薬剤疫学
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19 巻, 2 号
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原著
  • 村田 純一, 武藤 正樹, 池田 俊也
    2015 年 19 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    2013年7月に厚生労働省より認知症の BPSD に対応する向精神薬使用ガイドラインが発出された.ガイドライン発出にあたり実際の処方データを用いて認知症患者の向精神薬の処方実態について Anatomical Therapeutic Chemical (ATC) 分類を用いて調査した.向精神薬の ATC 第 3 階層ごとでの患者数の割合は N05C 催眠薬と鎮静剤が 9,920名(19.7%) と最も多く使われていた.また,risperidone の処方割合は 5.6% と英国での調査と比較しても少ない.BPSD ガイドラインでは抗不安薬は原則使用すべきでないとされているが実際には etizolam が 6.2% に処方されており,少なからず使用されていた.また,同一月で向精神薬を 2 剤以上併用している患者は 8,852名(19.5%) であり,同一月での複数薬剤の併用状況の組合せ上位は risperidone,tiapride が 209名(2.4%) と最も高かった.抗精神病薬の一部が糖尿病患者への処方が禁忌とされているにもかかわらず,実際には 39名に処方がされていた.診療科数が 2つ以上になる場合に抗精神病薬の禁忌処方・慎重投与となる割合について有意の差 (p<0.01) をもって多くなり,受診する診療科が増えると禁忌処方や慎重投与となる割合が増加するということがわかった.この状況を予防するためにも認知症患者に対する服薬管理の機能として2014年の診療報酬改定で導入された主治医機能の役割が必要であることが示唆された.
総説
  • 荒西 利彦, 池田 俊也
    2015 年 19 巻 2 号 p. 91-99
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    医療経済評価の結果はパラメータの不確実性の影響を大きく受けることから,感度分析による医療経済評価の頑健性の分析が重要となる.複数のパラメータの不確実性を同時に評価するため,それらのパラメータが従う同時分布に基づき評価を行うことを確率的感度分析 (PSA; Probabilistic Sensitivity Analysis) と呼び,今日では各国のガイドラインで使用が推奨されている.本稿では,PSA の手法としてモンテカルロシミュレーションとブートストラップ法を紹介し,また PSA の結果の解釈について説明を行い,各国ガイドラインにおける PSA に関する記述をまとめた.その後 PSA の本邦での利用状況を,邦文にて論文が出版された研究のレビューにより示した.各国ガイドラインでの PSA の扱いは,2008年までに出版されたガイドラインにおいては感度分析を行うことは推奨されていたものの,方法については任意であった.2011年以降に出版されたフランス,米国AMCP,イギリスのガイドラインでは,いずれも PSA を推奨している.日本においては 2013年に発行された医療経済評価研究における分析手法に関するガイドラインで PSA について「可能であれば確率的感度分析もあわせておこなうこと」,とされている.邦文での医療経済評価研究のレビューを行った結果,質調整生存年に基づく医療経済評価を行った 49件のうちで PSA を行った研究は 6件(12.2%) にとどまることから,PSA が国内で広く使われているとは言いがたい.一方で PSA でない感度分析を行った研究は 35件(71.4%) あることから,感度分析自体は多くの研究で用いられている.よって PSA が感度分析のよりよい方法論として受け入れられるようになれば,利用は促進されると考えら れる.このためには PSA を行うためのガイドラインなどの作成が望ましい.
企画/医薬品リスク管理計画 (RMP) の現状と今後
  • 小出 大介
    2015 年 19 巻 2 号 p. 101
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
  • 森 和彦
    2015 年 19 巻 2 号 p. 103-108
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    2004年11月18日に日米EU の三極で ICH-E2E ガイドラインが合意された.これを基に日本では,2005年9月16日に「医薬品安全監視計画について」として通知されている.その後,PMDA が設立され,開発・承認審査段階から製造販売後まで一貫した安全対策の体制整備が進められるのと相まって,厚生労働省では 2005年9月に公表した「医薬品安全監視計画」の通知を改め,2012年4月に「医薬品リスク管理計画指針」を公表した.この医薬品リスク管理計画指針に基づき,医薬品製造販売業者が作成するリスク管理計画が日本の RMP である.「医薬品リスク管理計画指針」は,米国の REMS や EU の RMP を参考としつつ,その課題や問題点も踏まえ,日本の実情も考慮して作成されている.その後,2013年3月11日に「医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(GVP 省令と呼ばれる)と「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(GPSP 省令と呼ばれる)とが「医薬品リスク管理計画」の策定および実施の確実な履行の確保を図ることを目的として改正され,これが施行される2014年10月以降は RMP の作成と実施が義務付けられた.なお,2014年10月以前であっても新薬の承認申請に際して,製造販売後調査基本計画書に代えて RMP 案を提出することが認められているため,既に PMDA の HP には2014年11月末時点で 65 成分の新薬の RMP が公表されている.日本の RMP は市販後安全対策の充実強化のために重要な制度として位置づけられており,市販後安全対策の全体像をコンパクトにまとめ,検討すべき課題とそれに対する具体的取組みを実施予定時期も含めたグランドデザインとして作成・公表され,着実に実行されることが期待される.
  • 成川 衛
    2015 年 19 巻 2 号 p. 109-114
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    医薬品リスク管理計画(RMP)指針の施行から 1年半を過ぎ,日本の RMP 制度は実質的に動き出した.従前,市販後安全性監視において中心的な役割を果たしてきた使用成績調査は,再審査申請資料の収集作成の手段として位置付けられているが,副作用自発報告件数の増大,医療情報データベースの充実と利用可能性の拡大など,35年前の制度導入当時と比べるとこれを取り巻く環境は大きく変化した.今後は,情報技術の進歩の波に乗りながら,従来の手法および考え方に大幅な改善を加え発展させる必要がある.今後,RMP 制度が着実にかつ効果的に実施されていくためには,RMP の PDCA サイクルをうまく,機動的に回していくことが重要である.また,患者の安全確保という観点から,市販後のリスク管理活動に要するリソース(人的,経済的)と,その結果として得られるパフォーマンスとの全体的バランスを評価していく必要があろう.
  • ―チェックリストによる公表された安全性監視計画の検証と今後の課題について―
    古閑 晃, 久保田 潔
    2015 年 19 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    2012年の厚生労働省からの「医薬品リスク管理計画指針」(Risk Management Plan:RMP)の発出を受けて,当学会は2013年5月から「日本における適正な安全性監視計画作成のタスクフォース」を開始した.その成果として個別の医薬品の安全性監視計画(Pharmacovigilance Plan: PVP)を評価するためのチェックリストとチェックリスト使用に関するガイダンスを当学会の会誌「薬剤疫学」に発表した.RMP が施行後 1年余の期間に,40成分に関する PVP を(RMP の要素として)含む RMP が公表されたことを受けて,我々は我々が作成したチェックリストによるこれら PVP の評価を試みた.その結果,チェックリストの最初の項目である「追加の PVP の必要性が示されているか」の答えは 40 の PVP すべてで「否」であった.より深刻なのは 40 の PVP すべてで,従来の少数の型どおりの製造販売後の研究デザインのいずれかが選択されていたことである.また,なぜ選択された研究デザインが安全性検討事項のセクションで特定された問題に関連する研究目的を達成するかの合理的根拠(rationale)は記載されていなかった.結論として RMP が実装されて 1年以上経過したが,従来どおりの研究デザインが使われ続けており,ICH E2E の趣旨は全く活かされていない.
  • 漆原 尚巳
    2015 年 19 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    医薬品リスク管理計画は,医薬品医療機器総合機構ホームページにて「開発の段階から製造販売後に至るまで」と述べられるように,その医薬品の Lifecycle 全体に及ぶものである.2012年4月の「医薬品リスク管理計画指針について」通知により,日本にもようやく公的に市販後リスクマネジメントが開始され,整備されつつある現在,承認された新薬の安全性リスク管理計画書が多数公開されるようになった.その一方で,リスク管理計画書に示す安全性検討事項の大部分を決定するためのエビデンスを形成する非臨床および臨床データは,承認前の開発時安全性評価を通じて得られるにもかかわらず,日本で開発段階における安全性データの収集,評価過程に焦点を当てた議論はいまだ稀少である.本稿では,CIOMS WG VI 報告書 “Management of Safety Information from Clinical Trials”,および米国研究製薬工業団体 The Safety Planning,Evaluation,and Reporting Team からなされた提案を取り上げ,開発段階における系統的な安全性評価について概説する.
  • 小出 大介
    2015 年 19 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    日本で2012年度に「医薬品リスク管理計画指針について」が取りまとめられ,2013年度から新規に製造販売承認申請される品目に適用されてきたが,従来型の使用成績調査がほとんどである.本来の ICH E2E ガイドラインに従えば,もっと個々のリスクに対応した多彩なマネジメントができる.特に「医薬品安全性監視の方法」として医療データベースを用いた研究が可能である.かつては医療データベースが整備されておらず,そのことが足枷となってきたが,現在は大規模医療データベースが整備されてきて,各種学会で取りまとめている.これら医療データベースを大きく分けると病院情報システムや電子カルテ等の医療機関を基盤にした医療機関情報と,診療報酬であるレセプト情報等がある.日米欧の医療データベースを用いる取組みは,米国では FDA 改革法による Sentinel Initiative が2008年から始まり REMS も成果をあげている.また Mini-Sentinel や OMOP がコモンデータモデルを提唱し,FDA も2013年に医療データベースを用いた薬剤疫学研究のガイダンスを発表している.欧州では規制当局が RMP を2005年に導入し,そこでは疫学研究も36%含まれている.また2006年から始まった ENCePP では,薬剤疫学や薬剤監視研究の登録,プロトコルのチェックリスト,薬剤疫学研究のガイドなどのサービスがある.日本でも PMDA から薬剤疫学研究のガイドラインが発表され,このような研究が,今後 RMP における安全性監視の一つの手段となるとされている.また医療データベースの整備としては MID-NET が構築されている.さらに注目すべき取組みとしてPMDA の MIHARI プロジェクトがあり,既に数々の試行調査により体制構築がなされ,今後実際の安全性措置に活用することが期待されている.
  • 川口 源太, 今井 啓之, 兼山 達也, 神浦 俊文, 川野 正記, 小森 哲志, 阪口 元伸, 武井 啓典, 田嶋 雄樹, 木村 友美, ...
    2015 年 19 巻 2 号 p. 143-151
    発行日: 2015/02/20
    公開日: 2015/03/30
    ジャーナル フリー
    2012年4月,医薬品のリスクを開発段階から製造販売後まで適正に管理するため,厚生労働省から医薬品リスク管理計画指針が発出された.本指針では,ICH の E2E ガイドラインに準拠して安全性検討事項,安全性監視計画を設定し,リスク最小化策を策定することが要求されている.しかし,2014年8月時点で公開されている医薬品リスク管理計画(RMP)の中には,リスクの大きさ,重大性,特性にかかわらず,従来の使用成績調査,特定使用成績調査を安全性検討事項共通の安全性監視活動として計画している事例も存在していると考えられる.
    本稿では,日本製薬工業協会医薬品評価委員会データサイエンス部会のタスクフォースが取りまとめた報告書の概要から,エビデンスレベルに基づいた安全性検討事項の設定のための安全性評価,科学的な医薬品安全性監視計画(PVP)の作成について紹介するとともに,RMP「カイゼン」に向けて以下のとおり提言を行う.
    1.研究課題を明確にするためには,安全性検討事項が設定された経緯および根拠を十分に吟味する必要がある
    2.開発期間を通して安全性検討事項につながるさまざまなデータをどのように収集,分析するか予め検討しておくことが重要である
    3.DSUR 作成段階において関係者間で安全性プロファイルを十分に議論しておけば,申請段階における安全性検討事項がより明確となり,個々のリスクや不足情報に対する研究課題を PECO に従い計画し,適切な PVP を計画できる
    4.1 回の調査・研究で終わったことにするのではなく,RMP の PDCA サイクルを回すことが重要である
    今後,製薬企業の承認申請プロジェクト関連担当者を含め,規制当局,アカデミアが RMP の理解を一層深めることにより,RMP が科学的により適正に管理,実行されることを期待している.
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