会計プログレス
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2012 巻, 13 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 山田 哲弘
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 1-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     税金に関する情報は企業価値を評価する上で重要であるが,これまでの発生高を用いた研究では,税金の影響を考慮した会計利益の情報内容について,厳密な分析は殆ど行われてこなかった。本稿では,税金との関係による利益調整の情報の違いを分析するために,発生高を税金への影響にしたがって裁量的課税計算対象発生高(DBTA)と裁量的課税計算対象外発生高(DBOA)に分解した。企業が税コストを最小化するためにDBTAを用いて課税所得を平準化するならば,DBTAと会計利益の成長性には正の関係があり,市場がDBTAと成長性の関係を評価するならばDBTAとE/Pレシオには負の関係があると予想される。また,わが国の会計制度と法人税制の関係からDBOAの大きさは企業の保守的会計行動を示すと考えられるため,DBOAと会計利益の成長性には負の関係があり,その情報を市場が保守的会計行動として評価するならばDBOAとE/Pレシオには正の関係があると予想される。本稿の結果はこれらの仮説と整合的であり,会計制度と法人税制の関係によって,会計利益に含まれる情報が異なっていることを示唆している。
  • 真田 正次
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 15-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     グローバル化の進展の中でその推進役となる組織は,個別組織から個別組織をその構成要素とする組織の集合体へと趨勢的に変化している。他方,1990年代後半のIASCからIASBの組織構造の変化は,このような組織の趨勢的変化とはかならずしも軌を同じくしていない。そこで,本稿では,IASC戦略作業部会の公表した報告書の分析を行うことを通じて,IASBが他のグローバル組織と異なった構造をしているのはなぜか,別の言い方をすれば,IASBの組織構造の決定要因に関する検討を行う。その際,代表性モデルと専門性モデルという2 つの理念型を分析枠組みとし,組織構造の変化を組織のロジックの変化によって説明しようとする。
     本稿の分析によって,代表性モデル(1997年以前のIASC)から,代表性モデルと専門性モデルの共存(1998年「討議資料」),さらには専門性モデル(1999年「勧告書」およびIASB)への組織のロジックの変化が明らかとなった。結果は,このような組織のロジックの変化が組織構造の変化の要因となっていることを示唆している。
  • 管理会計からのアプローチ
    安酸 建二
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 29-42
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     日本の証券市場に上場している企業は,証券取引所の要請に応じて,決算短信で次期の売上高や利益についての業績予想を発表する。本研究の目的は,売上高予想から利益予想を引くことでコスト予想を取り出し,コスト予想と売上高予想との関係を利益計画や予算の観点から分析することにある。分析では,予想誤差率の平均値に注目するのではなく,管理会計領域で用いられるコスト分析技術を取り入れ,コストを売上高の関数として捉える。分析の結果,売上高の増大予想の下でのコスト増加率は過少に予想される一方,売上高の減少予想の下でのコスト減少率は過大に予想されることが発見された。これは,コストが過小に予想されることを意味し,利益予想の楽観性の原因となる。
  • 胡 丹, 車戸 祐介
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 43-58
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿は「固定資産の減損に係る会計基準」に関する議論に寄与することを目的に,企業が計上する減損損失の特質に関する定量的分析を行ったものである。まず,企業が計上した減損損失の計上要因を「経済的要因」と「報告インセンティブ要因」に分け,そのうえで,基準が強制適用された後の2007~2010年の4 年間をサンプルとし,トービット回帰による分析を行った。その結果から,企業が計上した減損損失には,企業を取り巻く経済的な要因が適切に反映されていることがわかった。しかし,それらをコントロールした上でも,経営者交代や債務契約,目標利益達成といった報 告インセンティブと関連のある要因が有意となり,また経営者による利益平準化およびビッグ・バス行動が行われている可能性が高い証拠も得られた。これらのことから,企業が計上した減損損失には,当該固定資産の収益性と関連の深い「経済的要因」が反映されているが,経営者の裁量等の「報告インセンティブ要因」が入り込んでいることが考えられる。なお,今回の分析結果はいくつかの先行研究で提示または示唆された内容と首尾一貫しているが,本稿には,分析課題の明確化,サンプル期間の工夫,個々の変数の工夫において,独自な貢献が見られる。
  • IASB・FASB収益認識プロジェクト『2011年公開草案』を中心として
    姚 小佳
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 59-72
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿は,国際会計基準審議会と米国財務会計基準審議会が収益認識プロジェクトにおいて提案している収益認識基準を検討し,新たな収益認識基準が現行の収益認識に関する問題を解決することができるかどうかについて分析したものである。提案された収益の認識原則は資産・負債の変動に焦点を合わせる収益の定義と整合しているが,提案された測定アプローチである顧客対価モデルの本質は収益費用アプローチであるため,収益の認識原則と測定アプローチとの間の矛盾を引き起こしていると考えられる。
  • 中村 亮介, 大雄 智, 岡田 幸彦
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 73-85
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     近年,“ポイント”の重要性が社会的・経済的に増してきており,かつ独立型ポイントプログラムによる競争から提携型ポイントプログラムによる競争へと進展しているにもかかわらず,ポイントに関する会計制度はこの現状に必ずしも対応していない。そこで本論文では,日本で代表的な提携型ポイントプログラムを運営している3 社を,資料およびインタビューにより調査し,多様な提携型ポイントプログラムとそれらの会計処理の実態との関係を検証した。その結果,調査した3 社では,ポイントを通じたビジネスモデルに違いがあり,それに応じて会計処理が異なることがわかった。このことは,提携型ポイントプログラムに関する会計基準が未整備である中で,各々の企業がそれぞれのビジネスモデルにあわせて会計処理を工夫していることを意味する。仮に日本におけるポイントプログラム会計が会計処理の一本化を迫られるとすると,調査した3 社に限っていえば,いずれかの企業の取引実態がみえにくくなるという弊害が生じる可能性がある。
  • 鈴木 大介, 上村 昌司
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 86-98
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,現行の会計基準における従業員ストック・オプションの費用計上の根拠を検討する。具体的には,契約理論に基づくモデル分析により,労働サービスと,その対価として付与される従業員ストック・オプションの比較を行った。その結果,付与時点,行使時点を問わず,また,経済的価値の次元でも公正価値の次元でも,労働サービスと従業員ストック・オプションが等価で交換されるとは限らないことを明らかにした。分析における新しい知見は次の通りである。第一に,権利確定期間中でなく,その後の期間における労働サービスを期待してオプションが付与される可能性を指摘した。第二に,労働サービスを特定期間に分離できない可能性を指摘した。第三に,仮に労働サービスの期間分離の問題を回避したとしても,通常,労働サービスとオプションが等価でないことを指摘した。これらにより,労働サービスそれ自体を費用とする現行の会計基準のもとであれば,不適切な費用認識による,単純な留保利益の資本組入の可能性が示唆されることになる。
  • 高橋 由香里
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 99-111
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,負ののれんの償却期間の決定要因を明らかにすることで,将来の見通しに関する経営者の認識が償却期間の選択に反映されているか否かを検討することにある。検証の結果,救済型案件では短期の,共通支配下の取引では長期の償却期間が選択されることが示唆され,負ののれんの償却期間の選択には当該企業結合にかかる費用または損失が生じる期間に対する経営者の認識が反映されている可能性が示された。このことは,改正前の企業結合会計基準で要求されていた負ののれんの規則償却が将来の見通しについて有用な情報を提供していた可能性を示唆している。
  • 欧米主要会計学術雑誌・実務雑誌との比較を通じて
    河合 隆治, 乙政 佐𠮷
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 112-124
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,バランスト・スコアカード研究の蓄積状況を明らかにするために,わが国主要会計雑誌,欧米主要会計学術雑誌,欧米主要会計実務雑誌に掲載されたバランスト・スコアカードに関する研究を対象として文献分析を行う。具体的には,論文数のトレンド,研究内容,理論ベース,研究方法,研究サイトの5 つの観点からわが国のバランスト・スコアカード研究の現状を検討する。また,主要欧米会計雑誌との比較を通じた文献分析結果から,わが国のバランスト・スコアカード研究を発展させる可能性を有する研究の方向性として,実践的考察に基づいた一般化可能な研究の推進,および,BSC実践のさらなる観察の2 点を提示する。
  • 澤田 成章
    2012 年 2012 巻 13 号 p. 125-136
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,減額に起因する過去勤務債務の償却年数設定に許容された裁量の余地に対して,経営者がどれほど裁量的な選択を行っているのか,そうした選択に影響を与える要因は何であるのかを明らかにすることである。本稿では,過去勤務債務の償却年数が数理計算上の差異の償却年数よりも短く設定される状況に注目した検証を行う。その結果,以下の4 点を発見している。①減額に起因する過去勤務債務の償却年数は増額に起因する場合と比較して保守的でない傾向にある。②過去勤務債務の償却年数設定においては数理計算上の差異の償却年数と比較して裁量を行使している可能性が高い。③この傾向は短期的にターゲット利益を達成する目的を反映している可能性が高い。④しかし,外国人投資家や機関投資家によるモニタリングによって阻止することができる可能性が示唆される。これらの結果からは,減額に起因する過去勤務債務の償却年数設定には,ターゲット利益の達成というベネフィットと,株主に対する説明コストの上昇というコストのトレードオフ関係が存在する可能性が示唆される。
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