本稿は,戦時中の軍需品調弁価格計算に用いられた原価計算について,陸軍及び海軍における運用の違いとその理由,そして戦後の防衛装備品調達価格計算にどちらの方法が継承されたのか,会計検査院との関係から考察したものである。
原価計算の主目的は,陸軍が調弁価格決定のための基礎であったのに対し,海軍では能率向上による原価低減であった。調弁価格の決定方法も,陸軍では見積原価に「陸軍軍需工業適正利益率算定要綱」で計算した原価附加利益を加算する適正価格主義だったのに対して,海軍は「契約番号別原価報告書」を確認した契約担任官が,裁量で契約価格を決定していた。このような違いが生じたのは,平時から戦時に移行した際における陸軍及び海軍の調弁量の差が原因と考えらえる。
戦後の防衛庁,防衛省の防衛装備品調達価格決定方法は,陸軍の適正価格主義を踏襲している。この方法だと,一定の計算式に基づいて利益額を計算するため,基本的に誰がやっても価格はほぼ同一となる。このため,合規性,経済性の観点から,戦後も採用されたと考えられる。
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