会計プログレス
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2016 巻, 17 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 呉 重和, 関口 了祐, 李 東俊
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 1-12
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,独占的川上企業が数量競争をおこなう複数の川下企業に中間製品を販売する市場環境を想定し,川上企業が提示する供給価格が共有される状況と供給価格について不確実性を有する情報が開示される状況が,企業利得に与える影響を分析する。結果として,供給価格が共有される場合,川下企業は供給価格に対する競争相手の行動を反映し,数量を決定するが,供給価格に関する情報が開示される場合,川下企業は供給価格に対する競争相手の反応が正確に予想できないため,最適と予想される数量を決定してから,開示情報を反映する形で数量を調整する。特に供給価格に関する不確実性が十分に高く,価格が激しく変動する市場環境においては,情報共有の状況よりも,情報開示の状況における各企業の期待利得が高くなる状況が存在する。
  • 酒井 絢美
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 13-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿では,特に監査品質がしばしば問題視される中小監査事務所に着目し,その中でも公認会計士・監査審査会(Certified Public Accountants and Auditing Oversight Board: CPAAOB)の勧告を受けた監査事務所を相対的に監査品質の低い監査事務所と定義した上で,監査品質の低い監査事務所のクライアントのビジネス・リスクと監査品質との間の関係について分析した。米国において比較的直接的にインプット面の監査品質を捉えることができる代理変数とされている公開会社会計監督委員会(Public Company Accounting Oversight Board: PCAOB)検査結果に代えて,CPAAOB検査結果に基づく勧告を監査品質の代理変数として実証分析を行い,クライアントのビジネス・リスクを表すROA,OhlsonのO-score,およびゴーイング・コンサーン注記という3 つの変数について検証した結果,相対的に監査品質の低い監査事務所のクライアントほどビジネス・リスクが高い,という仮説を支持する結果が得られた。当該結果は,日本の監査マーケットにおいてリスクの高い企業に対して品質の低い監査が行われているという,今後改善されるべき傾向を表している。
  • 陸・海軍の運用の違いと戦後への継承
    本間 正人
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 28-41
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿は,戦時中の軍需品調弁価格計算に用いられた原価計算について,陸軍及び海軍における運用の違いとその理由,そして戦後の防衛装備品調達価格計算にどちらの方法が継承されたのか,会計検査院との関係から考察したものである。
     原価計算の主目的は,陸軍が調弁価格決定のための基礎であったのに対し,海軍では能率向上による原価低減であった。調弁価格の決定方法も,陸軍では見積原価に「陸軍軍需工業適正利益率算定要綱」で計算した原価附加利益を加算する適正価格主義だったのに対して,海軍は「契約番号別原価報告書」を確認した契約担任官が,裁量で契約価格を決定していた。このような違いが生じたのは,平時から戦時に移行した際における陸軍及び海軍の調弁量の差が原因と考えらえる。
     戦後の防衛庁,防衛省の防衛装備品調達価格決定方法は,陸軍の適正価格主義を踏襲している。この方法だと,一定の計算式に基づいて利益額を計算するため,基本的に誰がやっても価格はほぼ同一となる。このため,合規性,経済性の観点から,戦後も採用されたと考えられる。
  • 吸収能力と経験学習能力に基づく考察
    福島 一矩
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 42-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,吸収能力,経験学習に係わる組織能力(経験学習能力)という2 つの管理会計能力が,管理会計システムの利用と組織業績の関係に与える影響を明らかにすることである。郵送質問票調査に基づく分析の結果,管理会計能力の高さは,管理会計システムの利用が組織業績に与える影響をよりポジティブにすることが確認された。また,管理会計システムの利用に応じて有効な管理会計能力が異なり,管理会計システムの特徴を活かした組織業績の向上には吸収能力,管理会計システムの利用方法を工夫した組織業績の向上には経験学習能力が有効であることも推察された。
  • 収支差額情報の有用性
    黒木 淳
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 55-69
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,私立大学が3 期先まで連続して教育研究経費を削減する要因について実証的に明らかにすることである。これまで先行研究は,私立大学を含む非営利組織がサービス提供の努力水準を連続して低下させる要因について明確に結論づけていない(Tuckman and Chang 1991;Greenlee and Trussel 2001)。本稿は,私立大学のサービス提供努力水準の低下を,教育研究経費を3 期連続で削減することとして代理し,私立大学の収支差額(利益)を示す「帰属収支差額」に注目することによって要因を特定する。2008年3 月期から2014年3 月期までの私立大学財務データを用いて検証した結果,帰属収支差額が低く,損失を計上した私立大学ほど, 3 期先まで連続で教育研究経費を削減していることを発見した。この結果は,私立大学における会計情報の利用者にとって,将来における教育研究経費の削減を予測するために,帰属収支差額の水準及び符号が有用であることを示している。
  • SFAS5型とSFAS143型の対象の明確化
    久保 淳司
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 70-83
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     支出の有無または金額,時期もしくは支出先に不確実性のある将来の支出(将来支出)について,現行アメリカ会計基準にはSFAS5型とSFAS143型の2 つの会計処理方法が存在する。本稿の目的は,将来支出に係る会計処理方法が2 つ存在する理由を説明することである。この目的のために,環境回復負債と受給権未獲得従業員解雇給付の2 つのトピックを題材とした分析を行い,二次的な意思決定における考慮事項と主たる意思決定における必然的考慮事項という異なる事象に対する異なる会計処理として2 つの会計処理方法が存在しているとの仮説を導出した。さらに,この仮説について,将来支出に係る現行アメリカ会計基準の全体に対する検証を行い,その妥当性を確認した。
  • 久多里 桐子
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 84-94
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     本論文は,議決権行使状況の分析を通じて,個人株主の増加が企業経営に対する規律付けを相対的に低下させるか否かについて実証的に明らかにすることを目的とする。具体的には, 2010年から2015年までに提出された臨時報告書,延べ690件を対象として,取締役選任議案における議決権不行使率の変化と,同期間における個人持株比率の変化の関係を分析した。分析の結果,両者の間には統計的に有意なプラスの関係が確認された。本論文の証拠は,経営参加のインセンティブが低い小口の投資家である個人株主が増加することによって,企業経営に対する規律付けが相対的に低下することを示唆する。
  • 小笠原 亨, 佐久間 智広, 三矢 裕
    2016 年 2016 巻 17 号 p. 95-106
    発行日: 2016年
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル フリー
     業績評価における寛大化・中心化バイアスが,昇進の意思決定における業績評価の有用性を低下させることは,先行研究で主張されてきた。しかし,企業内の業績評価に関するデータが入手困難であるため,これまで経験的証拠が得られていなかった。本研究では上場企業1 社の人事データをもちいた分析から,寛大化バイアスは昇進の意思決定に影響を与えない一方で,中心化バイアスが低い部門ほど,業績評価の結果が昇進に反映されることを発見した。この結果は,同一業績評価システムの下でも中心化バイアスの程度によって,昇進の意思決定における業績評価の有用性が異なることを示唆する。
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