学校メンタルヘルス
Online ISSN : 2433-1937
Print ISSN : 1344-5944
15 巻, 2 号
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原著論文
  • 嘉瀬 貴祥, 遠藤 伸太郎, 矢野 麻梨奈, 大石 和男
    2012 年 15 巻 2 号 p. 216-224
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    近年,大学生における抑うつ傾向の増加が問題となっており,その予防は大学にとって重要な課題となっている。そこで本研究では,大学生を対象としてどのような要因が抑うつ傾向に影響を及ぼすかについて検討した。先行研究を基に抑うつに影響を及ぼす要因である性格特性のなかから神経質傾向,予防医学の観点からSense of Coherence (SOC)の二つの要因を選び,抑うつ傾向との関係性について総合的に解析を行った。

    調査対象者は,首都圏の大学生251名(男性133名,女性118名,平均年齢20.0歳,SD=1.0)であった。抑うつ傾向を測定する尺度としてSelf-rating Depression Scale (SDS)日本語版,神経質傾向を測定する尺度としてBig Five Scaleの下位尺度である神経質傾向に関する質問,Sense of Coherence(SOC)を測定する尺度としてSOC日本語版29項目スケール(SOC-29)をそれぞれ用いた。各尺度得点の平均値は,先行研究とほぼ同様な値を示した。パス解析の結果,SOC(β=-.587, p<.01)から神経質傾向に対して負の影響が得られ(R2=.344, p<.01),SDSに対してSOC(β=-.580, p<.01)から負の影響,および神経質傾向(β=.232, p<.01)を媒介した正の影響(R2=.549, p<.01)がそれぞれ得られた。

    これらの結果から,抑うつ傾向の低下にはSOCの強化が有効であること,SOCを強化することで神経質傾向を抑え,抑うつ傾向を低下させることが示唆された。

資料論文
  • 近末 優子, 近藤 卓
    2012 年 15 巻 2 号 p. 225-232
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】大学生にとって卒業後の進路決定は,職業的社会化の重要な契機であり,生涯において重要な意味を持っている。進路選択・決定を行う際に重要な役割を果たすのが,進路選択に対する自己効力感(Career Decision-Making Self-Efficacy:以下,CDMSE)である。しかし,我が国の大学生はCDMSEの低さが問題視されている。これまでのCDMSEの研究では,CDMSEを高めることによって,職業未決定の抑制や職業指導における問題解決につながることが指摘されているが,CDMSEを高める為の方法に関する研究は非常に乏しい。

    本研究では,CDMSEを高める方法の手がかりとして社会的スキル(Social Skills:以下,SS)に注目し,SSとCDMSEの関連を検討することを目的とする。

    【方法】SSとCDMSEの関連を検討するために,18歳から29歳の私立A大学の学生を対象に,無記名による集合調査法で質問紙調査を行った。

    【結果】第1にSSとCDMSEについて学年比較したところ,4年生は1年生と2年生よりもSSが高く,4年生と3年生は1年生よりもCDMSEが高いことが明らかになった。第2に,男子学生のCDMSEは,女子学生よりも高い傾向がみられた。第3に,相関分析の結果より,SSとCDMSEは関連があるという結果が得られ,加えて重回帰分析を行った結果,SSの3因子はいずれもCDMSEに正の影響を与えていることが示された。

    【考察】本研究の結果から,SSの獲得がCDMSEの向上につながる可能性が示された。特に,「トラブル対処スキル」を向上させる効果のあるキャリア教育を行うことは,CDMSEを向上させることと関連があると考える。

  • 鎌倉 利光, 塩澤 聖子
    2012 年 15 巻 2 号 p. 233-242
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    本研究は,大学生を対象とした短期縦断データを用いて,大学生の対人恐怖心性とライフイベントとの関連性について検討することを目的とした。そこで大学生129名を調査対象とし,対人恐怖心性尺度と大学生用のライフイベント尺度を用いて,約6ヶ月の間隔で2回の追跡調査(第1回目の調査をTime 1,第2回目の調査をTime 2とする)を実施した。

    本研究の主な結果として,対人恐怖心性と対人領域,達成領域を含めたネガティブライフイベントとの間に有意な正の相関がみられた一方で,対人恐怖心性と対人領域,達成領域を含めたポジティブライフイベントとの間には有意な負の相関が見出された。また,交差時差遅れモデルによる分析の結果,Time 1における対人恐怖心性がTime 2における達成領域に関するネガティブライフイベントに対して時系列的に有意に寄与していることが明らかにされた。

    短期間の縦断データを用いることにより得られた本研究の結果に関して一般化するためには,今後長期間の縦断データに基づく研究が必要であると考えられる。以上の限界点が残されているが,本研究は,これまでに検討されてこなかった対人恐怖心性とライフイベントとの関連性に関して明らかにしたという意義があるといえよう。そして,本研究の結果から,特に大学生の対人恐怖心性の高さと関連するネガティブライフイベントに配慮した対応について検討することが必要ではないかと考えられる。

  • 井邑 智哉
    2012 年 15 巻 2 号 p. 243-249
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,友人からの要求に対する大学生の断り方と時間コントロール感,心理的ストレス反応の関連性を検討することであった。大学生を対象に質問紙による横断調査を実施し,回答に欠損のない139名(男性109名,女性30名)を分析対象とした。7種類の断り方が,時間コントロール感と心理的ストレス反応と関連し,さらに時間コントロール感が心理的ストレス反応と関連すると仮定したモデルを構成し,共分散構造分析による解析を行った。その結果,4種類の断り方(代償,謙遜,笑いによるごまかし,非言語的拒否)は,時間コントロール不能感を媒介して,不安・抑うつ,不機嫌・怒りと関連することが示された。本研究では,要求に対する断り方と,時間コントロール感,心理的ストレス反応の関連性につい

    て議論した。

  • 土居 正城, 加藤 哲文
    2012 年 15 巻 2 号 p. 250-259
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】スクールカウンセラー(以下,SCとする)と教員の連携の重要性が指摘され,両者の連携に関する知見が蓄積されてきている。しかし,それらはSCやSC配置校の教員を対象とした調査等から得られたものであり,現場で実際に連携をコーディネートするSC担当者を対象としたものはみられない。そこで,彼らの連携に対する認識を探ること,SCのそれと比較検討することによって両者の類似点や相違点を明らかにすること,これらの知見に連携促進のための考察を加えることを目的として研究を行った。

    【方法】自由記述式質問紙を作成し,SCおよびSC担当者に回答を依頼した。SC 43名,SC担当者67名の計110名から回答が得られた。

    【結果】分析の結果,両者の関心はおおむね一致し,それは連携の成否と連携の責任の所在にあることが明らかになった。そして,両者の連携の成否に関する認識には差は認められず,連携を不十分であると認識していること,SCは連携の責任に,SC担当者は連携の成否により関心があることが明らかにされた。また,連携の阻害要因としてSCの勤務時間の不足が挙げられ,連携の責任は双方にあるとする認識が最も強かった。

    【考察】これらの結果から,今後の十分な連携の実現のためには,SCの勤務時間を増やすこと,成功例から学ぶこと,互いの専門性の理解を深めること,相互のコミュニケーションを促進することなどの重要性が示唆された。

  • 八田 直紀, 清水 安夫, 大後 栄治
    2012 年 15 巻 2 号 p. 260-267
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】近年,スポーツ経験とライフスキルの関係性が注目されている。特に,大学生アスリートの場合,バーンアウトやキャリア不安など,心理的な問題が深刻化することがある。そのため,ライフスキルの獲得を目指す開発的教育は,大学生アスリートの心理面の改善に必要な支援策になると考えられる。そこで本研究では,ライフスキル獲得を阻害する要因に着目し,「運動部活動へのコミットメント(以後,コミットメントと略)」,「スポーツへの情熱(以後,情熱と略)」,「ライフスキル(個人スキル・対人スキル)」,「ストレッサー認知(以後,ストレッサーと略)」の5つの変数をもとに仮説モデルを設定し,各変数間の因果関係を検討することを目的とした。

    【方法】スポーツ推薦入試制度にもとづく,強化運動部の学生272名(男性228名・女性44名,平均年齢19.9歳,SD=1.15)を対象とし,質問紙調査を集合調査法にて行った。調査は無記名式・回答拒否の自由の保障・個人情報の厳守を説明して実施された。調査内容は,1)日常生活スキル尺度,2)大学生アスリートの日常・競技ストレッサー尺度,3)運動部活動へのコミットメント評価尺度,4)スポーツへの情熱尺度であり,相関分析・共分散構造分析による分析を行った。

    【結果】相関分析の結果,「コミットメント」および「情熱」と,ライフスキル尺度の下位尺度である「対人スキル」および「個人スキル」との間には正の相関が認められた。また,「情熱」は「ストレッサー」と有意な正の相関を示した。さらに,共分散構造分析の結果,「コミットメント」および「情熱」から「ライフスキル」への有意なパスは認められたが,他の変数間には,統計的に有意なパスは認められなかった。

    【考察】分析結果から,大学の強化運動部に所属するアスリートのように,スポーツへの関わり方が強いと想定される学生を対象とする場合でも,ライフスキルの獲得過程において,スポーツ経験が阻害要因となるという仮説は棄却され,むしろスポーツとの関わりが,ライフスキルの獲得に有効であることが示された。今後の課題として,ストレス反応を変数として含めた分析モデルを用いて,対象者を一般学生にまで拡大して検証することが挙げられる。

ショートレポート
  • 小橋 繁男
    2012 年 15 巻 2 号 p. 278-285
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,小中学校教師における離職意思の実態把握および離職への影響因子を探り,離職傾向軽減のための予防的な方法を調べることであった。小学校教師71名と中学校教師99名の有効回答を得ることができた。離職への影響因子については,離職意思「あり」と回答した67名について因子分析し「子ども・保護者との人間関係」「労務環境」「教職への不安傾向」の3因子を抽出した。

    そこで,離職意思「あり」と回答した教師による下位尺度ごとの違いを検討すべく,抽出された3因子の各因子得点を従属変数とし,独立変数を離職意思(いつも思っている・どちらかというと思うことが多い)×下位尺度(人間関係・労務環境・不安傾向)の二要因分散分析を行った結果,労務環境が子ども・保護者との人間関係,教職への不安傾向よりも有意に高く,また,教職への不安傾向よりも子ども・保護者との人間関係の方が有意に高いという結果を示した。また,離職意思について,「いつも思っている」方が「どちらかというと思うことが多い」と比べて,離職意思尺度の得点も有意に高いことが示された。

    以上の結果から,教師の離職傾向の予防を図るためには,まずは職場の労務環境をよりよくしていくとともに,子どもに対する教育指導をよりよく行える環境や教師自身の力量形成が図られる環境を組織的に整えていくことが望まれる。

  • 橋口 誠志郎
    2012 年 15 巻 2 号 p. 286-291
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では小学校(中・高学年)用共同体感覚尺度を作成し信頼性と妥当性を検討することを目的とする。【方法】調査協力者はA県の小学生134名であった(3年生から6年生,男子64名,女子70名)。【結果】小学校(中・高学年)用共同体感覚尺度暫定項目20項目に対して探索的因子分析を行ったところ2因子が抽出された。第1因子は共同体感覚的他者スキーマ因子(5項目,α=.87),第2因子は共同体感覚的自己スキーマ因子(5項目,α=.77)であった。また適応の指標である自己価値得点と共同体感覚的他者スキーマ得点は正の相関(r=.60, p<.01),共同体感覚的自己スキーマ得点も正の相関であった(r=.43, p<.01)。さらに不適応の指標である抑うつ得点と共同体感覚的他者スキーマ得点は負の相関(r=-.67, p<.01),共同体感覚的自己スキーマ得点も負の相関であった(r=-.37, p<.01)

    【考察】信頼性と妥当性を備えた小学校(中・高学年)用共同体感覚尺度が作成されたと考えられる。

  • 五浦 哲也
    2012 年 15 巻 2 号 p. 292-299
    発行日: 2012年
    公開日: 2021/03/04
    ジャーナル フリー

    【問題・目的】教育現場において教員のストレスの問題は深刻であり,毎年病気休職者が増加する中,2007年度より特別支援教育が導入された。さらに,そのキーパーソンとして特別支援教育コーディネーターが指名され新たな役割を担うこととなった。特別支援教育コーディネーターは,教育現場ではこれまでにはなかった多種多様な役割のため,新しいストレス状態が生み出されることが懸念される。そこで,特別支援教育コーディネーターがインクルージブ教育を実現するためにストレスに対して予防的な対策をとることができるようストレスの特徴を明らかにすることとした。

    【方法】本研究では,筆者が北海道の小・中学校における特別支援教育コーディネーターのストレッサーに関する研究で行った小・中学校の特別支援教育コーディネーター1,000名の調査結果(有効回答率40.9%)を活用し,「教員間ストレッサー」「支援拒否ストレッサー」「専門性ストレッサー」「多忙ストレッサー」「校外サポートストレッサー」の5つのストレッサー間の相関と各ストレッサーとストレス反応との相関からストレスの特徴を明らかにすることとした。

    【結果】「専門性ストレッサー」「多忙ストレッサー」は平均値からややストレッサーを感じていることが明らかになったが,それ以外のストレッサーは平均値が低かった。また,ストレス反応も平均値は低かった。各ストレッサー間には,弱いまたは比較的強い相関が認められた。さらに,各ストレッサーとストレス反応の間にはすべて比較的強い正の相関が認められた。

    【考察】現段階では,ストレッサーやストレス反応の平均値は高くないが,各ストレッサー間において相関が認められたことや各ストレッサーからストレス反応に比較的強い相関が認められたことは,特別支援教育コーディネーターのストレスの特徴と考えられる。このことから,今後さらに特別支援教育が推進されていくことにより,ストレスが増大することが懸念される。そのため,ストレス軽減に向けては,国や教育行政による継続的・計画的な施策が必要であると考える。

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