薬剤疫学
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21 巻, 1 号
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原著
  • ―全国調査からの考察―
    恩田 光子, 今井 博久, 正野 貴子, 高田 百合菜, 藤井 真吾, 七海 陽子, 荒川 行生
    2016 年 21 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー

    ほとんどの在宅療養患者には,複数の薬剤が処方されており,政府は薬剤師による在宅ケアへのさらなる参画を推進している.しかしながら,副作用(副作用の疑い)(Adverse Drug Reactions: 以下 ADRs)の発生に関する情報はほとんど存在しない.本研究の目的は,在宅療養患者における薬物治療に伴う ADRs の発生状況,ADRs との関連要因について明らかにすることである.調査対象は全国の保険薬局とし,当該薬局において訪問サービスを実施している薬剤師に対して,訪問対象患者に関する調査票への記入を依頼した.主な調査項目は,患者属性,内服薬の品目数,ADRs の有無とその具体的内容,訪問サービスに係る薬剤師の業務量とした.1,890薬局から5,447人分の患者データを収集した結果,薬剤師が訪問時に ADRs を発見した患者割合は14.4%であった.10件以上報告された ADRs は12症状分類で全体の85.2%を占め,上位5症状分類は,めまい・ふらつき・立ちくらみ等,消化器障害,臨床検査値異常,意識障害,皮膚症状であった.被疑薬は,上位12症状分類のうち7症状分類において,催眠鎮静剤・抗不安剤,精神神経用剤,その他の中枢神経系用薬のいずれかが被疑薬の上位3項目に含まれていた.また,ADRs との関連要因として,患者の性別,居住形態,内服薬の品目数等が抽出された.日本の在宅医療における ADRs の割合は,諸外国と比較し大差はないが,被疑薬に占める中枢神経系用薬の割合が高いことが示唆された.また,ADRs の発生と多剤併用の関連も実証されたことから,医師と薬剤師の協働による中枢神経系用薬の減薬に取り組む必要がある.

  • Shiro TANAKA, Hiroshi HAGINO, Akiko ISHIZUKA, Teruhiko MIYAZAKI, Takan ...
    2016 年 21 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー

    Objective: Monitoring the incidence of atypical femoral fractures (AFFs) using medical claim databases is useful to assess the safety of long-term bisphosphonate exposure. Therefore, we aimed to validate the relationship between clinically-defined suspected AFFs and the candidate patients obtained from claims data at three hospitals in Japan.

    Design: A cross-sectional study involving three hospitals that perform bone fracture surgery and from which electronic medical record databases of diagnoses and procedures are available.

    Methods: Candidate patients were at the medical databases using two International Classification of Diseases, 10th Edition (ICD-10) codes (subtrochanteric fracture and fracture of shaft of femur) in the claims databases. These potential cases by claim-based definition were validated using clinically-confirmed information such as, the patient operation records, the discharge records, or radiographic imaging findings as suspected AFFs.

    Results: Among fracture cases in the hospitals, and 9 cases with subtrochanteric fracture and 23 cases with femoral shaft fracture were identified based on the ICD-10 codes in the claims databases. Clinically confirmed subtrochanteric fracture had a sensitivity of 81.8% (95% CI: 48.2-97.7%), and a specificity of 100.0% (95% CI: 99.9-100.0%). For femoral shaft fracture, the sensitivity was 82.1% (95% CI: 63.1-93.9%), and the specificity was 100.0% (95% CI: 99.9-100.0%). In subgroup analyses, the sensitivities in patients over the age of 50 years with a single fracture site and with osteoporosis were relatively higher than in other subgroups.

    Conclusion: The claims-based definitions of suspected AFFs are accurate, indicating the value of pharmacoepidemiological studies using the National Receipt Database.

企画/薬剤疫学研究に活用されるデータベース —品質管理の現状—
  • 丸井 裕子
    2016 年 21 巻 1 号 p. 21
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー
  • 中村 正樹
    2016 年 21 巻 1 号 p. 23-25
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー

    近年,医療データベースを用いた調査,研究等が多数行われている.今後更なる活用が行われる中で,より高度な品質管理が求められる.本稿では,当社におけるデータ取得から提供までの流れ,品質管理等を記載する.

  • 隈丸 拓, 高橋 新, 福地 絵梨子, 一原 直昭, 平原 憲道, 宮田 裕章
    2016 年 21 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー

    National Clinical Database (NCD) は 2011 年に登録を開始した分野横断的な症例レジストリープラットフォームである.年間 150 万件を超える症例がウェブシステムを介して登録されており,参加学会の増加とともにその規模は拡大してきている.全国規模の臨床学会の専門医制度との連携のもと,NCD に登録されるデータは高い悉皆性が特徴である.本稿では NCD データの利活用の例として,1) 医療の質の評価および向上に向けた利活用,2) clinical question に対する観察研究利用,3) ヘルスサービスリサーチ利用,4) 産官学連携プロジェクトにおける利用の4つを紹介する.また,NCD が機関の最重要業務の一つと位置づけるデータの質の管理についても,そのための取組み例として,収集データ項目の定義・設計,事務局機能の整備,ウェブシステムを利用した登録データチェック,そして監査・データ検証のプロセスを紹介する.

  • 青木 事成
    2016 年 21 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー

    医療行為等から得られる電子化された医療情報はあくまで副産物であり,これを活用しなければならないという義務が特にあるわけでない.それどころか個人情報の保護などクリアしなければならない重要な課題もある.それでも我々製薬企業が活用しなければならない事由があり,それがファーマコビジランス(医薬品の安全性監視,PV)への活用である.只今は「欧米では医療情報を二次利用できるので見つけることができる」類の副作用リスクの一部が国内では見つけることができない状態にある.こうしたラグの解消には制度設計の更新が不可欠であり,特にリスク管理計画 (Risk Management Plan, RMP) の中で用いる医療情報については,無条件に何でも使ってよいという訳にはいかず,その品質管理レベルが定義されている必要がある.ここでは,情報を二次利用することの本質や産業界一般におけるリアル・ワールド・データ・サイエンスとしての活用の中での品質レベルと,公的な利用における品質レベルの対比,また「品質」という言葉の曖昧さについても触れながら,製薬企業における医療情報活用のあり方,品質管理レベルという課題を整理してみたい.

日本薬剤疫学会 第21回学術総会記録
会長講演
  • 大山 良治
    2016 年 21 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/09/27
    ジャーナル フリー

    最近では,医療分野の IT 化の進展に伴い,各医療施設の医療情報システムが広まり統合されることにより大規模医療データベースが構築されるようになってきた.日本政府は,病気の治療や健康診断の結果などの医療情報を「ビッグデータ」として活用するための新制度を早ければ2018年にも始めたいとしている.これら大規模医療データベースを使いこなすには,データベースの特徴をよく知りデータを抽出精製できるデータサイエンティストとそのデータを使ってバイアスのない科学的根拠のある正確な医薬品情報を作成できる薬剤疫学の専門家の養成が急務であり,それが医療の質向上への貢献になり,結果として医療費抑制にも貢献すると考える.薬剤疫学の発展が医療の質の向上と密接に関わりあっている.臨床の現場では,情報過多の中で正確で有効な情報を得て臨床の場に活かすことが重要課題となる.その実践方法の一例として,実際に行った一病院情報システムを用いての Nested ケース・コントロール研究では,日本ではカルシウム拮抗薬と心筋梗塞の関連は認められないとする仮説において,有意差が認められず,仮説は否定できなかった.しかし,調査規模を拡大すれば有意差を認める可能性が大きくなることが推測される.有意差を認めると仮定した場合,理由の詳細は不明だが,やはり適応による交絡が働いている可能性が考えられる.結果として,日本の病院データベースを利用して欧米に準じた薬剤疫学研究を行うには,複数の病院による共同研究を,医師の協力の下でプロスペクティブに行う必要があり,病院データベースのみを情報源とした時に生じるバイアスを避けるために,必要な情報を入手することが研究結果の信頼性に繋がると判明した.また,医療機関の医療の質を知り改善するために医療の質を示す指標 QI (Quality Indicator) を測定し,現場での PDCA サイクルを回し医療の質の改善方法の検討を行った.QI 値に影響を与える要因を各医療機関間で比較すると,多くの交絡因子等の調整が必要となるが,同一施設で同じ方法を用いて時系列で QI を測定すれば,多くの交絡因子は除かれて,医療の質の改善方向が見いだせる可能性があると推察される.

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