会計プログレス
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2019 巻, 20 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 濵村 純平
    2019 年 2019 巻 20 号 p. 1-15
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本研究は並行輸入企業があるとき,多国籍企業が選択する国際移転価格の設定基準について,数理モデルをもちいて分析する。多国籍企業が自国で製造した製品を他国で販売するとき,これを購入した並行輸入企業が自国で製品を販売することがある。このとき,並行輸入企業の戦略には在外子会社の戦略をとおして多国籍企業の設定する国際移転価格が影響するため,多国籍企業の利益を考える上では,市価基準と原価基準のどちらで国際移転価格を設定すればよいかが管理会計における重要な問題となる。本研究は以上の問題を数値例により議論する。
  • 米国各州のデータを用いた時系列分析
    原口 健太郎
    2019 年 2019 巻 20 号 p. 16-31
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     米国各州において,統一的基準に基づく公会計財務諸表の純資産情報と地方債格付との間に明確な関連性(純資産-格付関連性)が発現している一方で,日本の地方公共団体においては発現していないことが先行研究で明らかになっており,当該関連性を発現させる要因(発現要因)の解明が急務である。本稿では,解明の手がかりを得るため,統一的基準導入後,上記関連性が時間経過とともにどのように発現するか,その過程を説明する仮説の構築を目的として,米国各州における公会計財務諸表の時系列分析を行った。分析の結果,米国各州の純資産から導出した財務健全性指標である修正後正味資産比率(NAR)と地方債格付を数量化した指標(RATING)との相関係数は,時間経過とともに段階的に上昇していくことを明らかにし,純資産-格付関連性は,統一的基準導入後即時に発現するのではなく,段階的に発現するという仮説(段階的発現仮説)を構築した。当該仮説により,純資産-格付関連性の発現要因は,時系列に沿って段階的に増大するものであるという重要な手がかりを得ることができる。さらに,米国各州においては,長期間にわたるNARの変動の累積により,NARの分散が時間経過とともに段階的に増大していることから,NARの分散が発現要因の1 つである可能性を明らかにした。
  • 積 惟美
    2019 年 2019 巻 20 号 p. 32-46
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本論文は,財務危機にある企業が銀行から追い貸しを受ける際に,繰延税金資産の調整を行っているか否かを検証している。検証の結果,銀行が追い貸しを行う直前期において,財務危機企業は繰延税金資産に係る評価性引当額を裁量的に減少させ,利益を増加させていることを示唆する証拠が観察されている。また,メインバンクとの関係性が強いほど,またメインバンクの自己資本比率が規制に抵触する可能性が高いほど,追い貸しと裁量的な評価性引当額の減少との関係が強くなることを観察している。これらの証拠は,銀行,とくにメインバンクが追い貸しを行う際に,貸出先企業の財務報告に影響を与えていることを示唆している。
  • 自治体職員への質問紙実験から
    生方 裕一, 黒木 淳, 岡田 幸彦
    2019 年 2019 巻 20 号 p. 47-61
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     わが国の地方公共団体では,健全な財政運営を行うために予算の増分を抑制することが課題となっている。本稿は,予算要求時において次年度予算要求額を抑制すると期待される会計情報の効果を検証した。検証に際して,茨城県常総市職員を対象とする次年度予算要求額の抑制効果に注目した質問紙実験を行った。分析の結果,行政コスト情報と業績情報から非効率と考えられる事業では,将来リスクに関する情報としての資産老朽化情報が次年度予算要求額の抑制に効果があることが示された。
  • ターゲット・ラチェットに基づく実証分析
    内田 浩一, 野間 幹晴
    2019 年 2019 巻 20 号 p. 62-77
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿は,アナリストが経営者予想のスラックと目標達成を目的とした利益調整行動に与える影響を解明する。まず,ターゲット・ラチェットのモデルを使い,t+1 期首のアナリスト数とt期からt+ 1 期への目標改定の関係を検証した。検証により,t期の期初予想を達成する経営者はアナリスト数が増えるほどt+1 期にt期よりも高い期初予想を公表することが確認された。次に,アナリスト数と経営者予想のスラックの関連を検証するため,t+1 期首のアナリスト数とt+1 期の期初予想の達成率を分析した。分析から,アナリスト数の増加に伴い期初予想は達成しにくくなることがわかる。このことは,アナリスト数の増加に伴い最終的にスラックがなくなる可能性を含意する。最後に,t+1 期首のアナリスト数とt+1 期の経営者の裁量的会計発生高との間に有意な関連はないが,実体的裁量行動との間に正の関係を確認した。一連の証拠は,アナリストの存在により経営者は高水準の予想を公表するためスラックがなくなる可能性があるが,高水準の予想によって,経営者の増加型の実体的裁量行動が助長される可能性を示唆する。
  • 金 鐘勲, 中野 貴之, 成岡 浩一
    2019 年 2019 巻 20 号 p. 78-94
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本研究は,IFRS(国際会計基準)の任意適用を選択した企業の特性を,同適用前と適用後に分けた分析を行うことにより,日本企業によるIFRS適用の動機と効果を解明する。なお,ここにIFRS適用の効果とは所有構造の変化,すなわち国内基準からグローバル基準への変更に伴い企業と投資家との関係性に何らかの変化が生じるか否かという点に焦点を当てる。
     本研究では,第一にIFRSの任意適用の動機として,①国内外の投資家の注目度が大きい,②IFRSと日本基準の差異が財務諸表数値に及ぼす影響度が大きい,および,③親子上場の下で親会社がIFRSを適用する場合に,同適用に踏み切る傾向が強い,第二に同適用の効果として,IFRS適用企業は,適用前から適用後にかけて,投資家との対話阻害要因を軽減する,すなわち持ち合い関係(政策保有株式)の縮減に取り組む,という事前に予想した仮説に整合する証拠を得た。
     本研究の重要な貢献は,IFRS任意適用企業は,同適用後,投資家との対話阻害要因を軽減すべく,持ち合い関係を主体的に解消していることを示唆する証拠を,日本特有の文脈をも十分に踏まえながら,はじめて見出したことである。また,従来,任意適用の動機として海外投資家への対応が指摘されてきたが,実は,海外のみならず,国内外の投資家全体の注目度が大きいほど任意適用に動機づけられることを証拠づけた点も,これまでのIFRS適用研究に対する本研究の貢献である。
     これらの証拠は,IFRS適用企業は証券市場と協調し投資家との対話に主体的に取り組む傾向が強いのに対して,同非適用企業は必ずしもその必要性が大きくないことを示唆するものである。IFRS適用企業と非適用企業の間にこうした本質的な相違点があるとすれば,IFRSの強制適用のみを議論するのは効果的ではなく,同強制適用は近年進められてきているコーポレート・ガバナンス,ディスクロージャー制度,および,証券市場の改革等の施策と一体的に議論されるべき課題であることを示唆している。
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