理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
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口述演題
  • 小栢 進也, 久保田 良, 中條 雄太, 廣岡 英子, 金 光浩, 長谷 公隆
    セッションID: O-MT-09-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    膝を伸展させる代表的な筋は大腿四頭筋であるが,足や股関節の筋は下腿や大腿の動きを介して膝を伸展できる。このため,ヒトの多関節運動においては膝関節以外の筋も膝伸展運動に関与する。変形性膝関節症(膝OA)患者は立脚初期の膝伸展モーメント低下が報告されており,大腿四頭筋の膝伸展作用が低下している。しかし,膝OA患者は大腿四頭筋以外のどの筋で膝伸展作用を代償しているのか明らかではない。筋骨格シミュレーションによる順動力学解析は筋張力と関節角加速度の関係性を計算式により算出することで,膝伸展運動における筋の貢献度を調べることができる。そこで,本研究では膝OA患者の歩行分析から,筋が生み出す膝関節角加速度を調べ,膝伸展に貢献する筋を調べる。

    【方法】

    対象は膝OA患者18名(72.2±7.0歳),健常高齢者10名(70.5±6.7歳)とした。被験者の体表に18個のマーカーを貼り,三次元動作分析システム(3DMA-3000)およびフォースプレートを用いて歩行動作を測定した。マーカーの位置情報には6Hzのローパスフィルターを適用した。次に,OpenSimを用いて順動力学筋骨格シミュレーション解析を行った。8セグメント,7関節,92筋のモデルを使用した。解析はモデルを被験者の体に合わせるスケーリング,モデルと運動の力学的一致度を高めるResidual Reduction Algorithm,筋張力によってモデルを動かすComputed Muscle Controlを順に行い,歩行中の筋張力を計算式により求めた。さらに各筋の張力と膝関節角加速度の関係性を調べるためInduced Acceleration Analysisを用いた。データは立脚期を100%SP(Stance Phase)として正規化し,立脚初期(0-15%SP)での各筋が生み出す平均膝伸展角加速度を求めた。統計解析には歩行速度を共変量とした共分散分析を用い,筋張力と筋が生み出す膝伸展加速度を膝OA患者と健常高齢者で比較した。

    【結果】

    0-15%SPの張力は大腿広筋,足背屈筋群,ひらめ筋,腓腹筋で膝OA患者が健常高齢者より有意に低く,股内転筋群で有意に高い値を示した。膝伸展角加速度の解析では大腿四頭筋(膝OA患者2656±705°/sec2,健常高齢者3904±652°/sec2),足背屈筋群(膝OA患者-5318±3251°/sec2,健常高齢者-10362±4902°/sec2),ヒラメ筋(膝OA患者1285±1689°/sec2,健常高齢者3863±3414°/sec2),股内転筋群(膝OA患者1680±1214°/sec2,健常高齢者1318±532°/sec2)で有意差を認めた。

    【結論】

    膝OA患者と健常高齢者では大腿四頭筋と足背屈筋群に大きな差を認めた。膝OA患者は立脚初期の大腿四頭筋の発揮張力低下により膝伸展作用が低下する一方で,前脛骨筋を含む足背屈筋群の発揮張力を減少させ,その膝屈曲作用を低下させている。足背屈筋群は下腿を前傾することで膝を屈曲させるため,膝OA患者は足背屈筋群の張力発揮を抑えて立脚初期に膝屈曲が生じない代償パターンにて歩行していることが明らかとなった。

  • 65歳以上の女性を対象とした検討
    平井 達也, 藁科 弘晃, 小山田 有希, 間瀬 陽祐, 鶴田 聖寿, 石川 康伸, 若月 勇輝, 吉元 勇輝, 石井 大
    セッションID: O-MT-09-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    従来から,変形性膝関節症(膝OA)の筋力と臨床成績の相関が低いこと(和田1994)や筋力増強の症状改善効果がないこと(Callagha 1995)が報告されている。一方,膝OA患者の下肢運動調整能力に関して,膝の関節位置覚の低下(Barrett 1991)や下肢筋活動の協調性の異常(Hubley-Kozey 2009)が報告されている。我々は,高齢者の下肢運動調整能力を測定するために,PC画面上に描かれた目標軌跡(円・星)をマウスが内蔵された下肢装着デバイス(デバイス)を使用してなぞり,その指標:運動時間(MT)および目標軌跡からの逸脱面積(EA)を算出するシステム(下肢運動調整能力測定装置:装置)を作成した。指標の信頼性と妥当性(藁科2016)は確認されているが,膝OAを対象とした検討はされていない。本研究の目的は,膝OAを有する高齢者に対する装置による下肢運動調整能力と10m歩行速度との関連を検討することである。

    【方法】

    対象はH28年6月から8月に当院受診し片側膝OAと診断された65歳以上の高齢女性11名(平均年齢71.8歳,右膝OA6名,左膝OA5名)とした。対象はすべて独歩にて日常生活が自立していた。下肢運動調整能力の測定は椅子座位にて,測定足にデバイスを取り付け,股関節・膝関節90°を開始姿勢とした。目線の高さ前方1mのPCモニターに開始と終了場所が示された円・星のいずれかを写し,黒い線で示した目標軌跡に対し「できるだけ正確に」なぞるよう指示した。開始場所から終了場所のMT(秒)とEA(pixels)を記録した。10m歩行速度はリハ室に設置した歩行路でストップウォッチを使用して時間(秒)を計った。円・星コースのMTとEAにおける患側と健側の比較(Wilcoxon順位和検定),各指標と10m歩行速度との相関(Spearman順位相関係数検定)を検討した(有意水準は5%)。

    【結果】

    下肢運動調整能力の平均値(標準偏差),円のMTは患側30.0(23.3)秒,健側30.1(20.1)秒,EAは患側119612(8883)pixels,健側17798(6399)pixels,星のMTは患側43.3(21.3)秒,健側48.2(28.1)秒,EAは患側20650(6402)pixels,健側20070(7631)pixelsであった。全ての患側と健側の間に有意差はなかった。10m歩行速度は6.2(0.7)秒であった。相関分析において,10m最大歩行速度と星の健側EAとのみ有意な相関(rs=0.67,p=0.03)があった。

    【結論】

    従来,膝OAの下肢運動調整能力は低下するとされているが,本研究の対象者においては低下していなかった。理由として,患側と健側という要因に支持脚と機能脚という要因や腫脹の有無などの問題が交絡要因となった可能性が考えられる。健側の星におけるEAと10m歩行速度との関連があったということは,膝OAを有する高齢女性においては,健側下肢の運動調整能力が歩行能力と関連する要因であることを示す。膝OAに対する理学療法においては,患側のみならず,健側下肢に着目する必要があることを示唆する。

  • ―術後平均10年経過例における大腿四頭筋の等尺性筋力解析から―
    桜井 徹也, 佐藤 潤香, 野口 英雄, 石井 義則
    セッションID: O-MT-10-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(以下TKA)後の大腿四頭筋筋力低下に関する報告の多くは術後短期間での成績であり,術後長期成績に関する報告は少ない。近年大腿四頭筋筋力(以下QS)は患者立脚型評価であるKnee Society Knee Scoring System(以下KSKSS)にて定義されている基本的活動ならびに応用的活動と高い相関関係があると報告されており,Furuらは(J Orthop Sci. 2016),QSはTKA術後患者の満足度や活動復帰においても重要であると報告している。本研究の目的は両側TKA術後平均10年経過例におけるQSをTKA症例と年齢を合わせた健常例と比較し,同時に同一症例間で左右異なるデザインのQSへの影響を検討することである。

    【方法】

    両側変形性膝関節症と診断され,一側をDepuy社製LCS Total Knee System後十字靭帯温存型(以下CR群)に置換し,もう一側を切離型(以下PS群)に置換した二期的両側TKA34例68膝を対象とした(平均年齢81歳,69-96歳)。手術はすべて同一術者によって施行され,CR群のフォローアップ期間は111カ月,PS群は114カ月であった。またTKA症例と年齢を合わせた膝への愁訴のない健常例35例70膝を対照群とした(平均年齢83歳,71-92歳)。大腿四頭筋筋力測定はアルケア社製ロコモスキャンにて,膝20°屈曲位での等尺性膝伸展筋力を測定した。各群3回ずつ測定し,最大値を代表値として,体重に対する筋力比(以下MS/BW;N/kg)を検討項目とした。医療側評価としてHospital for Special Surgery(以下HSS)スコア統計と患者立脚型評価であるKSKSSを実施した。

    【結果】

    MS/BWにおいて,CR群は3.3(1.4-10.5),PS群は3.4(0.9-9.3),対照群は4.6(0.4-8.8)であった。CR群とPS群との間に有意差を認めなかったが,健常群と比較しCR群・PS群ともに有意に低値を示した(CR群p=0.020,PS群p=0.024)。HSSはCR群95/100点,PS群95/100点であったが,KSKSSはCR群132/180点,PS群132/180点とそれぞれ低値を示した。

    【結論】

    本研究の結果より術後平均10年経過例において,臨床成績が良好にも関わらずCR群・PS群のいずれにおいても体重に対する筋力比が同年代の健常者と比較して有意に低値を示しており,大腿四頭筋の筋力低下が術後中長期においても残存していることが示唆された。また,CR群・PS群間で差を認めず,PCL温存は大腿四頭筋筋力の点において大きなメリットにならないことが示唆された。今回の結果から,医療側評価スコアが高値にも拘らず,患者自身の満足度が低く,残存する大腿四頭筋筋力低下もその一因であることが推察された。昨今の在院日数の短縮化や診療報酬改定によるリハビリテーション期間の短縮化が進められている中,TKA後の患者満足度や活動復帰にとって大腿四頭筋が重要であることを考慮し健常例と同レベルまでに改善させるためには,ホームエクササイズの提案など,大腿四頭筋筋力強化の長期間の継続が必要であることが示唆された。

  • 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 五十嵐 祐介, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: O-MT-10-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    我々は,人工膝関節全置換術(以下TKA)施行前後の膝関節屈曲・伸展筋力や関節可動域などの身体機能面の経時的変化について報告してきた。しかしながら,本邦におけるTKA施行前後の身体能力の推移については,多施設間でのデータ蓄積による報告や縦断研究での報告が少なく,目の前の患者がどのような経過を辿るのかが明確になっているとは言い難い。そこで,本研究ではTKA施行前後の身体能力面における経時的推移を示すことを目的とする。

    【方法】

    対象は2010年4月から2015年8月までに4病院でTKAを施行し,術前,術後3週,術後8週,術後12週の4時期全てで5m歩行時間,Timed Up&Go Test(以下TUG),Quick Squat Test(以下QST)を評価している症例とした。それぞれの症例数と平均年齢は,5m歩行時間で219膝,72.9±7.9歳,TUGで214膝,72.7±7.9歳,QSTで176膝,73.8±7.9歳であった。上記の評価項目について4時期における推移を一元配置分散分析にて統計解析した(SPSS Ver.19)。なお,QSTとは我々が独自に用いている評価法であり,膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い,その回数を評価するものである。

    【結果】

    各評価項目における平均値の推移を,術前,術後3週,術後8週,術後12週の順に示す。5m歩行時間(秒)は5.0±2.0,6.1±2.9,4.6±1.6,4.2±1.6,TUG(秒)は12.2±5.3,14.8±8.1,10.9±4.1,10.3±4.8,QST(回)は9.3±3.2,9.1±3.3,10.6±3.3,11.5±3.1であった。各評価項目とも術前と術後12週,術後3週と術後8週・12週との間に有意差が認められ,術後8週と術後12週の間には有意差は認められなかった。また,5m歩行時間とTUGでは術前と術後3週に有意差が認められた。

    【結論】

    QSTは伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle以下SSC)運動であり,SSC運動はスポーツ選手の投擲動作時やジャンプ施行時から健常者の通常歩行時まで幅広い動作において認められている。我々はこれまでTKA患者のQST回数と歩行速度やTUGにおいて相関が認められたことを報告しており,QSTが動作能力を反映すると考えている。今回の結果から,術前よりも術後3週は低下傾向を示すも,術後8週間経過すれば術前よりも改善傾向を示し,術後12週経過すれば術前よりも改善するというTKA患者の短期的な身体能力の推移が示された。この結果は,これまでに報告してきた身体機能面の回復過程とほぼ同様の経過を示した。そして,術後8週と術後12週の間に有意差が認められなかったことから,術後12週間経過すれば身体能力面は概ねプラトーに達する可能性が示唆された。術前や術直後の患者は,手術に対する期待と共に不安感や術直後の強い疼痛から,今後どのような経過を辿るのか疑問や不安を持つことも少なくない。そのような患者を前に,臨床から生まれたデータを基に身体能力の推移を提示し,患者に還元することは意義のあることと考える。

  • 富田 樹, 弦巻 徹, 皆川 陽美, 藤澤 汐里, 齋藤 昭彦, 天本 藤緒
    セッションID: O-MT-10-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    変形性膝関節症(以下,膝OA)のうち,約1割は手術療法を行なっている。OARSIのガイドラインでは,非薬物療法と薬物療法の併用によって十分な疼痛緩和と機能改善が得られない膝OAの場合は手術を考慮するとされている。手術適応には明確な定義がある訳ではなく,手術適応に関する研究は少ない。また,保存療法を選択している膝OA患者には手術療法を選択するべきか悩んでいる場面に臨床上遭遇することが多い。

    手術適応となった例と手術回避となった例の患者特性を知ることで,保存療法希望患者への適切な説明や指導が可能となると考えられる。

    そこで,自由が丘整形外科を受診した膝OA患者の中で,手術を回避できた例,手術適応にて他院紹介となった例の患者特性の検討を行った。

    【方法】

    2014年1月から2016年8月までの間に当院にて,膝OAまたは骨壊死の診断がつき,医師より手術(人工関節置換術または高位脛骨骨切り術)目的で他院へ紹介した88人122膝(男:女=17:61,年齢67.51±9.83歳,身長1.58±0.08m,体重61.51±12.24kg,BMI24.21±4.43)を手術適応群,当院にて保存療法を実施し手術を回避できている人のうち,無作為に148人202膝(男:女=23:125,年齢63.97±10.24歳,身長1.58±0.08m,体重56.84±9.59kg,BMI22.83±3.05)を抽出し手術回避群とした。自己免疫疾患を合併している症例は除外した。解析項目として年齢,身長,体重,BMI,YAM,内科的疾患のうち糖尿病,高脂血症,高血圧の有無を抽出し検討した。

    保存療法(ステロイド注射,リハビリ期間3ヶ月以上)を継続したが,手術適応となった群25人36膝(男:女=4:24,年齢67.92±9.51歳,身長1.59±0.09m,体重64.31±12.49kg,BMI25.44±3.37)と手術回避群45人49膝(男:女=3:42,年齢65,84±9.08歳,身長1.55±0.07m,体重55.28±9.8kg,BMI22.82±3.1)で上記項目に加え,レントゲン上よりkellgren-lawrenceの分類(以下KL分類),大腿脛骨角,MRI上より骨髄浮腫,骨壊死,ACL損傷の有無を抽出し検討した。

    統計学的処理はそれぞれ対応のないt検定,χ2検定を使用し,有意水準は5%とした。

    【結果】

    年齢,体重,BMIは手術適応群が有意に高値を示し,YAMは有意に低値を示した(p<0.05)。一方で,内科的疾患には有意差が認められなかった。

    保存療法を継続したが手術適応になった群では,体重,BMI,大腿脛骨角が有意に高値を示した(p<0.05)。保存療法を継続したが手術になる因子として,高脂血症の有無,ACL損傷の有無,骨髄浮腫の有無,KL分類に有意な関連があることが示唆された(p<0.05)。

    【結論】

    本研究において,膝関節が構造的に破綻している場合は,保存療法の効果が見込みにくいといえることが示唆された。しかし,構造的問題以外において,手術回避群では高脂血症や体重過多が有意に少ないことが特徴として挙げられる。このことから,運動指導や食事指導,生活指導を行なうことで体重コントロールや生活習慣の改善が見られた場合,手術回避が可能となる可能性が示唆された。

  • 中北 智士, 岡 智大, 和田 治
    セッションID: O-MT-10-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】高齢者の社会活動への参加は健康や生活機能の維持に重要である。変形性膝関節症(膝OA)患者では,機能障害などにより社会活動が減少している可能性があるが,臨床では積極的に社会活動を行っている患者も存在する。膝OA患者の社会活動を促進するためには,社会活動に影響する因子を把握する必要があるが,膝OA患者の社会活動を規定する因子は明らかでない。したがって,本研究では膝OA患者の社会活動の実施状況を明らかにし,社会活動への関連因子を検討することを目的とした。

    【方法】対象は膝OAを原疾患として当院へ外来通院中である患者101名(年齢75.7±5.3歳,患側gradeIV/III/II;62/30/9名,健側gradeIV/III/II/I;37/28/26/10名)とし,仕事をしている者や歩行に影響を及ぼす他の疾患を有する者は除外した。社会活動の評価には,いきいき社会活動チェック表の「社会的活動」を用い,点数および年齢により「1;やや不活発」「2;普通」「3;やや活発」「4;非常に活発」の4段階で判定した。身体機能として膝関節可動域,膝関節伸展筋力,歩行速度,歩行時痛,Timed Up & Go test,the New Knee Society Score(KSS)を測定した。社会活動の実施状況の把握のために,全対象者のうち「社会的活動」の各段階に占める対象者の割合を算出した。その後,統計学的解析として対象者を「社会的活動」より不活発群(やや不活発)と活発群(やや活発・非常に活発)の2群に分け,年齢,BMI,膝関節gradeおよび各評価項目の差の検討を行い(Mann-Whitney U検定およびχ2検定),有意差がp<0.25であったものを独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】本研究の対象者における社会活動は不活発30名(27.5%),普通46名(42.2%),やや活発22名(20.2%),非常に活発3名(2.8%)であった。単変量解析の結果,有意差がp<0.25であった項目は年齢(p=0.21),患側膝伸展可動域(p=0.13),健側膝伸展筋力(p=0.03),歩行速度(p=0.12),KSS(p=0.12)であり,多変量解析の結果,社会活動に関連因子として年齢(オッズ比=1.21,p=0.01),KSS(オッズ比=1.03,p=0.045),健側膝伸展筋力(オッズ比=17.34,p=0.01)が抽出された。

    【結論】本研究結果より年齢,健側膝伸展筋力および膝関節機能が社会活動に関連することが明らかとなった。膝OA患者では患側下肢への荷重量が減少し,健側下肢へ依存した動作パターンとなっている可能性があり,膝OA患者の社会活動を向上するには患側機能のみならず健側機能にも着目することが重要であると考えられる。また,社会参加と身体機能には相互関係があるため,社会活動の向上が膝関節機能の維持・向上に繋がる可能性がある。

  • 小林 裕生, 廣瀬 和仁, 板東 正記, 藤岡 修司, 田中 聡, 加地 良雄, 山本 哲司
    セッションID: O-MT-10-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    関節疾患は,高齢者が要支援に至る要因として最も割合が高い。特に下肢の関節疾患は,移動能力の低下をきたすため変形性膝関節症(膝OA)は,健康寿命に影響を及ぼす疾患である。したがって,膝OA患者の機能低下の予防や予測を行うことは重要である。生活空間が制限されると活動性や身体機能の低下をもたらし,健康悪化の可能性があるといわれている。Life Space Assessment(LSA)は,身体活動性を生活空間で評価でき,健康悪化を予測する初期の指標である。末期膝OA患者の手段的日常生活動作(IADL)の低下とLSAには関係性があり,カットオフ値は56点と報告されている。歩行速度と機能低下の関係は多く報告されているが,LSAを予後予測のアウトカムとし,対象を末期膝OA患者に限定して調査されたものはない。さらに,簡便に評価ができる歩行速度は活動制約に関連する有用な指標であり,歩行速度から予後予測することは意義があると考える。本研究の目的はLSA56点を基準に末期膝OA患者を群分けし,歩行速度と身体活動量を比較すること,IADLの低下を予測する歩行速度のカットオフ値を求めることとした。

    【方法】

    対象は末期膝OA患者40名(年齢74.2歳±6.9,BMI26.2±3.6kg/m2,男性12名,女性28名,KL分類:GradeIII7名,GradeIV33名)であった。測定項目は,10m歩行テスト,身体活動量の評価としてInternational Physical Activity Questionnaire-short version(IPAQ-sv)とLSAを使用した。10m歩行テストは独歩,通常歩行速度で2回測定し平均時間より歩行速度(m/min)を算出した。IPAQ-svは,質問紙より1週間の平均運動消費エネルギー(kcal)を求めた。LSAは0~120点で評価され,得点が高いと活動性が高い(生活空間が広い)ことを示す。また,対象者をA群(LSA<56点,IADL低下リスク有),B群(LSA>56点,IADL低下リスクなし)の2群に分類した。統計学的解析として,両群における歩行速度とIPAQ-svの比較に2標本t検定,Mann-Whitney検定を使用した。さらに,歩行速度とLSAの得点とのROC解析を行い,IADLの低下を予測する歩行速度のカットオフ値を算出した。いずれも有意水準は5%とした。

    【結果】

    本研究では,A群10名,B群30名であった。群間比較の結果,歩行速度(m/min)はA群49.5±13.8,B群59.5±12.5で有意差をみとめた(p=0.04)。IPAQ-sv(kcal)はA群326.3±639.3,B群4404.7±6426.8であり有意差をみとめた(p<0.01)。ROC解析の結果,歩行速度のカットオフ値は54.2m/min(AUC:0.72,p=0.02),感度63.3%,特異度80.0%,陽性尤度比3.1,陰性尤度比0.4であった。

    【結論】

    本研究の結果,生活空間が狭いと歩行速度は遅く,身体活動量が少ないことが明らかとなった。歩行速度52.4m/minは末期膝OA患者におけるIADLの低下を予測するための有用な指標になることが示唆され,対象者の特性を考慮した理学療法介入や社会参加の提案の一助になると考える。

  • 村田 健児, 国分 貴徳, 鬼塚 勝哉, 藤原 秀平, 中島 彩, 森下 佑里, 藤野 努, 高柳 清美, 金村 尚彦
    セッションID: O-MT-10-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    ヒトは,関節の「緩さ」や「硬さ」といった身体的特徴が,運動器疾患の発症に関連することを経験的に理解している。我々は,関節の「緩さ」を関節不安定性と定義し,関節軟骨の変性に関節不安定性が寄与することを実験的に報告した。しかし,関節不安定性が軟骨変性メカニズムに及ぼす一連の応答機構についての理解は十分でない。近年の報告では,滑膜に近接する軟骨辺縁部の骨棘は,関節不安定性によって増進し,関節軟骨の変性を促進することが報告されている。このことから,関節不安定性を制動した場合,骨棘形成を抑制し,軟骨変性を予防できると仮説をたて,実験的に検証した。

    【方法】

    10週齢Wistar系雄性ラット56匹を,ACL断裂による関節不安定群(ACL-T群,22匹),関節不安定性を制動した群(CAJM群,22匹),介入は行わないコントロール群(INTACT群,12匹)の3群に分類した。術後2,4週目で膝関節を採取し,軟X線を用いて本モデルの関節不安定性を検証した。骨棘の評価は,軟X線を用いたOprenyeszkらの方法(2013),組織学的分析はKanekoらの方法(2014)で評価した(大きさと成熟度を0-6点で構成,点数が高いほど骨棘形成が進行)。また,滑膜における骨棘形成に関連する因子(BMP-2VEGFTGF-β)のmRNA発現量について,リアルタイムPCRを用いて検証した。関節軟骨は,インディアンインクによるUdoらに手法(2015)による観察的分析(0-5点で構成,点数が高いと変性が著しい),サフラニンO・ファストグリン染色を用いた組織学的分析(OARSIスコア:0-24点で構成,点数が高いと変性が著しい)で評価した。統計解析は,一元配置分散分析(Tukey法)またはKruskal-Wallis test(Bonfeffoni補正)を行った。また,組織学的な骨棘形成スコアと関節不安定性量について,Spearmanの相関係数を算出した。統計的有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    関節不安定性を示す脛骨前方引出し距離は,2週目時点でINTACT群に比較して,CAJM群は1.8倍,ACL-T群は4.8倍であった(p<0.001)。4週目時点では,INTACT群に比較して,CAJM群は2.6倍,ACL-T群は6.1倍であった(p<0.001)。骨棘は,4週目時点のACL-T群でINTACT群に比較して,有意に高い値であった。組織学的スコアでも,INTACT群に比較して,CAJM群は2.4倍,ACL-T群は3.5倍と有意にACL-T群で高値を示した(p<0.001)。滑膜におけるmRNA発現量はACL-T群においてBMP-2で3.25倍と有意に高い値を示した。組織学的な骨増殖体と関節不安定性の相関係数は0.625であった(p<0.001)。軟骨については,4週目時点のOARSIスコアは,INTACT群に比較して,CAJM群は2.0倍,ACL-T群は10.2倍高値であった(p<0.001)。

    【結論】

    関節不安定性を制動することで,滑膜における骨棘形成因子を抑制し,膝関節の骨棘抑制,軟骨変性を低減した。すなわち,関節不安定性を呈する症例は,変形性膝関節症進行予防のために関節の不安定性を軽減させる必要がある。

  • 湯川 晃矢, 村西 壽祥, 中野 禎, 桑野 正樹, 小藤 定, 小倉 亜弥子, 三上 正和, 市川 耕一, 間中 智哉, 伊藤 陽一
    セッションID: O-MT-11-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    リバース型人工肩関節全置換術(以下,RSA)は,主に広範囲腱板断裂の修復不能例や修復術後の再断裂例に対する外科的治療法として,2014年から本邦にも導入された。RSAは肩甲上腕関節の凹凸形状により三角筋の張力とモーメントアームが増加することで,腱板機能が消失しても三角筋機能により上肢の挙上運動が可能となる。しかし,外旋機能が低下することも報告されており,結髪動作など外旋運動が必要とされる日常生活動作に影響することが考えられる。本研究の目的は,RSA術後における結髪動作について調査し,結髪動作に必要な肩関節機能を検討することである。

    【方法】

    対象はRSAを施行された18例18肩(男性8例,女性10例:平均年齢75.1±5.7歳)で,基礎疾患は広範囲腱板断裂であった。評価時期はRSA術後1年とし,結髪動作の評価指標は「手を頭の後ろにし,肘を前後に動かす」ことが良好な群(以下;G群)と不良な群(以下;P群)に分類した。肩関節機能の評価項目は自動可動域(屈曲・外転・下垂位外旋・外転90°位外旋),他動可動域(屈曲・外転・下垂位外旋・外転90°位外旋),肩関節筋力(屈曲・外転・下垂位外旋・外転90°位外旋)とした。両群における各評価値の比較はマン・ホイットニーのU検定を用いた。なお,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    G群は10名(男性5名,女性5名),P群は8名(男3名,女性5名)で両群の年齢・身長・体重に有意な差はなかった。肩関節機能は,自動可動域において屈曲がG群121.5±14.8°・P群86.4±25.6°,外転がG群119.0±21.4°・P群76.4±24.1°,下垂位外旋がG群26.0±10.1°・P群10.0±6.5°,外転90°位外旋がG群28.5±20.3°・P群5.5±11.1°とG群の方が有意に高かった(p<0.05)。他動可動域および筋力値に有意な差はなかった。

    【考察】

    結髪動作獲得について,中村らは腱板断裂や拘縮肩の症例において屈曲129.1°・外転111.2°・下垂位外旋20.0°・外転90°位外旋51.0°の自動可動域が必要と報告している。本研究においてもG群で同程度の自動可動域が示されたが,外転90°位外旋に関してはRSA症例が低値であり,肩甲胸郭関節などの代償機能によって補っている可能性が考えられる。また,両群に他動可動域および筋力値に差がみられなかったことから,自動可動域の制限要因について更なる検討が必要と考える。

    【結論】

    結髪動作が良好な群と不良な群の肩関節機能について比較を行った。RSA術後症例においては,屈曲・外転・外旋の自動可動域が結髪動作獲得に必要であることが示唆された。特に,外転90°位外旋の自動可動域では肩甲胸郭関節などの代償機能が考えられ,自動可動域の制限要因を含め,今後更なる検討が必要と考える。

  • 原田 伸哉, 石谷 栄一
    セッションID: O-MT-11-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    鏡視下腱板修復術(以下ARCR)は良好な臨床成績が報告されており,近年では客観的尺度のみではなく主観的尺度を用いた報告が散見されるようになってきた。その中でも患者の不安感,不満感がない,いわゆる患者満足度が特に重要であり,これが医療の質を反映するものと考えられる。今回の目的は術後1年の後療法終了時における患者満足度を調査し,疼痛,可動域,筋力との関連性を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は当院にてARCR後に後療法を施行し,術後1年まで経過観察可能かつ利き手が患側の42例。男性22例,女性20例。平均年齢は63.8歳。この対象を中断裂23例,大広範囲断裂19例に分けた。満足度には腱板障害QOL尺度である日本語版WESTERN ONTARIO ROTATOR CUFF INDEX(WORC)のEMOTIONカテゴリーの点数を使用した。VAS100mmの自己記入方式で,不安感や不満感が低値であるほど満足度が高いと定義した。運動療法終了時の疼痛(運動時痛,夜間痛のVAS),可動域(座位自動挙上,下垂外旋角度,結帯は棘突起到達位置を点数化),筋力(90°外転,下垂外旋の筋力体重比)を調査し,EMOTIONカテゴリー点数との相関関係をサイズ毎に分けて検討した。統計処理はspearmanの順位相関係数を用いて有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    EMOTIONカテゴリー点数との相関関係は,中断裂サイズでは運動時痛r=0.70,夜間痛r=0.64で有意な正の相関を認めた。可動域と筋力は有意な相関は認めなかった。大広範囲断裂サイズの疼痛は運動時痛のみr=0.57で有意な正の相関を認めた。可動域は挙上r=-0.48,外旋r=-0.60,結帯r=-0.68で有意な負の相関を認めた。筋力は外旋筋力のみr=-0.68で有意な負の相関を認めた。

    【結論】

    今回の調査で,断裂サイズによって満足度に影響する因子が違うという知見を得た。中断裂サイズは疼痛が満足度に影響し,疼痛が少ないほど満足度が高い。可動域,筋力が相関しない理由として断裂サイズが小さいため,機能低下が軽度で術後の改善が得られやすかったと考えられた。大広範囲断裂サイズは疼痛,可動域,筋力が満足度に影響し,運動時痛が少ないこと,機能面では外旋と結帯可動域が特に良好,下垂外旋筋力が強いほど満足度が高いことが明らかとなった。これらの因子を念頭に入れて後療法を行うことで,患者満足度が向上する可能性が示唆された。

  • 中嶋 良介, 有阪 芳乃, 川井 誉清, 荻野 修平, 村田 亮, 石毛 徳之
    セッションID: O-MT-11-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    腱板断裂術後の経過は術前の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下,JOA score)との関連などが報告されている。近年,患者立脚型肩関節評価法Shoulder36 V1.3(以下,Sh36)の有用性が報告され,普及してきているが,客観的評価と主観的評価の関連に留まり,Sh36良好となった例と術後経過の関連を述べている研究は少ない。そこで本研究の目的は,鏡視下骨孔腱板修復術後の主観的評価の違いが術後経過へ影響を及ぼすか検討することとした。

    【方法】

    対象は2014年3月から2016年5月までに当院を受診し,当院肩専門医より腱板断裂と診断され,鏡視下骨孔腱板修復術を施行し,術後1年経過観察可能であった113例(男性57例,女性56例)とした。年齢は66.4±8.6歳であった。再断裂例および大断裂,広範囲断裂例は対象から除外した。当院ではJOA score,Sh36共に術前,術後3ヶ月,術後6ヶ月,術後1年で取得している。術後3ヶ月時点でのSh36において,スポーツ項目を除いた,疼痛,可動域,筋力,健康感,日常生活機能の5項目34設問がすべて3以上であるものを良好群とし,1つでも3未満の設問があった場合は困難群と定義し群分けを行った。2群間における術後経過の比較にはJOA scoreを用いて検討を行った。JOA scoreはX線所見評価,関節安定性評価を除いた80点満点で評価した。統計学的検討にはSPSSを用い,良好群,困難群の術後6ヶ月,術後1年時のJOA scoreに対し二元配置分散分析にて解析を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】

    良好群は35名,困難群は78名であった。JOA scoreは良好群において術後3ヶ月では54.3点,術後6ヶ月では67.1点,術後1年では73.8点であった。困難群においては術後3ヶ月では43.7点,術後6ヶ月では60.5点,術後1年では71.6点であった。また,術前JOA scoreは良好群51.1点,困難群48点となり2群間に有意差は認められなかった。また,良好群,困難群の術後経過には交互作用が認められた(P<0.05)。

    【結論】

    腱板断裂術後の術後経過は断裂サイズや術前JOA scoreに影響されると報告されているが,本研究の結果より,術後3ヶ月時点でのSh36は術後経過に何らかの影響を及ぼすことが示唆された。術後3ヶ月に主観的評価であるSh36を改善することが術後経過に良好な影響を与える要因になる可能性があると考える。中野らは腱板断裂術前患者において,Sh36の評価の有用性について報告している。本研究の結果より,腱板断裂術後3ヶ月においてもSh36は有用な評価である可能性が示唆された。可動域や筋力などの客観的な指標に加え,術後3ヶ月までに患者が主観的に「やや困難であるができる」と感じる程度まで回復できるよう,術後早期の理学療法を進めていく必要性があることも示唆された。また,今後は術後3ヶ月でSh36が良好となるようなアプローチ・介入方法などの考案も課題として挙げられると考える。

  • 木村 淳志, 西村 勇輝
    セッションID: O-MT-11-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    肩には医学的な定義は明確ではないが,なで肩といかり肩の肩型がある。通常,見た目で判断されるこの分類は,安静時での胸郭に対する肩甲骨の位置や回旋角度の違いによるものであり,肩甲骨運動を不規則にする一因であると考える。本研究の目的は,なで肩,いかり肩が肩甲上腕リズムに与える影響を調査することである。

    【方法】

    対象は肩に愁訴のない成人男性で,事前の調査で分類した普通肩9名,なで肩9名,いかり肩8名の26名(26肩),平均年齢は27.3±4.0歳とした。この分類は,鎖骨遠位端から頚部への線と水平線がなす角度を頸肩傾斜角として,なで肩24°以上,普通肩24未満19°以上,いかり肩19°未満とした判断基準(第50回日本理学療法学術集会)を使用し,普通肩22.7±1.5°,なで肩27.9±2.4°,いかり肩17.9±1.7°で3群に有意な差を認めた。本研究の計測は,磁気センサー式3次元空間計測装置(Polhemus社製)を用いた。運動課題は上肢肩甲面挙上で,下垂位から最大挙上までを練習後,運動を1回行い,上肢挙上0~120°に伴う肩甲骨上方回旋角,後方傾斜角,外旋角および肩甲上腕関節挙上角を10°毎に算出した。この上肢挙上0~120°の算出値と30~120°の10°毎の肩甲上腕リズム(=肩甲上腕関節挙上角/肩甲骨上方回旋角)を普通肩,なで肩,いかり肩の3群で比較した。統計処理は多重比較検定(Bonferroni法)を用い,危険率5%未満を有意差ありと判断した。

    【結果】

    上肢挙上0~120°の肩甲骨上方回旋角は,普通肩(0.7~41.3°)と比較してなで肩(-2.6~36.0)は低値,いかり肩(4.7~42.6°)は高値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は10~50°でなで肩が有意に低値を示したが,普通肩といかり肩の比較は全角度で有意な差を認めなかった。なで肩といかり肩の比較では,0~100°でなで肩が有意に低値を示した。肩甲上腕関節挙上角は,上肢挙上0°は普通肩(6.6°)と比較してなで肩(4.8°)が低値,いかり肩(8.3°)が高値であり,上方回旋角と同様であった。上肢挙上10~120°では逆となり,普通肩(9.7~75.7°)と比較してなで肩(12.2~79.1°)が高値,いかり肩(7.8~75.3°)が低値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は上肢挙上40~60°でなで肩が有意に高値,なで肩といかり肩では上肢挙上10~90°でなで肩が有意に高値であった。上肢挙上30~120°の肩甲上腕リズムは普通肩1.8,なで肩2.7,いかり肩1.6(全例2.0)であり,なで肩は普通肩,いかり肩と比較して有意に高値を示した。

    【結論】

    Inmanは外転30°,屈曲60°まではsetting phaseで肩甲骨の動きは一律ではないと述べている。本研究の結果より,なで肩といかり肩の上肢肩甲面挙上での肩甲骨上方回旋,肩甲上腕リズムに差があるわかり,なで肩やいかり肩の分類も挙上初期の肩甲骨運動を不規則にする要因の一つであることが示唆された。

  • 剪断波エラストグラフィーを用いた筋弾性率の比較
    遠藤 達矢, 小俣 純一, 三浦 拓也, 佐藤 圭汰, 岩渕 真澄, 白土 修, 伊藤 俊一
    セッションID: O-MT-11-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    男女ともに高い有訴率を誇る肩こりにおいて,スティフネスの増加や圧痛を認めることの多い上部僧帽筋に対して筋弾性率を評価し検討している報告は少ない。肩こりに対しては臨床においてホットパックや電気刺激療法などの物理療法が用いられることがあるが,物理療法の種類による効果の差を検討している報告も少ない。近年,組織の弾性率を評価する方法として剪断波エラストグラフィー(以下;SWE)が着目されている。そこで本研究の目的は,肩こりを有する成人女性に対するホットパックと経皮的高電圧電気刺激療法(以下;HVS)の即時的な効果をSWEを用いて検討することである。

    【方法】

    対象は肩こりを有する成人女性54名(年齢40.7歳)とし,対照群,ホットパック群,HVS群の3群に分類した。SWEの測定肢位は腹臥位とし,介入前後の上部僧帽筋の筋弾性率を測定した。筋弾性率は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のSWEを用い,計測を介入前後に各々3回行い平均値を用いた。ホットパック群は湿式ホットパック装置(CL-35,酒井医療社製)を用い,槽内温度を70度とし乾熱法にて実施した。HVS群はPHYSIO ACTIVE HV(酒井医療社製)を用い,周波数50Hz・パルス持続時間50μsecとして,対象者が不快に感じない電流強度で実施した。介入時間は各群10分間とした。統計解析は,3群間での筋弾性率に対する効果の差をみるためにANOVA(Kruskal-Wallis検定)で有意差を確認後,多重比較法(Steel-Dwass検定)を行った。検定に先立って,各変数が正規分布に従うかShapiro-Wilk検定で確認した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    介入前の筋弾性率(中央値を記載)は対照群;36.7kPa,ホットパック群;37.9kPa,HVS群;32.2kPaであった。介入後は対照群;46.3kPa,ホットパック群;28.9kPa,HVS群;24.7kPaであった。介入前の筋弾性率は,ANOVAにて有意な差を認めなかった。介入後は3群間による筋弾性率の比較で,対照群とホットパック群,対照群とHVS群,ホットパック群とHVS群の間に有意な差が認められた。

    【結論】

    ホットパック群とHVS群に関して,両群とも対照群より筋弾性率の改善を示した。また,HVS群はホットパック群より10分間の介入では筋弾性率の改善を示した。今回用いたHVSは,筋組織を刺激する周波数を用いたため,Sandbergらが報告している筋収縮による血流改善作用により高い効果が得られたと考える。ホットパックでは筋組織が最高温度に達するまでに15分以上を要するとされており,ホットパック群とHVS群に差が生じた原因となったと考える。本研究の結果より,肩こり有訴者で上部僧帽筋の筋弾性が低下している場合に,物理療法を行うことは運動療法の前処置として有効である可能性があり,特にHVSを用いることでより介入時間を短縮し筋弾性を改善できる可能性が示唆された。今後,効果の持続や複数の物理療法の組み合わせによる効果の検証が必要と考える。

  • 榊 彰裕, 中北 智士, 芝 俊紀, 和田 治, 岡 智大, 朴 基彦
    セッションID: O-MT-11-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】近年,難治性の凍結肩に対して,外来で簡便にできる超音波ガイド下腕神経叢ブロックによる非観血的授動術(以下:徒手授動術)が施行され,施術後早期より良好な治療成績が報告されている。徒手授動術後の疼痛・可動域に影響を与える因子に,施術前の可動域や糖尿病の有無が挙げられる。他の整形疾患術後患者では,術前の心理的な要因が術後の運動機能に影響を与えるとされ,運動に対する恐怖心が強いと疼痛の慢性化や身体的・心理社会的機能の障害に繋がると報告されている。そのため,徒手授動術患者においても運動恐怖心と機能障害が関連する可能性があるが,それらを報告したものはない。従って,本研究の目的は徒手授動術前の運動恐怖心が,施術後1ヶ月の運動機能に及ぼす影響を検討することとした。

    【方法】対象は,徒手授動術を施行した肩関節拘縮患者23名23肩(男性5名,女性18名,右側14肩,左側9肩,年齢51.4±7.0歳)とした。除外基準は,腱板断裂を合併している者,糖尿病を罹患している者,施術前の他動肩関節屈曲可動域(以下:AE)が90°未満の者とした。評価時期は,施術前1週(以下:Pre)と施術後1ヶ月(以下:Post1m)とした。Preの運動恐怖心の評価にTampa Scale of Kinesiophobia(以下:TSK)を用いた。Post1mの運動機能評価には運動時痛,夜間痛,自動AE,下垂位外旋(以下:ER)可動域を測定し,上肢機能障害の評価にはQuick DASHの機能障害/症状スコアを用いた。統計学的解析には,PreのTSKとPost1mの疼痛,肩関節可動域,Quick DASHとの関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    本研究の結果(Pre/Post1m),TSKは40.4±1.8点/36.1±4.9点,運動時痛は56.3±23.5mm/18.6±14.5mm,夜間痛は59.1±28.4mm/11.0±13.0mm,自動AEは105.7±16.5°/144.1±18.0°,自動ERは13.8±8.9°/46.3±12.4°,Quick DASHは34.5±16.0点/13.9±9.1点となった。単変量解析の結果,PreのTSKとPost1mの運動時痛(ρ=0.52,p=0.01),Quick DASH(ρ=0.54,p<0.01)に有意な相関を認めた。

    【結論】本研究より,徒手授動術前の運動恐怖心は施術後1ヶ月の運動時痛,機能障害に影響を及ぼすことが示唆された。他の整形疾患患者において,術前の運動恐怖心は術後の疼痛,機能障害に影響すると報告されており,本研究においても同様の結果となった。また,運動恐怖心が高い場合では恐怖-回避モデルを形成しやいと報告されている。本研究においても,施術前より運動恐怖心が強いため恐怖-回避モデルを形成していた可能性が高く,施術後も疼痛を引き起こす可能性がある動作や行動を回避または制限したのではないかと考えられ,徒手授動術前の運動恐怖心が施後1ヶ月での運動時痛,機能障害に繋がったと考えられる。そのため,徒手授動術前より運動機能のみならず心理的な要因に対しても治療介入を行う必要があると考えられる。

  • 光田 真緒, 石原 祐輔, 西生 拓磨, 濱松 和也, 中嶋 正明
    セッションID: O-MT-12-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    慢性腰痛患者において腰部多裂筋(LM)が選択的な萎縮を来すことが報告されている。これに対し現在,バードドッグエクササイズが推奨されているが,同運動は多裂筋の静的な等尺性収縮となっている。歩行動作を行う際に手に持って左右に振ることによりLMの活動を高める器具コアループ(CL)(Romage, Inc.)が開発された。CLは,長さ約81cmのプラスチック性の筒で,中に水を入れて重量を調節できる器具である。本研究の目的は,LMに対するCLを用いた動的なエクササイズの有用性を評価するためのパイロットスタディとして,CLを用いた歩行動作におけるLMの活動度および活動特性を筋電図学的に解析した。

    【方法】

    対象は健常大学生15名(男性14名,女性1名:平均年齢21.5±1.5歳,平均BMI20.8±1.3)とした。表面筋電図計はNicolet VikingIV(Nicolet社製)を用いた。筋電図導出筋は左側のLMとした。足踏み群,CL群,重り群の3種類のエクササイズ実施時における筋電図積分(IEMG)を得た。足踏み群は,一定のリズム(1.67Hz)で足踏みをさせた。CL群は同様の条件下でCLを両手で把持し両上肢を前方挙上させ,体幹が回旋しないよう指示し,股関節屈曲側へCLを振る動作をさせた。重り群は水を抜いたCLに水と同重量の重りを巻き付けて同様の動作をさせた。筋電図計測は5秒間行い中央3秒間のIEMGを得た。その後IEMGを最大随意等尺性収縮(MVIC)で除して%MVICを求めた。有意水準はp<0.05とした。統計解析ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。

    【結果】

    LMの%MVICは足踏み群が12.7±4.9%,CL群が24.9±9.2%,重り群が25.0±6.9%であった。CL群と重り群の%MVICは足踏み群に対して有意に高比率(p<0.001)を示したが,これら2群間に有意差は認められなかった。

    【結論】

    足踏み群に比較してCL群,重り群において上肢を振る動作に同期してLMの律動的な筋活動の上昇が観察された。そして,CL群,重り群におけるLMの活動度は,足踏み群に対して有意に高い結果を示した。これは上肢の振りにより生ずる体幹回旋力に拮抗するためにLMの活動が高まったものと推察する。CL群,重り群間で活動度に有意な差がみられなかったが,表面筋電図波形から重り群に比較してCL群の多裂筋の筋電図波形の起伏が緩やかであることが観察された。これはCL内の水の移動に由来するものであると推察する。重り負荷として水を用いることで多裂筋に急激な負荷を与えることなく多裂筋の弱化した者に対して適した負荷形態となる可能性がある。Hodges PWらは,四肢の動きの数10msec前にコアマッスルの活動が高まり体幹を安定させるが,腰痛がある者ではこのコアマッスルの活動が有意に遅れるとしている。本研究の上肢を振る動作に同期したLMの律動的な筋活動の上昇は,CL群,重り群のエクササイズが適切なタイミングで多裂筋が活動するという機能的なエクササイズとしての可能性を示唆するものと考える。

  • 井出 愛実, 佐藤 成登志, 神田 賢, 北村 拓也, 多田 葉月
    セッションID: O-MT-12-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    腹圧性尿失禁は腹圧が上昇した際に,腹圧コントロールが不良となり,尿道内圧よりも膀胱内圧が上回り生じるとされている。よって腹圧性尿失禁に対しての骨盤底筋群トレーニングとして,腹部筋群などの筋群とリンクさせた骨盤底筋群トレーニングが重要であると考えられる。しかし,腹部筋群を用いた骨盤底筋群トレーニングではエビデンスが不充分であり,推奨できるレベルでないとされている。骨盤底筋群に関する研究では,実際の骨盤底筋群の動きや膀胱の位置を見た研究は少なく,腹部筋群の活動によって,骨盤底筋群の働きや膀胱の位置がどのように変化するのかは明らかとされていない。よって本研究の目的を,超音波画像診断装置を用いて膀胱を撮影し,腹部筋群および骨盤底筋群の活動が膀胱の位置に及ぼす影響をリアルタイムで視覚的に明らかにすることとした。

    【方法】

    対象者は健常成人女性20名(年齢21.4歳±1歳)とした。課題動作は骨盤底筋群の随意収縮と主に腹部筋群の中でも腹横筋を収縮させることができるDraw-inとした。骨盤底筋群の機能評価には,超音波画像診断装置(ViamoSSA-640A)の3.5MHzコンベックスプローブを用いた。臍から10cm下方部に水平面から60°傾斜させプローブをあてた。被験者は測定の1時間前に,排尿後500ml飲水し,蓄尿した状態で行った。測定肢位は背臥位とし,骨盤底筋群の随意収縮では「おしりをすぼめるように」と指示し,Draw-inでは「お腹をすぼめるように」と指示し,骨盤底挙上量を測定した。各動作における骨盤底挙上量を比較するために,ウィルコクソン符号順位和検定を行った。なお有意水準は5%とした。

    【結果】

    骨盤底筋群の随意収縮がDraw-inよりも骨盤底挙上量が有意に増加した(p<0.01)。Draw-inでは骨盤底挙上量は減少し膀胱の下降がみられた。

    【結論】

    骨盤底筋群の随意収縮では,Draw-inよりも骨盤底挙上量が有意に増加した。このことから,骨盤底筋群の随意収縮を促すことによって,骨盤内の臓器が上昇し,骨盤底への負荷が軽減されることが示唆された。Draw-inでは,骨盤底筋群の随意収縮よりも骨盤底挙上量が有意に減少し,膀胱の位置が下降していた。このことからDraw-inによって膀胱などの骨盤内臓器が下降し,骨盤底へ圧が伝達されることが示唆された。しかし,腹筋群の収縮により骨盤底筋群が活動し,尿道内圧が増加するという報告がされている。よって腹部筋群の収縮は,骨盤底への負荷を増加させるが,尿道閉鎖圧は上昇すると考えられる。しかし,尿失禁の症状が出現している者に対しては,腹部筋群の収縮によって尿失禁のリスクが生じてしまうことが考えられる。よって,骨盤底筋群トレーニングでは腹部筋群の収縮よりも,骨盤底筋群の随意収縮を促すトレーニングが有効であると考えられる。

  • 木矢 歳己, 加納 一則, 亀甲 健太朗, 上村 亮介, 大西 洋子
    セッションID: O-MT-12-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse:POP)は,膣から子宮,膀胱,直腸などの骨盤内臓器が下垂する疾患である。POP患者は,しばしば臓器下垂のために歩行困難を訴える。また,尿失禁や頻尿などを伴うために外出や運動を控え活動量が低下していることも少なくないと報告されている。さらに,POP患者は同年代の健常者と比較して,バランス能力,脚力,歩行能力といった運動機能の低下と関連があるとも報告されている。しかし,先行研究では,具体的な筋力に関する報告が認められず,POP患者に推奨される骨盤底筋体操による筋力増強効果は不明である。そこで,今回,骨盤底筋体操による筋力増強効果とQOLの関係について,調査を実施したので報告を行う。

    【方法】

    2016年3月~10月までに当院産婦人科から骨盤底筋体操指導の依頼を受けたPOP患者12名を対象とした。骨盤底筋体操は,肛門・膣を引き締める体操であり,体操の様式から調査する筋力を股関節内転筋,バランス能力に影響する外転筋,活動量に影響する筋として大腿四頭筋をターゲットとした。骨盤底筋体操のパンフレットは,当科で作成し対象者に体操を指導した。体操の内容は,膝屈臥位・四つ這い・椅子座位・立位の内いずれかの肢位で肛門・膣を締める運動を行った。運動頻度は5秒間持続収縮させることを10回で1セット,1日に10セット行うよう指導した。また,先行研究より体操の継続が困難な症例が多いと報告があるため,カレンダーを渡し行った回数を毎日記入させ体操を意識付けるようにした。

    筋力の計測は,ハンドヘルドダイナモメーター(ANIMA μTas MT-1)を使用し,左右の和を2で除した数値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。バランス能力として,開眼片脚立位を測定した。QOL評価としてInternational Consultation on Incontinence Questionnaire-ShortForm(ICIQ-SF)とProlapse quality of life questionnaire(P-QOL)を使用した。P-QOLの評価に関しては,キング健康調査票と同様の手順にしたがって評価できる設問のみを使用した。評価時期は初回リハビリ時,1ヶ月後,2ヶ月後の計3回とした。統計処理は評価時期3群でFriedman検定を実施し,統計ソフトは自治医科大で配布されたEZRソフトを用いた。なお,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    対象者の平均年齢は69.6±4.7歳,BMI22.9±2.6kg/m2,出産回数は1.9±0.8回であった。統計分析の結果,筋力では,股関節内転筋で有意差を認め,バランス能力としては,左右片脚立位で有意差を認めた。また,P-QOLにおいては,全健康感,重症度で有意差を認めた。

    【結論】

    POP患者に対する骨盤底筋体操は,股関節内転筋力やバランス能力を改善させることが示唆され,P-QOLにおいて,全健康感,重症度を改善させることが示唆された。今後は症例数を増やし,今回示唆された要因同士の関連について,検討していく必要がある。

  • 廣瀬 綾, 原田 佳奈, 安田 真理子, 山下 真人, 松本 大輔, 欅 篤
    セッションID: O-MT-12-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】骨盤底筋障害は,妊娠・出産や加齢に伴い骨盤底筋群が脆弱化することで惹起されると言われている。中でも近年女性の腹圧性尿失禁は増加傾向であり,その多くは妊娠中及び出産後に発症し,一旦消失しても再発しやすく一部は慢性化すると言われている。長島らによると,妊娠初期,30週,37週すべてにおいて尿失禁有無別に歩数を比較したところ,尿失禁有群で有意に少ないと報告されている。またアメリカ産婦人科学会運動ガイドラインでは,妊娠中および産後に少なくとも20~30分の中等度の運動をほぼ毎日行うことを推奨している。

    今回妊娠後期の骨盤底筋障害と妊娠前・妊娠後期の身体活動量との関係性を調査し,今後の理学療法介入における一助とすることとした。

    【方法】対象は,2016年6~9月に当院マザークラス(産前母親教室)の参加者で妊娠30~38週の妊婦63名(経産婦9名,平均年齢33.0±5.3歳,妊娠前BMI20.5±3.0,妊娠後体重増加量7.5±3.1kg)とした。調査項目は,骨盤底筋障害はPelvic Floor Distress Inventory-20(PFDI-20)日本語版,身体活動量はIPAQ日本語版を用い妊娠前と妊娠後期について調査した。PFDI-20は骨盤底筋障害の自覚症状についての質問紙で,骨盤臓器脱症状6項目,結腸-直腸肛門障害症状8項目,下部尿路機能障害症状6項目の合計20項目で構成されている。また調査実施日前後1週間以内の胎児体重2064±468.4g,頭大横径83.2±5.3mmであった。

    アメリカ産婦人科学会運動ガイドラインを参考に,妊娠前と妊娠中ともに30分/日,5日/週以上の運動を実施しているものを「運動実施群」,それ未満のものを「運動非実施群」とし,上記項目において2群比較を行った。統計学的解析にはχ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】骨盤底筋障害の自覚症状ありの割合は,骨盤臓器脱症状52.4%,結腸-直腸肛門障害症状66.7%,下部尿路機能障害症状60.3%,いずれかの症状がある者は82.5%であった。

    身体活動量については運動実施群16名(25.4%),運動非実施群47名(74.6%)であった。両群間において年齢,妊娠週数,出産経験,妊娠前BMI,妊娠後体重増加量,胎児体重,頭大横径には有意差は認めなかった。骨盤底筋症状については,運動実施群11名(68.8%),運動非実施群41名(87.2%)であり,運動実施群が運動非実施群と比較して有意差はないものの低い傾向を示した(p=0.093)。

    【結論】身体活動量の結果より,妊娠前と妊娠中ともにガイドラインで推奨されている以上の身体活動量のある者は非常に少ないことが明らかとなった。これは対象が総合周産期母子医療センターへ通院している妊婦であったため,何らかの合併症などにより身体活動量を制限されていた可能性も考えられる。また,運動実施群で骨盤底筋症状が少ない傾向を示したことから,有効な運動の種類や量を検討していく必要性が示唆された。

  • 岩見 幸省, 米ヶ田 宜久, 坂本 慎一
    セッションID: O-MT-12-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    ストレッチポールエクササイズが与える影響に関しては,脊椎のリアライメント効果(杉野2006),胸郭機能改善(秋山2007),体幹柔軟性改善(伊藤2008)などが報告されている。ただ,使用する中で胸椎棘突起部分に圧痛を認めることがあった。そのため今回,ミナト医科学株式会社製ストレッチングスティック(SD-100S:以下,SS)を用い,胸椎椎間関節・肋椎関節の運動を誘発することで,呼吸機能・胸郭拡張差・胸椎可動性に及ぼす影響を調査した。

    【方法】

    対象は喫煙歴のない若年健常者23名(男性23名,平均年齢:20±1.0歳)とし,BMI18.5~22であった。SS上での訓練前後に,呼吸機能・胸郭拡張差・端座位両上肢下垂位及び両肘から前腕を接触した肩関節内転,屈曲位(Shoulder Adduction Flexion以下,SAF)を測定した。呼吸機能は,マイクロスパイロ(HI-201,日本光電株式会社製)を用いて肺活量(Vital Capacity:以下,VC),対標準肺活量(以下,%VC)を椅子座位で測定した。胸郭拡張差については股関節90°膝関節90°の安静座位にて,腋窩レベル:第6胸椎棘突起(以下,Th6),剣状突起レベル:第9胸椎棘突起(以下,Th9),第10肋骨レベル:第12胸椎棘突起(以下,Th12)を通る3レベルでの最大呼気時と最大吸気時の胸郭拡張差をメジャーを用いて計測した。SAFは九藤ら1)が報告している胸椎運動動態を把握するための動作であり,最大挙上位の角度を計測した。介入方法は,ミナト医科学株式会社のカタログに沿って,深呼吸に合わせた胸郭拡張運動を実施した。統計学的解析は,SS介入前後のVC,%VC,Th6・Th9・Th12の胸郭拡張差,SAFについて,対応のあるt検定を用いて値を比較した。なお,有意水準は5%とした。

    【結果】

    VCは0.19±0.27 l,%VCは3.42±2.93と介入後で有意な上昇を認めた(P<0.01)。胸郭拡張差(すべてcm)はTh6で介入前4.33±1.13,介入後5.59±1.00,Th9で介入前4.86±1.79,介入後5.93±1.53,Th12で介入前5.24±2.05,介入後6.30±1.84と全てにおいて介入後の有意な上昇を認めた(P<0.01)。SAFは介入前後で16.3±6°と著名な向上を認めた(P<0.01)。介入中の胸椎棘突起の圧痛は認めなかった。

    【結論】

    SSの特徴として,胸椎棘突起部分への直接的な刺激を避け,肋椎関節への刺激を入れることで,副運動を誘発し柔軟性向上を引き出すことが挙げられる。SS上での胸式深呼吸による胸郭のリラクセーション効果と上肢下垂・外転90度・上肢挙上位それぞれの課題により各レベルの胸郭の動きが引き出されたことで,介入前後で約1cmの拡張差の増大を認めた。その結果,胸郭ユニットの柔性向上がVC・%VCの増加に繫がったと考えられた。合わせて,SSによる下位胸椎椎間関節の可動性向上によりSAF角度の著名な向上が図れたと考えられた。本研究の結果から,SS使用により呼吸機能・胸郭拡張差・胸椎可動性の向上に影響を与えることが示唆された。

  • 屋嘉比 章紘, 鈴木 悠, 久保 晃, 石坂 正大, 小野田 公
    セッションID: O-MT-12-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    加齢による姿勢変化で最も多いのは円背姿勢であり,円背の強い患者では,腹部の動きが小さく,胸部優位の呼吸パターンとなると報告されている。先行研究では,円背高齢者の呼吸パターンの検討などの研究はあるが,円背高齢者の体幹への運動療法について検討されているものは数少ない。そこで,本研究では,Draw-in(DE):腹部引き込み運動とBracing(BE):腹部突き出し運動が健常者の円背モデルの体幹筋の動態に与える影響を検討し,円背患者の運動療法への一助とする。

    【方法】

    対象は,研究参加に同意を得た既往に脊柱疾患のない健常成人男性25名(平均年齢22.8±2.7歳,身長173.8±5.6cm,体重65.8±13.3kg,BMI21.8±4.2kg/m2)とした。測定機器は,超音波と胸郭可動域測定装置を用いた。条件は無作為で,ウェッジを用いた円背モデル45°と背臥位0°を設定し,安静呼気(RE),最大呼気(ME),DE,BEの計8条件で,体幹筋厚(腹直筋:R,内腹斜筋:IO,外腹斜筋:EO,腹横筋:A)筋厚,腹部周径を測定した。DEとBEの定義を,REよりも腹囲周径が減少した場合をDE,増加した場合をBEとした。それぞれの条件の比較には,二元配置分散分析反復測定法を用いた後,多重比較検定(Bonferroni法)を実施した。

    【結果】

    ①DEは0°と45°条件の全ての筋において,他の体幹運動条件よりも筋厚が増加した。②0°と45°の条件を比較すると,RとIOの45°条件が有意差に大きくなり,RとIOの45°条件では,DEは他の体幹運動条件よりも有意に筋厚の増加があった。

    【結論】

    ①DEは0°と45°条件の全ての筋で,他の体幹運動課題よりも筋厚が増加していることから,背臥位0°と円背モデルにおいても腹部の筋力強化のアプローチとしては有用であると考えられる。②RとIOの筋厚変化は45°条件かつDEで最大の値を示したため,円背モデルでは,RとIOの筋力強化としては,DEが有用であると考えられる。

    本研究の円背モデルは脊柱可動性が保たれている。円背高齢者は,長期間の姿勢不良で姿勢変化が起き,それに伴い,胸郭可動性の低下,筋の走行や長さも変化し,筋力低下が考えられる。今後の課題は,実際の円背高齢者を対象に体幹筋筋厚の観察が必要である。

  • 富山 農, 平田 淳也, 林 克彦
    セッションID: O-MT-13-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    痛みの定義について,国際疼痛学会(1994)は「不快な感覚および情動体験」と定義しており,痛みを身体面だけでなく心理面からも捉える必要があることを示唆している。これまで,疼痛との関連が検討されてきた心因性要因は抑うつや不安といった情動面が中心であったが,近年では自己効力感や破局的思考といった思考過程との関連が注目されている。器質的な原因が注目されやすい肩関節疾患の痛みについても,このような心理的要因が関連しており,QOLにまで影響していることが報告されるようになってきた。肩関節周囲炎に代表される有痛性肩関節疾患では,不動による筋性防御姿勢が起因となり拘縮が進行する。従来,急性期からの積極的な運動療法は推奨されておらず,NSAIDsの使用や疼痛に応じた筋緊張コントロール,日常生活動作指導を行うのが一般的と言われる。しかし,運動器リハビリテーション料算定期限が150日であることを考えると,早期より心理的要因に対するアプローチを開始し,治療を促進させることは不可欠であると考える。そこで本研究は,Shoulder36(Sh36)に自己効力感と破局的思考が影響しているかを検討した。

    【方法】

    対象は外来通院中の有痛性肩関節疾患患者64名(男性20名,女性44名,平均年齢61.9±12.3歳)であった。疼痛強度としてnumerical rating scale(NRS),肩関節機能評価として患者立脚肩関節評価法Sh36,自己効力感としてpain self efficacy questionnaire(PSEQ),破局的思考としてpain catastrophizing scale(PCS)を用いて測定した。Sh36の各ドメインとNRS,PSEQ,PCSとの相関はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%とした。

    【結果】

    Sh36とNRSについては,疼痛(rs=0.394),筋力(rs=0.246),日常生活機能(rs=0.304)において有意な相関関係が認められた。Sh36とPSEQについては,疼痛(rs=0.517),可動域(rs=0.453),筋力(r=0.434),健康感(r=0.638),日常生活機能(rs=0.447),スポーツ(rs=0.35)の全ての項目において有意な相関関係が認められた。Sh36とPCSについては,健康観(rs=0.328)において有意な相関関係が認められた。

    【結論】

    Sh36にはPCSよりもPSEQの方が多くのドメインと相関しており,かつ相関係数が高かった。この結果から,主観的な肩関節機能には,心理的要因として破局的思考より疼痛自己効力感が影響していることが示唆された。有痛性肩関節疾患では発症直後の急性炎症期から持続して不動に陥った場合,二次的な拘縮を来たす。疼痛自己効力感が高ければ,日常生活動作上での上肢使用頻度は維持され,低ければ不動から筋骨格系への影響は避けられない。また,疼痛強度と比較しPSEQに有意な相関関係があったことから,有痛性肩関節疾患の治療においては,器質的な痛み治療のみならず自己効力感向上を図る為,早期からセルフエクササイズ指導や日常生活動作指導などのコーチングが重要であると考える。

  • 壬生 彰
    セッションID: O-MT-13-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)に対する理学療法として,中枢神経系の機能異常に対する介入である鏡療法や段階的運動イメージプログラムなどが,疼痛の軽減および機能の改善に寄与することが認められており,推奨されている。しかし,効果が十分でない症例も報告されている。今回,鏡療法を実施したが,十分な効果が認められなかったCRPS症例に対して,運動療法を中心とした介入に変更することで日常生活動作(Activity of daily living:ADL)およびCRPS症状の改善を認めた経過を報告する。

    【方法】

    症例は30歳代の女性で,X-2年5月,自転車走行中にバイクと衝突し転倒した。直後より左上肢の痛みがあったが,明らかな骨折や神経損傷はなかった。複数の医療機関において加療を受けるも症状改善せず,X-2年2月にCRPSと診断され,X年6月に当院を紹介受診となった。主訴は左上肢痛と歩行困難であり,杖歩行にて来院した。左前腕より遠位および右下腿より遠位にNumerical Rating Scale(NRS)で6から9の痛みを訴え,著明な浮腫を認めた。アロディニアにより患部への接触は非常に困難であった。患肢,右肩関節,頸部の関節可動域制限があり,四肢体幹の運動は緩慢であった。また,The Bath CRPS Body Perception Disturbance Scale(BPDS)は37/57であり,患肢の身体知覚異常を認めた。疼痛生活障害尺度(Pain Disability Assessment Scale:PDAS)は47/60であった。精神心理面はPain Catastrophizing Scale(PCS)が48/52,Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)が4/60であった。初期評価より,患肢の疼痛軽減と機能改善を目的として鏡療法と触覚識別課題を開始した。1か月間の介入を行ったが,疼痛増強や不快感を訴え続けたため,これらの介入のみでは改善が期待できないと判断し,ADLの改善と活動量増加を目標に患部外の運動療法を中心とした介入へと変更した。具体的かつ段階的な目標設定と達成度のモニタリングを行い,基本的動作能力の改善と活動量増加を図った。来院時には,健肢および体幹の積極的な運動を行い,運動による機能の改善が目標とする動作の改善につながることを実感させるように心がけた。患肢に対しては,自宅で鏡療法を継続させ,患肢および鏡像肢の知覚の変化に合わせて課題を調整した。

    【結果】

    理学療法開始より9か月時点での評価では,独歩が可能となり,ADLと精神心理面の改善を認めた(PDAS:26,PCS:36,PSEQ:16)。NRSに著変はないものの,アロディニアの軽減,身体知覚の改善などCRPS症状の改善も認めた(BPDS:27)。

    【結論】

    本症例では,CRPSの理学療法として推奨されている鏡療法よりも基本的動作能力の改善と活動量増加を図った運動療法が奏功した。初期評価時に自己効力感が低い症例に対しては,鏡療法といった即時的な効果を実感することが困難である介入よりも,日常生活動作の改善に直接つなげる運動療法が有効かもしれない。

  • 余野 聡子, 西上 智彦, 壬生 彰, 田中 克宜, Wand Benedict Martin, Moseley G. Lorimer, 田 ...
    セッションID: O-MT-13-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS)や慢性腰痛患者において,固有受容感覚の障害や身体知覚異常が認められ,これらの異常は,慢性痛に関与する可能性が示唆されている。同様に,肩関節痛患者においても固有受容感覚の障害が報告されており,運動制御や固有受容感覚の改善を目的とした治療の有効性も報告されている。これらのことから,肩関節痛患者においても身体知覚異常が認められ,治療介入のターゲットとなる可能性が示唆されるが,身体知覚異常と肩関節痛の関連については不明である。本研究の目的は,慢性腰痛患者の身体知覚異常を評価するThe Fremantle Back Awareness Questionnaire(FreBAQ)を基に,The Fremantle Shoulder Awareness Questionnaire(FreSAQ)を作成し,肩関節痛患者における身体知覚異常と疼痛の関連について検討することとした。

    【方法】

    日本語版FreBAQの質問項目にある“腰”を“肩”に置き換えて英語へ逆翻訳し,FreBAQの原著者へ内容的妥当性を確認したうえでFreSAQを作成した。3か月以上の肩関節痛を訴える外来受診患者112名(男性72名,女性40名,平均年齢56.2±11.7歳)を肩関節痛群,肩関節に疼痛の訴えのない者48名(男性24名,女性24名,平均年齢52.8±19.9歳)を対照群とした。評価項目は運動時の疼痛強度(Visual Analogue Scale:VAS),能力障害(The Quick Disability of the Arm, Shoulder, and Hand:QuickDASH),破局的思考(Pain Catastrophizing Scale:PCS)及び身体知覚異常(FreSAQ)とした。統計解析として,内的整合性はCronbachのα係数を算出して検討した。FreSAQの合計点の群間比較(肩関節痛群 vs 対照群)には対応のないt検定を,肩関節痛群におけるFreSAQと各評価項目の関連性にはSpearmanの順位相関係数を用いた。統計学的有意水準は5%とした。

    【結果】

    Cronbachのα係数は0.71であった。肩関節痛群のFreSAQは,対照群よりも有意に高得点であった(肩関節痛群9.1±5.0,対照群2.5±3.6,p<0.01)。また,肩関節痛群においてFreSAQは疼痛強度,能力障害及び破局的思考と有意な正の相関を認めた(VAS:r=0.20,p<0.05;QuickDash:r=0.49,p<0.01;PCS:r=0.38,p<0.01)。

    【結論】

    Cronbachのα係数が0.7以上であったことから,内的整合性が確認された。FreSAQの合計点は対照群と比較し,肩関節痛群において有意に高値であったことから,肩関節痛患者の臨床症状として身体知覚異常が存在する可能性が示唆された。さらに,身体知覚異常と疼痛強度,破局的思考,および能力障害の関連が認められた。今後,FreSAQの信頼性および妥当性についてさらなる検討を行うとともに,身体知覚異常の改善を目的とした介入研究を行い,疼痛や能力障害との関連についてもさらなる検討を行っていくことが必要である。

  • 若年群と高齢群との比較
    井上 雅之, 池本 竜則, 井上 真輔, 中田 昌敏, 西原 真理, 新井 健一, 宮川 博文, 下 和弘, 飯田 博己, 長谷川 共美, ...
    セッションID: O-MT-13-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】慢性痛患者では,痛み認知の歪みにより,不安や過度の回避行動を介して,抑うつや不活動,能力障害を呈しやすい。こうしたケースに対し,諸外国にて認知行動療法に基づいた講義と運動によるペインマネジメントプログラムが広く実施されている。その有効性について,長期経過や疾患別に検討した報告は散見されるが,年代別に検討した報告は少ない。我々は平成23年より外来型ペインマネジメントプログラムを実施しており,これまでにプログラム前後および6か月後における,痛み,精神心理機能,身体機能への影響や効果の持続などを報告してきた。今回,本プログラムによる年代別効果を比較検討した。

    【方法】対象は,平成23年10月から平成28年9月に開催した本プログラム参加者98名とし,60歳未満の若年群26名(平均年齢45.1歳),60歳以上の高齢群72名(同69.1歳)に群分けした。プログラムは定員を5~7名とし,痛みに関する講義と運動を週1日,全9回実施した。講義は痛みのメカニズムおよび対処(コーピング),活動量のコントロール(ペーシング),グループミーティングなどで,医師,理学療法士が担当した。運動はストレッチング,ストレングストレーニング,エルゴメーター,ヨガ,水中歩行などで,理学療法士,トレーナーが担当した。またプログラム前後に下記の評価を実施した。痛み,精神心理機能の評価は,痛みの強さ:Visual Analog Scale(VAS),生活障害度:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),不安・抑うつ:Hospital Anxiety and Depression scale(HADS不安,HADS抑うつ),痛み認知の歪み:Pain Catastrophizing Scale(PCS),自己効力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ),QOL:EuroQol 5 Dimension(EQ-5D)などの質問票を使用した。身体機能評価は,10mジグザグ歩行(10m歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD)などを計測した。プログラム前後における各評価項目の群間および群内比較に,二元配置分散分析,Scheffe法を使用した(有意水準5%未満)。

    【結果】プログラム前において,若年群は高齢群と比較して10m歩行,起居動作,身辺作業,6MDで有意に良好な値を示したものの,VAS,HADS抑うつ,PSEQ,EQ-5Dで有意に不良な値を示した。またPDASは有意差を認めなかったが,若年群で不良な値を示した。プログラム前後において,高齢群は全項目で有意な改善を認めたが,若年群はHADS不安のみ有意な変化を認めなかった(p=0.8)。

    【結論】若年群では身体機能は保たれているものの,痛みに対する認知の歪み,抑うつ,低い自己効力感のため,職場や家庭での社会的役割の遂行に支障を来すことが多く,低QOL,および生活障害度が高い傾向を示したと推察する。従って若年の慢性痛患者群には,身体的アプローチだけでなく,心理面や社会面に対するアプローチがより重要になるものと考える。

  • Central Sensitization Inventoryを用いた検討
    田中 克宜, 西上 智彦, 壬生 彰, 井上 ゆう子, 余野 聡子, 篠原 良和, 田辺 曉人
    セッションID: O-MT-13-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    中枢性感作(Central Sensitization:CS)は,中枢神経系の過興奮による神経生理学的な状態を示し,慢性疼痛の病態の一つであることが示唆されている。CSは疼痛だけでなく,疲労や睡眠障害,不安,抑うつなどの身体症状を誘発することから,CSが関与する包括的な疾患概念として中枢性感作症候群(Central Sensitivity Syndrome:CSS)が提唱されている。近年,CSおよびCSSのスクリーニングツールとしてCentral Sensitization Inventory(CSI)が開発され,臨床的有用性が報告されている。CSIはCSSに共通する健康関連の症状を問うPart A(CSI score)および,CSSに特徴的な疾患の診断歴の有無を問うPart Bで構成される。我々はこれまでに言語的妥当性の担保された日本語版CSIを作成し,筋骨格系疼痛患者において,CSI scoreと疼痛や健康関連QOLとの関連を報告している。また,人工膝関節置換術前にCSI scoreが高いと3ヶ月後の予後が不良であることも報告されており,CSIが予後を予測するスクリーニング評価として有用であることが報告されている。しかし,保存療法において,CSIが治療効果を予測する評価であるかは不明である。今回,筋骨格系疼痛患者においてCSIを用い,理学療法介入前のCSと介入後の疼痛および健康関連QOLの関連について調査し,CSIがCSのスクリーニング評価として有用であるか検討した。

    【方法】

    外来受診患者を対象に介入前にCSI,Euro QOL 5 Dimension(EQ5D),Brief Pain Inventory(BPI)を評価した。その後,3ヶ月理学療法を継続した46名(男性17名,女性29名,平均年齢55.1±16.3歳,頚部8名,肩部7名,腰部19名,膝部6名,その他6名)を対象に,EQ5D,BPIを再評価した。介入は関節可動域練習,筋力増強運動,動作指導といった標準的な理学療法を行った。CSI scoreと3ヶ月後のEQ5D,BPI(下位項目:Pain intensity,Pain interferenceの平均点を使用)の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また,CSSに特徴的な疾患の診断歴の有無で2群(CSS群,no CSS群)に分け,3ヶ月後のEQ5D,BPIについてMann WhitneyのU検定を用いて比較検討した。統計学的有意水準は5%とした。

    【結果】

    CSI scoreの中央値は21.5点(範囲:3-48点)であった。CSI scoreと3ヶ月後のEQ5Dは有意な負の相関を認め(EQ5D:r=-0.332,p<0.05),BPIと有意な正の相関を認めた(Pain intensity:r=0.425,p<0.01;Pain interference:r=0.378,p<0.01)。また,CSS群(n=14)における3ヶ月後のEQ5Dはno CSS群(n=32)に比べて有意に低く,Pain interferenceは有意に高かった(p<0.01)。

    【結論】

    介入前のCSI scoreが3ヶ月後のEQ5D,BPIと有意な相関を認めたことから,CSIがスクリーニング評価として有用である可能性が示唆された。また,CSSに関連する疾患の診断歴もリスクとして考慮する必要性が示唆された。これらのことから,CSI scoreが高い症例に対して,早期からCSを考慮した治療戦略を実施する必要性が示唆された。

  • メタアナリシスによる検討
    濱上 陽平, 本田 祐一郎, 片岡 英樹, 佐々部 陵, 後藤 響, 福島 卓矢, 大賀 智史, 近藤 康隆, 佐々木 遼, 田中 なつみ, ...
    セッションID: O-MT-13-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    線維筋痛症は全身の激しい痛みと軟部組織のこわばりによって特徴づけられる難治性の慢性疾患であり,本邦における推定患者数は200万人以上といわれている。線維筋痛症に対する理学療法アプローチとしては,運動療法に加えて鎮痛を目的とした各種の物理療法が行われているが,線維筋痛症の原因・病態が明らかにされていないがゆえに,物理療法に効果があるのか否かは未だ議論が続いており,エビデンスも示されていない。そこで今回,これまでに発表された線維筋痛症に対する物理療法の効果を検証したランダム化比較試験(Randomized controlled trial;RCT)を検索し,メタアナリシスを行ったので報告する。

    【方法】

    医学文献データベース(Medline,CINAHL Plus,Pedro;1988年~2016年8月に発表されたもの)に収録された学術論文の中から,線維筋痛症に対する物理療法の効果を検証した論文を系統的に検索・抽出した。その中から,ヒトを対象としたもの,研究デザインがRCTであるもの,アウトカムとして痛みの程度(VSA),圧痛箇所数(Tender point),線維筋痛症質問票(Fibromyalgia Impact Questionnaire;FIQ)のいずれかを用いているもの,結果の数値が記載されているもの,適切な対照群が設定されているもの,言語が英語であるものを採用し,固定効果モデルのメタアナリシスにて統合した。なお,有意水準は5%未満とし,採用したRCT論文はPEDroスコアを用いて質の評価を行った。

    【結果】

    抽出された227編の論文のうち,採用条件のすべてを満たした論文は11編であり,PEDroスコアは平均5.82ポイントであった。検証された物理療法の内訳は,低出力レーザーが5編で最も多く,全身温熱療法が4編,電気刺激療法が1編,磁気刺激療法が1編であった。次に,メタアナリシスにおいて,物理療法による介入の有無によって痛み(VAS)の変化を比較した結果,低出力レーザー,全身温熱療法,電気刺激療法,磁気刺激療法のすべてで有意差を認め,効果が確認された。同様に,圧痛箇所数およびFIQの変化を比較した結果,低出力レーザーと全身温熱療法で有意差を認め,効果が確認された。なお,採用した論文の中に電気刺激療法,磁気刺激療法の効果を圧痛箇所数およびFIQで検証したものはなかった。

    【結論】

    今回の結果,低出力レーザー,全身温熱療法,電気刺激療法,磁気刺激療法のすべてにおいて線維筋痛症の痛みに対する効果が確認された。採用論文は多くはないが,線維筋痛症に対する物理療法の効果をメタアナリシスで検証した研究は国内外で他に見あたらず,本研究の結果は物理療法のエビデンスの確立に寄与するものと思われる。ただ,電気刺激療法と磁気刺激療法に関しては採用した論文はそれぞれ1編であったため,エビデンスが示されたとは言い難く,今後さらにRCTの発表と蓄積が求められる。

  • 江森 亮, 伊藤 貴史, 朝重 信吾, 大島 理絵, 大森 圭太, 山﨑 浩司
    セッションID: O-MT-14-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    [はじめに,目的]

    近年では脊椎術後に隣接椎間障害,近位隣接椎間後弯(proximal junctional kyphosis:以下PJK)に至る症例の術前アライメント評価の報告は散見されるが,術前のADLや心理的側面,臨床所見などの因子を含んだ報告は少ない。今回は,矯正固定術後PJKに至る症例の術前の予測因子を検討し,術前術後のリハビリテーションでの指導や介入戦略の一助にすることを目的とする。

    [方法]

    対象は2012年5月から2016年7月までに当院にて変性後側弯症に対する矯正固定術を施行した106名中,術前に評価可能であった64名とした。除外基準は,術前歩行困難な者,下肢関節疾患の手術既往を有する者,術後重篤な合併症があった者とした。対象者の内訳は男性10名,女性54名,年齢(平均±標準偏差)72.4±4.7歳であった。また,全対象者を脊椎専門医の診断により術後4週間未満にPJKとなった者(以下PJK群),それ以外の者(以下CTR群)の2群に分類した。評価項目は年齢,Oswestry Disability lndex,Pain Catastrophizing Scale,腰背部・下肢痛のVAS,TUG,FRTとした。FRTにおいては,矢状面の画像よりリーチ開始時とリーチ最大到達時における股・足関節角度とその角度変化量,肩峰・大転子の移動量比率を算出した。また画像所見として骨盤形態角・骨盤傾斜角・胸椎後弯角・腰椎前弯角・仙骨傾斜角・sagittal vertical axisを測定した。なお,FRTの画像解析にはimageJ(ver1.6.0_24)を用いた。統計解析は各評価項目を対応のないt検定・Mann-WhitneyのU検定を用いて両群の差を検討した(p<0.05)。

    [結果]

    股関節角度変化量の平均±標準偏差(CTR群/PJK群:30.8±20.4°/41.5±18.8°)と足関節角度変化量の平均±標準偏差(CTR群/PJK群:3.4±3.2°/6.0±4.1°)のみに両群間で有意差が認められた。

    [結論]

    伊藤らは,胸腰椎矯正固定術患者は術後FRT時で足関節戦略をとる割合が増加すると報告している。今回の結果よりPJK群はCTR群と比較して術前のFRTの距離に有意差がなく,股関節屈曲・足関節底屈角度変化量が多いことから,立位バランス時に股関節戦略を選択している傾向にあると考えられる。しかし術後に立位バランスを足関節戦略でとらざるを得なくなるため,制御できず脊椎固定部位の上部で代償してPJKを助長させることが示唆された。以上より胸腰椎矯正固定術後患者は術前術後で立位バランス時に,足関節戦略を選択できるようなリハビリテーションを行うことでPJKを予防できる可能性がある。

  • 清家 慎, 美崎 定也
    セッションID: O-MT-14-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    近年,思春期特発性側弯症(AIS)に対する保存的治療であるSchroth法が広がりつつある。

    Schroth法は身体を肩,胸,腰,骨盤のブロックに分け,それぞれの位置関係を三次元的に評価し,自動運動,呼吸運動によって修正を促す治療法である。

    本邦においてSchroth法に基づく運動療法の効果を検討した報告は見当たらない。

    「症例紹介」

    特発性側弯症と診断されSchroth法に基づく運動療法を施行した2症例を紹介する。症例1は13歳,女性であり長時間の座位姿勢で右肩甲骨内側部の疼痛を訴えていた。Cobb角は胸椎27.5度,腰椎25度であり胸椎をメジャーカーブとした脊柱弯曲異常を呈していた。Adams前屈テストによる傾斜角(scoliometer)は胸椎(Th8)10度,腰椎(L2)5度であった。Risser signは4であった。Shroth法による分類はTri Lle(胸椎右凸,腰椎左凸)タイプに該当した。

    症例2は10歳の男性であり,初診時腰部に疼痛を訴えていた。Cobb角は腰椎10度であり,腰椎をメジャーカーブとした彎曲異常を呈していたが傾斜角は0度であった。Risser signは0であった。Shroth法による分類はLle(腰椎左凸)タイプに該当した。

    【方法】

    Schroth法に基づく運動療法を施行した。症例1は腰椎の代償動作を抑えながら右肋骨隆起を前方回旋および胸椎右凸を側屈することに焦点を当てた。左側背部の皮膚,広背筋,肋間筋のストレッチング,Tri Lleタイプに適用される側臥位,座位でのエクササイズを実施した。介入期間は最初の3週間は週2回(1回40分)その後は週1回40分ずつ計24回介入した。

    症例2は腰椎左凸を側屈させることに焦点を当てた。右腰方形筋のストレッチング,腰部の軟部組織mobilization,右骨盤下制,Lleタイプに適用される側臥位,座位でのエクササイズを実施した。介入期間は最初の1ヶ月は週1回(1回40分)その後は2週に1回40分ずつ実施し,計9回介入した。

    2症例共に自宅でもエクササイズを継続させた。

    【結果】

    症例1ではCobb角は胸椎20度,腰椎17度となり,Adams前屈テストの傾斜角は胸椎5度,腰椎1度,と胸腰椎共に改善がみられた。長時間の座位姿勢で右肩甲骨内側部の疼痛は改善された。

    症例2も同様にCobb角は4度まで改善された。腰部の疼痛は改善された。

    【結論】

    Schroth法にもとづく運動療法により,2症例共にCobb角の減少と疼痛の改善,症例1では傾斜角が減少し,改善効果が認められた。Cobb角,scoliometerの測定誤差は,それぞれ5度,3度と言われており,今回の介入は有効であったと考える。今後,介入を継続するとともに更に対象者を増やし,Schroth法の効果を検討したい。

  • 加藤 浩, 阿南 雅也
    セッションID: O-MT-14-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    我々は,変形性股関節疾患患者(OA患者)の跛行に関する研究として,関節パワーに着目し,力学的エネルギーの流れ込みについての研究をしてきた。その結果,健常ベースと比較しエネルギーの流れに相異がある可能性を見出した。そこで,本研究の目的は歩行時立脚初期時における大腿骨の動きに着目し同エネルギーの流れとの関連性について検討することである。

    【方法】

    対象は健常者1名(女性,年齢:70歳,身長:158.0 cm,体重:55 kg)及び,両側OA患者1名(女性,年齢:72歳,身長:155.0 cm,体重:54 kg)。日整会点数は,疼痛10点,可動域(屈曲:10点,伸展:1点),歩行能力10点,日常生活動作10点であった。病期分類は両側末期レベルであった。計測はカメラ10台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX-T40Sと6枚の床反力計を用いた。身体の33カ所に貼付したマーカ座標から8剛体リンクモデルを作成し,各剛体の近位部と遠位部のセグメントトルクパワーを算出し,これを力学的エネルギーと定義した。次に歩行周期が100%となるよう正規化した。解析側は右下肢とし,床反力垂直成分が増大する初期接地から荷重応答期(歩行周期0%~12%)における骨盤・大腿・下腿の力学的エネルギーの平均値を算出した。同時に当該時期における矢状面での大腿骨の絶対空間上における角度を算出した。

    【結果】

    1.力学的エネルギー(w/kg):健常者の場合,骨盤(遠位部),大腿(近位部,遠位部),下腿(近位)の力学的エネルーは,それぞれ-0.30,0.15,0.47,-0.23であった。同様にOA患者の場合,-0.12,0.08,-0.07,0.06であった。

    2.大腿骨の角度(deg):健常者の場合,初期接地時の大腿骨の角度は垂直軸に対し20.1°であり,歩行周期6%,12%ではそれぞれ,19.8°,15.9°であった。初期接地時との角度変化量は0.3°,4.2°であった。同様にOA患者の場合,垂直軸に対し19.3°であり,歩行周期6%,12%ではそれぞれ,17.7°,14.9°であった。初期接地との角度変化量は1.6°,4.4°であった。

    【結論】

    力学的エネルギーが正値の場合,当該セグメントへのエネルギーの流入を意味し,逆に負値の場合,放出を意味する。股関節では,両者共に骨盤は正値,大腿骨近位部は負値であるため骨盤から大腿へ向けてエネルギーの流れが生じたと言える。一方で膝関節では,健常者は下腿から大腿へ,OA患者では大腿から下腿へ向けてエネルギーの流れた生じたと言える。つまり,健常者では大腿へエネルギーの流れが集中する結果となった。そして,この時の健常者における大腿骨の運動学的特性としては,初期接地時前半では殆ど大腿骨の回転運動は生じていないことが示された。以上のことから,歩行時の大腿骨の絶対空間座標での安定化がエネルギーの流れの一要因として関与している可能性が示唆された。

    本研究の一部は,科学研究費補助金(基盤研究C課題番号25350655)の採択を受けて実施した。

  • 松本 優佳, 国分 貴徳, 小曽根 海知, 塚本 栞, 中井 謙吾, 塙 大樹, 金村 尚彦
    セッションID: O-MT-14-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    スクワット運動は一般的に下肢筋群の筋力増強運動として用いられる運動である。また理学療法においてはClosed kinetic chainの代表的な運動として広く用いられている。ヒトの動作に伴う筋活動は姿勢や肢位の違いによって変化し,例えばハムストリングスの活動は一般的に膝の屈曲作用があるとされているが,Blaimontらは荷重下,膝関節0~60°の範囲においては大腿四頭筋の共同筋になりうると報告している。スクワット動作においては膝屈曲角度やつま先および膝の向きなどに着目した研究が報告されているが,筋電図学的解析と運動力学的解析を同時に検証したものは少ない。スクワット動作は荷重下全身運動であり,下肢に対する体幹の位置条件が変化すると下肢関節にかかる力学的作用は大きく変化するため,下肢関節の肢位変化のみで効果的なスクワット動作を検討することは難しいと考える。そのため本研究の目的は異なる体幹条件が下肢筋活動に及ぼす影響と各関節に働く力学的作用を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は健常成人21名(平均年齢21.8±3.4)であった。被験者にはPlug In Gait full body AIモデルに従って赤外線反射マーカーを39か所に貼付けた。運動力学データは3次元動作解析装置と床反力計を用いて計測し,筋活動の測定には表面筋電図を使用した。被験者にはスクワット動作を体幹垂直条件と体幹前傾(約80度)条件(以下,FT)の2条件で行った。解析は膝最大屈曲時からプラトーになるまでの膝伸展運動区間で行った。筋活動量は膝伸展運動区間を100%正規化して積分値を算出した。条件間の比較においては正規性の検定の後,対応のあるt検定(p<0.05)を用いて検討した。

    【結果】

    膝最大屈曲時,FTの方が股関節屈曲モーメントは有意に増大,膝関節屈曲モーメントは有意に減少し,またFTの股関節屈曲モーメントは膝伸展に伴って増大した。筋活動量においてはFTの方がハムストリングスで有意に増大,外側広筋で有意に減少した。大腿直筋,内側広筋,大殿筋では活動量に変化はなかった。

    【結論】

    FTでは股関節屈曲モーメントとハムストリングスの活動量は増大した。これは重心の前方移動によりモーメントアームが増大したことに起因すると考えられる。またこのモーメント増大に対応するためにハムストリングスの活動量が増大したと考えられる。先行研究では荷重下で回転中心より前方の骨盤に下方への負荷があった場合,ハムストリングスの収縮で膝伸展が生じる可能性が報告されている。股関節伸展筋である大殿筋の活動量に変化がなかったことから,増大したハムストリングスの筋活動が膝伸展運動を誘発したと考えられる。つまり一定以上の体幹前傾条件では,膝伸展の課題がハムストリングスの活動によって達成される可能性が示唆された。本研究の結果は,荷重下の下肢筋力トレーニングにおいて目的に応じた体幹の位置条件を指導する重要性を示している。

  • 加茂 岳士, 竹岡 亨, 稲岡 秀陽, 渡邉 信佳
    セッションID: O-MT-14-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    高齢者の脊椎アライメントは,運動機能と関連があり,転倒のリスク因子としても報告されている。また,手術によりSagittal Vertical Axis(以下SVA)を改善させる事で,Quality of lifeの改善につながると報告されており,脊椎アライメントを修正し,SVAを改善させる事は,高齢者の生活の質を高める上で重要である。しかし,運動療法が脊椎アライメントに与える影響に関しては報告が少なく,レントゲン画像を用いた詳細な分析が行われた報告は見当たらない。

    本研究の目的は,運動療法前後の脊椎アライメントを詳細に評価し,どのような症例に対して,運動療法が効果的なのかを検討する事である。

    【方法】

    対象は,運動器不安定症と診断された地域在住高齢女性51名(年齢75.3±5.5歳)である。理学療法介入は,6か月間とし,対象者に合わせて運動療法を行った。また,日本整形外科学会が推奨するロコトレをもとに,自宅での運動も指導した。

    脊椎アライメントの評価は,介入前後の前額面,矢状面の脊柱全長のレントゲン画像を用いて,SVA,C2-7 angle,T1 slope,Thoracic kyphosis,Lumber lordosis(以下LL),Pelvic tilt(以下PT),Sacral slope(以下SS),Pelvic incidence,Cobb angle,Center sacral vertical line(以下CSV)とC7 plumb lineの距離を計測した。レントゲンの撮影肢位は,肩幅に足を開き,肩関節屈曲45°,肘関節を屈曲させて指先は鎖骨中央に触れることとした。

    統計解析は,SVA改善の有無を従属変数,介入前のSVA以外の項目を独立変数として,ロジスティック回帰分析を実施した。また,介入前後の各項目の変化量を算出し,SVA改善の有無を従属変数,介入前後のSVA以外の項目の変化量を独立変数として,ロジスティック回帰分析を実施した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    SVAが改善したのは,30人(58.8%)であった。介入前の各項目を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,SVAの改善と関連する要因として,PT(オッズ比=0.84,95%信頼区間=0.70-0.96)と,CSVとC7 plumb lineの距離(オッズ比=0.96,95%信頼区間=0.90-0.99)が抽出された(p<0.05)。

    また,介入前後の各項目の変化量を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,SVAの改善と関連する要因として,T1 slope(オッズ比=0.91,95%信頼区間=0.80-0.99),LL(オッズ比=1.12,95%信頼区間=1.01-1.28),SS(オッズ比=0.88,95%信頼区間=0.77-0.98)の変化量が抽出された(p<0.05)。

    【結論】

    本研究の結果から,PTが小さく,CSVとC7 plumb lineの距離が短い症例に対して,運動療法が効果的である可能性が示唆された。また,T1 slopeの減少,LLの増大,SSの減少がSVAの改善に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。

  • 三浦 拓也, 小俣 純一, 遠藤 達矢, 佐藤 圭汰, 岩渕 真澄, 白土 修, 伊藤 俊一
    セッションID: O-MT-14-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    筋機能の評価に関して近年,shearwave elastographyを使用して算出する筋硬度が新たな指標として注目されているが,この筋硬度を使用した体幹筋群の評価に関する先行研究は少なく,臨床においてよく使用される体幹安定化エクササイズ時の筋硬度や体幹ローカル筋とグローバル筋の筋硬度の違いなどは検討されていない。したがって,本研究の目的はshearwave elastographyを用いて,体幹安定化エクササイズにおける体幹筋群の筋硬度について検討することとした。

    【方法】

    対象は健常成人10名(25.8±6.0歳)で,計測機器は超音波画像診断装置Aixplorer(SuperSonic Imagine社製)を用いた。課題はDraw-in,Valsalvaの2つとした。画像処理は,解析対象とする外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の各筋上に直径2 mmの円状のROI(関心領域)を設定し筋硬度を算出した。解析項目は各課題における各筋の筋硬度および筋硬度変化率であり,これらを2-way ANOVAを用いて解析し,post-hocにはTukeyを使用した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    安静時では内腹斜筋(10.7±4.0 kPa)および腹横筋(7.8±3.1 kPa)に比して外腹斜筋(18.6±8.5 kPa)の筋硬度が有意に高値であった(P<0.01)。Draw-in時では各筋の筋硬度に有意差は認められなかったが,Valsalva時では腹横筋(18.7±11.0 kPa)に比して外腹斜筋(33.1±18.3 kPa)の筋硬度が有意に高かった(P<0.01)。筋硬度変化率においてはDraw-in時,外腹斜筋(1.2±0.4)および内腹斜筋(1.2±0.4)に比して腹横筋(1.8±0.9)が有意に高値であった(P<0.05)が,Valsalva時に有意差は認められなかった。

    【結論】

    安静時の結果は体幹グローバル筋のようなトルク算出が主目的の筋では体幹ローカル筋のような比較的低活動にて機能する筋よりも筋硬度が高い可能性を示す。また,Draw-in時において筋硬度の絶対値では差がなく変化率で有意差が認められたことはDraw-inの特性を反映したものである。つまり,Draw-inにより体幹ローカル筋の分離的な活動性が増加した結果,安静時にみられた外腹斜筋との差が無くなったものと推察される。一方,Valsalva時の筋硬度変化率に関して有意差が認められなかったこともまたValsalvaの特性を反映した結果であると考える。つまり,体幹筋群全体を同時収縮させ剛性を高めるため対象3筋が一様に活動したものと推察される。先行研究より,四肢骨格筋においては収縮時に筋硬度が有意に増加するという報告がある。本結果から,体幹筋群においても活動性の増加に伴い筋硬度は増加し,さらに,筋硬度はエクササイズの特性を反映することができるパラメータであることが示された。しかしながら,本研究からは体幹筋群における筋硬度の変化が持つ意味についての言及はできないため,今後は筋活動など他のパラメータとの関連性や非特異的慢性腰痛症例での検討を行う必要がある。

  • 木下 一雄, 桂田 功一, 吉田 晃啓, 青砥 桃子, 臼井 友一, 岡道 綾, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: O-MT-15-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(以下THA)後の靴下着脱動作に関与する因子の検討を行ってきたが,変形性股関節症例(以下OA)に限定し,股関節以外の因子として上肢長や疼痛の影響を加味した検討が課題であった。そこで本研究ではOAに対するTHA後5か月における靴下着脱動作の可否に関与する因子を明らかにし,術前後における具体的な目標値を提示することを目的とした。

    【方法】

    対象は2013年の4月から2015年12月までに本学附属4病院にて初回THAを施行した101例104股(男性13例,女性91例 平均年齢66歳)とし,除外基準は中枢疾患や術後合併症を呈した症例とした。調査項目は年齢,BMIと術前,退院時(術後平均18.2日),術後2か月時(2M)の股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100),靴下着脱時の疼痛(VAS),膝関節屈曲制限の有無,足関節背屈制限の有無,上肢長,術前および術後5か月時(以下5M)の端座位開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。統計学的処理は対象を靴下着脱可否によりを可能群と不可能群に分類し,各時期の調査項目を2群間で比較し有意差が認められた項目を説明変数とし,5M時における靴下着脱の可否を目的変数としたロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)を行った。有意水準はいずれも危険率5%未満とし,有意性が認められた因子に関してROC曲線を用いて目標値を算出した。

    【結果】

    5M時の靴下着脱の可否は可能群88股,不可能群は16股であった。2群間における各時期の調査項目の比較では,術前,退院時,2Mの屈曲,外旋,外転,踵引き寄せ距離,2M時の疼痛,術前の靴下着脱の可否において有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,5M時の靴下着脱の可否に関与する因子として,術前の股関節外旋と退院時の外転,術前の靴下着脱の可否が抽出された。オッズ比(95%信頼区間)は術前の外旋は0.88(0.81-0.96),退院時の外転は0.77(0.65-0.91),術前の靴下着脱の可否は2.72(1.12-6.58)で,判別的中率は88.0%であった。ROC曲線の結果より,それぞれの目標値,感度,特異度,曲線下面積は,術前の外旋は27.5°,64.8%,86.7%,0.81で,退院時の外転は17.5°,62.5%,86.7%,0.77であった。

    【結論】

    本研究の結果より保険診療算定期間の限度である5Mまでに靴下着脱動作を獲得するには,術前から開排位での靴下着脱を獲得していることが望ましい。また入院期間が短縮していくなかで股関節の外旋や外転の可動域が目標値以上となるように術前から介入および指導していくことが重要である。

  • 分藤 英樹, 井上 博文, 山田 健治, 都甲 純, 穴見 早苗, 永田 帆丸, 朝来野 恵太, 小出 美和, 加藤 浩
    セッションID: O-MT-15-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    歩数と活動強度(メッツ)は健康づくりの目安として健康日本21に明記されており,一般的指標である。しかし,人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)後の歩数,活動強度の回復過程についての報告は希少である。また,当院では外来リハビリテーションは行っていないため,自宅退院直前(THA後1カ月目)の自主練習指導は不可欠である。そこで,効果的な自主練習指導を実践するため,THA後3カ月目の歩数,身体活動レベル(以下,強度)と関係が深いTHA後3カ月目の因子について調査した。

    【方法】

    対象は2016年にTHAを施行した女性10名(年齢66.8±8.3歳)とし,慢性関節リウマチ,中枢神経疾患,再THAの症例は除外した。THAは全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。測定は自宅退院となるTHA後1カ月目と3カ月目とした。

    歩数(歩/日)と強度はライフコーダGS(スズケン社製)を用いて1週間程測定し,歩数の最低値,最大値,中央値を抽出した。ライフコーダに設定されている強度1,2はウィンドウショッピングなどの歩行,3は健常定常歩行,4は速歩である。強度1~4は各頻度を日毎で分け測定期間の平均値とした。歩数,強度以外の評価項目は疼痛(安静・荷重・歩行時のNumerical Rating Scale),関節可動域(両股関節屈曲・伸展・外転・内転,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈),筋力(両股関節屈曲・伸展・外転,膝関節屈曲,伸展),TUG(通常・最大努力),10m歩行スピード(通常・最大努力),Life-Space Assessment,SF-36,JHEQ,自己効力感の9項目とした。筋力の測定には徒手筋力計モービィ(酒井医療)を用いた。

    統計処理はSPSS 23(日本IBM社製)を使用し,THA後3カ月目の歩数,強度に関連する因子についてSpearmanの順位相関分析を用いて検討した(p<.01)。

    【結果】

    歩数(歩/日)は最低値,最大値,中央値の順に1カ月目1530±963,2716±1114,2040±1022であり,3カ月目2127±1419,4777±2429,3339±2041であった。強度1~4の割合(%)は順に1カ月目33.5,53.4,11.1,1.9であり,3カ月目31.2,45,12.6,11であった。

    相関については,3カ月の歩数と術側膝関節屈筋,強度1とSF36体の痛み・社会生活機能,強度2とSF36身体機能,強度3と術側股関節屈・外転筋,膝関節屈筋,対側股関節屈筋,強度4と術側股関節屈筋・外転筋,膝関節屈筋,対側股関節屈・伸筋が相関していた。

    【結論】

    THA後3カ月の最大歩数は65歳以上の女性の平均歩数4500歩/日に近いが,健康日本21の示す目標値6000歩/日には及ばず,健康づくりのためにはさらなる改善が必要である。歩数の向上によって強度1・2の頻度も高くなることから,退院までに心理機能面へのアプローチも必要である。

    また,強度3・4の割合は改善傾向であるものの23%と低い。自主練習指導の際には,術側股関節だけに着目するのではなく膝関節や対側股関節も意識して筋力発揮を促す必要がある。

  • 西川 徹, 南角 学, 西村 純, 島村 那奈, 黒田 隆, 後藤 公志, 松田 秀一
    セッションID: O-MT-15-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】人工股関節置換術(THA)術後の理学療法の一つの目標としてADLの獲得・向上があり,その結果,QOLの向上が見込める。しかしながら臨床現場においてはTHA術後の満足度と動作能力が一致しない患者も散見される。そこで,本研究の目的は患者立脚型評価における動作面のQOLと満足度に一致しない患者の特徴を把握することとした。

    【対象と方法】対象はTHAを施行された65名(男性14名,女性51名,年齢60.2±12.8歳,BMI 22.9±3.3kg/m2)とした。対象者は当院のTHA術後プロトコールに準じてリハビリテーションを行い,術後3週で退院となった。測定項目はTHA術後5ヶ月の身体能力,術側の股関節ROM,下肢筋力とした。身体能力としてはTimed up and go test,立ち座りテスト,階段昇降テストを用いて測定した。股関節ROMの測定は,日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて術側の屈曲と伸展のROMを計測し,5°単位にて記録した。下肢筋力は,術側の膝関節伸展筋力,股関節外転筋力を測定した。膝関節伸展筋力の測定にはIsoforce GT-330(OG技研社製),股関節外転筋力の測定には徒手筋力計Hand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製)を用いて等尺性筋力を測定した。それぞれ2回測定し最大値を採用した。筋力値は膝関節伸展筋力と股関節外転筋力はトルク体重比(Nm/kg),脚伸展筋力は体重比(N/kg)を算出した。また,QOLの患者立脚型評価として,THA術後5ヶ月の日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)を評価した。さらに,環境因子として住宅環境やベッドの有無を調査した。JHEQの満足度と動作項目を組み合わせたマトリックスを作成し,満足度と動作項目が一致する群(A群),動作項目が高く満足度が低い群(B群),動作項目が低く満足度が高い群(C群)の3群に分類した。統計処理は,3群間の各測定項目の比較には,一元配置分散分析および多重比較を行い統計学的有意基準は危険率5%未満とした。

    【結果と考察】A群は27名(41.5%),B群は19名(29.2%),C群は19名(29.2%)であった。B群は他の2群と比較してJHEQの疼痛が不良の傾向であった(p=0.08)。また,C群は,他の2群と比較して自宅にベッドが有意に設置されていた(p<0.05)。以上より,THA術後5ヶ月において動作のQOLが低いが満足度が高い,あるいは動作のQOLが高いのに満足度が低い患者の存在が明らかとなった。また,動作のQOLが高く満足度が低い症例の満足度には,自宅の環境因子や疼痛が影響していることが示唆された。この結果から,理学療法を展開する上でTHA術後の満足度の向上を図るには,除痛を積極的に行い,自宅環境を考慮する必要があることが示された。

    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA術後5ヶ月の動作面のQOLと満足度が一致しない患者の満足度の向上を図るための根拠のある介入の一助となることを示唆していると考えられ,理学療法研究として意義があると思われた。

  • 細江 拓也, 南角 学, 濱田 涼太, 黒田 隆, 宗 和隆, 後藤 公志, 池口 良輔, 松田 秀一
    セッションID: O-MT-15-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】人工股関節置換術(以下,THA)術後における股関節外転筋力の機能低下は歩行能力の低下を招くため,術後早期から股関節外転筋力に着目した評価やトレーニングが必要である。このことからTHA術後早期の股関節外転筋力の回復に関連する因子を把握しておくことは,術後のリハビリテーションを実施していく上で重要である。McGroryらはFemoral Offset(以下,FO)がTHA術後平均1年9ヶ月における股関節外転筋力に影響する因子と報告をしているが,術後早期の股関節外転筋力に影響を及ぼす因子に関しては不明な点が多い。本研究の目的は,THA術後早期の股関節外転筋力の回復に影響を及ぼす因子を術前機能及び術前・術後の画像所見から明らかにすることである。

    【方法】変形性股関節症によりTHAを施行された75名(年齢64.4±9.2歳,BMI22.8±3.5kg/m2,男性11名,女性64名)を対象とした。術前機能として股関節屈曲・伸展・外転角度,股関節痛(VASを用いて評価)を測定し,画像所見として当院整形外科医の処方により撮影された股関節正面のX線画像から,術前の骨盤前傾角度,Crowe分類,手術後のFO,脚延長量,脚長差を測定した。骨盤前傾角度については,骨盤腔の縦径からKitajimaらの回帰式を用いて算出した。さらに,術前と術後2ヶ月に股関節外転筋力を徒手筋力計にて測定し,術前と比較して術後2ヶ月に股関節外転筋力が増加した群(以下,増加群),減少した群(以下,減少群)の2群に分類した。統計解析はχ2検定,対応のないt検定,マン・ホイットニーのU検定,多重ロジスティック回帰分析を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】増加群51名(68.0%),減少群24名(32.0%)で,年齢,BMI,性別については両群間で有意差を認めなかった。骨盤前傾角度は増加群33.0±4.8°,減少群37.5±6.0°であり,増加群の方が減少群と比較して有意に小さい値を示した。また,非術側の股関節外転角度は増加群30.1±8.3°,減少群24.6±9.0°であり,増加群の方が減少群と比較して有意に大きい値を示した。その他の測定項目については両群間で有意差を認めなかった。さらに,股関節外転筋力を従属変数,骨盤前傾角度,非術側の股関節外転角度を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,THA術後早期の股関節外転筋力の回復を規定する最も影響の強い因子として術前の骨盤前傾角度(オッズ比0.84,95%CI:0.74-0.94)が選択された。

    【結論】本研究の結果より,術前の骨盤前傾角度が大きい症例では,術後2ヶ月の股関節外転筋力の回復が不良であった。術前の骨盤がより前傾位であると股関節外転筋力の働きが低下するため,術後の股関節外転筋力の回復に影響を及ぼしたと考えられる。これらのことから,THA術後早期に効率的に股関節外転筋力の向上をしていくためには,骨盤がより前傾位となる原因の改善を図りながら,股関節外転筋力のトレーニングを実施していく必要性があると示唆された。

  • ―前向きコホート研究による分析―
    建内 宏重, 小山 優美子, 秋山 治彦, 後藤 公志, 宗 和隆, 黒田 隆, 市橋 則明
    セッションID: O-MT-15-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    変形性股関節症(股OA)の進行には,遺伝子異常や加齢,骨形態異常などの要因が関与する。さらに,運動時の股関節への過剰な負荷などの力学的要因も疾患進行に関わると考えられている。しかし,股OAの進行と力学的要因との関連性を示した研究は皆無である。遺伝的要因や年齢,骨形態などは保存療法により変化させることはできないが,力学的要因は適切な介入で変化する可能性がある。したがって,股OAの進行と力学的要因との関連性を調査することは重要である。本研究の目的は,12か月間における股OA進行に関与する力学的要因を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は,前期から進行期の二次性股OA患者50名(全例女性:年齢;47.4±10.7歳)とした。ベースラインにおける測定は,年齢,体重,股関節痛(VASによる評価)に加えて,臥位レントゲン正面像による関節変性と骨形態の評価(最小関節裂隙幅[mJSW],Sharp角,CE角,AHI),3次元動作解析装置による歩行評価(自然歩行時の歩行速度,外的股関節モーメント積分値[3平面];3試行の平均値)を行った。また,ベースライン測定時から1か月以内の連続した7日間における歩数(入浴を除く起床から就寝まで)を歩数計で記録した。歩行評価で記録した股関節モーメント積分値に患側下肢の1日平均歩数を乗じて,各3平面における股関節累積負荷を算出した。股関節累積負荷は,股関節に1日に加わる外的負荷の総量を意味する。ベースラインから12か月後にmJSWを再測定した。股OA進行の定義は,先行研究に従い12か月間におけるmJSWの0.5 mm以上の減少とした。なお,mJSWの測定は,患者情報や撮影日を盲検化し1名の検者が行った(ICC[1.1];0.97:最小可検変化量;0.36 mm)。

    統計解析では,股OA進行の有無(進行群,非進行群)を従属変数,ベースラインで測定した各変数を独立変数とし,単変量および多変量ロジスティック回帰分析を行った。単変量分析でp<0.1であった独立変数を用いて多変量分析を行った。さらに,年齢と体重は交絡因子になり得るため,年齢と体重で補正した分析も行った(有意水準5%)。

    【結果】

    50名中21名(42.0%)で股OA進行を認め,進行群におけるmJSWの減少は1.3±0.8 mmであった。

    単変量分析の結果,mJSW(進行群;2.9±1.4 mm:非進行群;3.7±1.4 mm),歩数(進行群;7411±2869歩:非進行群;6005±2157歩),前額面の股関節累積負荷(進行群;90.6±50.2 kNm•秒:非進行群;63.0±29.4 kNm•秒)がp<0.1であった。多変量分析の結果,mJSWの低値と前額面の股関節累積負荷の増大は,各々独立して股OA進行に影響を与える要因として抽出され,年齢と体重で補正しても両変数は有意であった。

    【結論】

    力学的要因として,前額面における股関節累積負荷の増大は12か月間における股OA進行に影響を与えることが明らかとなった。本研究結果は,股OA進行のリスクが高い患者の特定や疾患進行予防のための治療方針の決定に重要な知見である。

  • 小野寺 智亮, 荒木 浩二郎, 菅原 亮太, 谷口 達也, 千田 佑太
    セッションID: O-MT-15-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    寛骨臼骨折は全骨折の2%という稀な骨折(Laird,2005)である。その手術手技は整形外科領域の中で最も難易度の高い部類に入り(入船,2014),治療する施設は限られる。そのため本骨折における報告は少なく,QOLに関する報告はほとんどない。今回,当院で骨接合術が施行された寛骨臼骨折患者を対象に,QOLに影響する因子を検討したので報告する。

    【対象と方法】

    2011年10月~2015年10月に当院で寛骨臼骨折骨接合術が施行された40例を対象とし,そのうち術後人工股関節置換となったものや重篤な合併症を有するものを除外した。調査項目は,年齢,性別,陥没骨片の有無,術式,骨折面のstep off(術直後および術後12ヶ月時点),股関節機能評価としてHarris Hip Score,股関節外転筋筋力(患側および健側),歩行時痛(VAS),QOL評価として日本語版EQ-5D-5Lとした。股関節外転筋力については徒手筋力計(モービィ,酒井医療社製)を使用し,トルク体重比(Nm/kg)を算出した。歩行時痛(VAS)は,0-100の範囲で疼痛のない状態を0とした。陥没骨片の有無と骨折面のstep off(術直後および術後12ヶ月時点)については,主治医がレントゲンとCTから判断および計算した。日本語版EQ-5D-5Lについては,換算表からQOL値(0-1.000)を算出した。以上の各項目についてそれぞれ術後12ヶ月に調査を行なった。QOLに影響する因子の検討として,QOL値を従属変数,それ以外の項目を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行なった。なお,統計処理にはSPSS Statistics ver.24を用い,有意水準は5%とした。

    【結果】

    12ヶ月以上のフォローが可能であった24例(平均53.0±15.3歳,男性19例,女性5例)で解析を行なった。各項目の内訳および平均は,陥没骨片は「有り」が11例,「無し」が13例,術式は「前方」が19例,「後方」が5例,骨折面のstep offは「術直後」が1.6±1.5mm,「術後12ヶ月」が2.8±1.5mm,Harris Hip Scoreは90.4±12.8点,股関節外転筋筋力は「患側」が1.0±0.4Nm/kg,「健側」が1.1±0.4Nm/kg,歩行時痛は9.5±19.3,日本語版EQ-5D-5Lから算出されたQOL値は0.817±0.164であった。重回帰分析の結果,QOLを説明する因子として患側股関節外転筋力が抽出され,このモデルの重決定係数はR2=0.635(p<0.001)であった。また,患側股関節外転筋力の標準化回帰係数はβ=0.811であった。

    【結論】

    寛骨臼骨折術後患者におけるQOLには患側股関節外転筋力が影響することが示された。一方で陥没骨片の有無や術式,骨折面のstep offについては関連が認められなかった。筋力は理学療法士の介入によって改善が期待できる項目である。本骨折は関節面骨折であり術後は免荷となることが多く,介入には股関節面へのストレスについての配慮が必要であると考える。

  • 伊藤 崇倫, 小林 巧, 神成 透, 堀内 秀人, 松井 直人, 角瀬 邦晃, 野陣 佳織
    セッションID: O-MT-16-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】高齢者の転倒による骨折は,要介護の原因の一つである。転倒リスクの評価の一つにバランス評価があり,中でも片脚立位は臨床において最も頻繁に利用される評価の一つである。人工膝関節全置換術(TKA)後患者では,歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加するなどの神経筋機構の障害が報告されている。しかし,片脚立位における神経筋機構については不明であり,また,その神経筋機構がバランス機能に与える影響については不明である。本研究の目的は,片脚立位動作課題を用いて,TKA後患者の膝関節周囲筋の同時収縮について調査し,バランス機能との関連について検討することである。

    【方法】対象はTKA後4週が経過した9名(TKA群:男1名女8名,平均年齢68.3±6.5歳)と年齢をマッチさせた健常高齢者10名(健常群:男2名女8名,平均年齢68.0±5.7歳)とした。施行動作は,両上肢を対側に位置させた両脚立位を開始肢位とし,合図とともに下肢を挙上させ片脚立位となる動作とし,3秒間片脚立位姿勢を保持させた。TKA群は術側,健常群は利き足について測定を実施した。同時収縮の測定は,Noraxon社製筋電計を使用し,導出筋は外側広筋と大腿二頭筋とした。片脚立位動作を姿勢移行時(移行時)と片脚立位保持時(保持時)に区分し,それぞれの区間における同時収縮についてKellisらの方法に準じてco-contraction index(CI)を算出した。バランス機能として,両側の片脚立位時間,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を測定した。統計学的分析として,TKA群および健常群のCIおよびバランス機能の比較に,student-t検定を用いた。また,CIとバランス機能の関連性の検討にPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】TKA群と健常群のCIの比較について,移行時(TKA群0.39±0.22,健常群0.23±0.06),保持時(TKA群0.40±0.19,健常群0.23±0.11)ともに有意な差を認めた。バランス機能の比較については,TUGは健常群(5.96±0.45s)と比較してTKA群(7.72±0.84s)で有意に高値を示した。各群のCIとバランス機能の関連について,TKA群では移行時のCIとFRTに有意な負の相関が認められた(r=-0.69)。その他にCIと有意に関連するバランス機能は認められなかった。

    【結論】本研究結果から,TKA群は健常群と比較して,移行時,保持時ともにCIが有意に高かった。TKA群では姿勢制御課題において,膝の同時収縮を増加させることで膝関節の安定性を供給し,姿勢の安定化を図っている可能性が示唆された。バランス機能との関連について,TKA群は移行時のCIとFRTに有意な負の相関が認められた。支持基底面内における重心移動において,膝の同時収縮の増加は,膝の安定性化に働く一方で,立位動作における運動性を低下させる可能性が示唆された。今後は歩行時の筋活動とバランス機能の関連などTKA後の神経筋機構の詳細な検討が必要である。

  • ケースシリーズによる検討
    山口 英典, 美崎 定也, 古谷 英孝, 大島 理絵, 藤澤 俊介, 田澤 智央, 杉本 和隆
    セッションID: O-MT-16-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節置換術(Knee Joint Replacement:KJR)後の機能回復には,適切なリハビリテーション(RH)が必要である。当院は人工関節専門病院であるため,遠方から手術を受けに来る患者が少なくない。そのような患者に退院後の専門的なRHが行えないことは,これまでの課題であった。Moffet, et al.は,KJR後患者に対してビデオ通話環境で行う遠隔RH(Telerehabilitation:TRH)の効果が,通常のRHに劣らないことを報告した。本邦において,同様の報告は渉猟した限りない。本研究の目的は,KJR後患者に対してTRHを導入し,その効果を検証することである。

    【方法】

    研究デザインはケースシリーズ,対象はKJR後に自宅退院した患者4名とした。自宅にいる対象者に対して,病院にいる理学療法士がビデオ通話環境下で介入を行った。対象者の使用機器は,スマートフォン,タブレット,パソコンのいずれかであった。アプリケーションはSkypeを用いた。介入内容は,当院のクリニカルパスに基づいた運動(可動域,筋力,動作,バランス),ホームエクササイズ指導,患者教育とした。介入頻度は,週1回30分,計5回とした。主要アウトカムは,疾患特異的尺度であり日常生活動作を評価する日本語版Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index-身体機能(WOMAC-F)とTRHの満足度とした。副アウトカムは,膝可動域,膝伸展トルク,疼痛とした。評価は,術前と術後3ヶ月時に行った。統計解析は,記述統計としTRHを行った対象者それぞれの値を通常RHを行った当院の患者データ(202名)と比較した。

    【結果】

    対象者の属性は,女性:4名,年齢:50歳代1名,60歳代3名,居住地:北海道,新潟,山梨,山形であった。TRHの実施回数は,それぞれ4回,4回,5回,5回であった。全例が介入時の機器操作を問題なく行うことができた。また,運動の指示理解も良好であった。術後3ヶ月時のWOMAC-Fは,それぞれ87点,78点,81点,88点,当院の患者平均値±標準偏差は86.4±13.0点であった。満足度は,全例が5段階中の最高値であった。副アウトカムの値は,すべて当院の患者の標準偏差内に収まっていた。有害事象は起こらなかった。

    【結論】

    今回,KJR後患者に対してTRHを導入し,その効果を検証した。結果よりTRHは有害事象を起こすことなく実施でき,一定の効果を得ることができたと考える。また,満足度が高かったことより,遠方から手術を受けに来た患者のニーズに答えることができたと考える。近年,欧米においてTRHの報告が散見されるようになってきているが,本邦においては保険適応外である。本研究は,今後本邦においてTRHが保険適応となる際のエビデンスとなり,理学療法士の職域拡大に寄与するものと考える。今後は,症例数を増やし厳密な試験で検証する必要がある。

  • 渡邊 直樹, 中山 裕子, 岡田 洋和
    セッションID: O-MT-16-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    変形性膝関節症(以下膝OA)において,重度の内反膝変形を呈する場合,足部は外反し,外反膝変形であれば足部は内反し,それらは距骨下関節で代償すると報告されている(Norton,2000)。後足部アライメントの評価は,静的には単純X線画像による脛骨踵骨軸写角(以下TB-C)が挙げられ,これまでに膝OA症例の術前後の大腿脛骨角(以下FTA)とTB-Cの関係について検討されてきた。また,後足部アライメントの動的評価として歩行中の足底圧中心点(以下COP)軌跡を測定し求めるThe Center of Pressure Excursion Index(以下CPEI)があり,後脛骨筋腱機能不全症等の外反足歩行の評価に用いられている(庄野,2007)。CPEIは歩行中のCOP軌跡のX軸における変移を示すもので,この値が低ければ,COPが内側変移し足部アーチ機構の破綻が考えられる。外反足歩行ではこの値が低値を示す。本研究の目的は,膝OA症例の術前後の膝アライメントの変化が後足部アライメントや歩行に及ぼす影響について明らかにすることである。

    【方法】

    対象は平成27年7月から28年2月に,当院にて人工膝関節置換術もしくは高位脛骨骨切り術を実施した15例19膝とした。男性3例,女性12例,平均年齢76.2±7.6歳であった。検討項目は,術前と術後6か月の単純X線画像より,FTA,TB-C(脛骨長軸と踵骨長軸のなす角度,内反を+,外反は-,正常値は+2.2°)を,歩行の評価はCPEI,10m歩行時間,TUGとした。CPEIの測定は,2.4mの歩行路の中間地点に重心動揺計および圧力分布測定装置(アニマ社製,ツイングラビコーダGP-31W,プレダスMD-1000)を設置し,被験者は裸足にて自然な速度での歩行を3回測定,その平均値を採用した。測定の前に適宜練習を実施した。統計解析は,t検定を用い,有意水準は5%とした。

    【結果】

    FTAは術前185.2±6.3°,術後6か月175.8±3.8°であり術後は術前に比べ有意に膝外反位を示していた。TB-Cは術前-11.1±7.8°,6か月-10.6±7.3°で差を認めず,術前後とも後足部外反位であった。CPEIは術前12.8±4.2%,6か月8.7±4.9%で術後は術前に比べ有意にCOPが内側を通過していた。10m歩行時間は,術前13.8±7.1秒,6か月9.5±3.2秒で,TUGは19.5±9.8秒,12.0±2.8秒で共に術後は有意に改善していた。

    【結論】

    膝OA症例の術後において,膝アライメントは軽度外反位に矯正されるが,それに伴う後足部の代償機能は生じず,外反位のまま変化しないことが明らかとなった。歩行においては,術前のCOPは外反足歩行特有の軌跡を示し,さらに術後歩行能力が改善したのちも,術前よりもCOPは内側を通過し,外反足歩行していることが示された。術後の理学療法においては,歩行時の足部のアライメントにも着目し実施する必要がある。今後は,今回検討できなかった足部の疼痛や可撓性の評価を実施し,外反足による上位関節の長期的影響について検討していきたい。

  • 小林 信吾, 岡本 健佑, 北口 拓也, 佐野 佑樹, 和中 秀行, 山原 純, 稲場 仁樹, 小西 佑弥, 岩田 晃
    セッションID: O-MT-16-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】日本人工関節学会によると本邦における2015年度の人工膝関節全置換術(以下TKA)件数は約54,000件とされ,その約87%が変形性膝関節症(以下膝OA)と診断されている。肥満は膝OAの危険因子とされており,Heatherらは肥満群は非肥満群と比べTKA術後のFIM運動スコアの改善率が有意に低いことを報告しているが,体格差や肥満基準の違いといった制限があり,術後早期の筋力やROM,歩行能力と肥満との関連については明らかにされていない。本邦では森本らがTKA術前と術後4週の膝機能や歩行能力,Timed Up & Go test(以下TUG)には肥満群(BMI>25.0)と非肥満群(BMI<25.0)を比較し有意差がないことを報告しているが,単施設研究でサンプル数が少ない等の制限がある。今回,我々は多施設共同研究によって集められたデータを基に,肥満の有無がTKA術前,術後3週の膝機能や歩行能力に影響をもたらすかを調査したので報告する。

    【方法】多施設共同による前向き観察研究に参加した4つの施設にて,2015年6月から2016年9月までに片側のTKAを施行した60歳以上の男女153名を対象とした。術前,術後3週における術側の膝伸展筋力,膝屈曲ROM,歩行速度,TUGを計測した。筋力測定は端座位・膝屈曲60°にて等尺性膝伸展筋力を測定し最大値を体重で除した値を算出した。歩行速度は8m歩行路の中央5mの歩行に要した時間を計測し速度(m/s)に変換した。TUGは椅子から起立し3m先のマークを回って帰り椅子に着座するまでに要した時間を計測した。術前のBMIが25.0未満を非肥満群,25.0以上を肥満群とし,各時期における測定値の群間比較を対応のないt検定を用いて検討し,有意水準を5%未満とした。

    【結果】非肥満群は63名(男性17名,女性46名,平均年齢74.9±7.1歳,身長152.1±8.2cm,体重52.3±6.7kg,BMI22.5±2.0kg/m2),肥満群は90名(男性17名,女性63名,平均年齢75.2±6.7歳,身長151.6±7.7cm,体重64.7±8.3kg,BMI28.1±2.3kg/m2)であった。以下,全項目の結果について非肥満群,肥満群の順に示す。術前の膝伸展筋力は0.26±0.1kgf/kg,0.23±0.05kgf/kg,膝屈曲ROMは125.0±15.1°,119.0±17.6°,歩行速度は1.20±0.37m/s,1.15±0.36m/s,TUGは13.0±5.4秒,12.9±4.3秒であった。術後3週の膝伸展筋力は0.17±0.06kgf/kg,0.15±0.06kgf/kg,膝屈曲ROMは119.2±11.3°,119.2±10.8°,歩行速度は1.18±0.34m/s,1.09±0.28m/s,TUGは12.4±3.9秒,12.7±3.6秒であった。群間の比較において有意差が認められた項目は術前の膝伸展筋力(p=0.03)と膝屈曲ROM(p=0.03)であり,その他の項目では有意差が認められなかった。

    【結論】術前の膝伸展筋力と膝屈曲ROMには肥満の有無によって有意差が認められたが,術後3週においては全ての項目で有意差は認められなかった。これらの結果から,肥満の有無はTKA術後の膝機能や歩行能力の改善には影響しないことが示唆された。

  • 分布に基づく方法
    美崎 定也, 古谷 英孝, 山口 英典, 大島 理絵, 田澤 智央, 田中 友也, 杉本 和隆
    セッションID: O-MT-16-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】近年,人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)後において,患者の意向を反映した患者立脚型アウトカム(Patient-reported Outcome:PRO)による評価が主流になっている。本邦におけるTKAに関するPROは,日本語版Western Ontario and McMaster University Osteoarthritis Index(いわゆる準WOMAC)がよく用いられているが,臨床的に有効とされる最小の重要な変化量(Minimal Clinically Important Difference:MCID)は,報告されていない。WOMACのMCIDは,臨床家に限らず,研究者においても,有用な情報になりえると考えられる。そこで今回,TKA後におけるMCIDを明らかにすることを目的に調査した。

    【方法】対象は平成20年4月から平成28年3月の間に,当院において初回TKAを受けた者とした。重篤な心疾患,神経疾患を有する者,他関節の整形外科的手術の既往,認知障害を有する者は除外した。アウトカムはWOMAC疼痛(WOMAC-P)および身体機能(WOMAC-F)とし,術前,術後3ヶ月,6ヶ月および12ヶ月に測定した。WOMACは,それぞれ100点満点に換算し,点数が高いほど状態が良好とした。MCIDは分布に基づく方法を適用し,各測定時期における術前との差の標準偏差に重み付け係数を乗じて算出した。重み付け係数は,Cohenの効果量の中程度(0.5)を用いた。

    【結果】基準を満たした675名(女性82%)が対象となった。年齢[平均値±標準偏差(範囲)]は72.9±7.3(50-89)歳,BMIは26.3±3.8(13.3-41.0)kg/m2,両側例は63%であった。WOMAC-Pにおける術後3ヶ月,6ヶ月および12ヶ月のMCID(達成者の割合)は,それぞれ,11.3点(80.5%),10.6点(87.0%),10.7点(90.4%)であった。同様に,WOMAC-Fにおける術後3ヶ月,6ヶ月および12ヶ月のMCIDは,それぞれ,10.0点(74.0%),9.6点(77.1%),9.9点(78.0%)であった。

    【結論】今回,TKA後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月におけるWOMACのMCIDが示された。各測定時期においてMCIDは10点前後を示したものの,時間の経過に伴って達成者の割合が増加する傾向にあった。一般的に,治療効果の判定やサンプルサイズの算出の際には,中程度の効果量が基準として用いられているため,このMCIDは有用な情報となるであろう。

  • 青木 利彦
    セッションID: O-MT-16-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(TKA)術後早期の異常歩行パターンの一つとして,Double knee actionの低下を臨床上経験する。原因として疼痛や荷重応答期での膝伸展モーメント減少により衝撃吸収機能が低下することなどが報告されている。我々は中高齢者で普及しているノルディックウォーキング(NW)がTKA後早期に膝伸展筋の負担軽減型歩行になると報告しており,今回,NWがDouble knee actionの改善に有効な歩行運動となりえるかを,独歩,および杖歩行と比較検討したので報告する。

    【方法】

    変形性膝関節症に対してTKAを施行し術後3週経過後に独歩可能となった10名の女性(年齢76.3±7.0才)を対象とした。課題動作は10m直線歩行路における自由速度での独歩,1本杖歩行(1本杖),およびジャパニーズスタイルのNWとし,表面筋電図と床反力計を用いて検討した。表面筋電図は術側の内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA),下腿三頭筋(GS)を被験筋として表面筋電図を測定し,筋毎に%SWDM(Segment Weight Dynamic Movement)法にて振幅を正規化し,歩行1周期の平均筋放電量を求めた。床反力計は直線歩行路に埋め込み,術側下肢と対側に使用する杖の鉛直成分を計測した。計測値は飯森らの方法を使用し,第一,第2の山をF1,F2,F1とF2の間の谷をF3,立脚時間をTとしknee functional score(KF値)を算出(KF=(F1-F3)+(F2-F3)/T)しDouble knee actionの円滑さの指標とした。また下肢の着床と杖・専用ポールの着床時間の差を各々の鉛直成分検出時間の差で求めた。試技は各課題を3回実施し最大値の平均値を計測値とした。歩行様式間の比較には1元配置分散分析を行い,主効果を認めた場合は多重比較を行った。下肢と杖・専用ポールの着床時間の差はt検定を用いてNWと1本杖を比較検討した。

    【結果】

    表面筋電図での平均放電量(%SWDM)で主効果を認めたのはVMで,NW(51.8±9.0)は,独歩(58.2±10.1),1本杖(57.3±10.2)より低く,VLもNW(46.5±11.1)は,独歩(54.3±11.8),1本杖(52.4±11.8)より低い値となった(p<0.05)。床反力では,下肢の着床と杖・専用ポールの平均着床時間はNWが下肢着床前0.06秒で,1本杖は着床後0.13秒と2群間に有意な差を認めた(p=0.00)。また,KF値はNW(267.31±65.76)は独歩(170.30±46.82),より有意に高い値を示し(p=0.003),1本杖歩行(213.21±50.74)より高まる傾向が見られた。

    【結論】

    NWは上肢を大きく前後に振る様式であることから独歩や1本杖と比べ下肢の着床前にポールを床につきやすくなりVM,VLの能動的活動の抑制に貢献し,荷重と抜重の円滑さに作用したと考えられた。膝伸展筋の筋力低下を来たしやすいTKA術後早期のNWは,独歩,1本杖歩行と比べ,膝伸展筋活動の負荷軽減型の歩行様式であり,Double knee actionを改善する作用が得られる歩行運動である可能性がある。

  • ―大規模データ(変形性股関節症女性256例)での検討―
    桂田 功一, 木下 一雄, 吉田 啓晃, 青砥 桃子, 臼井 友一, 岡道 綾, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: O-MT-17-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工股関節全置換術(THA)後に除痛が図れても依然として跛行を呈する症例がおり,その多くは静的な片脚立位保持機能が低下している。片脚立位保持機能と筋力に関する調査は過去に報告されているが,症例数が十分とは言えず,股関節外転筋力の推移を明らかにした上で筋力改善の目標値を設定できているとは言い難い。今回は術前片脚立位でSignを呈した症例に限定し,術後に改善した症例と改善しなかった症例の筋力値の推移を比較することで,筋力増強介入の各時期における目標値を明確に設定することを目的とした。

    【方法】

    対象は本学附属4病院にて変股症の診断を受け,後方進入法初回THAを施行し術後合併症・中枢性疾患の既往がない女性310症例のうち,術前の片脚立位保持にて下記いずれかのSignを呈した256例(平均年齢66歳)とした。調査項目は年齢,BMI,入院期間,片脚立位保持機能(術前・術後5ヶ月),術側股関節外転トルク体重比(Nm/kg)(術前・術後2ヶ月・5ヶ月)とした。片脚立位保持機能評価は,バランスを保持する程度の示指での手すり支持は許可し5秒間保持させ,骨盤と両肩峰の前額面上の傾斜より,D/Tなし,T,D,DT,困難の5つに分類した。外転トルクはHand-held Dynamometerを用いベルト固定法にて股関節内外転中間位で等尺性筋力を計測した。次に,術後に片脚立位保持機能が改善しSignなしとなった症例(術後Signなし群)と術後もSignが残存した症例(術後Signあり群)に分類し,以下の比較検討を行なった。筋トルクは群間の差を一元配置分散分析にて検定し,また各時期におけるROC曲線を作図し曲線下面積AUCを算出した。統計ソフトはSPSS(Ver22.0)を使用し,有意水準を5%とした。

    【結果】

    術後Signなし群は107例,術後Signあり群は149例であった。BMI,入院期間は群間の差を認めなかった。外転トルク体重比(術後Signなし群/術後Signあり群)は,術前0.62±0.25/0.51±0.21(Nm/kg),術後2ヶ月0.81±0.28/0.65±0.26(Nm/kg),5ヶ月0.94±0.32/0.73±0.28(Nm/kg)であった。すべての時期で術後Signなし群が有意に高値を示した。また,術後2ヶ月ではカットオフ0.76 Nm/kg,AUC0.68(感度0.56特異度0.70),5ヶ月ではカットオフ0.83 Nm/kg,AUC0.71(感度0.64特異度0.70)と高い判別性を示した。

    【結論】

    本研究から術前にSignがあり・術後5ヶ月時にSignなしで片脚立位保持を可能とするための股関節外転筋力の目標値は術後2ヶ月で0.76 Nm/kg,術後5ヶ月で0.83 Nm/kgと示唆された。目標値(0.83 Nm/kg)を達成してもなおSignを呈する症例には外転筋力以外の面からの介入が必要と考える。

  • 木村 祐介, 岩切 健太郎, 竹内 雄一, 久野 剛史, 北川 明宏, 熊田 直也, 奥田 早紀, 西谷 輝, 小林 章郎
    セッションID: O-MT-17-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    変形性股関節症(股OA)患者に対し人工股関節全置換術(THA)を施行した際に,脚長補正が適正に行われたにも関わらず,自覚的に脚長差(自覚的脚長差:LLD)を訴える症例が存在する。LLDを認める症例の多くは術後3か月程度で消失すると報告されているが,残存する症例も散見される。LLDが長期化すれば,Hip spine syndromeや歩行障害などの合併症を呈しQOLに影響すると報告されている。本研究の目的は,THA術後2週時に認めたLLDが3か月時にも残存する影響因子を調査したので報告する。

    【対象・方法】

    対象は平成25年10月から平成28年3月までに,当院で片側股OA患者に対しTHAを施行した53例のうち,術後2週時にLLDが残存していた症例27例(女性21名:男性6名,年齢68.3±7.9歳)である。除外基準は診断が大腿骨頭壊死症や大腿骨頸部骨折の症例,また変形性膝関節症(TKA含む)や両側股OAを合併する症例とした。評価項目は,LLD,股ROM(屈曲,伸展,内転,外転),疼痛VAS(安静時・歩行時),骨盤側方傾斜角,脚延長量,下肢荷重率,JOA(Walking,ADL),腰椎側弯とした。なお,検査は術後2週と術後3か月に実施した。LLDの測定方法は,ブロックテストを用い,立位にて短いと感じる足底に,5mm板を段階的に挿入し,「脚長差なし」と自覚した時の板の厚みをLLDとした。骨盤側方傾斜角は,立位骨盤正面単純X線像にて両側涙痕下端を通る直線と水平線のなす角とし,腰椎側弯の測定は,第1腰椎上縁と第5腰椎下縁のCobb角とした。腰椎側弯の変化の測定は,術後2週時と術後3か月時のCobb角の差とした。検討内容は,対象のうち3か月時にLLDが消失した群(消失群)と残存した群(残存群)に群分けし,両群間と調査項目をMann-whitneyのU検定を行い,統計学的解析を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】

    術後3か月時のLLDは,消失群17例,残存群10例であった。群間比較の結果,術後2週時は,股ROM内転(p=0.04),術後3か月時は,股ROM内転(p=0.01),JOA Walking(p=0.02),腰椎側弯(p=0.04),腰椎側弯変化(p=0.02)に有意差を認めた。

    【結論】

    本研究の結果,LLDを術後2週時に認めた症例のうち3か月時までに残存していた症例では,術後2週時の股ROM内転制限が術後3か月時まで継続していた。腰椎側弯と股ROM内転は関連するとの報告があり,本研究でもLLD残存群において,術後2週時から3か月時にかけて股ROM内転制限が残存していれば,腰椎側弯が進行し,歩行機能に影響していた。よって,LLDは,股ROM内転と腰椎側弯が密接に関係していると考えられた。

  • 八木 宏明, 砥上 恵幸, 富永 俊克, 城戸 研二
    セッションID: O-MT-17-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】近年,患者立脚型の評価法の有用性が認識され,わが国においては,日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(以下,JHEQ)が導入されるようになった。JHEQは,痛み,動作,メンタルの3つの下位尺度から構成され,「痛み」は,Visual Analogue Scale(以下,VAS)および6つの質問,「動作」と「メンタル」は,それぞれ7つの質問で成り立っている。「痛み」のVASおよび各質問は,0から4点に点数化され,最高84点となり,数量化され,点数が高いほどQOLが高いとされる。また,もう1つの特長として,股関節の状態(不満足度)に関する評価があり,これは合計点には含まれず,単独の指標として,VASにて評価を行い,点数が高いほど不満が強いことが示される。本研究の目的は,THA後の患者満足度を,JHEQを用いて,果たして本当に捉えることが可能かを検討することを目的とした。

    【方法】2015年1月から2015年12月の期間に,当院整形外科にクリニカルパスにて入院し,THA(前外側進入)が施行され,自宅退院をした,39例(男性:4例,女性:35例,平均年齢:67.5±8.1歳),39関節を対象とした。再置換例は除外した。退院時および術後3ヶ月の整形外科医師による診察時(以下,術後3ヶ月)に,JHEQによる評価(自己記入)を実施し,退院時と術後3ヶ月におけるJHEQの変化と,それぞれの時期における,不満足度とJHEQ合計点および下位尺度間の関連性を検討した。統計学的手法は,t検定またはWilcoxonの符号付順位和検定,Spearmanの順位相関係数を用いて,統計学的解析には,R.2.8.1を使用し,有意水準は5%未満,相関係数0.5以上を相関ありとした。

    【結果】術後平均在院日数は,22.3±5.7日,術後3ヶ月時点は,平均105.8±12.1日であった。退院時と術後3ヶ月におけるJHEQの変化では,不満足度および合計点,下位尺度間に有意な差は認められなかった。不満足度とJHEQ合計点および下位尺度間の関連性は,退院時では,不満足度と痛みのみに負の相関(ρ=-0.50 p=0.00)(痛みが強いと不満足度は高い)が認められた。術後3ヶ月では,全ての項目間で,相関は認められなかった。

    【結論】福井らは,THAにより,最も期待できる効果は,痛みの改善であり,術後の満足度に最も反映されていたものも,痛みの改善であったと述べており,本研究も同様の結果となった。THA後のJHEQを用いた調査では,術前と術後を比較した報告が多く,その場合は,有意な改善を示しているが,本研究では,退院時と術後3ヶ月という術後間での比較であり,JHEQにおいて,有意な改善を認めなかったと推察する。本研究の結果では,疼痛が改善され,動作が遂行しやすくなり,メンタルが充実してきているTHA後においては,満足度をJHEQで捉えることは,難しいのではないかと考えられた。THA後の満足度を幅広く捉えるには,ICFでいうところの「参加」面からの検討が必要であると考える。

  • 生友 尚志, 永井 宏達, 田篭 慶一, 三浦 なみ香, 岡村 憲一, 奥埜 尭人, 中川 法一, 増原 建作
    セッションID: O-MT-17-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工股関節全置換術(THA)後患者は転倒の危険性が高い。THA後患者は転倒により大腿骨ステム周囲骨折や脱臼などの重篤な傷害を受ける場合があり,転倒予防対策が必要である。しかし,THA後患者の転倒発生原因については未だ明らかになっていない。我々の研究において,末期変形性股関節症では跛行の有無が転倒発生に関連することが明らかになっている。そこで本研究では,THA後の跛行の有無と転倒発生の関連性について検討することを目的とした。

    【方法】

    2013年2月から2015年2月までに当院にてTHAを施行した患者286名を対象とした。対象除外基準は,男性,慢性関節リウマチ,大腿骨頭壊死症,中枢神経疾患,精神疾患,めまいを有する者,大腿骨頚部骨折術後,再THA,THA後1年以内に反対側THAを受けた者とした。

    転倒調査は,THA後1年間の転倒経験の有無と転倒発生日を自己記入式のアンケートと問診にて聴取した。転倒発生に関連する要因として,手術前に年齢,BMI,服薬数,合併症の有無を調査し,術後3週経過時に股関節屈曲・伸展・外転・内転可動域(ROM),股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,跛行の有無を調査した。筋力はHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,手術側の最大等尺性筋力を測定し,トルク体重比(Nm/kg)を算出した。跛行の有無は歩行観察により跛行の程度を4段階(跛行なし,軽度,中等度,重度)にて判定し,中等度か重度の場合を跛行ありとした。跛行の程度の判定基準は,跛行なしは異常運動なし,軽度は骨盤・下肢に軽度の異常運動あり,中等度は骨盤・下肢に明らかな異常運動ありまたは体幹に軽度の異常運動あり,重度は体幹・骨盤・下肢に明らかな異常運動ありとした。

    統計解析はCox比例ハザードモデルを用いて強制投入法によりTHA後の跛行の有無と転倒発生の関連性について検討した。モデル1はCrudeモデルにて跛行の有無を投入し,モデル2にて年齢,BMIで調整を行い,モデル3にて服薬数,合併症の有無,ROM,筋力,10m歩行時間で調整した。有意水準は全て5%とした。

    【結果】

    対象者のうち除外基準に該当せず,欠損値のないTHA後患者162名(年齢:62.6±8.7歳)を解析対象とした。THA後1年間での転倒発生率は31.5%(51名)であった。Cox比例ハザードモデルによる分析の結果,跛行の有無(調整済みハザード比:3.62,95%信頼区間:1.86-7.06,p<0.01)と膝関節伸展筋力(調整済みハザード比:0.25,95%信頼区間:0.07-0.85,p<0.05)が転倒発生に関連する因子として抽出された(モデル3)。

    【結論】

    THA後患者の転倒には跛行と膝伸展筋力の低下が関連していることが明らかになった。特に跛行を有する患者の転倒危険率は3.6倍であり,跛行の有無はTHA後患者の転倒発生の有力な予測因子と言える。転倒予防の観点からも跛行の改善はTHA後のリハビリテーションの重要課題であると考える。

  • 福迫 剛, 東 直人, 上野 友愛, 砂原 伸彦, 神囿 純一
    セッションID: O-MT-17-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    Tinettiらは,日常生活における動作遂行に関する転倒恐怖を測定することで,自己効力感の低下を評価する転倒関連自己効力感尺度,Falls Efficacy Scale(FES)を開発した。最近の研究でFESはQOLと関連性があるという報告もされている。今回,上出直人らが翻訳した国際的に使用可能な日本語版国際版転倒関連自己効力感尺度FES-I(International)を使用し,下肢人工関節置換術前後の下肢機能と自己効力感の関連性について検討した。FES-Iは,64点満点で点数が低いほど転倒関連自己効力感が高いことを示す。

    【方法】

    変形性関節症の女性で股関節の人工関節置換術(以下THA)を施行した7例,膝関節の人工関節置換術(以下TK A)を施行した8例を対象とし,評価項目は年齢,体重,歩行様式,2回計測平均値による10m歩行時間,Timed Up & Go test(以下TUG),術側・反対側の膝伸展筋力,股関節外転筋力,手術部位・手術部位以外のVisual Analogue Scale(以下VAS),FES-Iとし,術前と術後3週に評価した。術後のFES-Iが術前よりも低値の群を自己効力感改善群,術前よりも高値又は変化しなかった群を自己効力感低下群に分類し,術前と術後の評価項目について検討した。下肢筋力はHand-Held Dynamometer(アニマ社製μ-TasF1)を使用し,体重比率とした。統計処理はStudent,Welch-t検定を用い,有意水準は5%とした。

    【結果】

    自己効力感改善群は5例(TKA2例,前方侵入THA3例),(術前)-(術後):歩行様式(全例独歩)-(独歩4例,1本杖1例),10m歩行時間(9.4±1.3秒)-(9.6±1.9秒),手術部位VAS(72.8±16.8)-(19.8±20.9),手術部位VAS変化53±16.8。自己効力感低下群は10例(TKA6例,前方侵入THA1例,後方侵入THA3例),(術前)-(術後):歩行様式(独歩5例,1本杖3例,2本杖1例,手押し車1例)-(独歩3例,1本杖3例,2本杖2例,歩行器2例),10m歩行時間(12.9±5.3秒)-(14.9±5.1秒),手術部位VAS(59.6±25.3)-(38.8±25. 9),手術部位VAS変化20.8±22.7となった。2群間で有意差がみられたのは,術後の10m歩行時間と手術部位VAS変化のみ(P<0.05)で,歩行速度と手術部位の疼痛が改善されれば自己効力感も高まることが示された。

    【結論】

    手術部位VASでの有意差はみられなかったが,手術部位VASの変化で有意差が出たことから手術部位の術前の疼痛が術後大幅に改善することが,自己効力感の改善に関与すると考えられる。また,自己効力感改善群の術前の歩行様式がすべて独歩であったことや自己効力感改善群の術後の歩行時間が有意に低かったことから,自己効力感において歩行能力は重要な指標になると思われる。これらのことから下肢人工関節置換術後3週で自己効力感が改善するには,著明な疼痛軽減と歩行速度の維持が必要と考えられる。

  • 川端 悠士, 狩又 祐太
    セッションID: O-MT-17-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    人工股関節全置換術(THA)では脚長を補正するように手術が行われるが,画像上で脚長が補正されたにも関わらず,術後早期には術側下肢の延長感(自覚的脚長差,Perceived leg length Discrepancy;PLLD)を訴える症例を経験する。二次性変股症の多い本邦では両側罹患例が多く,対側下肢への力学的負担を考慮すると片側手術後早期に下肢荷重率を均等化させる必要があるが,脚長差を有する症例においては延長側への荷重が困難な場合が少なくない。術後早期における術側下肢の荷重率に影響を与える要因としては疼痛や筋力など様々な要因が考えられるが,これら交絡因子を調整した上で脚長差と荷重率との関連性を明らかにした報告は少ない。本研究ではTHA例におけるPLLDおよびX線学的脚長差と術側下肢荷重率との関連性を明らかにすることを目的とする。

    【方法】

    対象は当院にて片側THA施行となった連続81例のうち,立位保持が困難な3例,免荷を要する2例を除く76例(年齢:71.4±9.0歳,性別:男性11例・女性65例,術式:後側方侵入)とした。基本的属性として年齢・性別を,術前要因として疼痛・X線学的脚長差を,術後要因として術側下肢の疼痛・X線学的脚長差・PLLD・術側股伸展可動域・股外転筋力患健比・術側下肢荷重率を調査した。術後要因は術後2週の段階で測定を行った。PLLDの測定にはblock testを,術後X線学的脚長差の測定には涙痕-小転子間距離を使用し,いずれも術側が非術側よりも5mm以上延長している場合を5mm以上群,脚長差が5mm未満または非術側が術側よりも延長している場合を5mm未満群とした。下肢荷重率の測定にはWEIGHT BALANCERを使用し快適立位姿勢における30秒間の平均荷重率を算出した。データの正規性を確認した後に,対応のないt検定を使用し,PLLD5mm未満群・5mm以上群間およびX線学的脚長差5mm未満群・5mm以上群間で下肢荷重率の比較を行った。また回帰の有意性および平行性を確認した後に共変量を決定し,従属変数を下肢荷重率,独立変数をPLLDおよび術後X線学的脚長差として共分散分析を実施した。

    【結果】

    PLLD5mm未満群および5mm以上群の下肢荷重率は,それぞれ47.2±2.5%,43.9±4.8%であり,PLLD5mm未満群に比較して5mm以上群の下肢荷重率が有意に低値であった(p<0.01,r=0.39)。X線学的脚長差5mm未満群および5mm以上群の下肢荷重率はそれぞれ45.4±4.5%,45.3±3.2%であり,両群間に有意差を認めなかった(p=0.94,r=0.08)。共変量を術側下肢の疼痛として共分散分析を実施した結果,荷重率はPLLD5mm未満の群に比較してPLLD5mm以上の群で有意に低値を示した(F=7.76,p<0.01)。なおX線学的脚長差に関しては,共変量で調整後も5mm以上群・5mm未満群間の荷重率に有意差を認めなかった(F=0.36,p=0.55)。

    【結論】

    PLLDは疼痛の影響から独立して下肢荷重率と関連することが明らかとなった。下肢荷重率の改善にはPLLD改善の必要性が示唆される。

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