日本歯科医学教育学会雑誌
Online ISSN : 2433-1651
Print ISSN : 0914-5133
39 巻, 1 号
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原著
  • 守下 昌輝, 村岡 宏祐, 竹内 弘, 粟野 秀慈
    2023 年 39 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    抄録 共用試験は,医学部・歯学部が国民・社会に対し医学部・歯学部の卒業生の質を保証するための試験として2005年以降正式実施されている.臨床実習開始前の共用試験の一つであるComputer Based Testing(CBT)は,異なる時期・場所でも公平に実施・評価できる試験とされ,成績評価にIRT標準スコアを採用している.CBTの成績は,臨床実習終了後に実施される歯科医師国家試験の合否に関係しているといわれている.そこで,九州歯科大学の学生で歯科医師国家試験に新卒で受験した者を対象とし,CBT本試験のIRT標準スコアと歯科医師国家試験の合否との関係について評価した.

     その結果,歯科医師国家試験合格率が87.3%であった九州歯科大学における過去5年間の新卒者の平均IRT標準スコアでは,歯科医師国家試験合格者は不合格者よりも有意に高いことが示された.IRT標準スコアが620以上は,歯科医師国家試験にすべて100%合格していた.歯科医師国家試験の合否のカットオフ値になるIRT標準スコアは493.0であった.CBT受験回数が歯科医師国家試験不合格者で有意に増加した.また,歯科医師国家試験不合格者ではCBT受験回数が有意に多く,留年経験者の歯科医師国家試験合格率は60.4%で,留年経験のない者の90.5%より低かった.以上から,IRT標準スコアと歯科医師国家試験の合否は関係していることが明らかになった.

  • 中川 裕美子, 近藤 順子, 大多和 由美, 宇佐美 雄司
    2023 年 39 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    抄録 本研究では,歯科衛生士養成校を対象にHIV感染症の教育がどのようになされているか,その教育の現状を把握することを目的に質問紙調査を行った.回答の得られた養成校は165校中113校(回答率68.5%)であり,113校中HIV感染症の教育を行っていると回答したのは93校(82.3%)であった.行っている講義内容は,院内感染対策について95校(84.1%),感染力について83校(73.5%),感染後の自然経過について61校(54.0%),曝露時対応(曝露後予防内服)について41校(36.3%)であり,曝露時対応の講義を行っている養成校数は著しく少なかった.そこで,曝露後予防内服の講義が行われない要因について講義の有無で2群比較したところ,エイズ診療拠点病院に勤務している,または勤務した経験があるという講師の勤務経験の有無に有意差があった(χ2=11.928,p=0.001).

     本調査の結果から,歯科衛生士養成校のHIV教育の講義内容は院内感染対策が主であり,HIV感染症に関する内容や曝露後予防内服については行われていない傾向が示された.今後,HIV感染症や曝露時対応の正しい医療知識を歯科衛生士養成課程にも積極的に取り入れる必要があると思われた.

  • 長谷川 真奈, 中村 太, 佐藤 拓実, 都野 さやか, 野村 みずき, 長澤 伶, 藤井 規孝
    2023 年 39 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    抄録 新潟大学歯学部歯学科では,3年次学生を対象に基礎歯学と臨床歯学の結びつきを発見し,歯科医学に対する理解を深めることを目的とした早期臨床実習Ⅱを実施している.本実習は基礎系学科目教員による臨床に関連するトピックを取り上げた講義,医歯学総合病院歯科の外来見学,基礎と臨床歯学の関連性をテーマとするグループディスカッションで構成される.今回本実習の効果を確認するため,履修後学生にアンケート調査を行った.対象は2021年度,2022年度の歯学部歯学科3年次学生計87名とし,回答が得られた47名分について分析を行った.アンケートの結果,本実習が有意義であったかという質問に対しては両年度とも多くの学生が有意義と回答しており,各グループの人数,見学する診療科数はほぼすべての学生が適切と回答していた.また,医療従事者に必須となる感染対策の理解度に対する回答には,すべての学生が肯定的であった.興味をもったという回答が多かったのは,比較的特殊性が高く,体験実習などを組み込んでいる診療科だった.興味をもった基礎歯学は,臨床に直結してイメージをしやすい分野が多く選択される傾向にあった.アンケートの結果,本実習は学生が基礎と臨床歯学の関係性を理解するために有用であることが示された.本実習をより効果的なものにするため,学生のモチベーションを上げる工夫や,基礎系,臨床系担当教員双方との連携により,実習をさらに充実させる努力が必要であると考えられる.

研究報告
  • 塩野 康裕, 齊藤 桂子, 森川 和政
    2023 年 39 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    抄録 歯学教育や臨床研修歯科医を対象とした教育評価に関する報告は過去にも存在するが,歯科技工士の教育評価に関するものは少ない.本研究では,歯科技工士学校における小児歯科技工学教育の向上を目的として,学生を対象に講義評価をアンケート形式で実施した.アンケート調査は5年間にわたって実施し,茨城歯科専門学校歯科技工士科に在籍した2年次生43名の学生から回答を得た.アンケート結果から講義内容ごとに理解度の差があることがわかった.また,小児歯科技工学の講義に対する興味関心の有無や講義進行についての意見要望も把握することができた.学生の興味関心を得る小児歯科技工学の講義を展開するためには,これまで以上に臨床と結び付けた講義へと改善する必要性が示唆された.このような教育方法を実現するには,教育を目的とした物的資源と視覚素材の確保という課題が本調査により顕在化された.今後も,学生による客観的な講義評価を継続しその結果を講義にフィードバックしていくことが,良質な講義の提供と講義の質の向上につながると考えられた.

  • 齊藤 桂子, 森川 和政
    2023 年 39 巻 1 号 p. 34-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    抄録 診療参加型臨床実習の重要性が提起されているが,小児歯科臨床の現場では,患児-保護者-歯科医師の関係性が複雑に構成されることもあり,卒前臨床実習生が自験症例を経験する機会を設けることが困難な場合がある.そこで,2020年度から小児歯科における臨床実習での教育内容の新たな取り組みとして,学生自身がブラッシング指導内容をまとめたリーフレットを作成し,それを用いて患児と保護者にブラッシング指導を行う課題を実施した.その後,その実習が学生に与えた影響についてアンケート調査を行った.

     本研究により,卒前臨床実習生が主体的にブラッシング指導を学修し,得られた学修成果をリーフレットにまとめることでブラッシング指導についてより理解を深めることができ,患児や保護者の立場を考慮した指導の意識づけにも有効であることが推察された.また,診療参加型臨床実習の重要性を再確認するとともに,より充実した実習内容への改善が卒前臨床実習生の学修意欲やモチベーションの向上につながる可能性が示唆された.

新しい取り組み
  • 酒井 有沙, 砂田 勝久
    2023 年 39 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    抄録 目的:全国の歯学部において,全身麻酔の実習はほとんどが病院での見学実習であり,実際に学生が全身麻酔を行うことはない.そこで,病院実習前の第4学年の学生に対して,全身麻酔に関する理解度を高めることを目的に,全身麻酔の導入手順の実習を初めて行った.

     方法:本学第4学年109名を4人1グループに分け,教員1名が2グループを担当した.40分間の講義後,急速導入手順の実習を1時間行った.BLSで使用しているマネキンに対し,①モニタ装着,②静脈路確保,③酸素投与開始,④静脈麻酔薬投与,⑤マスク換気,⑥筋弛緩薬投与,⑦経口挿管の順序通りに,臨床で使用する器材を用いて行った.実習前後でテストを行い,実習後に学生および教員にアンケート調査を行った.

     結果・考察:アンケートの回収率は100%であった.テストの正答率は,実習前が39.4%に対し,実習後は63.3%と有意に上昇した.学生全員が「急速導入の手順が理解できた」「病院実習前に本実習を行えてよかった」と回答した.講義だけでは全身麻酔に用いる薬剤や器材が想像しがたく,用途も理解しづらい.本実習では,①臨床で使用している器材を用いたこと,②少人数で行ったこと,③操作の手技ではなく麻酔導入手順の把握を目的としたことによって理解度が高まったと考えられた.

     結論:全身麻酔導入の実習を病院実習前に行うことは,全身麻酔の手順に対する理解度が高まることから,学生にとって有意義だと考えられた.

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