薬剤疫学
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17 巻, 2 号
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総説
  • 甲斐 健太郎, 池田 俊也, 武藤 正樹
    2013 年 17 巻 2 号 p. 75-86
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    海外において,アセトアミノフェンは鎮痛剤の標準薬として広く活用されている.例えば,WHO はアセトアミノフェンをエッセンシャルドラッグとし,各国の様々なガイドラインも鎮痛の薬物療法の第一選択薬としている.この理由の一つとして,アセトアミノフェンの有効性と安全性が挙げられる.特に安全性について,アセトアミノフェンは同じ非オピオイド性鎮痛剤である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に対し,消化器系障害,腎障害,出血傾向,心血管障害等の副作用リスクが低いとされている.一方,本邦においては,現在 NSAIDs の使用が一般的であり,アセトアミノフェンの鎮痛目的利用は少ない状況にある.これは,これまでアセトアミノフェンの承認用量が諸外国に比し少なく,鎮痛効果を得づらかったことが主要な原因の一つと考えられる.しかしながら,2011 年 1 月にアセトアミノフェンの承認用量が海外同様の水準に拡大され,アセトアミノフェンによる鎮痛効果を得ることが以前より容易になった.今後は日本でもアセトアミノフェンの鎮痛目的利用が増える可能性がある.わが国で汎用されている NSAIDs においては,特に消化器系障害に対し,その予防のため,防御因子増強剤,H2ブロッカー,プロトンポンプインヒビター(PPI)等の消化性潰瘍用剤が併用されることも多い.一方,アセトアミノフェンはそのような副作用リスクが低いため,消化性潰瘍用剤も必要ない.アセトアミノフェンの鎮痛目的利用が拡大すれば,鎮痛における薬剤費の低減効果も期待できる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 75-86)
資料
  • ―高脂血症用剤を例として―
    渡辺 伸一, 中野 泰志, 野村 香織
    2013 年 17 巻 2 号 p. 87-97
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    医薬品の副作用の自発報告制度は副作用を経験した患者の情報を収集し,医薬品と副作用との因果関係の仮説をたてるきっかけとなるが,患者群の背景や副作用が発現しなかった患者群の情報が無いため,リスクを定量的・相対的に比較するのは困難である.くすりの適正使用協議会では,これらの課題に対して自発報告制度を補完しうる薬剤疫学の活用という観点から,医薬品の再審査制度下で実施された使用成績調査等のデータを二次利用したデータベース構築を推進することとした.製薬企業から降圧剤使用患者群の観察データを有する使用成績調査の情報の提供を受け,これらを統合し,2003 年に 10 万人(降圧剤 19 製剤)を超えるデータベースを構築した.このデータベースを管理維持し, 2007 年に 143,509 人(21 製剤)の患者データを有するまで拡張するとともに,2011 年には 約 3.4 万人の患者データを集積した高脂血症用剤のデータベースを構築した.これらのデータベースは,当協議会の規定に基づく利用申請とプロトコル審査を経て,研究者に利用されている.またその成果は,学会発表や論文として公表されている.本報告では,データ収集およびデータベース管理の観点から,使用成績調査等におけるデータ収集およびそれを裏付けする制度について総括し,例として,高脂血症用剤データベースの構築プロセスおよび概要について患者背景とともに紹介する.使用成績調査等を統合したデータベースの特徴は,患者背景,投与薬剤に加えて副作用情報と治療に関する臨床検査値を有することであるが,規模が小さいため稀な副作用の研究は困難である.また,長期間の観察データが少ないことなどが研究の限界となっている.2012 年度は,長期観察データを含むデータ集積を推進し降圧剤のデータベース拡張を行っている.(薬剤疫学 2012; 17(2): 87-97)
企画/医療情報データベースの活用
  • 岡本 悦司, 丸井 裕子
    2013 年 17 巻 2 号 p. 99-100
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
  • 山本 隆一
    2013 年 17 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    最近になって,我が国にも大規模な医療情報データベースが構築されるようになったが,公益利用に関して十分な法制度の整備が行われているとは言いがたい.高齢者の医療確保に関する法律に基づいて作成されたレセプトおよび特定健診・保健指導のデータベースは一般的な公益利用に関して根拠法には記載がないために,利用に際して厳格な匿名化が求められ,安全管理に関する要求も厳しく,公益研究にとって使いやすいデータベースとは言えない.大規模病院の診療情報を大量に収集する日本のセンチネル・プロジェクトでは包括的同意で運用が始められようとしているが,匿名性に問題が生じた場合,同意の有効性には疑問が生じる可能性がある.一般に,公益目的の研究を行う研究者がプライバシーの侵害を意図的に行う可能性はないと考えられるが,法的な要求自体が曖昧であるために,研究が促進されない可能性もある.医学は診療情報の公益利用なしには発展はあり得ないので,明確で研究者にとっても患者にとってもわかりやすい法制度の整備が強く望まれる.幸い,医療情報等の活用に関する法の整備が検討されているが,議論中であり,薬剤疫学の研究者を含めて関心ある人の積極的な提言が求められる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 101-107)
  • 久保田 潔
    2013 年 17 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    本稿では,海外における医療情報の利用の在り方を米国,スウェーデン,台湾で実施された薬剤疫学研究を例にとって概観する.最初の事例は,ピオグリタゾンと膀胱がんとの因果関係を示唆した Kaiser Permanente Northern California(KPNC)の糖尿病レジストリを利用したコホート研究である.本研究の成功は長期間をかけて KPNC において,医療費償還の請求書データ,電子カルテや薬局のデータなどから構築された糖尿病レジストリの存在による.二番目の事例はスウェーデンにおける H1N1 ワクチンの安全性に関する研究である.この研究においては,インターネット上に新たにワクチン登録システムが構築された.ワクチンの費用償還は登録システムへのワクチン接種の登録を条件としていたため,ほぼ全例の登録に成功している.ワクチン登録システムを既存の医療サービスのデータベースとリンクさせることにより,接種者群のベル麻痺や知覚異常などのまれなアウトカムの非接種者群に対するハザード比を検討している.三番目の事例は台湾における H1N1 ワクチンの安全性モニターのための Large Linked Database(LLDB)である.LLDB は IC Card Data Center の技術を使っており,診断とワクチンに関するデータが毎日収集された.二番目の事例と同様のアウトカムのほか,妊娠に関連する有害なアウトカムがモニターされた.これら 3 つの事例において,糖尿病レジストリ,インターネット上のワクチン登録,LLDB などの新たなシステムが目的意識をもって構築されていた.また,レコードリンケージが,医療情報の価値を高める上でのキーとなる要素をなしていた. (薬剤疫学 2012; 17(2): 109-116)
  • 付:各国のナショナルデータベースと利活用に関するOECD報告書概要
    岡本 悦司
    2013 年 17 巻 2 号 p. 117-134
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下,NDB)が構築され研究利用も可能となったが,その活用は厳格な個人情報保護規定により相当な制約を受けている.たとえば最小集計規制により,10 未満の集計は認められていない.ところが奇妙なことに,同じレセプトを対象とする医療給付実態調査にはそのような制約はない.その違いは法的根拠にあり,医療給付実態調査は統計法であるのに対して NDB は行政機関個人情報保護法(行個法)であることによる.二つの法律は正反対であり,統計法はデータ有効活用を推進するのに対して行個法は個人情報保護を最重視している.研究利用のためであれば NDB も統計法に基づく統計となるのが望ましいが,そうすると行政機関による統計目的外の利用(たとえば,請求内容のチェック)も制限されるという問題が生じる.ならば,行政機関による利用は行個法,研究利用は統計法というダブルスタンダードも選択肢である.またこれまで各種レセプト調査は,異なる行政機関が重複する調査を実施してきたが,NDB 構築を契機に分立する調査の統合も課題である.データベースとその二次利用をめぐる法的扱いは各国でも問題となっており,最近 OECD が実施したデータベースとその二次利用に関する調査結果の要約も参考として添付する.(薬剤疫学 2012;17(2):117-134)
  • 木村 友美, 小出 大介, 折井 孝男
    2013 年 17 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    IT 技術の発展とともに,日々の診療や病院経営,その他の一次目的のために電子的に蓄積される医療情報は飛躍的に増加している.日常診療下での薬剤の使用実態や有用性・安全性を対象とする薬剤疫学研究において,データベースはもはや欠かせないツールであり,その二次利用は規制当局,企業,アカデミアのいずれにおいてもようやく一般的に認められるようになってきた.医療情報データベースを薬剤疫学研究に活用するためには,まず医療システムやデータソースならびにその限界点をよく理解する必要がある.本稿では 2012 年 10 月現在,筆者らが把握している範囲で,本邦で薬剤疫学研究に利用可能なデータベースを,各データベース保有者の確認および許可を得て,その特徴や活用事例と共に紹介する.(薬剤疫学 2012; 17(2): 135-144)
  • がんの発生動向と抗がん剤投与後の疾患動向の解析を例に
    浜田 健嗣, 青木 事成
    2013 年 17 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    目的:健康保険請求データベースを基にした Pharmacovigilance 用パッケージを使用し,製薬企業におけるファーマコビジランス活動への利用法を考え,実用性,課題および将来の展望について考察する. 研究デザイン:レセプトデータベース研究 方法:株式会社日本医療データセンターの提供する解析パッケージ JDM for Pharmacovigilance を使用し,日本人一般におけるがんの発現割合,抗がん剤の曝露状況,さらに有害事象の同定を目的として特定クラスの抗がん剤投与開始から 2 カ月以内に高頻度で診断される疾患の把握を行った.結果:保険請求データから推定した日本人におけるがんの発生割合は従来のサーベイによる推定値に近いものであった.また,本データベース中に含まれるがん患者数は発生割合の高いがんで 1 年当たり数千人であった.有害事象の同定を目的とした解析では,肺がん患者において,EGFR-TKI 投与開始から 2 カ月以内に上皮組織の損傷に起因すると考えられる疾患が,プラチナ系抗がん剤使用時に比べ,高頻度で診断されていた. 結論:日本人の保険請求データベースを用いて,疾患の発生割合や,有害事象の可能性のある疾患を推定することは可能であり,企業のファーマコビジランス分野への応用も可能であると結論した.(薬剤疫学 2012;17(2): 145-153)
  • 高田 充隆
    2013 年 17 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    ここ数年の間,多くの健康保険請求が電子的に提出され,厚生労働省(MHLW)によりナショナルデータベース(NDB)に登録されている.NDB の医療サービスの質の向上における利用について評価する試行が始まった.筆者は,NDB を用いた医薬品使用状況研究を実施する機会を得たので,今回,MHLW による NDB 利用の手順を検討し,NDB の解析および薬剤疫学研究での活用における問題点について報告する.NDB は,他の医療データベースより大きく包括的であり,その知見は医薬品適正使用に関する貴重な情報の提供において,わが国の薬剤疫学研究に大きな影響を及ぼすと考えられる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 155-162)
  • 康永 秀生
    2013 年 17 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2013/02/20
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    DPC (Diagnostic Procedure Combination) とは,患者群を診断名や治療内容によって分類する,いわゆる「診断群分類」を意味する.DPC は包括支払方式とリンクされ,DPC/PDPS (Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System) と称されている.DPC データ調査研究班は,厚生労働省とは独立に,研究の目的で DPC データを収集する事業を実施している.DPC データは退院時情報や診療報酬データなどから構成され,診断名・入院時並存症および入院後合併症とそれらの ICD-10 コード,手術処置名,麻酔時間,輸血量,使用された薬剤・医療材料,在院日数,退院時転帰,費用などの他,詳細な診療情報 (身長・体重,喫煙指数,Japan Coma Scale,がんの Stage 分類,modified Rankin Scale,Hugh-Johns 分類,心不全の NYHA 分類,狭心症・心筋梗塞の重症度分類,肺炎の重症度分類,急性膵炎の重症度分類,肝硬変の Child-Pugh 分類など) が含まれる.DPC データを利用して,医療サービスの利用やアクセス,アウトカムや費用などの分析が可能である.本稿では,DPC データを用いた臨床疫学研究の最近の事例として,(i)フォンダパリヌクスによる術後肺塞栓予防に関する研究,(ii)急性膵炎に対するメシル酸ガベキサートの効果とコストに関する研究を紹介する.さらに米国の診療報酬データベース (Nationwide Inpatient Sample および Medicare database) について,日本の DPC データベースと比較しつつ紹介する.最後に,今後の臨床疫学研究ならびにヘルスサービスリサーチの発展のために DPC データベースに課された今後の課題について論じる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 163-169)
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