会計プログレス
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2009 巻, 10 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 大浦 啓輔, 新井 康平, 松尾 貴巳
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 1-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本論文の目的は,ABC(活動基準原価計算)導入後のコストビヘイビアを分析することによって,ABC導入が組織構成員の行動にどのような影響を与えるかを推定することにある。具体的には,調査対象である株式会社飯田より得られた顧客別損益に関するアーカイバルデータを用い,ABC導入が顧客別コストビヘイビアにどのような構造変化をもたらすのかを検証する。分析の結果,分析期間を通じて下方硬直的であった顧客別コストビヘイビアは,ABCの普及時点を境にコストの下方硬直性が緩和されることを確認した。これは,下位組織にまでABCが十分に浸透した時期を明らかにした事前の予備的インタビュー内容と整合的な結果である。こうしたコストの下方硬直性の緩和は赤字顧客に顕著であり,売上の減少に応じたコスト調整が適切に行われるようになったことを示唆している。
  • 北川 教央
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 16-27
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,組織再編の公表に先立った経営者の利益調整行動と,株価形成との関連性について実証的に分析することにある。株式を対価とする組織再編では,株式交換比率や合併比率を有利に決定するため,経営者は交渉過程において,株価を意識した利益捻出を行う動機を有する。そして,実際に経営者が利益捻出を行っているのであれば,その後の会計期間では利益の反転が生じることが予想される。そのような利益捻出と反転効果は,短期的または長期的な株価形成にマイナスの影響を及ぼすであろう。本稿では,組織再編企業の公表前における裁量的発生高と,公表後における短期および長期の異常リターンとの関連性について分析を行った。その結果,組織再編企業の経営者が基本合意事項の公表前期に利益捻出をはかること,そして利益捻出が公表後の会計期間に利益の反転をもたらし,長期的な株価形成にマイナスの影響を及ぼすことを示唆する証拠を得た。
  • テキストマイニングを利用して
    記虎 優子
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 28-42
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,企業の社会的責任(CSR)の一環としての情報開示志向という定性的な企業特性が,企業ウェブサイトにおける情報開示に正の影響を与えるのかどうかを解明することを試みている。まず,CSRに対する基本方針のテキスト型データに対してテキストマイニングを行い,CSRに対する基本方針の中で情報開示に関連する言及があるのかどうかを判別することで,各企業がCSRの一環として情報開示を志向しているのかどうかを追究している。次に,CSRに対する基本方針の中で情報開示に関連する言及があれば,企業ウェブサイトにおける情報開示に積極的に取り組んでいるのかどうかを検証している。その結果,本稿では,企業がCSRの一環として情報開示を志向していれば,実際にも企業ウェブサイトにおける情報開示に積極的に取り組んでいることを示している。こうした企業のウェブサイトにおける情報開示は,特に情報の多さという点で優れている。また,企業がアカウンタビリティを自覚していることが,企業ウェブサイトにおいて優れた情報開示が行われる上で,重要な要因である。
  • 金 姃玟
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 43-53
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     会計学研究における制度派理論の最近の動向について分析した。本稿は,会計学研究で一般に用いられてきた三つの制度派理論(新制度派経済学,旧制度派経済学,新制度派社会学)を比較検討した上で,各アプローチによる最近の会計学研究が持つ特徴について理論的に分析した。その結果,最近になって,厳密に分類された制度派理論の各系譜が,お互いの異なった仮定を想定するようになり,多元的な研究の立場を形成していることが確認できた。すなわち,最近の会計学研究が,制度形成と変化における動機,行為主体に関する仮定,制度の多様性の認定の側面において,多元的な研究動向の特徴を有していることを明らかにしたのである。
  • 会計情報の公的開示が投資家感情に与える影響に関する実験研究
    田口 聡志
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 54-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     証券市場においては,様々な意図を持った様々なプレイヤーの相互作用が見られるが,本稿では,特に投資家の感情に着目し,①他の投資家を意識することが投資家のネガティブな感情を変化させるか,および,②会計情報の公的開示が投資家の感情を変化させるか,という2つの仮説を,実験的に検証する。実験の結果,①他の投資家を意識することが投資家のネガティブな感情を統計的に有意に増幅させる,②会計情報の公的開示が投資家のネガティブな感情を統計的に有意に増幅させるという知見が得られた。特に後者は,会計情報の公的開示をアプリオリの前提とする現行の会計ディスクロージャー制度設計のあり方について,再考を迫るものといえる。
  • 福田 淳児
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 68-83
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では企業の採用する戦略のタイプまた企業の直面する環境,管理会計担当者の役割および彼らの組織業績への貢献の知覚との間の関係について検討を行なっている。東証一部上場の製造企業への郵送質問票調査の結果,以下の点が発見された。第1に,管理会計担当者の役割として管理者への情報提供を通じたビジネスの支援役割,部門管理者の相談者役割の2つが発見された。第2に,管理会計担当者の役割と戦略との間には関連性は見いだされなかったが,環境の不確実性・複雑性が高い状況ではビジネスの支援役割が積極的に果たされる傾向があることが発見された。第3に,管理会計担当者の組織業績への貢献の知覚を被説明変数とした重回帰分析の結果から,環境の複雑性が低い状況で部門管理者の相談者役割を果たしている管理会計担当者は組織業績への貢献を高く知覚する傾向があることが発見された。
  • 米国連邦政府の業績予算
    藤野 雅史
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 84-100
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     米国連邦政府における業績予算は,技術的な困難さと関係者間の利害対立のもとで,どのように実践されてきたのか。GPRAという1つの法律が業績予算の起点ではあったが,業績予算は法律の規定にある形では実現しなかった。業績予算は,業績情報を整備するというGPRAによってもたらされたもう一方の実践のなかから形成されていき,それはPARTという形に結実した。しかし,PARTもまた,実践をつうじてさらなる見直しが続けられている。業績予算をめぐる一連の実践のなかで,GAO,OMB,各省庁という当事者たちはときに反発し,ときに協力しあいながら,業績予算を浸透させつつある。
  • 安酸 建二, 梶原 武久
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 101-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     コスト・ビヘイビアに関連する近年の実証研究において,売上高の変動に対するコストの変動は,売上高が増加する場合と減少する場合とで非対称(asymmetry)であり,売上高が減少する場合のコストの減少率の絶対値は,売上高が増加する場合のコストの増加率の絶対値よりも小さいことが明らかにされている。このようなコスト・ビヘイビアは,コストの下方硬直性と呼ばれている。コストの下方硬直性が生じる原因として,経営者・管理者の合理的な意思決定の結果,コストが下方硬直的になる可能性―「合理的意思決定説」と本稿では呼ぶ― が指摘されている。すなわち,売上高の減少が一時的であり近い将来回復すると予測される場合,売上高の減少時での経営資源の削減と,売上高の回復時での経営資源の再獲得は,短期的に過剰な経営資源を維持することよりも,結果的に高いコスト負担につながることがある。この場合,経営者は,積極的にコストの低い方を選ぶという合理的な意思決定を行うと考えられている。しかし,先行研究では,経営者・管理者が抱く将来の売上高の見通しに関する情報が,分析モデルに組み込まれていないため,合理的意思決定説はこれまでのところ検証されていない。本研究では,日本企業が決算短信で要求される次期売上高予測を,将来の売上高の見通しに関する情報とみなして合理的意思決定説の検証を試みる。
  • 山口 朋泰
    2009 年 2009 巻 10 号 p. 117-137
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿は,経営者による機会主義的な利益増加型の実体的裁量行動が,企業の将来業績にマイナスの影響を与えるか否かを検証するものである。本稿で対象とする利益増加型の実体的裁量行動は,①一時的な値引販売や信用条件の緩和による売上操作,②研究開発費,広告宣伝費,および人件費などの裁量的費用の削減,そして③売上原価の低減を図る過剰生産,の3タイプである。分析においては,利益増加型の実体的裁量行動の中から機会主義的な部分の特定を試みる。具体的には,会計発生高を増やす余地が小さい状況,また利益ベンチマークと合致ないしわずかに超過した状況を特定し,それらの状況にある企業の利益増加型の実体的裁量行動を,経営者の機会主義的選択として捉えた。分析の結果は,経営者の機会主義的な利益増加型の実体的裁量行動が,企業の将来の業績(総資産利益率)にマイナスの影響を及ぼすことを示唆している。
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