちゃの煮物、おっきりこみ)、年越し(晦日そば、きんぴら、年越しそば)など,通過儀礼では初誕生(一升餅),結婚式(太巻き、ざく煮)などがある。

  • −山中湖村に伝わる安産祭り及び山梨県の通過儀礼の食事−
    時友 裕紀子, 阿部 芳子, 柘植 光代, 松本 美鈴, 坂口 奈央
    セッションID: P-k15
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】山梨県南都留郡山中湖村に伝わる安産祭りでは貝のひも煮をはじめとした家庭料理を家族や祭りに来た人に振る舞う習慣がある。安産祭りや山梨県の通過儀礼の食事について各地域の特徴をまとめた。

    【方法】「次世代に伝え継ぐ家庭料理」のガイドラインに沿い昭和30〜40年代の生活環境と家庭料理について平成25〜27年に行った山梨県の聞き書き調査、及び文献調査を中心にまとめた。

    【結果】山梨県南都留郡山中湖村の山中諏訪神社(山中明神)の秋祭りである安産祭りは妊娠を望む女性、安産祈願の妊産婦、子が授かりお礼に来た女性たちが集まることで有名であり、赤飯、貝のひも煮(乾物の貝のひもを戻して煮たもの)や花豆の煮物、山中湖特産のワカサギ料理などが参詣人にも振る舞われた。現在でも祭りの当日は各家庭で親類縁者とともに宴会をする様子が見られる。貝のひも煮はへその緒の外観を連想させる縁起ものであり、年に一度、安産祭りの祝いの料理として供されたもので、祭りに欠かせない料理となっている。

     子の誕生からお七夜、初節句などの成長の節目や、成人、婚礼などを祝う通過儀礼において共通した料理は赤飯であった。茹でた小豆とともにもち米を蒸して調理する他に、うるち米やアワ、キビを混ぜることもあった。小豆や金時豆の甘納豆で甘く味をつけ、食紅でピンク色に着色した赤飯は甲府盆地の中央部、西部、北部の家庭で誕生日や入学式、成人式、婚礼などのハレの食事として今でも食べられているが、県東部(大月市や上野原市)や富士北麓では甘納豆の赤飯は見られない。上巳の節句(ひな祭り)は4月3日の行事で、ピンク(食紅)、緑(よもぎ)、白の三色で作ったひし餅や甘酒などで祝うことが多い。

  • 立山 千草, 太田 優子, 山口 智子, 佐藤 恵美子, 松田 トミ子, 伊藤 知子, 玉木 有子, 小谷 スミ子, 山田 チヨ, 長谷川 ...
    セッションID: P-k16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】『次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理』のガイドラインに準じた聞き書き調査結果から、昭和35〜45年頃までに定着し、現在も食される新潟県の行事食について報告する。

    【方法】上越、柏崎、魚沼、長岡、新潟、村上、佐渡、7地域の行事食について検討した。

    【結果・考察】新潟県全域に及ぶ行事食として、いわゆる「のっぺ」は、正月や冠婚葬祭、来客時など頻繁に食され、地域により料理名や切り方などが異なる。上越地域の「雑煮」は、ぜんまい入りの具沢山汁で滋味に富む。柏崎地域の「かすべの煮付け」は、乾燥させて保存した魚類を用い、正月にはかすべ、盆には棒鱈で食す。魚沼地域の「雑煮」は、南魚沼地区では塩鮭と白菜を用い、津南・六日町・塩沢地区では汁を少なくして、「雑煮のこ」を作る。食材を煮て仕上げに酢を加える「煮なます」も、正月や小正月に無くてはならない。小千谷地区の「鯉こく」は、収穫を祝う宴や晩秋の寄り合いで食した。長岡地域の「雑煮」は、三が日で雑煮の汁の具を変えて食す。正月の「煮しめ」や「煮もん」も、地元の山の幸などを加え家庭毎に食材数を揃える。新潟地域の「雑煮」は、郷土の食材を彩りよく具沢山にして、鮭と“とと豆”(いくら)を用いる。行事には欠かせない「胡桃太巻き寿司」も、甘辛煮の和胡桃をはじめ多様な食感を楽しむ。村上地域の「大海」は、盆正月や祭りの集まりでは不可欠の煮物である。「塩引き鮭」も、年取りや正月、夏祭りには欠かせない。佐渡地域の「煮しめ」は冠婚葬祭で食し、国仲地区では里芋を、両津地区では焼いた“スケト”(鱈)を入れる。年末年始に特徴の見られる新潟県の行事食は、年取り・正月にかける想いを食事に託した代表的な伝統料理といえる。

  • 新井 映子, 高塚 千広, 川上 栄子, 市川 陽子, 伊藤 聖子, 神谷 紀代美, 清水 洋子, 竹下 温子, 中川 裕子, 村上 陽子
    セッションID: P-k17
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】 静岡県に伝承されてきた家庭料理の中から、行事食として食されてきた料理を東部、中部、西部に分け、各地域別に明らかにすることを目的とした。

    【方法】「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の調査ガイドラインに基づき、静岡県東部(富士宮市、伊東市)、中部(静岡市、焼津市、藤枝市)および西部(浜松市、湖西市)の各地域において居住歴が30〜81年の男女61人を対象に聞き書き調査を実施した。

    【結果】歴史的、地理的にもそれぞれの特徴を持つ東部、中部、西部の3地域について、各地域に特有の食材を生かした行事食やそれらの調理法について示す。東部の富士宮では、富士山の火山灰土壌で落花生栽培が盛んなため、おせちのなますには粗くすりつぶした落花生を入れる「落花生なます」が作られる。伊豆半島の主要な漁港である伊東では、祭りなどの行事食として鯖のそぼろをのせた「鯖の箱ずし」が作られる。中部は正月に黒豆、田作り、数の子を用意し、里芋やごぼう、椎茸の「煮しめ」、大根と人参の「なます」にいかやしめ鯖を加える。かつおだしに大根と里芋、角餅の「雑煮」やまぐろの「にぎりずし」を作る。おせちに練り製品を入れる。クチナシで色づける「菱餅」や「染飯」がある。西部の湖西市は「新居の関所」がある町で、東海道を往来する旅人によって「すわま」という波形をあしらった餅菓子が伝承され、上巳の節句に作られている。浜松市山間部の水窪周辺では、雑穀を中心とした食文化があり、4月8日(花祭り)に大豆、そば粉、小麦粉で「とじくり」いう団子をつくって仏壇にお供えしている。以上のことから、静岡県では東部、中部、西部の各地域に特有の食材が、行事食にも生かされていることが明らかとなった。

  • −地域性豊かな四季折々の行事の食−
    中澤 弥子, 吉岡 由美, 高崎 禎子, 小木曽 加奈, 小川 晶子
    セッションID: P-k18
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】長野県の家庭料理の特徴を探ることを目的として、行事食について分析した。本発表では、その特徴を表し、昭和30年頃から長野県の各地方で大切に作り継がれている行事食について報告する。

    【方法】平成25年〜28年を中心に全県的な現地調査を実施した。調査方法は、主に聞き取り法で行い、可能な場合は、食材や料理、加工品の実物を撮影し、試食を行った。

    【結果】長野県には、地域で生産される季節の食材や保存食を利用した特色ある郷土料理が多く、地域や家庭によって代々受けつがれている行事食も多く残っていた。ハレの食材として、年取り魚の鰤や鮭、鯉、身欠き鰊など魚介類も利用されてきた。主な行事食は、年取りや正月料理として、鰤雑煮{中信・南信}、ひたし豆{東信}、鮭の粕煮{東信}、王滝なます{木曽}、しぐれ煮{下伊那}が、道祖神には、ねじ{上田市真田町長戸沢}、涅槃会には、やしょうま{北信}、ひな祭りには、からすみ{木曽}、草餅{全県}、春の彼岸には、ぼたもち{全県}、端午には、ほお葉巻{木曽}、田植えには、田植えの煮物{全県}、七夕には、小豆ほうとう{松本}、ナタまんじゅう{北安曇}、盆にはおやき{北信・中信}、えご[いご]{北信・中信}、こりんと{北信}、干し揚げの煮物{松本}、のたもち{諏訪}、十五夜には、おからこ{上伊那}、秋の彼岸には、おはぎ{全県}、えびす講には米粉のおやき{上伊那}、冬至には、かぼちゃだんご{南安曇}、祝い事には、笹ずし{北信}、鯉のうま煮{全県}、大平{木曽・南安曇}、五平餅{木曽・南信}、仏事には、おにかけ・おとうじ{北信}、冠婚葬祭には、寒天寄せ{諏訪}、大根引き{長野市鬼無里}、いもなます{北信}などである。

  • −感謝とおもてなしの気持ちを込めた食事−
    中根 一恵, 稗苗 智恵子, 守田 律子, 原田 澄子
    セッションID: P-k19
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】富山県に伝えられている家庭料理の中で、行事食の特徴を地域別に把握することを目的とした。

    【方法】富山県全域において、聞き書き調査を行った料理から行事食を分類し、富山県の食文化関連の書籍や文献などを参考に行事食の特徴をまとめた。

    【結果】正月料理の「雑煮」は県の東部と西部で具材が異なる。県東部の雑煮は、ぶり、ふくらぎ、皮ハギなどの焼き魚の身をほぐし、こんにゃく、ごぼう、にんじん、焼き豆腐、ねぎなどを入れた実だくさんの清まし仕立てである。一方、県西部の雑煮は、白髪が生えるまで長生きできるようにとの願いから、根つきの細めのねぎを具に用い、昆布とかつお節の混合だしの清まし汁で作る。また、報恩講の際に食べられることが多い料理として、南砺市は「じんだ」や「山菜の煮物」、氷見市は「くさぎと打ち豆の煮物」などがある。山菜やくさぎなどは収穫した後加工して大切に保存し、野菜等その年に採れた一番よくできたものと一緒に心をこめて調理し、報恩講に集まる人たちをもてなす。現代では仕出しの利用が増えているとの話しが聞かれた。また、小豆とさいの目に切った根菜類を入れた「いとこ煮」(県東部では「にざい」と呼ぶ)は、県内で広く食されている。

    その他、県内全域で、産後三日目に食べると乳の出がよくなるといわれる「三日のだんご汁」があり、出産のお祝いとして、もち米の粉と干しずいきに熨斗を付け親戚に配る風習がある。新川地方には、お祭りや建前、結婚式など人が集まるときに、お客をもてなす料理として押せずしがある。

    行事食は人との絆や感謝の気持ちともてなしの心が込められている。しかし人の交流や行事の継承を含めて行事食も薄れつつあることが明らかとなった。

  • −信仰と武家文化の流れ−
    新澤 祥惠, 川村 昭子, 中村 喜代美
    セッションID: P-k20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】石川県における行事食の特徴あるものを検討した。

    【方法】平成25〜27年に実施した「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の聞き書き調査(穴水町、金沢市、野々市町、白山市、小松市、白峰村)及び文献等により検討した。

    【結果】1)「あえのこと」は田の神様に感謝をするものとして能登一帯で今も行われている行事で地域の季節の食材で調理された料理が用意され、田の神様をもてなした後、家族の直会が行われる。 2)「報恩講」は浄土真宗の行事であり、多くは小豆汁が用意されるが、白峰村ではなめこ汁が作られ、これに、大盛りのごはんと厚揚げ、堅豆腐や山菜などを使った精進料理が用意されている。 3)「祭り」の料理としてえびすがあり、金沢、加賀では塩魚を使った押しずしが作られた。 4)「婚礼」の料理として鯛に炒りおからを詰めて蒸した唐蒸しがある。特に婚礼では大鯛を一対腹合わせに盛り付けて供される。また、五色生菓子が準備される。これは、日・月・山・海・里にみたてた5種の菓子を近所や親戚に配るものであるが、徳川家より玉姫が輿入れした題に献上されたものといわれる。 5)「氷室」は江戸時代、冬に雪を氷室に貯蔵し、旧六月朔日に氷室を開きこれを江戸の将軍家に届け、庶民はこの時期収穫される麦で饅頭を作ったという故事にちなみ、現在は7月1日に白、赤、緑の饅頭やはぜ、ちくわを食べている。 6)正月の雑煮は能登、金沢、加賀で差異がみられる。おせち料理で地域性のあるものとしては、棒だらの煮付け、ぶりなます、鮒の甘露煮があり、能登ではあいまぜも準備される。正月菓子としては前田家の家紋梅鉢にかたどった紅白の最中に砂糖をまぶした福梅(ふくんめ)や福徳がある。 以上、石川県では、信仰にちなんだ行事と武家文化に影響された行事食がみられた。

  • −報恩講料理と油揚げ−
    森 恵見, 佐藤 真実, 岸松 静代, 谷 洋子
    セッションID: P-k21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】福井県は、本州の中央部にあり、嶺北と嶺南地区にわけることができる。嶺北は、平野を中心に米づくりが盛んであり、嶺南は、海に面して滋賀、京都に隣接する。また、福井県は浄土真宗が盛んで昔から真宗王国といわれている。福井県の郷土料理には、質素な郷土料理が多く、宗教行事の中で伝承されている料理も多い。本研究では、お講さまともいう同業の人が集まって仏を拝む行事の一つ「報恩講」に提供される報恩講料理について報告する。

    【方法】「伝え継ぐ日本の家庭料理」の取材において聞き書きした報恩講料理について、さらに報恩講でよく利用されている油揚げについて「福井県の油揚げに関する調査」(森ら、2016)より紹介する。

    【結果・考察】福井県の報恩講料理は各地域や寺院によって違いがあるが、現在においても、食材としては油揚げやがんもどき・里芋の利用頻度がとても高く、次いでかぶ・きのこの利用頻度が高い。料理としては、油揚げやがんもどきの煮物・里芋の煮っ転がし・すこ・豆腐の汁物の提供頻度が高い。

     油揚げは、行事も含め福井の郷土料理に多く利用される。メーカーによって異なるが、縦14センチ、厚さ4センチの大きい厚揚げを「油揚げ(あげ)」と呼ぶ。薄揚げと比較すると、「滅多に食べない」(20.0%)割合がやや高いが、「1週間に1回くらいは食べる」(53.3%)割合が高い。薄揚げは「汁物」(94.1%)に使用され、厚揚げは「煮物」(90.0%)によく使用される。かつて、油揚げは秋の報恩講の昼食には必ず添えられ、お盆や正月、冠婚葬祭時だけのごちそうだった。県民の油揚げのこだわりは強く、家計調査年報からみる「油揚げ・がんもどき」消費量はずっと全国1位である。

  • −豊かな土地の質実倹約の行事食−
    西堀 すき江, 小出 あつみ, 山内 知子, 間宮 貴代子, 松本 貴志子, 森山 三千江, 山本 淳子, 近藤 みゆき, 石井 貴子, 小 ...
    セッションID: P-k22
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】愛知県は温暖な気候で、多くの河川が走り、濃尾平野、岡崎平野、豊川平野が広がり、肥沃な農地に恵まれている。また、伊勢湾に面し、漁業や海運業が発達している。山には良質な檜や杉が育ち、豊かな土地柄である。この地は長く政治の中心であった京に近く、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康など天下統一を目指した戦国武将が生まれた土地である。江戸時代には、名古屋(尾張)に御三家筆頭で東海に君臨した尾張徳川家の居城があり、岡崎(三河)は徳川家康誕生の地で、東海道の要衝として繁栄した。また、県内を横切る東海道沿いには、参勤交代の大名や旅人が利用する宿場が9か所あり、それぞれの名物や土産物が作られ、商業が盛んであった。このような地の利と長年の風習が、今の「派手好き」「倹約家」などの県民性を生み出した。日常的には質素倹約を旨とし、堅実家で余計なものにお金を使わず、貯金をする傾向があるが、婚礼などの行事には、思いっきりお金をかけて嫁入り支度をし、派手な宴を開く習わしがあった。

    【方法】県内を7地区に分け、聞き書き調査を平成24〜25年に、料理撮影を平成27〜28年に行った。聞き書き調査対象者は各地区に長年暮らし,その地域の家庭料理を伝承している人とした。料理作成は各地区で郷土の家庭料理の保存活動を行っている団体・個人等に協力をお願いした。

    【結果】今回は、一世一代の派手な婚礼などに伴う行事食ではなく、質素ながら、地元でとれる豊かな食材を生かした、季節や人生の節目を祝うハレの日の行事食について収録した。

  • −冬から春の行事に関する行事食−
    木村 孝子, 堀 光代, 西脇 泰子, 長屋 郁子, 坂野 信子, 辻 美智子, 山根 沙季, 長野 宏子, 山澤 和子, 横山 真智子
    セッションID: P-k23
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】岐阜県における家庭料理のうち、行事食の特徴についてまとめること目的とした。

    【方法】日本調理科学会の「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」聞き書き調査に参画し、岐阜県内を岐阜・西濃・中濃・東濃・飛騨の5圏域に分類し、調査を行った。調査地で30年以上居住し、家庭の食事作りに携わった43名を対象者とした。調査結果から冬から春の行事食についてまとめた。

    【結果】岐阜圏域の長良川鵜飼を行う鵜匠家では、落ち鮎を塩漬けにして飯と漬け込んだ「鮎なれずし」を作り、年末に配る風習が残っていた。西濃圏域では行事や祭りに木曽三川で獲れたもろこや鮒を利用し、もろこの甘露煮を寿司飯にのせた「もろこ寿司」、今尾の左義長火祭り(どんど焼き)では、鮒を大豆と一緒に味噌で煮た「鮒みそ」が食されていた。中濃圏域では大晦日に糸昆布、里芋、人参、大根、しいたけ、ごぼう、焼き豆腐、油揚げを煮た「年取りのおかず」や頭付の鰯、新米のご飯を食した。正月には中濃・飛騨圏域では「ねずし」を食した。東濃圏域ではひな祭りの膳に米粉の蒸し菓子の「からすみ」、タニシの味噌汁の「つぼ汁」に箸に見立てた分葱を添えて祝った。飛騨圏域の年越し料理には、鰤街道で運ばれた「塩鰤」の切り身を焼き、「煮なます」を添えて食した。鰤は貴重であるため、「煮いか」で代用する家庭も多かった。県内の雑煮の特徴では餅は角餅、味付けは醤油仕立てのすまし汁であった。具材は、岐阜・西濃圏域の正月菜のみ、中濃圏域はけんちん汁のように野菜を多く使い、餅の上に砂糖をのせることもあった。東濃圏域は蒲鉾を入れる場合や飛騨圏域は富山の赤巻き蒲鉾、焼き豆腐、かしら芋を入れるなど圏域ごとで特徴がみられた。

  • −豊かなすし文化紹介−
    飯田 津喜美, 磯部 由香, 阿部 稚里, 乾 陽子, 奥野 元子, 久保 さつき, 小長谷 紀子, 駒田 聡子, 鷲見 裕子, 成田 美代 ...
    セッションID: P-k24
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の聞き書き調査を基に,三重県の家庭料理の行事食の特徴を明らかにすることを目的に分析を行った.

    【方法】平成24〜26年度に県内の5地区(食文化圏)17ヶ所で昭和2年〜昭和23年生の女性24人を対象に,昭和30〜40年代から作られていた家庭料理について聞き書き調査を行い,収集した料理から行事食に関係するものを抜き出した.また,三重県の食文化関係の書籍からも追加した.行事食をいくつかの項目に分類し,特徴を明らかにした.

    【結果】行事食として収集された料理は306品であった.ごはんもの45品,すし44品,餅39品,麺(粉物含む)10品,おかず104品,汁物6品,常備菜6品,おやつ34品,その他行事食(セットもの)18件であった.このように,三重県の行事食には,すしが多く挙げられたことから豊かなすし文化を持つことがわかった.北勢では,箱ずしや押しずし等8品が,祭りや人寄せ,運動会の行事食だった.中南勢では,ちらしずし,揚げずし,巻きずし等6品が,山の神や祭りの行事食だった.伊賀では,イワシずし1品が,祭りの行事食として,伊勢志摩では,てこねずし,おんこずし,いんのこ餅,アジやイワシやサンマを使った姿ずし,アユくされずし等11品が,冠婚葬祭,山の神,人寄せの行事食として,東紀州では,サンマやカマスやアユ等の姿ずし,生なれずし,こけらずし,昆布巻きずし等18品が,祭り,慶事,法事,人寄せ,正月の行事食だった.三重県の行事食のすし文化は,伊勢湾や太平洋に囲まれている地理的な条件から,これまでの報告と同様,行事内容を問わず様々な魚介料理が食されており旬の魚を用いた食文化が根付いていた.

  • −正月と祭りを中心に−
    東根 裕子, 阪上 愛子, 澤田 参子, 原 知子, 八木 千鶴, 山本 悦子
    セッションID: P-k25
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】平成24年から実施している日本調理科学会「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」研究において,大阪府で聞き書きした家庭における「行事食」から,正月・祭りの食事を中心に考察する。【方法】調査地域は,大阪府の行政区分および日本の食生活全集「聞き書き大阪の食事」を参考に8地域(泉南・泉北・南河内・中河内・北河内・大阪市・三島・豊能)において,その土地に30年以上暮らしている27名を対象に聞き書きを行った。調査時期は2013年11月〜2015年9月、調査方法等は学会ガイドラインに則った。【結果・考察】出現した行事は、正月・七草・鏡開き・小正月・寒の入り・寒の中・節分・ひな祭り・春ごと・山行き・端午の節句・田植え休み・さなぶり・半夏生・七夕・土用の丑・天神祭り・夏祭り・お盆・藪入り・地蔵盆・彼岸(春・秋)・月見・秋祭り・だんじり祭り・亥の日・冬至・年越しなどであり、家族単位の行事では、誕生日・本復祝い・厄除け・満中陰・葬儀・運動会などがあった。正月料理では、すべての地域で雑煮、おせち料理を食べていた。しかし、その詳細は少しずつ異なり、雑煮のもちの形は丸がほとんどではあるが、角であったり、日によって異なる家庭もあった。用いられた共通の材料は、里芋(小芋)、大根(雑煮大根)であった。睨み鯛(塩焼きあるいは生)が供される地域も多く、祝い肴はごまめ、数の子、黒豆、たたきごぼうであった。また、大阪の代表的な祭りである天神祭りでは、はもやはも皮を使った料理、だんじり祭りでは、がざみとかんと炊き、大豆あんのくるみもちなどが準備され、現在も伝承されている。田植えが終わって農作業ひと段落の日には、半夏生もち、夏・秋祭りには鶏のすき焼きなどが準備されていた。

  • −行事食にみる地域の特徴−
    中谷 梢, 片寄 眞木子, 坂本 薫, 作田 はるみ, 田中 紀子, 富永 しのぶ, 原 知子, 本多 佐知子
    セッションID: P-k26
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】兵庫県は中央部の東西に山地が横たわり,南部の河川下流には肥沃な平野が開け,北は日本海,南は瀬戸内海に面し,淡路島を擁する。各地域の気候風土の違いは個性豊かで伝統的な食文化を形成してきた。平成24〜25年度「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」聞き書き調査より兵庫県の行事食の特徴を示す。

    【方法】調査した香美町香住,宍粟市千種町,丹波市,小野市,姫路市,加古川市,明石市,神戸市,淡路島の9地域の行事食の特徴をまとめた。

    【結果】各地域とも年末に丸餅や鏡餅を作った。元旦の雑煮は白味噌や自家製味噌仕立てだが,千種では蛤入りのすまし仕立てで,淡路では三が日は餅を食べない所があった。お節料理は香住では鰈の煮付け,瀬戸内海沿岸では睨み鯛(鯛の塩焼),姫路や加古川と丹波では焼き穴子,明石では蛸の煮付け,淡路では男はほうぼうを女はたもりを焼くか,するめを一人一枚ずつ供することもあり,舌平目入りのなますやなまこの酢の物があった。雛祭りは千種では扇形の押し寿司と,糯米と玄米と豆を炒ったおいり,瀬戸内海沿岸では餡入りの蓬餅,淡路ではベラと海老のおぼろをのせたこけら寿司がみられた。端午の節句の柏餅は,ばたこ,ひょっとで,いびつ餅など地域により多様な名称があり,山帰来の葉が使われた。さなぼりやかまあげは千種では兎や鶏をすき焼きに入れ,すずこを煮付けた。盆は淡路ではいぎすを炊いて固めた。秋祭りは鯖の姿寿司を各地域で,特に千種では約50本作り,姫路では正月より祭りの桟敷料理に力を注いだ。神戸ではクリスマスケーキを購入した。日常は地域の産物中心の食事だが,ハレの日は日本海から運ばれる鯖や蛤を使う地域があり,神戸では外国文化も取り入れる特徴があった。

  • −正月の雑煮を中心に−
    湯川 夏子, 桐村 ます美, 坂本 裕子, 豊原 容子, 福田 小百合, 米田 泰子
    セッションID: P-k27
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】平成24・25年度特別研究として京都府下の昭和30〜40年代の家庭の食について行った聞き取り調査から、行事食、主に正月の雑煮について地域別特徴を探った。

    【方法】京都府下の北部(丹後、舞鶴、丹波、美山)、京都市内、南部(京田辺、宇治田原)の地域において、64歳から84歳の計26名を対象として平成25年12月〜平成26年2月および平成28年9月に聞き取り調査を行った。これより地域別に行事食の特徴を比較検討した。

    【結果】正月の雑煮は、丸餅の味噌雑煮が主体であるという共通点がみられるものの、地域ごとに異なる特徴があった。京都市内と南部では、白味噌仕立てにし、材料は、頭芋(里芋の親芋)、子芋(里芋)、大根、金時にんじんが主であった。南部でも農村部では、材料は同様であるが白味噌ではなく、手作りの味噌と焼いた丸餅を使用した。白味噌は贅沢品であり、当時白味噌雑煮が食べられていたのは比較的裕福な家庭であった。北部の丹後地域では、小豆雑煮(ぜんざい)と味噌雑煮があり、海沿いでは、味噌雑煮に餅の上に、海藻を入れた。北部の舞鶴市周辺の中丹地域の雑煮は、かぶ入りの味噌仕立てであった。以上のように、京都府内において、地域ごとに多様な雑煮で新年を祝っていた。また、雑煮のほかに特徴的な正月料理としては、「えびいもと棒だらの炊いたん」(京都市内、南部)、「古老柿なます」(宇治田原)、「納豆餅」(美山)などがあった。

     その他の行事食としては、祇園祭に作る「鱧ずし」(京都市内)、春祭りや秋祭りの「鯖ずし」(京都市内、南部)や「丹後のばら寿司」(北部)など、寿司類に特徴がみられた。

  • 久保 加織, 石井 裕子, 小西 春江, 中平 真由巳, 山岡 ひとみ, 堀越 昌子
    セッションID: P-k28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】滋賀県には、縄文時代晩期から弥生時代にかけての稲作遺跡が複数出土しており、数千年間にわたり稲作を中心とした農業と琵琶湖漁業を核とした生活が営まれてきた。古くから政治・文化の中心地あるいは近隣地となり、交通の要衝でもあり、乱世には争いの舞台になることが多かった。現在も神社や仏閣が数多く残り、様々な神事や祭り、行事が営まれている。これらは人々の結束を高めるとともに憩いと楽しみでもあったと考えられる。本研究では、様々な人生儀礼や暦的儀礼に関わる特徴的な料理について全県的に調査を行い、その特徴を整理した。

    【方法】平成25〜27年にかけて、滋賀県の食文化の特徴について、全県的な調査を日本調理科学会特別研究の一環として実施した。調査方法は主に聞き取り法で行った。

    【結果】滋賀県では人生儀礼、暦的儀礼の行事が丁寧に執り行われていて、各行事の料理には、地域の特徴がよく残っていた。特に琵琶湖を抱える滋賀県では神事や慶事に湖魚のナレズシが神饌となり、客呼びのご馳走となっていることが大きな特徴であった。ナレズシにはフナズシを始めとして、ハスズシ、ウグイズシ、オイカワズシ、モロコズシ、アユズシ、ドジョウズシまであり、各家、地域で仕込まれていた。また滋賀は内陸県であるが、若狭湾からサバ、伊勢湾からブリなどの海産魚が祭事に登場していた。神事・祭りの料理には、農産物を主役にしたものも多く、餅や団子、おこわ、すし、その他、大豆の打ち豆や田楽、里芋などがよく登場していた。人生儀礼においては、慶事の餅や団子、赤飯、弔事の座禅豆、豆腐汁、葬式菜や塩切なすの煮物などが伝わっていた。人々が工夫を重ねて各種行事を伝え継いでいる様子を聞き取ることができた。

  • −行事食にみる食文化の特徴−
    島村 知歩, 喜多野 宣子, 志垣 瞳, 三浦 さつき
    セッションID: P-k29
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】伝統的な地域の料理が親から子へ伝承されにくい傾向にある現在、次世代に伝え継ぐ家庭料理を記録し、再現できるように、次世代に伝えたい、伝えることに意義があると思われる家庭料理を選択・記録し、広く社会に公開することより、家庭のみではなく、教育現場でも利用でき、次世代へ伝え継ぐものとなるものを提案するため、日本調理科学会特別研究『次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理』として、全国の都道府県ごとに各地の家庭料理について文献資料からリストアップし、聞き取り調査を行った。家庭料理の成立と変容、食事での位置づけ、調理・加工法やその要点、文化の特性などについて整理・考察した。

    【方法】各地域の自然環境の中から育まれた食材を中心とした日常食または行事食などで、1960〜1970(昭和30〜40)年頃までに定着した地域の郷土料理を「家庭料理」として定義し、平成24〜26年度に奈良県の9地域(奈良市・天理市・大和高田市・大和郡山市・山辺郡山添村・宇陀市室生村・葛城市・吉野郡下市町・吉野郡下北山村)において聞き取り調査を行った。今回は、家庭料理のうち行事食をとりあげた。

    【結果】奈良県の家庭料理の行事食として、正月には雑煮、柿なます、えいの煮こごり、お盆には七色おあえ、そうめん、祭りや祝い事の際には柿の葉ずし、里芋ご飯、はもの焼き物、えその味噌漬け焼き、かしわのすき焼きなどが食べられていた。農事の節目には小麦もち、ふき俵なども食べられていた。行事食に欠かせないすし・もちだけでなく、地域でとれる野菜や芋、果物、小麦などを活用した料理や、行事に合わせて普段は食べない魚・肉などをご馳走として食べる料理が多くみられた。

  • 三浦 加代子, 川島 明子, 川原﨑 淑子, 橘 ゆかり, 千賀 靖子, 青山 佐喜子
    セッションID: P-k30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会特別研究『次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理』において, 和歌山県では1960〜1970年頃までに定着していた家庭料理について聞き書き調査を行った。この結果から,地域に伝わる行事食の特徴をまとめることを目的とした。

    【方法】平成25年12月〜27年3月に, 地理的環境,経済的背景の異なる12地域(橋本, 那賀, 和海, 上富田, 大塔, 田辺, 勝浦, 太地, 熊野川, 有田川, 由良, 日高)を調査した。調査対象者は各地域2〜4名, 合計38名, 平均年齢72.3±6.3歳, 最高齢は86歳, 最年少は60歳で, すべて女性であった。

    【結果】平成21,22年度特別研究の行事食アンケートから,正月の雑煮は,紀北や紀中では白味噌で丸餅, 紀南ではすまし仕立てで角餅という結果であった。今回もほぼ同様であることが確認できた。雑煮に注目すると, 和海では, 餅以外にうるち米を混ぜて作った「白ぼろ餅」や小豆を混ぜた「赤ぼろ餅」が食べられていた。橋本では,大豆粉を水で練った「うち豆腐」を入れていた。また,大塔では,雑煮として餅を食べず,その代わりに親芋の煮もの「ぼうり」が約600年もの間供されてきた。正月の祝い魚は,鰹,鯖,いがみ(赤ぶだい)など地域により異なった。正月料理としてすしを食べる習慣があり, 鮎やさんまのなれずしや昆布ずし(勝浦,熊野川)などが食べられていた。すしは正月以外の行事食でもよく食べられていた。雛祭りには,海苔巻きやわかめずしを食べる地域があった。祭りには, 柿の葉ずし(橋本),鯖の早なれずしと甘酒(日高), 鯖のばってら,さんまずし,鮎の姿ずし(上富田)など地域によりすしの種類が異なっていた。この結果から, 地域ごとに多様なすしの食文化が行事食として根付いていることが示唆された。

  • 板倉 一枝, 松島 文子
    セッションID: P-k31
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】 日本調理科学会平成24〜26年度特別研究鳥取県調査として,鳥取県内の各調査地域における家庭料理や郷土料理,特徴のある伝統的な料理について聞き書きを行い,その時代背景や人々の生活,行事との関連などを調査した。鳥取県における,次世代に伝え継ぎたい家庭料理の基礎資料を作成することを目的とした。

    【方法】 先行研究資料の収集を基に,鳥取(鳥取市),八頭(八頭郡,鳥取市用瀬町),倉吉(倉吉市),米子(境港市),大山山麓(西伯郡大山町)の5地域を調査地域に選定した。調査対象者は,その地域に30年以上居住する60歳代以上の人で,家庭で主に調理を担当してきた19名とした。昭和30〜40年頃までに定着した家庭料理について,食材,調理法,料理が作られた由来や背景,食料の入手方法,食料の保存と加工方法,ハレの食や行事食との関連などについて聞き書きを行った。

    【結果・考察】 正月の「おせち料理」や「雑煮」,雛祭りの「おいり」,端午の節句の「ちまき」,お盆の「そうめん」や「うちご団子の煮物」,お彼岸やかま祝い・こき祝いなどの際には「おはぎ・ぼたもち」が作られるなど,さまざまな行事や農耕儀礼においてごちそうを作って食べる習慣がみられ,数々の行事食が確認された。祭りや人寄せ(来客)の際にもごちそうを作ってもてなすことが多かった。葬儀や仏事においては「豆ようかん」「いぎす」などの郷土料理が食されていた。県内全域にわたって「赤飯」「小豆ご飯」「あん餅」などの小豆を使った料理が多く,特に小豆汁仕立ての雑煮である「小豆雑煮」は全国的にみても珍しい正月料理として地域に定着していることが確認できた。

  • 我如古 菜月, 藤井 わか子, 藤堂 雅恵, 青木 三恵子, 大野 婦美子, 小川 眞紀子, 加賀田 江里, 槇尾 幸子, 新田 陽子, 人 ...
    セッションID: P-k32
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】岡山県は地形の上から瀬戸内沿岸・島しょ地帯、県南部の平野・丘陵地帯、県中部の吉備高原地帯、県北部中国山地の4地帯から成る。本研究では、平成24年〜平成25年度特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」調査結果に基づき、岡山県において食べられていた家庭料理の中から行事食に焦点を当てて、そこから見られる岡山県の食の特徴を知ることを目的とした。

    【方法】2012年〜2014年にかけて、60代〜80代の方々から聞き取り調査を行い得たデータを用いた。調査対象世帯は、瀬戸内沿岸・島しょ地帯11世帯、平野・丘陵地帯12世帯、吉備高原地帯18世帯、中国山地17世帯であり、4地域をそれぞれ地域Ⅰ(瀬戸内沿岸・島しょ地帯)、地域Ⅱ(平野・丘陵地帯)、地域Ⅲ(吉備高原)、地域Ⅳ(中国山地)とした。調査データから、ハレの日に食していたものを行事食とし、それらを年中行事食、通過儀礼食、その他に分類し、各行事食や地域における特徴を検討した。

    【結果・考察】4地域で聞き取りしたハレの日の料理件数は、合計92件であった。このうち、年中行事の「正月」に食する料理が21件で最も多く、4地域全てにおいて挙げられていた。料理ごとに検証したところ、ばら寿司が正月やお盆、秋祭り等をはじめとする各種行事においてよく食されていた。端午の節句では柏餅以外にも、一部地域では芝餅や小麦まんじゅう、笹餅(ちまき)が作られていた。また、お彼岸にはおはぎ並びにぼたもち、秋祭りでは赤飯や山菜おこわ、いなり寿司、さば寿司など様々な寿司類が作られていた。

  • −行事食にみる地域特性−
    渡部 佳美, 奥田 弘枝, 石井 香代子, 近藤 寛子, 渕上 倫子, 髙橋 知佐子, 岡本 洋子, 海切 弘子, 前田 ひろみ, 村田 美 ...
    セッションID: P-k33
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】昭和30〜40年頃までに定着していた地域の郷土料理と,その暮らしの背景を明らかにするため,平成24〜25年度に日本調理科学会特別研究として実施した「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」調査,および補充調査から得られた広島県の行事食の地域特性について報告する。

    【方法】広島県内を東部台地,福山地域,尾道・三原地域,芸北山間地域,瀬戸内沿岸地域,西部地域,中部台地,備北山間部の8地域に区分し,平成24〜26年度に調査を実施した。また,平成27年度には日本の家庭料理の編集上、追加調査も行った。

    【結果】行事食は正月雑煮、ひな祭り、端午の節句、彼岸、祭りに手作りの料理が振る舞われていた。正月雑煮は直煮の丸餅を使用したすまし仕立てであった。野菜の他に家庭によって、鰤、蛤、牡蠣、穴子、鶏肉、豚肉、するめ、豆腐が用いられた。来客時には専ら、ちらし寿司が季節の具材を用いて調理されていた。「ばら寿司」の呼称が最も多く、「もぐり」「もぶり」とも称された。また、角寿司、一合寿司などの押し寿司も作られていた。東部台地のあずま寿司、備北山間部の鮗寿司は、酢飯の代わりにおからが用いられた。寿司以外に「八寸」と呼ばれる煮物も行事に欠かせない一品であった。特徴的な行事には、1月の「御逮夜」、4月の花見、6月の「代満て」が挙げられた。御逮夜には浄土真宗が多い県西部地域では、小豆の入った「煮ごめ」が食されていた。花見は一部地域を除いて、重箱に巻き寿司などを詰めた花見弁当を食べる慣習があった。代満ては、「さんばいさん」「どろおとし」と地域によって呼称は異なるが、おはぎや餡を用いた餅、ちしゃもみが食されていた。収穫を祝う秋祭りには福山地域で「うずみ」を食す習慣があった。

  • 園田 純子, 森永 八江, 福田 翼, 廣田 幸子, 五島 淑子, 櫻井 菜穂子, 山本 由美
    セッションID: P-k34
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】山口県の行事食について、行事別および食材との関わりから明らかにする。

    【方法】平成24〜26年実施の「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」聞き書き調査および文献(農文協「聞き書山口の食事」等)を元に、著作委員で選定した料理100品から行事食46品を抽出し、分類と分析を行った。

    【結果】年中行事として正月では、かぶ雑煮、黒豆の煮物、のっぺい、柿なます、かぶの酢の物、はすのさんばい、ごぼうの南蛮煮、節分では、くじら肉入り混ぜご飯、くじらの南蛮煮、おばいけぬた、いわしの刺身、こんにゃくの白和え、上巳・端午の節句では、押しずし・ばらずし、柏餅、盆では、押しずし・ばらずし、そうめん、おはぎ、はんべい、いぎす豆腐等が食べられていた。冠婚・祝事では、押しずし・ばらずし、ささげごはん、めばるの煮付け、いとこ煮、大平、のっぺい、柏椀、つしま、はすのさんばい、えその団子汁、法事では、わかめむすび、ささげごはん、はんべい、おばいけぬた、けんちょう、いとこ煮、大平、のっぺい、柏椀、つしま、こんにゃくの刺身等が食べられていた。

     なお、料理によっては、冠婚・祝事と法事の両方で食べられているものや日常食としても食べられるものがあった。また、いとこ煮のように同じ料理であっても、地域によって使用する食材の違いが見られるものもあった。岩国地域の祝事の食事には、岩国ずし(角ずし)、大平、はすのさんばいが必ず供されるなど、特定の料理の組み合わせもみられた。

     食材としては、米を使ったものが多く、すし特に木枠を使用する押しずしや、餅やだんごとして、正月、節句、法事、祝事に利用されていた。他に豆、根菜、くじら、魚のすり身等が特徴ある食材としてみられた。

  • −ひな祭りの楽しい思い出−遊山箱−−
    高橋 啓子, 三木 章江, 宇野 美和子, 川端 紗也花, 後藤 月江, 長尾 久美子, 松下 純子, 近藤 美樹, 坂井 真奈美, 金丸 ...
    セッションID: P-k35
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】2010年「行事食・儀礼食」の調査では、ひな祭り(上巳)の認知率は94.8%、寿司や餅・菓子の喫食経験は70%以上で継続されている行事といえる。そして、徳島にはひな祭りには欠かせない遊山箱がある。そこで、ひな祭りと遊山箱の特徴について報告する。

    【方法】2010年「行事食・儀礼食」調査、2013年家庭料理聞書調査、2013年遊山箱に関するアンケート調査、2020年和食アンケート調査、文献よりまとめた。

    【結果・考察】ひな祭りは、昔は4月3日(旧暦の3月3日)に行われていたが、現在では3月3日に行うのが一般的である。一方、海陽町(宍喰地域)では従前から「八朔の雛祭」として旧暦の8月1日に行われている。徳島では子供が生まれると男の子も女の子も遊山箱を与えられる。遊山箱とは引き出し式の三段重ねの重箱で、ひな祭りの日には寿司や菓子を詰めて近くの浜や野山に出かけて食事を楽しんだ。アンケート調査(自由記述から抽出n=55)から、上段には寿司類(出現頻度53%)、または菓子類(寒天・ういろう等)(33%)、中段にはおかず(煮染め等)(78%)、または菓子類(16%)、下段には菓子類(53%)、または寿司類(46%)が詰められていた。2020年の調査(n=578)では遊山箱を「子供の頃使ったことがある」は全体で9.9%であるが、60歳以上では71.4%、50歳以下では6.7%であったことから昭和40年頃までは多くの者が使用していたと推測される。「名前は知っている」は58.8%、「知らない」は31.3%であった。また、端午の節句にも使用したとの記述もあり、子供の行事に遊山箱が使用されていたことがうかがえた。このように遊山箱は、主に60歳以上の多くの県民の共通の思い出として残っている。

  • −さまざまな食材を用いた多彩な行事食−
    次田 一代, 村川 みなみ, 渡辺 ひろ美, 加藤 みゆき, 川染 節江
    セッションID: P-k36
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】香川県の伝統的家庭料理を暮らしの背景とともに記録し、それを次世代に伝え継ぐことを目的とした。

    【方法】県内各地の食生活改善推進委員協力のもと、その地域に30年以上居住し、家庭の食事作りに携わった60歳以上の人を対象として、日本調理科学会作成の調査様式に従い、2013年12月〜2015年3月に聞き取り調査を行った。

    【結果・考察】調査から得られた香川県内の行事食は以下の通りである。①正月:あんもち雑煮、②春の初めに豊凶を占う祭礼:甘酒、押し抜きずし、ばらずし、ゆだめうどん、③ひな祭り:よもぎ餅、ひなあられ、わけぎ和え、④端午の節句:ちまきやかしわ餅、赤飯、⑤鰆の収穫時(4〜5月頃):鰆の押し抜きずし、カンカンずし、⑥半夏生:半夏のはげ団子、打ち立てうどん、⑦夏の土用:どじょう汁、⑧盆:米粉団子にあんをまぶしたもの、⑨秋祭り:ばらずし、天ぷら、酒の肴にあじの三杯、しょうゆ豆、⑩ため池の水抜き後(12〜2月頃):てっぱい、⑪小豆島にて農村歌舞伎の時(5月頃):わりご弁当。このように、さまざまな食材を用いた多彩な行事食が一年を通して食べられてきた背景には、香川県の地理・気候・風土の関与が大である。香川県は県土のおよそ半分に平野が広がり、温暖な気候であるため、米の裏作に小麦が栽培され、降水量が少ないことからため池が多く、その水ぬき作業などを共同で行ってきた。瀬戸内海では季節に応じた漁業も盛んである。行事食はこれらの農水産物や作業と関わり、貴重な米や麦の有効利用、季節ごとに収穫される大根、まんば、なんきん、いも、豆等の野菜、ため池や川の淡水魚、沿岸部での鰆、たい、ちぬを使った料理も見られた。これらの行事食を、今後も伝えていくことが重要であると考える。

  • −魚介を中心に季節の食材を生かした調理−
    武田 珠美, 亀岡 恵子, 香川 実恵子, 宇髙 順子, 皆川 勝子
    セッションID: P-k37
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】愛媛県は四国の北西に位置し,北側には瀬戸内海に面した平野が広がり,南側には西日本最高峰の石鎚山系がそびえ,農林水産物が豊富な地域である。日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」の一環として行った調査から,昭和30〜40年頃の愛媛県の行事食の特徴をまとめた。

    【方法】平成25年11月〜平成27年3月に愛媛県内の8地区(四国中央市,西条市,今治市,松山市,東温市,久万高原町,大洲市,宇和島市)において聞き取り調査(60〜90歳代3〜7名,居住年数37年以上)を,平成29年3月〜平成30年10月に新居浜市を加えた9地区において聞き取り及び調理方法の調査を行った。

    【結果】昭和30〜40年頃,行事食としてのみ食べられていた料理は,主食ではばらずし,さわらの姿ずし,おもぶり,鯛めん,汁もの・鍋ものでは雑煮,こくしょう,おかずでは魚介の法楽焼き,ふかの湯ざらし,鯛の煮付け,ふくめん,鉢盛料理の盛り合わせ,焼き豆腐,おからの酢和えと限られていたが,おやつは餅類(塩餡餅・福餅など),米粉の団子(醤油餅・りんまんなど)が多様に食べられていた。行事食でも日常食でも食べられていた料理は,炊き込み飯,このしろの姿ずし,そうめん・うどん,いもたき,おつい,魚介類の天ぷらや酢漬け・ぬた,煮豆,豆腐料理,いぎす豆腐,卵寒天,あられ,かきもち,しぐれ,とりつけ団子,おはぎなどで,より多様に,特定の行事及び地域で食べられていた。愛媛県の行事食は新鮮な魚介を中心とし,地域の高級食材はその持ち味を活かしてシンプルに料理し,安価に入手できる食材は手間をかけて料理していた。華やかな飾りつけをした鉢盛料理やばらずしなどが特徴的であった。

  • −土佐のおきゃく文化と皿鉢料理−
    野口 元子, 福留 奈美, 小西 文子, 五藤 泰子
    セッションID: P-k38
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】高知県では宴会のことを「おきゃく」と呼び、神祭や冠婚葬祭、節句や正月など様々なハレの行事や人が集まる際に、皿鉢料理が供されてきた。本研究では、高知県の皿鉢料理の特徴をとらえることを目的に調査を行った。高知県は森林率が高く、太平洋に面した海岸線が長く、また農業が盛んな平野もあることから山と海と里の食文化を有する。本研究では、中山間・山間部、沿岸部、平野部の3エリアに分け、それぞれのエリアの皿鉢料理の特徴をとらえる。

    【方法】日本調理科学会H24-26年「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」研究の一環として、昭和30〜40年代の高知県の食事について聞き取り調査を行った。その他に収集した食文化資料、家庭料理・郷土料理に関する資料を加え、3エリアで皿鉢料理として供される料理を分類し比較した。

    【結果】皿鉢を構成する料理は、沿岸部は魚介類が、山間部は山菜が主であったが、共通してサバずしが用いられていた。サバは県内の沿岸部全域でとれたほか、山間部にも塩サバとして流通しており、サバの姿ずしは県内全域で祝いの席に欠かせない料理となっている。沿岸部ではカマスやアジ、マダイなど季節の魚の姿ずしが、山間部ではタケノコやミョウガ、コンニャクなどの山菜ずしが多く入り、すしの種類に違いがあった。昆布巻き、白和え、ようかん、きんとんなども広く皿鉢料理に用いられているが、使用する具材や作り方に地域差が見られた。また、「大丸(茹で卵入りの蒲鉾)」などの練り製品の使用も多様にあった。皿鉢に用いられる料理の種類を比較したところ、「きんとん豆の天ぷら」、「あたらしや(餅であんこを包み、模様をつけた上に3色の小さなもちを飾ったもの)」など地域で特徴的な料理が見られた。

  • −SDGsにつながる地域の正月料理とお盆の料理−
    松隈 美紀, 入来 寛, 御手洗 早也伽, 仁後 亮介, 熊谷 奈々, 吉岡 慶子, 山本 亜衣, 猪田 和代, 秋永 優子, 楠瀬 千春, ...
    セッションID: P-k39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】本研究は、九州支部の調査で得られた「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」の中の福岡県の行事食、特にお正月とお盆の料理についてその特徴を報告する。

    【方法】日本調理科学会特別研究調査ガイドラインに基づき、平成24〜27年度において、昭和35年(1960)年〜45(1970)年頃までの地域に残されている「伝え継ぎたい家庭料理」の行事食について聞き取り調査を実施した。調査対象者は福岡県の4地域の福岡9名、北九州5名、筑豊2名、筑後9名であり、平均年齢は74.0±6.1歳である。

    【結果】正月の料理は4地域において雑煮は基本的に丸餅で、だしはかつお節、昆布を使った澄まし汁が使用され、主材料は海沿いの志賀島や博多では出世魚と呼ばれるブリが使われ、農山部では鶏肉が使われていた。その他の食材として、カツオ菜、大根、人参、牛蒡、椎茸、かまぼこを中心に、お正月の3日間、家庭にある食材をつぎ足しながら作られていた。特に福岡では志賀島でとれる「あご」でだしをとっているのが特徴である。また、黒豆、数の子、がめ煮、かぶの酢の物、田作りが作られていた。お盆の料理では、4地域とも乾燥した本だらを米のとぎ汁でもどして甘辛く煮たものが作られ、宗像では、たらわたも食されていた。また、海藻を煮溶かしたおきゅうとやいぎす、ずいきの酢の物、そしてそうめんが作られ、4地域において食材は異なるが調理法は共通であった。福岡県は日本列島の西南端に位置し、海の幸、山の幸に恵まれており、行事食は地域の生産物を調理する地産地消であるため、輸送にかかる環境負荷を軽減でき、持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献でき、次世代の子どもたちに伝える大事な料理であるといえる。

  • −地域特性に合わせた暮らしぶり−
    萱島 知子, 武富 和美, 副島 順子, 橋本 由美子, 成清 ヨシヱ, 西岡 征子
    セッションID: P-k40
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】九州北部にある佐賀県は、北は玄界灘、南は有明海という異なる海に面し、肥沃な佐賀平野では二毛作が盛んに行われてきた穀倉地帯である。また、世界的に知られている有田焼のように陶磁器の産業も発展してきた。これまで、昭和35〜45年頃の家庭料理について「主食」、「おやつ」、「主菜」、「副菜」の聞き取り調査の内容を報告し、地域特性にあわせた暮らしぶりを明らかにしてきた。今回は、さらに「行事食」について報告し、次世代に伝え継ぐ家庭料理として、その特徴を考察する。

    【方法】調査時期は、平成24〜26年度である。対象者は地域の食文化に精通し、現地居住歴が長い方とした。地域毎に聞き取り調査を行い、一部の料理は実際に調理してもらった。調査地域は、地理的特徴から県内を7地域に分け、松浦郡有田町、武雄市山内町、杵島郡白石町、鹿島市、唐津市、佐賀市、神埼市を対象とした。

    【結果・考察】まず、正月料理として、焼き物の里として知られる有田地域にて、窯元ならではのエピソードが「鏡餅」や「にらみいわし」といった料理にて語られた。また、1月7日には、「七草の味噌おつゆ」という味噌汁を、無病息災を祈願し朝食で食べていた。さらに、6月1日は山登りの日とされ、仲間と一緒に「えんどう豆のおにぎり」を食べていた。次に、秋のおくんち料理として、有田地域では「栗入りせっかん」、「煮ごみ」、「鯛の煮ふたち」といった料理が、色鮮やかな有田焼の大皿に盛り付けられ、振る舞われていた。「煮ごみ」は、山内地域でも作られ地域による相違点がみられた。以上より、年中行事を大切にし、人々の交流と共に食を楽しむ様子がみられ、地域特性にあわせた豊かな暮らしぶりがうかがえた。

  • −地域特性を取り入れた共通行事食−
    冨永 美穂子, 石見 百江, 久木野 睦子
    セッションID: P-k41
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】九州の西北部に位置する長崎県は,温暖湿潤な気候であるが平坦地に乏しく,多くの離島を有し,急傾斜地も多い.一方で古代から中国を中心とする大陸の文化や技術の影響を受け発展し,食文化においても気候風土に加え,異国文化の影響が反映されてきたといえる.この長崎県の食文化を次世代に伝え継ぐことを目的に,家庭料理として食されてきた(いる)行事食の特徴を文献,聞き書き調査等から得られた情報を中心に明らかにすることとした.

    【方法】長崎県における行事食に関して郷土料理,郷土史に関する文献等を参考に季節行事や冠婚葬祭時に食される料理に関する資料を収集した.平成25,26年度にかけて長崎市,対馬市,壱岐市,雲仙市,新上五島町において現地居住歴35年以上の方20名(居住歴平均:70年)を対象に家庭料理に関する聞き書き調査を行い,昭和30〜40年代当時の行事食に関する内容をピックアップした.

    【結果】聞き書き調査を行った5地域において,正月は雑煮,煮しめ,煮豆,魚・肉料理,上巳の節句はすし類,よもぎ餅類,端午の節句には赤飯,ちまき,盆はまんじゅう,麺類,彼岸にはおはぎ・ぼた餅類がほぼ共通して食されていた.使用される食材が地域により異なっていたが,ブリ,ハマチ,クジラ,イカ,鶏肉,豆類,季節の野菜類が使用され,各地域特有の料理が存在するとともに同じ料理でも行事によって使用する食材に変化をもたせていた.

  • −人々の暮らしの中に息づいてきた四季の味−
    秋吉 澄子, 原田 香, 小林 康子, 柴田 文, 川上 育代, 中嶋 名菜, 北野 直子, 戸次 元子
    セッションID: P-k42
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」において、地域に残されている特徴ある家庭料理を、地域の暮らしの背景とともに記録し、各地域の家庭料理研究の基礎資料、家庭・教育現場での資料、次世代へ伝え継ぐ資料などとして活用することを目的に、聞き書き調査を行った。【方法】熊本県内を6地区(阿蘇、県北、熊本近郊、県南、天草、球磨)に分類し、昭和35〜45年頃に各地域に定着していた家庭料理について、11名の協力者を対象に聞き書き調査を行った。その調査結果や参考文献を基に、熊本県の行事食の特徴を検討した。【結果】正月には「雑煮」、「辛子蓮根」、「のっぺ」の他、「吉野ずし」、「このしろの姿ずし」、「ねまりずし」などが各地域で作られていた。御正忌にはお寺で「こしょう大根」が作られ、参拝者に振る舞われた。ひな祭りには「ひともじのぐるぐる」や「みなみそ」が、6月中旬の田植えを終えた頃には「さなぼりまんじゅう」が食べられた。7月や8月の盆には「あんこかし」、「棒だら」が作られ、それ以外にも人が集まる際には地元で採れる山菜を使ったおこわや煮しめが作られた。地域の行事では、2月初午に天草地区で「がね揚げ」、3月上旬益城町木山地区の初市で「市だご」、3/16人吉・球磨地区の猫寺さんの祭りで「お嶽だんご」、5/31〜6/1八代地区の氷室祭で「雪もち」、10/25多良木地区の天神さんの祭りで「つぼん汁」、11/15和水地区の山太郎祭で「がね飯」、その他の祭りや結婚式などで天草地区では「ぶえんずし」が作られた。行事食は地元で採れる四季折々の旬の食材を活用し、地域の人々の楽しみとして暮らしに根付いていることが分かった。

  • −時間をかけて作られる山海美味の料理−
    西澤 千惠子, 篠原 壽子, 立松 洋子, 望月 美左子, 高松 伸枝, 宇都宮 由佳
    セッションID: P-k43
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】伝統的な地域の料理が伝承されにくくなっている現在、大分県の次世代に伝え継ぐ家庭料理を暮しの背景とともに記録し、家庭料理の基礎研究とするだけでなく、家庭や教育現場で利用可能な資料とすることを目的とした。

    【方法】本研究は、平成24〜26年度に大分県内8地域における昭和35〜45年頃までに定着していた家庭料理について、60歳以上を対象とし聞き書き調査を行なった。次に大分県で食されていた家庭料理のうち、特に行事食とその特徴について検討した。

    【結果】大分県は九州の北東部に位置し、東側は遠浅の瀬戸内海とリアス式海岸の豊後水道に面している。西側には九州山地があり、その間に平野や盆地が点在している。自然が豊かなため新鮮で豊富な食材に恵まれていて、日常食は自給自足を基本としていた。大分県の行事食は2つに分類される。

    ①身近にある食材に時間と手間をかけたもの・・・「物相ずし」、「みとりおこわ」、「鰺の丸ずし」、「くじゃく」、「がめ煮」、「あいまぜ」、「おひら」、「酒まんじゅう」、「寒天」、「けんちん」

    ②大切に育てていたものや貴重品を材料にしたもの・・・「鶏飯」、「鯖ずし」、「鯛めん」、「たらおさ」、「いぎす」

    内陸部にあるくじゅう高原では、大切に育ててきた鶏を使って「鶏飯」や「鶏汁」にしてお客様をお迎えした。「たらおさ」は、北海道産の真鱈のえらと胃の乾物を材料にした日田を中心とした地方のお盆の料理である。

    どの料理も心を込めて丁寧に時間をかけて作られていた。

  • −正月料理と秋の駄祈念−
    篠原 久枝, 長野 宏子, 磯部 由香, 秋永 優子
    セッションID: P-k44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】日本調理科学会特別研究「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」の中から、宮崎県の行事食として東臼杵郡南部地区諸塚村の正月料理と児湯地区孫谷の駄祈念の特徴を明らかにすることである。

    【方法】特別研究「次世代に伝え継ぐ日本の家庭料理」において、諸塚村在住の女性5人および孫谷の男性1名女性2名(昭和2年〜昭和22年生)に昭和40年頃の家庭料理の聞き書き調査を行った。

    【結果】諸塚村は山間部に、孫谷は日向灘沿いに位置している。諸塚村の正月料理は煮しめ、尾頭付きのいわしの塩焼き、白和え、なます、吸い物、栗おこわと煮豆の7種類を漆塗りの八重椀に盛った祝い膳で、大晦日に供される。塩いわしは熊本県からトロ箱で購入した。煮しめに使う厚揚げは、大豆から豆腐、さらに豆腐を揚げて作っていた。白和えのこんにゃくも芋から作っていた。煮しめのぜんまい、たけのこ、椎茸、栗おこわの勝ち栗等、旬の食材を乾燥し保存したものを正月料理に用いていた。

     駄祈念は旧暦9月15日、稲の収穫後に豊作を感謝し、家内安全・牛馬安全・五穀豊穣を水神様に願う行事である。料理は、畑で収穫した材料を用いたひき肴(豆腐とハスガラ、こんにゃくの煮しめ)、なます、煮しめ、ぜんざいを、昔も今も男たちが平釜で作る大盛料理である。一人一人の手の平に配ったひき肴の豆腐とハスガラは、パックと食べるユニークな食べ方である。駄祈念帳には大正時代から収入支出、参加人数、牛馬数等が記録保存されていた。竹ノ棒に半紙を挟んだ会計報告や、枡に米を入れた伊勢神宮等の代参くじが行われる。代参は農家の骨休め、見聞を広める旅行という意味があった。小さな村の秋祭りは、酔い止めの柿も膳に用意され夜遅くまで宴は続く。

  • −自然豊かな薩摩の祝い食−
    木之下 道子, 木下 朋美, 大山 典子, 山下 三香子, 久留 ひろみ, 進藤 智子, 山﨑 歌織, 新里 葉子, 森中 房枝
    セッションID: P-k45
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】鹿児島県は、奄美群島などの島しょ部を含み南北600kmに渡る。温帯から亜熱帯気候に属し自然豊かで食材の変化に富み、南方の国々等の影響を受けながら食文化が発達してきた。昔から続く鹿児島の行事食を次世代に伝え継ぐ目的で本調査を行った。

    【方法】平成24〜26年に鹿児島の行事食について聞き書き調査した内容に加え、郷土誌やふるさとの食のレシピ集等を併せて資料とした。

    【結果】餅が貴重だった時代、鹿児島の正月料理には里芋を用いる風習があった。正月飾りに里芋と餅を並べたり、子孫繁栄を願った「八つ頭の雑煮」に「かしわのうま煮」「煮豆」「刺身」「なます」「干し柿」など手作りの家庭の味を楽しんだ。年始客のもてなしには「焼き海老の雑煮」「春羹」「こがやき」なども加えられた。奄美群島ではおせち料理や雑煮に代わって、「餅の吸い物」「刺身」豚または鶏の吸い物からなる「三献」が大切にされる。七草粥は7歳の子供の成長を地域ぐるみで見守る行事としての意味合いがある。桃の節句に欠かせないちらしずしは「さつますもじ」と呼ばれ、祝菓子としての「軽羹」「高麗餅」「いこ餅」「小豆羹」「木目羹」などの蒸し菓子が作られてきた。端午の節句では、もち米を木灰汁につけ、竹の皮で包んで3時間以上煮た「あく巻き」が作られる。また、サンキライの葉で包む「かからん団子」肉桂の葉で包む「けせん団子」「ふっの餅」(よもぎ餅)などもある。盆料理は「かいのこ汁」や「といもがらのなます」「糸瓜のそうめん汁」「落花生豆腐」と「鼻つまん団子」などが特徴的だ。秋の収穫を祝う行事では「煮しめ」や「山芋のおとし揚げ」などもある。以上のように鹿児島に根付く独特の行事食が多く見受けられた。

  • −年中行事の料理を中心に−
    喜屋武 ゆりか, 森山 克子, 大城 まみ, 名嘉 裕子, 田原 美和
    セッションID: P-k46
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/07
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    【目的】

    日本調理科学会「次世代に伝え継ぐ 日本の家庭料理」研究の一環として,1960〜1970(昭和35〜45)年頃までに定着していた家庭料理の中でも,沖縄の行事食の特徴と年中行事の主な料理について報告する。

    【方法】

    1.平成24〜26年度の聞き書き調査報告書,その後の補足調査,文献等を基に整理する。2.聞き書き調査は,沖縄県の北部(本部町),中部(読谷村宇座・沖縄市登川),南部(那覇市),宮古(旧伊良部町),八重山(石垣市登野城)の5地域で行った。

    【結果・考察】

    沖縄の年中行事の主な料理として、正月は、中身汁(豚胃腸の吸い物)、イナムドゥチなどの豚肉料理やクーブイリチー(昆布の炒め煮)、ターンムディンガク(田芋でんがく)などがある。十六日や清明祭、旧盆などの祖先祭祀は、乾肴と餅を対にした重箱料理を供え、盛大に行われる。乾肴の重箱は、豚三昧肉・昆布・牛蒡などの煮染め、揚げ豆腐、田芋のから揚げ、魚天ぷら、かまぼこなどを5、7、9品(奇数)とする。旧盆の初日、祖先をウンケー(お迎え)する日は、ウンケージューシー(炊き込みご飯)を供える。ユッカヌヒー(旧暦5月4日)はいわゆる子どもの日で、チンビン(小麦粉と黒砂糖を混ぜて焼いた菓子)を食べ、子どもの健康を祈願する。十五夜(旧暦8月15日)は、フチャギ(ゆでた小豆をまぶした餅)を供える。旧暦12月8日は、子どもの健康祈願、厄払いとしてムーチー(月桃やクバの葉に包んで蒸した餅)を作る。トゥシヌユルー(年越し)には煮染め豚肉をのせた沖縄そば、ソーキ汁(豚あばら肉の汁物)など、豚肉料理を食べることが多い。今回の聞き書き調査の結果、行事食、年中行事の料理は地域・身近な人々との共食を通して、精神的なつながりを大切にしている特徴がみられた。

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